Fate/EXTRA × IS   作:YASUT

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サブタイトル関係なく唐突に始まるバトル。
難しいね、やっぱ。



更識楯無

 

 

 『ブルー・ティアーズ』

 それが彼女―――――セシリア・オルコットの機体。

 射撃をメインとした機体で、一番の特徴はビットによる全方位(オールレンジ)攻撃。

 空中では上下左右全てを把握する必要があるため、地上に降りて攻撃方向を絞ることが基本………だと思われる。

 

 

 無数のエネルギー弾が雨の如く降り注ぐ。

 その威力は尋常ではない。

 

「っ………!!」

 

 ブースターを全力で機動させ、地を滑る。

 人間の限界を超えた高速移動。

 それでも全てを躱しきることは叶わず、着実にシールドエネルギーが減少していく。

 格好の的。

 それが今の自分―――――『無銘』がおかれた状況だった。

 

「中々粘りますわね。しかし、それもいつまで持つか―――――」

『動きに無駄が多い。ひたすら動くだけでは回避しきれんぞ、マスター。』

 

 セシリアが何か言っていたが、それはもう一人の声によってかき消された。

 彼こそはアーチャー。

 機体『無銘』に宿る英霊。

 どうやら彼の声は、自分にしか聞こえていないようだ。

 

「うあっ………!?」

 

 レーザーをかろうじて回避する。

 青白い光線は空を切り裂き、そのままアリーナに着弾する。

 

「くっ―――!」

『落ち着け、マスター。

 確かにブルー・ティアーズは驚異だが、攻撃が直線である分比較的単純だ。

 冷静になれば、お前でも十分対処できる。』

 

 無茶苦茶な指摘が脳内に直接響く。

 単純……単純と言ったか、この英霊。

 四機のビットによる上空からの同時攻撃が、単純……?

 

「そこですわっ!」

「っ……!」

 

 青いライフルから巨大なレーザーが放たれる。

 ―――――着弾地点を瞬時に予測。

 ビットによる追撃は無し。

 四機は宙にこそ浮いているものの、全て射撃を中止している。

 ならば、回避は可能……!

 ブースターを急発進させ、走り抜ける。

 

「な………っ、もう、しぶといですわね―――――!」

 

 直後、再びレーザーの雨。

 『無銘』の移動能力は総じて高くない。

 一夏の『白式』のように、速度に任せて振り切ることは出来ない。

 装備も貧弱だ。

 六本の近接ブレードと黒い弓。たったこれだけ。

 だというのにアーチャーは、ブルー・ティアーズの対処は可能だと断言した。

 ならば、何か手段があるはず………

 

 

 ◆

 

 

「予想以上ですわ。初見のブルー・ティアーズ相手にここまで耐えうるとは。クラス代表決定戦の時の一夏さんを思い出します。」

「…………それは、どうも。」

「息が乱れてますわね。ですが………手加減はしませんわよっ!!」

 

 掛け声と共に、ビットが再び四方八方へ飛び散る。

 ………シールドエネルギーは既に限界。

 あと一撃もらえば試合は終了し、その瞬間に敗北が確定するだろう。

 …………………けれど。

 

 まだ、終わらない。

 

 勝率の有無が諦める理由にはならないことを、この体は知っている。

 『ブルー・ティアーズ』と、その奥にいるセシリアを見つめ―――――ここまで温存しておいたブレードを実体化させた。

 重たい金属の感触が手のひらに伝わる。

 

「さあ、フィナーレと参りましょう。」

 

 掛け声と共に、複数のレーザーが放たれた。

 

 スラスターを起動させる。

 だが走らせない。

 このISの機動力では、ブルー・ティアーズのレーザーは振り切れない。

 ならば逆の発想だ。

 無理して加速する必要はない。

 そも、レーザーの軌道は既に分かっているのだ。わざわざ大きく動く必要はない。

 一つ一つの動作を最小限に留め、攻撃を回避する―――

 

「っ、動きが変わりましたわね……」

 

 息を呑むセシリアを、センサーが捉えた。

 ここで―――――緩急をつけて加速。

 全ブースターが唸りをあげ、空を駆ける。

 

「オォォ―――――ッ!」

 

