IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK   作:TAC/108

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Part-14 騎士達の凱旋

ランペイジバルカンが撃ち放った、最大最強の魔弾。

それは、空中を浮遊するネオZAIAエンタープライズ本社の大半を破壊せしめるものであった。信じ難いことに本社ビルは無事であったが、研究施設や兵器工場などを内包していた巨岩は、花火の如く砕け散っていく。市街地のあちらこちらに降り注ぐ破片が、落着と同時に地面を大きく震わせる。

そして……全壊を免れた社屋が、上空から落下してくる様が、地上の者達には見えていた。落下地点が、現在Ⅲギーガーが仰向けに転がっている場所であることも予測の範囲内であった。

 

誰より迅速に動いたのは滅だった。この機を逃すべからずとして、複雑に分岐した管でギーガーの胴体を地面に縫い止める。左腕から発した管を切り離し、近くにいたドードーマギアの手を引いて立ち上がらせる。ハウは自らがギーガーに接射したグレネードの爆風を受け、ややグロッキー状態であった。ハウの状態を認めた滅は、彼を肩に担いで走ることにした。

サウザーはフーの姿を探した。塵が作り出した煙の向こうから、無傷のフーが姿を現す。彼女の小さな身体を背負い、サウザーが走り出した。

Ⅲギーガーは地面の上でもがいていたが、拘束から逃れることはできなかった。コックピットを内蔵した胸の部分に管が巻かれたため、ハッチを開いて脱出することもできない。いよいよ絶体絶命であった。

Ⅲギーガーの全天周モニターが映し出すのは、ネオZAIA本社が自らの真上から落下してくる様であった。しかし、ゼロサウザーに焦燥は無い。全てを受け入れたように抵抗を止め、本社の落下を待っている。

 

Ⅲギーガーの直上より落下してきた本社ビルが、派手な音を立てて地面に激突した。衝撃が周囲に広がり、逃走を図った面々が吹き飛ぶ。フーを背負ったサウザーが、サウザンドジャッカーを地面に突き刺して強引に着地した。砂礫の煙が晴れると、地上からは見えなかった、ネオZAIA本社ビルの全貌が明らかになる。

 

垓はそのビジュアルを目にした際、古代エジプト文明のピラミッドを思い出していた。複数の階層に分かれ、上へ進むごとに面積が小さくなっていく。黄金の三角錐が、全くの無傷でそびえ立っている。まるで外部からの干渉を拒んでいるかのように、金色に煌めく本社ビルには一つたりとも汚れが存在しない。

無機質な三角錐状の建造物は、ただ沈黙を守っている。サウザーの隣にやってきた滅が、訝しげに感想を述べた。

「これが本社とやらか。想定より遥かに頑丈だな」

高所からの落下に耐えた理由は、どうやら全体を染め上げる黄金色にあるらしい。ゼロサウザーのⅢギーガーと同じ類の、防御コーティングが建造物の隅から隅まで施されている。

「バリアを破った際に攻撃できたのは確認したが、なるほど。こちらの防御は剥がせないか」

「とはいえ、これでネオZAIAのアドバンテージが一つ、明確に崩れたということだ。不破諌を呼び戻し、フラタニティ管轄区に戻ると、し——」

垓が言い終える直前、重苦しい音が何処からか響き始める。耳を澄ますと、音の出処が足元であることが分かった。大地が震え、鳴動する音である。

地中で、巨大な何かが蠢いている。そう結論づけたサウザー達に、突如として通信が入った。通信機越しに、ハウの声が聞こえる。

『申し訳ありません。思ったより遠くに吹き飛んでしまいました』

「その場で待機だ。もしかすると、()()()()()かもしれない」

『……なるほど。承知しました』

通信が終わると、更に地震じみた音は大きくなった。やがて地表を覆う大小の瓦礫が震え始め、サウザー達が本社から距離を取りつつ身構える。

「揺れが激しくなってきた……来るぞ!」

 

