魔王だからやられるために彼を主人公に育てたら恋愛ゲームの主人公みたいになってしまいました 作:茶蕎麦
そんなテーマのお話を考えたところ、魔王様が増殖しましたー。
どうしてでしょう?
「メリークリスマスです!」
私は紅と白を纏ってお空をふわふわと飛びながら、眼下にて声をあげて下さる皆様に手をふりふり。
そう、今日はこの世界の暦だと大凡十二月二十五日。年を越す六日前くらいだからきっとそうなるでしょう。
クリスマスの色んな宗教的な意味合いなどは難しくって忘れてしまった私ですが、けれどもこの日にサンタさんが良い子達のためにプレゼントを配るということくらいは覚えています。
勿論、私は異世界転生なんてものをしてしまったのですから、前の世界の行事がこの世界で行われていないということくらいは分かっているのですね。
ですが私は、良い子達の笑顔が花開く、そんなクリスマスをなかったことには到底出来ませんでした。
ですから、国を創る上でクリスマスをいっそのこと休日の一つとして定めた上で、大々的に行事として広めたのです。
百年以上行い続けた今すっかり定着し、他の国でもクリスマスを取り入れるような動きもあったりしたそうですね。
しかし私は食べて呑んで、家族恋人でどんちゃん騒ぎをする日だよ、と教えて皆の楽しみに満足していたのですが、しばらく――二十年くらいですね!――経ってからはたと気付きました。
皆楽しんでいらっしゃいましたが、しかし中々サンタクロースさんがやって来てくれないことに、です。
いや、私としましてはサンタクロースさんは異世界でもクリスマスに騒いでいれば自然発生的に湧いて出てくるだろうというような心算で待っていたのですが、どうやら違ったようです。
よく考えれば、それもその通りでしょうね。何しろ、前の世界の子供の数を思えば、余所の世界にまでその手を伸ばすのは大変でしょう。
それに、ご老人にいたずらに労苦を負わせるのは自分としても心苦しい。
ならば、と私はついこの間――八十年より前です!――私がサンタクロースだ、と立ち上がったのです。
何故だか、当時の私の補佐をしていたアドルフには頭の心配をされましたが。
会議の最中に私がサンタクロースさんになればいいのです、と名案を披露したのがそんなにおかしかったのですかね。未だに解せません。
「ま、そんなことは私が鬼籍に入った後にアドルフに直接訊ねればいいのです。とりあえず、ホワイトクリスマスをプレゼントです!」
以前作った――楽団を指揮するためでしたが、どうしてだか私がやると皆ばらばらになってしまうのであまり使っていません――タクトを一振り、私は空を凍えさせ軋ませ、雪を創りあげます。
ちょっとシャーベットっぽい雪ですが、軽く降らせてみれば、皆様喜んでくれますね。特に子供達はきゃーきゃーです。
あ。あんまり興奮しすぎないで下さいね。怪我は自動回復を皆様に付与しているので治るとはいえ、足をくじいたりしてほしくないですよ。ちょっと冷静になった私はそこそこで雪を止めます。
「ふむ。それにしても何か男の人たちの視線を足下に感じますね……皆スケベさんです! でも残念でしたー」
そして子供ばかりを見ていないで、全体の愛すべき国民達をみつめていたら、私の勘違いでなければですがスカートの中を見つめる視線をいくつも感じました。
それが、若い男子ばかりであるところに、中身お婆ちゃんな私も何となく察します。けれども、今日はスカートの下にドロワーズを履いているので平気なのですね。
赤ちゃんのおむつみたいなふわふわもこもこを見て、いやらしく感じる人は少ないでしょう。
「しかし、ちょっと寒いですね。毛糸のおパンツも履いておくべきでしたか」
そうつぶやきながら、今度は私は皆の前でサンタクロースらしく働くため、久しぶりに本気を出します。
それはもう、魔王の本気なのですから無駄にエフェクトがついたり、絶望的な威圧感が醸し出されてしまったりするので、街中で力を披露することは出来ずに、この空で行うのですね。
