魔王だからやられるために彼を主人公に育てたら恋愛ゲームの主人公みたいになってしまいました   作:茶蕎麦

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 続きを書いてみたところ色々と設定がにょきにょきと生えてきましたが、それを気にせずにギャグ頑張ってみました!
 こんな感じで進めていきたいですねー。


第二話 魔王様、徘徊をする

 

 

 私はそこそこ暇人です。それは、仕事を他に任せているからに他なりません。

 よく分からないものは分かる人に任せるというのがぽりしーの私なのですが、思っていたより分からないことが多すぎたのが困りもの。ですので、頼りきりです。

 政治関係にはアルフォードの一族に代々務めて貰っていますし、言語は通訳さんに都度教わっていますし、唯一の得意だった前世の知識も、思いついたものは全部試して全体に還元してしまったのでもう役に立つものではありません。

 だから私はよくノエルにバカだの子供だの言われてしまうのです。悲しいですね。

 私がそれに上手く文句を返せないのは、なんと言えばいいのか三百年も生きているとその、忘れることも多くなったというのもありますね。

 昔と今の違いに惑って道によく迷いますし、一緒に事業に励んだ彼だと思って気軽に声をかけたらそのひ孫さんだった、みたいなことも最近ありました。

 ひ孫さんには驚かれましたし、恐縮までされてしまいましたね。七十年前のことを語る見た目少女とか、私が魔王であることを抜きにしてもやはり違和感の塊だったのでしょう。

 そして、終わりには魔王様はボケないで下さいねっていう言葉まで頂戴してしまいましたよ。まあ、平気でこの世を更地に出来ちゃう私がボケでもしたら大変なことになりかねませんからね。そう思ってしまうのも仕方のないことでしょう。

 

「うむむ……これは、何らかのボケ対策が必要でしょうかね……」

 

 私は王城から抜け出して愛すべきエイガナの首都ハトリのエキゾチックというか最早ちゃんぽんな街並みを物思いに耽りながらとことこ歩みます。

 その昔私が推奨したことのある木造家屋の茅葺屋根に、後からこの地に移り住んで来た人々が設けた赤い洋瓦の不揃いな連なりを口を開けながら見上げて私は人の合間を進みました。

 いや、今気づいたのですがこれ合間と言うには少し広いですね。あ、これ皆私が歩いているから遠慮しているのでしょうか。私が魔王とか普通にバレバレですからね。今なんて普通じゃない証の銀髪を隠してもいませんし、こうなるのも当然でしたか。

 

「失礼しますねー」

 

 でも、私は愛すべき彼彼女らの気遣いを喜んで受け取ります。微笑んでぺこりとする私に、皆もまたにこにこ。

 本当に、子供の高い声も、おばあちゃんの皺々も愛らしいものですね。皆この国に馴染んでくれて本当に、ありがたいものです。

 

「ふふ」

 

 私がついいい気になって手を振ってみたところ、ほとんどの人が振り返してくれました。

 あれですかね。きっとこれも日頃の良政の成果によるもので……って私それにほぼ関わっていないじゃないですか!

 これは恥ずかしいですね。きっと魔王なんてお偉いさんをやっている以上、まつりごとに関わっているのが当たり前だろうと信じて、皆さん期待を籠めて手を振ってくださっているのでしょうに。

 その実私は殆ど何もやってない。私なんて、自動回復魔法をこそこそ皆にかけていたり、隠れて魔物とかをやっつけている程度しかしていません。

 そんな名ばかり王様な私なんて恥じ入るべきなのに、堂々と偉そうになんてして。思わず私は顔を両手で覆っていやいやをしながら逃げ出しました。

 

「うう、恥ずかしいですー!」

 

 次第に私は走り出します。しかし、かけっこはそんなに得意ではないために、速度は出ていないかもしれませんね。こんなだから、身長では互角なバジル君にすら魔王様って走りにまでスローライフを実践してるんだな、とか言われちゃうのでしょうか。

 こんなとろくて残念な私を、しかし周りの人々は気遣って避けてくれるのか、目視出来ないままでもすいすい進めてしまいます。私がそのまま赤い顔を隠して街中を走っていると。

 ぽよん、となにかにぶつかってしまいました。私はついつい、びっくりしてしまいます。

 

「きゃっ」

「お? なんだー?」

 

 柔らかい大きなものに弾かれた私は、驚いてそれを見上げました。すると、そこには大きな膨らみが。あれ、これはお胸でしょうか。私の頭よりおっきいですよ、とんでもないです。

 南方出身者らしき浅黒い肌をした両手もその脇に見えましたが、私にはそんなことよりもこの大いに布地を持ち上げるでっかいのに目が点になりました。

 そうして私が思わず自分のものと比べて泣きを入れそうになった時。そのお山の持ち主は気軽に私に声をかけて来ました。

 

「魔王様だ! よーっす!」

「お、エイミーさんじゃありませんか。よーっす、です!」

 

