魔王だからやられるために彼を主人公に育てたら恋愛ゲームの主人公みたいになってしまいました 作:茶蕎麦
最初はアレですが、なるべくギャグの比率は多めで行きたいところですー。
生まれ変わって、力を得ました。だから、私はその力で目に見える範囲の幸せを守りたいと思ったのです。
でも、それは間違っていました。味方を暴力から守る力もまた敵にとっては暴力で、ただただ私は他人に憎まれてしまうばかり。
やがて、疲れ切ってしまったその時。私は私の
ああ、こんな無惨なものを幼子に見せてはいけない。それくらいの分別も当時の荒んだ私にだって残っていました。
だから、血に汚れた体を忘れ、彼の瞳をこの手で塞ごうとしたその時。
「止めろ!」
「っ!」
その手を払われました。そして、今や誰からも
そこで、私も遅まきながらようやく理解しました。この、前世を思い出させる黒髪の男の子は、この私の影によって命を貫かれた彼彼女らの。
「子供、でしたか……」
「このっ!」
「おっと」
そして、小さな殴打を思わず私は手のひらで受け止めてしまいます。弱々しい、それは守られるべきものでしょう。ですが、これまで私は見捨てていた。
幸せは周囲の幸を吸い込んで膨らむもの。だから、きっとこの世界で一番に幸せな人々ばかりの私の国以外は全てが不幸なのかもしれません。
故に、私達の国に攻め込まんとしていた貧じた人たちだって居たのです。彼らは人々の間に入り込み、毒と炎で猜疑を呼んで同士討ちを図ろうとしていたようでした。
それを知った私は敵である彼らの元へと乗り込んで先んじて始末したのです。この王たる程の魔力を自らふるいまでして。
善悪如何はバカな私には分かりません。ですが、私の愛しむべき人々の手を敵の血で汚させるのは忍びなかった。ただそれだけの感傷で私は独り魔王を発揮したのですね。
結果、話し合いも出来ずに敵対者を皆殺し。そんなの最低です。だから、私は本当は少年の怒りを受けて滅ぼされても仕方ない。罪とは罰によって少しでも雪がれるべきとは、思うのですよ。
でも、まだまだ私は私の愛する人々を幸せにしてあげたいのです。欲深く、罪深い、だからこそ私は魔王なのでしょう。
「申し訳ありませんが、私は今あなたに滅ぼされるつもりはありません」
「この、このっ!」
「聞き入れることは、不可能ですか……」
当然ながら、正当な怒りに燃える子供に、敵の言葉を容れる余裕などありません。彼は私の手のひらの拘束から逃れようと、私の足を蹴ったり殴ったり。
まあ、この世の魔を統べることの出来る程の私の器をこんな細腕でどうこうできるはずはないのですが。しかし何というか、それにしてもあまりに彼は細いですね。
よく見れば亡きご両親も、明らかに栄養が足りていない見目をしていらっしゃる。これこそが、私が貧富の奪い合いを我が国から極端に失くそうとしたそのしわ寄せ、でしょうか。
管理社会の行く末は地獄というのは知っていましたが、その中途にも周りに地獄が広がるものとは。全く、嫌になってしまいますね。
「でも、私だって止められないのですよ。今更、愛するのは止められない」
ですが、私は止めません。止められるものですか。感謝と親愛。私の周囲の力なき者たちのそれに応えずに、魔王なんてやれません。
彼彼女らを幸せにしてあげたいのは、私の本心。そのために国ほどある守りたいものがどうしようもなくほかを傷つけてしまうのだって、黙認します。
そして、私の範囲外の者たちが私達を傷つけようとするのであれば、その芽をすら摘み取る。そんなのが、私の決意ではあります。
「ですが――――」
しかし、この時私は倦んでいました。皆幸せになって欲しい。そんな願いは何時しか現実によってねじ曲がって、大切なものばかりが幸せになっていればいいとなった。
そんな歪んだ思いを抱いていて、疲れないはずがありません。人の悲鳴や怒号は、もう聞きたくない。誰かのために血を流させるのだって、まっぴらなのに。
でも、私は私達のために、力を使います。きっとこれからもそうなのでしょうね。私はもう、そのための存在になった。
けれども、もしそんな私が止まれるならば、それは。
「なっ!」
おもむろに、私は彼を抱きます。暴れる少年を抱く、少女の見た目の三百才。全く、一体全体歪んでいると私は笑みました。
「ふふ……あなたは私を殺したいのですね。なら、私はあなたを愛しましょう」
「あ、い?」
そして、私の笑みを見て、どこかぼやけた表情になった彼。
