Fate/Memento   作:九良川文蔵

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欠陥

 

 

 

 

「……」

 誰も何も言わない。

 彼らがマイペースが過ぎるというか、私達も見事に彼らのペースに飲まれていたというか。

「まあ……最初から協力的で良かったね、キャスターと灰音くん」

 沈黙に耐えきれず私が口を開くと、「ごめんね」とまほらばが軽く頭を下げた。

「あたしとエリザ、ソッコーで攻撃しちゃったしねえ」

「ああいや、そういうことが言いたいんじゃなくて。聖杯戦争でまずは対話する、って選択肢は愚策になるんだろうし」

「……久堂さんってさーぁ」

「なに?」

 帽子のつばを少し上げて、まほらばが私の顔を覗き込んできた。

 彼女は極端に身長が低いわけではないがそれでも私とは頭ひとつ分の身長差があり、見上げられているような形になる。だからでかいねえとか言われるのかと思ったのだが。

「もしかして聖杯戦争、初めてじゃないの?」

「……え」

「なーんか妙に現実的っていうか。一番焦ってないじゃん、久堂さん」

「そ、そんなことないよ」

「ほんとにぃ?」

 ぐ、と背伸びしてまほらばは私に顔を近づける。

「あたし見てたけどさ。エリザとそこの真名明かしてくれないアーチャーが戦ってるとき、セイバーに抱えられてその中に入ってきたじゃん。でもぜーんぜんビビってないでやんの。ビックリして体が固まることはあっても怖がってる素振りは全くなかった。久堂さん、もしかして感情がいくつか欠陥して──」

「遠木」

 問い詰められている私ではなく、エーミールがまほらばの言葉を止めた。

「それ以上いじめてやるな」

「いじめてないよう。あたしは久堂さんの記憶が戻る手がかりになればーって思って……」

「馬鹿のくせに無駄に察しが良い。お前の短所だ。覚えとけ」

「えー! 何さそうやって人のことばっか言ってー! ()()()()()()()()()!」

「……?」

 ──焦っている? エーミールが?

 全くそんなふうには見えないというより、そもそも考えもしなかった。

 ……そして、私が恐怖を感じなかったということも図星だ。感情の欠陥、か。私は人として何かが欠けているのだろうか。そちらも考えたことがなかった。

 エーミールは否定も肯定もせずまたモニターに向かった。再び沈黙が訪れる。

「わ、私、灰音くんの様子見てくるね」

 気まずそうにエミリが立ち上がる。

「マスター、おひとりでの行動はお控えを。私も同行します」

「あ、うん……過保護だなあ、アーチャーは」

「サーヴァントとして主を守るのは当然の行為です。お気になさらず」

 やはり信用はされていない、か。

 アーチャーはどうにも警戒心が強い。記憶喪失の男とそのサーヴァントを信用しろというのも一般的に考えれば無理な話だが。

 エミリが部屋を出ていき、続くようにしてランサーも立ち上がる。

「さーてと。暇だし、外でボイトレでもしてこようかしら」

「あはは、それ死亡フラグじゃんエリザ」

(アタシ)が死ぬわけないじゃない。アナタが居るんだもの」

「……」

「ほらさっさと立ちなさいよ子ブタ! ファンクラブ部長なんだから、時間も体力も全て(アタシ)のために使いなさい!」

「エリザ……あたしのことそんなに信頼してくれてたの……!? えーん嬉しい! 一生ついて行くよエリザー!」

「じゃ、そーゆーことだから。むさくるしい男達はそこでパソコンとにらめっこしてなさい」

 扉が開いて、騒がしい二人が出ていって、扉が閉まる。

 残ったのはエーミールと私、そしてセイバー。

 ……なんだか先程の沈黙よりもさらに静かになった。

 しばらくその静寂が続いて、それにも慣れた頃に私はふと彼へ呼びかけた。

「……ねえ、セイバー」

「はい」

「欠陥は悪かな」

「……先程の、ランサーのマスターの言葉を気にしていらっしゃるのですか?」

「気にしてるってほどでもないけど、なんか引っかかって。君の意見が聞きたくなった」

「そうですね……」

 セイバーは天井を見上げ、少し考えてから再度口を開いた。

「……そもそも、欠陥のない人間など存在しないかと。完全な球体を作ることが不可能なように、必ずどこかで綻びが出る。それを理解──できなかっ、た──」

「セイバー?」

「……」

「セイバー、どうしたの? 具合悪いかい?」

「い、いいえ。申し訳ありません。しかし、そうか……私は……」

 ──私は理解できなかったのだ。

 セイバーは確かにそう呟いた。

「もしかして君、記憶が……?」

「はい、断片ではありますが。……私はやはり騎士です。かつて王に仕えた騎士。しかし王の顔が、思い出せず……」

「無理しないで。一旦座るかい? それとも隣の部屋で横になる?」

 私の言葉に、セイバーは微笑する。

「……貴方はいびつな方ですね」

「え、私悪口言われた?」

「いいえ、とんでもありません。最大級の賛辞のつもりです。恐怖が欠落しながら、人の痛みを慮るとは。それも、サーヴァント相手に……」

 端正な顔でくすくす笑うセイバーがあまりにも絵になるものだから、思わず呆気に取られて見つめてしまった。

 失礼、とセイバーは自らの両頬に手のひらに添え、いつもの涼しげな表情に戻る。

「マスターこそお休みになられてはいかがです。大きな怪我こそないとは言え、傷は癒えていないのですから」

「私そこまで貧弱じゃ……」

 と言いかけたものの、私も灰音の様子は気になる。それを見に行くついでに少し横になるくらいならば良いか。

「ねえ、この際だからエーミールくんも……」

「俺はいい」

「でもこの前から一切休んでなくないかい?」

「いいんだよ、俺は。()()()()()()()()()()()()

「……超人?」

「だったら良かったな」

 エーミールはこちらへ振り向いて、嘲笑の表情をこちらへ向けた。

「お前らってほんとおめでたいやつだよな」

「……褒められた?」

「悪口言ったんだよバカすけ」

 言って、彼はまたモニターの方へ向き直る。

「そこのサーヴァントの言うとおり、人間なんぞどいつもこいつも欠陥品だ。そんで俺はその欠陥品にさえなれなかった。それだけの話だ」

「エーミールくん、それどういう……」

「口が滑った。寝るなら寝ろよ」

 そこからいくらか話しかけてみたが、エーミールには徹底的に無視を決め込まれた。

 会話は不可能と判断し、最後にエーミールの後ろ姿におやすみと声をかけてみる。

「おやすみ」

 たった一言。

 それだけは、返してくれた。

 

 

 

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