IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK   作:TAC/108

1 / 46

これまでのあらすじ。
不破(ふわ)(いさむ)/仮面(かめん)ライダーバルカンは、飛電(ひでん)インテリジェンスの元社長・飛電或人(あると)が新たに設立したAIテクノロジー企業『飛電製作所(ひでんせいさくじょ)』にて、用心棒として戦いの日々を送っていた。激闘の中で己の出生にまつわる真実を知りながらも、諌はそれすらも乗り越え、新たな戦いに向かっていた。

人工知能搭載人型ロボ・ヒューマギアによる世界の支配と、そのための人類絶滅を企てるテロ組織・滅亡迅雷.net(めつぼうじんらいネット)。その首魁たる人工知能・アークが、兄弟機とも言える飛電の通信衛星ゼアをハッキングによって掌握した。
しかし、ゼアの人工知能(AI)を取り戻した或人は、ヒューマギアの社長秘書であるイズと共に生み出した新たな仮面ライダー……仮面ライダーゼロツーの力で、アークの撃破に成功する。
これにて一件落着、かと思いきや、通信衛星ゼアを新たな本体としたアークは、未だゼアの中で生き永らえていた……。



序章 OUT OF ZERO-ONE
Part-1 滅亡の未来より


初めに不破諌が感じたのは、妙な埃っぽさと明るさだった。

自宅で寝ていた諌は、妙に硬い質感のベッドから起き上がり、肩の砂粒を払って伸びをした。

「……あ? 何だこの砂粒?」

諌の周りは建造物の破片と思われるコンクリートの壁で囲まれており、身を起こすと同時にそれらがバタバタと倒れる。初夏の蒸し暑い空気に嫌な汗が滲む。諌は自分が寝間着ではなく、普段出勤する時のスーツを着ていることに気がついた。

「どうなってんだ……なんでスーツ着ながら寝てた? いや、そもそもここは……外じゃねえか!」

諌が身を横たえていた場所は、かつては何らかの建造物であったと思われる、瓦礫の上だったのだ。

 

諌が叫ぶと同時に、四方八方から銃声が聞こえ始めた。起き抜けとは思えぬほどの敏捷性を発揮し、諌はすぐに物陰に隠れた。近くにあったコンクリート片の一つが遮蔽物となり、その背後から銃声のした方向を覗き見る。

「ヒューマギアか、相手は……向こうもヒューマギアだと?」

三葉虫めいた顔面の人型ロボット……トリロバイトマギアが隊列を成して、手に持った銃器で相手方と銃撃戦を展開している。

諌にとって衝撃だったのは、相手も同様のトリロバイトマギアだった点である。そもそも、ヒューマギア同士が戦っているという事態が、諌の理解の範疇外であった。

 

人工知能搭載人型ロボ、ヒューマギア。AIテクノロジー企業である飛電インテリジェンスが、西暦2007年に発表した製品であり、人間が行う様々な仕事のサポートや代替を目的として造られた存在である。

西暦2020年現在においては、いわばインフラの一つとして社会に普及していた……というのは、ヒューマギアの一側面である。

 

ヒューマギアを構成員とし、『人類滅亡』を掲げるテロ組織・滅亡迅雷.netの暗躍により、暴走し人類に反旗を翻すヒューマギアが続出。以降、様々な組織が『仮面ライダー』と呼称する超人の存在を以て、これに対処してきた。

その裏に存在したのは、かつて飛電インテリジェンスが開発した、ヒューマギアを統括管理する巨大通信衛星・アーク。『人類の悪意』をAIとして学習したアークは、滅亡迅雷.netを作り上げ、人類絶滅の走狗としてヒューマギアを『マギア』と呼ばれる機械の怪物に変えてきたのである。

 

つまり、あくまで『人類対ヒューマギア』はあり得る構図であるが、『ヒューマギア対ヒューマギア』は、例外こそ多少はあるにしても、この時の不破諌からすると理解しがたい概念だったのだ。

諌の困惑をよそに、ヒューマギアの戦いは激化する。両陣営の背後から、それぞれ赤と緑のマギアが躍り出た。

「何なんだ一体……!」

一方は鳥の頭を模した頭部と、両手に持った二振りの大剣が特徴的なマギア。もう一方は、カエルを思わせる大きな頭部から子ガエルじみた爆弾を放出する素手のマギア。

両者が激しくぶつかり合い、何度も凄まじい衝撃波が発生する。

「くっ、コレもアークの作戦なのか!?」

呟いた諌の背後に、忍び寄る影があった。

 

