自重しない日本国を召喚   作:スカツド

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第6話 滅ぼせ!パガンダを

 中央歴1639年8月10日

 

 呆気ないほど簡単にレイフォルとの国交を成功させた芹沢の心をどす黒い物が満たしていた。

 せっかく滅ぼす気で満々だったのになあ。あんな無条件降伏同然の屈辱的な条件で国交を結ぶだなんてどうかしているぞ。俺だったら絶対に戦争を選ぶのに。まあ、完全に他人事なんだけれども。

 

「芹沢さん。パガンダが見えてきましたよ。今度は上手く行ったら良いですねえ」

「まあ、あのレイフォルの属国ですから期待はせんでおきましょう」

「そうですねえ。レイフォルが中世の小国だとしたらパガンダは未開人の小国ってところですもん。五インチ砲を使う必要すら感じませんよ。CIWSだけで片付くんじゃないですか」

「さて、せいぜい気張って挑発するとしましょうか」

 

 ぞっとするほど邪悪な笑みを浮かべると芹沢はCICを後にした。

 

 

 

 例に寄って例の如くF-35Bで露骨な示威飛行を繰り返す。念には念を入れて二機のAH-64Dを護衛に付けてオスプレイでパガンダ王宮に乗り付けた。

 機体後部の搭乗用ランプのドアを開けて下りる。遠巻きにこちらの様子を伺っていたパガンダの人たちが近付いて来た。

 

「おお、日本のお方々。お待ち申し上げておりましたぞ。遠い所をようこそお出で下さいました」

「は、はぁ? 待っていたですと?」

「レイフォルから魔信で連絡がございました。日本の方々が参られるのでくれぐれも粗相の無い様にせよと申し付かっております。芹沢様でいらっしゃいますね。申し遅れました。私はパガンダ外交局のドグラス外交長でございます。一応は王族をやっておりますので何かお役に立てる事がございましたら何なりとお申し付け下さりませ。こちらは外交局窓口職員のマーサでございます。身の回りのお世話をさせていただきます。ささ、どうぞこちらへ。歓迎の支度が整っておりますぞ……」

 

 つまらんなあ。いやいや、こういう相手をとことん挑発しまくるのもそれはそれで面白いかも知れん。芹沢の灰色の脳細胞が邪な考えでフル回転を始めた。

 

 

 

 パガンダ王宮で行われた宴会は気合の入った本気の歓迎だった。人は命の危険が迫るとここまで卑屈になれる物なんだろうか。パガンダ国王が裸踊りを始めるに至って、芹沢は滑稽を通り越して哀みすら感じてしまう。

 こんな奴らを滅ぼしても寝覚めが悪いだけかも知れんなあ。よし、もうちょっと育てて倒し甲斐があるくらいになってからにしよう。芹沢はパガンダ殲滅の無期延期を心の中のメモ帳に……

 

 その時、ふしぎなことがおこった。じゃなかった。その時、歴史が動いた!

 

「芹沢さん。山南艦長から連絡です。西方から大型船が一隻接近中とのことです。距離三十海里、速度三十ノット」

「あと一時間で着きますね。なぜ今まで気付かなかったんですか?」

「野蛮人の国だからって油断してヘリを上げていなかったみたいですよ。映像を見ますか」

「こ、これは…… 大和? なんだか知らんけど戦艦大和にくりそつ(死語)なんですけど……」

「これはグラ・バルカスの軍船ではござりますまいか。奴ら先日の仕返しに参ったのじゃな! 返り討ちにしてくれるぞ。皆のもの、戦支度を致せ! 合戦じゃ、出会え出会え!」

 

 裸踊りを中断したパガンダ王が真顔に戻るとテキパキと的確な指示を出している。馬鹿殿みたいな外見とは裏腹にこの男、意外と指導者としては有能なのかも分からんな。芹沢はパガンダ王の事をちょっとだけ見直しそうに……

 いやいや、あかんやろう! こんな原始人があんな巨大戦艦を相手にして勝てるはずが無いだろがぁ~! 芹沢は頭を抱え込みたくなる。と思ったけど、冷静に考えたら別にパガンダが滅ぼうがどうしようが知ったこっちゃないか。でも、せっかくこんな遠くにまで来たんだしなあ。特に理由は無いんだけれど弱い奴の味方をしたいような、したくないような。いわゆる判官贔屓って奴だ。

 

