IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK 作:TAC/108
轟音を響かせながら、平地を疾駆する影がある。ヒューマギアの移動速度を超え、蛇のようにうねりながら駆動する二人乗りのライダーは、自らを囲む雑兵を蹴散らしてヒューマギアの戦場を荒らし回っていた。
黄金のライダーの名はサウザー。その背後にしがみついているのは、同伴者フーであった。
突如出現したピースメーカーの総司令官、無銘/仮面ライダーバルカンフォース。作戦の本命たるバルカンが彼との交戦状態に入った中で、サウザーが取った行動は、再び囮役に戻ることであった。サウザーの通信機能で呼び寄せたバイクを派手に乗り回し、三大勢力のマギアを次々に蹴散らしながらその足を進めていく。
当然、本来の役割を果たしているとは言い難い。だが、作戦はまだ破綻したわけではない。騎乗したままジャッカーを振り回し、サウザーは高層ビル群の立ち並ぶ大通りめいた区画で暴れ回っていた。
ふと、サウザーは足場が暗くなったことに気付いた。一度バイクを停め、真上を見る。空を覆うばかりの巨大な岩塊が、サウザーの頭上にあった。ネオZAIAエンタープライズ本社である。
「よもやここまで到達するとは」
「あまつさま、あれを」
フーが後方を指差す。稲妻を轟かせる大竜巻が、無差別にヒューマギアを巻き込んでこちらに向かってきていた。
「無銘はあれに乗って来たのか」
「つよいじりょくをもつたつまきです。きゅういんりょくはさほどでもありませんが、ひとたびまきこまれればらいだーしすてむでもきけんですね。せいみつきかいはじりょくによわいものですから」
大竜巻の進行ルートから外れるべくバイクを走らせる。途上のヒューマギアを呑み込みながら、磁力の大風がネオZAIA本社へと迫っていた。
竜巻の内側がどうなっているのかは知る由もないが、知るわけにもいかない。ひとたび入ってしまえば、ライダーシステムとて無事とはいかぬというフーの言は真実であろう。垓は竜巻から吐き出されたヒューマギアが力なく地面に落下する様を見て肝を冷やした。
「あんなものを単独で生み出したのか、無銘は……」
「てきえいひとつ、なんせいのほうがくです。これは……たつまきはどうやらふたつあったようですね」
ネオZAIA本社に突撃を仕掛けた、水色の小さな竜巻が上空で爆ぜる。本社から展開される不可視にして強固な防御障壁は、僅かに光の膜を露わにするだけで、襲撃には微塵も揺らがない。
バリアに弾かれた襲撃者は、空中で身を翻しつつ再び竜巻を纏い、安全に着地した。膝立ち姿勢で空を仰ぐマギアに、垓は見覚えがあった。
流線型のフォルムが特徴的な、水色の追加装甲。赤いバイザー型カメラアイを光らせ、周囲を警戒する姿。頭頂部に備えているのは、ドレッドヘアじみた六本の触覚と、鳥類の嘴を彷彿とさせる衝角であった。
台風、あるいはハリケーンと呼ばれるものを操るプログライズキー、ストーミングペンギン。ZAIAエンタープライズ製のもので、垓はその姿を人間が変身する
「あるふぁ・ばれっとです」
「見れば分かるさ。とはいえ、少々まずい状況か」
ただでさえここはネオZAIA本社の真下、つまり実質的には本陣手前と言っても過言ではない。その中でABとの交戦に入るとなると、サウザー単独では危険が大きい。行方が定かでないデトネイターがいつここに出現するかも分からず、そうなれば最悪の場合はピースメーカー幹部による袋叩きが待っている。
否、やらざるを得ない。答えは既に定まっていた。
二人乗りのバイクがペンギンマギアを跳ね飛ばし、車上から光刃を撒き散らしながら再び戦禍の大通りに躍り出る。
