IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK   作:TAC/108

13 / 46
Part-11 攻防の最前線

深夜の平地を駆け回る二人の仮面ライダー、バルカンとバルカンフォース。銃撃を交え、拳をぶつけ合い、鎬を削る真っ最中である。

バルカン・アサルトウルフが両肩のマイクロミサイルを射出した。あえて周囲を狙い、バルカンフォースを白い煙が包む。攻撃力は低いが、煙で視界を奪うスモーク弾である。

「煙幕か……さて、どこから来る!」

左腕の短機関砲を放つと、背後で煙が揺らいだ。バルカンフォースが跳躍から殴りかかるバルカンの拳を掌で受け止める。しかし——。

「うおっと!?」

「まだまだ行くぞ!」

バルカンの右腕が火を噴いた。短機関砲が至近距離で発射され、続けて腰から抜いたショットライザーを撃ち放つ。予想外の挙動に驚いたバルカンフォースの鳩尾に、銀の弾丸が尽く命中した。

全身から帯電する風を吹かし、バルカンフォースが煙を晴らす。稲妻を纏った拳とバルカンの鉄拳が衝突し、地面が爆ぜた。

爆心地に二人。拳を突き合わせたまま微動だにせず、力を一点に集めて押し合っている。

「随分と強いじゃあないか。その性能(スペック)でよくやるモンだ」

「お前も大した野郎だ。まさかこれほどのパワーを持ってるとはな」

バルカンフォースが押し込み、全身から小型のミサイルを放った。防御姿勢を取ってダメージを殺すが、バルカンは損傷箇所から火花を散らす。

 

諌は敵の強さを瞬間的に見極めていた。パンチ力や内蔵火器の詳細など、短い戦闘の中でバルカンフォースの性能を確かめる。その上で出した結論は、現状では()()()()()()()()()()()()()ということである。

二人のバルカンが現在用いているアサルトウルフキーは、滅亡迅雷.netに端を発する。本来想定されていた使い方は、滅亡迅雷.netで主に使われるフォースライザーとの連携運用であり、その意味ではバルカンフォースの方が正式な用途に近い。

だが、それを踏まえてもバルカンフォースのパワーはバルカンの倍近くある。二百年の歳月が更なるテクノロジーの進化をもたらしたのかもしれないが、何にせよまともに殴り合って勝てる相手ではない。軋む身体に気合を入れ直し、バルカンが両眼を光らせる。

「ブッ潰してやる……!」

バルカンフォースが反射的に構えた。ヒューマギアが()()という概念を解するかはさておき、無銘はこの時のバルカンに対し、言語化こそ困難なものの何かが変わったという感覚を抱いていた。

そして実際、無銘の直感的な危惧は正しかった。

 

弾丸じみた速度でバルカンが突撃する。軽く半身をずらすだけでバルカンフォースが躱すが、速度を増してバルカンが転進してきた。予測を超えるスピードに反応が遅れ、バルカンフォースの顔面に強烈なラリアットが放たれた。打撃から首筋を掴まれ、バルカンフォースが地面を引きずられる。たまらず電磁気の風を炸裂させ、両者の距離が離れた。

「逃がすかァ!」

「ヤバいな、コイツ……」

バルカンの飛び蹴りを宙返りで回避し、バルカンフォースは空中から機関砲を連射した。バルカンは青い光を総身から立ち昇らせ、風に乗って後退するバルカンフォースを追いかける。ショットライザーの弾丸を電磁気の風が弾くが、後ろに回した左手から不意打ち気味に何かが投げられ、バルカンフォースを撃墜した。ブーメランめいてバルカンの手元に戻った凶器を目撃した無銘が、驚きに上擦った声を上げた。

「何だその武器!?」

「知らねえのか。コレはな……俺の秘密兵器その一だ!」

バルカンの左手に握られているのは、両刃の片手斧である。側面部に描かれたバッタの紋章が特徴的であり、分厚く幅の広い刃を持つ。

銃と斧、二つの形態に変形する強化兵装、その名はオーソライズバスター。本来は別のライダー……仮面ライダーゼロワン用の装備として製作されたが、状況に応じてバルカンに貸し出されることもあった、強力な武器である。バルカンは専ら銃形態(ガンモード)で使っていたが、事前に斧形態(アックスモード)の使い方も教わっていた。

誰から教わったのか。無論、この武器を()()()()()()バルカンに与えた人物……Dr.コトブキからである。コトブキは今回の作戦を実行する際にオーソライズバスターを作成し、バルカンのライダーシステムに紐付けた。柄を握れば、使い方は一瞬にして理解できる。

