IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK   作:TAC/108

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Part-18 プレジデント・スペシャル

「なるほど。つまり、過去から来た仮面ライダー達を何の対策も無しに元の時代に帰すとこの世界が滅びかねない。だからこんな辺鄙な場所までやってきたワケだ」

「話が早くて助かるよ」

昇りゆくエレベーターの中で、アイン達の会話が続く。窓の外からは、戦の傷跡を残した街並みを望むことができる。乗員は三名。雨を凌げる室内ということもあり、諌はエレベーターの中で変身を解いていた。

本来は敵対する立場にあるピースメーカーのリーダー、無銘。彼と協力することになった以上、飛電インテリジェンス本社跡地まで来た目的を説明しておく必要があった。アインは当初こそ情報提供を渋ったが、諌の助言を受けて無銘を信用することにした。

「案外乗り気じゃねえか」

「そりゃオレだって世界を滅ぼしたくて戦ってるワケじゃないからな。世界消滅の危機だってンなら、協力するにやぶさかではないよ」

「どこまで真意か、相変わらずサッパリ分からねえ野郎だ」

諌はそう言ったが、一方である一点に関しては確信に近いものを感じていた。無銘は確かに危険人物だが、少なくとも眼前に展開された超技術の数々には興味を示さないだろう。その点では、飛電由来のテクノロジーを簒奪せんと企むネオZAIA社長の骸よりはよほど信頼に値するというのが諌の考えであった。

事実、無銘がアインの話の中で興味を示したのは、「タイムパラドックスの理屈」や「世界が消滅する可能性があるという危機」の方であり、それを防ぐために用いるゼロツープログライズキーなどには淡白な反応をするのみであった。心中で何を考えているかはさておき、世界の消滅が無銘にとって不都合でなのは確からしい。

「こんなテクノロジーの塊みたいなモノにもお前は興味ねえのか」

「食指が動かない、というのが正直なところだな。アインが第一級権限とやらを持っていることに加え、ドローンの反応からするに……オレがここのテクノロジーを使うことは難しいだろうからな。金庫破りの算段があったとしても、単純に興が乗らない。今回は何の企ても無く、世界の危機を救うだけだよ」

「無銘君……相変わらず妙に胡散臭い言い回しをするね。出会った頃から変わらないなぁ」

アインが懐かしむように言った。

 

諌は二人を見ながら思う。アインと無銘は今でこそ別々の理由でフラタニティを離れてはいるが、元はコトブキと共にレジスタンスに参加していたヒューマギアである。部外者として何か口を出すわけではないが、当時の思い出などには興味があった。

「フラタニティでのお前らは、コトブキとはどういう間柄だったんだ?」

「創設メンバー、そういう関係だよ。今でこそあんな姿だが、コトブキがまだヒューマギアだった頃はな……メチャクチャ強かったんだぜ?」

無銘が歯を剥き出して笑った。ヒューマギアとして活動していたDr.コトブキは、フラタニティでも指折りの戦士だったらしい。

「強くなければ生きられない。ネオZAIAの横暴に立ち向かうためには力が必要だった。コトブキはフラタニティのリーダーとして矢面に立ち、誰よりも多くの尖兵を打ち倒した。その過程で多くのヒューマギアを救っていったし、零の方舟が現れてからもそれは変わらなかった。あの時のコトブキは、フラタニティ最強のヒューマギアだったのさ」

諌は無銘の目が輝いているように見えた。彼は戦士として、コトブキの強さに惹かれている。苛烈なる武装組織ピースメーカーを創り上げた男が、最強と認めた人物。それは諌の知らないコトブキの側面であった。

「オレはそんなコトブキを気に入っていたし、コトブキも同志としてオレを見ていた。だが……守るものを得て、あの男は足を止めてしまった。戦いの中で救ってきたヒューマギア達が、結果的にコトブキの足を引っ張ることになった。ピースメーカーが生まれるのも必然と言えば必然だったかもな」

戦いに恐怖し、刃を持つことを止めたヒューマギア達。彼らに勇気を与えることは、コトブキにはできなかったのだ。天津垓が弁舌を振るわねば、再び立ち上がることはなかっただろう。

