IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK 作:TAC/108
第一試合、仮面ライダーゼロワン・シャイニングアサルトホッパーと仮面ライダーバルカンフォースの対戦は、バルカンフォースの勝利で幕を閉じた。
衣服に少しばかり損傷があり、顔面にも傷を刻んではいるものの、無銘は満足げな笑みを浮かべながらチームメイトの座るベンチに戻ってきた。
「終わったぜ。案外悪くなかったな」
「無銘君は無茶苦茶な戦い方をするなぁ、フラタニティにいた頃はもう少し落ち着いていたと思うけど……まあ、何はともあれお疲れ様だ」
「スピードに関しちゃ間違いなくゼロワンの方が上だったろうに、あんな力技で勝つとは思わなかったぜ。敵としちゃ恐ろしい相手だな、お前は」
勝者を迎え入れるのも束の間、彼らの意識は次の試合に向いている。
謎めいた飛電インテリジェンスのテクノロジーによって作り出された異空間、その中で三度の戦いが行われる。不破諌ら一行は飛電の秘匿研究室と、本社のどこかに存在するゼロツープログライズキーの使用権を得るため、全ての試合に勝利しなければならない。一つとして負けは許されないのだ。
三人を除いては人影一つ見えない平坦なグラウンドは、どことなく殺風景でもある。あるいは、決まり手となったバルカンフォースの凄まじき殺し技を目の当たりにした故か、彼らの間には独特の緊張感があった。
ゼロワンの姿を形成したものと同様のドローンが、何処からか飛来した。二機のドローンが何もない空間に光線を投射し、第一試合と同様に光の人型を創造する。
「さて……第一試合でアレと戦って、一つ分かったことがある。聞きたいかね?」
人型が作られる光景をよそに、無銘が切り出した。
「一応聞いておく。何が分かった」
「戦い方に関してだ。あの防衛システムは、構造自体は全く異なるものだろうが、動きはヒューマギアに近い。それも、自我が無い類のヒューマギアだ」
「待て、何故お前にそんな見分けがつく?」
無銘の言葉に諌が首を傾げる。Dr.コトブキの言うところによれば、この時代におけるヒューマギアはほとんどが自我を持つ……つまり、諌達の認識するシンギュラリティを経ているのとほぼ同じ状態であるという。無銘も世代としてはこの最新型にあたるはずで、故に
「ネオZAIAがあれだけの兵力と戦力を持つ理由を知らないのか? ヤツらは
「なるほどな。戦場でネオZAIAの連中と何度もコトを構えてるから、その事情も把握しているってワケか」
「待った、それはわたしも知らなかったよ!?」
アインが無銘の隣で驚きの声を上げた。ヒューマギアは生物ではないため本来そのような現象を起こさないはずだが、心なしか赤面しているように見える。
「……そういやアイン、フラタニティを襲ったネオZAIAの尖兵に話しかけてたっけな」
「いや、てっきり黙秘権を行使してるだけでお話はできるものだと……結構恥ずかしいよコレ、石に話しかけてるみたいなものじゃない!?」
「まあ、知らなくとも無理はない。傍目には
話が脱線したな、と言って無銘が話題を軌道修正する。
「まあともかくそういうワケだ。マニュアルがどれだけ精密になろうが、本質的にはマニュアルの範囲内でしか動けないという側面は変わらない。オレがアンタを最後に持って行くのに賛成したのはそういうワケだよ、バルカン」
「俺にしかできない役割がある……お前はそう言ってるのか?」
「ああ、何ならアインもそこに賭けてるんだろうさ。ヒューマギアではない人間にしか果たせない役割、発揮し得ない力……恐らくはそういうものを、アンタに見出した者がいる。アイン、次の試合は任せるぜ」
羞恥に顔を覆っていたアインが、無銘の言葉に遅れて反応した。海外でもネオZAIAの圧政からヒューマギアを助けていたというアイン。以前にも似たような経験があったようで、それらがフラッシュバックしているらしい。ここが寝床の上であれば彼女は身悶えしながら転がり回っていただろう。
「ま、任せてぇ! そう、第二試合は僕の出番……不破さん! 大トリは任せるよ!!」
「おう……いや大丈夫かお前?」
「大丈夫大丈夫! アハハハハ……ハァ。あの時も、あの時も、なんかやけに静かだなとは思ったよ……」
肩を落として何事か口から言葉を吐き続けながら次の戦場に向かうアイン。その背中に諌は、奇妙な哀愁を感じずにはいられなかった。
◆◆◆◆◆◆
挑戦者の立つべき円形のマーカーへと、ヒューマギアの少女が立つ。決断的な視線を向けるアインに対し、光の人型も戦闘形態への変身を開始した。
銀色のアンダースーツが人型に覆い被さり、その手に大剣が握られる。クリアブルーの刃を持ち、プログライズキーの意匠を施された黄色の剣。
『プログライズ! メタルライズ!』
大剣の内部から漏れ出すように、バッタの群れが周囲に展開する。それらは全てが自在に姿を変える特殊な金属……飛電メタルによって構成されたものであり、アンダースーツを包み込むことで刺々しい銀色の装甲へと変化していった。
『Secret Material!
