ゼロから始まる『ありふれた』異世界生活   作:青龍の鎧

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5話 『恋はいつだって突然に』

「"火球"、"火球"、"火球"!!」

 

檜山の魔法が俺の肩に、背中に当たり続ける。

そんな状況の中、何故反撃しないのか?

 

奴のイジメの証拠集め……そんな"どうでもいい"事など、昴は前回の事を忘れたかのように……否、前回の世界の全てを思い出したからこそ自分を、最悪の罪を犯した『菜月 昴』を最後の瞬間、己の罪を懺悔し、そして『菜月 昴』の今までの罪を許した彼女だから、昴は"火球"が園部に当たらない様に覆いかぶさって守る。

 

「昴、昴!!そこどいて!このままじゃアンタが……」

 

園部は昴と密接するのを嫌がった訳ではなく、ボロボロになる昴の安否を気遣って泣きそうな顔をしていた。

 

(くそっ、俺が弱いせいで……)

 

昴は己の弱さを改めて恥じた。

 

なぜ、俺には魔法を防ぐ防御力がない……ステータスでは耐魔が♾の癖に、この馬鹿野郎。

 

なぜ、俺には馬鹿をぶっ飛ばせる魔力が……いや、それなら無駄に鍛えたら身体能力でどうにかしろよ。

 

なぜ、園部がこんなにも…………だから!防御を、最悪体力を多く持てよ!!

見ろ!俺が辛そうに息を吐くたびに……園部の悲しそうな顔はますます悪化の一方だ!

 

畜生、畜生、畜生!!

何が【死に戻り】だ!!

そのスキルが役に立つのは、何もかも手遅れになった時にやり直してくれる……ただ、それだけだ。

 

 

後は何だ?

 

俺のアーティーファクトにメンヘラ文章を書き込むわ。

ステータス欄、魔耐辺りをめちゃくちゃな物に表して期待させて……結局役に立たなくて……

 

この二つはもしかしたら八つ当たりかもな……だけど!

【死に戻り】のスキルを話したら、俺が苦しみ……最終的にはみんなを殺し尽くした!

騎士団長達を、クラスメイトを、先生を、そして!

 

『ごめんなさい』

 

俺を最後に助けようとした園部を、園部を!!

…………あぁ、意識が霞む。

 

「昴、昴!?いや……いや、いやぁ!昴ぅぅぅ……」

 

「あははははは♪何だ何だ……死ぬのか?死ぬのかぁ!?菜月 昴ぅぅぅ!!」

 

…………くそ、優しい声に胸糞悪い声が重なっちまう。

うるせえなぁ。

 

だけど俺には、その胸糞悪い声を消し去った、前回の切り札は使えない。

なぜなら、優しい声を聞いたから。

 

それにしても背中が異常に熱いのに、痛いのに、瞳が重い……眠い。

あぁ、これ閉じたら死ぬわ。

 

「死なないで!死なないで!昴……お願いだから力抜いてよ!私が盾に……今度こそ、盾に!!」

 

妙に胸が痛いと思ったら……そういう事か。

どうやら園部の力では俺を押し倒して自身を盾にする事が出来ないらしい。

火事場の馬鹿力に感謝感謝だ。

 

そして、昴は掠れた声で優花を諭した。

 

「馬鹿……か、女の子を、特に大切な人を傷つけたらな…………男は一生……引き摺っちまう……もんなんだよ…………一生な」

 

その言葉は昴の紛れもない本音だった。

昴は二度と、自分という『悪魔』を許すつもりはない。

 

彼女等を真に知ろうとせず、自分が一方的に嫌な目にあったら殺すか見捨てるの精神に徹するなど……これじゃあ、何のために菜月 昴は両親と語り合い、前に進んだのか……

 

だから菜月昴は自分より大切な人達の命を優先させる。

無論、自分以上のクズの命か自分の命かと問われたら、迷わず自分の命を取るけども……

 

「…………そ……の……」

 

昴の息はもう事切れる寸前だった。

昴はその瞬間、己の運命を察し、それでも優香……彼女にこれだけは伝えないと、死んでも死に切れ無かった。

 

そして、彼女の顔を改めて見た時……

 

『ナツミ、私……友達、出来るかな?』

 

ふと、黒髪でやけに目付きの悪い女の子の姿が浮かび上がり、昴は目に涙を浮かべた。

その涙は、昴に何としてでもこの言葉は伝えなければいけないという使命感を与え、掠れ掠れに…………

 

