中央歴1639年6月15日
外務大臣の新見は神聖ミリシアル帝国を訪れ国交を開いた。
同時にカルトアルパスやルーンポリスへの航空便の相互乗り入れが決定する。
日本企業も参加した空港拡張事業が始まった。
滑走路の補強や延長、付帯施設の建設は三交代の突貫工事の末、僅か一月で完成する。
並行してムーのマイカルやオタハイト空港の拡張も完了した。
中央歴1639年8月1日
ムーの北側を大回りして護衛隊群が南西方向へと進んで行く。
日本国外務省特命全権大使の芹沢はヘリコプター搭載護衛艦いぶきのCICでモニターを見詰めていた。
高度四万フィートを飛ぶF-35Bの捉えた映像が大写しになる。オペレーターは手慣れた物といった手付きでマップ上に滑走路や厩舎、宿舎をマーキングして行く。
芹沢は軽く鼻を鳴らすと吐き捨てるように呟いた。
「山南艦長、個艦の能力はパーパルディアと同レベルのようですね。数もせいぜい四十隻といったところでしょうか。パーパルディアどころか下手したらロウリアよりもチョロそうですよ」
「ひょっとしたら本艦一隻の即応弾だけでも余裕で片付けられるかも知れません。とは言え、芹沢さん。今回は穏便に頼みますよ。せっかく三週間も掛けてやって来たんですから。二万キロも離れた所で戦争するって補給が大変なんですからね」
「分かってますって。私だって無益な殺生は避けたいんですから。だけどもパーパルディアのアレは陛下の親書を粗末に扱われたからなんですよ。捨て置けんでしょう? そもそも補給なんて一撃で倒せば関係ないんじゃないですか?」
「…… まあ、好きにやって下さいな。私は私の仕事をするまでですから」
偵察機と入れ替わる様に六機のF-35Bが発艦する。編隊を組むとレイフォリア王宮の上空を超音速で掠める様に飛んだ。
ムーやミリシアルから聞いた話ではレイフォルは弱小な原始人の癖にプライドだけは高いんだそうな。
だから取り敢えずは目一杯の威嚇を行うのだ。それでもプライドが折れない様なら滅ぼす許可も得ている。
「では、行って参ります」
「お気をつけて。吉報を待っていますよ」
山南艦長に見送られてCICを出た芹沢は第一格納庫へ直行する。ムーの大使ユウヒやミリシアル外交官フィアームがキリンみたいに首を長くして待っていた。そう言えばミャンマーのカレン族とかも首が長いんだっけかなあ。
「ああ、お待たせして済みません。んじゃあ、とっとと参りましょうか」
「まさかこれに乗ることになるとは思いも寄りませんでしたよ」
「何だか妙な形の飛行機械ですねえ。ちゃんと飛ぶんでしょうか?」
「大丈夫ですって。ユウヒさん、フィアームさん。自分を私を信じないで下さい。二人を信じる私を信じて下さいな。それに『今日は死ぬには良い日』ですよ」
オスプレイはエレベーターで飛行甲板まで運び上げられると轟音を立てて発艦した。
心配していたレイフォルからの攻撃は無かった。お陰で陸自に頭を下げてまで出してもらった二機のAH-64Dも手持ち無沙汰の様子だ。
もういっそ、こっちから戦争を仕掛けてやろうかなあ。芹沢はレイフォルを叩き潰したくてしょうがない。だが、ムーとミリシアルが目の前にいるので空気を読んで何とか我慢した。
レイフォル王宮では玉座にふんぞり返ったレイフォル皇帝(名前はまだ無い)が将軍バルから報告を受けていた。
「先ほど王宮上空を飛んでいた物とは別の鉄竜が庭園に降りて参りました。畏れ多くも皇帝陛下への目通りを願いでております」
「そもそも、あれはいったいどこの鉄竜なのじゃ? 儂はあのような鉄竜は目にしたことも無いぞ。ムーではないようじゃが」
「それが日本とか申す聞いた事も無い国でございます」
「は、はぁ? その様な名前も知らぬ国が儂に目通りしたいじゃと? それをいちいち儂の耳に入れるとは…… こんのぉ、フリムンがぁ~! ぬ~あびと~が?」
突如として名もない皇帝が怒髪天を突く勢いで怒り出す。
自分は名前があって良かったなあ。将軍バルはほっと安堵の胸を撫で下ろす。
その時、ふしぎなことがおこった! 息を切らせた若い男が玉座の間に駆け込んできたのだ。
「ムーの大使ユウヒ殿とミリシアル外交官フィアーム殿が目通りを願い出ております。どうやら日本とか申す国の鉄竜に同行しておったようにございます」
「う、うぅん? ムーとミリシアルじゃと? そうか、日本とやらは列強の虎の威を借りるつもりなのじゃな。小癪な奴じゃがムーとミリシアルの顔を立てんわけにも行かんか。目通りを許す。通せ」