次の刹那。

砂礫の大地が爆発し、黄金の単眼巨人(サイクロプス)が地面から湧き出るようにして現れた。黄金の装甲が一切の汚れを弾き、その輝きを見せつける。

ネオZAIA本社ビルの落下に押し潰されたはずのⅢギーガーは、無傷のまま再びフラタニティ一行の前に姿を見せたのである。

「生きていたとはな……不埒な紛い物め!」

『特殊コーティングの商品クオリティをまた一つ証明してしまったな。建造物の落下にすら耐える……最高のキャッチコピーだな?』

天津垓と瓜二つの声が、拡声器を通したようなエフェクトを伴って響き渡る。Ⅲギーガーが右の鉤爪を地面に突き刺し、絶大なパワーを以て地面をめくり上げた。粉塵を撒き散らす大きな土の塊が飛び、サウザー達に襲いかかる。

サウザーがジャッカーを振るって撃墜しようとした次の瞬間、マゼンタの軌跡を描いて飛ぶ者が土の塊を殴り飛ばした。ギーガーの頭部から光線が発射されて巨大な塊が爆散すると、乱入者の姿が目に入った。

『貴様ァ……よくも私の本社を地に引きずり下ろしてくれたなァ!』

「知るか! ネオZAIAは俺が……いや、俺達がブッ潰す!」

身体の左側にのみ翼を持つ、鮮やかな色の仮面ライダー。ランペイジバルカンが、光の羽根を散らしながら舞い降りた。

巨大な怒声に一歩も退かず、仮面ライダー達が並び立つ。

「随分と遅かったようだが」

「足場が崩れたせいで脱出に時間がかかった。だが……後はコイツをどうにかすれば終わりだろ?」

バルカンの答えに、滅は呆れたように返した。

「撤退戦だ。バイクを呼ぶ」

自動操縦のバイクが三台、どこからともなく現れる。滅が最初に跨がり、駆動音を鳴らした。続くようにサウザーとバルカンが乗る。フーは未だサウザーの背にしがみついたままで、二人乗りの格好になった。

『逃がすものか! 貴様達には1%の生存確率も認めん!』

「逃げるぞ、全力で突っ走れ!」

地鳴りの音を響かせる巨人と、ライダー達の追跡劇が幕開けた。

時速八十キロを超える速度で、三台のバイクが走り出す。この地に人の法は無し、ならば法定速度など知ったことではない。

飛電インテリジェンス社長専用車両・ライズホッパーをベースとしたこのバイクには、仮面ライダーとの連携機能がそのまま備わっている。この車両を提供したDr.コトブキは、操縦者各員に合わせた連携システムを組み込んでいた。

青、金、紫。三色の光が地上を走る彗星となって尾を引く。立ち並ぶ廃ビルの一棟へとバルカンが向かい、壁面を垂直に登り始めた。

「さすがにパワーは相当だな、コレなら振り切れるか——!」

次の瞬間、廃ビルが大きく揺れた。およそ八メートルの巨体を持つⅢギーガーが、バルカンが登ったビルに体当たりを喰らわせたのである。

頂上まで登った瞬間に、廃ビルが崩落を始めた。登る勢いのまま空中に放り出されたバルカンが、翼を広げて車体から飛び上がる。

「戻って来いッ!」

左手の甲から、青白い管が伸びる。ランペイジバルカンの宿す、サソリのライダモデルの力であった。ハンドルに巻き付いた管を通してバルカンがバイクに飛び乗り、地上十八メートルからの大ジャンプを成功させた。着地の瞬間は激しく揺れたが、車両は全くの無事である。その頑丈さに諌は舌を巻いた。

 

ビル街を抜け、前方を走っていたサウザーと滅に追いつく。辺りは遮蔽物など一つもない開けた平地であり、Ⅲギーガーの走行速度も徐々に上がってきていた。フーが後方を確認し、サウザーの肩を小突く。

