常春の国マリネラにも人理焼却の波がやってくる。
パタリロはマリネラを救うことができるのか。
世界を巻き込むパタリロの冒険が始まる。

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少女漫画界の金字塔パタリロ!ってFateと相性良くないか? と思い書いてみました。




時をかけるパタリロ

 ここは常春の国、マリネラ。←使い古されすぎて何も言えん。

 

 マリネラ王宮

 

 ここに一人の王が居た。

 

 彼の名はパタリロ。正確にはパタリロ・ド・マリネール8世。若干10歳にして世界有数のダイヤモンド鉱山を所有する裕福な国、マリネラ王国のトップだ。

 トドのようなずんぐりむっくり体型に濡れ煎餅をお尻で潰したようなへちゃむくれた顔面がチャームポイントのパタリロ殿下なのだ。

 

 毎度毎度その常識外れの頭脳と規格外の行動力で世間をお騒がせするパタリロだがはてさて今回はどんなことになるやら……。

 

 

「おい作者。いつもと雰囲気が違くないか?」

「パタリロさん。今を時めく他作品とのコラボなんで張り切っちゃいまして……」

「最近マンネリとは言え節操がないな」

「えへへ」

「何がえへへだ! プライドが無いのか己は! 吊るせ吊るせ!」

「ひえ~~~~っ! お助けぇ~~~~!」

 

 

 

 

 

 マリネラ王宮

 

 玉座の間にてパタリロはいつもの朝食を終え便所から出てくると政務もせず悪戯もせずずっと頭を抱えて唸っていた。

 

「うーん困った」

 

「どうなされたのです殿下」

 

 心配して話しかけてきたのはパタリロ殿下専属の親衛隊タマネギ部隊所属のタマネギ1号。常日ごろパタリロの傍に使え彼を支えている忠君である。

 

 見た目はその名の通り皮付きタマネギのような形のメーキャップを頭部に装着し、瞳が透けて見えないベターな漫画メガネを掛け、◇←こんな形の形状記憶ラバーで作られたお口を身に着けた武官だ。

 因みに1号と言うからには2号3号と存在するがパタリロか面倒くさいからと連番制ではなく自己申告制にした為に4億8000万とんで692号やオブラディオブラダ・ペーパーバックライター号なんて脳みそと活舌を殺しにきたようなネーミングのタマネギ部隊もいる。

 ちなみにちなみにある人物がマリネラにやって来た為にほぼ全員が同性愛者となっており、異性愛者はパンダ並みに貴重だが大事にされている訳でもなく変態扱いされている。

 

「うーんうーん」

 

「どうされたのです?」

 

「うーんうーん」

 

「だからどうされたんですって!」

 

「うるさ──い! 僕は困っているんだぞ──!」

 

「だからどうしたって言うんじゃ──っ!」

 

 

()()()()()()()()()()

 

 神妙な面持ちで爆弾発言をしたパタリロ。さぞやタマネギ1号は口から泡を吹き床を転げ周り驚天動地の上から下への大騒ぎ、になると内心ほくそ笑んでいたがそうは問屋が降ろさない。毎度毎度パタリロの人間の良心をこれでもかと虚仮にする陰湿かつ悪質な悪戯に生死の境をさ迷ってきた1号は冷静にお茶を啜った。

 

 

「はぁ、そうですか」

 

「驚かんのか?」

 

「はぁ、そうですか」

 

「驚かんのか?」

 

「はぁ、そうですか」

 

「わざとやっているな」

 

「お気づきになられましたか」

 

 

 

「1号はほっといて話を元に戻そう」

 

 鉈で脳天を唐竹割りにされた1号を尻目にパタリロはもう一人のタマネギ部隊、タマネギ44号に目を向けた。

 

「あの、ボクは今日非番なのですが……」

 

 44号はタマネギ部隊の中でも取り分け美形に分類されている隊員だ。長いまつ毛に大きな瞳、サラサラと絹のような美しい長髪をなびかせ趣味は自室いっぱいに敷き詰められている人形集めという見た目も中身も実に女の子らしい美少年である。

 

「僕は国王でお前は僕に使えるタマネギ部隊の一人だよな?」

 

「はい、そうですがボクは非番で……」

 

「マリネラにおいて国王の命令は絶対だ。つまり──」

 

「つまり?」

 

「死刑になるのとどっちが良い?」

 

「……聞きます」

 

 