 話を聞けば奴らは遥か西方からやって来たグラ・バルカス帝国とかいう文明圏外の蛮族らしい。先日やって来た連中があまりにも無礼なので責任者を処刑したんだそうな。どうやらそれを逆恨みして復讐戦を仕掛けて来たらしいとのことだ。

 これは面白くなって来たぞ。芹沢は大急ぎでヘリコプター搭載護衛艦いぶきへ戻った。

 

 

 

「山南艦長、パガンダ虐めはキャンセルになりました。代わりにあの戦艦と戦いましょう!」

「え、えぇ~っ! せっかく用意してたのに…… って言うか、あの戦艦と戦うですと?! どこの誰かも分からんのにですか?」

 

 唐突な無茶振りに艦長の顔が不満げに歪んだ。だが、芹沢は他者への共感能力に欠陥でも抱えているんだろうか。全く悪びれる事もなく話を続ける。

 

「いやいや、西にあるグラ・バルカスとかいう国らしいですよ。そう言えば偵察衛星からの情報でそれっぽい国がムーの西にあるって情報がありましたっけ。テクノロジーやボリューム感は第二次大戦末期のアメリカくらいみたいですね」

「そ、そうですか。しかし、国交も無い国といきなり交戦するわけにも行かんでしょうに。まずは切っ掛け? 大義名分? 何かしら理由が必要じゃないですか?」

「だけど向こうはやる気満々なんですよ。我々がパガンダとの間に入れば勝手に向こうから仕掛けてくれますって。後は正当防衛射撃するだけの簡単なお仕事ですから」

「う、うぅ~ん。しょうがないですなあ。まあ、あんだけの熱烈歓迎してくれたパガンダを見捨てて逃げ帰るのも寝覚めが悪いですし。いっちょやったりますか」

 

 護衛隊群はパガンダを出港すると全速で大和モドキに向かって進み出した。

 

 

 

 

 

 グラ・バルカス帝国が誇る最新鋭戦艦グレード・アトラスターの昼戦艦橋で艦長のラクスタルはぼぉ~っと大海原を見詰めていた。

 

「艦長、パガンダまで約二十五海里。港に多数の艦影が認められます。パガンダの奴らは我々の襲来を見越して待ち受けていたみたいですね」

「身の程を知らぬ野蛮人どもめ。面白い! 今回の戦いはハイラス様の弔い合戦だ。徹底的に叩き潰してやるぞ」

「御意!」

 

 前回に訪問した者たちからの情報によればパガンダには大砲すら無いそうだ。飛び道具といえばバリスタで射る火矢くらいしかないんだとか。どう考えても負けるどころか苦戦すらするはずのない一方的な戦いになるはずだ。はずだったのだが……

 

「レーダーに反応! 正面、距離…… ほとんど間近です! 目の前にいるはずです!」

「いやいや、どこに何がいるだって? レーダーの故障じゃないのか?」

「そんなはずはありません。何かが間近に迫っています。もしかすると…… 真上だ! 真上に何かがいるはずです。防空指揮所! 上空の……」

 

 その瞬間、六機のF-35Bから投下された十二発の二千ポンドLJDAMが艦橋と高角砲群を木っ端微塵に吹っ飛ばした。

 

 

 

 

 

 ヘリコプター搭載護衛艦いぶきのCICの大型モニターに映った大和モドキは爆炎に包まれていた。

 

「当たりましたよ。一発五百万円くらいとして十二発で六千万円ですか。効果はどんな物でしょう」

「どうですかねえ。艦橋は無茶苦茶になってますけど五百ミリの装甲板に護られた防御指揮所は無傷なんじゃないでしょうか。とは言え、無線とレーダーと十五メートル測距艤を失ったら砲戦能力は激減でしょうけども」

「だけど、沈めるのは難しいですよ。こんな時、艦船か航空機から発射が出来る長魚雷があれば一発なんですけどねえ」

「う、うぅ~ん。無いものねだりしてもしょうがないですよ。それに連中の規模が米軍なみだとしたら予想される戦艦は二十数隻、正規空母は三十隻くらいでしょう? その程度の敵のために新兵器を開発してたら採算が取れませんよ。今ある兵器で沈める方法を考えるしかありません」

 

 護衛隊群は大和モドキへ向けて全速で進んで行く。

 二十海里まで接近した所であきづき級護衛艦の六十二口径五インチ単装砲が火を吹いた。一隻当たり毎分二十発のペースで重さ三十二キロの砲弾が次々と発射される。

 大和モドキは十五メートル測距艤が使えないため反撃することも出来ずに一方的に撃たれるままだ。

 護衛隊群は距離を二十海里を保ったまま撃って撃って撃ちまくる。

 数分後、即応弾を撃ち尽くした護衛隊群に静けさが戻って来た。

 