後ろを振り返り、続く者達を守る決意をしたコトブキ。眼前の強敵を見据え、戦士として撃滅する道を選んだ無銘。どちらが正しいということはない。ピースメーカーからすれば、コトブキは戦士の価値を蔑ろにする存在であり、フラタニティからすれば、無銘の率いるピースメーカーは戦禍を広げる三大勢力の一つだったというだけのことである。

 

対するアインもまた、コトブキの別側面に触れる。

「フラタニティにおけるコトブキ君は確かに凄まじい戦士だったかもしれない。でも、僕の知るコトブキ君は、優しい心を持ったヒューマギアだった」

フラタニティ創設以前から、アインとコトブキには面識がある。その当時は先達たるアインのアシスタントとして、飛電インテリジェンスにまつわる調査に参加していたのだという。

コトブキと知り合った経緯について、諌が尋ねた。

「偶然だよ。たまたまネットワーク上で、僕と同じく飛電インテリジェンスについて調べているヒューマギアがいた。僕は基本的には一人で活動してたんだけど、試しに連絡を取ってみたら直接会うことができてね。僕のアシスタントになってもらうことにしたんだ」

曰く、コトブキはアインと情報交換を交わしつつ、自らのメモリーに様々な技術を蓄積し、ついには衛星ゼアが生み出したとされるテクノロジーの一端を獲得した。現在フラタニティが保有する飛電やゼアにまつわる技術の多くは、この時期にコトブキがアインと共に入手したものなのだという。

「コトブキ君は普通のヒューマギアだったけど、それ故の善意というものを持っていた。僕も正直、彼に救われたようなところはあってね。苦しみも幸せも他者と分かち合えるし、誰かの心に寄り添うことができる。そういうコトブキ君だったから、僕はフラタニティのリーダーに相応しいと思うんだ。今もその評価は変わらないよ」

上に立つ者としての形は、必ずしも一つではない。コトブキが選んだのは、戦士として戦いながら、フラタニティの名の下に集ったヒューマギア達に寄り添い続ける在り方だったということになる。言うのは容易いが、実行するには尋常ならざる覚悟が必要だ。

 

結果として諌は、二人の話を聞くことで、Dr.コトブキの人物像についてある程度の理解を深めていた。

諌にも思い当たる節はある。戦えないヒューマギア達を守るために中立を選んだこと。それでも三大勢力への戦意は決して衰えず、最後の手段として諌達に助けを求めたこと。その全てがDr.コトブキというただ一人のヒューマギアだ。

「なんとなく分かった気がするぜ、アイツがどういうヒューマギアなのかは」

平穏と戦勝、両極端の事象を天秤にかけた男。その覚悟を知った今、諌の中にはある一つの思いがあった。その思いを頭の片隅に仕舞い込み、雨天に曇る窓の外を見る。

チャイムのような音が天井から聞こえた。話しているうちに最上階へと到着したらしい。三人はそれぞれの思惑を胸に、開く扉の向こうへと歩き出す。

 

飛電インテリジェンス本社の屋上はヘリポートとなっている。屋外に出てきた三人は空を見上げ、次に床を見下ろした。衣類から垂れ落ちる水滴を除いては、床は一切濡れていない。

「さっきの見えないバリアか?」

「みたいだね。雨が降ってるのは見えるけど、ここには一滴も入ってこないってわけだ。さて……ここから先の案内はあるのかな?」

アインが言い終えるや否や、視界の端から幾つもの光条が走る。幾何学的模様を描いた光は、横長のベンチを結晶として形作った。

『まずはそこにお座りください』

何処からか声が聞こえた。ドローンから発せられたのとは異なる、女性の声。エコーを伴って耳朶を叩く音に驚きつつも、三人は素直に導きに従った。

「君は?」

『認証プログラムのナビゲーターです。これよりプログラム開催のため、飛電インテリジェンス敷地内を外側とは異なる別空間へと変化させます。よろしいですね?』

「任せる」

アインが簡潔に返した、次の瞬間であった。

諌達の周囲に無数の罫線めいた光が走る。床や周囲の施設はおろか、雨雲に覆われた空に至るまで全てが正方形状に切り取られ、裏返っていく。ヒューマギアの常識すら上回る技術が、いとも簡単に行使される瞬間であった。