「いや~~僕は優秀な部下を持って幸せだな!」

 

 

 ──この方はこんな生き方をしてよく背中を刺されないものだなぁ

 

 

 と、そんな疑問を思いながらパタリロに連れられ44号は王宮地下に設置されている秘密研究所に入った。

 

 ちなみにタマネギ部隊にもちゃんと非番と有給休暇が存在するが有給休暇は新人でもどんなに長く務めたベテランでも等しく10年につき一日である。

 

「凄い設備ですね。お城の地下にこんなものがあるとは知りませんでした」

 

「当然だ。普段はあずき相場のチェックにしか使っていないからな」

 

「それで、世界が終わるとはどういうことですか?」

 

「それだ。まぁ簡単に言うとあとちょっとで世界はきれいさっぱり焼却されるんだ」

 

「どういうことですか?」

 

「言ってしまえば人類終焉の時だ」

 

「どういうことですか?」

 

「これには世界の深淵と悠久の時より紡がれる驚くべき真実があってだな……」

 

「どういうことですか?」

 

 

いっぺんおどれもド頭かち割ったろか? ん? 

 

「すみません! つい流れで!」

 

「つい、で済むなら警察はいらんのじゃ! 体で償ってもらおか!」

 

「あぁ……!」

 

「殿下! 何をやっているんですか! 44号は我がタマネギ部隊でも珍しい異性愛者なんですよ!」

 

 44号の身包みをはぎ取ろうしたパタリロを制したのは先ほどド頭をかち割られた1号であった。頭蓋骨を叩き割られ大脳から小脳・脳幹まで鉈がめり込んでいた筈の1号だったがケロッとした顔でパタリロの前に現れた。深く考え込んではいけない。

 

「流石に3回もやってはマンネリだな。僕のギャグセンスが疑われる」

 

「あの、人類滅亡の件ですが……」

 

「そうです殿下。また何かやらかしましたか。ソ連やアメリカの核兵器でも盗んでイランや北朝鮮に売り払いましたか?」

 

「そんな矮小なことじゃない。文字通りの人類終焉だ。これを見てみろ」

 

 パタリロが機器を操作し巨大なブラウン管画面に映像が投影された。其処には美麗、ではとても表現しきれない中世的な美青年が佇んでいた。

 

「僕の先祖、パタリロ6世が小銭欲しさに魂を売った悪魔、アスタロト公爵だ。僕の開発した電送機で魔界から生中継を行っている」

 

「え⁉ あの魔界の四大悪魔のアスタロトですか!」

 

 一目見ただけで老若男女問わず魅了してしまいそうな美の極みとも言えるアスタロトは至極不機嫌そうにため息を吐き口を開いた。それだけで1号は顔をニンマリとし目をハートマークにさせるが、44号はブルブルと震えていた。

 

 

 何を隠そう44号は世界でもトップクラスの霊能力者である。人に見えぬ悪霊や妖怪などの魑魅魍魎の類のトラブルには必ずと言っていいほど駆り出されていた。それ故に44号はも霊能力者としてアスタロトの妖艶さよりもその内に秘める悪魔としての格の高さに心底肝を冷やし、パタリロは灰色どころか1680万色(正確には16777216色)の脳細胞ではアスタロトの美しさよりも今日はどんな小銭稼ぎをしようかと言う欲望が勝っていた。

 

「下らぬじゃれ合いはようやく終わったか? パタリロ6世の子孫にその下僕たちよ。我はアスタロト、緊急事態の為に此度はお主たちへ直接使命を言い渡す。まずは魔界の様子を見せてやる」

 

「う! こ、これはッ!」

 

「酷い……」

 

 

 

 アスタロトはカメラを使い魔界内部の様子を写した。魔界と言っても地獄のような仏教的鬼や炎が渦巻いているような場所でなく、宇宙的な夜空の下に人間界には存在しないおどろおどろしい動植物が自生し、アスタロトが住む邸宅を含めた頂上付近は至高の調度品が所狭しと並びマリネラ王宮が犬小屋に見える豪奢を誇っていた。

 

 しかし44号と1号が目にしたそれは、まさに地獄絵図だった。

 

 魔界の至る所では黒い煙や火の手が上がりアスタロトの邸宅も地震雷火事親父が一遍に襲い掛かったようにボロボロの有様だった。魔界の生物はことごとく死に絶えその骸が転がっていた。

 

「いったい何があったんですか!」

 