なんでしょうかね。いや、大人しくなった今がチャンスです。言い、聞かせておきましょう。
「そう、私は私の愛するもの以外に殺される気は更々ありませんが……もし、愛するものの手によって滅びるのならば、それは本望です」
そう言って、私は私の愛すべき者となった孤児、ノエルを抱きしめたのでした。
何時か、私は彼に殺されてあげようと、心に誓って。
そして、私は彼を大事に大事に育てました。強くなるように手取り足取り何でも教えましたし、欲しいものはなるべく与えましたね。
それでいて、増長するようであれば叩き直しました。恥じ入るべき仇とはいえ、これでも親の代わりとなっているものであるからには、教育にも力を入れねばなりませんから。
そんな風にして、十年と少し。立派に育った彼は私の国、エイガナの国立学校に通っています。
「ふぅ……今はノエルは……ああ、時間割表からみると、アルトナ語の勉強のお時間でしたか。確かこの世界だとエイガナ語の次に普及している言語ですからね、頑張って欲しいところです」
私はよいしょとつま先立ちして、戸棚に置いた時間割を見て取りました。
それにしても、ノエルが大きくなったからと家具を彼に合わせて取り揃えたところ、ちょっと不便になってしまいましたね。家具屋さんの、このサイズで本当に良いのですかという言葉をもっと気にしておけば良かったです。
まあ、このくらいは我慢出来る範囲でしょうか。なんだか威厳がどうのとかで家具に取り付けられたトゲトゲキラキラは剥がしてあるので、もう目に痛いところはありませんしね。
そんなことより、今も学校で勉学に励んでいるであろうノエルのことを私は思います。
あれからなるべく周辺国との貧富の差を減らそうと頑張ったところ、なんだか諸国に開かれるようになったその学校には、多くの留学生もやって来るのですね。
その分、外国語を学ぶ必要も出てきました。だから、学生たちはよく向こうから招待した先生方から教わってたりしているのですね。
私なんかは友好国のアルトナの言葉すらちんぷんかんぷんなのですが、まあ私には通訳さんがいますから、大丈夫でしょう。それに、ノエルも頑張ってくれているみたいですし。
「何時か、ノエルが通訳さんになる時が来たりするのですかねえ……」
とんでもない美声を持つノエルの声を聞きながら、覚え込んだ台本通りに他国の王様達と交流する光景を私は想像します。ふむ、中々これも悪くない。
まあ、その前にノエルに殺される可能性もありますが、まあまだまだ彼もひよっこですからねえ。
結構サボり魔なノエルは、思ったよりも頑張らないのですよね。やれば出来る子と私は思っているのですが。早く、私を刺し貫けるレベルになって欲しいですね。
ただ、そんなノエルも学校で沢山の友達を作れているみたいで、私の鼻が高いといったところです。
ノエル、見た目はとんでもなく格好良く育っていますしねえ。人気が出るのも当然かもしれません。
「ただ、女友達がやけに多いのが気になります……」
けれども、私には少しの憂慮がありました。それは、ノエルの親友でついでに私の趣味で創った四天王の一人でもあるバジル君以外に、彼が中々男の子を連れてこないこと。
男友達、少ないのでしょうか。ひょっとしたら親代わりが私だって知られていることが影響されているのかもしれません。
けれども、それにしたって、ノエルから出る女性の名前がやたらと多い気がするのですよね。
「同級生のエイミーさんに、先輩のザラさん、そして特待生の後輩アイリスさん。更にはアルトナの第三王女のソフィさんに、エルフのディアトさん……はたまたメイドのシンシアの名前まで出る始末!」
いや、どういうことでしょう、これ。口を開けば女の話ばかりするノエルに、親代わりの私は苦笑いを禁じえません。
そして、聞くにどう考えたところで彼女らはノエルのことが好きなようなのですよね。いや、最低六人の女子から好かれるなんて、なんて男の子なのでしょう。
更にはそれに気づかない鈍感さ……私はRPGの主人公を理想として育てたのですが彼はまるで違う漫画かゲームの主人公のようです。それも、前世で男子が読んでいた恋愛系のもののような。
「……ま、まあ大丈夫でしょう。もしノエルが恋愛系の主人公だとしてもそればかりにかまけないで、何時か
そうでなければ、困るのですが。しかし私はどうしても嫌な予感がしてしまいます。
ただでさえ、最近ノエルの目から険がすっかり取れて来ているような気がして怖いと思ってますのに。
和解ルートなんて、私ごめんですよ?
