自重しない日本国を召喚   作:スカツド

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第7話 滅ぼせ!グラ・バルカスを

 中央歴1639年9月5日

 

 グレード・アトラスターの悲劇から約一ヶ月。

 レイフォルとパガンダには陸海空自衛隊の小規模な部隊の展開が始まっていた。

 

 彼らとは別に防共協定を結んだわけではない。だから本当を言えば滅びようがどうしようが知ったことではない。

 とは言え、乗りかかった船。毒を食らわば皿まで。一人殺すも二人殺すも同じことだ。なし崩し的に日本国はグラ・バルカス帝国を相手に戦う事になった。

 とは言え、実際には一方的な虐殺になるんだろうけれども。

 

 だが、残念ながら海自では同じ時期にリーム王国の討伐も行っていた。そのために対グラ・バルカス戦に追加で送れる護衛隊群は無いのだ。

 出来た事といえば弾薬と燃料の補給。それと潜水艦を四隻送る事くらいだった。

 民間船舶を急遽改造して潜水母艦として随伴させるのが精一杯だ。

 ちなみに海流に流されて浮遊していたグレード・アトラスターは潜水艦が長魚雷で葬った。

 

「勝てますかねえ、山南艦長?」

「いやいやいや! 勝手に戦争を始めたのはあんたでしょう、芹沢さん。いまさら何を弱気な事を言ってるんですか」

「あの、その、えぇ~っと…… 私は戦争を始めるのが好きなんです。だけど後がどうなろうと知ったこっちゃないんですよ」

 

 芹沢は人を小馬鹿にした様な薄ら笑いを浮かべる。山南艦長は唖然とした顔で小首を傾げる事しか出来ない。

 

「んじゃあ何で勝てるかなんて聞いたんですか?」

「どっちに賭けるか聞きたかっただけなんですよ。私は勝つと思いますけどね」

「私だって負ける気はありません。賭けは不成立ですね」

「うぅ~ん、何人死ぬかなんて賭けは流石に不謹慎ですしねえ。今回だけは止めておきましょうか」

 

 二人は揃って西の空に目を見やった。

 

 

 

 

 

 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ

 

 海軍省のとある会議室で三人の男女が顔を突き合わせていた。

 東方艦隊司令長官カイザルが報告書を読み上げている。

 

「以上がパガンダ討伐に向かったグレード・アトラスター遭難事故の調査報告だ」

「よっしゃよっしゃ、ご苦労さんでした…… って! なんじゃこりゃぁ~っ! 三千人が乗った七万トンの戦艦が行方不明になって一ヶ月だぞ! それが何も分からんとはどういうことだ?」

 

 特務軍(旧監察軍)司令長官ミレケネスが盛大な乗り突っ込みを披露する。

 

「そうだそうだぁ~っ!」

 

 帝都防衛隊長ジークスも手を叩いて大喜びした。

 

「私は現場から上がってきた報告書を読み上げただけだ。文句があるんなら書いた奴に言ってくれ。んで、これからどうするんだ? 私はこんな報告書を皇帝陛下にお渡しするのは真っ平御免の介だぞ」

 

 カイザルだってこれっぽっちも負けてはいない。人を小馬鹿にした様な薄ら笑いを浮かべると鼻を鳴らした。

 

「うぅ~ん、分からん。さぱ~り分からん。しかし我が国が誇る最新にして最強の巨大戦艦が異常を知らせる暇も無く消息を断つなど常識では考えられんぞ。やはり異世界ならではの超常現象があるのではないのかな? グラ・バルカスが国ごと転移して来れたんだ。グレード・アトラスターだけが元の世界に転移したという可能性もあるのではないのかな?」

「あるのかないのかで言えば可能性はあるだろうな。って言うか、他の可能性が思い付かん以上はそれで報告するしかないぞ」

「それよりもパガンダ討伐はどうするんだ? もう、なかったことにしちゃうか? 復讐なんて何も生み出さないだろう」

「パガンダを滅ぼしたからってお腹が膨れるわけでもないしな」

「そうそう、あんな酷い事をしたパガンダを許したグラ・バルカスは偉い! これぞ精神的勝利法だ!」

 