「してやられたよ。魔界は私を残して全滅した。ベール、ルキフェル、ベールゼブブ、全てがだ。他ならぬソロモン王によってな」

 

「え⁉」

 

 思わぬビックネームに1号は大きく驚いた。

 

 

「願いましては~」

 

「それはソロバンだ」

 

「フォースの覚醒で殺されたのはビックリしたな~」

 

「それはハン・ソロだ」

 

「燃えよデブゴンって何作あるのか分からなくなっちゃうよな~」

 

「それはサモ・ハン・キンポーじゃ~~‼ ソ・ロ・モ・ン・王・だ‼」

 

 

 

「ソロモン王⁉」

 

 

 

 ──ソロモン

 

 古代イスラエルの王にして巷では72の悪魔を従えた偉大な魔術師として有名である。

 

 

「突然であった。魔界の決壊に亀裂が入り何事かと低級悪魔たちを使いに出せば一瞬で塵にされた。天使たちが攻め入ってきたのかと最初は思ったが間違いだった。上級悪魔たちが次々と殲滅、いや、吸収されていったのだ」

 

「吸収?」

 

「うむ。天使たちにあのような真似は出来ん。何かあると思い猫娘を偵察に出したが帰ってはこなかった。ソロモンの一言だけを伝えてな」

 

 

「しかしおかしいではありませんか。紀元前に亡くなったソロモン王がどうして今更現れるんですか?」

 

「その説明をする前に今の世界の状況を理解する必要がある 少し長くなるぞ」

 

「アスタロト様、時間がもったいないのでこいつ等には私から説明しましょう。つまりだ、ソロモン王がどう言う訳か蘇り魔界の悪魔たちを取込み世界を滅ぼしたのだ」

 

「全然説明になっていませんよ……ん? 殿下、滅ぼそうとしているの間違いでは?」

 

「何も間違っとらん。現在進行形で世界は滅んでいる。具体的に言えばたった今しがたユーラシア大陸が消炭になったところだ」

 

 

 パタリロはそう言ってコンソールを弄るとマリネラ所有の人工衛星……ではなく、金をケチったパタリロがソ連・アメリカの衛星をハッキングして衛星映像を画面に映した。

 

 其処にはまさにパタリロが言ったように広大なユーラシア大陸が煌々と赤く光っていた。

 

 

「なんてことだ! 本当に燃えている! 核戦争が始まってしまったのか⁉」

 

「こ、これはただの炎ではありません……とても冷酷で、おぞましい決意が感じられます。気分が悪くなってきます」

 

「人理焼却……ソロモンは魔界を去る際に言い残した言葉だがこれ程とはな。残念だがお前たちの世界は滅びる」

 

 

「大変だ──!」

 

「殿下! 本当に世界が終わるんですか⁉」

 

 アスタロトの告白に1号と44号はパニックになり辺りを駆けずり回りパタリロに縋りついた。普段は如何にして人を不幸にしてあざ笑ってやろうかと思案をするのが趣味のろくでなしだがいざと言う時にはそのスーパーコンピューターが電卓に思えるウルトラ頭脳によって度々危機を脱していた。

 

 

「落ち着け。アスタロト様の言う通りもうこの時代では我々の負けだ。不意打ち、奇襲、だまし討ち、周到な準備をかけた天才的な作戦だよ」

 

「そんな殿下! 貴方だけが頼りなんですよ!」

 

「1号も44号も落ち着け! 僕はこの時代と言った、つまり時代を遡れば勝ち目はある!」

 

「そうか! 殿下にはタイムワープ能力がありましたね!」

 

「それで魔界にソロモン王が現れる前にタイムワープしてアスタロト様と一緒に迎え撃つんですね?」

 

 

 ここで注釈するとパタリロにはダイヤモンド鉱山の事故に巻き込まれた際に自身と自身が触れた物を時間跳躍させる能力を身に着けていた。それにより今までタイムマシン技術が生まれた遥か未来、革命前夜のフランスや地球誕生以前の宇宙などにタイムワープしたこともありついでにタイムストップも出来るなどもはや何でもありであった。

 

 

「いや恐らくは無理であろうな」

 

 垣間見えた一筋の希望に喚起するタマネギたちをバッサリ切り捨てたのはアスタロトであった。

 

「あのソロモンには勝てぬ。例え魔界の悪魔供が総力を結集しようとも徒労に終わるであろう。それ程までにあ奴の力は強大であった」

 