「あまつさま、おいつかれます」

「知っているさ、ここは我々の番だな!」

サウザーのバイクが急停車したかと思えば、走るギーガーへと一直線に突き進んでいく。金色のオーラに包まれたバイクが、眩い光に包まれながら全く別の形に変わっていった。

ギーガーが手を伸ばした瞬間、激烈な急加速によってバイクが消失する。右足を貫いた一撃に、黄金の巨人が前のめりに転倒しかけた。身を翻したギーガーが、サウザーのバイクを睨みつける。

『何だと……!?』

変形どころの話ではなかった。言うなれば変成、変身の類。ライダーシステムとの連携を高めた無名のバイクが、新たな姿を得て動き出す。

制御装置を搭載した機首が、五本の衝角を備えたものに変化していた。黒一色だった車体に金色が加わり、原型よりも肥大化した後部の推進ユニットにはZAIAエンタープライズのロゴマークがペイントされている。

『モーターライズ! ライズブレイカー!』

サウザーの持つキーの片割れ、『ブレイクホーン』の能力を宿すアメイジングコーカサスより、そのパワーと角を継承したサウザー専用車両——ライズブレイカーの誕生であった。

後部から爆炎を噴きながら、新生したバイクがギーガーに真正面から突撃する。ライズブレイカーの五本角を鉤爪でⅢギーガーが迎え撃ち、激しく火花が散った。ギーガーに押し負けたライズブレイカーが、回転しながら垂直に立つ。掻っ攫ってやろう、と横合いから鉤爪が迫った次の瞬間である。

「いまです」

フーの一言と共に、ライズブレイカーが飛翔した——ように見えた。前輪を上向けたバイクが大跳躍を決め、ギーガーの顔面を走り抜ける。のけぞった巨人の頭部に更なる重量がのしかかり、地面へと引き倒された。

Ⅲギーガーのカメラは追撃の主を捉えていた。巨大なホッキョクグマを模した、冷気を纏うライダモデルである。空中から出現したクマが、バイクの進撃に合わせてバランスを崩したギーガーを転倒させたのだ。

「おくのて、というやつですね」

サウザーの後ろで、フーが少し自慢げに胸を張った。ホッキョクグマのライダモデルが、それに合わせて吠える。

照射成形機(ビームエクイッパー)を搭載した手袋を利用し、フーが保有するライダモデルをその場に出力・使役することにより、戦闘面では非力なフーの自衛能力を高めている。フー自らが考案した、奥の手と言える攻撃手段であった。

「……これだけやって無傷とは、やはり素直に逃げた方が良いのでは?」

黄金色に一切の淀みなく、Ⅲギーガーは何事もなかったように平然と起き上がる。頭部のレーザー砲でクマのライダモデルを消し飛ばしつつ、巨人の追撃戦が再び開始された。

しかし、直進軌道の移動速度では、ライズブレイカーの方が上である。遥か前方へと走っていく滅とバルカンにもすぐに追いつき、ギーガーを引き離していく。

「このまま次のエリアを突破するぞ!」

「フラタニティ管轄区に近い建造物群か」

滅が何事か閃き、速度を上げた瞬間であった。

『何を企んでいるのかはさておき、これ以上の邪魔立てはさせんぞ!』

飛行形態に変形したⅢギーガーが、突如ライダー達の頭上に出現した。鮮やかな宙返りから無数の小型ミサイルを撒き散らし、地上を無作為に爆撃する。

「一時で構わん。アレを食い止めろ、バルカン」

「俺か!? チッ、仕方ねえ……何か考えがあるんだな!」

光の軌跡を残し、滅とサウザーが建造物群へと突き進む。バルカンはオーソライズバスターを出現させ、高威力の光弾をⅢギーガーに撃ち放つ。

『無駄だ、その程度の攻撃など!』

「ンなことはなァ、やってみねえと分からねえだろォ!」

『リボルバー!』

バルカンが緑色のプログライズキーを銃形態(ガンモード)のオーソライズバスターに装填し、バイクを停車させつつ構えた。ギーガーはバルカンには見向きもせずにサウザー達を追う。