 帝国の三馬鹿トリオたちは今日も今日とて無為な時間を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 ムーの最西端に作られた滑走路から二機のボーイング787-9の特別改造機が飛び立って行く。操縦しているのは促成教育を受けた空自のパイロットだそうな。

 一万六千キロにも及ぶ長大な航続距離と意外に大きなペイロードを生かしてグラ・バルカス本土を爆撃する。そんな壮大で馬鹿げた計画の幕が切って落とされた。

 ちなみに芹沢は失敗する方に一万円を賭け、山南艦長は成功する方に賭けていた。

 

 

 

 操縦席背後の狭い狭い補助席にムーの技術士官マイラスは押し込まれる。隣に座っているのは神聖ミリシアル帝国の情報局局員ライドルカだ。

 

「マイラスさん、ライドルカさん。狭苦しくて申しわけありませんねえ」

「いえいえ、グラ・バルカス爆撃に参加させていただけるだけで光栄です。感謝感激雨あられですよ」

「それに我が国の飛行機械と比べたら物凄く快適ですしね」

 

 客室を潰して作られた爆弾倉にはムーの焼夷弾とミリシアルの超大型魔導爆弾ジビルも一発ずつ搭載されている。

 グラ・バルカス討伐は三ヶ国連合による共同軍事作戦であるというアリバイ作りのためだ。

 

 高度一万三千メートルをマッハ0.85で飛ぶ大型機をグラ・バルカスのレーダーは百五十キロほど手前で発見した。

 だが、彼らの戦闘機は一万三千メートルまで上昇することが出来ない。仮に上がれたとしても追いつけない。かと言って正面から迎え撃つには速すぎる。

 二機の787-9は悠々とグラ・バルカス最大の軍港に接近すると二千ポンドのLJDAMを十発ずつ投下した。目標は停泊している正規空母だ。寸分違わぬ精度で命中した爆弾は何隻かを沈める。沈まなかった残りも全て大損害を被ってしまった。

 ついでに投下したジビルと焼夷弾も首都ラグナを瓦礫と消し炭へと変えてしまう。

 

 翌日にも颯爽と現れた787-9は狙いを戦艦に変えて投弾する。だが、たかが二千ポンドの爆弾ごときで戦艦は一隻たりとも沈まなかった。しかし艦橋や煙突に大きなダメージを受けた戦艦は長期修理が必要になってしまう。

 

 グラ・バルカスといえども馬鹿ではないらしい。三日目からは艦艇を湾外に退避させたらしく軍港はガラ空きになっていた。

 だが、もとより空爆の標的は正規空母と戦艦だけったのだ。新たな標的は滑走路や航空機格納庫に移される。

 まあ、二千ポンド爆弾がたったの二十発なので効果はたかが知れているんだけれども。

 小さな事からコツコツと。継続は力なり。何事も根気よく続ける事が大事なのだ。

 

 

 

 

 

 芹沢と山南は相も変わらずヘリコプター搭載護衛艦いぶきの艦橋で西の空を見詰めていた。

 

「どうですか芹沢さん。二機の787-9で燃料代が一回当たり三千万円。LJDAMが二十発で一億円。機体のレンタル料や整備費、エトセトラエトセトラ。予定は一ヶ月ですから四十億円くらい掛かりますね。決して安くはないですけど六百ものピンポイント攻撃としては非常にコストパフォーマンスが高いんじゃないですか?」

「ですけど奴らはこんなのじゃあ絶対に屈服しないですよ。それとも一年でも二年でも空爆を続けるつもりでしょうかね? 空自は」

「いやいや、これを一年続けたら五百億円にもなりますよ。それに空自に手柄を持って行かれるのだけは我慢がなりません。決着は海自が付けます。絶対にだ!」

 

