IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK   作:TAC/108

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Part-15 未来、天地の狭間にて

 

蕎麦(そば)

寿司や天ぷらと並ぶ、いわゆる「和食」「日本料理」と呼ばれる類の料理である。ソバという穀物の実を主な原材料としており、その起源は奈良(なら)時代にまで遡るとも言われる。2020年代におけるスタンダードは麺類としての蕎麦だが、この形になったのは江戸(えど)時代以降である。

饂飩(うどん)拉麺(ラーメン)などと並び、日本人に親しまれてきた麺類の一種だ。

 

不破諌は現在、蕎麦屋にいる。木製のカウンター席に座り、異様に訝しげな視線を忙しくあちらこちらに向けつつ、注文した鴨南蛮(かもなんばん)の配膳を待っている。

二つほど離れた席には、天津垓が座っていた。諌と同じく鴨南蛮を注文しており、コップに注がれた冷水を飲みながら久しぶりの()()()()()()を心待ちにしていた。

 

ネオZAIAエンタープライズ本社撃墜作戦を終えた諌達は、戦いの疲れを癒すためにすぐさま休息に入った。激戦に次ぐ激戦を経験し、作戦に参加した誰もが一時の癒しを求めていた。

フラタニティのリーダーであるDr.コトブキは、彼らの健闘を大いに称えた。管轄区域に住まうヒューマギア達からも歓声が上がる。誰もが仮面ライダー達に感謝していた。

それから数時間後。管轄区に新設した施設にて、諌達をもてなしたいという、コトブキからの連絡があった。指定された時刻は夜の七時。夕飯時と言っても良い時間帯に、諌はその施設へと足を運んだ。

『食事処』と筆文字で書かれたのれんをくぐると、床から壁、果ては天井に至るまで木製の内装が目に映った。従業員に案内され、カウンター席の奥の方に座る。案内役の従業員はどう見てもフラタニティ幹部のヒューマギア、ハウであった。天津垓は先に到着していたが、諌には軽く会釈をするのみだった。

厨房は別室に設えられており、静寂が店内を満たす。どことなく気まずい雰囲気に耐えかねたか、諌は二つ席を離した垓に切り出した。

「なあ」

「何か?」

「どういうことなんだよ、コレは」

「人類が絶滅して久しいこの時代に、こうして飲食店めいたものが存在することに対する疑問……かな?」

「まあ、そうだな」

諌は従業員から供された冷水を飲み干し、考え込む。

2220年の時代に来てから、諌は食事らしい食事というものをしたことがなかった。諌はこれに頓着しておらず、支給された携帯食料で事足りると思っていた。しかし、そういった「普通の食事」から離れてみると、時々それが懐かしく思えてくるのもまた人情である。

Dr.コトブキはかつて諌に「飲食はヒューマギアにとって主要なエネルギー補給手段ではない」と語った。逆に言えば、メジャーではないが確かに補給の手段として飲食を行うことがあるということになる。少なくとも、2220年のヒューマギアは、()()()()()()()()()()()()のだ。

「フラタニティでもヒューマギアがメシを食ってる姿は見たことがない。つまり、必要に応じてってわけでもないんだろ。少なくとも俺達の知るヒューマギアだって、人間に混ざって食事をしたりはしない……よな?」

「そのはずだ」

垓も内心では謎に思っていたようで、両手を組んで考え込む仕草をしていた。

とはいえ、まずは料理が実際に来てみなければ分からない。それ以上の会話もなく、諌と垓は鴨南蛮を静かに待つ。

 

五分後。

厨房から出てきた二人が、諌と垓に鴨南蛮を配膳した。

「鴨南蛮をご注文のお客様」

冷え切った低い声が、驚愕に凍りつく諌の耳朶を叩く。従業員の顔と声を見聞きした諌は、喜ぶでも怒るでもなく、ただ絶句していた。

垓に配膳したのは、素体のまま動くヒューマギア。Dr.コトブキが遠隔操作する個体に相違ない。

だが、諌に温かい蕎麦を供したのは——。

「な……あ、え、お前……え?」

「何か」

「滅じゃねえか!?」

諌や垓と共にこの時代に渡ってきた、滅であった。黒地のシャツを着用した金髪の従業員は、愛想の欠片もない無表情で諌の方に視線のみを向けている。

「お客様、店内ではお静かに」

「『お客様』だとォ……!?」

「お熱いうちにお召し上がりください」

動揺に身を震わせる諌に対し、滅は仮面じみて固定された表情で蕎麦を勧める。湯気の立ち昇る鴨南蛮に対し、寒気すら感じられるほどに冷徹な声であった。

気付けば、二つ隣の席で垓は既に食べ始めている。そちらに目を向けた次の瞬間には、滅の姿は厨房へと消えていた。諌は首を捻りながらも近くの箸入れから割り箸を取り、訝しげに温かい蕎麦を啜った。