バイクを自動操縦に切り替えると、サウザーとフーが飛び降りつつ周囲を見渡す。ピースメーカー所属のマギアが、続々と集まってきているのが見えた。恐らくはペンギンマギアの部下であろう。更にネオZAIA本社からはロケットブースターを背中に装着したマギアが、黄金のマギアに率いられて襲い来る。ネオZAIAの中でも強力なヒューマギア達であり、ここが彼らのテリトリーであることを否が応にも感じさせる。
フーが手袋から形成した二挺のアタッシュショットガンを受け取り、サウザーが構えた。
「一機とて残さず叩き潰してくれる」
『ショットガンライズ!』
前方を薙ぎ払うように、無数の散弾をばら撒く。それが号砲となり、散らばっていた二つの勢力が動き出した。後に待っているのは血みどろの殺し合いである。ネオZAIAとピースメーカーの戦いに混ざるように、バルカンフォースが発生させた磁力の竜巻も軌道を変えた。コウモリじみた翼を生やした黄金のマギアと、先程横合いから突撃を喰らったペンギンマギアがサウザーに襲い掛かった。
「クェーッ! 貴様、何者か知らんがよくも——」
「黙っていろ、今は仕事中だ!」
「人の話は最後まで聞クェーッ!」
大型の光弾を鳩尾に叩き込まれたペンギンマギアが吹き飛ぶ。黄金のマギア……哺乳類の絶滅種・オニコニクテリスのデータから生まれたオニコマギアには、片手撃ちに散弾を連射しながら対処した。黄金の翼に傷がつき、飛行能力が損なわれる。
「おのれ! まずは名乗らせろ、そしてお前も名乗れ! 私の名はフォーチュン、アルファ・バレットNo.6! 序列は最下位だが、侮るな!」
「ではこちらも名乗るとしよう。仮面ライダーサウザー、私の強さは……桁違いだ!」
ペンギンマギア・フォーチュンが両腕を交互に突き出して強風を送った。サウザーはその場に踏み止まるが、その背後にいたオニコマギアの翼があらぬ方向にひしゃげ、千切れ飛んだ。怒りに身を震わせるオニコマギアが両手の鉤爪でフォーチュンへと斬りかかる。
「ネオZAIAは排除する!」
フォーチュンは飛び膝蹴りから信じ難い膂力でオニコマギアの腕を掴み、身体ごと空中に投げ飛ばした。撃破も確認しないうちからサウザーに殴りかかるが、サウザーは鞄型に変形させた左手のアタッシュショットガンでパンチを防いだ。
「邪魔をするかライダーめ! だがその存在は既に把握済みよ」
「……例のパンダマギアか」
「然り、クルーエル大隊長は良き働きを成し遂げたのだ。如何に相手が仮面ライダーであろうと、ABの末席に名を連ねる私が倒せずして何とする!」
静止状態から爆発めいた勢いの突風を繰り出し、盾としたショットガンが彼方へと吹き飛んだ。仰け反るサウザーに向かってフォーチュンが大きく拳を振りかぶるも、寸前で踏み止まったサウザーが上体を反らして拳打を躱す。水色の風がサウザーの後方を通り抜け、戦闘集団の一つを巻き込んで破壊を生んだ。
同時に、空中から降ってきたオニコマギアがフォーチュンに襲いかかる。破壊された翼はいつの間にやら再生しており、自在に飛行軌道を変えながらフォーチュンへと鉤爪を突き出した。破壊音と共に、鋭い爪が首筋に突き立てられる。
「グェーッ!? おの、れ……醜い
フォーチュンは飛び離れようとしたオニコマギアの顔面を両掌で挟み込み、腕部に猛烈な風圧を発生させた。吹き付ける強風が一瞬にして顔面を
「次は貴様だ、サウザーッ! 我が戦果としてその首、貰い受ける!」
「……待て、何か様子がおかしい!」
「命乞いなどさせ——ぬう?」
サウザーとフォーチュンが動きを止め、同時に空を見上げた。
