魔王だからやられるために彼を主人公に育てたら恋愛ゲームの主人公みたいになってしまいました   作:茶蕎麦

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 また魔王様はボケてしまいますー!
 果たして、彼女はどうにかならないのでしょうか?


第三話 魔王様、物忘れをする

 

 

 さて、私が創り上げた魔王城、それは殆どがはりぼてであったりします。

 しかし、それは無駄に手の込んだはりぼてでもありますね。一国の王様だからとかなんとかいうことで、最初に創った小屋に貼り付けられてしまった居住区としては無駄なレイヤーの多いこと多いこと。

 まあ、豪奢に過ぎるその造りの中心は、しかし存外ちんまりとしています。元は当時マイブームで飼っていたお馬さんのためのお家だったのだから、当然といえばその通りですね。

 ゲストにさえそれをお見せすることはありませんが、しかし中々の住心地と自負してはいますよ。ちょっと買い出しに歩くのが難ですが。

 実際、何故か子供たちが作ったツリーハウスを間借りして過ごしていたエイミーさんもすっかり居着いてしまったくらいです。

 ほら、ノエル不在の今も私お手製のもこもこソファに抱きついてごろごろと。彼女は気持ちよさそうに、その感想を口走りました。

 

「ふぁー。これが魔王様を駄目にしたクッションかー。やわやわなんだぞ!」

「むむっ、エイミーさん。私は駄目じゃないですよ? これでも頑張ってるのですから!」

「間違えたんだぞ! 魔王様はボケたんだった!」

「それは違うって、前回から言っていますよねっ!」

 

 何故か私がボケているという勘違いを引きずっているエイミーさん。そんな扱いは嫌だと私は涙目で訴えかけるのですが、しかしそれも効果が今ひとつ。

 それもしかたがありませんね。そのクッションみたいなソファは、前世の寝具ってこんな感じだったかなと適当に魔力をごねごねした私の力作。

 実体が殆どないその軽いボリューミーは、正に大きなお胸の感触に近くすらありますよ。母性に回帰するような心地はホント凄いです。

 

「……あ。そういえばノエル、これを触った時に、なんだか覚えがある感触だって言っていましたね。もしかして、私の胸の温かさを思い出したのでしょうか?」

「なんだって!? ノエルは魔王様のこのあるようなないような分からないおっぱいを揉んだのかー! 変態だな!」

「うう、エイミーさんは色々と酷いですね……私のぼでぃは変態御用達なのですか……」

 

 そして、思わず零した独り言にてノエルには変態のレッテルが貼られて、私のないすばでぃに触れたがる人は変態だということが明らかになってしまいました。

 いや、一言で私達にこれほどまでのダメージって、エイミーさん、強すぎるのですが。

 私に鍛えてもらいたいとか言っていましたが、そんなことしないでも十分過ぎません、この口撃力。

 そう思った私は、おっぱいみたいな感触の大きなクッションに大きなクッション並みのおっぱいを乗っけているエイミーさんへ正直に聞いてみます。

 

「あの、エイミーさんは私に鍛えてもらいたいのですよね? そんなことをしなくても、エイミーさんはお強いと思うのですが……」

「むぅ……確かに私は強いぞ! でも相手は私以上に強いみたいなんだぞ!」

「強い……ふむ、ひょっとしてエイミーさんの仮想敵はザラさんだったりします?」

「あ、そいつも出来ればやっつけたいぞ! 最初はそいつだな!」

「最初からザラさんって、最初からクライマックス過ぎると思うのですが……」

 

 そして、ようやく私は合点がいきました。

 なるほど、確かにザラさんが相手ならば幾らエイミーさんであろうと分が悪いでしょう。

 あの人、とんだ剣豪ですからね。どうしたらあんなに綺麗な子が、ああまで刀をえげつなく振るうことになってしまうのでしょう。

 いや、魔法みたいな剣閃みたいな奇手ひとつなく、あの人は魔王な私を差し置いて普通に最強じゃないかとか噂されるレベルですからね。

 それは、何だか誰かがやってみようといったからはじめてみた御前試合みたいな大会でザラさんが活躍しすぎたせいかもしれません。

 大魔法クラスを普通に斬ってしまうのはどうかと、流石の私も思いました。

 

「しかし、分かりました。最低でもあのレベルに至りたいのですね、エイミーさんは」

「そうなんだぞ……でも、きっと大変なんだと思うんだ……」

「そんなことありませんよ! エイミーさんならちょちょいのちょいです!」

「ホントかー?」

 