変化が終わると、三人は周りを確認した。先程までヘリポートであった場所は、それより遥かに広大な正方形のグラウンドと化している。縦横四キロメートル、面積にして十六平方キロメートルにまで広がった、恐ろしく無機質で平坦な床が視線の彼方まで広がっていた。空は先程までの雨模様が嘘のような、中天の陽光が照りつける快晴であった。

 

『これより、認証プログラム……"プレジデント・スペシャル"を開始致します。準備は、よろしいでしょうか?』

 

◆◆◆◆◆◆

 

ナビゲーターからの説明は以下の通りである。

認証プログラム『プレジデント・スペシャル』の内容は、飛電インテリジェンス本社の防衛システムと戦うというものであった。

今回アインが要求したのは、秘匿研究室の利用解禁であったため、それに応じて条件は「参加者全員が防衛システムに勝利すること」となった。諌も、無銘も、アインも、誰一人として敗北してはならないのだ。

この時、諌の中ではある推測が浮かんでいた。防衛システムといっても大したものではあるまい、というものである。恐らくは攻撃用ドローンや、強くとも戦闘用に改造されたヒューマギアとの戦闘であろう。バカにしているわけではないが、内心ではそこまで危険視していなかった。

 

ベンチに座って待機する諌達の遥か向こう、空から滲み出るように出現した二機のドローンが、下部から青白い光線を放った。それが一瞬にして人型の像を形成すると、光の人型が感触を確かめるように両手を開閉した。

右掌と左拳を打ち合わせると、その姿が一変する。腰には大型の変身ベルトが巻かれ、黒いアンダースーツへと全員が書き換わった。更には頭上に小さな星のような光が寄り集まり、何かの形を成そうとしている。

 

「オイオイ、嘘だろ……!?」

その姿を見て誰よりも衝撃を受けていたのは、誰あろう不破諌であった。腰の変身ベルトは、黒と黄色に塗られている。黒いアンダースーツにも、見覚えがあった。アインも驚愕に目を見開き、無銘は前屈みになりながら興味深そうに黒い人型を見つめていた。

諌はその姿を知っている。そのベルトを知っている。じっと目を凝らせば見えてくる、アサルトウルフプログライズキーと同様のグリップが装着されたそのキーを知っている。頭上の光が形成した、青と黄色のアーマーパーツを記憶として知っているのだ。

変身ベルトは横に長く、複雑な形状をしている。中央の円形パーツは、装填されたキーに描かれたバッタの意匠を映し出していた。ベルト右側にはプログライズキーの認証装置を備える。諌の用いるショットライザーとは異なり、非接触式で読み取るのだ。

黒いアンダースーツの頭上から、仮面と上半身の追加装甲を合体させたアーマーが覆い被さった。バッタの脚部を模した推進器が、折り畳まれて胸部から背中へと伸びる。青と黄色、四本の触角を持つ仮面が装着されると、赤い複眼が一際強く発光した。

『Warning! Warning! This is not a test! ハイブリッドライズ!』

力を漲らせる四肢に、黄色い光のラインが走る。二色の装甲が完全に装着され、その全容が明らかになった。

 

『シャイニング! アサルトホッパー! No chance of surviving this shot.』

 

現れたのは、バッタの力を宿した()()()()()()であった。

屈強な肉体を鎧う追加装甲は、その実変身者の動きを一切妨げない構造となっている。特徴的な胸部の円形レンズは仮面ライダーバルカン・アサルトウルフのそれと同じような青色であるが、戦闘補助の機能としてはあちらとは異なるシステムを採用していた。上半身から背中に伸びるバッタの足めいた部分は推進器であり、周囲に放出された余剰エネルギーが黄金の光子となって煌めいている。

 

