IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK   作:TAC/108

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Part-12 曙光

ヒューマギア達の戦乱から隠れながら、ドードーマギア・ハウはフーのメンテナンスに取り掛かっていた。時々外を見つつ、作業の手は一瞬たりとも緩まない。胸部装甲を変形させたコンピュータにフーの人工知能を接続し、彼女のOSを正常に稼働させるための修復作業を行う。

やや青みがかってきた空を見上げる。時刻は午前四時を少し過ぎた程度。あと一、二時間程で日が昇り、夜が明けるだろう。決着は近い。

そう思った矢先、ハウの思考にノイズが走った。ヒューマギア修復用の流体金属アンプルを投与せんとしていたその手が、止まる。ハウにとっては懐かしく、そして最も憎むべき敵の気配があった。突然現れた禍々しい気配は、徐々に地上の激戦区……ゼロサウザーや滅が今も戦う場所へと向かっていた。

修復用流体金属を投与し、フーの復旧を待つ。ハウは細心の注意を払い、割れた窓から外の様子を見る。

滅、ゼロサウザー、ライオンマギア・デトネイター。その三人が戦う場所へ悠然と歩いてくる、黒ずくめの男がいた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

ゼロサウザーは困惑していた。

ライオンマギアを倒すために戦っていたところに突如現れた、仮面ライダー滅。彼の戦い方に、骸は拭い切れない違和感を覚えていた。

滅はゼロサウザーの攻撃を完璧に受け流しつつ、積極的に攻めかかっていた。しかし、ゼロサウザーには無敵の防御障壁がある。如何に滅の技量が優れていようと、その攻撃は一つとして傷をつけるには至らない。デトネイターが時折挟んでくる射撃も同じである。共闘しているわけではないため滅も巻き添えを喰うが、まるで予測していたかのように弾丸を斬り払ってしまうため、無傷を保っていた。

骸は滅がヒューマギアであることを知っている。滅亡迅雷.netという組織は、2220年の時代にあっても尚ヒューマギアの歴史にその名を刻んでいるのだ。だからこそ解せないのは、防御障壁の存在を理解しているはずなのに、滅の攻勢は一向に止まる気配が無いことであった。よもや滅というヒューマギアは、存外に猪武者の類だったのだろうか。

 

幾度かの攻撃を捌いた次の瞬間、その場にいた三者の動きが一斉に停止した。得体の知れぬ不気味な重圧が、突如として出現したのだ。

北の方角、建造物の立ち並ぶ物陰になっている場所がある。最初からそこにいたかのように、黒いレザージャケットを着た壮年の男が立っていた。真っ黒なレンズのサングラスをかけており、その視線を読むことはできない。

滅も、ゼロサウザーも、戦狂いのライオンマギアでさえ、戦いの手を止めて黒ずくめの男に注目している。ここにいる全ての者が、彼を知っている。影の如く現れた、アークの使者の名を。

「ゼロ……貴様!」

骸が怒気を込めて男の名を呼ぶ。

彼こそは三大勢力の一つ、『(ゼロ)方舟(はこぶね)』の指導者。デイブレイクタウンの水底に沈んだ、通信衛星アークを母体とする謎めいたヒューマギア武装組織の頂点に立つ男。

方舟の船頭たるヒューマギア、その名はゼロ。

「数日ぶりだな、骸。それにピースメーカーの幹部と……懐かしき気配だな。アークを知る者がいるということか」

海底から響くように低く、闇夜のように暗い声である。ゼロが滅の方に顔を向けた。闇より暗い双眸に射抜かれるような感覚。滅は自分がこのヒューマギアを()()()()()ことに気付く。

「アークの代行者……何のためにここに現れた」

(いなずま)からはそう言われたか。代行者という言い分は間違ってこそいないが正確でもない。今からそれを示すとしよう」

ゼロが左手を上げると、虚空から滲み出るようにバックルが出現する。滅の使用するフォースライザーと形状は同一だが、赤と銀に塗られた別のドライバーであった。ゼロが腰にバックルを近づけると、銀の帯が一周してベルトを形成する。

 

『サイクロンライザー!』

 

