Fate/Memento   作:九良川文蔵

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笑うな

 

 

 

 ──■■■ってのは、日本じゃ特別な意味を持つ■■だ。

 ──□□。

 ──俺は□□の■に責任を持たにゃならんのだ。

 ──俺は、もう■■■人の□□を■してきた。

 ──だから、だからな、□□。

 ──贈り物だ。

 

 

 ──お前は今日から、□□□□□──

 

 

 

 

 ──ああ。またあの夢だ。

 目覚めてまず、そんなことを思う。少し解像度は上がったが、以前見たものと同じ夢だと考えて矛盾はないだろう。

 何なのだろう。誰なのだろう。いつの夢なのだろう。

 そもそも本当に私の夢なのだろうか。なんだかひどく、他人事のように思えてくる。

「……マスター」

 セイバーの声。「はい」と返事をして寝返りをうち、彼を見る。

「……おはようございます」

「うん、おはよう。どうしたの?」

「いえ。皆様起床なさいましたし、もうそろそろマスターも起こすべきかと思ったのですが……」

「思ったのですが?」

「……ひどく、幸福そうなお顔で眠っていらしたもので。起こすことをいささか躊躇ってしまいました」

「ああ、いいよ。大丈夫です。ちょうど起きたところだったし。ありがとうね、気を使ってくれて」

 幸福そうな顔。

 ……幸福、か。

 私は私の死を待つために、ただひたすらにそれを待つために生きていて──なんの因果か今は世界を救う戦いをしていて、それも頓挫して、また別の問題が発生して。

 何が私の幸福かなんて、思考の片隅にもなかった。

 ……そうか。

 あの夢を見ている私は、幸せそうだったのか。

「……」

 ええと。

 ──日本じゃ特別な意味を持つ──責任──贈り物──お前は今日から──。

 よく分からない。やはり塗りつぶされたような部分と穴があいたような部分が混じっている。

「マスター」

「はい」

「改めて申しますが、そろそろ起床なさった方がよろしいかと。エーミール殿に叱られても擁護しませんよ」

「はい……」

 ここで私はようやくベッドから身を起こした。眠るのは得意だが起きるのはどうにも苦手だ。体が重くて仕方ない。

 視界がぼやけている。……ああそうだ、眼鏡が必要な体になったのだった。

「……ふふ」

「マスター?」

「なんだか……どんどん体が死んでるみたい」

 手探りで枕元の眼鏡を探しながら、私はまた小さく笑う。

「……怒られそうだけど。エーミールくんのこと、ちょっと羨ましいって思ってしまう自分が居るんだ。ふ、ふふ……おかしいな。死ぬのが全然怖くないや。生き物の本能ってこんな弱いものなのかな……」

「……」

 眼鏡を探す腕をセイバーに掴まれる。痛いほどに握られる。彼の顔は──怒って、いる? 眉をひそめ、射抜くように鋭い眼光でこちらを見て。

「……ごめんなさい」

 ぼんやりと謝罪を口にする。やはり怖くない。私には恐怖心がない。ただ握られた手首が痛いばかりだ。

「マスター、どうか撤回を」

「どこを撤回すれば良いのかな……ああ、エーミールくんとエミリさんのことを軽んじたわけではないんだ。そこは本当にごめんなさい」

「そこも、ですが。あなたの死をあなたが嗤うことを、私は絶対に許さない」

「……どうして?」

「さて。しかし私の霊基がそれを許せないと叫ぶのです。軋むように。霊核にまで響くかのように。……ですから、どうか。笑わないでください」

「……」

 分からない。まあセイバー本人にも分かっていないのだから、私に分かるわけもないか。ひとまず私は頷いた。するとセイバーは掴んでいた手を離し、深く息を吐く。

「……申し訳ありません。主を前に、激昴など」

 ──あ、眼鏡あった。

 眼鏡をかけると同時にノックもなく扉が開く。

 入ってきたのは案の定エーミール。ああまた怒られる……。

「おい」

「はいごめんなさい起きます」

「分かってんなら早くしろ」

「あ……」

 ふと視線を動かし、隣のベッドにエミリが横たわっていることに気づく。こちらは眠っているのではなく気絶しているだからそうそう起きることはないし、エーミールも起こす気はないだろう。アーチャーは霊体化しているのだろうか。

 ──と、ここでもうひとり部屋に入ってくる人影があった。

「……灰音くん?」

『はい。灰音です。おはようございます。』

「どうしたの?」

「相談なら乗らねーぞ」

 先回りしてエーミールが言う。珍しく灰音の表情が大きく動いた。

『なぜそれを。』

「くれあと喧嘩してたろ。お前はともかく、あいつの声ただでさえよく通るんだ。あんな大声でぎゃーぎゃー言ってたら聞こえるっつーの」

『……では、久堂さんも?』

「あ、うん……聞こえてましたっていうか聞いてましたっていうか……」

『……。』

「とにかく、俺はお前らの家庭の事情に口出す気はねえし関わるつもりもねえ」

『わろしです。それではわろしなんです。お願いします。』

「……」

『……仲直り、したいんです。』

 灰音の大きくて黒目がちな目に涙が溜まり、それがぽろぽろと溢れる。それを細く白い腕で拭いながら、灰音は頭を下げた。

『僕では分からないんです。お願いします。』

 ぐ、とエーミールがくぐもったうなり声を発する。

 ……情にほだされたのだろうか。その気持ちは私にも分かる。だってあのままでは、あまりにも報われないではないか。

「……泣くんじゃねえよみっともねえな。分かったよ、話くらいは聞いてやる」

『ありがとうございます。』

 エーミールが乱暴な仕草で私の隣に座る。古びたベッドはぎしぎしと音を立てた。

 灰音は、一瞬だけ迷うような素振りを見せてから──

 

 

 ──首輪のようなそのスピーカーを、自ら取り外した。

 

 

 

 

 

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