Fate/Memento   作:九良川文蔵

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ふたりでひとり、その運命

 

 

 

 ──一瞬、空気が凍る。全てがスローモーションのように見える。

 灰音が目を見開く。くれあがエーミールに覆い被さるようにしてアーチャーとの間に入る。ライダーがアーチャーに銃口を向ける。まほらばが何か言うより先にランサーが彼女を後ろに下げる。セイバーが剣を抜いてアーチャーを睨む。

 

「……」

 

 アーチャー、は。

 動かない。ただじっと前を見て佇んでいる。エミリだけが焦った顔をしている。

「どうして!? なんで令呪が──」

「エミリ」

 エーミールが口を開いた。微動だにせず、表情も変えず、ただ血を分け合った妹を見つめて。

「すまん。俺の焦りが伝播しちまったんだな」

「おに、い、ちゃん……」

「分かってるよ、エミリ。俺とお前はふたりでひとりだ。分かたれていても根底で繋がってる」

 ぎ、と回転椅子が鳴る。エーミールが立ち上がる。穏やかな足取りでエミリとアーチャーのすぐ目の前まで歩く。

「……令呪をもって命ずる、アーチャー。エミリを落ち着かせて隣の部屋にでも連れて行ってやってくれ」

 エミリの手の甲、令呪が光を放つ。

 アーチャーはエミリの後頭部の辺りを軽く殴り気絶させ、彼女が倒れる前に抱き抱えてエーミールを見た。

「……」

「ありがとう、アーチャー。エミリ()を人殺しにしないでくれて」

「……こちらこそ。私はマスターに、私と同じ運命を歩ませることを望んではいませんから」

 ふたりの他に誰も何も言えないまま、アーチャーは気絶したエミリを連れて部屋を出ていってしまった。

 沈黙。

 長い長い、沈黙。

「──すまん。騒がせた」

 その果てにエーミールはそう呟いた。

「ここまで来てなんの説明もなく終わらせようなんて思ってねえよ。全部話すから聞きたいやつだけ聞け」

 言いながら、モニターの前の定位置に戻る。

 こんなことがあって説明を求めない者は居ないだろう。エーミールは聞きたいやつだけ聞けと言ったが、去る者どころかその場から動く者さえ居なかった。

「どっから話したもんかねえ……」

 椅子の背もたれに体重を預ける。また椅子が軋んだ音を立てる。

「倉高はもともと、魔術師の家系じゃねえんだ。由緒正し──くはねえが、まあその界隈ではそれなりに有名な宗教学者の家だった。俺とエミリの親父も学者だった。親父はどっから情報を仕入れたのか魔術、及び根源への到達という目的を知りのめり込んで、人工的に最強の魔術師を作る、なんて馬鹿な実験に加担した」

 ひとつ呼吸を置いて、エーミールは言葉を続ける。

「魔術師の家から嫁をもらって遺伝子に様々な細工をして、産まれてくる子供は根源に最も近い才能を持った魔術師──っつう算段だったみたいだったんだがな。どこの計算が狂ったか、俺達は双子で産まれてきちまった。それぞれ別の才能(呪い)を授かってな」

「才能……?」

「ああ。エミリは高い魔力と長い寿命を。俺は早く回る脳みそと休まず動ける体を。精神と肉体に分かれた形だな」

 ……つまり、エーミールが今まで一度も休むことなく作業にあたっていられたのは、彼の言うところの呪いに近い才能を生まれつき持っていたからなのか。

「まあもともと魔術師作るって話だから、魔力を持ったエミリとただ休まず働けるだけの俺、どっちが選ばれるかは明白だろ。親父はエミリにこう言った。──エーミールを殺して食え、ってな」

「そんな──」

 まほらばの嘆息に近い声が漏れる。

 エーミールは皮肉げに笑った。

「だが俺の妹は魔力はあっても魔術師としての才能は零点でな。お兄ちゃん殺すなんてできないよーって泣くわ喚くわ暴れるわで失敗だった。おまけにエミリの代わりに俺を殺そうとするやつも一切近づけない始末だ。だらだら十八歳まで生きちまった。……まあ、どうあれ結末は変わらないんだがな」

 ──結末は変わらない?

 どうやら話はまだ続くらしい。それも、不穏な方向に転がって。

「休まずに動けるっつーのは、何も俺が超人だからじゃない。()()()()()()()()()()()()

「早送り、って……じゃあエーミールくんは……」

「お察しのとおりだ久堂。俺の寿命は平均の三分の一もない。今この瞬間に寿命が尽きて死ぬかもしれない。だからやれることはなるべくさっさとやっとかねえといけない。そこの馬鹿女が前に俺を『一番焦ってる』っつったのは間違ってなかったな。……で、俺とエミリはもともとひとりの魔術師だ。魂の根底が繋がってるから、俺には魔力はないがエミリと繋がった魔術回路がある。さっき見たろ、アーチャーの令呪の使用権は俺にある。感情もたまに繋がる。さっきのエミリの激昴は俺が分かんねえことだらけでめちゃくちゃ焦ったのが移っちまったんだろうな」

 だから、とエーミールは頭を下げた。

「本当にすまなかった。俺が悪い。許せとは言わんが、責めるならエミリやアーチャーじゃなくて俺にしてくれ」

「そんな──そんなのっ、責められるわけないじゃん!」

 まほらばが叫んで、エーミールに思い切り抱きついた。

「あたし、エミリちゃんとエーミールの味方する! どっちも責めない強いて言うなら親父さん責める! ふたりとも大切だよ! ふたりそろって仲良く生きてよお!」

「のしかかんな! 重い!」

『……っ!』

 灰音もエーミールに飛びつく。回転椅子がひっくり返ってエーミールもひっくり返る。

「いってぇな! やめろ! 退け! 聞いただろ時間がねえんだよ俺には! 検証しなきゃなんねえことが山ほどあんだから散れお前ら! とっとと隣の部屋にでも行って休めバカすけども!」

「うんうんうん、そうやって悪態ついてるのがエーミールらしいよ!」

 半泣きの顔で立ち上がり、まほらばは袖口で涙をぬぐった。

 さんざん騒いでいる三人をよそに扉が閉まる音で振り返ると、くれあとライダーが部屋を出ていったようだった。……くれあくん苦手そうだしな、こういう人情話。そんなふうに考え、私は視線を戻す。

「……ありがとな」

 そう呟くエーミールの表情はどうにも形容しがたく、それでいて確かに嬉しそうだった。

 

 

 

 







名前:極楽寺くれあ ゴクラクジ・クレア

年齢:16歳

身長:169cm
体重:57kg

特徴:男/鮫島灰音の弟/脱色された髪/金銭に対する執着/美声

好きなもの:金銭、炭酸飲料
苦手なもの:タダ働き


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