IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK   作:TAC/108

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Part-17 アインの救世理論

雨降る街を二台の車両が駆け抜ける。時折戦闘の音が聞こえるが、昨日までと比較すると規模は小さく激しさもない。ロボットである故にヒューマギア達が雨を嫌うのか、それとも強まった雨足が彼らの戦意を削いだのか。どちらにせよ、今の二人には関係のないことであった。

 

不破諌は今、フラタニティに突如現れた謎のヒューマギア・アインの案内を受けて市街地をバイクで走行している。アイン曰く、かつてはヒューマギア達の母機でもあった人工知能ゼアのバックアップとなっていたゼロツープログライズキーの在り処が判明したため、それを探しに行くのだという。

目的は、この世界を救うこと。より厳密に言うならば、諌達が2020年という過去に戻ったことで発生するタイムパラドックスで、この世界を消滅させないようにすること。そのためには、ゼアの力が必要だ……というのが、アインの説明であった。

アインについて行くのは難しくない。だが、諌は彼女が具体的にどこで何をしようとしているのかはよく知らない。せめてもう少し説明が欲しい……そう考えた矢先、バイクが備える通信機が起動した。前方を走るアインの声が響く。

『さすがに雨が強いな。向こうに廃ビルが見えるし、一度あそこに入って休憩しよう』

 

二分後。

無人の建造物にバイクごと侵入し、諌とアインは休憩を取っていた。フルフェイスヘルメットに付着した雨粒を拭いつつ、アインが諌に話しかける。

「そういえば、僕が具体的にどうやってこの世界の破滅を防ごうとしているかについては、話していなかったね。休憩がてら、その辺も話しておこうか」

「ちょうど聞きたかったところだ。お前さてはエスパーか何かか?」

「まさか、ただのヒューマギアだよ。で……ゼロツープログライズキーを使って、何をするかという話なんだけどさ」

アインは屋外に視線を向ける。進行ルートを確認するだけでなく、外敵の存在を警戒する意図もあった。

「実はこれから行く場所にも関わりのある話でね。僕は時折この国を離れることがあった。理由は二つ。ネオZAIAの圧政に苦しむヒューマギア達を助けることと、飛電インテリジェンスの遺産を探すこと」

「出発する前にも言ってた話だな。飛電の遺産ってのは世界中に散らばってんのか」

「人類が絶滅する前後は特に、状況が混沌としていたからね。最後まで抗戦し続けた仮面ライダー達の手で、重要なデータをアークに渡さないように色々な場所に隠したんだよ」

この世界で最後まで抗戦し続けた仮面ライダー。恐らくそこには諌や垓、あるいは彼の仲間も含まれているだろう。彼らが次々に倒れていった姿を、アインは見届けたのかもしれない。

「『飛電の遺産』の開封条件は二つ。飛電インテリジェンス製のヒューマギアであることと、アークの支配下に無いこと。でも地上のヒューマギアはほとんどがアークのハッキングを受けてる状態だったし、オマケに全員がアークの意志で動く仮面ライダー。滅亡迅雷もアークの強制接続で敵に回ったから、仮面ライダー達に味方するヒューマギアはほんの一握りしかいなかった」

「……待てよ? コトブキの話だと、アインは人類滅亡より前から動いてたんだろ。で、アークが倒されたのは人類滅亡直後。この間に動いてた『ほんの一握り』がお前だったのか?」

「そういうこと。まあ僕が生まれたのはホントに最後の最後でね……一応これでも飛電製のヒューマギアなんだ。当時の技術をあるだけ用いて作られた試作モデル。アークからのハッキングを防げた数少ない個体。そんな僕だから、人類滅亡後に飛電の遺産を解放できた」

アインは二百年も前の出来事を、非常に明瞭に話してみせる。人間とは、生命体とは根本からして「記憶」や「記録」の扱い方が異なるのだ。

 

「飛電の遺産を解放したことで、僕はゼアのネットワークを通じた『導き』を受けられるようになった。それに従って進んだ先の、最終目的地が……飛電インテリジェンス本社ビル跡地。今向かってる場所なワケだよ」

「……飛電の本社ビルだと!?」

諌が目を剥いてアインの方を見た。

飛電インテリジェンスの本社ビルは、一目見ればそれと分かるような、独特の曲線的なデザインをしている。しかし、諌が外に走り出て周囲を確認しても、それらしい建造物は見当たらなかった。