「お前がどれだけ強かろうが知ったことじゃねえ! 俺はお前をブッ潰す。俺のルールでな!」

「……へえ、アンタ良いな。そういうところは嫌いじゃないぜ!」

バルカンフォースが両腕から機関砲をパージした。代わりに四つ並びの鉤爪を展開し、脚部スラスターで加速しながらバルカンへと迫る。オーソライズバスターを両手持ちにしたバルカンが、その場で迎撃の構えを取った。

鋼と鋼が衝突し、けたたましい音が響く。右の鉤爪とオーソライズバスターが互角の力で押し合うが、左が加わりバルカンが劣勢となる。次の刹那、僅かに力が緩んだ隙をバルカンが突くが、これはフェイントに過ぎない。目にも留まらぬ四連撃を喰らい、強化装甲に裂傷が刻まれる。

「マジかよ、耐えやがった」

だが、ここで退く不破諌ではなかった。傷の痛みを忘れたように全力で斧を薙ぎ、弧を描く青い光波を刃から飛ばした。バルカンフォースは光波を斬り裂くが、次の瞬間には驚愕に身をすくませる。

「へ、ッヘヘ……」

「ヘラヘラしてんじゃあ、ねえッ!」

『Progrise key confirmed. Ready for Buster!』

オーソライズバスターが巨大化したかのように錯覚させるほどの、鉄塊じみた黒い塊を、バルカンが両手で天に掲げている。オーソライズバスターが持つプログライズキーのスロットに、パンチングコングキーを装填している。そのエネルギーは撃ち出せばいかな装甲とて圧壊する徹甲弾となるが、こうして使えば大質量の斧を形成する。

『バスターボンバー!』

気合の叫びと共に振り下ろされるは、山をも吹き飛ばす鉄槌の如き一撃。事もあろうにバルカンフォースはこの黒光りする大斧を真正面から殴りつけるが、本来ならば曲がらない方向に左腕がひしゃげ、そのまま潰されることとなった。衝撃が砂塵を巻き上げ、煙が立ち込める。

『ガンライズ!』

霧散したエネルギーを振り払い、バルカンがオーソライズバスターをガンモードへと変形させる。斧の刃を半分に折り畳み、グリップを傾けることで、高威力の弾丸を発射する銃口がその機能を解放した。

今の一撃で倒せたとは思えない。諌は煙の向こうに揺らめく影を睨み続けていた。

果たしてバルカンフォースは、折れた左腕はそのままに起き上がってきた。左肩を軽く回して肘から先を真っ直ぐにすると、損傷が嘘のように腕部機能が回復した。指を軽く動かし、バルカンフォースが言う。

「今の一撃は見事だった。実際オレの腕も折られたし、なかなかのダメージではあったと思う。それに……その戦い方はオレ好みだ」

「どういう意味だ」

諌が銃口を向けると、無銘が甲高い笑い声を発した。諌が初めて認識する無銘の表情は、この上なく悪魔的で不気味なものだった。

「こう思ったことはないか? 何事も全部、力づくで解決すればこれほど楽なことはない……そうすれば、もっと色んなことができたハズだ。より多くの人間を救えたかもしれないし、より多くの悪党をブッ潰せたかもしれない」

「そんなモノはただの暴力だ。正義も信念も無い力に、何ができる!」

「できるさ。全ては結果論だよ。オレはフラタニティを脱してピースメーカーを組織し、ネオZAIAの兵器工場を乗っ取って他の勢力に負けない戦闘集団を作り上げた。そこにどんな理念があったと思う?」

無銘の声が徐々に低くなっていく。凍土に開いたクレバスを思わせる、深遠たる虚無じみた悍ましい心象。底冷えするような狂気を感じ取り、我知らず諌の顔が震えた。

 

「何もなかった。オレはただそうすべきだと考えて動いたに過ぎない。ネオZAIAも零の方舟も滅ぼすべきだと考えたが、それは状況から導いた演算の結果であってオレ個人の心象じゃあない。フラタニティでは目的を達成し得ないからピースメーカーを作っただけなのさ」

 

諌は愕然とした。心が無いかのように振る舞うこの無銘というヒューマギアは、実際に心ではなく理性で戦っていたのだ。ある意味では本能以上に獣じみた、野生の如き理性である。

