東方家執霊 作:紅い霧を吐く蟻
夜、蒲団の中。
いつもは私を抱いて寝る影狼さんだけど、今日は違った。
「......」
確かに寝ているのを確認して、こっそりと蒲団から抜け出す。できるだけ音を立てないように。
「...影狼さん、お世話になりました」
最後に小さな声でそう言い残して、家を出た。
▽▽▽
夜の竹林は、私を簡単には逃がさなかった。
どこを見ても同じ景色が目に入ってる気がする。
「ひゃあ」
がさり、と竹が揺れた。もしかしたら妖怪かもしれない。
びくびくしながら影を待っていると、出てきたのは小さな兎だった。
「...なんだぁ」
ほっ、と胸をなでおろす。
だが、気を抜いてはいられない。次に出てくるのは本当に妖怪かもしれないのだ。
気合いを入れなおし、歩きだす。
▽▽▽
「ここ、どこ?」
もう大分歩いたはずなのに、まったく竹林から抜け出せずにいる。
竹林というのは、真っ直ぐに歩いたら抜け出せるのではなかったか?
「だれかー...」
当然、誰の返事もない。
今、私は絶対的な孤独の中にあることを知った。
「ううぅ」
途端に、寒さが私を包んだ。歯の根が合わなくなり、体がガクガクと震える。
その場に縮こまったまま、動けなくなった。
「だれか、いないの?」
縋るように這い出た言葉も、冷たい闇に溶けるだけだ。
涙が後から後からでてきて、止められない。
「おーい」
「...え?」
声が、した。
▽▽▽
「言ったでしょ?すぐ迷っちゃうって」
「ごめんなさい」
影狼さんに力いっぱい抱きついて、泣きながら謝る。
助けに来てくれた影狼さんの体は、前より温かかった。
「このままだと苦しいよ?明日にしよう?」
「...うん」
疲れがどっ、と襲ってきた。
また、影狼さんに甘えちゃうなぁ。でも、目蓋が重すぎて耐えれないや。
▽▽▽
目を覚ましたら、蒲団の中だった。
影狼さんが抱きしめてくれてる。
「温かい」
ぎゅっ、と抱きついてしまった。
「起きた?」
「はい」
朝ごはんを食べさせてもらった。
普通の人間と変わらないような食事だった。
その後、竹林の出口まで案内された。
「もう、お別れだね」
「...はい」
「辛くなったら、いつでも来てね」
抱きしめてくれた影狼さんが、耳元で囁いた。
▽▽▽
人里の近く、壁のすぐ側。
私はかなり真剣に悩んでいた。
「私って、人里に入っていいの?」
いや、間違いなくダメだろう。だって妖怪になってるし。
でも此処が一番安全だから、どうしてもこの中には入りたい。
「一体、何をしてるので?」
背後から声をかけられた。
私は人里の方を見てたから、声の主は人里とは逆の方向にいる。
つまり、人里から出てきた者ではない。
「あら、貴女は怨霊...いや、たたりもっけかしら」
「!」
早くも正体を看破されてしまった。
意を決して振り返ると、万年筆を持った人が─今までの記憶からすると新聞記者に近い人がいた。
「まさか、人里への侵入をお考えですか?」