IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK 作:TAC/108
朝から降り続いた雨は、いよいよその勢いを増して嵐となろうとしている。空に近い飛電本社の屋上に、燻るような雷鳴が響く。
透き通る青い結晶で構成された地面には、百本近い剣——可変剣アタッシュカリバーが突き立っている。この剣を召喚した戦士、仮面ライダーゼロツーは、両手にアタッシュカリバーを持って沈黙を保っていた。
ヒューマギアの叡智をも超える技術の眠る飛電インテリジェンス、そのテクノロジーを使うにあたっての認証プログラムとして実施された『プレジデント・スペシャル』の第三試合にして最終戦は、異様なまでの厳かさを伴って開始された。
挑戦者の名は不破諌/仮面ライダーバルカン。アタッシュカリバーの一振りを引き抜き、背中に回すようにして構える。飛電最強の防衛システムたるゼロツーは、銅像の如き直立不動を保っている。その中においても真紅の複眼だけは、煌々としてバルカンに視線を注いでいた。
バルカンもまた、ゼロツーを注視しながら少しずつ距離を詰めていく。身動ぎ一つしないながらも、付け入る隙を微塵も感じさせない様は、場の緊張を糸の張り詰めるが如くに高めていく。
彼我の間合いが二十メートルほどになった時、ゼロツーの複眼が睨みつけるように光った。
次の瞬間。バルカンが鳩尾に衝撃を感じるや否や、ワイヤーアクションめいて大きくその身を吹き飛ばされる。
バルカンはアタッシュカリバーを地面に突き刺して体勢を立て直すが、何が起きたのかは全く理解できていない。ゼロツーは数秒前まで己が立っていた位置にいるが、両手には何も持ってはいなかった。
……アタッシュカリバーは何処に消えた? そう思うのも束の間、バルカンは野生的な直感とライダーシステムの機械的聴力で、空より降ってくる剣を弾いた。次いで死角から左回転で飛来するもう一振りを叩き落としつつ、地面に落ちる寸前でその柄を握る。視線を前方に向けた時、既にゼロツーは姿を消していた。
行動の起こりすら見えない。神出鬼没とも言える謎めいた攻撃に戸惑い、打ち込まれた打撃の痛みが我知らず和らぐ。緊張に由来する興奮に、諌は全身の筋肉が引き締まる感覚を抱いた。
背中に気配。空気の揺らぎを感知したバルカンが回転斬りで周囲を薙ぎ払うが、手応えは無い。ゼロツーは林立するアタッシュカリバーの一本の上に爪先立ちし、緩やかな宙返りでバルカンとの距離を縮めてくる、かに思われた。
バルカンの腹に強烈なパンチが入った。鈍く重い打撃に上体を折り曲げたバルカンの身体が後方へと吹き飛ぶ間に、背中に回し蹴りが叩き込まれる。バルカンが起き上がり様にアタッシュカリバー二刀流で反撃するも、ゼロツーは難なく刀身を手で受け止め、そのまま凄まじい握力で折り砕いてしまった。
「ンだとォ……!」
カリバーをかなぐり捨て、バルカンが左拳を大きく引き絞る。無防備な胸板に拳の先が触れようとするが、横合いからの掌打で受け流された。跳ね返るようなタックルを仕掛ければ、背後に回られて蹴倒された。
手中にて弄ばれるような戦いである。ゼロツーにとって今のバルカンは、全力を投じるに値しない弱敵なのだ。積み上がる怒りに歯を食い縛りながら、バルカンが回転弾倉を備えたプログライズキーを取り出した。
『ランペイジバレット! オールライズ!』
悠然と歩み寄るゼロツーに照準を合わせ、ショットライザーの引き金を引く。
『フル・ショットライズ! ランペイジガトリング!』