 山南艦長はまるで自分に言い聞かせるかのように呟いた。

 

 

 

 イマイチ効果の上がらない爆撃を二ヶ月続けた後、787-9は低空飛行を試みる。だが、零戦モドキが雲霞(ウンカ)のごとく飛び上がって来た。

 駄目だこりゃ。空自は787-9を四機に増やす。爆撃は航空機製造工場に対象を広げて継続された。

 

 二ヶ月後、再び低空飛行が試みられる。だが、相変わらず零戦モドキは蝿の様に飛んで来た。

 787-9は八機に増やされる。石油精製施設や発電所、浄水場、下水処理場、エトセトラエトセトラ。攻撃範囲を増やしてインフラを徹底的に破壊して行った。

 

 爆撃作戦開始から半年間に八千四百発の二千ポンド爆弾が投下される。掛かった費用は五百億円を超えた。

 だが、グラ・バルカスは工場を山岳地帯の地下へと移して航空機の製造を継続しているらしい。また、航空機を守るためと思しき非常に強固な鉄筋コンクリート製バンカーが多数確認された。その中にはダミーも大量に混ざっていたようだ。

 空自は787-9を更に増やして対抗するが爆撃の効果は次第に低下して行く。爆撃開始から一年目にして空自は遂に音を上げた。

 

 

 

 

 

 グラ・バルカス帝国 山岳地帯に作られた帝王府地下壕

 

 東方艦隊司令長官カイザルが報告書を読み上げている。

 

「地下壕の工場が本格稼働を始めたため、航空機の生産体勢は急ピッチで回復しつつあります。ただ、燃料や滑走路の問題から飛行訓練が絶望的な状況です。このため、初戦で喪失した操縦士の補充が全く間に合っておりません」

「うぅ~ん…… 航空機を作っても飛ばす兵がいないとは皮肉な話だな。ところで我々を攻撃してくる敵がいったい何者なのか、見当くらいは付いたのか? 反撃の目処はどうなっておるのだ?」

 

 手元の資料から顔を上げた帝王府長官カーツは小首を傾げる。

 

「稼働可能な艦艇をパガンダ方面に差し向けましたが潜水艦を含む全てが消息不明となっております。敵の戦力、正体、目的の一切が不明。意思の疎通すら叶わぬ状況です。ハイラス様を殺したパガンダや宗主国レイフォルとは異なった国が相手と考えられます」

「反撃は不可能。交渉も出来ぬという事か。やはり何とかしてあの爆撃機だけでも撃退せねばならんぞ」

「現在開発中のターボチャージャーが完成すれば戦闘機は高度一万五千メートルまで上昇可能となります。速度も時速八百キロに迫る事でしょう。また、陸軍の十五センチ高射砲の製造も急ピッチで進んでおるそうな。必ずや撃墜出来るはずです。って言うか、出来ないと困っちゃいます。主に我々が」

「そうだな。出来たら良いなあ」

 

 今日も会議は何の結論も出せないまま空転していた。

 

 

 

 

 

 中央歴1640年9月1日

 

 駐パガンダ大使の芹沢は大使館の窓から西の空をぼぉ~っと見詰めていた。787-9は今日も上空を飛んで行く。俺もあんな風に空を自由に飛べたら楽しいだろうなあ。

 そんな馬鹿な事を考えているとドアが四回ノックされる。返事を待つ間もなく山南艦長が入って来た。

 

「芹沢さん。ようやく政府が重い腰を上げたみたいですよ。核兵器の投入を決定したそうです」

「核兵器ですと! 自衛隊はいつの間にそんな物を作っていたんですか?」

「いやいや、ミリシアルやムーとの共同開発ですよ。古の魔法帝国のコア魔法に対抗する必要があるとか無いとからしいですね。動燃から接収したMOX燃料からプルトニウムを分離したんだとか。燃料級プルトニウムを使ってるんで一トン近くある巨大な代物なんですけどね」