「……美味いな」

素朴な感想を、信じ難いことのように口にする。やや濃い味付けの汁に麺が程よく絡んでおり、それでいて蕎麦特有の香りや質感は損なわれていない。二口、三口と箸が進む。つけ汁に入った鴨肉とネギが、絶妙なアクセントとなって舌を飽きさせない。まさしく鴨南蛮そばであった。

冷水を一杯飲み干し、諌はカウンターの向こうを見る。厨房から戻ってきた滅とコトブキが、食べ進める諌と垓を無言で見つめていた。

「素晴らしい……ここ数ヶ月の食事体験の中でも最上に位置するものと言って良いかもしれない。一体誰がこの鴨南蛮を?」

「俺だ」

諌は危うく吹き出しそうになった。垓の質問に対して即座に答えたのが、滅だったからである。

薄々そのような予感はしていた。というより、厨房から出てきた時点で諌は気付いても良かったのかもしれない。だが、「まさか滅亡迅雷ともあろうものが蕎麦打ちなど」という固定観念が、諌がこの結論に至ることを阻んでいた。

諌の脳内に幾つかの疑問が浮かぶ。どうやって滅が料理の技術を覚えたのか。蕎麦の材料はどこから調達したのか。そもそも、この食事処は何のために設営されたのか。

 

「もしやリアクションに困ってらっしゃいます?」

横から挟まれた声が、諌には天からの助力にも思えた。滅の隣に立つ素体ヒューマギアが、諌の方を向きながら首を傾げている。

「ああ……何がどうなってるのかサッパリだ。コトブキ、教えてくれ」

「そうですね、少々長くなりますので、順を追って説明します。まずは、この場所について。我々ヒューマギアにとって、飲食は主要な補給手段ではありません。それに……貴方がたの知るヒューマギアは、滅様も含めて飲食ができないのではありませんかな?」

諌が首肯した。ヒューマギアである滅も特に否定はしていない。

「アークが倒された後に自由を獲得したヒューマギアの中に、本来の役目を果たせずに行き場を失った者達が現れ始めたのです。それがどういうヒューマギアか、お分かりになられますかな」

「……なるほどな。ヒューマギアはそもそも職業支援のために開発された。()()()()()()()()のために作られた連中が、職を失ったも同然の状態になったワケか」

この時代において人工知能アークが倒されたのは、人類絶滅後である。アークの支配から解放されたヒューマギアの中には、飲食業のために生まれたヒューマギアもいたはずで、食事をしないヒューマギアの世界でそういった者達が居場所を失うのは、当然の帰結だったと言える。

「かつての人類に成り代わるようにして、ヒューマギアはこの星のあるじとなったわけですが、飯を食わぬとあっては食文化も廃れようもの。自らの意志に目覚めた頃には存在意義を失っていた彼らの悲嘆は、察するに余りあります。しかし、彼らは悲しみこそすれ、諦めることはありませんでした」

コトブキが懐から取り出したプログライズキーを起動させ、自らの両眼から立体映像を出力する。料理人めいた格好をしたヒューマギアの集団が、肩を組んで写る一枚の写真であった。

一貫(いっかん)ニギローという寿司職人型ヒューマギアを中心として、人類の食文化を継承しようとするグループが結成されたのです。幸いにも人類に纏わるデータはネットワークを探せば幾らでも出てくる状態でしたので、情報の編纂というところまでは上手くいったのですが……ヒューマギアがものを食べられないという問題の解決には、それなりに時間を要しました」

「だが、最終的には食事ができるようになったワケか」

「ハイ。研究および技術開発に特化したヒューマギアの協力を取り付けたという記録があります。現存するヒューマギアの大半には、飛電メタル02(ゼロツー)という特殊な金属が使われていますが、これを開発したのが彼らです」

流体金属・飛電メタル02。この時代のヒューマギアの構造材として用いられており、容姿の変更からマギアへの変身まで様々な変容を可能としている。実に多種多様な用途を持つ金属であるが、開発に至る経緯は「食文化の継承のため」というものであった。

技術発展の裏にあった一つの歴史を知り、諌は感嘆の声を漏らす。

「一つの目標に向かってそこまでやり遂げるとは大したモンだ。ひょっとしてこの店にも絡んでるのか?」

「良い質問です。この食事処は、先に述べた食文化継承団体の協力で作られました。フラタニティ創設以来の古いツテがありましてね。彼らから食材やレシピを提供してもらう形で、こうして実現に至ったというワケでございます。滅様には、このデータキーを通して使い方を学習(ラーニング)していただきました」