 そして、私が打倒ザラさんを願うエイミーさんの後押しをしようと思い出すと、意外と彼女は自信がないようです。

 びっくりです。何となく、この子は相手の実力とか気にせずに頑張る性質だと思っていましたので。

 けれども、私がエイミーさんならザラさんを倒せるという考えに嘘はありません。

 ですので、もうひと押しと私は続けます。

 

「だって、エイミーさん、素の力だけで人を伸せたりするみたいじゃないですか。それって凄いことですよ?」

「そうなのか?」

「そうです! ですので、そんなエイミーさんが私みたいに魔法で自分の力を上げることを覚えたら、それだけで勝ち目は出てくるものと思いますよっ」

「そうなのか!」

「はい!」

「……そうなの?」

「はいそうですよ……って貴女はザラさん!」

 

 そうして元気になってきたエイミーさんを更に推していると、お隣にザラさんが急に現れだしました。これには私もびっくりです。

 何故か、私お手製のロディに彼女はそのほっそりした身体を乗せてゆらゆらしていました。

 そして、彼女はその細い目で私達をようやく認めたかのようにして、手を上げて挨拶をし始めます。

 

「こんにちは、魔王様に……エミ?」

「む、私はエイミーなんだぞ!」

「……そうだった、エミミイだったね」

「? 何だか違う気がするんだぞ?」

「……そう?」

 

 そして、名前を間違えてしまったザラさんにエイミーさんはつっかかり、しかし更にザラさんが間違えることで、場はよく分からない空気になってしまいました。

 首を傾げ合う、正反対な体型の美少女二人。まったく、天然さんたちはこれだから困りますね。決してボケてなんかいない私は、話を進めていきます。

 

「それで、どうしたのですか? ザラさんは。急に私の城の私の家に訪れて。親ぐるみで仲のいいエイミーさんはともかく、ザラさんはここまで来る許可を取るの大変だったのではありませんか?」

「……そんなことなかったよ?」

「え、どうしてですか?」

 

 再び首を傾げる彼女に、私も首をこてり。一応私はそこそこ高い身分のはずで、ですからその居住する場所である魔王城には入るに手順が居るのですね。

 一応、勇者的な何かが現れた時には諸々の順番なんて無視させて、私直々にお迎えして魔王ムーブに浸る予定ですが、しかしザラさんは勇者と言うよりも剣鬼。でも、彼女は確かに簡単に入れたといいます。

 これは不通がありますね。よく分からないでいる私たちに、呆れた様子でエイミーさんは言葉をかけます。

 

「なんだ、話が合ってないんだぞ! ザラはどうして簡単に入れたんだ?」

「……それは……魔王様が主催した大会で勝ったご褒美でフリーパス貰ったから……」

「あ! そうでした! 忘れてました!」

 

 そうして、ザラさんの言でようやく疑問が氷解しました。そうでした、私は大会優勝者であるというのに何も要らないという謙虚なナイ……剣士であるところの彼女に、無理にフリーパスのチケットを進呈したのです。

 ついでにした、四天王へのお誘いは、拒絶されてしまいましたが。いやー、懐かしいです。一年前のことでしたよね、たしか。すっかり忘れていました。

 

「なんだ! 結局魔王様がボケボケなのが悪かったんだぞ!」

 

 そんなでしたから、私はすっかりぷんぷんなエイミーさんの口撃に、ただ顔を紅くすることしか出来なかったのです。

 

 

 

 

 

「ただいま……って、誰も居ないな……ん? この書き置きは母さんのか?」

 

 勉強して、鍛えて。俺はそうして面倒なくらいに入り組んだ魔王城の欺瞞スペースを乗り越えた先にある、我が家へと帰った。

 しかし、出迎えてくれるものの姿はない。今までだったら母親がおかえりなさいと言ってくれる筈だし、そうでなくても最近はエイミーが居着いていることもあって大体人影はあった。

 けれども、今はテーブルの上にある一枚の紙切れ意外に目立つものはない。飾り的な要素を消し去って、もこもことしたものばかりの主の趣味がモロに出ている家中にて、俺は何故か出ていた子供の頃親しんだ馬のおもちゃを避けて書き置きを取った。

 

「ん? ザラさんとエイミーさんを鍛えてきます? ……どうしてそういうことになるんだ」

 

 そして、下手くそなエイガナ語で書かれたその内容に、俺は首を傾げる。いや、確かにザラ先輩は以前ここに通っても良いことになったということは知っていた。

 だが、そんな彼女に突っかかって完敗したエイミーを、一緒になって鍛えるというのが俺には理解できない。

 ザラ先輩が修行バカとは聞いていたが、ひょっとしたらエイミーが鍛えると聞いて、便乗でもしたか。あの薄い美人のいかにもありそうな行動に俺は目眩を覚える。

 