今回はえいと力を入れたところ、なんか轟音とともに天が割れましたね。先まであった雲が綺麗サッパリです。これには私もびっくりでした。
「……まあ、今回の影響でどこかで雨に困ることがありましたら、私がなんとかしましょうか」
なんとなく責任を感じながらも、しかしせっかく本気になったのですから頑張らずにはいられません。
開放した究極とすら言われる魔力でお空の魔の素を引っ張り込んで、この身に充填。そして。
「えい、やあ! ほおっ!」
なんか珍妙な声が出ましたね。けれどもそんな感じで力みながら私は、魔素を糸のようにしてエーテル体の自分を模した形を次々と創っていきます。
そして、出来るは私そっくりなちょっと発光している私の似姿。中々上出来ですね。私はこれでも編み物が得意なのです。
今回、国の皆様からいただいた良い子リストがあまりに膨大だったために、何時もみたいに全力を賭したところで自分一人で良い子たちにプレゼントをお配りするのは難しいと判断。
しかし、私がサンタクロースだ、と言えちゃう変わり者は私だけ。なら、私を増やせばなんとかなるのでは、と今回やってみました。
目の前にて、動き始める四人の私達。これは作戦成功間違いありません。私は嬉しくなって独りごちます。
「成功です!」
『当然です!』
『そうでしょうか、私はバカですよ?』
『バカは酷いです! でも私、本当にバカでした!』
『いや、バカでも力があればなせることもあるのでは?』
『バカ力は酷いです! 私は瓶の蓋をきゅっきゅと出来ない非力ですよ!』
『魔力を使えば空の蓋をすらこじ開けることが出来るくらいの力はあるでしょうに』
「え?」
しかし、それは独り言になりませんでした。舌足らずで呑気な甲高い声の合唱が私の耳朶を打ちます。
ぎゃーぎゃーわーわー。空は何だか私達の会話で埋め尽くされました。ぴかぴかな私達は、ぺらぺらと喋るのです。
「これは、間違って声帯どころか自由意志まで創っちゃったのですね……うむむ」
『バカです』
『むしろバカの大本です』
「そこは凄いと言って下さいよ! というかバカの大本ってそれ、あなた達もバカだというのを認めているってことですよ?」
『凄いバカです』
『バカの道連れにされました』
「もうっ!」
そして、口喧嘩で私は負けてしまいました。中々いい性格をしている私もいるのですね。被造物と創造主が完全一致というわけにはいかないということでしょうか。
しかし、負けたからって目的を捨てるわけにはいきません。半ばやけになった私は、指示出しをしようとします。
「私達、良いですか? 今回あなた達を生み出した私の目的は……」
『分かっています。エイガナの良い子たちにプレゼントを配るのですよね。それでは、あなたが歪めた空間内に納めている袋を一ついただきます』
「あ……」
『便宜上、その発光色と関係から赤、青、黄、緑、本体と呼称を分けますか。私も袋を一つ』
『それではつまり私は青ですね。そろそろ夕になる頃合い。分担して当たりましょう。それでは、私も袋をいただきますか』
『では、赤の私が範囲を決めさせていただきます。私赤が、北部。そして青が南部。黄が西部。続いて緑が東部。そして中央の首都を本体で。なら私はこの袋を』
「おお! 私たち、意外に有能でした! 私は残ったこの一番大きな袋でお配りしますー」
けれども、存外私が生み出した私たちは、物分りが良かったのですね。私がプレゼントをしまっている亜空間からプレゼント袋を取り出しやる気満々。
何を言わずとも以心伝心。私のやりたかったことを彼女たちは率先してくれます。
それもその通りですね。仮にも彼女らは私。ならば、子供の楽しみのために頑張ることを厭うことはありえませんでした。
嬉しくなって笑顔の私に、よいしょとした青色さんが手を振り言います。
『行ってきます』
『おやつを途中で食べてもいいでしょうか?』
『カエルさんを触りたいですね』
『私は絵本を読みたいです』