「お前に……心は無いのか?」

「それを確かめたいから戦ってるのかもな。力一つで目的を成した時にオレが何を思うかは、実際にやってみないと分からないからさ」

何かを憂えるような口振りだが、その声はどこまでも乾いていて、虚無的であった。

「さて、そろそろ頃合いかな。今のうちにアンタから離れとかないとブルータルから余計な恨みを買うだろうし。さっきの質問に対する返答は、また今度ってことにしておくよ。案外、生きてれば近いうちにもう一度会うかもな」

バルカンフォースを鎧う装甲の隙間から、低音の霧が噴き出した。瞬く間にそれは彼の身を包み、白い闇の中に隠していく。

「最後に一つ。()()()()()()、バルカン。じゃあな」

無銘の声から僅かに、情動らしきものが垣間見えた。

どこからともなく吹いた風が霧を払うが、そこにバルカンフォースの姿はなかった。バルカンはオーソライズバスターを持ったまま、呆然と立ち尽くす。

 

「力だけで全てを……だと?」

一人残された諌は、無銘の言葉を脳内で反芻していた。

力づくで全てを解決する。もしもそんなことが出来るならば、それは力を持つ者にとっては至上であろう。だが、その先に何があるというのか。言葉にできない複雑な心境に、諌は頭を抱えた。

その時である。頭上の空が何やら光っているのを確認し、バルカンはビル街の方を見遣った。空中に浮かぶネオZAIA本社が、眩く輝いている。更には、その真下で何やら大きな爆発が起こったのも確認できた。

「向こうも本格的に動いたか」

バルカンは通信装置でバイクを呼び出した。自動操縦で背後から現れたバイクに、後方宙返りから跨がる。目標たる狙撃ポイントに向かうべく、バルカンは二輪を走らせた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

昼夜を分かたず繰り広げられる戦乱の中で、その一箇所のみは静寂を保っている。電磁気の竜巻も消え去り、地に転がった兵士達は誰一人として動かない。

ネオZAIA本社の真下に、二つの人影が佇んでいる。少女型ヒューマギアのフーと、ネオZAIA社長である骸/仮面ライダーゼロサウザーだ。

ゼロサウザーはフーの頭に手を置いたまま、その場を一歩も動かない。彼は現在、フーというヒューマギアが何者なのかを解析している最中であった。ゼロサウザーの四肢には、データ解析の機能が備わっている。

 

ネオZAIA社長である骸は、末端に至るまでネオZAIAの全てを知り尽くしている。しかし、フーについては解析すればするほど、謎が増えるばかりであった。

理屈は単純だ。どのようにして生まれたのかが不明なのである。()()()()()()で切り離した第一研究室にまつわるヒューマギアであることまでは突き止めたものの、その先についてはデータの断片が存在するだけで、これをどう組み合わせても誕生の原因が判然としない。

バラバラに散らばった文字を並べ替えて、意味のある単語にするというクイズ形式が存在する。現在、骸が挑んでいるのは、そういったデータの断片から真実を暴こうとする作業であった。

フラタニティとのネットワーク接続は、既に切断されている。フーのAIには複数種類のトラップが仕込まれており、あのままフラタニティに向けて配信を続けていれば、骸も気付かぬうちにAIそれ自体を破壊されていたかもしれない。恐らくはDr.コトブキの差し金であろう。

「相変わらず抜け目のない人工知能だ……」

同時進行でウイルスの除去に取り掛かりつつ、骸はフーの記憶領域を覗き込む。

 

その姿を物陰から見ている者が一人。マルチタスクに集中している骸は、彼の存在には気付いていなかった。

「よもや……天津様が敗れようとは」

独り言ちるドードーマギア。腰に拳銃を提げている。暗殺を得手とするハウが変身した個体であった。三大勢力マギアの集団を切り抜け、ネオZAIA本社へと接近していたのである。

彼の関心は二つ。サウザーの敗北と、フーの救出である。ハウは現時点でフラタニティにおける最強戦力の一人であるが、真正面から仮面ライダーと戦って勝利できるほどの力は無い。まして相手は絶滅種に由来するロストモデルの力を掌握したゼロサウザーである。主にロストモデルで変身するマギアが太刀打ちできるわけもない。

 

ところが、ハウにとっては今の状況こそ最善である。距離は五秒以内に詰められるほど近く、ゼロサウザーはフラタニティ謹製のウイルス感染で動きを封じられ、尚且つこちらの存在は気付かれていない。骸がフラタニティのネットワークに接続したことは、同じくフラタニティのネットワークを使うハウも認識している。だからこそ、骸が不用意に踏み入ったが故に、動けなくなっていることも想定済みであった。