『Progrise key confirmed. Ready for buster!』

「墜としてやらァ!」

『バスターダスト!』

Ⅲギーガーの背中を狙い、バスターの銃口から長大な針が射出された。緑色の針がギーガーの推進器官に直撃するも、黄金のコーティングに守られたそれを貫くことはなかった。巨大な緑色の針が空中で砕け散り、無数の破片に成り果てる。

しかし、諌の狙いはそこにあった。破片が小型の針を形成し、Ⅲギーガーのスラスターへと殺到したのである。青い炎を噴くスラスターが内部から破壊され、人型形態時に右足を構成していた部分が爆発した。飛行形態を保てずに人型になるが、右足は内部から膨れ上がったような歪な形状となっている。

針を生み出す源となったのは、諌がかつて特務機関A.I.M.S.に所属していた頃に、任務で使ったキーである。その名をガトリングヘッジホッグ、ハリネズミのデータから作られたプログライズキーだ。

『貴様ァ……!』

ギーガーがバルカンに狙いをつけた瞬間、バイクの連携機構が起動し、新たな姿へと変身していった。青い光と共に現れたのは、大口を開けたオオカミの頭を模した攻撃的な機首と、そこから覗く()()()()()()であった。

『モーターライズ! ライズランペイジャー!』

「なかなかイカした見た目だな。コイツを……こうか!」

砲口に光が収束し、タイヤの側面部から姿勢固定用のバイポッドが展開された。対するⅢギーガーも胸部装甲を展開し、内蔵していた巨大砲塔を迫り出させる。それはⅢギーガーが数多持つ武装の中でも最大の火力を発揮する、大型の荷電粒子砲であった。

『その程度でⅢギーガーの火力に対抗するか!』

「デカさなんて関係ねえ! ブチかますだけだ!」

大気を焼き尽くす光線がⅢギーガーから放たれ、同時に発射されたライズランペイジャーの光弾と激突する。拮抗状態に見えたのも束の間、荷電粒子砲から放たれる光線が押し戻されつつあった。

バルカンはハンドルを握ったまま、その場から動かない。全身に力を込めて、次の砲撃に備えていた。

「一発でダメなら……もう一発くれてやる!」

重い発射音が轟き、バイクの砲口が新たな光弾を吐き出した。先に放った一発目に着弾し、巨大な一つの砲弾となって融合する。

二発、三発、四発。轟音が断続的に響き、その度に光弾が肥大化していく。弾丸がその勢いを増しながら、荷電粒子砲の光を切り裂く。六発目が放たれた瞬間、Ⅲギーガーが砲撃の出力を高めた。

『消し炭すら残さん、お前の生存確率は0%だ!』

「そんな確率(モン)は俺がこじ開ける! 俺がルールだ!」

砲身が赤熱する中、ライズランペイジャーが特大の弾丸を撃ち放った。あまりの負荷に砲口が煙を噴き、オオカミの口へと収納される。これ以上の砲撃は不可能だった。衝突する光と光、白く染まる視界の向こうをバルカンは見据える。

『バカな……!? 力押しでⅢの出力を超えたというのか!』

ゼロサウザーの驚嘆、それは最大出力の光線が完全に押し返されたことを意味していた。Ⅲギーガーの巨躯を呑み込まんばかりの大きさとなった光の砲弾が、光線を掻き消して大爆発を起こした。

爆風を受けたⅢギーガーの黄金色に、歪みが生じている。無敵を誇ったⅢギーガーの装甲へと、バルカンは僅かにでも傷をつけてみせたのだ。

その事実を認めた骸は、己の自我を染める赤黒い殺意に身を震わせる。ネオZAIAの栄華を汚す愚者、忌まわしきフラタニティの刺客達を、一人として生きて返すわけにはいかない。彼の怒りを反映したように、ギーガーの一つ目が激しく光った。

