今日からプロ野球はとうとう交流戦が始まりますね。いったい何処が優勝するのでしょうか。とても待ち遠しいです。
では本編どうぞ!
『大丈夫だよ、もうモンスターは倒したから』
ファインがそう言うと、少女はゆっくり目を開ける。そしてモンスターが消滅したのを確認すると、緊張の糸が解けてその場にへたり込んでしまった。ファインは急に倒れた少女に慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫?あ、ポーションだよ。飲んで」
ファインは体力が残り少ないだろうと思い、自分の持ってるポーションを少女へと渡す。しかし少女はファインの姿を改めて見ると怯えだした。その理由はファインが素手だからだったからだ。
『素手で現れる者は茅場の犬に憧れている狂信者だから』
ファインはここに来る前にそう言われたのを思い出した。そして察した。彼女は
実際にファインの考えは当たっていた。『素手でいる者はファインの狂信者、そして悪党』それがこの世界での一般常識だからだ。当然、シリカもその事を知っている。
信者は全員悪に憧れただけの厨二のチンピラだった。彼等はファインがどんな事をしたかも知らずに、たた茅場の犬で尚且つ、このソードスキル無しじゃ生き残れないと言われている世界で素手のみで生き延びているという情報を元に悪の帝王だと崇めたのだ。そしてそんな奴等が結成したのがオレンジギルド。
だからシリカはこの男が助けてくれたとしても素直に喜べないのだ。どうせ自分を助けたふりをしてたらし込み、酷い事をする気なのだと思い息を呑む。普段なら関わってもロクな事にならない為、無視するのが定石だ。幸いな事に狂信者はこぞってレベルが低い。理由は簡単、剣を持たず、体術スキルだけで戦っているからだ。ファインが戦えているのは彼が異常なだけだ。体術スキルでは大した威力は出ない。結果的に彼等の狩場は決まってレベルの低い下層だった。そのため、複数相手ならまだしも、単体なら中層プレイヤーは対処出来るレベルなのだ。だからファインに忠告した男も、犯罪者の可能性があるファインに対してあそこまで強気でいられたのだ。
だが、いくら単体とはいえ、今のシリカの体力は残りわずか。ポーションも切らしていた。しかも紛いなりにも中層のモンスターを倒す程度の力はある。彼の機嫌を損ねるのは自殺行為なのだ。状況が悪過ぎる。例え、受け取りを拒否して彼の気分を逆撫でする結果にならなかったとしても、ポーションを受け取らなければ森を抜ける前に遭遇したモンスターにトドメを刺されるのがオチだろう。
「ありがとうございます。頂きます」
ならばとシリカは、なら少しでも助かる道を選んだ。もしかしたらこのポーションが麻痺が付与されていて酷い目に遭わされるかも知れない。だが、自分を待ってくれているであろう家族や友人の為にも、少しでも生きる可能性があるならとそっちに賭けたのだ。シリカはファインから怯えながらポーションを受け取り、一呼吸置いてから口に含む。するとみるみると体力が回復し、安全圏まで回復したのだ。しかも状態異常に掛からない。正規のポーションだった。シリカはとりあえず安心して息を吐く。
「大丈夫?」
そんなシリカをファインは心配の声を掛ける。彼女の怯え様から、もしかしたら辱めを受けるくらいなら自ら死ぬと言い出すかと思いヒヤヒヤしたが、思ったより強い子で安心する。
「は、はい。ありがとうございます。私は助かりました………あっ」
シリカもファインが素手という事は置いといて、自分を助けてくれた事に感謝する。しかし危険を回避した事で頭が冷静になり、自分の大切な友達が死んでしまった事を再認識し、ポツリ、ポツリと涙が溢れ出した。
「お願いだよ……あたしを独りにしないでよ……ピナ…」
既に怒りと恐怖の対象は消え、残ったのは最愛の友を失った事によるとてつもなく深い悲しみと、喪失感だった。涙が頬をとどめなく流れ落ちていく。その言葉を聞いてファインは無力さを嘆いた。助けたと思った。守りきれたと勘違いしていた。しかし現実は違った。彼女と一緒にいた子を助ける事が出来なかったのだ。2人いたのなら両方助けなければ救ったとは言えない。ファインは自分の実力の低さを呪った。
(何が強くなっただ。人1人守れてないじゃ無いか。ゲーム内で強くなった程度で浮かれやがって。全然駄目じゃ無いか!他の人より少し強いからって調子に乗りやがって。お前は孫悟空であって孫悟空じゃ無いんだ!ならゲームクリアまでもっと必死になれ!)
