自重しない日本国を召喚   作:スカツド

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第2話 短気な人たち

第三文明圏 列強 パーパルディア皇国 

 

 明かりがぼんやり灯った狭い部屋、光の精霊とやらの力がオレンジ色にガラス玉を光らせている。壁に映った影は二つ。膝を突き合わせるように近い距離で男たちは国家の趨勢に纏わる話で盛り上がっていた。

 

「ロウリアが戦う前に敗れてしまったそうだな。いったい何があったんだ?」

「それがさぱ~り分からんのです。大部隊と大艦隊を集結させていたら突然の大爆発で全部が燃えてしまったんだとか」

「いやいや、それは報告書に書いてあるけどさ。火事の原因は何なのかなって話だよ。パーパルディアで同じ様なことがあったら怖いだろ?」

「所詮は木造船ですしね。聞いた話ですけど木材をホウ酸で処理すれば難燃性が高まるそうですね」

「うぅ~ん、とにもかくにも今回のロウリアの一件は荒唐無稽に過ぎる。取り敢えず陛下への報告書はその方向で行くしかないな」

「御意」

 

 

 

パーパルディア皇国第三外務局

 

「どうしても局長が無理だというのなら課長でも良いのだが? 君のような下っ端じゃ話にならん。権限を持った者に目通りを願いたい」

 

 日本国外務省特命全権大使の芹沢は語気を荒げた。

 

「もうちょっとだけ待って下さいな。番号札の順で手続きしていますので…… ただし、内容によって順番が前後することもあります。ご理解とご協力をお願いします。とは言え、貴方たちの要求内容を見たところ…… 結構ハードルが高いですなあ……」

「ハードル? 恐れ多くも陛下からお預かりした親書を受け取るだけのことだぞ。これを蔑ろにするのは日本国を…… 延いては陛下を蔑ろにしておるということだぞ!」

 

 芹沢は腹の底から響くような大声で絶叫する。

 パーパルディアの窓口係は耳がキーンとしたので思わず顔を顰めた。

 

「いやいや、順番だって言ってるでしょうに…… しょうがないなあ、そんじゃあお預かりだけはしますから。後でちゃんと責任者に渡しますんで今日の所はお引き取り下さいな」

 

 男は桐の文箱をひょいと受け取ると足元に置こうと……

 

「ぶ、無礼者が! 陛下が御自らお書きになった親書を足元に置くとは…… 許さん!」

 

 芹沢は無造作に刀を抜くと袈裟懸けに斬り捨てた。吹き出す血飛沫を器用に避けると血振るいした刀の残り血を懐紙で拭く。

 

「う、うわぁ~! 医者を、医者を呼べ!」

「警備員は? 警備員は何をしているんだ!」

 

 芹沢は従者を伴って悠然とその場を後にしようとする。しようとしたのだが……

 

「止まれ! 止まらんと撃つぞ!」

 

 廊下の向こうから警備員らしき男たちが小銃を構えて駆け寄ってきた。

 二人の従者は大きめのスーツケースから折曲銃床の自動小銃を素早く取り出すと三点バーストで次々と撃ち倒す。

 

「沖田艦長、芹沢です。奴らが余りにも無礼だったので殺っちゃいました。プランBでお願いします」

「了解、流れ弾に当たらんよう注意して下さい」

 

 芹沢がスマホで報告を入れると直ぐに沖合に停泊している護衛隊群からの砲撃が始まる。

 手筈の通りなら滑走路、ワイバーンの厩舎、竜騎士の宿舎が最優先のはずだ。続いて海軍の司令部、艦艇を片っ端から始末して行く。

 同時にヘリコプター搭載護衛艦から発艦したF-35Bが通常爆弾を王宮や官庁街に投下した。

 

 大混乱に乗じて芹沢たちは武装ヘリによって回収される。

 護衛隊群にありったけの砲弾を遠慮なく撃ち込まれた皇都エストシラントは灰燼と帰した。

 

 

 

 

 

第三文明圏列強パーパルディア皇国から東方に二百十キロ フェン王国

 