諌は潮時を悟り、ライズランペイジャーを走らせる。目的地は前方の建造物群。滅の言葉が確かならば、彼は既に何らかの罠を張っているはずであった。たとえそれが自らを巻き込みかねないものだとしても、諌はそれを掻い潜って突破するつもりでいた。

「来てみろデカブツ!」

『矮小な仮面ライダー風情が! 許すものかァ!』

平地を抜け、廃棄された建物の立ち並ぶ区画へと車輪が踏み入った、その時であった。

 

バルカンへと腕を伸ばしたⅢギーガーの右腕に、鎖のようなものが巻き付いた。廃墟の窓枠から飛来して腕に食い込んだそれは、等間隔に三角錐状の棘を備えた特殊な鎖であった。棘から毒々しい紫色の液体が染み出し、巨人の右腕を工業廃水のような汚れた極彩色に変えていく。

『右腕の装甲レベルが低下!? ギーガーの防護コーティングを溶かしているというのか!』

「不正解だ」

虚空より声が響いた刹那、隣り合う二つの廃墟から無数の鋼線が飛び出した。先端に貫通力の高い楔型の突起を持つ鋼線が、Ⅲギーガーの全身に食らい付き身動きを封じる。さながら鉄条網に縛り付けられたようになったギーガーが四肢を暴れさせるが、鋼線を引っ張ることはできても破壊することは不可能であった。

「その黄金を剥がすことは現状では不可能だと判断した。だが、そうしなければ装甲を抜けないという道理はない」

『屁理屈を! おのれ滅亡迅雷! どこだ、どこにいる!』

Ⅲギーガーが狂ったように頭を回転させると、前方の建造物に紫の機影を発見した。節足動物めいて八本足を車体の側面から生やした、異形のバイクが廃ビルの屋上に立っている。

大型のバイクであった。機首はサソリの頭部を模した凶悪な面構えをしており、推進器を搭載した車体後部には何やら四角い物体を載せている。

謎の四角が蠢くと、展開されて大きく形状を変える。それは折り畳まれたサソリの尾を模した異様な攻撃兵装であった。ヘッドライトが赤く輝けば、サソリの尾から毒液が滴り、関節部から楔付きの鋼線が幾本も顔を出す。

『モーターライズ! ライズスティンガー!』

操縦者である仮面ライダー滅の意向を反映し、無名のバイクは多彩な攻撃機能を搭載したモンスターマシンと化した。ライダーシステムと同期したバイクが、黄金のコーティングを無視して装甲にダメージを与える腐食毒の一種を生成したのである。

ゼロサウザーの怒号と共に、ギーガーの頭部に光が集中した。レーザー砲を放たんとしたその時、どこからともなく複数のグレネードが頭部に直撃した。

滅の背後から影のように現れた、ドードーマギア改の攻撃である。暗殺の技巧に優れるかのマギアは、ゼロサウザーに気取られることなく、逃走するライダー達に合流してみせたのだ。

 

「手筈は整った。外すなよ、ZAIA」

「当然だ。私の狙いは1000%、一分の狂いもありはしない。何よりこの距離だ。外しようがあるまい」

八メートルの巨体がみるみるうちに弱っていく。その前に堂々と姿を見せる者が二人。仮面ライダーサウザーと、少女型ヒューマギアのフーであった。

内蔵モニターから、ゼロサウザーは二人を見下ろしていた。操縦システムを落とし、ハッチを開いて飛び降りる。同じ名を冠する二人のライダーが、荒廃した戦場にて向かい合う。