「では一体どうすればいいのですか⁉」

 

「むざむざ焼死したくはありません!」

 

「安心しろ。僕の計算で導いた答えによれば希望はまだある」

 

 

 パタリロはタマネギたちに説明した。かくかくしかじか。うんたらかんたら。ああ言えばこう言う。とにもかくにもパタリロは世界を救う手立てを示した。

 

 

「人理保障機関フィニス・カルデア……あそこの所長には父の代から出資をしていたが無駄にならなかったようで何よりだ」

 

 

「つまりその機関も殿下と同じようにタイムワープが使えて今回の人理焼却の原因である特異点を修正しようとしている……と?」

 

「うむ。マリスビー所長から出資の話を相談された時、父は眉唾物だと断ろうとしたが僕はタイムワープが現実に可能だと知っていたからな。父を説得しマリネラとしても出資を決めたんだ」

 

「ですがこんな緊急事態にそのカルデアは対応できているんですか? そもそも対応できていないからこそこんな事態に陥ってしまったんじゃ……」

 

 

「彼らを信じるより他はない。我々は我々のできることしよう」

 

「出来ることですか?」

 

 

「ソロモン王を倒し世界を救うことはカルデアに任せ僕はマリネラ国王としてマリネラを守る。アスタロト様が言うにはその特異点が過去のマリネラにもあるそうだ」

 

 

「え⁉ マリネラにも!」

 

「そうだ。お前たちも知っての通りマリネラには豊かで過ごしやすい環境のせいか世界中の妖怪や宇宙中の宇宙人が観光や出稼ぎに来ている。僕らにして見ればいつものことだが当然、他の人間からすれば腰を抜かしてしまうだろう」

 

 

「たしかに。最近はロボットやら悪魔までいますしね」

 

 

「自分で言うのもなんだがそんな人外魔境に免疫の無い連中がくればどんなことになるか分からん。最悪マリネラそのものが特異点として滅ぼされかねない。故にカルデアが他の特異点を解決しているうちに僕らでマリネラ特異点の始末をつけようじゃないか」

 

「私も力を貸そう。黒魔術にて過去のマリネラの特異点が西暦何年にあるのか正確に割り出した。ここから魔界を維持する役目もある故にお前たちと共には行けぬがここよりサポートすることは出来る」

 

 

 魔界公爵アスタロト、ゴキブリ人間パタリロ。この二人が全力を挙げて手を組む事実にタマネギたちは歓喜し、パニックになっていた己を恥じた。

 

 

「そうと決まれば時間がない! アスタロト様の計算が終わるまでに使えそうな仲間を連れてくるぞ!」

 

「分かりました! バンコラン少佐とマライヒさんですね⁉」

 

 イギリス情報局秘密情報部MI6の腕利き諜報員ジャック・バルバロッサ・バンコランとその相棒兼恋人のマライヒ。

 

 共にパタリロの大親友(パタリロ談)である。

 

 バンコランはかつてパタリロがイギリスへ来賓中警護を務めその卓越した才気と技能で無事に命を守り通し、ベットで一夜を過ごした間柄(パタリロ談)でもある。

 マライヒはそのバンコランの命を狙った美しき暗殺者(美少年)であったがバンコランはあらゆる美少年を虜にする無敵の眼光を持つ美少年キラーであったが為に暗殺は失敗。更にはバンコランと心と体で通じ愛を育んだ結果、妊娠出産すら果たした美少年兼経産夫? である。

 

「あいつらならいつものマンションで盛り合ってるかバンコランの浮気がばれてマライヒに殺されかけてるかの二択だ。早速拉致してこよう。タイムストップ!」

 

 

 

 パタリロが大きく叫ぶとパッと目の前から消えたかと思えば瞬きする間もなく二人の男と小さな赤ん坊を連れて現れた。

 

 

「いったい何の真似だパタリロ!」

 

「フィガロまで連れ出してどうしたっていうのさ!」

 

「楽勝だったぞ」

 

「流石殿下だ」

 

 

 ダークスーツに身を包んだ鋭い目つきの長髪の男性こそがバンコランである。絵に書いた80年代の殺し屋のような風体だがそんなに間違ってはいない。彼の命を狙った者は美少年以外は必ず地獄に堕ち、美少年はその眼光の餌食となり快楽地獄へ誘われるからだ。

 