「青色さんに赤色さんに、緑色さんに黄色さん、いってらっしゃい! みんな……寄り道はだめですよー!」
『はーい』
そして、器用にも彼女らは風を各々操って飛んでいきました。
どうにも、込めた力が強すぎたのか、彼女ら私に準じた力を得ているような気がします。
まあ、彼女らが存在するのも今日一日ばかりのこと。後で消してあげれば問題も起きないでしょう。そもそも、仮にも私が私の愛するエイガナの皆さんに悪さをすることはありえませんし。
「それにしても一人しか返事してくれませんでしたね……ちゃんと終えてくれるかどうかが不安です」
ただ、一抹の不安が。彼女らちょっと自由すぎるのですよね。何やら少し思考に縛りを入れられたりしたら安心だったのですが。
まあ、けれども頑張ってくれると期待しましょう。私は気を取り直して彼女らのことを他所において。
「良い子の皆さん、待っていて下さいー!」
サンタクロースさんの格好でびゅんとひとっ飛び。私は首都にうじゃうじゃいらっしゃる良い子を探しに行くのです。
「なんか私、なまはげさんの反対みたいな感じですねー」
手製リストのずらりとした文字数に、むしろわくわくしながら、私は休日のひと仕事に力入れるのでした。
「いやー、一働きしました! 最後のプレゼントはノエルにです!」
かわいい子供の笑顔に、優しい親の感謝。弾ける愛がもう、たまらないですね。サンタさんをするのは幸せすぎますよ。
そして、夢中になってしまった私はすっかり意識の他所においた彼女たちの存在を忘れてしまうのです。
「あ……そういえば彼女たち、どうしたのですかね?」
思い出した時は、もう全てが終わった後でした。
あたいは、エルフのディアト。トナルーの里の誇り高き魔法戦士。
ここエイガナには、魔王と謳われる存在の見極めのために、長より遣わされた。
あまり、魔王には会えていないけれど、その息子とは懇意にさせてもらっている。
「ノエル、か」
なかなかいい男だ。ここエイガナには牙がない腑抜けばかり――傷病苦を魔王に奪われているから当然か――なのに、ノエルは目に力がある。
さらに、実もあるのだ。魔法に剣に、相当なレベルで修めているあいつは他の国だと重宝されるだろうに。
半ば飼い殺しにされているノエルのことがあたいは欲しくてたまらない。
おまけのように顔もいいが。そこは素晴らしいな。いや、あたいが魅力に思っているのはそれだけではない。きっと、多分。
こほんと咳払い。取り敢えず、あたいは総括してつぶやく。
「あいつは言うなら勇者、という存在に近いか」
自分から出た勇者という言葉に、あたいはトナルーの伝説に登場する人物のことを思い浮かべる。
しかし、何となく彼と彼は合わないような気もする。
そして、エルフらしく林中の朝歩きを終わりにさせようと歩を進めていると。
『緑、ここならどうです?』
『青……なるほど、ここらへんはじめじめしているから、カエルさんも出そうですね』
『絵本はありますか?』
『お腹が空きましたー』
なんか、ぴかぴか光る、調査目標――魔王――そっくりな色とりどりの子達が、あたいの家――森の中のログハウス――の前にてうろうろしていた。
私の目は、点になる。
「どういうことだ?」
『あ、エルフさんです!』
『ん? この特徴的な青髪は……』
『ディアトさんですか』
『あの、交渉しても構いませんか?』
「えっと」
そして、あたいは目の前の愛らしさの塊たちの話を聞いた。そして。
『お肉じゅーじゅーです!』
『お野菜もどっさりです!』
『皆さん静かにして下さい。ディアトさんが困ってしまいますよ?』
『ごめんなさいです!』
「どうしてこうなった」
彼女らと一緒に暮らすこととなったのだ。
食事をともにしながら、あたいは取り敢えずは、彼女らの噂に聞くソフィ王女並の目に悪い明滅をどうにかしたいな、と現実逃避気味に考えるのである。
そう、あたいはまさか、この出会いがあたいの運命を変えることになるとは思わなかった。
ノエルさんはプレゼントが欲しかったので良い子にしていましたので出番なしです!