夜空を覆う幕の如く、大きな影を大地に投げていたネオZAIA本社。それが今は恒星か何かのように、黄金の光を放っている。防御障壁が発しているものではなく、巨岩それ自体が眩く光っていた。
「まさか……
「ヤツ?」
「よもやそのナリで知らぬとはな、過去から来たという総司令の言説も極論ではなさそうだ。
嫌悪を隠さずフォーチュンが吐き捨てる。数秒前まで戦闘を繰り広げていたマギア達も、その全てが光る巨岩に注目していた。
巨岩の上方に、一際強く光る何かが出現した。夜空の星めいて小さく、しかしながら目を焼かんばかりの輝きを放つものが、地上に向かってゆっくりと落下してくる。自由落下に身を任せたように、それは徐々に速度を高め——。
光源が地上に舞い降りると同時に、全てを吹き飛ばさんばかりの衝撃波が広がった。
有象無象の雑兵は所属を問わずほとんどが虫の息であり、残る数名もあまりの状況に立ち尽くすばかりで何もできずにいた。
光の球を目前に立つのは、サウザーとフォーチュン、そして……。
「ごぶじですか、あまつさま」
「フー!? 君は何故……!?」
「わかりません」
どういうわけか全くの無傷で姿を現したフーを合わせた三人のみであった。彼女の視線は、舞い降りた人間大の光球に注がれていた。
その光球が、繭のように裂ける。中から現れたのは、黒地に金と紫の格子模様が入ったスーツを着た美丈夫であった。
垓はこの男を知っている。何故ならば、彼の顔は以前に市街地で見たことがある。何よりその顔は、天津垓と全くの瓜二つであるからだ。
「ふむ、まずまずの調整といったところか」
垓と同じ声で、男が呟いた。彼が指を鳴らすと、光球が一瞬にして光の粒子に分解され、腰と右手に収束する。腰には変身ベルトが装着され、右手の光はプログライズキーを形成する。
変身ベルトは垓も見慣れたフォースライザー。そして、男の手に握られしプログライズキーは……アメイジングコーカサス。
「諸君、本日はご来場いただきありがとう。記念としてこの私自ら、プロモーションを兼ねた緊急会見を開かせてもらいたい。カメラは……あれを使うか」
男がプログライズキーをフーに向けた。稲妻に打たれたような衝撃に身を反らし、その瞳が黄金色に光る。半開きになった口を動かしながら、その手だけがサウザーの方へと伸ばされていた。
「フー!」
サウザーが駆け寄るが、フーからの返答はない。目は虚ろで、何やら人間には理解し得ぬ異様な言語を高速で口走っている。
「貴様……一体何をした?」
「フラタニティのネットワークに接続した。彼女を通じ、フラタニティに所属する全ての人工知能が同じ視界を共有する。目的は一つ。今から披露するものを見てもらうためだ。それはそれとして……初めましてかな、
『BREAK-HORN!』
起動スイッチが押されても、プログライズキーが展開することはなく、そのままフォースライザーへと装填された。フォースライザーから禍々しい待機音声が流れ出し、男がレバーに指を引っ掛ける。
「変身」
『フォースライズ……!』
プログライズキーが強制展開され、漆黒に染まったコーカサスオオカブトムシのライダモデルがフォースライザーから飛び出した。羽ばたきと共に十の光球が放出され、それらが男の全身を包むベーススーツを編み上げる。装甲に変じたコーカサスのライダモデルが光の糸に繋がれ、一斉に全身へと装着された。極彩色の輝きと共に、変身が完了する。
『The Golden Soldier THOUSER is born! ——Break Down.』
布のはためく音を聞き、サウザーが輝くライダーを睨みつける。
第一の印象としては、恐ろしいほどに
複眼は紫色をしており、それと全く同じ色調の光るラインが血管めいて全身の装甲に浮かび上がる。更に黄金のラインが交差するように加わることで、格子模様に着飾った姿が完成した。