「御意!」
待つこと暫し。外交官らしき三人の男が従者たちを連れて現れた。
妙な衣装を着た中年男が何の恐れ気もなくつかつかと面前まで歩み寄って来る。人を小馬鹿にした様な薄ら笑いを浮かべると一方的に喋り始めた。
「いやいやいや、皇帝陛下? でしたっけ? アポなしで突然にお邪魔してすいませんねえ。日本国特命全権大使の芹沢と申します。どうぞよろしく。今日は畏れ多くも畏くも、我が国の陛下が御自ら
発言を許した覚えは無いんですけど? 名無しの皇帝はちょっとイラっとしたが空気を読んで我慢する。
日本国特命全権大使とやらは返事を待つ気すらないらしい。素早く文箱から巻物みたいな紙を取り出すと眼前に掲げる様にして読み始めた。
「日出づる処の天子、書を日没する処の天子に致す。つつがなきや。
中略
兵を用うるに至りては、夫れ
何だか意味は良く分からんけど馬鹿にされてる様な気がしないでもないなあ。でも、今のはどういう意味だったんですか何て聞いたら馬鹿だと思われそうだし。名無し皇帝は精一杯のはったりを利かせようと余裕の笑みを浮かべる。
一方でドヤ顔を浮かべた芹沢は巻物を箱に仕舞うと恭しげに差し出した。
受け取れと? これを受け取れというのか? 名無し皇帝は暫しの間、逡巡する。逡巡したのだが…… 迷っているうちに将軍バルが現れて恭しげに受け取ってしまった。
芹沢はちょっとイラっと来たが強靭な精神力で持って何とか抑え込む。せっかくレイフォルを滅ぼすチャンスだったのになあ。まあ、チャンスはまだまだあるだろう。
「さて、皇帝陛下。さっきの手紙の返事をいただけますでしょうか? 手紙には軍事力を使いたくはないなどと書いてありましたが、本音を言えば兵たちは皆やる気まんまんでして。お望みとあらば貴国の艦隊などあっと言う間に片付けてみせますよ。何せ我が国はパーパルディアを滅ぼした実績がございます。ですよねえ? ユウヒさん、フィアームさん」
「そうです、皇帝陛下。日本国はパーパルディア皇国をあっけなく葬りました。彼らが本気になれば…… って言うか、本気を出さずともレイフォルくらいなら片手間で瞬殺でしょう。ムーとミリシアルが保証いたします。既に両国は日本を列強国待遇として国交を結んでおります。来年の先進十一ヶ国会議においてはパーパルディアに代わって正式に列強国入りする事でしょう」
「悪い事は申しません。日本国と友好関係を結ぶ事をお勧めいたします」
「戦うなら止めはしませんが絶対にレイフォルの負けですよ。何だったら賭けましょうか?」
半笑いを浮かべたユウヒとフィアームが茶化す様に囃し立てる。その顔には真剣さの欠片もない。
もしかして二人は既にレイフォルの滅亡を確信しているのかも知れんな。芹沢も何か言ってやろうと頭を撚る。しかしなにもおもいつかなかった!
「まあ、断っていただいても結構ですけどね。外交を結ぶ事務手続きよりも滅ぼした方がよっぽど早そうですし。ちなみに日本に領土的野心はありません。って言うか、こんな僻地を統治するのは面倒臭いだけですし。ぶっちゃけ列強国さえ減ってくれれば後はどうでも良いんですよ。もしレイフォルを滅ぼした場合はムーさんに統治をお願いしますね」
唐突に話を振られた大使ユウヒが目を白黒させている。
だが、皇帝はそれどころではなさそうだ。あからさまに狼狽えた顔でキョロキョロと落ち着かない。
見かねた将軍バルが口を挟んできた。
「いや、あの、その…… 皇帝陛下、お願いしますよぉ~!」
「えっ? 儂? 儂はそのアレだな、アレ…… えぇ~っと、何だ? 閃いた! ムーやミリシアルの話を疑うわけではないが日本の力? 兵の強さ? 何って言うかそんなのをちょこっとで良いから見せてはもらえんもんじゃろうかのう? 我が国としても列強としての体裁がある故、日本が強いという証拠を見せてもらわねば軍や兵が納得してくれんのじゃよ」
「デモンストレーションがお望みですか? そうですねえ、ミサイルは勿体無いですけど砲弾の十発やそこらならお見せできないこともないですよ。的はご用意いただけますか? すぐやりましょう」
なし崩し的に始まったデモンストレーションはレイフォル軍人たちのプライドを僅か数分でズタズタに引き裂いてしまう。
この日、列強国レイフォルは国交とは名ばかりの屈辱的な条約を結ばされた。