「ご…………め…ん……なさい……あの入学直後の……あの日から、ずっと…………ずっと…………『優ちゃん』」

 

昴は満足などしなかった。

しかしそれでも、それでもだ。

 

……やっと、やっと一つ、謝れた。

 

昴は次の世界では、この倍は謝ろう。

初めて会ったあの日以外の事も、全部全部……

 

そう思い、己の最期を待った。

 

「昴…………『ナツミ』!!いや、いやぁぁ!誰か、誰か助けてぇぇぇ!!」

 

優花は助けを呼んだ。

しかし、彼女自身。もうとっくに気づいていた。

それは、昴にトドメを刺そうと構える檜山も同じく……

 

「はっ!助けなんか来るわけがねぇ、それに……もうアイツは放っておいても死ぬだろうがぁぁぁぁ!!」

 

優花は昴を助けようと身体を動かそうとする。

しかし、そんな状況でも………昴をどかせられない。

 

「どうして…………どうして!」

 

優花は己の非力を呪い、己の臆病を呪い、今……目の前で朽ちようとしている、やっと思い出してくれた『親友』が目を閉じかけて……

 

「誰か、誰か助けてぇぇぇ!!」

 

「ははっ♪じゃあな、菜月。くたばれぇぇぇぇ!!」

 

 

 

檜山が止めの"火球"を放とうとした時だった。

 

 

 

「ーーそこまでよ。『悪党』」

 

 

声がした。

 

その声は檜山の野卑な罵声も、彼女の悲痛な悲鳴も、昴自身の消えかけ寸前の呼吸も、なにもかもをねじ伏せて路地裏に響いた。

 

その瞬間、優花と昴に液体を浴びせられた。

優花は全身濡れただけだったが、昴の傷がみるみる治り、意識も戻っていき……この状況に驚いた昴は、なぜか頬を赤らめた優香を見て、後ろを振り向いた。

 

美しい少女だった。

 

腰まで届く長い銀色の髪をひとつにまとめ、理知的な瞳が射抜くようにこちらを見据える。柔らかな面差しには美しさと幼さが同居し、どことなく感じさせる高貴さが危うげな魅力すら生み出していた。

 

身長は百六十センチほど。紺色を基調とした服装は華美な装飾などなく、シンプルさが逆にその存在感を際立たせる。ゆいいつ目立つのは、彼女の羽織っている灰色の古いローブだろう。しかしその古くよれよれのローブを羽織っていても、少女の美しさは消える事はなかった。

 

「それ以上の狼藉は見過ごせないわーーそこまでよ」

 

再び彼女の口から言葉が紡がれ、総身を震えるような感動が走った。

銀鈴のような声音は鼓膜を心地よく叩き、紡がれる言葉には他者の心を震わせる力がある。

 

昴と優花は自分達の置かれた状況すら忘れて、ただひたすら彼女の存在感に打ちのめされた。

 

しかし、檜山は……彼女の存在感を気にも留めなかった。

彼女に敵意を真っ向から向けられたにも関わらず、さらに下衆に染まった顔でターゲットを彼女に変えた。

 

「はっ、何か用か……お嬢さん。今のは訓練っすよ訓練。俺達はあんたらに頼まれてこの世界救うために、わざわざ召喚されたのに……どいつもこいつもコケにしやがってよぉ」

 

檜山は支離滅裂な事を言い放ち、掌に魔力を貯め始めた。

 

「召喚……手遅れだった。イシュタル……貴方達は、やはり…『怠惰』の……」

 

そんな中、彼女は歯を食い縛り苦い顔で昴達の方へ向き、申し訳なさそうに、二人に一言。

 

「ごめんなさい」

 

そう謝罪し、二人の頭を撫でたのだった。

 

昴と優花は彼女の温かな感触に、優花は顔をさらに赤く染めさせ、昴は……意識を失いかけたのが嘘であるかのように、優花より顔を赤くさせ、彼女の姿を目に焼き続けていた。

 

「おい、手前!!なに余裕ぶってやが……!?」

 

檜山が彼女に完全に無視をされて怒り、魔力……"火球"を放とうとした時、その手が一瞬で凍りついた。

 

「危ないなぁ、僕の『娘』に火傷でも負わせるつもり〜……かよ?」

 

