東方家執霊 作:紅い霧を吐く蟻
幻想郷では、畑作で生計を立てる者が一定数いる。
だが、外の世界ならともかく、幻想郷では畑作は安定しない。ほとんどは自然任せ、人間が出来るのは愛情を注ぐだけ。
そんな中、ある家。
「もう、駄目だ...」
霜がおりた野菜を手に取り、諦めたように呟く男。
今年の異常な冷害のせいで、野菜はもはや売り物にならなくなった。当分は生活を切り詰めていく必要があるだろう。
しかし、彼には妻と生まれたばかりの子供がいた。
「どうしたらいいんだよ...」
涙が男の頬をつたった。
「すまねぇ」
男は、右手に鍬を持っている。そして目の前には、地面に置かれた赤子が、彼の実の子がいた。
男は鍬を壊れんばかりに握り締める。流れる涙は止まるところを知らず、歯ぎしりの金属音が辺りに虚しく響いた。
「すまねぇ、すまねぇ×××」
そして、彼は覚悟を決め。
鍬で赤子の頭を砕いた。
「うぶっ...グゥェ...」
男の力強く握った手に、命を奪う感触が伝わってきた。
その瞬間に彼の拳は解け、鍬は音を立てて地面に落ちる。
嘔吐物が目の前を汚していく。そこで、彼は自身が下を向いていることに気づいた。
一頻り吐き終わったあとで、家の近くに我が子の亡骸を埋めた。
枯れない涙を流しながら。
「...ごめんなさい、辛い事を」
「おめぇが謝る事じゃねぇ」
彼の伴侶は、床に伏している。曰く、出産の毒で下半身が動かなくなったのだと。
それ故に、彼は日雇いの仕事を止め、畑作を始めたのだ。結果は凄惨たるものだったが。
「次はせめて、いい所に生まれて欲しいねぇ」
すすり泣きながら言う女性。その姿に、心が痛む。
「...頑張るしかねぇよな」
人里でとある事件が起こった。
花果子念報によると、
『某日、中年男性が白玉楼の庭師に包丁で斬りかかった事件が発生した。詳細については判明していないが、怨恨からの犯行と思われる。裏付けるように、目撃者から寄せられた情報では「お前達が春を奪わなければ」といった旨の発言をしていたとの事。』
「てめぇらが、春を奪ったから...ツレも、子供も死んじまった!全部てめぇらが...」
大声で捲し立てる男。誰あろう、あの畑作を営んでいた男である。口減らしに子供を葬った彼であったが、あの後で伏していた女性も逝去したのである。
その時の慟哭は、人里でも話題となっていた。元々この男は人里の中で厄介がられていたため、ある種人々から注目されていたのだ。
妖夢は、浴びせられる声に一切反応することなく淡々と答える。
「私には子供がいないので、貴方の気持ちは理解できません。ですが、同情することは出来ます」
そこで妖夢は一息吐き、叩きつけるようにぴしゃりと言葉を放った。
「それを踏まえた上で言いましょう。
男は愕然として、言葉を失った。
そして、悪鬼の如き表情で妖夢を睨み付けた。
「殺す」
袂に入れていた包丁を構え、体当たりを敢行する男。だが、そんな素人の攻撃は呆気なく避けられ、無力化された。
「クソッ...クソッ...!」
その後、男には同情出来る点があるとして保釈となった。だが、家に帰ったところで彼の家にはもはや誰も居ない。
その夜。
かつて赤子が埋められていた箇所から、白く小さな手が地中より這い出した。さらに地面は盛り上がっていき、遂には童女が登場した。
その召し物は地面から出てきたにも関わらず一切の土汚れはなく、不気味なほど白い肌をより鮮明にしていた。
彼女は、種族としてはたたりもっけとなる。赤子の怨みの具現化とも言えるだろうか。だが、赤子が怨みを抱くことがあり得るのだろうか。
実は、男が赤子の頭を砕いた時点では、赤子はまだ生きていた。それは刹那ではあったが、赤子の今までの記憶が甦るには充分すぎる時間であった。
死に至るまでの数刻、赤子は先祖から伝えられた怨み辛みを鮮明に思いだし、自分を殺した男を、そして世界を呪った。
なんにせよ、彼女がたたりもっけと成ったからには家に訪れるのはたった一つ。絶対的な不幸である。
だが彼女は家の中を覗いた時、思った。
(これ以上の不幸は与える事が不可能だ)
と。
そして、彼女は家から離れた。次に、自らの存在意義を考え始めた。
一応性転換してるよ。
理由としては、たたりもっけと座敷わらしが同一視されてるから。
いやまぁ座敷わらしがみんな童女じゃないんだけど。