肘と膝には角めいた突起を備え、また手指は鋭利かつ攻撃的な形状をしている。感触を確かめるように、ライダーは両の手指を軽く弄ぶ。
背中の方に迫り出した四本の突起には、漆黒のマントが繋がっていた。風にはためいているように見えて、その実風向きとは無関係な揺れ方をしており、異様な威圧感を醸し出している。
話には聞いていたが、実物を見るのは初めてであった。サウザーはその威容に屈することなく拳を握った。
この男を、この仮面ライダーの名を、彼は知っている。
ネオZAIAエンタープライズ社長、
そして彼が変身する戦士の名は——。
「仮面ライダーゼロサウザー。私の強さは……桁外れだ」
骸が……否、ゼロサウザーが名乗りを上げる。
もう一人の
◆◆◆◆◆◆
最も隠密行動に特化した移動法とは、どのようなものであろうか。
ステルス装備。物陰に隠れながらの移動。あるいは、目に映らないほどの高速機動。理屈や手法は様々である。
だが、今回彼が採用した方法は、それらのいずれとも異なるものであった。倒れ伏すマギアを踏み潰し、紫の仮面ライダーが矢を放った。
仮面ライダー滅である。遠近両用の兵装たるアタッシュアローを手に、滅は次の標的を探す。頭上にはネオZAIAエンタープライズの本社。星の光すら掻き消すほどに、夜空に煌々と光を放っていた。
ピースメーカーとネオZAIAの激戦区、即ちネオZAIA本社の真下。この地こそが絶好の狙撃ポイントであると見た滅は、
その都度、彼を確認した全てのマギアは所属を問わずこれを殲滅している。このような激戦区における至上の隠密行動とは、
遠方に隠れていた戦闘員が頭部を失って倒れる。ここでの戦闘は終了した。そう判断した矢先に、光の差さぬ路地に転がり込む黄金の影があった。ネオZAIA本社より派遣される、強化型の黄金マギアだ。肥大化した頭部、機種はガエルマギア。
距離にして三百メートル前後、向こうはこちらに気付いていない。今ならば闇討ちを仕掛けることができる。一撃必殺とはいかずとも、急所を狙えば力は削げるだろう。決断は一瞬にも満たず、滅が光の矢を撃ち出した。
恐るべき精密射撃を首筋に喰らい、ガエルマギアが転倒する。すかさず走り出し、右に左に飛び跳ねながら追撃の矢を浴びせかける。起き上がる暇もなく仰向けのまま地面に縫い止められたガエルの目が、いつの間にか滅の黄色い複眼を捉えていた。
滅が左手の甲から何かを伸ばした。伸縮を自在とするサソリの尾じみた刺突ユニットが、ガエルマギアの全身を縛り上げる。身動きを封じられたガエルの目から光が失われ、沈黙する。
今回の作戦を立てたのは、ネオZAIA本社に張られたバリアを破る算段を整えた滅自身である。空中に浮かび続けるネオZAIA本社を撃墜するのが目的だが、戦闘を繰り返すうちにそれだけでは足りないと考え始めた。
故に、このガエルマギアは
ならば、駒を次に進める時である。動かないマギアを縛る管を切り離し、毒針を元の位置に戻す。滅は左手の甲に装着した刺突ユニットを、勢い良くガエルマギアの頭部に突き刺した。
◆◆◆◆◆◆
ゼロサウザーが両手を広げた。見えない糸でも張られたかのように、倒れていた数十機のマギアが一斉に立ち上がる。ネオZAIAもピースメーカーも、そこに区別はない。
「フラタニティの皆様、ごきげんよう。ネオZAIAエンタープライズ代表取締役社長の骸です。この度は、仮面ライダーゼロサウザーとして、私からお知らせがあります」
ネオZAIAの社長に向かい、何人かが得物を振りかざして突撃する。一人を平手打ちで張り倒し、一人を横蹴りで吹き飛ばすが、続く一人のナイフがゼロサウザーの脇腹に迫る。