「アレ以上強くなってどうするんだっての」

 

 俺は魔王の子として武術に大食いにクイズに、様々な得意を集めた大会の様子を最前線で見ていた。

 その中でも、別格の強さで優勝したのが、ザラ先輩だ。ただの剣舞が、誰も寄せ付けぬ堅甲に変わる。現象ではなくその大元の魔素を切るとか、もう訳がわからない技量まであるし、俺は正直彼女のことを人形のびっくり箱のようなものと見ていた。

 

「だが、ザラ先輩は、どうにも俺を気にしているようだが……」

 

 しかし、彼女は俺のことをよくよく見つめてくる。そして、知らずに関わってくること多々。

 今までその意味すら分からなかったが、家にまで来たのだ。ホームで聞いてみるのも悪くないだろう。

 そう思い、俺は彼女らが頑張っているだろう居住地域近くの広間へと向かった。

 

「ん?」

 

 すると、何か鍛錬らしく反復の音色でも聞こえてくるものかと思えば、そんなこともない。

 あるいは俺が場所を間違えたかと思っていると。なんと二つのでかいものが飛んできた。

 それを何とかキャッチする俺。すると、思ったより軽いそれらは、騒々しくし始めた。

 

「うわー! やられたんだぞ!」

「……くっ!」

「まさか、女子が二人も飛んでくるとはな……」

 

 そう、何か凄まじいものの力の片鱗を受けて吹っ飛んで来たのは、ザラ先輩とエイミーだ。

 母さん張り切りすぎだろ、と俺が思っていると、下手人がとことこやって来た。お荷物をその場にどすんと下ろして、俺は魔王様へ向き直る。

 

「ふっふっふー! 私に人さし指を使わせるとはおふたりともやりますね! それでは次は親指を……あれ、ノエルじゃありませんか、鍛錬の様子を見学しに来たのですか?」

「いや、どう見てもこれ、鍛錬になってないだろ……母さんが調子に乗ってるだけだ」

「あ、そうですね……実はこれには深いわけが……」

「ノエル! よーっす!」

「……ノエル、よっす」

「ああ、うるさくなってきた……」

 

 そして、集まってきた天然ボケ達は、思い思いに喋りだすからたまらない。高い声が重なると、どうにも聞き取りにくいものだった。

 だが俺がやけに時間がかかった小出しにされた情報を纏めるに、つまるところ。

 

「要は、母さんが小指で従わさせられるだけの魔力で模擬戦してたら、エイミーが魔法に覚醒して、ザラ先輩が本気を出したから、母さんがビビって指二本分の魔力で応戦したらこうなったと……」

「……その通りです、全然深くもなんともない理由でしたね。申し訳ありません……」

「私も、びっくりしたんだからな!」

「ボクも、急に切れなくなったからびっくりした……」

「非難轟々です!」

「当たり前だろ」

「いたー! 頭は止めて下さい! 成長が停まってしまいます!」

「三百歳にもなって、成長に期待なんてするなよ……」

 

 そういうことだった。いつもの通りに母さんが考えなしに暴れまわった結果、面倒になっただけのこと。

 尻拭いをする俺の身にもなって欲しい。あれか、ある種要介護みたいなものなんだよな、この人。

 俺が涙目になっている、可愛らしい母親を見下ろしていると、ザラ先輩が俺の後ろでゆらりと揺れた。

 そして、ぼそりと口にする。

 

「ノエル、相変わらず目が怖いね……そんなに、お母さんのこと、殺したいの?」

 

 ぎゃあぎゃ言っている二人を他所に、俺は彼女へと向く。そして、何を考えているか焦点の見えない鋭い目線を受けて、小さな声でこう返す。

 

「まあな。俺は早く母さんを殺し(救っ)てやりたい」

「……ボクは、そんなことをさせたくないな」

 

 意外にも、ザラ先輩は俺の言葉に悲しげな表情をした。そんあ面すらまたあまりに整っているのは、得だなと思う。

 この人も普段の平静な印象とは違って案外情の通った人間なのだなと思った俺は、笑い。

 

「そうか。ならあんたも俺の敵だな」

 

 さらに表情歪ませてそう零すのだった。

 

 確かに、この人は美人だ。だが、可愛らしさ、美しさなんて大好きな母の前ではみんな等しくゴミだ。蹴散らすだけのものでしかない。

 だから俺はただ、最強の剣士を相手にするとか面倒だな、としか思えないのだった。

 

 

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