黄色の稲妻を迸らせながら、バッタの仮面ライダーが変身を完了した。頭頂から爪先に至るまでが陽光を受けて銀色に煌めいており、高級感を演出している。装甲の隙間を走る黄色のエネルギー供給ラインが光ると同時に、同じ色をした複眼が点滅した。
バッタを模した特徴的な仮面は、主たる
第一試合の相手と同じ変身ベルト——飛電ゼロワンドライバーを装着しているが、認証装置は装填されたプログライズキーの持つ特殊なカバーによって塞がれ、完全にこの形態に最適化されていた。
『メタルクラスタホッパー! It's High Quality.』
その姿は破壊的にして神秘的。無数の個を一塊と成して全てを喰らい尽くす『
飛ぶ虫の
仮面ライダーゼロワン・メタルクラスタホッパー。
極秘素材の飛電メタルが、
「第二試合はそう来るんだね。偉大なる先輩だけど……僕も負けてはいられないんだ」
アインは右手にプログライズキーを出現させ、起動スイッチを押した。飛電インテリジェンスより認められた第一級権限……社のシステムの99%にアクセスする権限を有するアインが持つ、特殊規格のプログライズキーである。
『ユニゾンジャンプ!』
緑青のプログライズキーが展開されると、アインの腰を光の輪が包んだ。グリッド状の光は、前方にいるゼロワンのそれと酷似した形状の変身ベルトを形成する。ひとつだけ異なるのは、ベルト中央から左側を覆うようにして、左側から見たヘッドフォンのようなパーツが装着されている点である。
その形状は2020年代におけるヒューマギアの最新モデルが標準的に装備していた、ヘッドギア型モジュールによく似ていた。
『アインドライバー!』
次の瞬間、アインの背後から緑色のバッタのライダモデルが出現した。細長い全体像と前方へと突き出した触覚は、プログライズキーに内蔵されているのがショウリョウバッタに関するデータであることを示している。金属質な装甲の内側から、青い光が漏れ出ていた。
アインが前面に両腕を突き出して交差させる。腕を開く軌道が横に一文字を描くと、彼女は真剣な表情で力強く言い放ち、プログライズキーを装填した。
「変身!」
『プログライズ!』
ショウリョウバッタのライダモデルが空中で静止し、その輝きを増した。
『アインライズ! Take off toward the next hope——KAMEN RIDER EIN!』
ライダモデルが一瞬にして無数の光条へと変じ、頭頂から爪先に至るまで全身を包むように降り注ぐ。束ねられし光の繊維は、やがてライダモデルを基とした装甲に変わっていった。
『A jump to the sky turns to will of eternity.』
果たして現れたのは、緑青の鎧に身を包んだ戦士であった。大小の鋼板を爪先まで敷き詰めた姿は、スマートさと堅牢さを両立させた独特のフォルムを形作る。首元に装着された六角形の装置は、その両側から翼のように伸びる二つの小型推進機と同様に銀色に塗られており、白銀の光子として余剰エネルギーを放出することで機能のバランスを保っている。揺らめく白銀の軌跡は、どことなく首元に巻かれたマフラーを彷彿とさせる。
仮面はゼロワンのものに酷似しているが、側頭部から一対のアンテナが前方へと伸び、額の上から伸びる一本と合わせて三本角の様相を呈している。淡いピンク色の複眼が光り、戦士は静かに拳を構えた。僅かに開いた左掌は、中心部から回路図めいた線が広がっている。
これはアインが、人類滅亡後に完成させたライダーシステムである。人工知能アークが敷いた治世の裏で生き延びた彼女が、世界中にデータとして散らばった
それはゼロワンの系譜たる新たな
「仮面ライダーアイン、それが僕の名だ。
次なる希望に向かって飛べ——その祈りは仮面ライダーのカタチとなって結実した。
ヒューマギアの自由と平和を守るために戦う、優しくも強き疾風の騎士。
空への跳躍は、やがて不滅の意志へと変わる。
仮面ライダーアイン、それが彼女の名であった。