一斉に飛び出した十発の弾丸を追うようにバルカンが疾走する。破裂した弾丸から新たな装甲を次々と纏いながら、左拳をゼロツーへと突き出した。強化変身に伴う衝撃がパンチの威力を上げ、胸板で受け止めたゼロツーの身が僅かに揺らぐ。
十種類のプログライズキーの力を宿すバルカンの最強形態、仮面ライダーランペイジバルカンへの変身が完了した。
「ハァァァッ!」
ショットライザーを右手に持ったまま、バルカンがゼロツーに格闘戦を仕掛ける。格段に上昇した拳速から繰り出されるパンチを、ゼロツーは虫を払うように受け流す。膝蹴りを高速移動で回避され、背後に回ったゼロツーへと銃弾を放つも、掴み取られた弾丸を驚異的な速度で投げ返され、逆にダメージを受ける。怯んだ隙に胴へと連続パンチを喰らい、トドメの一撃でバルカンは地面に倒された。並び立つアタッシュカリバーを次々と倒しながら、ランペイジバルカンが水浸しの床を転がる。
尋常ではない反応速度と、追従すら困難な機動力。仮面ライダーゼロワンの後継システムとして誕生した故に、この仮面ライダーはゼロワンが持っていた基礎的な強さを極限まで高めている。
恐るべき強さの秘密はその演算能力にある。人工知能アークの化身たるライダーシステム、仮面ライダーアークゼロを倒すために作られたゼロツーは、プログライズキーに人工知能ゼアのバックアップを組み込んでいる。その予測はアークのそれを上回り、まさしく人智を超えた領域にある。
端的にその能力を言い表すならば、規格外。人間はおろかヒューマギアにすら及びもつかない存在が、バルカンの前に立ちはだかっている。
『パワー・ランペイジ! ランペイジパワーブラスト!』
弾倉を回転させてトリガーを引くと、バルカンの左フックが重機並みの力によって放たれる。鈍色に光る腕を真っ向から受け止めるゼロツー。赤い腕は傷一つなく、もう一方の裏拳でバルカンを容赦なく殴り倒す。倒れながらその腕を掴んだバルカンが、ショットライザーで右足を叩いた。
『スピード・ランペイジ! ランペイジスピードブラスト!』
左半身の動きが高速化し、ゼロツーの腕を掴んだ状態から連続キックを繰り出す。背中から光の翼を広げて諸共に飛び上がろうとするが、何処からかアタッシュカリバーが飛来し、二人の距離が開く。ゼロツーの背後には六本の剣が浮上していた。掲げた右手にプログライズホッパーブレードを出現させ、号令に用いる軍配の如く振り下ろす。
「だったら!」
バルカンが両手でカリバーを一本ずつ引き抜き、ゼロツーの号令で飛翔するカリバーに向かって投げつける。相手に向かって突進しながら周囲に突き立った剣を蹴飛ばし、投擲し、次々に粉砕していく。アタッシュカリバーの残骸が降り注ぐ破滅的な嵐を演出しながら、両者のギアは徐々に上昇していった。
再び接触距離、拳と剣が鍔迫り合う。ゼロツーの宿す膨大なエネルギーを受けたプログライズホッパーブレードが、赤い稲妻を散らしながらバルカンの拳と壮絶な剣戟を開始した。鋭い刃を真っ向から殴りつけ、動きが止まった隙に回し蹴りを差し込む。蹴り足を脇で固めたゼロツーが、バルカンの胸元を一閃した。強烈な斬撃に続けて前蹴りを喰らうが、なおもバルカンは食い下がる。
『エレメント・ランペイジ! ランペイジエレメントブラスト!』
アタッシュカリバーの一つを足場にして跳躍し、ショットライザーから絶大な熱量の炎を放つ。雨をも蒸発させる炎は一瞬にして地表を覆い尽くすほどに燃え広がり、ゼロツーの全身すらも包み込む。着地と同時に左腕を地面に叩きつければ、炎までも凍らせる極寒の冷気が拡散し、剣を構えた状態でゼロツーが凍りつく。