「我々も撤退の最中だ。退くなら、これ以上は戦わずに済むが」

垓が口を開いた。その余裕が気に食わぬとばかりに、ゼロサウザーが頭を掻き毟る。天津垓の生き写しが、仮面の下で両眼を金色に光らせた。

「もはやフラタニティなぞどうでもいい! だが……我がオリジナル! お前だけは絶対にここで倒す!」

「その意見には1000%同意しよう。ハッキリ言って、私はお前が心の底から気に食わない。愚かしいまでのその傲慢は、かつての私を思い出す」

「黙れェ! 亡霊風情が、崇高なるネオZAIAの意志を踏み躙ることは断じて許されない! 大義の前の小義、路傍の石が我が道を阻むなァ!」

ゼロサウザーがマントをはためかせながら駆け出した。サウザーが徒手にて応じ、力任せの拳を受け流す。

力だけで言えば、性能(スペック)だけで言うならば、ゼロサウザーのそれは確かにサウザーを上回るだろう。しかし、激昂して精彩を欠いた今のゼロサウザーの攻撃は、一つとしてオリジナル・サウザーに届くことはない。サウザンドジャッカーによる三連続の斬撃を返され、ゼロサウザーがたじろぐ。

「どういうことだ……オリジナルにこれだけの力があったというのか!?」

「お前が()()()()()だけのことだ。怒りに任せた拳では、1%だろうと私の誇りを砕くことはできはしない!」

『JACKING BREAK!』

天に翳したジャッカーを振り下ろすと、ゼロサウザーに炎の斬撃が降り注いだ。空中に跳ね上がったゼロサウザーを追うように、地上から氷の柱が伸びる。

「フー、先程のアレは出せるか!?」

「おおせのままに」

フーの両掌から二つの光条が走り、稲妻を纏うスズメバチの群れが出現した。スズメバチがゼロサウザーに殺到し、小さな爆発を次々と起こしながら空中へと運んでいく。

「どうでしょう」

「見事な働きだ。では、社長らしく応えるとしよう」

サウザーが跳躍し、変身ベルト(サウザンドライバー)の右側にセットされたキーを押し込んだ。両足が激しく輝き、ゼロサウザーへと向けられる。

 

『THOUSAND DESTRUCTION!』

 

前方宙返りから空を裂く飛び蹴りが放たれる。空中にて無防備を晒したゼロサウザーと、必殺の一撃を叩き込まんとするサウザーが同じ高さに並ぶ。ミサイルめいて飛来した両足蹴り(ドロップキック)が、ゼロサウザーの鳩尾に直撃した。

群がるスズメバチが一斉に連鎖爆発を起こし、キックの勢いを増加させる。吹き飛んだゼロサウザーがⅢギーガーのコックピットに叩き込まれるのと、サウザーが着地するのは同時であった。

「おのれ……覚えておけ! 貴様らに安息など断じて与えはしない! フラタニティめ、一人残らず滅ぼしてくれるゥゥゥァアアア……!!」

 

THOUSAND

DESTRUCTION

©️ZAIAエンタープライズ

 

廃墟に縛られた巨人をも巻き込んで、ゼロサウザーが盛大な爆発を起こした。主に殉ずるようにして、Ⅲギーガーもバラバラに崩れ落ちていく。

その様を、サウザーは見上げていた。彼の傍らには、遥か未来の天地にて新たに見出したパートナーとも言うべき、謎に満ちたヒューマギアが立っている。

「これで、おわったのでしょうか」

フーが感情を覗かせない、平坦な声で言った。

骸の断末魔じみた言葉が真実なら……そう考えると、垓にはこれが最後とは思えなかった。これは次なる戦いの始まりに過ぎない、という予感がある。

だが。

それはそれとして、彼はこの勝利に浸ることにした。己の偽者に一矢報いたという事実が、彼の心に甘美なる余裕を与えていた。

 

「その答えはいずれ明らかになることだろう。それよりも今は、フラタニティ管轄区に帰還するとしよう。華麗に凱旋を飾るぞ」

 

気付けば、滅とバルカンは前方で二人を待っていた。滅の大型バイクには、マギアの変身を解いたハウが新たに乗っている。

フーとサウザーがバイクに跨る。ライズブレイカーが土砂を蹴散らし、バルカン達に追いつこうと走り出す。

三台のバイクは並走しながら、無人の街を走り抜けていった。

 

つづく。

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