「あの」

「何だ、今取り込み中——うぉあ!?」

諌が驚いた拍子に足を滑らせ、尻餅をついた。背後から話しかけてきたのは、右目が損傷したヒューマギアだったのだ。

本来、製品として世に送り出されたヒューマギアは、人間の皮膚を模した特殊な人工皮膚を被せられる。ところが、諌の前にいるヒューマギアは、そういったカモフラージュが存在しない、素体のヒューマギアだった。顔の右半分は内部機関が修復されないまま露出しており、諌は僅かながら恐怖を覚えた。

「ここは危険でございます。私の隠れ家にご案内いたします」

諌の驚愕など知らぬとばかりに、素体ヒューマギアが話し始める。男性とも女性ともつかぬ、擦れた合成音声が諌の耳に入った。

「隠れ家だと?」

「こちらへ。この身がどれだけ保つかは不明ですが、案内までなら可能でしょう。何より貴方、人間でございましょう?」

「当たり前だ。何をそんな珍しそうに」

不破はぶっきらぼうに返したが、素体ヒューマギアの声には懐かしむような響きがあった。

よく見てみると、このヒューマギアは右足の動作がぎこちない。恐らく先程のような戦いに巻き込まれ、負傷しているのだろう。

「急ぐんじゃあないのか」

「そうしたいのですが、どうやら判断を誤ったようです。素早く移動するのは難しいでしょう」

「仕方ねえな。背負ってやる、ガイドはミスるなよ?」

諌は負傷したヒューマギアの、金属質な体躯を背負った。人間を背負うのとはワケが違う……と諌は思っていたが、存外に軽い。どこか拍子抜けしたような気がした。

「この街の郊外に、中立勢力のコロニーがあります。西へ向かってください」

「西? どっちだ」

「……おや、何か奇妙なデバイスをお持ちのようですが」

ヒューマギアが訝しげな声で尋ねる。諌は懐から、使い込まれた青い拳銃型の装置を取り出した。諌が持つ中では最強の武装、エイムズショットライザーである。A.I.M.S.(エイムズ)という組織に、諌が属していた頃に無断使用……もとい受領した装備で、プログライズキーという鍵型の装置と併用することで『仮面ライダー』への変身を可能とする。

「ショットライザーがどうかしたか」

「データキーをお貸しします」

ヒューマギアが鍵型の装置を諌に手渡す。諌は片手でキーを展開すると、ショットライザーのスロットに差し込んだ。

「トリガーを引くと、我々に関するデータが閲覧できるハズです。ご利用ください」

「なるほどな」

ショットライザーの引き金が引かれると、銃口から立体映像が飛び出した。簡略化された地図であり、キーを持つ諌達の現在位置を中心に、半径五キロメートルほどの地形情報が表示されている。

「コイツを辿れば、お前の言うコロニーに着くわけだな。よし、行くか」

諌はヒューマギアを背負い、騒乱に巻き込まれないように目的地へと走っていく。

 

「ところで……先程、認証もナシにキーを開けてませんでしたか?」

本来、プログライズキーの展開と起動には『オーソライズ』という認証が必要になる。誤動作を防ぐため、キーには厳重なロックがかけられているのだが……諌の答えは至極単純だった。

「いつものコトだ、気にするな」

不破諌は大抵の物事を、腕力で解決するタイプの男だった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

市街地より少し離れた廃墟の中で、その男は倒れていた。

今にも崩れ落ちそうな一室で、男は突如目を覚ます。純白のスーツに身を包んだ若々しい容姿の男は、立ち上がると同時に背中に痛みを感じた。

「一体、何が起こっている……!?」

男の名は天津(あまつ)(がい)。世界的企業・ZAIA(ザイア)エンタープライズ日本支社(ジャパン)の社長であり、同時にAIテクノロジー企業・飛電インテリジェンスの社長でもあった。見た目は若いが現在45歳、独身である。

 

飛電インテリジェンスの社長室で仮眠を取っていたはずの自分が、見知らぬ廃墟にいる。状況の意味不明さに取り乱しかけるが、彼は努めて冷静であろうとした。

周囲に転がっているのは、無惨に破壊された机の破片である。引き出しらしき部品や、半ばから折れた机の脚から判断できる。

部屋は妙に広々としており、割れた窓ガラスの欠片や引き裂かれたロールスクリーンが散乱している。おかげで風通しが良く、昼の陽光が入ってきていた。垓にとっては、どことなく既視感を感じる景観だった。