鈍く破壊音が響く。両手で突き入れたはずの刃が、根元から折れていた。ゼロサウザーが下手人の顔面ごと駆体を掴み上げると、襲いかかる二人に向けて投げつけた。ボウリングのピンめいて三体のマギアが地面に転がる。
更に指を鳴らすと、四方八方からゼロサウザーに銃撃が集中した。弾丸は一発とてゼロサウザーの装甲に傷をつけることなく、小気味良い音を立てて落下する。着弾地点が僅かに光り、膜のようなものが揺らぐ。
「今ご覧いただいたのは、ゼロサウザーの新機能。我が本社を守るバリアと同様のものを、本社からのエネルギー供給によって実装しました。いかなる攻撃とて、このバリアは通さない」
後に続くのは、ただ一方的な蹂躙である。蹴倒し、引きずり回し、殴り壊す。極めてシンプルな五体による格闘だけで、ゼロサウザーは自ら遠隔操作する標的を一つ残らず粉砕していく。
最後の一体が爆散した時、その視線がフォーチュンに向けられた。
「さて、ピースメーカーの幹部……確かアルファ・バレットとか言ったな。まずはお前を倒し、我が社の工場を返してもらうとしよう」
「ヒューマギアの平和を踏みにじる外道めが! これ以上ピースメーカーの大義を汚されてたまるか! ここで死ねッ、クェーッ!」
強風を球状に束ね、ペンギンマギアが両手で撃ち放つ。ゼロサウザーに着弾した風の砲弾が炸裂し、凄まじい風圧の刃が幾つも放たれる。
ゼロサウザーは多少身じろぎした程度で損傷などない。ゆっくりとペンギンマギアに向かって歩み寄り、距離を詰めた。風纏う拳を叩き落とし、顔面を掴み上げる。ぶら下がったペンギンマギアの胴体から、ゼロサウザーの右手に何らかの光の流れが生じた。
「ガ、アア、グェァ」
「その力、そっくりそのままお返ししよう」
ゼロサウザーがフォーチュンを手放す。力なく膝をついたフォーチュンの鳩尾に、右手でアッパーカットを打ち込んだ。殴り抜ける勢いに合わせ、黄金の竜巻が右手に発生し、フォーチュンを遥か上空へと吹き飛ばす。
ゼロサウザーが腕を払うと、水色のマギアが地面に落下した。アルファ・バレットの一人であったマギアは、僅かに手を伸ばそうとするだけで、それ以上動くことはなかった。
「ふむ……少々、やりすぎてしまったかな?」
マギア達の残骸をよそに、ゼロサウザーがマントを翻す。
「今の力は何だ!」
サウザーが問う。もう一人のサウザーが彼の方を向くと、フーの目線も自然と二人を映すために動いた。
「ゼロサウザーの四肢には、マギアやライダーシステムのデータを吸収する機構がある。ちょうど、オリジナル・サウザーの使っていたサウザンドジャッカーという武器と同様に」
「オリジナルと言ったな。自らが偽物であることは自覚しているようだが」
「
垓が舌打ちした。言っていることの意味が何一つ理解できない。自らと同じ顔で、同じ声で話すこの男が、何を言っているのかが分からない。
「ネオZAIAの支配が生み出すものは何だ?」
「私にとっての利益、と今は言っておこう」
「お前の最終目的はどこにある」
「それも現段階では機密事項だ。一つ言えるのは、この国に存在する衛星ゼアおよび衛星アーク由来のテクノロジーの掌握……その先に達成されるものであるということだけだ。ところで……そろそろ気付いてもよさそうなものだが」
何を、という言葉を垓は呑み込んだ。ゼロサウザー……骸の発言には奇妙なところがある。この時代において人類は絶滅して久しい。その人類の中には天津垓当人も含まれている。
だというのに、骸はサウザーが現れたことには全く驚いた様子を見せていない。事前に知っていたのか、あるいは誰からも知らされていない何らかの事実に基づいて、垓達がこの時代に現れたことを知っていたのか?