 穿たれたレーザーを躱し、手にしたブレードで一閃。

 直後、真っ二つに裂かれたビットは青白い稲妻を走らせ、爆散した。

 

「なんですって!?」

「―――――。」

 

 驚愕するセシリア。

 この一瞬を利用し、次の動作に移行する。

 量子化されていた黒い弓を出現させ、その手にあったブレードを構えた。

 剣の構えではなく、弓の構え。

 狙いは他でもない、『ブルー・ティアーズ』

 『無銘』の特性なのか、このISの射撃能力はずば抜けて高い。

 

 ―――――煙が晴れる。

 

 スコープ機能はセンサーで代用。

 腕の些細なブレは自動的に補正。

 初めから撃ち方を知っていたかの如く、()を放つ―――!

 

「ッ―――――!?」

 

 近接武器を放つという発想が彼女にはなかったらしく、反応が一瞬遅れたようだ。

 その隙を突き、ブースターの出力を最大に。

 全力で加速し、放たれた剣と共にブルー・ティアーズへと一気に接近する。

 彼女の機体は中・遠距離特化型の機体だ。

 近接戦闘ならば、ブレードが主武装のこちらに軍杯が上がる。

 

「くっ………!」

 

 弾かれる。

 巨大なライフルを盾にすることで、飛来する剣を防いだようだ。

 ……速度を維持したまま、新たに近接ブレードを展開。

 二刀流。

 たとえ彼女が近接用のブレードを持っていようが、一本までなら対処できる。

 いける。

 このまま、『ブルー・ティアーズ』を斬り裂く―――!

 

「―――――かかりましたわね。」

「っ……!」

 

 だが、セシリアはライフル越しに笑みを浮かべた。

 それは紛れもなく勝利の笑み。

 こちらの間合いに入る直前―――――変化は起きた。

 

「なっ……!?」

 

 スカート上のアーマーの突起が外れ、動き出す。

 意識せずとも『心眼』はそれを瞬時に捉え、解析する。

 あれは実弾。先程までのレーザーを放つビットとは別物らしい。

 だが、今更そんなことはどうでもいい。

 ―――――駄目だ、回避が間に合わない。

 

「がっ―――――!!?」

 

 強烈な光によって視界が覆われる。

 爆風によって『無銘』の軽い機体は吹き飛び、微かに残っていたシールドエネルギーが消し飛んだ。

 その、中で―――――

 

 

『ふむ、やはり一手足りなかったか。

 しかしまあ、上出来だろう。よくやった、マスター。』

 

 

 あの赤い男の、静かな賛辞を聞いた。

 

 

 ◆

 

 

「はぁ…………」

「白野、お疲れ様。ほら、タオル。」

「ああ………ありがとう、一夏。」

 

 差し出されたタオルを受け取り、顔を拭う。

 織斑一夏。

 このIS学園における一人目の男子生徒。

 

「はは。まさか、セシリア相手に初見であそこまで粘れるなんて思わなかったよ。」

「でも、負けは負けだ。」

「たかが一回、あんまり気にするなよ。俺だって最初は負けてばっかりだったし、今でも勝率は高くないんだから。

 あ、いや、でも気にしないと駄目か。じゃないと反省できないし、次にも繋げられないしな。そうじゃなくて、ええと…………」

 

 むー、と唸る一夏。

 言いたいことはなんとなく分かる。

 

「……分かってるよ。次は勝つさ。」

 

 ISの操作にも慣れてきた。

 次はもう少し上手く動けるはずだ。

 

「おう、その意気だ!

 じゃあ俺、行ってくるから。」

 

 そう言って一夏は、アリーナへと入っていった。

 今は放課後。

 ちなみに、アリーナの使用許可は既に織斑先生から頂いている。

 

 元々今日は男子同士水入らずで鍛錬に励む予定だった。

 しかし一体どこでそれを聞いたのか、自分と一夏がアリーナに到着したとき、既に彼女たちはいた。

 篠ノ之 箒。

 凰 鈴音。

 シャルロット・デュノア。

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 そして、先ほどアリーナで戦ったセシリア・オルコット。

 そのまま流れで押し切られ、七人でローテーションしながら模擬戦闘を行うことになったわけである。

 そのおかげで彼女たちとも親しくなれたのだから、それはそれでいいのだが。

 

『フッ………どうやら、お前もいい加減慣れてきたようだな。』

「………何が?」

『とぼけても無駄だ。ここはIS操縦者を育てる軍事施設のような場所だが、同時に女子高でもあるからな。

 気づいていないか? そら、顔がにやけているぞ。』

「っ………!」

 

 ………いや、違うから。

 女友達が出来て嬉しいなって意味だから。

 下心とか、そういうのは特にないから!

