Fate/Memento   作:九良川文蔵

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奥歯に物がはさまったような

 

 

 

「あ、あ──アサシン!」

 カリュプスはそう叫んだかと思えばアサシンのサーヴァントに駆け寄り、こちらには目も向けないどころかむしろ背中を向けてアサシンの服についた僅かな煤を過剰にはたき落とした。

「いけないじゃないか、出てきたら。危険だよ。危ないんだ。日奈子ちゃんは? あの子はどこだい?」

「ええい気安く触るでないわ陰険男!」

「あ、ご、ごめんよ……で、日奈子ちゃんは?」

「あやつならば置いてきたわ。貴様、相当信用されているのう。『カリュプスさんの指示に背くわけには……』の一点張りじゃ」

 ひなこ。──おそらく才賀日奈子のことか。

 いつの間にか隣に来ていたまほらばが私の裾をつかみ、背伸びをしながら「ねえねえ」と耳打ちをする。

「なに?」

 つられて私も小声になりながらまほらばの口元に耳を近づけた。

「あたしが言うのもなんだけどさ」

「うん」

「ふたりだけの世界できちゃっててあたし達置いてぼり」

「本当にまほらばさんが言うのもなんだね」

 あのランサーとまほらばの一連のやり取りを見てしまったからにはもはや驚きもしない。ただ早くこっち向いてくれないかなあと思うだけだ。

 そうこうしている間にもアサシンとカリュプスの会話は続く。

「日奈子ちゃんをひとりにしたのか!? いけない、いけないよ。すぐ戻るんだ。あそこには僕が目くらましの結界を張っておいたから比較的安全だけど、それも完璧ではない。絶対に君が傍に居なくては駄目だ。君自身だって日奈子ちゃんが居なければ魔力が足りなくて戦うこともままならない。そうだろう?」