「そうか、跡地って言ってたな。飛電の本社はもう……」

「そう思ってたよ。飛電の遺産……僕が『ゼアの導き』と呼んでいるルートマップが完成するまではね」

アインは愛車の後部から小さな機械を取り出した。半径五センチメートル前後の、円形の装置である。

諌はコトブキからの説明でそれが何かを知っている。フラタニティ管轄区域の外周にある森林地帯に設置されているジャミング装置だ。ヒューマギアの認識機能を狂わせる効果があり、これを大量に木の幹や地中へと無数に設置することで、フラタニティは不可侵の管轄区域を作り上げた。

「このジャミング装置と仕組みは同じさ。対ヒューマギア用のセキュリティで、飛電インテリジェンス本社の跡地に何があるのかは、誰も認識できなくなっていた。知っているのは僕だけだよ。ヒューマギアのセンサーだけでなく、物理的視認をも防ぐある種の光学迷彩。それを突破した先が目的地だ」

「なるほどな。ヒューマギアでない俺も見えないのはそういうワケか」

アインは何やら難しい説明をしていたが、諌は要点だけは理解していた。つまりは、飛電本社跡地に何があるのか、何故そこにゼロツープログライズキーがあるのかは実際に辿り着かなければ分からないのである。

「話が長くなってしまった。じゃ、そろそろ行こうか……と、その前に。出発する前に、不破さんは変身しておいてくれないかな。生憎こんな雨模様だし、生身では堪えると思うんだ」

「同感だ。管轄区を出る前に変身しとくんだったな」

『ショットライズ! シューティングウルフ!』

諌がショットライザーから変身用の弾丸を放ち、仮面ライダーバルカンへと姿を変えた。アインは何事か閃いたように手を叩き、右手の人差し指から微かな光を放る。バルカンは咄嗟に顔面をガードするが、掌を伝って走った光が側頭部の通信機に入り込んだ。

「おわぁッ、何しやがる!?」

「人間の視覚から見えないなら、テクノロジーの産物であるライダーシステムからでも当然何も認識できない。ライダーシステムの通信機器にちょっとしたデータを送らせてもらったよ。これで目的地に到着しても何も見えないなんてことは……無いと思うんだけどなぁ……」

「急に自信失くすなよ……というか、お前には何か見えてるのか」

アインは顎に手を当てて考え込む。苦虫を噛み潰したように渋りきった表情をしているところを見るに、単にそういう振りをしているのではなく、説明に難儀しているらしい。

「こればっかりは実際に行って確かめてもらうしかないかなぁ……何とも説明しがたいというか……」

「それならそれで構わんさ。お前に何かしら見えてるんなら案内としちゃ十分だろ」

「そう言ってもらえるとありがたい」

雨宿りは終わった。バルカン達がバイクに搭乗し、廃ビルを去っていく。

 

立ち並ぶ建造物の一つ、その屋上から彼らを見下ろす者がいる。

オオカミの如き威容を持つ影は、雨粒と風を纏いながら静かに浮遊を始めた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

建造物の合間を縫って走り抜ける中、二人の会話は続く。

「それで? ゼロツーキーを見つけたとしても、結局その後はどうするんだよ」

『ゼアの演算能力は並行世界の観測すら可能とした。コトブキ君はその力の一端を用いて、時間跳躍の装置を作り上げた。今回やるのはこの二つの要素の組み合わせだよ』

変身したバルカンの側頭を通して、アインの声が直接伝わる。ヒューマギアとしての通信機能で、バルカンに直接話しかけているのだ。

「具体的には?」

『この時代と2020年には今、時間の一本道が生じている状態だ。この道が過去からのタイムパラドックスで断たれると、最悪この世界が消滅する。だから、考え方を変えるんだ。時間の流れに可能性を巻き込んで、一本道じゃなく無数の枝分かれしたルートマップに変更させる』

「何言ってんのかサッパリ分からねえ」

諌がボヤいた。率直な感想である。

先行するアインが少しだけ頭を上げ、前方を見据えた。七百メートル程度の先に、開けた土地がある。

『実際やってるところを見せないとこれ以上の説明は難しいかな。それと不破さん、そろそろ目的地に到着するよ』

「分かった。難しい話は任せるぜ、アイン」

 