 その横に佇む一見すれば美少女のような風体のマライヒ。ベルばらのような美しい巻き毛と嫋やかな花と見紛う華奢な肢体が特徴的だ。だが男だ。しかも妊娠・出産済みだ。そして彼に抱きかかえられている赤ん坊がフィガロ。愛すべき彼らの子だ。

 

 

「時間が惜しい。お前たちは事情を説明していろ」

 

 訳も分からない様子のバンコラン一家を縄で縛り付け、次のタイムストップを行った。それからと言うもの来るわ来るわの大盤振る舞い。

 

 アメリカ中央情報局局員アーサー・ヒューイットまたの名をロリコンヒューイット、

 S国敏腕諜報員ミハイル、

 100発100中の占い師ザカーリ、

 パタリロが造りし万能ロボット家族プラズマファミリー、

 パタリロの友人の猫である間者猫、その弟猫スーパーキャット等々──

 

 さながら開園前の東京ディズニーランドに並ぶ埼玉県民の如く行列ができ、1号と44号は舌が回るのが追い付かなかった。

 

 いきなり世界滅亡の事実を突きつけられ当然パニックになるマライヒたちだったが(バンコランは超現実主義の為全く信じていない)人工衛星の映像を見せつけられ大なり小なり歴戦の勇士であった彼らはある程度に事態を飲み込んだ。ましてパタリロと言う会いに行ける魑魅魍魎と関わり続けてきた彼らにとっては世界の終りも「パタリロならなんとかしてくれる」と言う共通認識が出来ていた。

 

 

「ふ──流石に疲れた」

 

 めぼしい人材をあらかた集積し終え宮殿に帰ってきたパタリロ、その額には汗が滲んでいる。タイムストップはパタリロの生命エネルギーを使用するため楽ではないのだ。普段成人男性の10倍のカロリーを摂取しても前菜程度にしならないパタリロが辟易していることがその困難さが窺い知れる。

 

 そんな疲弊した主君を1号が女形姿で出迎える。

 

「おかえりなさいませ旦那様。ご飯になさいますか? それともお風呂に?」

 

「今日は疲れたからご飯に浸かってから風呂を食うとしよう」

 

 用意された巨大な寿司桶いっぱいに敷き詰められたご飯にパタリロは足先からずぶりと入れさながら突き立つしゃもじの様子。

 

「炊き加減は如何ですか?」

 

「うーんいい温度だ。さすがはコシヒカリ、肌への吸い付きが違う。次は風呂にしよう」

 

 ご飯粒を体中にくっつけながら寿司桶から上がるとホカホカの五右衛門風呂用の桶を鋸のような鋭い歯でバリバリと食べ始めた。

 

「風呂のお味は?」

 

「風呂桶が少し水っぽいが湯垢がいい味だしておる」

 

 

 さながら昭和の夫と妻。良妻賢母、三つ指ついて出迎える妻の鏡。これぞ夫婦の理想形。しかしながら堅い風呂桶を咀嚼しながらパタリロは疑問を口にする。

 

「なんかちがくないか?」

 

 

「ようやく気付きましたか殿下」

 

 

 

 

 

「あのアホは魔界の次元の狭間に追放するとして、アスタロト様の方の計算は終わりましたか」

 

「ひえぇ~~~~~お助けをぉ~~~~~!」

 

 1号を四次元ゴミ箱に押し込めながらパタリロはブラウン管を見たがアスタロトはそこにはおらずなんと目の前に、マリネラ宮殿に現れていた。その姿は流石は魔界公爵とも言うべきオーラ溢れる御身であった。

 

「お主らがちんたらやっている内にここまで来てやったぞ。下らぬ漫才など見せおってからに……タイムワープ先は17世紀のマリネラ王国だ。お主の背後霊を調べていたがどうやら一度そこに行ったことがあるようだぞ?」

 

「17世紀? あぁ、僕やバンコランのご先祖がいたあの時代のマリネラか」

 

「ならば準備は万端であろう。早速仲間どもを集めてタイムワープとやらをせよ。今アメリカ大陸が燃え尽きつた頃だ。ぐずぐずしているとマリネラも一瞬で燃え尽きるぞ」

 

「よし! 善は急げだ! 皆は僕の体に捕まってタイムワープの準備をするんだ!」

 

 全身を大きく広げ皆に体を差し出すパタリロであったが彼のブヨブヨとしたお腹やふやけたクリームパンのような手に触れることを皆が嫌がり躊躇した。

 

人理焼却される前に僕が全員焼き殺したろか~~! 