かつて、飛電インテリジェンスの社長にのみ変身が認められた特別な仮面ライダーが存在した。初代社長・飛電是之助(ひでんこれのすけ)が予見した、人類とヒューマギア双方の危機に立ち向かう「世界最強の社長」として、その仮面ライダーは日の目を見ることとなる。

2019年、滅亡迅雷.netによる第一次プロジェクト『マギア作戦』の始動と共に、飛電の二代目社長・飛電或人(ひでんあると)が変身したことから、全ての歯車は回り出した。

 

人間とヒューマギアの未来を守るために戦った、社長にして仮面ライダー。諌達の前に現れたこの姿は、その発展モデルの一つである。

人工知能アークによって開発されたプログライズキー拡張機構・アサルトグリップとの連携機能を、人工知能ゼアの予測に基づきあらかじめ持たされていた、シャイニングホッパーというキーの拡張版にしてある種の完全版。それを使用したこの仮面ライダーの名は、ただ一つをおいては他にない。

 

仮面ライダーゼロワン。

形態名・シャイニングアサルトホッパー。

社長の証明たる存在が、遥か未来の別天地へと姿を現した。

 

「バカな……飛電の防衛システムってのは、ゼロワンだったのか!?」

「なるほど、確かに最強の防衛システムだ。誰が操ってるのかはさておき、仮面ライダーが守り手になるならこれ以上の鉄壁は無い。ましてそれが……或人社長がその身で築き上げてきたゼロワンともなれば」

諌の横でアインが冷静に分析していた。しかし彼女とて内心では驚愕と昂揚を抑え込んでおり、その電脳はショート寸前である。

『準備が整いました。第一試合の参加者は所定の位置についてください』

アナウンスが響くと、防衛システム・ゼロワンの正面に円形のマーカーが出現した。人が一人入れる程度の大きさであり、ここに立つことで準備完了とみなされるらしい。

ナビゲーターの言葉で、諌とアインは我に返る。冷静になってみると、彼らは未だ第一試合の出場者すら選出していない状況であった。ナビゲーターの気が変わらぬうちに、一番手を決めねばならない。

「一番手か、重要なポジションだな。俺が行くか」

「不破さんは……できれば最後にとっておきたいかな」

アインが顎に手を当て、考え込む。発言の意図が分からず、諌は困惑した。

「どういう意味だ?」

「実際に当たってみないと分からないけど、多分この感じは……後に行くほど敵が強くなるんじゃないかな? 最初から倒しにかかるなら、ゼロワンシステムの系譜には()()()()()()からそっちが出張ってくるはず。そういうパターンじゃないとしたら……段階的に相手の強さが上がっていくのかなって。それなら、僕か無銘君が先に出て様子を見た方が——ってアレ? 無銘君は?」

隣に居た無銘の姿が見えなくなり、アインは周囲を見回した。すると、マーカーに向かって歩いていく無銘の姿が目に映る。

「無銘君!?」

「話はちゃんと聞いてたさ。ホントのお楽しみはこれからなんだろうが……オレも正直同意見だよ。それに同じ『アサルト』同士、どっちが上を行くか興味がある」

『アサルトバレット!』

歩きながらキーを起動し、いつの間にか巻かれていたフォースライザーへと挿し込む。サイレンじみた待機音が鳴り始めると同時に、無銘は円形マーカーの中心に立った。

「変身」

『フォースライズ! アサルトウルフ!』

レバーを引くとプログライズキーが強制展開され、青黒いオオカミのライダモデルがキーを通じて現れる。無数のブロックへと分解されたオオカミが、無銘を覆ったアンダースーツに装甲として纏われ、変身が完了した。

仮面ライダーバルカンフォースが、己の力と同じく強襲(アサルト)の名を冠するライダーの前に立つ。

「事ここに至って無言とは、実に無愛想な防衛システムだな。まあ……それはそれとして、オレを楽しませてくれよ?」

左腕から四連の鉤爪を展開しつつ、バルカンフォースが腰を落として構えた。対する防衛システム・ゼロワンも、胸部から八つの結晶波動弾(シャインクリスタ)を出力し、己を守るように浮遊させる。

 