 九州から北西に五百キロほどの海上に勾玉を逆さにしたような島が海に浮かぶ。って言うか本当に浮かんでいるわけではないんだけどれも。

 大きさは南北に百五十キロ、東西が六十キロほど。だいたい四国くらいの面積だろうか。

 人口は五百万とも七十万とも言われている。

 って、どっちやねん! 土方艦長は思わず自分で自分に突っ込んだ。

 

「艦長、まもなく首都アマノキ沖に着きますよ。どうしますか?」

「アマノキ側の指示に従ってくれ。ただし座礁にだけは注意してくれよ」

「はいはい、仰せのままに致しますよ」

「しっかし、国交も結ばないうちから護衛隊群を親善訪問させろとはなあ。剣王シハンって奴はせっかち過ぎるだろ。しかもボロ船を用意するから攻撃してくれだなんてさ。砲弾だって一発十万円以上はするんだぞ」

「信管とか装薬まで含めると二十万円くらいはしますよ。まあ、ちゃちゃっと撃ってぱぱっと帰りましょうや」

 

 そんな馬鹿な遣り取りをしている間にも空母打撃群はアマノキ沖合に停泊した。

 

 

 

「剣王、そろそろ我が国の廃船に対する日本の艦からの攻撃が始まりま…… 中止だと! 何があったんだ?」

「それがその、火急の要件が発生したとのことです。ただ……」

「ただ何だ? 早く言え、早く!」

 

 あんたが言葉を遮らなきゃとっくに言ってましたよ! 騎士長マグレブはイラっとしたが強靭な精神力で持って抑え込む。

 

「ただ、代わりに日本の軍船の力を嫌というほど見せて貰えるとの話です。誰か一人観戦武官をよこせと言ってきました」

「観戦武官? 日本はどこかと戦をしておったかのう?」

「先日、日本の友好国クワ・トイネがロウリアと戦になりかけたと聞き及んでおります。もしやそのことではござりますまいか」

「まあよい、誰か一人行って参れ」

 

 たまたま暇そうにしていた王宮騎士団の十士長アインに白羽の矢が当たってしまった。

 

 

 

 アインを乗せたイージス艦はるなは日本海? と言って良いんだろうか? とにもかくにも九州から北西の海を三十ノットでひた走る。

 その時、ふしぎなことがおこった。

 

「未確認飛行物体! 方位三一五、距離四十海里、高度千二百フィート、速度百九十ノット。真っ直ぐにこちらへ向かって来ます。数は…… およそ二十」

「アインさん。いよいよ日本の力をお見せできますよ。目をかっぽじって見てて下さいよ」

「いやいや、目をかっぽじったら駄目でしょう。『刮目して見よ』で良いんじゃないですか?」

「そ、そうですね……」

 

 穴があったら埋めたいぞ。土方艦長は悔しそうに唇を噛みしめることしか出来なかった。

 

 

 

 ミサイルは勿体無いということでワイバーンはCIWSを使って撃ち落とす。

 二十もいたのでちょっと心配したが防御力は貧弱そのものだった。一発当たっただけで死んでしまうとは情けないなあ。拍子抜けしてしまったぞ。

 とは言え、あの弾は一発八万円もするのだ。一騎に数十発は使ったので五千万円くらい使ってしまったかも知れんな。ああ勿体無い、勿体無い。航空戦力は極力、離陸する前に始末しなければならんぞ。それとワイバーン如きにタングステン弾は不要だ。普通の二十ミリ弾で十分だろう。土方艦長は心の中のメモ帳に書き込んだ。

 

 

 

 

 

パーパルディア皇国 皇国監査軍東洋艦隊

 

 提督ポクトアールは甲板に出て南東の空をぼぉ~っと見詰めて佇んでいた。

 現在位置はフェン王国まで百キロくらいだろうか。

 

「竜騎士隊との通信が途絶しました」

「どゆこと?」

「さぱ~りわかりません。分かってたら先に言ってますって」

「それを調べるのがお前の仕事だろうが!」

 

 皇国監査軍東洋艦隊の二十二隻は風神の涙が発する風を帆に受けて南東へとひた走る。

 大海原を進むこと暫し。水平線の向こうに何かが見えてきた。

 

「この辺りに島はありません。おそらく艦船と思われますが…… 凄く大きいです!」

「なんじゃこりゃ?! 馬鹿デカイな。あんなのフェン王国にあったっけかな?」

 

 敵は八隻? だが、大きさと速さが異常だ。あんなのと戦って勝てるのか?