「ノエルが私をずっと憎んでくれていますように……」
藁にもすがりたくなった私はそう、ありもしないカミサマに祈るのでした。
オレの母親は、魔王である。そして、バカだ。
しかし、バカでも王であるからには、統治はしている。もっともバカだから、ほぼ丸投げだが。そんな彼女の興した国がある程度マトモなのは、最早奇跡に近い。
権力を代々親類で固めている大臣達がもし悪いやつらだったらもうそれだけで魔王国終わってたろうし、バクチのようによく分からないところに全力を注ぐ魔王肝いりの事業が結果を出さなければ、これほどの大国にはならなかっただろう。
だが、当然のことながらそんなことは国の真ん中辺りに居る者以外に分かるはずもない。むしろ、魔王な母を三百年を生きる賢王と称える者がいる始末。
いや、無駄に長寿な癖に他の国のトップと話すのに通訳が必要な辺りで察して欲しいと思うのだが。母は何時も対話相手に慣れた言語で自然にお願いしますと口にしているが、それはきっと懐深い私格好いいとでも思ってのことなのだろう。
ぶっちゃけたところ、母はただ力を持っているだけの小娘だ。それが、人並み以上に頑張っているだけ。
国民全員に自動回復魔法をかけ続けているなんて規格外だが、国のためには後ろ暗いことだって平気でやる奴だし、ただ称えられるばかりなのはおかしいと思わざるを得ない。
つうか、育ての親だけど普通にオレの仇だし。何時か目にものをみせてやらなければ気がすまなくはある。まあ、けれども。
「だが、可愛いんだよな……」
あの無駄に可憐な姿を思ってしまうと、どうにもオレの気持ちは緩んでしまう。というか、明らかにオレの口元は笑みを形作っていた。
見目は、完全にもの凄く長い銀髪を蓄えているばかりの子供。けれども、内実は三百歳以上。そんなアンバランスでありながら、笑みは明らかに無垢な女性のものだった。
だから、オレはそれにやられてしまい、以降ずっと惚れ込んでしまっている。本当に、無様である。あんなちんちくりんの親の仇になんて。
そんな風に内心複雑になっていると、隣席のこれまたちんちくりん。無駄に女顔の坊主、バジルが小さな声で注意をし始めた。
「ノエル……お前また、魔王様のことか……いい加減、お前を惚れてる奴らにバレるぞ?」
「大丈夫だって、その時は適当にお前のことを想ってた、とか言うさ」
「はぁ……こんな奴がモテるなんて、世も末だな……」
嘆息する、我が親友。実はこいつ母より強いんじゃね、みたいなところすらあるバジルは中々に辛辣だった。
もっとも、バジルだって魔王直下の四天王なんて大概な位置に立たされていたりするのだが、それは忘れたのだろうか。
氷結魔法に関しては右を出るもののない程の腕前とはいえ、そんな寒い立場に置かれるのは嫌だと相当に反発していたのをオレはよく覚えている。
そしてお前が言うなと思い、だからオレはこう言ってやるのだった。オレが教材を一読してとっくに覚えてしまった内容を、今更語る教師を無視して。
「バジル。そんなお前だって相当にモテるだろ。……主に、男に」
「だから世も末だと言ってるんだ!」
バジルは怒る。しかし、迫力に足りていないのが少々かわいそうなところ。いや、むしろそのレアな怒り顔にすら顔を紅くする男子がちらほらいる時点で、めちゃくちゃかわいそうか。
そう、バジルちゃんと呼ばれて影に日向に人気のあるバジル。カツラを被らせたら母とは違った可憐さを発揮したりするのだから、確かに世の中おかしい。
ちなみに、授業中に寝ていたバジルにカツラを被せたのは、オレである。いや、似合うだろうなとは思っていたんだが、ファンクラブまで出来るとは思わなかったんだ。
あのエイガナ最強とか言われてるザラ先輩や、やたらと輝かしいソフィにすら出来ていないのに。
「こら、うるさいぞ、バジル!」
「……すみません」
オレがなんだかなあ、と思っていると檄しているバジルに先生から注意が飛んだ。