左の前腕から紫色の液体が滴り落ち、バルカンが凍結したゼロツーへと殴りかかった。拳が激突する直前に氷が砕け散り、ゼロツーの剣とバルカンの毒手が激突した。毒液迸る左腕がプログライズホッパーブレードを一瞬で溶解させ、ゼロツーの顔面をも殴り抜けた。
手応えはある。しかし、諌の動体視力は毒拳を喰らったゼロツーの目が妖しく光ったのを捉えていた。それが何らかの兆候であることも、直感で理解していた。
あらゆる方位から、アタッシュカリバーが矢の如く奇襲をかける。拳を突き出した姿勢のまま、ランペイジバルカンの全身が針山めいてその場に縫い止められた。見れば、周囲に立っていたはずの剣は一つ残らず結晶の床を離れており、それらが全てバルカンの撃破に投じられたことを示している。
しかしながら、バルカンの身に深く突き刺さった刃は僅かながら振動している。それがゼロツーの操作によるものではないことは、拳を構えたゼロツーの反応が示していた。やがて炎や氷が全身から噴き出すと、その勢いでカリバーが悉く吹き飛びながら消滅した。
「ハァーッ! ……随分やってくれるじゃあねえか」
ライダーシステムの損傷は自己修復機能にある程度任せているが、諌の方は全くの無傷ではない。全身を生きながらに刻まれる負傷の重さは、駆け抜ける激痛が物語っている。
だが、
『ランペイジバレット!』
ショットライザーをベルトに固定し、ランペイジガトリングプログライズキーの起動スイッチを押した。
『ランペイジガトリングブラスト! フィーバー!』
トリガーを引く。バルカンの両腕が青白く光り始めた。
武器を失ったゼロツーが、静かに歩み寄る。痛む身に鞭打って駆け出すバルカンが右ストレートを繰り出すと、ゼロツーがそこにフックを合わせた。右、左、右、左、右、左、右左右左右左右左右左——至近距離にて無骨極まる拳の打ち合いが幕開ける。受けに回ったのはゼロツーだが、あらゆる角度から最速で打ち込まれるバルカンのパンチを全て撃墜している。人工知能ゼアの高次予測演算が、バルカンに対する評決をミリ秒単位で修正し、発揮されるステータスを読み解いていく。
これに対する諌の対策は、見る者が見れば馬鹿馬鹿しいと笑うような、恐ろしく単純なものであった。ただ一点、最速最強のパンチのみをひたすら出し続けるのみ。ジャンケンで言えば百回の勝負で百回同じ手を使うような戦法である。
音速を超える鉄拳の連打は、一発ごとにそのスピードを増す。雨垂れが時を重ねて石を穿つように、いかに完璧な防御であろうとも破れないということはない。百発のパンチで砕けぬ防御なら、
終局を告げるが如く、黒き曇天が白く染まった。雷の轟音を鳴り物に、永遠に続くと思われた拳撃が決着する。
千と一の打撃を経て、均衡が崩れ去る。マッハの速度に到達した緋色の左腕腕が、バルカンの鳩尾を打ち抜いていた。代わって動いた右腕が雷火を灯し、飛び上がりながら敵手の顎を殴り抜ける。着地しつつ残心するゼロツーと、四肢を大の字に広げて倒れるバルカン。しかし、勝負はまだ終わってはいない。
地面を殴った勢いで飛び起き、バルカンが拳を振り抜く。ゼロツーの掌が右手を、次いで左手を叩き落とし、強烈な横蹴りを顔面に浴びせた。その威力に押されながらも踏み止まったバルカンが、ショットライザーを構えた。
『パワー・スピード・エレメント! オール・ランペイジ!』
回転弾倉を弾いて回せば、銃口に極彩の光が宿る。バルカンが持つ最大最強の攻撃手段、ランペイジオールブラスト。その身に収めた十種類のライダモデルの力を全解放し、一つの弾丸に収束して放つ必殺の魔弾。
諌はゼロツーの実力の底を知らず、故にこの一撃がゼロツーに届く保証は無い。彼が知っているのは、ゼロツーこそアークを倒しうる唯一の可能性であるということのみである。しかしながら、そんなゼロツーに明確な一撃を届かせるとすれば、これを除いては他に無いとも思っていた。