 こっちの数は三倍近いとは言え個艦の大きさが違い過ぎるぞ。あんな大きな船だ。きっと何百人も乗ってるに違いない。

 

「総員、戦闘配置に着け! これは訓練では無い! これは訓練では無い!」

 

 副長の絶叫で提督ポクトアールもようやく肝が座ってきた。これは腹を括るしかないぞ。

 

 火矢の先っぽに巻いたボロ布を油に漬けると巨大なバリスタに装填する。

 敵の矢を防ぐための矢盾が隙間無く並べられる。

 切り込み隊は甲板に整列すると今か今かと接舷を待つ。

 

 そんなことをしている間にも小島のような巨大船はどんどん近付いてくる。信じがたいことだが常識外のスピードが出ているようだ。もしかして三十ノットくらい出てるんじゃなかろうか。

 

「ぶつかるぞぉ~! 避けろぉ~! 避けろぉ~!」

 

 誰かの叫び声が聞こえる。そうは言うが、こちらは二十二隻もの大艦隊なんだぞ。バラバラに動いたらぶつかってしまうじゃないか!

 

 その直後、ポクトアール提督の乗った戦列艦は護衛隊群と真正面から激突した。

 

 

 

 

 

「どうだ? まだ浮かんでいる奴はいるか?」

「一隻残らず全て沈んだ模様です」

「アインさん。如何でしたかな? 日本の力は?」

「先ほどと言い、今の艦隊と言い…… アレはパーパルディアではありませんか? 日本は彼の国と戦をしておるのでしょうか?」

「いやいや、まだ戦というレベルではないでしょう。せいぜいが懲罰といった所でしょうかね。まあ、向こうの出方次第でどうなるか分かりませんけれども」

 

 土方艦長は意地の悪そうな笑みを浮かべた。

 

 

 

 日本国とパーパルディア皇国の初の海戦は日本側の圧勝で終わった。

 パーパルディア艦隊にはただ一人として生存者ははおらず、パーパルディア史上唯一の生存者のいない海戦となった。

 

 

 

 

 

フェン王国 首都アマノキ

 

 話は数時間ほど遡る。

 せっかく用意した廃船(ハルク)に傷の一つも付けることもなく逃げ去った日本国の護衛隊群。その体たらくを見た各国武官は呆れ果てていた。

 

「約束を破るだなんて最低だな、日本の連中は!」

「違約金とか請求した方が良いんじゃありませんか?」

「あの廃船はどうすんですか。すっごく邪魔なんですけど?」

 

 日本がいなくなった途端に罵詈雑言の応酬が始まる。

 

 文明圏外国の武官たちは自分たちの理解を越えた巨大艦に呆れ返ると同時に、デカイだけの見掛け倒しなんじゃないかと考え始めていた。

 あの国と関わっても益は無いな。振り回されるだけ損だぞ。

 フェン王国軍際のゲスト枠で来たんだからフェンと友好関係なんだろう。

 そうなるとフェン王国とのつきあい方も考えた方が良いかも知れんぞ。臭い物には蓋をせよ。可愛い子には旅をさせよ。頭と尻尾はくれてやれ……

 

 後にフェン軍祭の大脱走と言われたアクシデントの後、日本国の評価は大暴落することになった。

 

 

 

パーパルディア皇国 工業都市デュロ

 

 街の遥か上空に点みたいに小さな物が飛んで来た。その直後に滑走路、ワイバーンの厩舎、竜騎士の宿舎が大爆発する。

 時を同じくして港湾に停泊した軍船から次々と火柱が上がった。

 

 暫しの後、今度は工場地帯が火の海となった。とてもではないが消火などできそうもない。地獄の業火の様な炎は三日三晩に渡って燃え続ける。

 だが、その原因はいったい何なのか。それはどこの誰にもさぱ~り分からなかった。

 

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