 

 

 皆が火炎放射器を構えるパタリロの圧に屈しそのゴム風船のような体に捕まった。しかし霊感美少年の44号だけがその場に佇んでいた。

 

「どうした44号! ぐずぐずしているからもう掴める部分がお尻と股間しか無くなってしまったぞ! はっ、それともあえて特等席を確保するために待っていたのか……?」

 

 

「違います! 殿下に進言いたします。そこにいるアスタロト様は本物なのですか?」

 

「まだ分からんのか44号。一般人ならまだしも霊能力者のお前がそう強情でどうする!」

 

「だからです! 僕の霊感が告げています。その人物はアスタロトではありません。悪魔とは言え曲がりなりにも世界を救おうとする者の発する気ではないからです! 正体を現せ‼」

 

「なっ──⁉ グ、グゥアアァァァァアアア────‼」

 

 44号は手を翳し、魔力を込めると不可視の妖力を込めた。不意を突かれたアスタロトだった者はその端正であった姿は見るも無残に崩れ落ち、醜悪な触手と奇怪な目玉を持つ不気味な生物へと変わり果てた。

 

「あぁ! アスタロト様でない⁉ お前はいったい誰だ!」

 

「グ、ググググッグ────ワ、我ハ……ソロモン72柱ノ一柱アスタロト。人理焼却ヲ完遂スベクソロモン王ニヨリ遣ワサレタ終末ノ使徒デアル」

 

「ソロモン王! 本物のアスタロト様はどうした!」

 

「アスタロト……アスタロト……魔界公爵ヲ司ルアスタロトハ頑強二抵抗シタ。故二我ガ本来ノアスタロトヲ吸収シ苗床トシタ」

 

「何だって⁉ アスタロト様が!」

 

 

「人理焼却ヲ成シタ今、ソレヲ修正スル可能性ヲ持ツカルデアハフラウロスガ対処シテイル。シカシ、コノ座標二カルデアト同等カソレ以上ノ危険性ヲ感知シタ。100ヲ1ニスルダケデハ意味ナシ。1ヲ0ニスルガ我ガ使命」

 

 

 

 魔神柱アスタロトは強力な魔力を発し44号を狙った。精神力でバリアーを張るが一人の人間ではどうにも出来ない。命を奪う魔力の怪しい輝きにこれまで、と思った44号だが寸前で飛び込んだパタリロに突き飛ばされ難逃れた。

 

 

「大丈夫か44号!」

 

「殿下! 僕のことは構わず皆さんとタイムワープをして下さい‼」

 

「バカモ──ン! ボクは王だぞ! 王が国民を見捨てて良い筈があるか! 人類はもう数えるほどしか生き残っていないんだ。だからこそ一人も欠けずにこの戦いを生き抜くんだー!」

 

 

 初撃を回避された魔神柱は冷静に再度そのギョロギョロと動き回る巨大な眼球の焦点をパタリロに合わ光線を撃とうとする。しかし一発の銃声が轟き複数あ単眼の一つに命中した。

 

 

「まだ状況がよく呑み込めんがこのデカ物を始末したほうがよさそうだな」

 

「おお! バンコラン! 流石の早撃ちだ!」

 

 タイムワープ準備の為にパタリロに引っ付いていたバンコランたちも何時に無いシリアスモードのパタリロに感化されすっかり戦闘モードになり応戦に加わろうとしていた。

 

 死神をスポンサーに持つといわれるバンコラン。

 あらゆる暗殺術をマスターしたマライヒ。

 ロリコン絡みではバーサーカーになるヒューイット。

 自身の体温を零下32℃まで低下させるミハイル。

 未来予知えお可能とする占い師ザカーリ。

 アトムとサイボーグ009を合体させた万能ロボット一家 プラズマX、プララ、aランダム、エレクトラ=マンドラ

 空飛ぶマントを羽織りスーパーマンの如き超人的な身体能力を有するスーパーキャット

 世界中のあらゆる諜報機関を出し抜く驚異的な諜報力を持ち破滅的な整体技能をも持つ間者猫

 

 どいつもこいつも人間なのか大分怪しい連中ではあるが実力は一国の軍隊も手玉に取れる実力者たちだ。案外イケるのではないか? パタリロの脳裏にそんな淡い希望が湧き出たその時────

 

 

 魔神柱が────―嗤った。

 

 

 

