とりあえずこれはやっておこうと思った。
ハーレム。
それは、男ならば誰もが抱く原初の願望。
一人の男性が複数の女性に好かれるという、夢のようなシチュエーション。
だが、現実はそう甘くない。
一人からですら難しいのに、複数の女性から“そういう”対象として見られることなど、普通はありえない。
仮にあったとしても、女性側に問題があることが殆どだ。
具体的にはヤンデレだったり、ヤンデレだったり、ヤンデレだったり。
―――――話が逸れた。
とにかく、“普通”の女の子に囲まれキャッキャウフフというのは夢のまた夢に過ぎないのだ。
………しかし。
しかし、何事にも例外というものはある。
それがここ、IS学園。
クラスどころか、生徒は全員女子。
それは男の楽園―――――すなわち《
…………そう、思っていた時期もありました。
◆
「全員揃ってますねー。それじゃあ、
教室の扉の向こうで女性の声―――――“山田真耶”先生の声が聞こえた。彼女はここ、一年一組の副担任だそうだ。
一際暑い夏が過ぎ、残暑が残る今日この頃。
自分こと岸波白野は、このIS学園に転校してきた。
いや、実質入学のようなものだろう。
何せ自分は何十年もの間、機械の中で眠っていたのだから。
「では、どうぞ~。」
桜のような穏やかな声を聞き、扉を開ける。
そして―――――
「…………。」
絶句した。
眼前に広がるは女子の軍勢。
話には聞いていたが実際に見ると凄まじいものがある。
その中でも特に際立っているのは四人。
長い黒髪とポニーテール、和の雰囲気を纏う少女。
長い金髪の縦ロール、透き通るような碧眼の少女。
中性的な顔立ち、金の髪を後ろに束ねている少女。
長い銀の髪。左目に黒い眼帯をつけた小柄な少女。
そして、そんな美少女たちを率いるかのように最前列に座る、一人の男性。
彼こそが“織斑一夏”。
世界で初めてISを動かした男―――――
「――くん、岸波くん!」
「! あ、はいっ」
いけない。
あまりの緊張で吃ってしまった。
「あ、あの、いきなり大声出しちゃってごめんなさい。で、でもね、できれば黒板の前まで来て自己紹介してくれるかな。ほら、今日から岸波くんもこのクラスの生徒になるんだし、皆岸波くんをどう呼んだらいいかわからないと思うし……」
こちらの緊張が伝わってしまったのか、山田先生は誤りながら自己紹介を勧めてきた。
というか、今ので先生自身が名前言っちゃったんですけど………
まあでも、自己紹介は大切だ。
もう知られてしまったとしても、やはり本人が名乗るべきだろう。
「………はい、分かりました。」
「はい。では、お願いしますね。」
山田先生に促されるまま、黒板の前に立つ。
そして、席についている一年一組の生徒たちを見渡した。
「……………。」
「―――――。」
複数の女子と一人の男子の視線が集まる。
微かに聞こえていたヒソヒソ話は鳴りを潜め、全員がじっっと自分を見つめていた。
IS学園はたった一人の例外を除き、全員が女子である。
つまり、彼女たちは“男”という生き物を詳しく知らない。
彼女たちが彼――――織斑一夏と共に学園生活を過ごし始め、既に数ヶ月経っている。
が、それでも知っているのは“織斑一夏”という男性のみ。
恐怖であれ好奇心であれ、彼女たちが“男”に関心を持っているのは容易に想像がつく。
「っ…………。」
緊張に耐え切れず、思わず喉を鳴らした。
間違いなく、ここが大きな分かれ道だ。
ここで自己紹介を成功させれば女友達を作ることができ、以降の学園生活もそれはそれは豊かなものになるだろう。
だが失敗すれば、その瞬間に高校生活は崩れ去る。
彼女たちは異性を知らない反面、同性同士の団結力は凄まじいと推測できる。