「ふん。妾が真名を明かし宝具を展開すれば、十全の力でなくとも瞬殺じゃ」

「殺しちゃ駄目なんだよ! 子供は殺すのも殺されるのも駄目だ、絶対に! だから僕が一番に聖杯を顕現させて破壊して──」

「愚か者ーぅ!」

 カリュプスの頬にアサシンの平手打ちが炸裂する。……すごい音したな。バッチーン! って。痣になりそう。

「妾が退屈を嫌うことは知っておろうな? それでも尚、妾に上からものを言うと? 言葉を選べ、愚か者」

「……」

 す、と地面に膝をつくカリュプス。そのままアサシンに跪き、深々と頭を下げた。

「……何とぞご理解を。伏してお願い致します、陛下」

「ふん」

 足元にあるカリュプスの頭、その顎をつま先で持ち上げ自らを見上げさせアサシンは満足気に笑う。

武士女人(マスター)のお気に入りじゃからの、貴様は。良い、今はその酔狂に付き合ってやろう。ただし貴様、戻ってからの仕置きは覚悟しておけ」

「承知致しました」

「くふふ。最初からそのように傅け愚か者。次はないぞ」

「はい」

 アサシンはカリュプスの顎から足を離し、こちらをぐるりと見た。

 そして私に目をとめて──少し顔をしかめる。なんだろう。エーミール、カリュプスに続きまた説教だろうか。今度は私は何をやらかしたのだろう。

「……貴様」

「はい」

()()()()()()()?」

「え……。記憶をなくしてるから一概に私は何ですとは言えないけれど、おそらく久堂といいます……」

「……なるほどな。今はそういうことにしておいてやるわ。妾の寛大さを讃え咽び泣け」

 言って、アサシンは消えた。おそらく去っていったのだろう。明らかに空気が軽くなった。思わず大きく息を吸う。

『話は終わったか、ロリコン』

 通信機からエーミールの声。

「ぼ、僕は決してロリコンでは……!」

『こちらとしてはお前とバーサーカー、及びアサシンとそのマスターの協力をあおぎたい。殺しも殺させもしない、というお前の理念に矛盾は生じないと思うが、どうだ』

「そうだね……」

 少し考え込むカリュプス。

「……うん。ひとまず君達を敵視することはやめよう。子供ではない者に対してもこちらから攻撃を仕掛けることはないと約束する」

『仲間になる、じゃなくて、敵視するのをやめる、か。奥歯に物がはさまったような物言いだな』

「すまないね、少年」

『倉高エーミールだ』

「ああ良い名前だね、エーミールくん。しかしとにかく僕の判断は言葉のままだ。君達を敵視はしないが、一緒に行くことはできない」

『……理由を聞いても?』

「僕は、日奈子ちゃんを守らなければいけないから。もし日奈子ちゃんが望むならば君達と合流するかもしれない。そのときは、迎え入れてもらえると嬉しいな」

『ずいぶん都合の良い交渉だな……。まあこれ以上話しても堂々巡りなのは分かった。お前の条件を受け入れる。とりあえずお前の言う『日奈子ちゃん』と相談してくれ』

「ありがとう、エーミールくん。君は優しい子だね」

『馬鹿言え、ロリコン野郎』

 通信機から音声が途絶える。

 カリュプスは深呼吸をして、一歩も動かず停止していたバーサーカーに声をかける。

「行こう、バーサーカー。お前も聞いていたろ、ここに圧制者()は居ない」

 

 

 

 

 

「しかし、どうしたもんかねえ……」

 拠点である地下室に戻ると、エーミールは難しい顔をして回転椅子をくるくるとやっていた。

「んー……」

「お兄ちゃん、何かあったの? さっきのカリュプスさんのこと?」

「それもあるんだが」

 モニターの方へ向き直り、キーボードを叩いて画面に地図を表示させるエーミール。

「あのカリュプスとかいう男とアサシンがSMロリコン劇場を繰り広げてる間に周囲の解析を進めてた」

 まほらばが思い切り吹き出す。私も危うく笑いそうになる。え、SMロリコン劇場……。

「真面目な話だバカすけども。いいから画面を見ろ」

「ええと……かなり広くなったね。街ひとつ分くらい?」

「その通りだ。だが、これ以上マップを広げられない。()()()()()()()()()()()()

「そ、存在しない? 機械の限界じゃなくて?」

「もちろんその可能性も考えたさ、久堂。が、そういうことでもないらしい。探査機能に問題はない。古いが地味にスペックの高いやつだから、その気になれば隣国辺りまでマップを伸ばせるはずなんだ」

「じゃあどうして……」

「考えられる可能性はいくつかあるが、まだ分かんねえ。ついでに言うと──最初に説明した、『世界の穴』が塞がり始めてる」

「え、え、じゃあ、あたし達、このままだとこの街に閉じ込められるの?」

「可能性はある、としか言えねえ。とにかく解析を進めるから今は待ってくれ。不甲斐なくてすまん」

『エーミールくんが謝ることではありません。戦いにも出られず見ていることしかできない身としては、むしろこちらが心苦しいところです。』

「ん。ありがとうな灰音。とにかくお前ら、一旦休め」

 各々が返事をして、またバラける──と、思ったのだが。

 エミリの様子がおかしい。うつむいて、微かに震えて、いる……?

「……もうやっぱり、限界だよお兄ちゃん」

「……」

 モニターを見ていたエーミールがこちらを向く。その顔に表情はない。

 エミリはいきなり顔を上げ、叫んだ。その顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れ、言いようのない感情に歪んでいた。

 

 

「──令呪をもって命ずる! お兄ちゃんを殺して、アーチャー!」

 

 

 







名前:鮫島灰音 サメジマ・ハイネ

年齢:18歳

身長:164cm
体重:50kg

特徴:男/旧姓”極楽寺”/肩口まで伸びた黒髪/首元のスピーカー/数学オタク/童顔

好きなもの:数学、みかん、雲
苦手なもの:運動、きのこ、虫


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