『第二試合を開始します。五秒前、四、三、二、一——』
ナビゲーターが試合の開始を告げると、アインを囲っていた円形のマーカーが消失する。カウントダウンが終わり、二人が同時に駆け出した。
◆◆◆◆◆◆
先手を取ったのは仮面ライダーゼロワン・メタルクラスタホッパー。対するアインに迫りながら光波の斬撃を送って牽制する。
ゼロワンが持つ大剣の名は、プログライズホッパーブレード。本形態の主武装であり、全身装甲の主材である特殊金属・飛電メタルの制御能力を持つ。剣としてもその威力は高く、斬撃の鋭さはオーソライズバスターをも上回る。
アインは飛来する一撃を飛び越えて回避すると、その場で静止して次なる斬撃を受け止める。小爆発が発生するが、アインの身は全くの無傷である。白銀の光が風と共に彼女を包み、威力を散らす障壁となっていた。
「行くよ!」
バリアが霧散し、色付きの風となってアインが駆ける。その速度は音の如く、ゼロワンの反応を凌駕する。辛うじて突き出された大剣を跳躍で避け、背後に回って背中を蹴りつける。
金属質な衝撃がアインを伝う。ゼロワンの背部、閉ざされた翼の如き装甲が独りでに動き、銀色の壁となってアインの蹴りを防いでいた。
金属塊が流体と化し、伸ばした右足を伝ってアインの身体を這い回る。背中と下半身の装甲を費やし、ゼロワンはアインの動きを止めることに成功した。恐るべき速度で変異を繰り返す特殊金属は、アインの装甲の隙間に入り込んで身動きを封じている。
「或人社長でもこんな使い方はしなかった……なるほど、AI制御だから『できることは何でもやる』ってわけか」
硬化した飛電メタルにより、関節を曲げることも叶わない。下半身のアンダースーツを露出させたゼロワンが、無慈悲にもプログライズホッパーブレードを構えた。ゼロワンドライバーの認証装置をカバーする銀色のパーツに、剣の腹を近づける。
『ファイナルライズ!』
アインをその場に留めていた金属が、元の位置へと戻る。ゼロワンドライバーの生み出すエネルギーにて威力を高めた斬撃の反動に耐えるためであった。
『ファイナルストラッシュ!』
青く透き通る刃を、剣の内部から精製された金属が覆う。身体の自由を取り戻したアインは上段からの振り下ろしを防ぐが、続いて放たれた斬り上げの直撃を喰らって大きく吹き飛んだ。
アインはヒューマギアである故に痛覚を持たない。そして、傷を負ったことで足を止めるほど、
吹き飛ばされてゼロワンとの距離を伸ばしたことで、彼女は戦闘中にもかかわらず冷静な思考を取り戻していた。
「さて……あの剣が相手じゃ素手は少々分が悪い」
飛電メタルの制御のみで、あらゆる距離に対応してみせる。第一試合にて無銘が相手をしたシャイニングアサルトホッパーほどの機動力は持たないにしても、攻撃と防御の面では極めて厄介な相手である。
加えて、アインは知っている。この状態ですらまだゼロワンの全力ではない。ゼロワンが本領を発揮すれば、プログライズホッパーブレードに加えて可変兵装・アタッシュカリバーを用いる多彩な剣技にてアインを追い詰めてくるだろう。攻めの手数は飛電メタルのあるがまま、使い方次第でどこまでも応用が効く。
対してアインは素手である。ライダーシステムに
とはいえ。
本領を引き出すことさえできれば良い。そういった考えも、アインの脳内にはあった。相手が本気を出すということは、それだけ余裕を削いだということでもあるが故に。
アインが立ち上がり、僅かに上半身を前に出す。首元の推進機が白銀のマフラーを形成し、複眼が一際強く発光した。遠目にアインの挙動を察知してか、ゼロワンも両足を踏み締める。
次の刹那、二者のいた場所が同時に爆発した。次いで一瞬の後には鋼と鋼の打ち合う音が鳴り響き、火花が散る。ヒューマギアの動体視力でも認識できないほどの速度でアインとゼロワンが同時に距離を詰め、激烈な接近戦が開始されたのである。