正攻法以外でならばやりようは幾らでもある。サウザーが倒された今、陽動役をこなせるのはハウしかいない。やると決めた以上、彼に躊躇などなかった。拳銃を握り締め、決意を固める。

 

ドードーマギアの細く引き締まった駆体の内側から、繊維めいた赤い光が放出される。上半身に収束した光の繊維が、肩部と胴を覆う追加装甲に変じた。上腕部には特殊弾頭を装填したグレネード発射装置、胸部には固定式の小型マシンガンを並べた重装備仕様である。鳩尾の部分には黄色い『改』の一文字が刻まれる。

人呼んでドードーマギア(かい)。かつて滅亡迅雷.netに所属していた、暗殺特化型のヒューマギアが変身した個体を再現したものである。

 

一瞬にして全力を両足に込め、ドードーが跳んだ。空中で回転しながらゼロサウザーの真上に出現し、グレネード発射装置から六つの弾を射出した。なおも気付かぬゼロサウザーの周囲に、弾頭が次々と落ちていく。

衝撃と爆発、更には銃撃音。異変を察知したゼロサウザーが周囲を見回すが時既に遅し。背中に猛烈な打撃を受け、フーから引き離される。辺りは一寸先すら見えぬ白い煙に包まれ、襲撃者の姿は確認できない。

「くっ、小癪な!」

「それこそが私の十八番でございますよ」

ハウの声のみが闇に響き、ゼロサウザーの視界にノイズが走る。ハウが放ったグレネードは、ヒューマギアの視界を封じるためのチャフ弾と煙幕弾であった。ウイルス除去が未完了の状態ということもあり、ゼロサウザーの動きは鈍い。

「ええい……どこへ消えたァ!」

背中のマントが煙を晴らすが、襲撃者は姿を晒すことなく、フーと共に消え去っていた。ネオZAIA本社からの電子戦支援によってチャフの効果を掻き消すが、それと同時に骸は空に浮かぶ赤い煙を見た。

「信号弾か! 一体何を——」

考える間もなく、西の方角にて建造物の崩落する音が耳に入る。空中にて爆発を繰り返しながら、猛スピードで信号弾の方向に迫る黒い煙玉が見えた。ゼロサウザーがマントの内側から小型爆弾を生成し、煙玉に向かって撃ち出した。

爆発の光と音が周囲を満たす。黒い煙を纏って着地した紫と銀のマギアが、獰猛な目つきでゼロサウザーを見据える。

ABの四番手、ライオンマギア・デトネイターであった。

「ネオZAIAの社長かァ……こりゃあ良い! 今日はとんだ祭りだなァ!」

「野蛮な戦狂いの愚連隊めが! お前も鉄屑となるがいい!」

 

立ち並ぶ建造物の一つに、滑り込むようにして入っていく影があった。フーを救出したドードーマギア・ハウである。フーを室内の壁沿いに横たえ、状態を確認する。開かれた双眸はどこを向くでもなく、未だに黄金の光を宿している。

「……ハッキングの形跡はあるが、データの破壊などはされていない。応急処置程度なら可能かもしれないが、さて……」

フーを背負い、ハウは上階へと昇る。壊れた窓枠から地上を見れば、ゼロサウザーとライオンマギアが交戦状態に入っていた。

「もう一手必要か」

可能な限り敵の目を逸らさせるためにはまだ要素が足りない。ハウは通信装置を起動し、救援を頼んだ。

 

◆◆◆◆◆◆

 

バルカンフォースとの交戦後、バルカンは特に何事もなくビル街へと侵入し、ネオZAIA本社を狙撃できる距離へと到達していた。

コトブキから与えられたバイクは、諌の予想を遥かに超える性能を発揮した。高層ビルを垂直に登り切り、壁面ですら安定して走ることができる。その甲斐もあり、バルカンは現在ビルの屋上で滅からの連絡を待っている。

 

ネオZAIA本社撃墜作戦の、大まかな内容は以下の通りである。

まず、市街地に分散して乗り込み、陽動役が暴れる。

次に、滅が本作戦のために作成した特殊な『毒』で、ネオZAIA本社を覆うバリアを無効化する。

そして最後に、バルカンが()()()()()を与えることで、丸裸となたネオZAIA本社を撃墜する。

内容は極めて単純かつ大雑把だが、困ったことに現時点でかなりの破綻が見られる。陽動役の一人だったサウザーが敗北し、消息不明となったというハウからの報告。滅は通信に応答せず、ネオZAIA社長と思われる仮面ライダーがライオンマギアと戦闘中。作戦に時間制限を設けなかったとはいえ、戦の只中で悠長に構えてもいられない。諌の胸に焦燥が募る。