対するゼロツーも応えるように、プログライズキーを押し込んだ。
『ゼロツービッグバン!』
右足を引いてゼロツーが駆け出し、バルカンの右側へと瞬時に移動する。迎え撃つ肘打ちを空中への跳躍で回避すると、バルカンの身体が大きく吹き飛んだ。回し蹴りを受けて転がる視界には、もう一人のゼロツーが見えている。
それはいわば高次予測の成し得る魔技。ゼアの演算を以てすれば、複数の可能性を
正面からアッパー、飛ばされた先の空中で後ろ回し蹴り、地上に叩き落とされてからの掬い上げるような蹴り上げから、異様な推進力で空を突き抜ける渾身のストレート。全てが必殺の威力で放たれる。首元の赤いマフラーめいた姿勢制御装置は、たなびく布のように真紅のエネルギー光を推進力として放出していた。地上に落下したバルカンの正面で、ゼロツーが飛び蹴りの姿勢となった。
『ランペイジオールブラスト!』
満身創痍のランペイジバルカンが、出力全開のゼロツーへと銃口を向けた。姿勢制御用アンカーも無しに、片手で構えて弾丸を撃ち出す。破滅的な反動が右腕を襲い、凄まじい勢いで跳ね返る。
虹色の魔弾がゼロツーの蹴りと激突し、極彩色の破壊光を生んだ。火花が散り、空中に盛大な爆発の華が咲き乱れる。バルカンはその先に、爆煙を突き抜ける人型の影を見た。
最強の一撃を受けてなお、ゼロツーの勢いが落ちることはなかった。隕石の落下すら上回る絶大な力がバルカンの胸板に叩き込まれ、その身が蹴り飛ばされる。身動きもできずに地面へと激突したバルカンが、断末魔めいた叫び声を上げて大爆発を起こした。
静かに着地するゼロツー。機械的な直立姿勢でナビゲーターの判断を待っている。雨が爆煙を浚い、変身解除された不破諌の姿を晒す。
姿なきナビゲーターは、中継ドローンの映像から試合の結末を見届ける。仮面ライダーバルカンの敗北は明白であった。彼女には公正な審判として、結果を告げる義務がある。
『プレジデント・スペシャル第三試合は、挑戦者側の敗北となり——』
「誰が……敗北しただとォ!!!」
ナビゲーターの言葉を遮り、荒々しく声を上げる者がいる。控えに回ったアインや無銘ではない。まして新たなる乱入者などでもない。飛電の防衛システムたるゼロツーは、語る言葉など持たない。
右手にショットライザーを持ち、傷だらけの身体で立ち上がろうとする、不破諌の姿がそこにはあった。
「あれだけボロボロにやられてまだ立ち上がるッてのか? 恐ろしい執念だな……」
「負けられない理由があれば、どんな形であろうと人は立ち上がれるものだよ。不破さんはああいうやり方だったってだけさ」
観客席のアインと無銘が、それぞれに異なる感想を口にした。
諌は左足を踏み出し、次に右足を立たせた。総身から滴る血を大雨が洗い流し、炯々と光る視線がゼロツーに突き刺さる。
「こんな程度はな……大した傷じゃねえ。ゼロツーとか言ったな、確かにお前は強い。だがな……飛電の社長の拳はなァ、お前よりもずっと重いぜ!」
狼が吼える。稲妻轟く闘技場で、戦士と対する孤狼が咆哮する。
『既に決着はついています。これ以上の戦闘続行は推奨しません』
「ヒューマギアが憎くて仕方がなかった俺に、 アイツは夢を教えた!自分のルールで倒すべき敵をブッ潰す……その先にある俺の夢を! 憎しみを捨てる勇気を知った! 俺の人生は変わったァッ!」
審判の言葉も聞かず、諌は喉も潰れんばかりに叫び続ける。そうしなければ今にも倒れるやもしれぬ。一秒でも長く言葉を繋ぎ、気力のみで立つ。