 

『はっはっは、冗談だよ。だが、そう恥ずがしがることではあるまい。元来男とはそういう生き物。かの光の御子でさえ―――――おっと、誰か来たようだな。では、邪魔者は引っ込むとしよう。』

 

 笑いを堪えながら、アーチャーは再び意識の底へと沈んでいった。

 願わくばずっと引っ込んでいて欲しい。

 そして理想を抱いて溺死すればいいと思う。

 

「はぁ…………」

「また随分と大きなため息だね。幸せが逃げちゃうわよ?」

「幸せ、ねぇ…………って、ぅわ!?」

 

 突然の背後から声。

 誰だ―――

 そう思って振り返る。

 いたのは一人の女生徒。綺麗な水色の髪と、人懐っこい笑顔。

 胸元のリボンの色からして、二年生だろうか……?

 

「んー、ナイスリアクション。気配を消して近づいた甲斐があったわ♪」

 

 ……そういえばアーチャーは引っ込む直前、“誰か来た”とか言ってたっけ。

 というか、気配を消す?

 どうしてわざわざそんなことを……

 

「えっと……貴方は?」

「更識楯無。この学園の生徒会長よ。覚えておいてくれるとおねーさん、嬉しいな。」

 

 更識楯無。

 この学園の生徒会長……か。

 ということは、IS学園を代表する優等生なのだろうか。

 何はともあれ、こちらも自己紹介しておこう。

 

「えーと、岸波白野です。よろしくお願」

「あれ、フランシスコ・ザビエルじゃなかったっけ?」

「―――――。」

 

 ―――――――――――――――。

 

「あらら、固まっちゃった。おーい、ザビエルくーん?」

 

 ―――――――――――――――。

 

「じゃあえっと、フランシスコく―――」

「何 故 そ れ を 知 っ て い る」

 

 一体どういうことだ。

 百歩譲って一年生全員に知られていることは分かる。

 一年生のクラスは階が同じだから、それだけあの奇声が大きかった、ということで納得できる。

 だが。

 だが何故、どうして二年生が知っているんだ!?

 

「言ってなかったかな? 私、これでも生徒会長なんだよ。」

「はい。」

「もう一回言うね。生徒会の、長。これで分かるかな?」

 

 生徒会の長。

 …………そうか、長か。

 つまり―――――

 

「生徒会役員共、ですか。」

「そゆこと♪」

 

 “正解”と書かれた扇子を広げ、彼女は……楯無さんは愉快げに笑った。

 そうか。生徒会役員の中には一年生の女子もいる。

 彼女を通じてこの人に伝わってしまったのか……

 

「いやぁ、しかし面白いね、キミは。いくらテンパってたとしても、まさか自己紹介で偉人の名前を叫ぶなんて………」

 

 扇子で口元を隠しているが、くつくつと笑っていることは丸分かりだ。

 しかし、これはまずい……

 何より恥ずかしい。

 

「そんな照れずに。そういう怖いもの知らず、おねーさんスキよ?」

「…………そうですか。」

「まあ、それはおいといて、と。それよりも私、君に訊きたいことがあるんだよねー。こうして会いに来たのも、それが目的なわけで。」

「はあ…………?」

 

 訊きたいこと、か。

 確かに、男性でISを操縦できるのは今のところ世界で二人だけ。

 気になることはあって当然。ない方がおかしいくらいだろう。

 

「キミ……ええと、白野くん? これから時間あるかな。一時間くらい。」

「……まあ、ありますけど。」

 

 時間ならある。

 大抵の生徒は日が暮れると部屋で予習なり復習なりをして過ごしているが、自分の場合はそこまで必要ではない。

 何故ならこの身は既に十七。

 一般教養は年齢相応にあるため、授業についていけない、なんて悲劇は今のところ起きていない。

 (但しIS関連は除く)

 帰りが遅くなることはメールで知らせればいい。

 

「そっか、それは良かったわ。じゃあ、質問!」

 

 今度は“問1”と書かれた扇子を広げた。

 ………すごいな、その扇子。

 どれだけバリエーションがあるんだろう。

 いや、扇子を使える状況にまで話の流れを運んでいるのだろうか……?