「これっぽっちも効いていないようですね?」

「いやいや、バイタルパート以外には意外と効いてるみたいですよ。特に艦首のダメージが良い感じですね。速度が随分と落ちているし、心持ち前傾してるようです。このまま行きますね」

「まあ、ミサイルに比べりゃ砲弾は安いですからね。これだけ撃っても五千万円かそこらでしょう?」

 

 大和モドキの速度は二十ノット程度にまで低下していた。四十六センチ砲を撃って来ない事を確信した護衛隊群は余裕を持って距離十海里にまで接近する。艦首、艦尾の非バイタルパートと煙突を徹底的に破壊して行く。

 高角砲や高角機銃は壊滅しているようだ。山南艦長はここでAH-64Dの投入を決意した。だって陸自に無理を言って出してもらったのに出番無しだと後で文句を言われそうなんだもん。

 

「いったい攻撃ヘリに何が出来るっていうんです? 豆鉄砲しか付いていないでしょうに」

「まあまあ、見ていて下さいな」

 

 モニターに大写しになったAH-64Dは大和モドキの四十六センチ砲の付け根にM230 30mmチェーンガンを撃ち込む。二機のヘリからそれぞれ千二百発ずつの銃撃を受けた四十六センチ砲は大きな損害を受けているような、いないような。

 念のためにロケット弾も撃ち込む。二機のヘリはそれぞれ四基のパイロンにM261ロケット弾ポッドを搭載していた。それぞれに十九発のハイドラ70が装填されている。百五十二発の2.75インチロケット弾を受けた四十六センチ砲の砲身は大きなダメージを受けている様に見えた。

 

「この後はどうすんすか? アレを沈めるのは大変そうですよ」

「これ以上やったら弱い者虐めみたいで格好悪いですね。12式魚雷で舵とスクリューを破壊して終わりにしましょう」

「ここまでやったのに沈めないんですか?」

「放してやったよ(笑)って奴ですよ」

 

 二人がそんな馬鹿な話をしている間にも護衛隊群は大和モドキ後方に肉薄すると次々に短魚雷を発射して行く。

 だが、大和モドキの三枚翼プロペラは直径五メートル、重さ二十二トンもある巨大な代物が四基も付いている。しかも対潜水艦用に作られた12式魚雷の弾頭は潜水艦の複殻式船殻を破壊するための成形炸薬だ。そんなわけでさぱ~り効果が上がらなかった。

 

「二十発くらい使ったんじゃないですか? アレって一発何千万円もするんでしょう? 大赤字確定ですよ」

「やっぱ長魚雷を水上艦艇から発射出来る様にして欲しいですねえ。何とかならんもんでしょうか」

「航空機から投下出来たら最高なんですけど。ヘリからなら何とかなりませんかねえ」

「帰ったら提案だけでもしてみましょうか。たぶん無理でしょうけど」

 

 山南艦長は心の中のメモ帳に書き込んだ。

 

 

 

 

 

 厚さ五百ミリのVH甲鉄に護られたグレード・アトラスターの防御指揮所で副長はガタガタと震えていた。

 艦橋が吹き飛ばされたタイミングで艦長が死んでしまった。その時点で副長に指揮権が回って来ていたのだが…… どうすれバインダ~!

 ちなみに砲術長、副砲長、高射長、航海長、通信長も死んだらしい。既に主砲、副砲、高角砲、高角機銃は全て破壊されている。アンテナが破壊されたので通信も出来ない。先ほどの攻撃でダメ押しとばかりにスクリューと舵まで破壊されてしまった。

 こんな状況で何が出来るというんだろう。降伏か? 降伏するしか無いのか? だけど一発の砲弾も撃たずに降伏するだなんて相手にどう思われるんだろう。って言うか、そもそも何で攻撃されなきゃならんのだ? こっちは何も悪い事をしていないのに。

 

「もしかして、もしかしないでも俺たちは一方的な被害者なんじゃね? だったらやるべきことは降伏じゃないぞ。命乞いじゃんかよ!」

 

 よかったあ~! 副長はほっと安堵の胸を撫で下ろす。いやいやいや、どうやって命乞いすれば良いんだよ? 通信が出来ないっていうのに。

 副長は頭を抱え込んで小さく唸った。

 

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