東方家執霊 作:紅い霧を吐く蟻
「友達ですか」
「うん。わかさぎ姫っていう子なんだけどね」
今は霧の湖という処に向かっているらしい。
つい最近紅い館が出現して、困っているとかなんとか。
館が出現って。此処は幻想郷だから不思議じゃないんだろうけど。
「おーい、姫ー!」
「聞こえてるわよ」
「うわっ」
思わず声を出してしまった。
目の前の岸際から、いきなり現れたものだから。
「うわっ、てなによ。失礼な子ね」
「ごめんなさい」
「頬っぺ貸してくれたら許してあげる」
両手を広げて待ち構えるわかさぎ姫さん。影狼さんが背中を押す。
どうやら貸すしかないみたいだ。
「おぉ...想像以上にやらかい...」
私の頬がなすがまま。
まぁぜんぜん痛くないからいいけど。
「あーかわいい」
「んぐ」
抱き締められた。なんで。
しかもこの人も大きいし。着物ごしでも温かいし柔らかい。
「姫、ズルいわよ。私も混ぜなさい」
挟まれてしまった。
前と後ろからぎゅうぎゅうされる。
「く、苦しいです」
実際は全く苦しくないし、ずっとされていたいけど。
ただ、この状況がひどく不味いのは解りきってるので。
「影ちゃんったらズルいわー。こんなに可愛い子を飼うなんて」
「飼ってはないわよ」
▽▽▽
わかさぎ姫さんは人魚だったのか。
水から出てこないから不思議だと思ってたけど。
「貴女は何の妖怪なの?」
「あ、たたりもっけです...多分」
「多分って何よ」
「いえ、間違いなくたたりもっけです」
そのはずだ。確証は無いけど。
記憶から言うと、たたりもっけと呼ばれている妖怪で合ってると思うのだが。
「貴女みたいに可愛い妖怪がいるのねー」
「あ、ありがとうございます」
貴女も美しいですよ、とは言わなかった。
恥ずかしいし。
「姫だって綺麗よ」
「影ちゃんもね」
ふふ、と笑い合う二人。あぁ、何かいいなこういうの。
私なんかが居ちゃいけない、不可侵領域ではなかろうか。
▽▽▽
「ねぇ、言いたい事があるんじゃないの?」
帰り道でいきなり影狼さんに訊かれた。
狼狽しないように努めた。
「...言いたい事ですか?」
「うん」
目線を合わせてくる影狼さん。
完全に気づかれているよねコレは。
「...私、近々影狼さんの家から出て行こうと思ってます」
「どうして?」
冷静に聞き返してくる影狼さん。
全然驚かないし、もしかして勘づかれてた?
「だって、私...影狼さんに迷惑かけてばっかりで」
「え?」
ここで驚くのか。さっきのじゃなくて。
「何にも返せてないし...お世話になってるのに」
「ふふっ...」
笑われた。
心外だ、真剣に思ってたのに。
「いい子だね、君は」
頭を撫でてくる影狼さん。嬉しいけど。
「いいんだよ。勝手に君を養ってるだけなんだから」
「でも...」
「はい、ぎゅーっ」
煩いと言わんばかりに抱きしめられた。
胸で口に蓋をするとは。
「ここに、ずっと居てもいいんだよ?」
耳元で燻る、甘い声。
そして、此処に居ることは不可能だと解った。
これ以上居ると、私は甘え尽くしてしまう。
「...そっか」
何かを察したように影狼さんが私を放す。
それから、家に着くまで何も言わなかった。
あれ、これって主人公が甘やかされるだけの作品になってない?