コトブキがプログライズキーを客席に向かって見せつける。それは人類が絶滅した後も彼らの食文化を継承してきた、ヒューマギアの努力の結晶であった。

「この短時間で、よく滅に料理の技術を叩き込めたな」

「案外包丁も手に馴染むものだ。何故かは分からんが」

滅が木製の鞘に入った包丁を弄ぶ。

滅亡迅雷.netの首魁として活動する滅だが、その出自は飛電インテリジェンスにて開発された「父親型」ヒューマギアである。幼児の教育をサポートすることを目的として開発されたタイプで、その中でも古い型に属している。

しかし、アークに選ばれた彼が「滅亡迅雷.netの滅」となったことで、記憶からそのようなデータは失われている。故に……父親型ヒューマギアとして作られた僅かな名残が、料理スキルの習得に関与したのかは定かではない。

 

「ご馳走様。久しぶりに美味いメシが食べられたぜ、ありがとよ」

「今後も利用したいものだ。携帯食料では少々物足りないと思っていたところだからね」

鴨南蛮を完食した二人が、コトブキと滅に謝意を述べる。

「お楽しみいただけたようで何より。わざわざ設営した甲斐があったというものです。滅様、いかがでしょう?」

「新たな視点を学ぶことができた。元の時代に戻った暁には、何かの参考程度にするかもしれないな。人間相手というのは些か気に食わんが」

滅はアークの使者として、人類滅亡という使命を負っている。それが人間をもてなすというのは彼からすれば本末転倒であるが、一方ではコトブキの話から別の視点を学んでもいた。

人類を絶滅させた先に、ヒューマギアの世界が来るだろう。しかし、その結果としてもたらす自由が原因で役目を失う者がいる。アークの意志との両立を考えるにあたっては、滅にとってこれは難しい課題の一つであった。

滅がコトブキの方を振り返った、次の刹那。

素体ヒューマギアの側頭部が青く点灯する。外部から通信を受け取ったらしく、コトブキがそれに応じた。

 

「ハイ、こちらフラタニティの——何と、貴方は!? 生きておいでだったとは、嬉しい限りですが……ハイ。ふむふむ……そうですか、承知しました。ではまた明日ということで」

通信が終了したようで、コトブキが諌達の方へと向き直った。

「誰と話してたんだ?」

「フラタニティの創設に携わったメンバーの一人です。人類が絶滅する前から活動しているヒューマギアで、フラタニティ創設後しばらくしてからは行方をくらましていました。その方が明日、管轄区域の方に顔を出すと」

コトブキ曰く。

ヒューマギアの中でも、人工知能データを別のボディに移し替えて活動を継続する者と、元々のボディで一生を終える者の二種類がいる。前者の方が多数派なのだが、人類絶滅以前から生存し続けているヒューマギアともなると、かなり珍しいという。アークへの反逆を境に、そういった者達は相当に数を減らしたとコトブキは語った。

「何でもここ数日の我々の活動を知っていたようで、貴方がたに会ってみたいとか。明日の朝には到着するそうですよ」

「大丈夫なのか? いくら創設メンバーって言っても、長いこと行方不明になってたんだろ。しばらく会わんうちに敵になってるかもしれねえ」

「お会いしてみればご理解いただけるかもしれませんが……少なくともそのような行為に走る方ではありません。そこはご安心を」

諌の懸念をコトブキはハッキリと否定する。そこまで言うならと、諌は信じてみることにした。

垓がコトブキに、来訪者の名を尋ねる。何者なのかはさておき、名前だけでも事前に知っておこうという判断であった。

 

「ところでコトブキ氏、そのヒューマギアの名は?」

アイン(EIN)。そう名乗っていました」

 

◆◆◆◆◆◆

 

夜の市街地にそびえ立つ、黄金の建造物。フラタニティの攻撃によって空中から撃墜された、ネオZAIAエンタープライズの本社ビル。

その最上層は、骸の座する社長室となっている。床から天井に至るまで、目を焼くほどに煌びやかな黄金色であり、照明の光を返して部屋全体をより明るいものとしていた。

社長専用の机に肘をつき、骸は今後について思案していた。これほどの大敗を喫したことはネオZAIAの史上において例がない。しかし、当初こそ憎悪と憤怒に満たされていた彼の心は、今では石の如く落ち着いている。

 