 そして、私は再度びっくりしました。挨拶をちゃんと返せたのは奇跡的でしたね。エイミーさんの真似をして、私はビシッと右手を上げたのです。

 前々から成長が凄いなあ、と思っていたノエルの幼馴染でもある彼女は何時の間にか胸元に大迫力のクッションを備えていました。重くないのでしょうかね、それ。

 まあしかし、そのお胸以外には特に変わったところはなさそうですね。気安くして下さるのも、その笑顔の朗らかさも何も変わっていません。今も、愛らしい猫のような丸い緑色の瞳が私を覗いています。

 とりあえずは、と私はエイミーさんに謝りました。

 

「それで、申し訳ありませんね、エイミーさん。私の前方不注意でぶつかってしまって……」

「おー、そのことかー! 私は全然気にしてないぞ! 魔王様こそ、大丈夫かー?」

「私は大丈夫です……が……」

 

 そして、私は純朴さを絵に描いたかのようなエイミーさんに素直に返そうと思ったところ、言葉に詰まってしまいます。

 確かに、あんなに柔らかでふわふわなものにぶつかっただけなのですから、私の身体は大丈夫でしょう。

 ですが、頭の中は果たしてどうなのでしょうか。先に危惧したように、ボケボケになっていたりするかもしれません。一時の感情に任せて走って人にぶつかってしまうなんてミス、昔ならきっとやらかさなかったでしょうから。

 そんな風にして口ごもる私を、エイミーさんは胸をぶるんとさせながら心配そうに私を見てきます。彼女は愛らしい二本の青緑色をしたおさげを傾けながら、私に言いました。

 

「どうしたー? なにかあったのかー?」

「えっと、あの、その……」

 

 敬語嫌いなエイミーさんは、しかし心の底から相手を思いやってお話をして下さいます。それはとても嬉しいのですが、あの、その。

 とっても近いですね。これでは二人ちゅーをしようとしているようにも傍からは見えませんか? 仮にも王様がそんな趣味だと思われたら困るのですが。

 恥ずかしさと言いにくさもあって中々続けられない私に、エイミーさんは私の手を取って言ってくれました。

 

「言いにくかったら場所を変えてやるからな!」

「それは結構ですが、あの……そうですね。言いましょう」

「おおー! 何なんだー?」

 

 大げさに、飛び上がるエイミーさん。ご立派な胸と違って何とも幼気な様子の彼女に、私は言います。

 

「私、ちょっとボケてきてしまったような気がするのです……」

「?」

 

 そして、そんな私の言葉を上手く飲み込めなかったのか、首を左右にひねるエイミーさん。そして何故かてをぐるぐると回してうーんと言ってから、彼女はぽん、と手を叩きました。

 エイミーさんは言います。とても大きな声で。

 

「何だー。魔王様何うろうろしてるのかと思ったら、ボケて徘徊してたんだなー!」

 

 納得行ったのか、うんうんと頷くエイミーさん。そして、彼女の言を聞いた周囲がざわつき始めます。

 そういえば、二人止まって喋っている中、どうにも視線が集中していたような気はしていました。ちっちゃな魔王な私に、おっきな一部を持つエイミーさんは目立つのかもしれません。

 いや、黒山の人だかりといいますか、中々の集客力ですね。街中の人たち殆どが来ていらっしゃるのではないでしょうか、私達がお店でも始めたら大繁盛しそうですねと、現実逃避気味に思います。

 そんな集まった人達が、口々に魔王様がボケた、バカ何時もボケてるだろ、魔王様が老衰しそうだって、などなど目の前で伝言ゲームを始め出したのはある種の恐怖でした。

 慌てて私は言い張ります。

 

「わわ、違いますよー! まだ私はボケていませーん!」

 

 あわあわ主張する私を見る彼らの目はしかし、どこか白いものでした。

 

 

 そんな騒動が治まるのには時間がかかり、私はそのせいでお昼ごはんを食べそこねたのですね。ああ、おなかペコペコです。

 ……いえ、ですから本当はお昼を食べているのにボケでそれを忘れてしまっているわけではありませんよ? ……多分、きっと、恐らくはですが。

 

 どうなのでしょう!

 

 

 

 

 

「母さんが街中で徘徊をしていた?」

「そうなんだぞ。魔王様は違うって言ってたけど、私は信じていないんだからなっ」

「なんでムキになってるんだ、エイミー……」

 

 オレが偶には会ってみようかと無駄巨乳な幼馴染の家へと向かうと、ツリーハウスな謎の家屋から顔を出したエイミーは呼ぶなり直ぐに顔を出してきた。

 そして、そのままオレの元へとやって来た彼女は、オレを馬鹿力で家の中に引っ張り込んでニコニコと魔王様なオレの母親の話を始めたのである。

 オレは、何故かオレの母親代わりのことをボケていると確信しているエイミーに何だかな、と思いながら、それ以上に彼女が身体をぐいぐいと押し付けてきている現状に何だこれと思う。

 いや、こいつのここ一年で二周りも膨らんだ凸部分が押し付けられて、反応に困るんだが。いや以前から距離感おかしかったがこれはどうにも。

 しかしこれでも何の気分の高揚も起きない自分はマザコン過ぎるなと思いながら、オレはエイミーに注意する。

 