数十秒後。

濡れた土礫を車輪で削りながら、アインのバイクが停車した。辺り一面は破砕されたコンクリートによる礫の地面が広がるばかりで、建造物らしいものは何一つ存在しない。雨天も相まってひどく寂しげで殺風景な場所であった。

追いついたバルカンが続けて停車し、アインと並び立つ。

「何もねえな。ホントにこんなところが飛電の跡地だってのか?」

そう言った直後のことであった。

ライダーシステムの視覚を通して、諌の目に何らかの情報が飛び込んできた。驚きつつもそれを確認すると、何もないはずの土地に高層ビルが建っているのが見える。ただし、実際にそこにあるというよりも、映像によるイメージを見せられている方が近い。目に映るビルの姿も輪郭程度のものだ。

「何なんだ、こりゃあ……」

「僕達に見えてるのは単なるイメージ映像だ。実際にビルがあるわけじゃない。そうだ不破さん。僕より一歩先に踏み出してみて」

アインを訝しげに思いつつ、バルカンは言われた通りに一歩先へと足を伸ばした。右の爪先に、何か壁のようなものが触れる質感があった。

「もしや……見えないバリアでも張ってあるのか?」

今度は左手で何もない空間に手を伸ばす。開いた五指が水面の如く滑らかな何かに触れ、それ以上先には進まない。よく見ると、透明な雨粒がまるで時の流れが緩んだように虚空を滑っていた。

この場所には不可視の障壁が存在するのだ。諌は直感的に理解した。幸いにも謎の障壁は、触れれば焼けるような攻撃性を持ってはいない。

「恐らくこのバリアが、光学迷彩や認識ジャミングの役割を果たしてるんだろう。誰もここには来れないし来ようとも思わない。資格を持つ者が来るまでは……鍵を持つ者が来るまでは」

アインが虚空に右手をかざす。掌から発せられた稲妻じみた緑青の光が、特殊規格のプログライズキーを形成する。後部に羽飾りのようなパーツを持つそれは、カラーリングこそ異なるが諌も知るとあるキーに酷似していた。

今回の目的である、ゼロツープログライズキーに。

「危ないから少しの間下がっててね、不破さん。扉を開けるから」

起動されたキーが自動的に展開状態になると、アインがそれをバリアに向かって突き入れた。接続部が沈み込み、不可視のバリアが黄色に光り始める。

アインがキーを挿入した地点を中心に、回路図めいた軌道で青色の光が走った。端から端まで通電するかの如く、黄色の壁に青のラインが灯る。

 

やがて激しく輝いた防壁は、キーを中心として徐々に消散していく。黄色と青、二色に煌めく光の粒子がバルカン達の眼前に散らばる。無数の水滴が光を反射し、より一層輝いているようにも見えた。

「綺麗なモンだな」

「雨もなかなか悪くないね。さて、通れるようになったわけだけど……」

二人が周囲を見渡す。ある種の扉となっていた防壁が消えたにもかかわらず、二人には何も見えなかった。

「どうなってんだ……まだ何かあるのか」

「それはない、と思うんだけど——ん?」

足の裏から震動が伝わる。二人が同時に身構えると、震動は加速度的にその強さを増していく。まるで大地震のような勢いの震動に、バルカンですら思わず転倒した。

「何だ!?」

「流石に分からないな……この感じ——下だ。下から来るよ!」

アインの指摘は正しかった。前方の地面を突き破り、巨大な何かが天へと伸びていく。バルカンは這いつくばりながらそれを見上げた。真っ直ぐに伸びていく巨大構造体は、高層ビルのようにも見えた。巻き上がった粉塵が視界を阻み、やがて煙を成すと何も見えなくなった。

一分も経たぬうちに、巨大物体の動きが止まった。地響きも収まり、地に伏せていたバルカンが立ち上がる。粉塵の煙が雨に消されると、顕現した威容に諌は息を呑んだ。

 

飛電インテリジェンスの本社ビルが、彼らの目の前に現れたのだ。

水瓶を二つに割って互い違いに並べたような、独特の形状をした超高層ビル。上階は左右に分割されており、連絡通路を以て一つの建造物としての体裁を整えている。『HIDEN INTELLIGENCE(飛電インテリジェンス)』の文字を意匠化した会社のロゴマークは上階部分の壁から迫り出しており、仰ぎ見る者を圧倒する。

