──彼女はアサシンのサーヴァントを『陛下』と呼んでいた。
それはアサシンの真名、その存在への畏敬の念の表れあり、そして史実伝説関係なく彼女が個人的に抱いている、アサシン自身への尊敬ゆえのものだった。
「陛下」
今日も彼女は呼びかける。
瓦礫の中から見つけてきた資材の有り合わせではあるものの、アサシンのためにあつらえた玉座へひざまずいて。
「本日もお麗しゅう」
「うむ──」
アサシンは玉座から立ち上がり、彼女の枝毛ひとつない髪を撫でる。
「──そなたの髪は美しいのう。うむ、やはりそなたこそ、妾の傍に居るに相応しい」
「身に余る光栄にございます、陛下」
「のう、
「はい」
「あの陰険男とバーサーカーはいずこへ行った? 姿が見えぬが」
「は。偵察とのことで明け方より少し遠くまで行くと言い残し、それっきりにございます」
「ほう……まさか逃げたのではなかろうな?」
「恐れながら。バーサーカーのサーヴァントはともかく、マスターの方において逃げるということは有り得ないと断言致します」
「ふむ。まあそなたがそう言うのならばそうなのであろう。まあ善いわ」
つう、とアサシンの指先が彼女の髪から離れ、なぞるように頬から顎へと伝う。
彼女は思わず体を萎縮させた。
それは恐怖から来るものではない。なんの混じりっ気もない、ただ純粋で純然たる恐悦からくるものだった。
愛情ではない。ましてや恋や友情でもない。
彼女は心の底から、自らが召喚したアサシンのサーヴァントに心酔していた。
「しかし
「わ、私が陛下を裏切るなど──!」
「くふふ。そう青ざめるな。別にそなたが裏切ろうとは妾も思っておらん。ただそうなればまたそれも一興と思っただけのこと。誤解を与えたのであれば謝るぞ? 妾はそなたの髪が美しいおかげで機嫌が善いのじゃ。ほれ、望むならば言うてみよ。頭を下げてやる」
「いいえ、いいえ! 私の察しが悪かったのです、どうか陛下はそのままで。陛下ほどのお方が、私などに頭を垂れるなどあってはなりません!」
彼女の必死の言葉に機嫌を良くしたらしいアサシンが、彼女の顎に添えていた指先で再び髪をいじる。
「ふふ、本当に愛いな、妾の
「それは……あの人は、私達を戦わせたくないと──」
「
「っ……!」
「子供だから──とは、そなたが最も嫌う言葉ではなかったか? なぜ従う? 答えよ。命令じゃ」
「……あの人は、──カリュプスさんは、違うのです。ただのくだらない大人じゃない。私が出会った中でただひとり、子供を正しく見ている人なのです。ですからどうか、ご理解を。……それに、陛下は子供ではございません。広大なる中華を統べた、真の女帝陛下にあらせられます。子供の姿で現界したからと言って、私はそのようなことは露ほども思っておりません」
「くふふ、ふふふ。善いな、粗探しも面倒なほど模範的な返事じゃ」
アサシンは彼女の顔を覗き込み、その幼い顔でありつつもどこか妖艶に微笑んだ。
「その妾への忠義、畏敬、畏怖、忘れるでないぞ」
「は。無論にございます」
さて、とアサシンは彼女に頭を上げて立つよう促し、外へ向かってすたすたと歩き出す。
「……近いな。行くぞ」
「近い、とは? お待ちください陛下、一体どこへ──」
後ろ姿に疑問符を飛ばす彼女。
アサシンは振り返り、やはり艶やかに笑った。
「──待ちに待った敵襲じゃ、