そうのんびりと、しかし…最後、ドスの効いた声のような口調で檜山の片手を凍らしたのは、掌に乗るサイズの直立する猫だった。

 

毛並みは灰色で耳は垂れ、スバルの常識で言うならばアメリカンショートヘアという種類の猫が一番近い。鼻の色がピンク色で、妙に尻尾が長いのを除けば。

 

その奇妙な猫の姿を見た後、自分の腕を見て……真っ青になり、自分の置かれた立場をようやく理解できたのだ。

 

「ひっ……ひぃ!」

 

「さて、平気で仲間に暴力を奮う君は……例の『七罪魔王』のどれかの使いっ走りか何かかな?まさかこんなに早く、奴らと手を組む奴がいたとはねぇ〜」

 

怯える檜山を見た彼女は、すぐさま凍結した手を火の魔法を使って、元に戻した。

 

「こら、パック。いくらなんでもやんちゃしすぎ!」

 

「えぇ〜、だって君を怪我させようとしたし、それに……彼、死にかけてたじゃん」

 

パックと呼ばれる子猫はそう言って、昴の事を指さした。彼女はそれでもと言わんばかりにパックの顔に指を近付かせた。

 

「今、倒れている彼は死んでない。だからさっきのは過剰返し!おあいこにするなら……」

 

バキィ!!

 

彼女はそう言って、檜山に右ストレートを決めた!

優花は唖然。

昴はさらにトキメキを増した。

 

「うわぁ〜、右ストレートとは……まぁ、おあいこかな?」

 

いや、檜山の顔を変形させて尚且つ死にかけてる程のこの威力は「おあいこ」とは言えないだろう。

そんな突っ込みを今の優花にできる余裕はなかった。

それは昴も同じ事だが、優花とはまた別の理由で突っ込めなかったのは昴のトキメキ中の顔を見れば一目瞭然である。

 

「……今の騒ぎで人が来るよ?」

 

パックが彼女に忠告すると、彼女は二人の頬に手を当て、申し訳なさそうな笑顔で言った。

 

「もう大丈夫だからね?……でも、今見た事は夢だったって事で勘弁してください……ごめんね!」

 

「ミョンミョンミョン」

 

パックが謎の呪文を唱えると、優花は深い眠りに落ちてしまったが……昴は何故か、眠りに落ちなかった。

 

「あれ……どうしよう!?」

 

「う〜ん、しょうがない。リア!!」

 

パックがリアと呼んだ彼女に合図を送った。

 

「え!?あ……うぉりやぁ!」

 

ストン!

 

「うっ……」

 

その彼女は依然慌てたままで、昴の首に手刀を当てたのだが……正面から首筋の後ろに当ててしまったせいで昴は正面に倒れてしまい……

 

「ひゃん!」

 

彼女の豊かな胸にダイブしてしまった。

昴は、今にも鼻血を出しかけ寸前だった。

 

しかし、今ここで出してしまったら彼女の服が汚れてしまう。そんな事を昴は許せるわけもなく、何とか、何とか踏ん張り……そしてキチンとお礼を言うべく、彼女と向き合った。

 

「あ……あのね、これはワザととかそんなんじゃ……」

 

尚も慌て続ける彼女に昴は失いかける意識と吹き出しかける鼻を気合いで制し、「俺達を……助けて、くれて…ありがとう、リア」そう踏ん張るような笑顔で彼女にお礼を言った。

 

「ーーどういたしまして。後、わたしの名前はエミリア。ただのエミリアだから……また何処かで会えたらよろしくね」

 

その時、彼女はお礼を言われたのが嬉しかったのか……可愛い笑顔ではにかみ、自分の名前を述べた後、パックがまた呪文を唱えて消えてしまった。

 

昴はこの出来事を一生忘れる事はなかった。

彼女達がいなくなった数秒後、昴は盛大に鼻血を吹き出し、先程の手刀のダメージにより意識を……

 

 

(彼女の名前はエミリア……エミリアたん!エミリアたん!!君は、君はとっても、E・M・T(エミリアたん・マジ・天使)だぁぁぁぁぁ!)