ドライバーの起動と同時に、ゼロの右手には通常規格よりも長大なプログライズキーが握られている。金属光沢によって煌めく灰色のキー、その起動スイッチが押された。

『バニシングジャンプ!』

赤と銀のベルト……サイクロンライザーへと装填されたキーの後部が折り畳まれ、大小六匹のバッタがレリーフされた裏面が露わになった。黒光りするバッタは一様に、その小さな目を赤く光らせている。

滅はこれとほぼ同じ形式のプログライズキーを知っている。アークによって製造された、メタルクラスタホッパーという強力なキーである。滅亡迅雷.netと敵対する、仮面ライダーゼロワンが使用していたものだ。

滅が瞠目し、ゼロサウザーは苛立ちを募らせ、ライオンマギアは訝しげにその姿を見る。三者三様の反応をよそに、ゼロがサイクロンライザーのトリガーを引いた。

 

「変身」

『サイクロンライズ! バニシングホッパー!』

 

展開されたプログライズキーから、容積を遥かに超える大量のバッタめいた何かが放出され、ゼロを囲む竜巻となった。黒く禍々しいバッタの大群の向こう側から、仄かに赤く光る二つの目が覗く。

ゼロを中心に広がったバッタの竜巻が、周囲の地面を削り取っていく。触れたそばから瓦礫や砂利が消滅したかと思うと、次の瞬間にはゼロに向かって圧縮され、異形のパワードスーツが完成した。

 

ライダーシステムの基盤となるアンダースーツは墨の如く深い黒に染まっている。その上から被せられた装甲は、漆のような光沢を持った黒であった。装甲の隙間に走る動力ケーブルめいた何らかの線が、起動状態を示すように赤く点滅する。両手は指先に至るまで鋭利な形状をしており、あからさまに物質の破壊に特化している。

頭部もまた特徴的であった。赤く光る両眼は複眼というよりもカメラのレンズめいた複雑な形状であり、どことなく充血した眼を思わせる。仮面から伸びる二本の(アンテナ)は歪に曲がりながら伸びていた。鋭角的なフォルムを形作る漆黒の仮面と共に、憎悪に染まった悪鬼の如き威圧感を発揮している。

 

『Prototype ZERO.』

通信衛星アークが生み出した、群生する悪意の集合体。自らを原初たる統括者(プロトタイプ・ゼロ)と称して憚らぬ、邪智暴虐の魔王。

全てを(ゼロ)に還し、虚無という名の平穏へと向かう方舟の漕ぎ手。

仮面ライダー零式(ゼロシキ)・バニシングホッパー。

あらゆる闇よりも暗き者が、その姿を戦場に晒す。

 

「さて……まずは一人」

零式が周囲を見回し、倒れ伏したまま動かない一体のマギアを片手で持ち上げる。変身の余波で装甲を大きく削られていたが、ボロ布のようになった水色の装甲は紛れもなくペンギンマギア・フォーチュンのものであった。

フォーチュンを強引に立たせると、零式は背中に手を当てる。鉤爪じみた手指を通して赤黒い煙のような何かがフォーチュンに流れ込むと、突如として沈黙を貫いていたフォーチュンが異様な声を上げながら激しく痙攣し始めた。

血液のように全身を巡った煙が、フォーチュンの全身を焼け爛れさせながら黒く染めていく。カメラアイ以外の全てが混じり気のない黒へと変色し、真っ黒なマギアが力なくうなだれた……かに思われた。

「確か、お前達はこのように言って自らを強化していたな——重装、だったか」

ゼロが唱えると、黒いペンギンマギアの両腕に翼状の装甲が追加された。およそ飛行には適さない平たい形状だが、内部には小型の送風機を搭載している。両足も追加装甲によって太くなり、爪先は姿勢制御用の三本爪を有する形に変化した。

以前にパンダマギア・クルーエルが披露したものと同じく、ペンギンマギアの重装形態である。外部からのハッキングによって完全に零式の制御下に置かれたフォーチュンは、ゼロの意志で強制的に重装化させられていた。

