東方家執霊 作:紅い霧を吐く蟻
「よく寝たねー」
確かによく寝た。寝過ぎるほどに。
適当なところで目を覚ましていれば、こんな攻め苦を受けなかっただろうに。いやまぁ、決して苦しくはないのだけど。
「んふふ、くすぐったいよー」
気づかぬ間に息を荒くしていた。仕方ないことだ。
解放してくれよ。
「あの、ちょっと」
「ん?あ、苦しかったかな?」
「少しだけ」
「どうせだし、もう少し抱かせて。ね?」
そんな顔でお願いしないで欲しい。断れないじゃん。
というか、このままだと心地好すぎて二度寝してしまう。
「最後に、ぎゅ」
ひときわ強く、ぎゅってされた。
それなりに力強く抱かれたはずなのに、柔らかさだけ感じる。
母親の愛情はきっと、こんな感じなんだろうなぁ。
「もうご飯食べる?」
「いや、私は」
どうなんだろう。食べた方がいいのかな。でも、人間は食べたくないなぁ。
それにお腹空いてないし。
「後で食べるのね。じゃあ、朝の散歩しよっか」
「えっ」
蒲団から女性が立ち上がる。そこでようやく、女性がスカートを履いてないことに気づいた。
「どうしたの?」
「いや、その」
だって、上は着てるのに下はパンツって。恥ずかしくて直視できないし、指摘もできない。
「あ、ごめんね。今取ってくるわ」
「お願いします」
よかった、ちゃんと履いてくれるんだ。散歩って言ってたしね。
でもスカートを四つん這いになって探すのは止めて。
「...そういえば、お名前は?」
「あ、そうだったそうだった。今泉影狼っていうの。貴女は?」
「え、と...たたりもっけです、多分」
▽▽▽
「じゃあ、行こっか」
「...はい」
今、私は赤ちゃんのように抱かれている。
これは仕方ない。私が寒いって言ってしまったのが悪い。
でもこの体勢は、恥ずかしい。いっそ精神も子供だったらよかったのに。
「この竹林は静かでいい雰囲気よね。私、大好きなの」
「なるほど」
羞恥心のせいであまり景色を観てなかったけど、確かにいい雰囲気だ。
風が葉を揺らすさわさわ、という音以外何も聴こえない。
「あの、もう寒くないので」
「そう?」
ほんとはまだ寒かったけど、これくらいなら我慢できる。
それよりも、抱かれっぱなしの方が私にとっては不味い。
「じゃあ手を繋がないと」
「だ、大丈夫です」
「ダメ。この竹林はすぐに迷っちゃうんだから」
私の小さな手を、影狼さんの綺麗で柔らかな手が包む。
なんで女性の体って、こんなに柔らかいんだろう。
「あ、兎がいる」
「どこ?」
「彼処です、彼処」
指を差した方角には、かなり小さな兎が一匹いた。気づかれて逃げられてしまったが。
「あ」
影狼さんは逃げていく小兎と握った手を交互に見て、残念そうに溜め息を吐いた。
もしかして狙ってたのかな。狼だし。
「ねぇ、帰ったらすぐご飯にしない?」
「オーケーです」
▽▽▽
さて。いい加減、此所を出ることを視野に入れないと。
影狼さんはかなりいい人...妖怪だけど、頼りっぱなしになるのは申し訳ない。
「お茶、おかわりは?」
「お願いします」
ストーリーの進行は、かなり遅くなるかなぁ