「さてお前ら」
翌朝、──と言っても私はがっつり寝坊をしてしまって時刻は昼過ぎなのだが、とにかくエーミールにさんざん文句を言われたのち私達はモニターと事務机の部屋に集合していた。
「お待ちかねの生体反応だ。サーヴァントの反応がふたつ、人間の反応がふたつ」
『ふたつずつですか。となると、いっぺんに味方に取り込めそうですね。これで戦力が揃います。』
「あー……今はどっちだ。灰音か? キャスターか?」
『灰音です。』
「オーケイ。灰音の言うこともまあ一理あるっちゃ一理ある。が、こうも言い換えられる」
エーミールはいつもどおり回転椅子の上にあぐらをかき、一呼吸置く。
「──
「お兄ちゃん、それって……」
「そう。見方によっては俺らと同じ。俺達はそもそもこの聖杯戦争が通常とは違う──むしろ逆だと知っていたからセイバーを殺さなかったしマスターを探すことも止めなかった。そしてこうして仲間を集めている。が、向こうはどうだ? 向こうのやつらがまだ、これがただの聖杯戦争だと思っていたら?」
「……」
つまり。
手放しに喜べる状況ではない、ということか。
「だから念を入れて総力戦だ。灰音と俺以外は全員出てもらうのが最善だと思うがどうだ?」
「ふーん。アナタ、愚鈍そうに見せかけてやるじゃない。数なら圧倒的にこっちが有利。それで相手の二組が戦意喪失、っていう可能性も加味してるわけね」
「そういうことだ。まあランサーの言ったことが叶えば苦労しねえけどな」
さて、と改めてエーミールは言う。
「異論がねえならさっさと行け。以上だ」
各々がばらばらの返事をして、それぞれ通信機を持って外へ出ていく。
私とセイバーも行こうとしたのだが、エーミールに「おい」と声をかけられた。
「なに? エーミールくん」
「お前に個人的な話がある」
「……起床が大苦手でごめんなさい……」
「説教じゃねえよ。灰音、席外せ」
『なぜですか。』
「いいから」
『……。はい。』
灰音が出ていき、いよいよエーミールとふたりきりになる。
「これ見ろ」
……なんだろう。
余っていた回転椅子を引き寄せ腰かけて、モニターを覗く。
これは……名簿だろうか。
「前に言ったこの施設の隠しデータ。一部だがなんとか閲覧できるようにはできた」
「すごいね」
「世辞は良いからさっさと読め」
「……?」
『倉高エミリ △
倉高エーミール ✕
遠木まほらば ○
鮫島灰音 ◎
才賀日奈子 ○
極楽寺くれあ ◎
khalyps Lavinia △』
──なんだ、これは。全員メモに書かれていた名前だ。いや、メモに書かれていた名前だけではない。三桁はゆうに超えるであろう数の人名、そして『✕』から『◎』の記号がついている。
「もうひとつ。気色悪いのがあった」
エーミールがマウスを動かし、画面が切り替わる。
『千早 初号機 失敗
千早 二号機 失敗
千早 三号機 失敗
千早 四号機 失敗
千早 五号機 失敗 ……』
「……なに、これ」
おびただしいまでに並ぶ『千早』の名前。千早とは──七五三千早のことなのだろうか。なぜ七五三千早の名に番号がつけられている? 失敗とはどういう意味だ?
「全部で七五二号機まであった。あとひとりで七五三──この名簿に載っていない最後の『千早』が、七五三千早と考えるのが自然だと思うが。どうだ、久堂。何か思い出せないか?」
「……わか、らない……」
「……そうか。まあお前にメモを渡した七五三千早がこの施設と何かしらの関係があったのはほぼ確実だろうから、また何かあったら言う」
「うん……ありがとう……」
視界がぐらぐらとするのは、きっと慣れない眼鏡のせいではない。……私は何かを思い出しかけている。曖昧に、けれど確かに。
心ここに在らずを自覚しながら廊下に出ると、地上へ続く階段付近で言い争う声が聞こえ、思わず立ち止まった。
このヒステリックな声は──くれあだろうか。
「気に食わないんですよ、あんたのその自分だけ被害者ですみたいなツラが!」
言い合っている、というよりくれあが一方的に叫んでいるようだ。相手は誰だろう……。
「あんたが鮫島家に引き取られたあと、母さんはさらに狂った! 邪教徒を気取って僕の──魔術師の血を売って荒稼ぎして、その金でドラッグ買って、僕をひたすら商売道具として使い潰した! でも、ねえ! ねえ! 聞いてくださいよ! 僕は母さんの目を盗んで警察に駆け込んでやりましたよ! 痩せた顔面蒼白の子供ってなんでもしてもらえるんですよね! あっという間に逮捕されて豚箱行きですよ! ねえ胸のすく話でしょ、
……ちょっと待ってくれ。
頭の中がこんがらがると同時にだんだん頭の中の図形がはっきりしてくる。
ライダーが見たと言った夢。血を抜かれ、崇められるくれあ。
くれあと灰音は面識があるということは以前から確定していた。これならば辻褄が合う。──合ってしまう。
くれあの一方的な声が続いている。
「なんとか言ってくださいよ、ねえ兄さん。それとも僕はもう弟でもなんでもないって? 無関係だって言いたいんですか?」
『……そんな、こと……。』
「だったら一緒に喜んでくださいよ! ほら! あのクソババアに! ざまあみろって!」
『……お母さんをそんな呼び方してはいけません。』
「は、ははは……! やっぱりそのスピーカー、意図的に発声できる語彙を絞ってますよね? ねえ、汚い言葉が使えないように自分で枷を嵌めてますよねェ? ははははは、聖人君子気取るのもラクじゃないですね!」
『……。』
「ああ、ほんっと癪に障る。兄さんお得意の『耐え難きを耐え』ですか? 不幸の連鎖を断ち切るために自分が我慢しろって? やり返すなって? 復讐なんかやめろって? やられっぱなしで居ろって?」
『
灰音が初めて言い返す。機械音声でも分かる、きっぱりと断言するような口調で。
『誰かが我慢しなくてはいけないんです。大多数の人間の幸福は、少数の人間の不幸がないと成り立たないんです。完全なる弱者、完全なる被害者が、世界には必要なんです。』
「……ああそう。そうですか。話すだけ無駄でした。それではさようなら、
くれあが階段を上っていく音。おずおずと階段を下ってくる灰音の影。どうにも気まずくなって、私はそそくさと灰音とすれ違った。
名前:倉高エーミール クラタカ・エーミール
年齢:18歳
身長:158cm
体重:87kg
特徴:男/エミリの双子の兄/肥満体型/度の強い眼鏡/毒舌皮肉屋/料理上手
好きなもの:SF映画、ロボットアニメ、ポップコーン
苦手なもの:運動