東方家執霊 作:紅い霧を吐く蟻
私は暫く口をつぐみ、その人を見ていた。
普通の人間だと思っていたのだが、だとしたら何故こんな場所で逢うことがあるだろうか。つまり、妖怪である可能性がある。
「困るんですよねぇ、貴女のような出来損ないの妖怪は」
やれやれ、といった風情で溜め息を吐く女性。
もしかしたら馬鹿にされているのかもしれないが、そんな事はどうでもよかった。気になったのは、出来損ないという点だ。正体がバレているかも?
「とっとと消えた方がいいですよ。どうせ何も出来ないのですから」
「...貴女は、何ですか?」
「はい?」
「妖怪、ですよね?」
風が、強くなる。
どうやら女性は妖怪のようだ。
「消えなさい」
それだけ言って、女性の姿は消えてしまった。
▽▽▽
どうにかバレないように、人里に忍び込んだ。
多分、あの女性も人里にいる。出来るだけ逢わないようにしなければ。
「地図...欲しい」
ただ、何処を探しても地図は見つからない。
地図が要らないくらい狭いのか、もしくは単純な区画なのか。
「おっと...?」
思わず隠れる。とある店の先に、あの女性がいた。
多分、取材中。やはり新聞記者だったのだろうか。
─もしかして、妖怪だという事を隠してる?
だとしたら、私に妖怪だと言われてあんな風になったのも納得出来る。
それは、活用出来るかも?
▽▽▽
「ちょっと、すみません」
「はいはい、何でしょう...」
振り返った姿勢のまま、女性は固まってしまった。
しかしそれも一瞬だけで、すぐに平静を取り戻した。
「何かご用でしょうか?」
「はい。少し話したい事があるんです」
私達は近くの団子屋に入った。注文したのはお茶だけだったけど。
「...まず、私の方から質問しても?」
「どうぞ」
「確かに消えろと言いましたよね。お覚えですか?」
「覚えています」
女性はお茶を飲み、口を湿らせた。
「そうですか。そして、入ったと」
「そういう事になりますかね。次は私から話をしても?」
出来るだけ下に見られないように、虚勢を張って話す。
効果があるかは知らないけど。
「どうぞ」
「ありがとう御座います」
私もお茶を飲んで、話す準備を整えた。苦味は濃いけど、決して飲めないことはない。
「貴女は、妖怪である事を隠していますよね?」
▽▽▽
ごとん、と重気な音がした。
視界は完全に逆転したままで、みるみる内に掠れていく。
金切り声が聴こえた。誰かが叫んだのかもしれない。
喉の断面から、血が流れ出ていくのが判る。だから目が映らなくなってきたのだろう。
▽▽▽
そこで、現実に戻った。
殺意とは、こうも在然とした幻覚を見せるものなのか。
「殺しますよ?」
「......脅すつもりはなかったのですが」
ここらが引き際だろうか。恐らく、これ以上踏み込めば本当に死ぬ。再度。