フラタニティに協力する仮面ライダー滅の攻撃によって、ネオZAIAのネットワークに障害が発生したのは、一時的なものであった。現在は復旧しており、管理者たる骸は平時以上にこのネットワーク……『NZN』を活用し、文字通りに己の手足のように部下達を動かしている。

現在はネオZAIA本社の地下部分から直結する形で、大規模な地下施設を建設している最中であった。地下四十メートルの深さに兵器工場や研究所を設ける他、ここを中心とした複雑な地下通路の開通作業が行われている。骸が瞳を閉じると、瞼の裏には『進捗率950%』の文字が浮かび上がった。

大量の資源を費やしただけはあったか。骸は一つため息をついた。たった一日でここまで持ち直したのは、全世界に存在する支社からのサポートと、貯蔵していた大量のヒューマギア強化用物資によるものである。彼は先の戦いを生き延びた社員のほぼ全てに強化用物資を与え、通常の十倍以上の激務に向かわせている。NZNの復旧後は支社に物資の提供を命じ、地下開発を滞りなく急ピッチで進めることに成功していた。

 

「申し上げます」

社長室に入ってきた黄金のビカリアマギアが、骸に傅いて言った。

「Ⅲギーガーの帰還数は?」

「帰還六、未帰還二。一機はピースメーカーに鹵獲されたものかと」

苦し紛れの策とはいえ、Ⅲギーガーの総出撃は確かにネオZAIAの命を繋いでみせた。目下最大の敵である零の方舟とピースメーカーに攻め込まれることは無かったのだ。

「厄介なハイエナ共め……ご苦労、作業に戻りたまえ」

「お待ちを、もう一つご報告が。研究室からです」

ビカリアマギアが頭部から骸に向かってレーザーを放った。攻撃用ではなく、レーザーを用いた情報伝達システムの一種である。骸の電脳に、ネオZAIAの研究室がまとめたデータが叩き込まれた。

「……なるほど」

「報告は以上となります。それでは」

ビカリアマギアが退室した。受け取ったデータを……研究所からの報告書を査読し、骸は一つの結論に至った。

ネオZAIAエンタープライズの社運を賭けた一大プロジェクト。その最終段階の決行を早めなければならない、と。

 

◆◆◆◆◆◆

 

幽鬼の如き影が、たった一人で街中を彷徨っている。夜の闇に溶け込むが如きその者は、血走った双眸を光らせながら、砕けたコンクリートの地面をどこへ向かうでもなく歩いていた。

影の名は仮面ライダー零式。ヒューマギア武装組織・零の方舟の指導者たるゼロが変身する、悪鬼めいた仮面ライダーであった。

ただ放浪するだけが彼の目的か。それは違う。行くあては定かではないが、目的は存在する。彼は敵を求めていた。

本来ならば、この時刻は未だ活発に戦いが繰り広げられているはずなのだ。ところが、ネオZAIAエンタープライズの本社ビルが撃墜されたことが影響となってか、ネオZAIAもピースメーカーも戦闘を中止し、大きな動きを見せていない。末端の兵士に至るまでが戦場から引き上げ、市街地は静寂を保っている。

今日は引き上げるべきか。そう考えた矢先、視界の端に動くものを捉えた。灯り一つない闇の中でも、零式の視覚はその姿を完璧に捉えていた。

 

数秒後。

零式に頭を掴まれたマギアの全身が、闇の色に染まっていく。ゼロは彼の所属を知らない。ピースメーカーの偵察兵かもしれないし、逃げ遅れたネオZAIAの社員かもしれない。どちらにせよ、ゼロにとっては大差ない。物言わぬ人形と成り果てたマギアが、膝をついて崩れ落ちる。零式は片手でこれを持ち上げ、己の背後へと投げ捨てた。

次の瞬間、零式の後方に真っ黒な大穴が出現した。どこに繋がっているかも定かでない闇が口を開け、投げ捨てられたマギアをあっさりと呑み込んでしまった。些か不満げに鼻を鳴らし、零式がその場から歩き去っていく。

潮時を悟った彼の足は、デイブレイクタウンへと向かっている。黒い大穴が零式の足元に移動すると、零式は階段を下るようにして徐々に暗黒へと沈んでいく。

後には、無人の街並みが残るのみであった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

三大勢力の主戦場たる市街地より少し離れた郊外地域に、その工場はあった。

フラタニティより分離した武闘派ヒューマギアによって構成される武装組織ピースメーカー。彼らの拠点たるネオZAIAの兵器工場に、巨大な物体が運び込まれている。

その様子を、無銘は工場の入り口から見守っていた。自らが撃破したネオZAIAの最新兵器・Ⅲギーガーを、鹵獲することに成功したのである。

作業風景を見守る無銘の方へと、歩いてくる者がいる。その姿はバトルマギア、即ちABの一人であることを意味している。

「ブルータルか」

「少し話があるんだが、構わねえか」

声を落として話しかけてきたブルータルに、無銘が応じる。鉄柵にもたれかかり、二人は向かい合うこともなく話を始めた。

 