『ランペイジバレット!』
ショットライザーをベルトに固定し、プログライズキーを両手で持つ。筋肉が引きちぎれるような力で、大型キーの展開機構を強引にこじ開けようとしていた。力を入れるほどに、傷口から赤い血が流れ出る。
「俺は俺の夢を貫く……飛電の社長が教え、俺の仲間が作った……仮面ライダーという夢を!! だからなァァァ……!」
『それ以上は命に関わります。おやめください』
ナビゲーターの声が上擦った。無機質で端的な警告は、しかしながら諌の耳には全く届かない。外部から激しい力を受けたプログライズキーが、異様な音を立て始める。
「その夢を証明し続けるためにも! お前にだけは負けられねえッ!! これが俺の夢……仮面ライダーバルカンだァァーーッ!!!」
ロックが外れ、プログライズキーが完全に展開される。ショットライザーに装填し、諌がゼロツーに狙いをつけた。
『オールライズ! Kamen Rider. Kamen Rider……』
「変身ッ!!」
『フル・ショットライズ!』
引き金が引かれ、光る弾丸が一斉に放たれる。
『Gathering Round! ランペイジガトリング!』
撃ち放たれるは十発の銃弾。生物種のデータイメージ・ライダモデルの力を宿したそれらが、拡散した後に諌へと殺到する。
諌は左手のストレートで一発を殴り壊し、続く一発を裏拳で叩き、残る全てを後ろ回し蹴りで一掃した。一瞬にして総身を強化スーツが包み込み、諌の身体が最強の姿へと変身する。
仮面ライダーランペイジバルカンが、再びその姿を現した。
「見ていろ、飛電或人……俺の想いを全て注ぎ込んで、お前が作り上げたテクノロジーを超えてやる! さあ来い、第二ラウンドだッ!」
『——承知しました。試合を続行いたします』
ゴングの如き雷鳴が響き渡り、挑戦者の姿を明るく照らし出した。
使用者に超人的な力をもたらすライダーシステムといえど、負傷を完全にカバーできるわけではない。諌の身体は今も激痛に苛まれており、気を張っていなければ倒れ伏す寸前の状態にあった。
しかし……ランペイジバルカンの全身は、まるで身に宿る力の全てを燃やし尽くすように、激しく輝きを放っていた。その輝きが左腕に収束し、絶大なエネルギーとなって全身へと流れ込む。虹色のオーラを纏うバルカンの姿は、以前とは比べ物にならないほどの強大さを湛えている。
「予想以上に強そうだな。コレがアンタの言う人間の可能性ってヤツか」
無銘が前屈みになってバルカンを見据える。興味深そうに目を見開き、僅かに笑みを浮かべていた。
「想いはテクノロジーを超える。僕のライダーシステムはヒューマギアの心と通じ合うためのものだけど、同時に僕自身の想いを力に変えるものでもあるんだ。想いの力を極限まで高めれば、テクノロジーの産物であるライダーシステムはそれに応えるように強くなる……」
アインが諌に期待していた可能性の正体こそ、彼女の眼前でバルカンが成し遂げた奇跡のような現象であった。
人工知能アークが生み出した悪魔の如き仮面ライダー、アークゼロ。その強さはアークの演算だけでなく、アークに蓄積された膨大な「悪意」の力にも支えられていた。飛電最強の防衛システムとして再現された仮面ライダーゼロツーもまた、システム適合者の記憶や思考を、ライダモデルに反応させて人体と人工知能の親和性を高める機構を有している。
悪意もまた「想いの力」であり、ライダーシステムがそれによって強くなるのなら——想いの力こそ、テクノロジーと人間を、あるいはテクノロジーとヒューマギアを繋げるモノなのではないか? アインはそのように考えていた。