 

そんな折のことである。眼下の戦況を観察していると、見慣れたシルエットがライオンマギア達の戦闘に割って入るのが見えた。

「滅!? 何を考えてるんだアイツは……!」

作戦立案者たる滅が、アタッシュアローを片手に奇襲をかけたのである。睨み合う三者だったが、誰よりも先に滅がネオZAIA社長に矢を放つ。その後も集中的に滅は社長を狙い、ライオンマギアの攻撃を捌きながらも互角以上に渡り合っているように見えた。

作戦における諌の役割は、最後の一つ……本社の撃墜のみである。滅からはそれ以上の説明を受けていない。滅に何事か思惑があるのは確実であったが、推測の域を出ず、諌は思考を遮断した。

 

ふと、バルカンのセンサーが怪しげな反応を捉えた。別の戦闘区域から、建造物を飛び移りながら高速で移動するマギアがいる。カメラアイを望遠モードにして姿を確認する。黒い強化装甲。紛れもなくバトルマギアであった。恐らくはABの一人なのだろう。

バトルマギアは監視の目に気付いたかのように、バルカンのいる方へと向かってくる。バイザーが赤々と光る様が、暗い夜にやたらと目立っていた。バルカンがショットライザーを構えると同時、バトルマギアが高層ビルの屋上に降り立った。

 

「お前もABか。今夜は豪勢なこったな」

「見つけたぜェ……俺の弟分をブチのめしてくれた野郎だな」

若い男の声であった。憤怒と喜悦が混じり、全身を震わせながらバルカンを睨みつける。腰に提げられたマギア用ナイフの束が揺れた。

「弟だと? 兄弟がいるのか」

「忘れたとは言わせねェ。クルーエル……パンダのマギアだ。俺と兄弟の契りを交わした、可愛い弟分だったんだぜ? それを、フラタニティに味方したコスプレ野郎のお前が、ブッ殺した」

諌の脳内で、パンダマギア・クルーエルとの戦いの記憶が蘇る。どうやら眼前の怒れるマギアは、ピースメーカーの幹部であると同時にクルーエルの兄であったらしい。

生物的な生殖機能を持たないヒューマギアだが、兄弟や家族といった関係を構築することはできる。そういった在り方を機能やプログラムとして組み込まれたヒューマギアを、諌は知っていた。

「復讐が目的か」

「それ以上も以下も無え。テメェだけは俺が潰す! 誰にも邪魔はさせるかよッ!」

バトルマギアが全身に力を込めた。青い光が駆体の内側から発せられ、やがては光の繊維となってバトルマギアを包み込む。

 

「見せてやらァ! 実装(じっそう)ッ!」

 

装甲が組み変わり、変身が完了すると同時に、周囲一帯を水浸しにする程の水飛沫が撒き散らされた。バルカンは片手で飛沫を払い、現れた敵の姿を見る。

両肩から青いマントをたなびかせる、凶悪な顔つきをしたマギア。背中から胸にかけては動力ケーブルが伸び、膨大な力を全身に満遍なく送っている。刺々しい胸部と肩部の装甲と、流線型の頭部。バイザー型のカメラアイは顔面を保護するプレート状の鉄板に二分割され、二つの眼を形作っているようにも見える。大海の如く深い装甲の青色が、月光を返して鈍く光っていた。

諌はかつて、この姿をしたレイダーに辛酸を舐めさせられたことがある。大波をも操るクジラの力、スプラッシングホエールのデータを宿すレイダーに。現在の相手はマギアだが、否応無しに苦い記憶が思い起こされる。

「クジラ野郎か……こっちもリベンジマッチといかせてもらおうか」

だが、それが逆に戦意を掻き立てる。一瞬ごとに変転する状況の中にあって、彼はむしろ冷静であった。

滅が何を企んでいるかなど今考えても仕方がない。サウザーが消息を絶った今、己は一人でこのマギアと戦わねばならないのだ。その事実が変わらない以上、諌は引き金を引くに躊躇いなど無かった。

 

「リベンジするのはこの俺だ! よく聞け、俺の名はブルータル! この名に恐れ慄きながら死に晒せェ!」

 

ホエールマギア・ブルータルが両手にナイフを握り、前傾姿勢から突撃する。バルカンも応じるように、ショットライザーを握った右手をホエールマギアに向かって突き出した。

 

つづく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。