「お前……フォーチュンに何をした?」

デトネイターが低い声でゼロに尋ねる。彼は零式の存在こそ知っていたが、実際に対面するのはこれが初めてであった。

「悪意のデータによって自我を上書きし、その意志を消滅させた。もはやピースメーカーのフォーチュンなるヒューマギアは、この世界には存在しない」

「何だと?」

「今そこにいるペンギンマギアは、殺戮と破壊を齎すだけの戦闘マシンだ。最後にかつての仲間と戯れておくといい」

ペンギンマギアが尋常ならざる速度でデトネイターに飛びかかった。デトネイターも負けじと応戦するが、徐々に二人の姿は仮面ライダー達から離れ、別の戦線へと雪崩れ込むように消えていった。

 

「邪魔者はいなくなった。では、私の遊興に付き合ってもらおう」

零式の足が僅かに浮き上がり、幽鬼のように揺らめきながらゼロサウザーへと向かっていく。地面を強く踏み締め、ゼロサウザーの拳が突き出される。無防備に胸へと打撃を受けるが、零式は小揺るぎもしない。

零式は空中で一回転し、オーバーヘッドキックをゼロサウザーの肩口に叩き込む。不可視の防御障壁が光の膜として揺らぎ、攻撃を喰らった箇所に虫食いめいた破損が生じた。

「おのれ! ネオZAIAのテクノロジーを結集させて作った、私のバリアすら破るか!」

「予測に修正が必要だな。その防御をも貫くつもりだったが」

ゼロサウザーのマントが翼に変形し、羽ばたきと共に赤黒い稲妻が広がった。零式は前方に手をかざすだけで雷撃を防ぐ。

二人の戦いから弾き出されるように、滅が後退する。二人の戦闘から能力を見極め、付け入る隙を見出さねばならない。

『滅様、そろそろよろしいのでは』

突如、ハウからの通信が入った。ゼロサウザーからフーを救出したハウが、時間稼ぎに呼び寄せたのが滅である。だが、作戦目的をある程度曲げてまで滅がこれに応じたのには、ハウも知らない別の思惑が存在していた。声に焦りの滲むハウに対し、滅は冷静に返す。

「そう急くな。ネオZAIAに少しばかり痛い目を見せる。それが終われば、後は何の問題もない」

滅はフォースライザーのトリガーを押し込み、再び引き戻す。左手の甲、伸縮自在の毒針が不気味な紫色に光った。

『スティングディストピア!』

滅が左腕を突き出し、曲線的な軌道を描いて刺突ユニットが伸びていく。零式の肩を飛び越し、殴りかかろうとしたゼロサウザーの鳩尾に毒針が直撃した。着弾地点から紫色の光が渦を巻くものの、バリアを破るには至らずに針が弾かれる。

「邪魔をするか、旧時代の遺物!」

ゼロサウザーが激昂し、零式を押しのけて滅に迫る。翼状に広がったマントを背中から切り離し、巨大なブーメランとして投擲するが、滅の装甲から紫の煙が放たれた。

「用は済んだ。滅亡の時を待つがいい」

ブーメランの通り抜ける先に、滅の姿は無かった。煙が斬り裂かれ、空中に跳んだゼロサウザーの背中に翼が収まる。周囲を見渡すが、滅の姿はどこにも見えない。

「おのれ!」

「私を忘れてもらっては困るな」

ゼロサウザーの正面に、零式が浮遊していた。怒りに任せた拳打を繰り出し、再び長たる者の戦いが始まる。

 

「待たせたな。フーはどうした」

「どうにか無事です。ただ、まさか天津様が負けるとは……」

滅はゼロサウザーの攻撃から逃れ、ドードーマギア・ハウが隠れる建造物へと入っていた。壊れかけの階段に足をかけ、二人は上階へと向かう。フーは未だ目を覚まさず、ハウに背負われていた。

「ところで、先程は一体何を?」

「ここに来る前、ネオZAIAの上級ヒューマギアを倒した。ヤツを使い、ネオZAIAのネットワークに侵入することには成功した」

屋上階への扉を開き、滅が空を見上げる。未だ煌々と光を放つネオZAIA本社は、夜明け前でありながらいかなる星の光よりも眩しい。

「あの光は単なる演出ではない。それ自体が膨大なエネルギーの塊であり、骸……ゼロサウザーに降り注ぐことでエネルギーを供給している。出力の方法を変えれば、広範囲を殲滅する光学兵器としても使えるらしい。防御障壁を破ったとしても、あれを止めねば究極的には同じことだろう」