プログライズホッパーブレードの重く鋭い斬撃を、アインは自らの装甲で受け止めていた。時に横から剣の腹を殴って攻撃をいなしながら、彼女は一歩も退かない攻勢を展開している。突き出された大剣を手刀で叩き落とし、銀の光を纏う拳がゼロワンの顔面に突き刺さる。ゼロワンの顔が針山と化してアインの拳を傷つけるが、構うことなくもう一方の手で掌底を叩き込んだ。
アインの両手に緑色の光が流れ込む。それは0と1を象った無数の光子であり、ライダーシステム・アインが持つ機能による現象であった。
「半分ってところかな、けど掴んだよ!」
胸部から鋼の礫を飛ばし、ゼロワンが強引にアインを引き剥がす。プログライズホッパーブレードのグリップに備わった引き金を五回連続で引くと、刃が飛電メタルの銀色に染まる。
『フィニッシュライズ! プログライジングストラッシュ!』
横薙ぎに合わせて三日月状の刃が飛んだ。アインは両掌で斬撃を受け止め、十字を象るように放たれた追撃すらも耐える。
「これで……どうかなっ!?」
緑青の鎧が光を帯びた次の瞬間、流体と化した飛電メタルの塊が
何が起こったのか? その答えはアインの掌と足の裏に存在する。ライダーシステム・アインの真骨頂とは、四肢を介して
アインは自らの掌を介して、ゼロワン・メタルクラスタホッパーの能力を解析。そこから「飛電メタルの制御能力」を擬似的に再現し、攻撃を跳ね返してみせたのだ。武装を持たないのは、この強力な特殊機構を活かすためでもあった。
「飛ぶぞ!」
風を纏ってアインが跳躍した。地上七メートルの高度からの飛び蹴りを、ゼロワンの胸板に直撃させる。銀の鎧を蹴って再び空中へと舞い上がり、重力を無視したかのように緩やかな後方宙返りを披露する。体勢を整えるや否や、瞬間移動じみた速度でゼロワンの背後に回り込み、強烈なドロップキックを繰り出した。ゼロワンは肩部装甲をバッタの群れへと変えて反撃するが、殺到する群れを掻い潜ってアインが迫る。
背後より銀の矢弾が襲い来るが、それよりもアインの攻撃が速い。低姿勢から腹部に強烈な左フックを決め、右のアッパーでゼロワンを空中へと吹き飛ばした。背中に寄り集まった鋼鉄は虚空に浮かぶ壁となり、それを蹴ってゼロワンが斬撃を繰り出す。
爆発じみた加速であった。尋常な手段では避けようも防ぎようもない。アインはゆっくりと左手を前に出して右手を引き、腰を落として構えた。左掌から、青い稲妻が迸る。
「ラーニング、完了!」
アインの複眼に浮かび上がる、0と1の不規則な羅列。同時に青い光の障壁が左掌から生じ、ゼロワンの斬撃を受けて砕け散った。刃はアインの身を斬り裂くには至らず、次の瞬間には至近距離からの右拳がゼロワンの脇腹に沈み込んだ。伝わる衝撃に、銀の鎧が上半身を折り曲げる。
「トドメェッ!」
アインは上半身を九十度近く捻り、開いた右手から渾身の掌底を繰り出した。ゼロワンが姿勢を整えた瞬間、胸郭を割り砕かんばかりの衝撃が襲いかかる。大きく吹き飛んだゼロワンを見送りつつ、アインは再び拳を構えた。
「……勢い余ってトドメとか言っちゃったけど……そんなワケないよねぇ……」
アインが仮面の下でため息をつく。ゼロワンの防御力は尋常ではなく、並の攻撃を通さない。攻防一体の鎧に格闘戦を仕掛けねばならない以上、攻撃面におけるアインの不利は無視しがたい。
遠くでゼロワンが起き上がった。プログライズホッパーブレードを杖にしつつも、次の刹那には損傷など無かったように平然と立ってみせる。しかし、今度のゼロワンはそれまでとは様子が異なっていた。
「あれは……アタッシュカリバーか」
ゼロワンの左手に出現したもう一振りの剣を、アインが確認する。仮面ライダーゼロワンの装備としては最初期に実装された、鞄型兵装・可変剣アタッシュカリバー。これより後期に作られたプログライズホッパーブレードは、アタッシュカリバーとの合体機構を持ち、そこから更に強力な剣技を繰り出すことも可能である。
いよいよ本気を出してきたということか。アインは気を引き締め直し、二刀流で突撃してくるゼロワンを迎え撃つ。
第二ラウンドの開幕であった。
つづく。