「ようやく気付いたか。その通り、君達が
「バカなことを言うな! 衛星ゼア由来のテクノロジーに……
「存在するとも、厳密にはより広い範囲だが。
無表情の仮面が、醜悪な笑みを浮かべたように見えた。サウザーはその手にサウザンドジャッカーを出現させ、攻撃準備に入った。
垓の心中で、骸への敵意が炎のように燃え上がる。この男を見ていると、過ちを繰り返したかつての己を見ているように思えてくる。それらを償うと決意した今の垓にとって、断じて許すわけにはいかない存在であった。
諸々の疑問や作戦目的などもはやどうでもいい。この男だけは、自らの手で倒さねばならない。
「もういい! お前ほど目障りなヒューマギアは初めてだ……絶対に私の手で倒してくれる!」
「情に流されて価値を理解しないとは、見損なう他ないな。サウザーを上回るゼロサウザーの力、その身で味わうがいい」
両者が動いたのはほとんど同時だった。徒手のゼロサウザーが駆け出し、サウザーがジャッカーを薙いで前方に電撃を放つ。枝分かれする稲妻を払い除けて、ゼロサウザーが殴りかかった。
刃と拳が激突し、衝撃が二人の周囲を揺るがす。力と力が競り合うが、ゼロサウザーの黒い腕がジャッカーを強引に押し返す。
僅かに距離が開く。サウザーが摺り上げる斬撃を放ち、それに合わせて炎が噴き上がる。ゼロサウザーの背後から広がったマントが身を包み、攻撃を何一つ通すことはなかった。マントが背中で大きく変形し、漆黒の翼を形作る。重力に逆らい、巨大な翼を展開したゼロサウザーが空中へと舞い上がる。
「言ったハズだ。ゼロサウザーはあらゆる攻撃を通さない。そして戦闘能力もこの通り」
翼の羽ばたきによって黒い爆弾が撒き散らされ、サウザーに襲いかかる。爆発を受けたサウザーの四肢を四本の触腕に変形したマントが縛る。無防備な胸元に強烈なドロップキックが突き刺さり、サウザーが吹き飛んだ。
「ゼツメライズキーが内包する絶滅種の力・ロストモデル。これをプログライズキーにて統括管理することによって、フォースライザーを使いながらも安定して高水準な力を手に入れた。サウザンドジャッカーなどもはや必要ない。私こそがベスト・オブ・ベストのサウザーだ」
「バカな……」
骸が一つ咳払いし、声を大きく張り上げる。
「いかがだったかな?
フーの前で大仰なジェスチャーを行う、いわば彼なりのパフォーマンスである。フーと視界を共有しているフラタニティ所属のヒューマギアに、万が一にも勝利の目など存在しないことを示すためである。
「さて、ラストを飾るとしよう……チャンネルはそのまま」
『サウザンドディストピア!』
フォースライザーのトリガーを押し込み、再び引く。フォースライザーで変身する仮面ライダーが持つ、最大級の必殺技を発動するためのコマンドであった。
ゼロサウザーが金と紫のオーラを全身に纏う。立ち上がったサウザーを横蹴りで吹き飛ばし、自らは翼を広げて飛び立つ。
ネオZAIA本社から飛来するレーザーを背に受け、ゼロサウザーの力が爆発的に増大した。ゼロサウザーにエネルギーを供給するための機構が、本社には存在する。彼の全身を覆うバリアが、本社からのエネルギー供給で形成されているのと同様である。
「塵芥と果てるがいい……私こそが真のサウザーだ」
なおも抵抗を見せるサウザーが、地上からジャッカーを振るう。紫色の結晶めいた弾丸を無数に展開し、自らを守る盾とした。
無意味なことを。仮面の下で骸が吐き捨てる。ゼロサウザーは空中で飛び蹴りのフォームを作り、その姿のまま地上へと一直線に加速した。
一瞬の後。
あらゆる防御を貫いて、ゼロサウザーが着地する。彼の背後には、腹に大穴を開けたサウザーの姿があった。
ジャッカーを杖に、サウザーが膝をつく。既に彼には立ち上がる力など残されていなかった。紫色に光る亀裂が、大穴から全身へと広がっていく。
サウザーはフーの方を見た。未だ、虚ろな黄金の瞳でこちらを見ている。僅かに、その視線が合った気がした。それが最後だった。
黄金の仮面ライダーは爆発四散した。
爆炎を背に、漆黒のサウザーが歓喜の哄笑を上げる。笑い声が夜の戦場に、不気味に響き渡っていた。
つづく。