ネオZAIAのネットワークから得た情報をハウに伝えつつ、滅がフォースライザーからプログライズキーを抜き取った。アタッシュアローが備えるプログライズキーのスロットに差し込むと、スティングスコーピオンキーの読み取りが開始した。

『Progrise key confirmed. Ready to utilize!』

『Scorpion's Ability!』

『チャージライズ! フルチャージ!』

近接戦闘用の刃を持つ、弓の両端を折り畳む。アタッシュアローが鞄の形状に戻ると、プログライズキーから抽出されたエネルギーがアタッシュアローの射出口へと集束する。

「仕込みは済んだ。後は喰らった毒が効能を発揮するのを待つだけでいい。これよりバリアを破壊し、ネオZAIA本社の撃墜作業に入る」

アタッシュアローを弓の形に戻し、滅は自らの真上に向けて狙いをつける。紫の光が射出口に妖しく灯り、今にも何かが溢れ出すかに思われる。あくまでも冷徹に弓を構えた滅の姿に、ハウは息を呑んだ。矢を模したグリップに指を掛け、滅は限界まで引き絞る。

 

『スティングカバンストライク!』

 

グリップが凄まじい勢いで戻り、巨大質量に向けて紫の光が飛翔する。一瞬にしてネオZAIA本社へと到達した光の矢が、明滅する光の壁に阻まれた。押し戻さんとする障壁と突き進む矢の攻防が、極彩色の光を生み出す。

次の瞬間。矢の勢いが弱まり、徐々に光が小さくなっていく。光る壁を見据えながら、ハウは拳を握った。よもや作戦失敗か。悔しさと行き場の無い怒りがこみ上げるが、対して滅は何かを確信したかのように、小さな笑いを漏らした。

果たして、光の矢は完全に消滅した。しかしながら、ネオZAIA本社を上から下まで包み込む壁は、未だに光り続けている。まるで何らかの攻撃を受け続けているかのように、紫と金のまだら模様に歪んでいく。

この時、ハウは理解した。光の矢は消えたのではない。信じ難いことだが、防御障壁に()()()()()のだ。水の中に毒物を投じることで毒薬に転じるように、滅が撃ち出した毒の一矢は今、防御障壁に浸透することで破壊し尽くそうとしている。黄金に輝いていたバリアは、今や熱帯に生息する矢毒蛙(ヤドクガエル)のような毒々しい紫金のまだらに染まり、そこかしこに亀裂を生じさせていた。

 

空中に浮かぶネオZAIA本社が持つ、強力な防御障壁。滅がそれを認識した時から、全ては始まっていた。

アルファ・バレットの一人、パンダマギア・クルーエルが放った最大出力の射撃をバリアに直撃させたのは、耐久力を測るためだった。

データを持ち帰り、現段階で破壊可能だとする計算結果が出た時点で、滅は次の作戦を考えていた。三大勢力中の最大勢力、ネオZAIAエンタープライズに、たった一撃で致命打を与えるための一手を。

バリアの内側に向けて、溶け出すようにあらゆる方位から光の矢が発生する。丸裸と化したネオZAIA本社に、無数の矢が着弾した。大部分を構成する下部の巨岩が削られ、本社ビルにも雨の如く毒矢が突き刺さる。

滅にもハウにも見えていないが、本社ビルにて労働に勤しむヒューマギアの何人かはこの矢に射抜かれていた。彼らを通し、ネオZAIAのネットワークに恐るべきコンピュータウイルスが侵入していく。

滅は顔を本社に向けたまま、視線のみを下方に動かす。本社の異変に気付いたゼロサウザーが、通信を行っているらしい。滅が仮面の下でニヤリと笑った。

本社ビルにて連鎖的に爆発が発生し、爆炎が空に映える。毒矢を受けたネオZAIAのヒューマギア達が、次々と爆ぜていく。それだけではない。多くの施設を兼ね備える巨岩部分も、内部から爆風と塵芥を吐き出していた。

ネットワーク管理者たる骸が、その権限を用いた瞬間に発動するという条件付きでゼロサウザーに叩き込んだウイルスデータ。ある種の遅効性劇毒が効果を発揮し、ネオZAIAのヒューマギアを次々と爆散させていった。