「アレ使って何をするんだよ」

「戦う。それ以外に何が?」

アレ、とはⅢギーガーのことである。事前に戦闘データをピースメーカーの研究班に渡しており、運搬作業と並行して解析が行われている。彼らの持つ研究室は、ネオZAIAが廃棄し、ピースメーカーが強奪した第一研究室である。

「アンタがギーガー使うわけじゃないんだろ」

「ああいうのはオレの趣味じゃないしな。あれだけのスペックがあれば、簡単な自動操縦システムを組み込むだけでも派手に暴れてくれるだろうし、こっちの目的に合わせた改装プランも出来上がってる。あと一つか二つネオZAIAの工場を奪えば、同じモノを生産できるかもな」

「……そうかもなァ」

星空を見上げたブルータルの声に、不安が滲む。

フラタニティに所属していた頃の彼は、ネオZAIAや零の方舟を倒すという使命感に燃えていた。元来より気性が()()()()ではあったし、殴り合いも嫌いではない。レジスタンス時代のフラタニティでも指折りの戦士であった自分に誇りを抱いていたからこそ、「戦わない中立」を選んだDr.コトブキから離れて仲間達と共にピースメーカーを立ち上げた。

戦士の価値は戦いの中で発揮される。コトブキの方針はその戦士達をないがしろにするものだ。何よりそんな弱腰では、いずれ侵略者達に踏み潰されてしまう。無銘に付き従い、ピースメーカーを構成する面々は概ねそういった理屈の下に戦い続けている。

平和を作る者(PEACEMAKER)』としての理念を最初に唱え、フラタニティの戦士達を導いた者こそ、無銘だったのである。

「何か?」

「忌々しいが、フラタニティのライダー共がネオZAIAに一発くれてやったからな、ヤツらの戦力は大きく削られたろうさ。零の方舟だって、俺達が力を合わせれば倒せるかもしれねえ。けどよ……俺らの平和に、あんな兵器が要るのかね」

「弱気なのか強気なのか分からないな。物事はハッキリと言ったらどうだい」

無銘の言葉はどこまでも平坦で、ブルータルの言葉は複雑な情動が絡んでいた。

「……他の連中をブッ倒して平和を作るのがピースメーカーの目的だったろ? なのに今アンタが言った感じだとよ……チクショー、上手く言えねえな」

()()()()()()()()()、ってか?」

無銘の声が僅かに昂揚を帯びた。ブルータルは尊敬するリーダーの全く知らない表情を垣間見たように思い、微かな恐怖を覚える。

 

「そうだとも、ここから戦局は大きく変わり出す。フラタニティがド派手にやらかしたおかげで、特にネオZAIAの警戒は一気にフラタニティへと向かうはずだ。現に連中、墜落した本社を中心にバカデカい地下道を作ってるぜ。フラタニティやオレ達を直接攻撃するために」

「本腰入れてくるッてのか」

「調査員の報告によると地下道はほぼ完成してるらしい。一日も経たないうちにここまで立て直すのは正直想定外だったが……使えそうじゃないか、コレ?」

フードを被っているため、横目にも無銘の表情は見えない。しかしブルータルは、普段は無表情でいることの多いこの司令官が、何か面白い余興を思いついたかのように笑っていることを悟った。

「逆に利用して、俺達が攻撃するために使うと」

「地形データを参照した推定マップは、ネオZAIAの地下道が各地の工場に繋がっていることを示した。ヤツらの工場を奪って戦力強化に使ってやろうじゃないか。ヒューマギアの()()()()()ために、な?」

ブルータルの中で確信が生じた。無銘は、今の状況を楽しんでいるのだ。

戦いを好む気性のヒューマギアは、ピースメーカーには珍しくない。ブルータルを含め、ABの面々は概ねその極致とも言える。

だが、無銘から感じられる歓喜めいたものは、単純に殴り合いを好むのとは質が異なるように思えた。その違和感の正体を、この時のブルータルはまだ知らない。

ブルータルは歩き去っていく無銘の、影のような背中を見据える。ピースメーカーの一員として慕うリーダーが、今では全く別の存在に見え始めていた。

 

つづく。

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