果たして、その疑問の解答の一つはこの場に現れた。深いダメージを負っていながらも、現在のバルカンは確実に、
ゼロツーに見えているのは、眼前のバルカンただ一人。本来彼の視界と思考に浮かび上がるはずの無数の予測パターンは、この場においては一切表示されていない。
至高の人工知能にすら予測できない領域があるというのか? 否、
人類は絶滅して久しく、オリジナルたる人工知能ゼアはネットワークの海に消えた。人の心を記録としてしか知らぬ機械が、その重さを
「受け取れェー!」
青い炎を纏う拳が、ゼロツーの頬を砕く勢いで殴り抜ける。自壊寸前まで凝縮されたエネルギーが、左腕を覆う光となってアッパーと共に放出される。
左腕を天高く突き上げたバルカンの身体から、元来内包していた以上の力が解き放たれる。虹色の光が空を貫き、天幕の如き黒雲に色彩を添えていく。やがて空全体へと広がった極光は、果てなき彼方に至るまで乱れる雲を吹き飛ばした。
数秒前まで吹き荒れていた嵐は、跡形もなく消散した。雲一つなく晴れ渡る中天の青空が、ヒューマギアの住む世界を明るく照らしている。
バルカンとゼロツーの真上には、白く太陽が輝いている。その光に照らされて、周囲の水溜まりが二人の雄姿を映し出していた。
「行くぞ!」
二人が同時に駆け出し、互いの拳をぶつけ合う。ゼロツーの予測を遥かに上回る威力の一撃がバルカンから繰り出され、動揺したかのように後退った。
ゼロツーの槍めいた横蹴りが音速を超えて放たれる。その速度に追いつけずに喰らいながらも、バルカンは右脇に蹴り足を抱え込んだ。
「どおりゃあッ!」
その場で一回転してゼロツーを投げ飛ばすと、素早くショットライザーを抜き放ってゼロツーを撃った。空中で身を翻すことで二発までは回避したが、着地の隙に一発を差し込まれる。
赤と黄の稲妻を纏ってゼロツーが動く。雷の速度でバルカンと距離を詰め、その胸板を蹴り飛ばす。大きく飛ばされながらも、バルカンが弾丸を返した。強固な装甲に阻まれてダメージを与えるには至らないが、ゼロツーの反応は以前に比べて明らかに遅れている。
『スピード・ランペイジ! ランペイジスピードブラスト!』
背中の左側からマゼンタカラーの翼を広げ、バルカンが飛翔する。スズメバチの毒針めいて鋭いキックが、チーターの疾走を思わせる速度でゼロツーに殺到する。ゼロツーはその全てを回避し、トドメに繰り出した左足を掴んでバルカンを地面へと叩きつけた。
『パワー・ランペイジ! ランペイジパワーブラスト!』
ゼロツーの腕が地面へと引っ張られ、バルカンが拘束から脱する。力を司る三種のライダモデルのパワーを解放し、歩くだけで地面に亀裂が走るほどの重量を獲得したのだ。回転する刃を備える重機じみた光の足が出現し、回し蹴りでゼロツーを吹き飛ばす。
『エレメント・ランペイジ! ランペイジエレメントブラスト!』
両掌を合わせ、バルカンが炎と氷を一体とした光球を作り出す。手中にて暴れ狂う両極のエネルギーが解き放たれ、起き上がったゼロツーの拳と激突した。相反する二つの力は絶大な破壊を生み出すものだが、ゼロツーは左腕を僅かに傷つけるのみで済んでいた。
『ランペイジバレット! ランペイジガトリングブラスト!』
バルカンの攻勢は未だ止まる気配を見せない。前方を薙ぎ払うように無数の弾丸を発射し、着弾地点から青い爆炎が噴き上がる。前転で回避したゼロツーがその勢いで殴りかかるが、バルカンはその拳を空いた左手で受け止める。至近にて銃口が光り、機関銃めいてゼロツーの装甲へと青白い光弾が連射された。
無敵を誇るゼロツーの防御を、バルカンは力押しにて貫いていく。数値や計測の埒外にある想念の力が、至高のライダーシステムを撃ち抜かんとしていた。