首を竦める彼を、オレは偉そうにオレの魔法の先生をしていたコイツの過去とのギャップを見つけて噴出してしまった。
「ぷっ」
「笑うな!」
「こら、バジル。何度も言わせるなよー」
「くっ、はい……」
そして、二度も怒られるバジル。意外と成績を気にしている彼は、涙目でオレを睨みつけてくる。
ああ、そんな顔なんて止めればいいのに。まるで勝ち気少女の悔し顔の見本のような面をしたバジルは、一部の者の鼻息を荒くさせる結果となってしまう。
どうしてオレの周りにはこんなに面がいい残念が多いのか。全く、困ったものである。
そして、今度はオレの反対側の光輝く残念がうるさい周囲を気にしだした。少し離れた別席からオレに眩い顔を寄せる。
光魔法に長じている彼女は反して知らず周囲の魔を光らせてしまう。それを制御するために留学してきたのだと言うソフィは、聞いてきた。
「ん? 何だか周りがスースーうるさくありませんこと?」
「ああ。今日エイガナでは深呼吸を多くする日なんだ、ソフィ。お前もならってみるか?」
「そうでしたの! 時と場を読むのは王族の嗜み。わたくしも頑張ってみますわ! すぅううう……」
「あ、それ嘘な」
「……ぶはぁっ! ひ、酷いですの!」
そして、第三王女は大いに深呼吸を失敗する。そして、オレに盛大につばをぶつけることとなった。
冷静に、顔をハンカチで拭くオレ。そんなオレにぷんぷんとなる彼女に、再び声がかかった。
「ソフィ。今度はお前か。ソフィ、キミは何というか……ただでさえ普段から輝いているのだから、なるべく控えてくれるとありがたいのだが」
「っ、分かりましたわ……」
本来ならば他国の王族なんておそれるものだろうが、世界の中心とかほざく者すら居る偉大らしい魔王国の先生はソフィの立場をそれはそれとして、苦言を呈す。
ジロリ、と睨みつける生けるフラッシュなお姫様。だが、オレは知らん顔で前を向く。
それにどうやら更に怒ったようで、従える魔の制御が出来なくなったソフィはばちぱちぱちと、より輝き出した。オレは、これどうにかならないかな、と思っていると。
「はぁ……ノエル。黙ってくれたが流石にこれでは画的にうるさすぎる。キミがソフィの担当だろう、何とかしてくれ」
「……分かりました」
そうしていると、素知らぬ顔をしていたオレに、先生がようやくサイドライトの文句を始めた。いや、この先生母に大きな恩があるからといって勝手に目こぼししてくるのだが、今回ばかりは流石に無理だったのだろう。
仕方がない、とオレは母が時々空に放つハナビとやらに負けず劣らずに感情のまま光っているソフィへと向き直る。
おもむろにオレは彼女の両肩に手を置き、そして。
「ソフィ」
「っ、何ですの?」
「オレ、こんなに眩しい女、嫌いだわ」
「ええっ……」
消沈。それと共に周囲の閃光も落ち着いていく。彼女の光を抑える方法は色々とあるが、ぶっちゃけ落ち着かせた方が早いのだ。いや、これは落ち込ませた、という風か。
自慢のくるくる巻き髪もしなしなとなる始末。だがまあ、後で飯でも食わせておけば大丈夫だろう。屋台料理やたらと好きなんだよな、このお姫様。スパイシーさが異国情緒溢れていて、云々。
すっかり暗くなったソフィを見ながらそう内心考えていると、反対からバジルの声が響いた。
「流石だな……最初から最後まで人を弄ぶなんて、俺もドン引きだよ」
「そんなに褒めるな」
「お前は悪魔みたいな奴だなぁ……」
苦笑いしながら、バジルは言う。
悪魔。魔法を良く使うというのが美徳とされるこの国では中々に辛辣な言葉。バジルの口から出てきたそんな罵言にオレはむしろ笑って。
「オレはそれでいいのさ」
そうほざくのだった。
どうせオレは何時か最愛の魔を滅ぼす悪となるのだから、それが相応しいと認めて。
よく考えたら最近は恋愛ゲームっぽいRPGも格闘ゲームも沢山あるような気がしますねー。