『これより第一試合の開始となります。開始まで五秒前、四、三、二、一——』

 

次の刹那。

ナビゲーターがゼロを告げると同時に、両者が爆発めいた踏み込みで距離を詰めた。後方に回した左腕を大きく振りかぶるバルカンフォースに対し、ゼロワン・シャイニングアサルトホッパーは躊躇なく回避を選択する。青と黄色の残光が軌跡を描き、バルカンフォースの真後ろへと出現する。

「速いな!」

ゼロワンの位置を察知したバルカンフォースが、鉤爪による回転斬りを繰り出す。ゼロワンを守る結晶が三つほど砕け散るが、手応えはそれのみ。本体を捉えるには至らない。

瞬間移動じみた速度で一秒ごとに全く異なる場所に姿を現すゼロワン。バルカンフォースにそれほどの機動性は無いため、早くも攻め手に欠く状況となった。これがシャイニングアサルトホッパーの能力の一つ……桁外れの機動性である。通常出力ですら、ヒューマギアの視力でも追い切れない速度を発揮し、刹那のうちに敵の背後を取ってみせる。ことに機動性に関して言えば、これより上位の形態にも引けを取らない。

バルカンフォースはその場から動かず、未だ様子見を続けるゼロワンの挙動を観察していた。軌道上の残光、移動時の僅かな姿勢の揺らぎをも見逃さず、注意深く敵の動きを見極める。

ゼロワンがバルカンフォースの正面に出現した。腰を落とし、右腕を引いて力を溜めている。半ば反射的に、バルカンフォースは相手が仕掛けるつもりであることを察していた。左腕を軽く振って鉤爪を収納し、短機関砲で狙いをつける。

 

次の瞬間、バルカンフォースの視界に五人のゼロワンが同時出現した。

右側から側頭部に向けた上段蹴り。左側から結晶波動弾による射撃。下段より這うような前傾姿勢からのアッパー。真上からは弧を描くような縦回転の蹴りが顔面にクリーンヒット。正面からは高速の飛び蹴りが胸部へと突き刺さる。

バルカンフォースは右側の蹴りを喰らい、左側の結晶を短機関砲で撃墜し、アッパーを回避し、顔面を蹴り上げられ、飛び蹴りは両腕で受け止める。攻撃をいなせるのは五つのうち三つ。五人のゼロワンに対して一人のバルカンフォースは、()()()()()()()()()()()()()()()の頭部に短機関砲を撃ち放った。

弾丸が当たる寸前でゼロワンが回避し、バルカンフォースの真後ろに回る。残る四人が消滅すると同時に、バルカンフォースの裏拳とゼロワンのフックが激突した。

「大正解、ってワケだな」

バルカンフォースがゼロワンの顎を蹴り上げ、最初の一撃を確実に喰らわせた。

バルカンフォースに見えていた五人のゼロワンは、いわば光学照準器(レーザーサイト)による()()()()()のようなものであり、実際に同時攻撃が行われたわけではない。彼は視認すら困難なゼロワンの機動から行動パターンを予測し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。

四方八方から結晶波動弾による射撃が襲い来るが、バルカンフォースはその場から動かずに稲妻を伴う暴風で全てを打ち消した。流星の如き飛び蹴りで迫るも、ゼロワンがバルカンフォースに右足を掴まれる。

「捉えたぜ」

三回転から投げ飛ばし、追撃として全身の火器を発射する。マイクロミサイルの直撃に加え、短機関砲から発射された凍結弾までもを喰らったゼロワンが、各部を白く凍らせながら膝をついた。

「さて……」

動きが鈍ったゼロワンに、二方向から鉤爪が襲い来る。右の爪は電撃を、左の爪は雪風を纏っており、どちらも直撃の度に相手の動きを大きく鈍らせる。体勢を立て直したゼロワンが虚空から斧を召喚し、バルカンフォースと鎬を削り合う。

「なるほど、ソイツは元を正せばアンタの武器ってワケか」

無銘が得心したように言った。右爪と斬り結ぶ斧の名はオーソライズバスター・アックスモード。銃形態(ガンモード)への変形機構を持ったこの武装は、元を正せばゼロワンの装備として作られたものである。