「それと、お前。ちょっと近寄り過ぎだろ。当たってるんだが」

「当ててるんだぞ!」

「わざとかよ……どうしたってんだ」

 

 腕に覚えがあるからとはいえ、一応は最強の一角とか言われてしまっているザラ先輩なんかに食って掛かってボコボコにされたエイミー。

 そんな彼女が、修行の旅に行ってくるぞ、とか言って数ヶ月前に魔王国から出ていったのだ。そして、先日帰ってきたとの報を受けたので家まで来てみたら、この異様な歓待振り。

 どういうことだろうかと、オレは思う。ただサカッているだけならコイツの頭にげんこつをくれてやらなければならないが。

 オレの質問に、エイミーは弱々しくも答える。

 

「私、武者修行にママの実家に行ったんだー……」

「ハリルム地方に行ったのか……」

「だぞ……」

 

 エイミーはどこか気落ちしている様子のまま、頷く。森深きハリルム地方のとある部族の生まれの母を持つ彼女は、彼らの特徴である少し褐色の肌を持つ。

 森に()()した彼ら一族は、人ならざる身体能力を持っているとされているが、かもしたら混血のエイミーよりも強靭であったのかもしれない。

 故に負けて、がっかりした結果人肌恋しくなったのでは、とオレが推測していると、エイミーは想像から離れたことを口にしだした。

 

「もう、どいつもこいつも、雑魚ばっかりで、つまんなかったんだぞっ!」

「はっ?」

「だから、皆私のパンチ一発で伸びてしまうくらいに雑魚雑魚だったんだぞ! ただの時間の無駄、だったんだからなー……」

「そうか……いや、それとオレにくっつくことがどう繋がるのか分からないのだが」

「ホントにわかんないのかー?」

 

 やれやれ、とオレをバカにするエイミー。思わず顎に手を当てて考えるオレに、むふんと彼女は言う。

 

「ただ、子供は可愛かったんだー」

「は?」

「部族の集落に行ったら、小さな子供たちが歓待してくれたんだぞ! 皆笑顔がとっても素敵だったんだなー」

「……おい、ひょっとして」

 

 子供の可愛さを熱弁するエイミーに、何となくオレは察する。そうだ、数ヶ月離れて忘れていたが、こいつは思い込んだら止まらないところがあり、またちっちゃなもの好きでもあった。

 そんなエイミーはまたどうしてだかオレのことも大好きであり、それらが重なった彼女の結論はきっと。

 

「そうだぞ、私が子供が欲しいからノエル、一緒に子作りするんだぞっ!」

「お断りだ!」

 

 オレは即座にエイミーの頭にげんこつを落とした。

 それにしても硬い。前より強靭になってるな、こいつの頭。

 だがしかし、少ししびれたオレの拳だってそれなりに鍛えこんではある。だから、エイミーはそれで叩かれた痛みに涙目になりながら、零すのだった。

 

「だ、駄目なのかー?」

「当たり前だ。オレには好きな人がいる」

「私じゃなかったのか!」

 

 そして、オレの返しに愕然とするエイミー。どうやらこいつは、無闇に自分がオレに愛されていると信じていたようだった。

 まあ、確かに幼馴染であり縁のあるこいつにはオレも優しくしていた部分があったが、それも今日までだ。痴女に優しくする理由などない。

 だが未練たらたらに、エイミーは聞いてくる。

 

「その好きな人って誰なんだー……」

「知ってどうする」

「決まってるぞ!」

 

 何故か、無駄に大きな胸を見せつけるように反らすエイミー。視界いっぱいを塞がれて、とんでもなくこれ邪魔なんだが。

 だがそんなオレの気持ちも知らず、彼女は言い張るのだった。

 

「そいつを倒して、私がノエルの一番になるんだぞ!」

 

 そんな世迷い言に、オレは。

 

「お前()()に倒せるなら、オレも苦労はしないっての……」

 

 と、零すのだった。

 

 そして、オレのそんな発言を聞いた何も知らないエイミーは。

 

「むぅう……そんなに強いやつがノエルは好きなのかー。……これは、私も魔王様直々に鍛えてもらう他にないかもしれないなっ!」

 

 大好きなちっちゃな魔王様(恋敵)の手を知らず借りて頑張ろうと、ふんすと鼻を鳴らした。

 

「はいはい、そうかもな」

 

 そして、オレはその勘違いを無視してしまう。なんだか色々と面倒くさくなって。

 

「がんばるぞー!」

 

 オレの白い目を気にもとめずに、彼女は両手を掲げて発奮する。

 

 

 

「わ、なんですか、エイミーさん!」

「よーっす! 魔王様、鍛えてもらいにきたぞー! ボケは大丈夫か?」

「よーっすです! あ……だ、だから私はまだボケていませーん!」

「はぁ……」

 

 やがて、魔王城はまた少しうるさくなるのだった。

 

 

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