 

本社を覆う紫と金の膜は、今やそのほとんどに致命的な亀裂を入れていた。崩壊の時は、すぐそこまで迫っている。

 

スティング

カバンストライク

 

そして。

硝子細工の如く、黄金のバリアが砕け散った。形を保つ光の欠片が、煌めきながら地上へと落下していく。

滅は通信回線を開き、言った。

「仕上げだ。抜かるなよ」

視線の先、無数に散らばった光の粒子に向かい、上へ上へと昇っていく結晶を見る。ひび割れた紫色の結晶が群れを成し、空中で戦いを繰り広げるライダー達には目もくれず、ネオZAIA本社へと飛翔する。

 

◆◆◆◆◆◆

 

時系列を少し遡る。

高層ビルの屋上で対峙していたバルカン・アサルトウルフとホエールマギア・ブルータル。蹴りと拳打が衝突し、鈍く重い音が響いた。

ナイフを逆手に握った右手で、ホエールマギアが殴り抜けようとする。バルカンは姿勢を落とし、下からの強烈な蹴りでブルータルの顎を打った。体勢を崩したブルータルの手からナイフが離れるが、強引に前傾姿勢を取りつつ腰に提げたナイフを次々に投擲する。ショットライザーの連続射撃で全てを撃ち落とすと、両手に新たなナイフを持ったブルータルが突撃してきた。

「やるじゃねえか、コスプレ野郎ォ! 弟の仇じゃなけりゃあ素直に見直してたかもなァ!」

「コスプレじゃねえ! 俺が本家だ!」

あらゆる方向から斬撃が迫る。突き、薙ぎ、打ち、斬る……その全てを至近距離で捌きながらも、諌は不利を感じていた。防戦一方では埒が明かない。

「隙を見せたな、そこだァ!」

諌の迷いを見てとったか、ブルータルの刺突が首筋に迫る。諌は僅かに身を屈め、ショットライザーの引き金を引いた。

ほとんど接射じみた反撃を回避できず、ブルータルが仰け反った。銀色に輝く弾丸が独りでにバルカンの周囲を回遊し、右の裏拳によって叩き潰される。

『ショットライズ! パンチングコング!』

防御力と腕力に優れるパンチングコングへと形態を切り替え、バルカンが身を屈めて突進した。腹を強烈にホールドされたホエールマギアがバルカンの背中を何度も突き刺すが、使った端からナイフが折れていく。気付けばホエールマギアの足は地面から浮いており、飛び降り防止の柵へと向かっていた。

「マジかお前、冗談じゃねえ——」

「突っ切るぞ!」

破砕音と共に鉄柵が折れ曲がり、マギアを抱えたバルカンが地面へと落下していく。全身を巡るエネルギーを放出し、弾丸めいた速度で二人が地面に激突した。衝撃を利用して受け身を取り、バルカンは膝立ち姿勢からショットライザーを構える。ビルとビルの間で、警戒の糸が張られる。

「ぐ、あッふ……クッソ、信じらんねえ」

腰部が故障したらしく、ホエールマギアは上体のみを動かしていた。流体金属の入ったアンプルを胸から取り出し、損傷部位に注入する。

「引っ込んでろ。今からネオZAIAをブッ潰す」

「潰すだと? 方法があンのかよ」

「知らん。だが算段はついてるらしい」

諌の返答に、ブルータルは呆気に取られた。背後から破壊音が聞こえる。どうやら別方面で戦っていた部隊が、思った以上にこちらへと近づいているらしい。腰の調子を確かめつつ、ブルータルが音の方を向いた。

信じ難い光景が見える。アルファ・バレットに属する二人のマギアが戦っている姿だった。一瞬にして通り過ぎたが、素性は一目で理解できた。

一人はライオンマギア・デトネイター。もう一人は見た目こそ何故か真っ黒に染まっていたが、紛れもなくペンギンマギア・フォーチュンであった。

「何がどうなってンだありゃあ、AB同士で戦ってるじゃねえか!?」

「思ったより状況はヤバいらしいな」

バルカンは壁面に四肢を引っ掛け、高層ビルを登ろうとしていた。所定の位置に戻ろうとしている。

ブルータルは判断に迷った。仇敵の撃破を優先するか、仲間の諍いを止めるべきか。推測と提案が泡のように浮かんでは消える。思考の泡沫に手を伸ばし、掴み取った。

「よく聞け、コスプレ野郎! 俺は今からABの戦いを止めに行く。ネオZAIA本社を潰すのが目的なら勝手にやってろ……だがな! 俺が殺しに来るまで、絶対に死ぬんじゃあねえぞ!」