早回し映像のようにゼロワンの攻撃速度が上昇し、それに比例して斧の威力が増した。バルカンフォースも負けじと爪で切り返すが、激突の音が響く度に低音の風が消散し、電撃の勢いが弱まっていく。

数秒のうちに十六回の打ち合いが行われ、次の一手で右の爪が半ばから吹き飛んだ。大きな隙が生じたバルカンフォースに畳み掛けるゼロワンだが、左の爪が力任せに斧へと叩きつけられ、両者の距離が開いた。バルカンフォースは既に両腕の鉤爪を失っていた。

「ふうむ……意外と侮ったものでもないか。考えてみれば、あのゼロワンを操作してるのはここの防衛システムを司る人工知能。()()()()()()()分、殺し技を使うのにも躊躇が無いッてワケだ」

驚きも焦燥も無く、無銘は冷静に状況を読み取る。虚勢を張っているのではなく、情動というものに乏しいのだ。無銘は未だ自らの求めるものを理解していないが、その在り処だけは知っている。

それは平和の中ではなく、無数の殺し合いが渦を巻く戦場の中にこそ存在する。喩えるならば、氷河に吹き荒ぶ嵐。殺意と暴力の満ちる場に身を投じる瞬間は、無銘と呼ばれし者の「心」を動かすものだった。

 

「さて……上げていこうか」

バルカンフォースが両腕を広げると、黒い風を纏った掌中に青黒い得物が握られる。右手には拳銃、左手には短剣。どちらもプログライズキーを装填する機構を持つ。

試合の行方を見守る諌達は、その二つの武器を知っている。拳銃型の武器は特務機関A.I.M.S.にて開発されたショットライザー。そしてもう一つ、構造の似通った短剣は……ZAIAエンタープライズにて開発された対仮面ライダー戦用装備、ザイアスラッシュライザーに酷似していた。

「色は違うが、ショットライザーに迅の使ってたドライバーか。ピースメーカーの拠点とやらで開発したか?」

「ネオZAIAの兵器工場が今の寝床だっていうし、あり得ない話じゃない」

戦場の端に置かれたベンチで、諌とアインがバルカンフォースを見据える。新たな爪牙を剥き出した人狼が、不敵にゼロワンへと挑みかかった。

 

オーソライズバスターを構えたゼロワンに対し、バルカンフォースは脚部スラスターから炎を噴きながら回転斬りを繰り出した。斬撃を受け止めたゼロワンの両足が地面に沈み込むも、斧の重さを利用して押し返す。後退する勢いに任せてバルカンフォースが回転し、振り向きざまにショットライザーから銃撃を見舞った。

「これはこれで楽しめそうだが……思ったより音色は単調だな。もっと総身を擲つような激しさが欲しいところだ」

ショットライザーに腕部の短機関砲を合わせた三門の銃口が、至近距離で火を吹く。ゼロワンは咄嗟に幅の広い刀身を盾として防ぐが、連動するかの如く放たれた小型ミサイルまでは防ぎきれずに体勢を崩す。

「貰ってしまうぞ」

藍色のスラッシュライザーは、鳥の羽じみた形状をした漆黒の刃を持つ。逆手持ちの刃がゼロワンの首筋を斬りつけると、傷口から青白い光の粒子が散った。

「体を傷つければ人間は赤い血液を流すらしい。ヒューマギアの体からは潤滑液などを兼ねる青い流体が流れるが……アンタはその光なのか。少し興味が湧いたよ」

鞭のように横合いから叩きつける回し蹴りを、ゼロワンは防御できなかった。胴体に密着した右足から小型ミサイルが接射され、二人を巻き込む大爆発を起こした。

「その身体を壊して、()()()()()()みたくなった!」

よろめくゼロワンの右手を撃ち抜くと、オーソライズバスターが地面に落ちた。身を後ろに引き、高速機動で距離を離そうとするゼロワンだったが、左の爪先を踏まれて動きが止まる。