「まあ、787-9を使っているんでサイズや重さは問題になりませんか。後は何発くらいでグラ・バルカスがギブアップするかですね。って言うか、グラ・バルカスとの外交ルートって確保されているんですかねえ?」

「いやいやいや、特命全権大使は芹沢さんでしょうに! あんた以外に誰がいるっていうんですか?」

「ですよねぇ~! しょうがない、今からでもグラ・バルカスに行きましょう。船を出してもらって良いですよねえ?」

 

 全く悪びれる様子もなく芹沢は薄ら笑いを浮かべる。

 山南艦長はがっくり肩を落とすと小さくため息をついた。

 

 

 

 

 

 中央歴1640年9月10日 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ沖

 

 護衛隊群は警戒態勢を維持しつつ港内を進んで行った。

 空間線量計は毎時十二ミリシーベルトくらいの数値を示している。これは四時間もここにいれば年間の許容量を越えてしまうという放射線量だ。

 

「普通にヤバいっすね。無人偵察機を使った方がよかったんじゃありませんか、艦長?」

「今さら言うても詮無き事ですよ。どうせここまで来たんですから行く所まで行ってみましょうや」

「いやいや、絶対に人っ子一人いませんって。更地になってるかクレーターがあるかのどっちかでしょう」

「ですよねぇ~!」

 

 護衛隊群は尻尾を巻いて引き返した。

 

 

 

 

 

 グラ・バルカス帝国 山岳地帯に作られた帝王府地下壕

 

 疲れ果てたといった顔の東方艦隊司令長官カイザルは薄っぺらい報告書を棒読みしていた。

 

「帝都ラグナがあった場所は半径十数キロに渡って完全破壊されておりました。恐らくは非常に強力な爆弾が使用されたと思われますが正体はいまだに不明です。ただ、超高温と強い放射線が観測されたことから推測して通常の化学反応とは異なった原理ではないかと思われます」

 

 黙って報告を聞いている帝王府長官カーツは憔悴しきった様子だ。焦点の定まらない視線がちょっと怖い。

 

「一年もの間、精密爆撃を続けていたかと思えば急に帝都を丸ごと完全破壊とはな…… 敵の目的はいったい何なのだ? どうしてコミュニケーションが取れないんだ?」

「交渉の必要性を認めていないのではないではありますまいか? 我々だってパガンダを滅ぼすと決めた時、彼らの降伏を受け入れるつもりは毛頭ありませんでした。彼らが同じ考えに至ったとして不思議ではないでしょう」

「そうかも知れんな。そうじゃないかも知らんけど。だとすると我々はこのまま滅ぼされるしか無いと言うのか? そんな馬鹿な事があって堪る……」

「重要会議中に失礼致します! 昨日、帝都を破壊した爆弾と同様な物が国内各地に投下されつつあるとの報告が入りました。今現在、二十数発が確認されております」

 

 その時、ふしぎなことがおこった! 突如として大きなサイレン音が鳴り響いたかと思った途端に物凄い衝撃が会議室を襲ったのだ。

 カイザルやカーツは叫び声を上げる間もなく落下してきた天井に押し潰された。

 

 

 

 

 

 こうしてグラ・バルカス帝国は滅んだ。

 いや、彼ら正義の魂が死ぬはずはない。きっとどこかで生きているはずである。

 もしあなたの身の回りで怪しい出来事が起こり、それが人知れず解決しているようなことがあったなら、彼らグラ・バルカス帝国が活躍してくれたのかもしれない。

 そして、帝国の三将カイザル、ミレケネス、ジークスに感謝をしようではないか

 

 完

 




 きっと焼け跡にはカイザルの帽子、ミレケネスのマント、ジークスの靴なんかが残されてるんじゃないでしょうかね。
 んで、警察署長が「バカバカしい!!」とか何とか叫んで投げ捨てた後に上記ナレーションが入って終わるんでしょう。

 ちなみに次回作は趣向を変えてThe Islands Warの二次に挑戦してみました。
 ご興味がおありの方は是非お付き合い下さいませ。
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