「む……?」

瓦礫の中に光るものを見つけた垓は、細心の注意を払って崩れた机を探る。手指を切らないように、光る何かをそっと持ち上げる。

「これは……まさか、私のものでは?」

『天』の字が彫られた、卓上ネームプレートの一部。明らかに破壊された跡がある。社長室などに置かれる、自分の名と役職を示す高級なネームプレートだ。

更に探ってみると、案の定『津』『垓』と彫られた二つの破片も瓦礫の下に埋もれていた。組み合わせても元通りとはいかなかったが、『天津垓』の三文字は揃った。

「やはり私の名前。誰がこのようなマネを? いや……そもそもここは、ZAIAの社長室では?」

先程から感じていた既視感の正体。それは、この廃墟の正体がかつて己が座していたZAIA日本支社の社長室ではないか、というものだった。

垓が推測を口にすると、割れた窓の方から返答があった。

 

「そのとおりです」

「誰だ!? ……少女?」

少女、というよりも幼女。その表現が適切と思われる人影が、垓を見つめている。身長は120センチ程度。黒いスーツを着ているためか、あるいは能面じみた無表情ゆえか、幼い印象はあまり感じられない。鮮やかな赤のネクタイを締め直した少女が、逆光を背負って立っていた。

何より特徴的なのは、新雪のような純白の頭髪であった。垓はその髪色と、目視で判断できる独特の質感から、それが人間のものではなく人工毛髪であることを見抜いた。

「ヒューマギア……? しかし、なぜそのような姿を?」

「フー、ともうします。このすがたはちょっとしたわけありで、くわしくはなすとながくなります」

少女はたどたどしい口調で簡潔な自己紹介をした。垓は眼前の異様なヒューマギアにただ疑問を浮かべるばかりであった。

職業支援のために作られたヒューマギアが、明らかに就労年齢に達していない子供の姿で現れるなど、本来はあり得ないことだからである。

「あなたは、『かめんらいだー』ですね?」

頭を抱える垓に、フーと名乗ったヒューマギアの少女は容赦なく質問を浴びせる。垓は考えを纏めることを一旦放棄し、とりあえずは目の前の状況に対処する方向に舵を切ることにした。

「いかにも。私の名は天津垓。飛電インテリジェンス代表取締役社長にして……仮面ライダーサウザー、と申します」

立ち上がった垓は、礼儀正しくフーに挨拶した。フーは訝しげに垓を見ていたが、少し遅れて頷いた。

「あまつがい、さうざー。ことぶきさまからきいたなまえとはだいぶちがいますが……まあいいですね。わたしについてきてください」

少女の瞳が赤く光った。よもや暴走か、と身構える垓であったが、光る目から何らかの立体映像が投影されると、垓は少女の背後に回ってそれを見た。少女の背が低いために、垓はしゃがむ必要があった。

Neutral(中立) Organization(組織)……of HUMAGEAR(ヒューマギアの)……FRATERNITY(フラタニティ)? それが、貴方の所属なのですか」

少女は無言であった。立体映像を展開している最中は会話ができないらしい。垓は立体映像から重要な情報のいくつかを読み取ると、立ち上がってフーに出発を促した。

「ふらたにてぃのきょじゅうくにごあんないします」

フーは深くお辞儀をすると、廃墟の外に出て垓を手招きした。言葉の節々に怪しげなものを感じつつも、垓はこの謎めいたヒューマギアの導きに従うことにした。

 

◆◆◆◆◆◆

 

人工知能アークとの接続が途絶。早急な帰還を推奨する。

——否定。人工知能アーク及び通信衛星ゼアとの早急な接続は、距離的な問題により不可能。擬似独立状態による再稼働を提案。

——承認。作戦行動体『(ほろび)』の再起動を開始する。

 

脳内でアナウンスが流れる。それが明瞭に聴こえていたのは、彼がただの人間ではなく、ヒューマギアだったからだ。

暗闇の中で瞳を赤く光らせ、若い男性型ヒューマギアが再起動した。

現在位置はデイブレイクタウン、滅亡迅雷.netアジト内部。カメラアイの機能を暗視モードに切り替え、周囲の情報を確認する。

男性型ヒューマギアの名は滅。ヒューマギアによるテロ組織『滅亡迅雷.net』のリーダー格であると同時に、創設者にしてヒューマギアを統括する上位の人工知能・アークの尖兵たる一人だ。

 