「少し早いが総評といこう。戦闘力は素晴らしいが、やはり思考ルーチンは些か単純だな。一番手であることを考慮すれば、まあギリギリ及第点をくれてやっても良いが……」

ショットライザーが顔面を殴りつけると同時に、銃口が火を吹いた。右眼を撃ち抜かれたゼロワンは、それでも尚止まることなく、ベルトに装填されたプログライズキーを押し込んだ。

『シャイニングストームインパクト!』

ゼロワンの頭部に光が集中し、絶大なエネルギーを纏った頭突きがバルカンフォースの顔面に直撃した。一瞬にしてバルカンフォースの背後に移動し、ゼロワンが強烈な高蹴りを相手の後頭部へと叩き込む。

鮮やかな反撃を喰らったバルカンフォースは、爆ぜる頭部から煙を噴きながら立ち尽くしていた。上半身を反らし、脱力したように腕を下げながらも、倒れることなく得物だけは保持し続けている。

その姿を見つめるは隻眼となったゼロワン。右の複眼から血のように青白い光を散らしながら、もう一方の眼でバルカンフォースを凝視している。ナビゲーターも無言を貫いており、無銘が未だ戦闘不能ではないことに気付いている。

二人の観客と姿なき審判が、固唾を呑んでバルカンフォースを見守る。

 

数秒の後、逆回し映像のようにバルカンフォースがその上半身を起こした。

顔面からは火花を散らし、左のカメラアイが破損している。攻撃の威力が全身に伝わったのか、重装備の追加装甲はその内側から煙を噴いており、見る者に不吉な予感を抱かせる。

僅かな時間で満身創痍に追い込まれた仮面ライダーが、その口を開いた。

「そういうのを待ってたぜ……こんなことならもう少し前向きに戦っておくんだったなァ!」

『マグネティックストームディストピア!』

バルカンフォースがベルト基部のレバーを押し戻し、再び引いた。

ゼロワンが身構えると同時、バルカンフォースの全身が青黒い煙のようなエネルギーを帯びる。ゼロワンが身構えるより先に、藍色のショットライザーがその左眼を撃ち抜いた。弾丸を通じて内部で荒れ狂う電磁気に、ゼロワンの身体が激しく痙攣する。

「評価は修正するよ、今の反撃は良かった。だが……生憎この場じゃオレの勝ちだ」

銃口が光る度に、ゼロワンの身体が少しずつ壊れていく。右掌、左手の甲、右膝、下腹部。それらに帯電する風穴が開き、ゼロワンの動きが錆びついた重機の如く鈍る。

「最後まで無言なのは少々残念だが……まあ、それなりに楽しめたよ。名残惜しいが、仕上げといこう」

至近距離まで歩み寄ったバルカンフォースだが、ゼロワンは未だ抵抗する力を残していた。辛うじて動く右腕で殴りつけると、振り抜かれた短剣が群青色の雷光を纏い、それを斬り飛ばした。続けて左腕を斬り落とし、胴体を高速で幾度も斬りつける。刃がライダーの装甲を滑る度に、血のように光の粒が噴き出した。

ゼロワンが膝から崩れ落ちる瞬間、一際強烈な斬撃が真一文字に放たれる。バルカンフォースの一撃は過たずに対手の上半身と下半身を泣き別れとし、両断された身体は無残にもその場に放り出された。

 

マグネティックストーム

ディストピア

 

血を払うように短剣を振ると、バルカンフォースの全身を覆っていた煙が消滅した。無銘は仮面の下から、骸となったゼロワンを見下ろしていた。

「ふうむ……こんなものか」

ヒューマギアの中身を引きずり出す方が、まだ面白いか。それが、光と化して消えゆくゼロワンに対する、無銘の率直な感想であった。

熱していた電脳が、冷却されたわけでもないのに急速に冷えていくような感覚があった。決して軽くはない損傷を思い出し、バルカンフォースが変身を解く。

「さて、どうだい……名も知らぬ審判殿?」

ゼロワンが完全に消滅した瞬間、たった一人の戦場に声が響き渡った。

 

『第一試合を終了、挑戦者側の勝利とします』

 

つづく。

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