「すまなかった。君の友達を救えなかった癖に救えた気で話しかけて、不謹慎だったよ。もう1人いるとは思わなくて」
自分で言ってて情けなくなる。何故言い訳をした。保身に走ったのか。弱い、力だけじゃ無い、精神まで。孫悟空の名でこんな事、恥晒しもいいとこだ。そうやってネガティブ思考を繰り返していると、シリカが涙を堪えて声を発する。
「いえ……あたしが、馬鹿だったんです………助けてくれて、ありがとうございます。………それとあたしは1人です。…ピナは……あたしがテイムしたモンスターです」
「テイム?……ビーストテイマー」
「はい、恥ずかしながら…元ですけど」
そう言われたファインはビーストテイマーの話を思い出す。モンスターをごく稀にテイムに成功する者。それが彼女だったのだ。最初は人ではなかった事に安堵するが、直ぐに考えを改める。人だろうがモンスターだろうが彼女にとっては大切な友達だ。それが死んだのに安堵する自分の愚かさにますます嫌気が差す。自分は今日一日で孫悟空という名を何度汚しているのだと。自己満足かもしれないが、せめて彼女を元気付けたい。そう思ったファイン。その時、通りすがりの男達の会話の内容を思い出す。
「……⁈シリカちゃん!」
「は、はい。なんでしょうか?」
急に大声を上げたファインに驚くシリカ。
「シリカちゃん、ピナはモンスターと言ったな」
「はい」
「俺はビーストテイマーについてお世辞にも詳しいとは言えない。それにガセ情報かもしれない、君をぬか喜びさせてもっと悲しませてしまうかも知れない。それでも聞くか?」
「……言ってみて下さい」
「あまりに期待しないで聞いてくれ…もしかしたらピナを生き返らせられるかも知れないんだ」
「え⁉︎」
ファインのその言葉に涙が引っ込むほど強く反応したシリカ。そしてファインは今日聞いた噂話をシリカに話した。
「……て話を聞いたんだ。だからもしかしたら君の友達を生き返らせれるかも知れない。どうする?」
「…どうするって?」
「この話はガセと聞き流し、無視するか。それともこの話を信じ、ピナが生き返る方法を探すか?実際にこの話に確証がある訳じゃない。ガセだった場合、余計に悲しい思いをするかも知れない。それでも探すか?」
「……」
「もし探すなら俺は全力で君を手伝うよ。知り合いの情報屋から使い魔蘇生用アイテムについての情報を片っ端から買っていく。君に危険が及ばない耀余ってる防具も譲るよ。どうする?」
シリカはそう言われて少し間を開ける。しかし、考える余地を無く、彼女の答えは決まっていた。ただ覚悟を決めているだけだ。この恐怖のデスゲームで、色んな面でサポートしてくれたピナ。その子が生き返る可能性がある、断る理由は何処にも無かった。
「探します。探してピナを必ず生き返らせたいんです!だから……ご協力お願いします!」
「良し分かった。それじゃまず街に戻っては宿をとろう。君も疲れただろう。今日のうちはゆっくり休め。その間に俺が情報を集めるから」
「で、でも」
「気にすんなって。君の友達を助けられなかった罪滅ぼしさ。このくらいさせてくれ。あ、それと俺の名前は……」
ここで問題が起きた。自分の名前をどうすればいいのか。ファインはアウトだ。自分は犯罪者ですと名乗り出るものだ。ならばどうするか、あまりにも遅れると不審がられる。パッと思いついたのは、自分の本当の名前以外に思いつかなかった。
「悟空だ」
「悟空?それって孫悟空伝説の?」
「そっ、その悟空。ガキみたいだけどさ、衝動的に名前にしちまった」
「そうなんですか?それじゃ悟空さん、よろしくお願いします」
適当に思いついた理由としては上手くいったと思う。自分の好きなキャラの名前をゲームで付けるなんてあるあるだ。それが絵本だってだけだ。ファインは自己紹介を済ませると、精神的に疲労している彼女をこれ以上森にいさせる訳にはいかず、彼女を抱き抱えて電光石火で森を駆け抜けた。俗に言うお姫様抱っこになる。彼女はされた直後は顔を真っ赤にして動揺していたが、ファインが走り物凄いスピードで風景が変わり、風を感じる気持ちよさで森を出る頃には少し名残惜しそうにしていたのだった。
ご愛読ありがとうございました。
シリカと協力関係になったファイン。キリトと違い、情報に詳しくないファイン。その為には情報が必要。そしてSAOと言ったらあの方だ。つまり………
では次回もお楽しみに。またね