 

「“君は男性なのに、どうしてISを動かせたのでしょうか”」

「…………えぇと。」

 

 ……これは、また。

 なんという際どい質問。

 しかし、素直に答えるわけにもいくまい。

 

「それは自分でも分かりませんよ。一夏……もう一人男性操縦者なら、知ってるんじゃないですか?」

 

 さりげなく一夏の話題を出す。

 申し訳ないが、これで矛先を変えさせてもらおう。

 

「そうかな?

 ……私には、白野くんは彼と全く別の方法で動かしたように思えるけど。」

「え―――――」

 

 ―――――どこまでも鋭い、真理を射る指摘。

 ……一瞬。

 一瞬だけ、空気が変わった……気がした。

 

「なーんてね♪―――――ふっ!」

「っ……!?」

 

 嬉々とした声と共に、楯無さんの姿が消えた。

 そして―――

 

「とうっ!」

「んな……っ!?」

 

 そして、いつの間にか背後から抱きつかれていたっ。

 思考が停止する。

 流れが全く読めない。

 いくらなんでもフレンドリー過ぎないか、この人……!

 

「ん、ちょっと大きいね。やっぱ男の子だなぁ。」

「楯無さん、ちょっと……」

「なあに、白野くん?」

 

 ずいっと身を寄せる楯無さん。

 近い近い、すごく近い。

 声が耳元に……

 背中にも、得体の知れない大ボリュウムな何かが……

 

「あの……それよりも、次の質問……」

「だーめ。まだ問一は終わってないもの。」

「いや、ですから本当に」

 

「本当に?」

 

「え―――――?」

 

 まただ。

 この、空気が凍るような、時間が止まったような感覚。

 何なんだ。この人は一体―――――

 

「世の中には不思議なことがいっぱいあるんだよ。

 たとえば、気合でISを動かしたとか。

 愛の力で無理矢理動かした、とか―――――」

 

 そして、彼女は。

 更識楯無は。

 聞き捨てならない一言を、耳元で囁いた。

 

 

「―――――魔術師(ウィザード)だから動かせた、とか。」

 

 

「っ―――――!!」

 

 既に体は動いていた。

 跳ねるように彼女から飛び退く。

 

「おっと。もう、びっくりしちゃったじゃない。」

 

 言動とは裏腹に、驚いている様子は微塵も感じられない。

 全ては彼女の手のひらの上。

 余裕のあるその微笑みは、そう伝えているかのように思えた。

 

「うん、やっぱりいい反応するね。

 でもその怖い顔はやめてほしいなぁ。おねーさん、傷つくなぁ。」

「…………。」

 

 イタズラっぽい笑みを浮かべながら、彼女は言う。

 人をおちょくるような態度。

 だが……今のところ、これといった敵意は感じられない。

 

「……一つ、訊いてもいいですか」

「うんうん、何かな?」

「その……いつから、俺がウィザ―――」

「はい静かに。」

「……!!?」

 

 ……気づいた瞬間には、口が塞がれていた。

 手で無理矢理覆った、のではない。

 優雅に、人差し指一つで、口元を。

 

「あはは、白野くんは口が軽いなあ。

 ……他の人に聞かれるとまずいから、場所を変えましょう。

 更衣室の外で待ってるから、なるべく早く着替えてね。」

 

 ぼそぼそと、誰にも聞かれないよう耳元で囁き―――――

 彼女は、更衣室の外へと出て行った。

 

 

 




更識家っていうのは裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部らしい。
楯無さんは十七代目当主。
そもそも楯無って名前は代々襲名する名前で、本名は別にあるそうな。

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