背中にバックパックを形成したブルータルが、内蔵する推進機を起動させる。青い炎を噴きながら、ブルータルは仲間達の向かう方へと飛んで行った。

バルカンはその姿を見送ると、壁登りを再開する。

「誰が死ぬか」

決意と共に、四肢に力を込めた。

 

五分後。雨でも降ったかのように水浸しの屋上に、バルカンは再び降り立っていた。遠くに見えるネオZAIA本社は、何やら紫と金の膜に覆われている。

滅はどうやら上手くやったらしい。ゼロサウザーに仕掛けた時は目を疑ったが、諌は特に詮索するつもりはなかった。

「いよいよコッチの番だな」

バルカンの手に、大型のプログライズキーが握られる。後部にガトリング銃の弾倉を模した形状の拡張モジュールを備えた、物騒な形状のキーである。黄金のオオカミのレリーフが、鮮やかな青色に映える。

ガトリングじみた後部の機構を弾き、キーを両手で展開した。起動スイッチの役割を持った弾倉が勢い良く回転し、プログライズキーが光る。

『ランペイジバレット!』

キーを差し替え、ショットライザーに装填する。さながら銃身後部に回転式弾倉を追加したような、物々しいフォルムを形作っていた。

ランペイジガトリングプログライズキー。バルカンが持つ中でも文字通りに最強の装備であり、多彩な力を一纏めにした強力なキーである。

『オールライズ! Kamen Rider. Kamen Rider……』

七色に光る銃口を空に向け、バルカンがトリガーを引いた。

『フル・ショットライズ!』

 

散弾銃めいて複数の弾丸が一斉に射出され、空中を乱れ舞う。それらが十の幻影を纏いながら、バルカンへと殺到した。

マンモス、チーター、スズメバチ、トラ、ホッキョクグマ、サソリ、サメ、ゴリラ、ハヤブサ、そしてオオカミ。ライダモデルを封じ込めた十の弾丸がバルカンに直撃し、頭から爪先に至るまで全身を新たな装甲へと塗り替えていく。

パンチングコングの外装を脱ぎ捨て、ベーススーツが黒と灰色の二色に変化。オオカミのライダモデルを基にした強化装甲は、深みのある明るい青色と鮮やかな金色に塗られ、左半身も含む全身を覆っていた。

その左半身へと、更に水色の強化アーマーが追加装着される。爪先から胸部、背中に至るまでを覆ったアーマーは、全てがライダモデルの能力を宿している。胸部および左肩を覆ったオオカミの頭を模した装甲を中心に、左半身が強烈に発光した。

顔の左半分に、鮮やかな十色の羽根飾りじみたパーツが備わった。左右の半身に異なる力を宿すその姿は、バルカンの基本となる形態・シューティングウルフへの先祖返りにも見える。

 

『Gathering Round! ランペイジガトリング! Mammoth! Cheetah! Hornet! Tiger! Polar Bear! Scorpion! Shark! Kong! Falcon! Wolf!』

 

白み始めた空、月光の薄くなりゆく様を、新たな姿でバルカンが見送る。滅の撃ち込んだ一矢がその効果を発揮し、ネオZAIA本社のバリアは粉々に砕け散っていた。

かくして夜明けの時は来た。太陽の如く輝きを放つ、虚飾の玉座。自らの下に在ることこそを平和と偽り、ヒューマギアを支配する魔帝の城を、この一撃が撃ち落とす。

 

十の力を束ねるは暴乱の狼王。銃撃に猛る一匹狼の至った、極限にして最強の姿。かつて己を動かした怒りをも捨て去り、新たな夢という未来に歩き出す決意を固めた者。

その名は——仮面ライダーランペイジバルカン。

昇り来る太陽を背に、全ての力が解放される。

 

つづく。

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