一人から引かれてしまえば、そのままドミノの如く周りから女性が消えていくだろう。
「―――――えっと………」
「「………!」」
声を発した瞬間、分かりやすく“一年一組”は反応した。
視線が突き刺さる。
ドッドッと胸が脈を打つ。
衣服の下で冷たい嫌な汗が流れた。
…………まずい。これは、冗談じゃなくキツイ―――――
『落ち着け、マスター。』
「――――!」
どこからか、声が、聞こえた。
覚えがある。
これはISの―――――『無銘』の―――――
あの白い世界で見た、赤い男の声。
『怯えることはない、ただの自己紹介だ。下手に格好を付けようとせず、自然体で行け。
なに、心配は無用だ。どのような第一印象であれ、お前なら溶け込めるさ。』
そう告げたあと、その声は途絶えた。
…………ああ、そうだ。
何故話しかけてくれたのか、詮索するのはあとだ。
今はただ、その声の主に感謝する。
心臓の鼓動は徐々に静けさを取り戻していく。
そして、いつも通りに。
これからの学園生活に胸を躍らせながら―――――
簡単に、自己紹介を始めた。
「今日から一年一組に転入して来ました。ISのことはあまり詳しくないので、教えてくれると助かります。名前は―――――」
岸波白野です。よろしくお願いします。(サワヤカー
→フランシスコ・ザビエルッ!!(ババッ!
「フランシスコ・ザビエルッ!!」
「―――――。」
「……………。」
――――――――――
どうやらまだ落ち着いていなかったらしい。
まさか意味不明なテンションでフランシスコな奇声を発することになろうとは………
自己紹介、侮るなかれ。
直後、激しい打撃が頭部を揺らした。
「いっ―――――」
痛い、という言葉をかろうじて飲み込み、恐る恐る振り返る。
そこにいたのは一人の女性。
黒のスーツとタイトスカート。すらりと伸びた長身に吊り目。
“織斑千冬”
世界でただ一人の男性操縦者、織斑一夏の姉にしてこのクラスの担任。
そして、かつて世界最強と謳われたIS操縦者、らしい。
「まさか、織斑以外にもコイツを喰らわせる日がくるとはな。
はぁ………なあ織斑。男という生き物は、どうしてこう馬鹿ばかりなんだろうな?」
「いや、でも千冬姉。初対面でそれは流石に―――」
再びバアンッ!と凄まじい打撃音。
織斑先生は、その手にあった出席簿で躊躇いなく弟の頭を殴打した。
自分もさっきああやって殴られたのか……
道理でまだ痛むわけだ。
「“織斑先生”だと何度言ったら分かるのだ、馬鹿者。」
「す………すいません、織斑先生。」
織斑姉弟によるコントが一段落したところで、ひとりの女子生徒が挙手した。
「あのー………織斑先生。そちらの殿方は、一体……?」
「二人目の男性操縦者だ。本来ならばお前たちと同じタイミングで入学する予定だったが、何分事情があったらしく、このように遅れることとなった。
ちなみに実年齢は十七で、お前たちの先輩にあたる。が、ISに関しては素人であるため、一年からやり直してもらうこととなった。
名前は………そうだな、本人に聞け。」
そう言って、織斑先生はこの上なく鋭い横目で自分を見た。
………蛇に睨まれた蛙の気分だ。
“自己紹介しろ。今度は巫山戯るなよ。”
そんな意図がひしひしと伝わってきた。
名前は―――――
→岸波白野です。よろしくお願いします。(サワヤカー
フランシスコ・ザビエルッ!!(ババッ!
「岸波白野です。よろしくお願いします………」
残念ながら今更サワヤカーには言えなかった。
―――――こうして、岸波白野の異色な学園生活は幕を開ける。
Q「貴方の名前は?」
A「フランシスコ・ザビエル!」
岸波白野が「ザビ夫」「ザビ子」と呼ばれる所以。
今のところ、ISのアニメ二期からやろうと思ってます。