ただし、諌の知るそれとは明確に違う点も存在した。眼前の巨大構造体は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。窓ガラスを嵌め込んだ碁盤目状の窓枠も、屋上のヘリポートも、全てが宝石のように透き通る単一の結晶として構成されている。さながら結晶を削り出した彫像のようであり、およそ人間やヒューマギアが働く「会社」の風格ではない。形状そのものは全く同じであるだけに、寒々しさすら感じられる。

 

「飛電の本社ビル、だと……?」

「凄いな……あの巨大な建物自体が一つの結晶波動弾(シャインクリスタ)だ。巨大なエネルギーが全体を流動して、形を保っている! でも、これだけの物体がどうやって隠れていたんだ……?」

アインが首を捻った。かつて存在した人工知能アークの持つ力は、人智を超越した領域にあった。アークを倒す仮面ライダーを生み出したゼアもまた、ヒューマギアの想像を遥かに上回る存在だったということだろうか。

その時である。諌達の目の前にある虚空がポリゴンじみて揺らぎ、白い光と共に空を飛ぶ機械が出現した。下部にカメラのような装置を備え、四つの小型プロペラで飛行する無人機(ドローン)である。

「ドローンか。こっちを向いてるな」

たった一機の飛行型ドローンは、見定めるようにバルカン達の周囲を回遊する。一通りの確認を済ませると、下部の装置が持つ小さなランプが緑色に光った。

『第一級権限の所持を確認。ようこそ、飛電インテリジェンスへ』

「喋ったァ!?」

『ご用件をお伝えください』

ドローンの下部から無機質な声が響く。驚く諌をよそに、アインがドローンに話しかける。

「秘匿研究室は使えるかな?」

『機能に問題はありません。利用目的の伝達を』

「ゼロツープログライズキーを用いて、時間遡行システムの実験を行いたい」

アインが目的を伝えると、ドローンが沈黙した。数秒の静寂を経て、ドローンは平坦な声で否と伝える。

 

『時間遡行は極めて危険性の高い事象であり、当該目的での研究室の利用は推奨されません。また、第一級権限所持者の人工知能登録ナンバーは、飛電インテリジェンスのヒューマギア製造履歴と一致するものが存在しません。以上の理由により、研究室の利用は不可能です』

 

「あ? 要するに何言ってんだ?」

「飛電インテリジェンス製の人工知能として、僕は登録されてないんだって」

「お前、飛電製ヒューマギアじゃなかったのか!? ……だとするとアレか、コトブキが言ってた『人工知能だけをヒューマギアのボディに移し替えた』ってヤツか?」

諌の推測に、アインは首を縦に振った。しかし、失意に沈む様子もなくアインは指先から青い光を放った。

「これでどうかな?」

『第一級権限所持者よりデータを受信しました。照合……人工知能を除き、97%の確率であなたは飛電インテリジェンス製のヒューマギアです。完全な認証にはもう一段階必要となります』

「まだダメか。あと一段階って何かな?」

アインが疑問を提示した矢先、その背後に何者かが降り立つ。重々しい着地の音に反応した二人が、群青色の乱入者を目撃した。

 

「珍しい顔があると思ったら、こんな場所まで来ていたとはな。今まで見つからなかったのが不思議なくらいだが……何か細工でもしてあったのかね」

重装備の強化装甲が剥がれ落ちて消滅する。現れたのは黒いパーカーを羽織った青年のヒューマギア。被ったフードの下から、中性的な顔が覗く。

抑揚の乏しい声で話すその人物は、三大勢力の一つであるピースメーカーの司令官・無銘。バルカンフォースという名の仮面ライダーに変身する、恐るべき戦闘集団の長であった。

「お前は……無銘!? 何だってこんな時に来やがった!」

「久しぶりだね、無銘君。フラタニティを抜けてかなり好き勝手やってるらしいけど、生憎今は取り込み中だ。後にしてくれるかな」

諌だけでなくアインまでもが警戒を露わにした。対する無銘はあくまでも平常心で二人に接する。

「そう(いき)り立つなよ、別に不意を打とうとか考えて来たワケじゃないさ。オレはただ軽く挨拶に来たってだけなんだ。そういうことで、久しぶりだなアイン。相変わらず見た目だけは可愛らしいな」