「愚カ愚カ愚カ愚カ愚カ──! 知性体ト称スルモ下劣ナ無知蒙昧ナル存在ヨ。運命ハ既二確定シタ! 消エ去ルガイイ────殺‼」

 

 

 

 

 

「ああ⁉ そ、そんな馬鹿な──!」

 

 

 パタリロは目を疑った。いや、いっそのこと目を潰してしまいたかった。

 

 

 あれだけ頼もしいと感じていた仲間が、部下が、家族たちが────一瞬で、目の前で、悲鳴も血飛沫も無く、無残に、あっけなく、音もなく四散した。

 

 

 ──いや、当然だ。そも神秘の世界の存在に人間が敵うはずがない。ましてや相手は魔界屈指の実力者のアスタロト様を取り込んだ存在だ……ボクたちは始めから、詰みだったのか⁉

 

 

「邪魔者ハ抹殺シタ。特機戦力パタリロノ抹殺ヲ開始スル」

 

 

 パタリロは自前の天才頭脳でこの危機の打開策を考えた。しかし、されど、残念ながら、誠にお気の毒ですが、〝死″あるのみであった。

 

 

「まだあきらめるには早いですよパタリロ!」

 

 

 絶望に満ちたパタリロの頭上で突如として光が降り注いだ。その光は魔神柱の放つ魔力を弾きパタリロを守る光の防壁となった。

 

「フィガロ⁉ いや、ミカエルか‼」

 

 パタリロの前に立ち鋭い視線で魔神柱を見据えるのはフィガロ・バンコラン……もとい、フィガロと言う赤子に姿を変え人界に降臨している大天使ミカエルなのであった。

 数千年後の人類が同性の間でも子を成しても良いかどうかという壮大な実験の第一号として自ら志願し男のマライヒのある筈のない胎内に宿った存在である。

 

「私が時間を稼ぎます。貴方は今度こそタイムワープを行い特異点を修正するのです。そうすれば今日この世界で死んだ命もまた修正され元に戻ります」

 

 

「そうか! その手があったか!」

 

「ミカエル⁉ 何故! 何故! 何故! 何故! 熾天使ミカエル⁉ 計算外! 計算外! 直チニ問題ノ修正ノ掛カル‼ 抹消! 抹消! 抹消 抹消! 抹消────‼」

 

 

 

「くっ──‼ パタリロ! 長くは持ちません! 早く! 行って──!」

 

 

 

 必死のミカエルの言葉にパタリロは背を向け集中した。タイムワープをマスターしたパタリロにとって精神集中など本来は必要無かったがそうでもしなければとても耐えられなかった。

 

 世界のすべてを見捨て、不確かな希望を追うことが本当に正しい事なのか? だが、パタリロはそれ以上考えることを止めた。

 

 

「パタリロ……世界を、父と母を────頼みます」

 

 

 

 

 

「タイムワープ!」

 

 

 パタリロがその言葉を叫んだと同時にマリネラ宮殿、ひいてはマリネラ国中が火の手に包まれた。パタリロの姿は何処にも無い。燃え尽きた訳でも瓦礫に押し潰された訳でもない。影も形も無く世界から忽然と消えてしまった。タイムワープは成功したのだ。

 ミカエルだった光の残光が立ち消え崩壊し焼き尽くされるマリネラ宮殿を眼下に魔神柱アスタロトは機械的に告げる────

 

 

 

「報告、人理焼却ヲ確認。シカシ、特機戦力ノ抹殺ヲ失敗。失敗。失敗。時空間ヘノ干渉ヲ確認。コレヨリ副次プランヘノ移行ヲ要請……要請……了承確認。時空間ヘ干渉。対象ヲ抹殺カラ追放トス────」

 

 

 

 

 

 

 かつて一人の主人公と少女によって救われた世界があった。

 

 だがそこには重大な見落としがあった。

 

 遅すぎた救済、早すぎた救済。

 

 

 カルデアのマスターが訪れるは狂喜が満ちる島に聳える血塗られたダイヤの宮殿。

 

 そこで出会うは全てを失った一人の国王。

 

 

 

亜種特異点■ 人理定礎値:不定

 AD.17■■ 永劫常春狂喜国家マリネラ

 

 

 




パタリロの素晴らしい所は疑問は全てパタリロだからで解決するところ。
原作者の素晴らしい所は明らかに資料を見て書いたであろう背景や乗り物をめちゃくちゃ適当に登場させる懐の広さ。


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