 

 

菜月 昴の心躍る『恋』を感じ、その彼女の優しさと美しさと……先程の柔らかさを感じ、歓喜の表情をして大の字にぶっ倒れたのだった。

 

 

この日……菜月 昴はこの異世界で、人生最大の幸せを、心の底からの生きがいを、ナツキ・スバルは見出す事ができたのだった。

 

そんなスバルを、何処かの猫が何故かクスリと笑っている。

一瞬、一瞬だがそんな気が……

 

ふにっ

 

……猫パンチを喰らった。

痛くなくて……よか……た。

 

@@@@

 

つい先程の騒ぎで全力で逃げに徹するエミリアとパックはとある部屋に潜んでいた。

その部屋は窓があり、その先の景色は城門と城下街が広がっているので仮に見つかったとしても窓を突き破ってそのまま逃げ切れる確信があった事もあり、この部屋に潜むことにしたのだ。

 

しかし、そこにいるのはエミリアだけでパックは……

 

(エミリア、相変わらず君のお人好しには冷や冷やするよ。いざという時に取っておいたあの『とっておき』も躊躇なく使っちゃったしね〜)

 

パックは『念話』を使って、エリミアの頭の中で語りかけていた。彼女はそんなパックに対して、謝罪をした。

 

「……勝手な事してごめんなさい。でも私はーー!」

 

(それが君の大好きなところさ……リア)

 

エミリアの言葉を言い切る前に、パックはエミリアの大好きな所を指摘して、彼女の行動を嬉しそうに話した。

 

「うん、ありがとー。『お父さん』」

 

エミリアはパックのそれが嬉しかったのか、先程よりも嬉しそうな笑顔で笑った。

パックはエミリアの笑顔を見て、幸せを感じようと思ったけど、状況が状況なので、これからリアと潜入の結果を共有する。

 

(……さて、今日の潜入の結果。召喚が『協力者の情報』から2日程ズレてしまって本来の計画は失敗したけど、イシュタルが例の『怠惰』と関わっている事と『協力者』の軍の中に密告者がいるのは確定だ)

 

「もう、私の知っている大切だった『怠惰』の、ーーはもう既にエヒトに……それに、スパイまで……」

 

(……君には心苦しい事実だけど、受け止めて欲しい所だね)

 

エミリアはとても悲しそうな顔で俯き、パックはそんなエミリアを見て彼女に対する悲しみと彼女にそんな顔をさせた裏切り者達に対する憤怒の気持ちが混ざり合っていた。

 

(そして、異世界から召喚あの少年少女達は……正直哀れ、と言いたいところだけど…全てがそうとは言い切れない。あのさっきの男と僕が直に見てきた"危険人物達"と"勇者"は『闇』が深い。下手したら『傲慢』の魔王がこの中に生まれるかもしれないけど、あの二人はそうはならないだろうね。彼女もいい子そうだったし、特にあの男は、君に気を遣ってさ、尚且つお礼もきちんと……)

 

 

ぐぅぅぅぅ……

 

 

突如としてお腹の音が鳴り響いた。

その時、エミリアの顔が真っ赤に染まるのをパックは笑いを堪えて意地悪な質問をした。

 

(おやおやおや〜?可愛らしいお腹の音を鳴らしたのはだ〜れだ?)

 

「んもう!パックの意地悪……」

 

エミリアはニヤニヤ笑いながら自分のお腹の音を指摘するパックに対して頬を膨らませてふてくされる……といっても見ていてとても可愛いふてくされだった。

 

「…………お腹すいた」

 

エミリアはお腹をさすり、今日はここで引き上げようかと考える。

しかし、エミリアの視界にバッグが見えて、ふとその中を見てみると……

 

「わぁ、美味しそうな緑の玉のご飯」

 

とても美味しそうな緑の玉が大量に乗っけてあるご飯がびっしりの弁当が2箱、残っていたのだった。

 

(……リア〜?)

 

パックは長年の付き合いでエミリアがどんな行動を取るか、ある程度想定は付いていたので、よだれ塗れの子供をニヤニヤしつつ、拾い物を食べる節だらけな子にしない様にする為、牽制を始めるのだった。




ついに、メインヒロイン登場!
彼女達はリゼロのエミリアとパックを元にしたキャラクターで、実質エミリアとパックですね!

とはいえ、彼らはエミリアとパックとはまた違う物語があるのでその辺の対比も含めて是非応援してくれると嬉しいです!

それでは次回、檜山の末路とE・M・T!!
お楽しみに!!

リゼロを元としたオリキャラクターの名前を一部変えて登場させるか?

  • リゼロのキャラ名をそのまま出す。
  • キャラ名を一部変えた方がいい。
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