「今は余計なお世話かな。褒め言葉は受け取っておくけどね」

「警戒されてるなァ……脅かさないように変身を解除したつもりだったんだが、逆効果だったかな」

軽口を叩き合う二人は、どこまでも対照的に構えている。アインは視界を巡らせて無銘との間合いを測っているが、無銘は敵意の欠片もなく無防備な自然体で立っていた。

『権限所持者以外のヒューマギアを確認。権限所持者に質問します。同伴者ですか?』

「少し待っててね。無銘君、僕達がここに来た目的は知ってるのかな?」

「教えてくれるなら、内容にもよるが協力してやろうかなとは思っている」

「相変わらず何考えてるのか分からねえヤツだな。大方途中から俺らを追ってたんだろ、何が目的だ」

バルカンが腰のショットライザーに手をかけた。無銘はわざとらしく両手を上げ、降参の意図を示す。

「信じられないかもしれないが、何か特別な目的があってアンタらの前に現れたんじゃない。まあ、そこにいる仮面ライダーがオレと遊んでくれるっていうなら話は別だがね」

「さっき言ったろ、取り込み中だ。お前に構ってる暇はねえ」

「つれないなァ……手出し無用ならここらで帰るさ。次は戦場で——」

無銘が言いかけた、次の瞬間であった。

 

『権限所持者へ。利用認証プログラムを受けることを推奨します』

ドローンが背後から提案を投げてきた。突然の声に驚くアインだったが、「利用認証」の四文字には素早く反応する。

「認証プログラム? ……オーケー、引き受けよう。何のテストか分からないけど、それで世界が救えるなら安いものさ」

『参加人数は三名でよろしいですか?』

「えーっと……無銘君、多分君もカウントされてるよ?」

ドローンを除けばこの場には三名。不破諌、アイン、そして無銘である。

「なるほど。構わないさ、ちょうどコッチの仕事が軌道に乗って暇になってたところでね。こういう暇潰しも悪くない……で、内容は?」

ドローンは答えなかった。どうやら「権限所持者」たるアイン以外に対しては原則として返答などを行わない仕組みになっているらしい。

「参加人数は三名、これで決まりだね。プログラムの内容は?」

『承認が完了しました。我が社の防衛システムを用いての()()()()です。これより参加者の皆様には、飛電インテリジェンスでの研究データから再現されたデータとの戦闘を行っていただきます』

「戦うだと? えらく単純な内容だな。筆記試験とかじゃねえのか」

諌が素朴な疑問を口にした。ドローンは一瞬の沈黙を経て、諌に対して理由を答えた。アインから受け取ったデータの影響で、諌は「権限所持者の認可を受けた人物」とみなされているらしい。

『秘匿すべきデータなどの防衛を行うにあたっては、これが最も適した手段です』

「ほう……要するにアタマを競うよりも腕力で守った方が確実ってことか。分かりやすいな」

ドローンが三人に背を向け、本社ビルの方へと進む。

『これより屋上へと向かいます。私についてきてください』

「行こう、二人とも! 何があるのか確かめなきゃ」

アインを先頭に三人の集団が、巨大結晶に向かって歩いていった。

ふと、諌の脳裏をある疑問が過ぎる。これから戦うにあたっての、最も重要な点であった。

「アイン、一つ聞きたいんだが……お前、戦えるのか?」

「そうだよ? こんな時代だからね。自衛手段は必要ってわけさ」

 

◆◆◆◆◆◆

 

飛電インテリジェンス本社のエントランスを通り抜け、広々とした一階フロアを進む一行。その内装は2020年当時とほとんど同じであり、壁面には飛電インテリジェンス二代目社長・飛電或人(ひでんあると)を描いた肖像画が大きく飾られている。

「中は変わらねえな。社内まであんな青一色じゃ目がチカチカしそうだが」

雨に濡れた足が床と擦れる度に、甲高い音が響く。中にいるのは三人だけであり、人間やヒューマギアが行き交っていた社内を思い出し、諌は異様に室内を広く感じた。

『私の案内は以上になります。エレベーターに搭乗し、最上階へと向かってください』

一階の奥へと案内された先に、従業員用と思しきエレベーターがあった。ドローンは最後のメッセージを伝えると、何処かへと飛び去っていった。

アインは二人と顔を見合わせた。諌の目は確固たる決意を宿している。無銘は戦いの予兆に笑みを浮かべていた。

エレベーターの扉が開く。最初に乗り込んだアインが最上階行きのスイッチを押した。三人を収容したエレベーターの扉が閉ざされ、ゆっくりと上階に向けて昇っていった。

 

つづく。

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