常軌を逸する戦闘能力の向上と、四度にわたる必殺の攻撃。それらを受けながらも、ゼロツーは未だ致命傷を負っていない。最強を志向して作られた故に、その基礎性能は他のライダーシステムとは隔絶している。
そして、ゼロツーシステムを制御する名も無きAIは、ランペイジバルカンの攻撃を喰らうことで、その力の源……想いの力を理解しようとしていた。
『ゼロツービッグバン!』
故に、決着を誘う。出力を最大解放し、相手の全霊を待ち受ける。目に映る未来の予測など存在せずとも、双眸に現実の敵ただ一人が見えれば良い。右足の先に力を集中させ、ゼロツーが大跳躍を披露した。
一瞬にして遥かな上空へと跳んだゼロツーが、遠目からにもハッキリと見えるほどの眩い真紅の流星としてバルカンへと迫ってくる。
「真っ向勝負か、らしくなってきたじゃねえか!」
『パワー・スピード・エレメント! オール・ランペイジ! ランペイジオールブラスト!』
シリンダーを回し、ショットライザーを標的に向けた。背中の片翼を地に突き刺し、アンカーとして姿勢を安定させる。虹色の弾丸が解き放たれ、必殺と必殺が上空で激突する。
無論、先に繰り出したものと同じ手である。一度目が通用しなかった以上二度目などあるまい。故に、次弾の装填は決して怠らなかった。
『パワー・スピード・エレメント! オール・ランペイジ!』
よもや第二射か? 否。バルカンはショットライザーをベルトに固定し、直前まで迫ったゼロツーの前でその引き金を引いてみせた。
『ランペイジオールブラスト! フィーバー!』
衝突点に光の華が狂い咲き、赤と極彩が天地表裏を成す。数瞬の拮抗を経て爆炎が弾けた。天へと突き出した拳を引くバルカンと、撃墜されて仰向けに落下するゼロツーが煙の向こうに見える。
バルカンが翼を広げて跳躍し、力を右足へと集中させた。青白く輝いた右の足先に、先の激突で周囲に散らばった十色の光が渦の如く収束する。起き上がったゼロツーが、矢のように足を突き出すバルカンを見上げる。
ラ
ン
ペ
イ
ジ
オ
l
ル
ブラストフィーバー
太陽よりも眩い閃光が、ゼロツーの視界に焼き付く。
想い一つを貫き通し、あらゆる敵を踏破する勇姿がそこにはあった。
予測不能の結論を受け入れるように、かつて在りし英雄の似姿は両手を広げる。
終幕の一撃が、過たずその胸を貫いた。
先に崩れ落ちたのは、バルカンであった。ライダーシステムも諌の身も限界を迎えており、辛うじて膝立ちになって倒れるのを防いでいる。何をせずとも変身は解除され、諌は傷だらけの身体を白日の下に晒した。もはや立ち上がるだけの力も残ってはいない。
その背後より、無言の影が差す。振り向けば、胸に風穴を開けた仮面ライダーゼロツーが立っている。致命傷のようで、ゼロツーの四肢は赤い光の粒子へと分解されつつあった。
ゼロツーが手を差し出す。諌は何とはなしにその意図を理解した。開かれた右掌には、ゼロツーの核となるプログライズキーがある。
力を振り絞り、諌が手を握る。ゼロツーは彼の身体を引っ張り上げて立たせた。手を離すと、キーは諌の掌中に握られていた。その感触を確かめるように固く握りしめ、諌はゼロツーへと振り向いた。
人類のいない世界でひっそりと飛電の残影を守る、最強の戦士。激励のように力強い視線を送り、右手の親指を立てる。諌が不敵に笑みを返すと、満足したように頷いて、赤い光は風に吹かれるように消えていった。
『プレジデント・スペシャル、第三試合……挑戦者の勝利。これにより、認証プログラムの全工程を完了。お疲れ様でした』
つづく。