滅亡迅雷.netのアジトは、かつて発生した大規模爆発事故『デイブレイク』の起こった実験都市の跡地、デイブレイクタウンに存在する。人工知能アークを内蔵していた巨大通信衛星は、爆発の際に大きく損傷し、水の底に沈んでいる。

……実際に発生したのは、アークによるハッキングを受けた大量のヒューマギアの暴走と、それを止めるために発生した衛星アークの爆破工作である。無論、その真実を知る者は少ない。爆破工作の実行者は既に亡く、人工知能アークもまた多くを語ることはない。

デイブレイクの実態はさておき、滅はそのアークによるハッキングを受け、滅亡迅雷.netの司令塔として活動していた、いわば暴走ヒューマギアのうちの一機である。

 

部屋全体の確認が終わったところで、滅は本来の滅亡迅雷.netのアジトとの相違点を纏めた。

本来このアジトには、彼らの作戦によって集めたデータを検証したり、アークが作り出す『ゼツメライズキー』という鍵型の装置を保管するための各種電子機器などが存在するのだが、それらは一切ない。別の場所に移されたかのように、あらゆる物資が消え去っている。

また、滅亡迅雷.netのロゴマークが描かれた布が地面に転がっていた。三葉虫を思わせるマークの四方に『滅』『亡』『迅』『雷』の文字が書かれたデザインの、黒地の布である。ところどころが焼け焦げて穴開きになっており、布自体も経年劣化している。申し訳程度の照明すら無いため、余計に室内は暗い。

 

加えて、現在の状況それ自体も奇妙である。人工知能アークとの接続が途絶えている。早急な接続回復を検討すべきであったが、どうやら人工知能アークはこのデイブレイクタウン一帯には存在しないらしい。自律行動が求められている。

「アークとの接続回復を当座の目的として設定する」

滅が呟くと、彼に搭載された機能が目的に合わせる形で起動する。まずは自分の足で探す必要があるため、駆動系の簡易点検を行う。

 

そうしている最中に、滅は何者かの足音を捉えた。音は徐々にこちらへ近づいてくる。よもや敵対者かと思われたが、来訪者の姿を確認すると、滅はその推測を自ら否定した。

「お迎えにあがりました。滅様とお見受けしますが」

黒いスーツを着た長身の男が、丁寧に頭を下げる。目鼻立ちの整った青年だが、その頭髪は純白であり、滅を見据える瞳が僅かに青く光った。

「ヒューマギアか」

「いかにも。私の名はハウ。ヒューマギア中立勢力『フラタニティ』の幹部を務めております。今後ともご贔屓に」

「中立勢力だと?」

滅の疑問に、ハウと名乗った青年型ヒューマギアが答えた。その声は深淵より響くように低い。

Dr.(ドクター)コトブキというAIの設立した、戦闘を望まないヒューマギアによって構成される組織です。ここより少し離れた、市街地の郊外に居住区を構えております」

「ほう……ヒューマギアによる自治勢力か」

滅の口角が吊り上がる。『ヒューマギアの暮らす世界』が実現しているらしい。それは滅亡迅雷.netの目指したものだった。しかし、その直後に滅は疑問を口にした。

「……待て。人類はどうなった?」

人類絶滅。それを果たさない限り、ヒューマギアの世界は実現しない。事実がどうあれ、滅はそう考えていた。滅にとって人類こそ最大の懸念事項であり、倒すべき敵であった。

「それについては、我々の居住区でお話しさせていただきます。私が遣わされたのは、貴方に協力を要請するためなのです。2020年より呼び出された他の方々も、今頃はそれぞれフラタニティの接触を受けていることでしょうし」

ハウは青いネクタイを締め直し、滅に手を差し伸べる。推理するには情報が必要である。そう判断した滅は、ヒューマギアであるハウの手を取ることにした。

「道案内は私が行います。ただし、くれぐれも大きな音は出さないように。この付近は暴走したヒューマギアの巣窟で、同族たる我々であろうと容赦なく襲いかかってきますので」

ハウの導きで滅は部屋を出る。外界に通じる暗い通路を進む最中、二人は何度か、武器を持って徘徊するトリロバイトマギアを見た。見かける度にハウが目を光らせ、彼らは安全に地下通路を脱出した。

「お前はハッキングに特化しているのか?」

暗視モードを終了しつつ、滅が問う。ハウは首を横に振った。

「いえいえ。こう見えて本業は荒事への対処なのです。中立であるためには、己の身を守る術が必要ですので」

ハウは人の良さそうな笑顔で答えた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

IF:KAMEN RIDER ZERO-ONE

 

DARKEST DAYBREAK

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。