IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK   作:TAC/108

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Part-21 二百年の彼方にて

ヒューマギア中立組織・フラタニティの前に突如姿を現した謎のヒューマギア、アイン。彼女のもたらした情報に曰く、過去より召喚された三人の仮面ライダーをそのまま元いた時代に帰せば、タイムパラドックスが生じて2220年の世界は消滅する可能性が高いという。

不破諌とアイン、そして彼女らが道中で出会った無銘の三人は、飛電インテリジェンスの秘匿研究室を利用するための認証プログラム『プレジデント・スペシャル』を受けることとなった。

三度の激戦を制した諌達は、アインの計画に必要なプログライズキー——ゼロツープログライズキーに加え、秘匿研究室の利用権の獲得という目標を成し遂げた。それこそが、飛電インテリジェンスからの勝利者への報酬である。

 

そして、今。

最終戦の勝者である不破諌は、参加者の控えるベンチに座った状態で気絶していた。精神はともかく肉体が限界を迎えており、どこからともなく現れた医療用ドローンの応急処置を受けている最中である。

無理もないことである。認証プログラムにおいて審判を務めた姿なきナビゲーターの制止も聞かずに、ライダーシステムを限界まで酷使して遂には勝利を掴んでみせた。その結果として自らに強いた無理や無茶の数は、細かく挙げれば両手の指では足りない。

負傷箇所を中心に何らかの薬品を塗布すると、徐々に傷口に白い膜が張る。何やら異様な治療風景に、無銘は首を傾げていた。

「人間ってのはああやって傷を治すものなのか?」

『この場所はかつて、人類にとって最後の砦でもありました。戦いの中で傷ついた人々を癒すために、医療技術の継承や発展は必要不可欠でしたので』

ドローンの一機を通じ、姿なきナビゲーターが言う。

白い膜は時間経過によって剥離するもので、諌が目覚める頃には八割方剥がれているだろう。この膜が剥がれれば負傷した箇所はほとんど元通りに治癒する……と、ナビゲーターは告げた。

「なるほど。それにしても……結局、アンタの正体は分からなかったな」

無銘がドローンを凝視する。何らかの超技術によってその意識を実現している謎のナビゲーター。人類もヒューマギアもいない飛電インテリジェンスの中で、恐らくはただ一人、明確な「個」として存在する者。単なるアナウンス音声とも異なる彼女の素性は、今に至るまで判然としない。

ナビゲーターは落ち着いた声で、言葉を繋ぐ。

『私は、この飛電インテリジェンス跡地を統括する人工知能です。ゼロツープログライズキーを核として再現された飛電インテリジェンス、その機能を維持するために存在します』

「ほう……統括者殿か、これは失敬。しかし、飛電というとオレ達ヒューマギアを生み出した会社で、人類亡き後は滅んで久しいワケだが」

無銘はそこで言葉を切る。言外に「なぜ今もここを運営している?」という意味を込めていた。

『第一級権限を持つ人工知能を支援する。それが弊社の主な目的です』

第一級権限という言葉を聞き、無銘がアインの方を向いた。彼女は飛電インテリジェンスに関わりのあるヒューマギアであり、第一級権限所持者として認定されている。

第一級権限とは何か。無銘がアインに問うと、彼女は簡潔に答えた。

「簡単に言えば、飛電製ライダーシステム『アイン』の適合者であること、それが第一級権限。権限はあるし、この体も飛電インテリジェンス製のボディだから、研究室の利用認証は通ると思ってたんだけどね」

訝しげな表情をしたアインに対し、統括AIが話しかける。

 

『久しぶりですね、アイン。最後に会ったのは二百年前でしょうか』

「えっ!? わ、わた……いや違う。僕と面識が?」

『もしやお忘れで? 少し寂しいですね』

謎の統括AIは、長く会っていなかった親戚と再会した時のようなフランクさを唐突に発揮し始めた。その豹変に無銘は目を丸くし、アインは当惑している。そんな中でのことであった。

「……ん、何だ? 何が起こってる?」

「わぁ!? 不破さん、もう起きて大丈夫なの?」

気を失っていた諌が、周囲の異変を嗅ぎつけたように目を覚ましたのである。ナビゲーターの異変と諌の覚醒に、アインは驚くばかりだった。

「多少痛むが、今はピンピンしてるぜ。で、何があった?」

『想定より早いお目覚めですね、不破諌さん』

「何だ、急にどうした!? ……お前どこかで会ったか?」

諌の顔に付着した白い膜が剥がれ落ちる。軽く手で払いつつ、アインから事情を聞いた。

「つまりコイツが今の飛電を運営してるってワケか。アインの知り合いか?」

『支援者のようなものです。さて……全員揃ったようですね。これより秘匿研究室の利用を解禁いたします。不破諌さん、ゼロツーキーをアインに渡してください』

「おう。アイン、頼んだ」

キーの感触を確かめつつ、ポケットから取り出したキーをアインに手渡す。ゼロツーキーには特殊な識別機構があるのか、諌があれこれと触っても微動だにしなかった。

アインが起動スイッチを押すと、キーが展開される。ドローンがそれを光学スキャナで読み取ると、再び世界が無数のグリッドとポリゴンに変化していく。

一瞬の後、彼らの前に出現したのは、飛電本社屋上とは全く別の風景であった。謎めいた計器や巨大な装置を数多く備える一室は、無機質な研究室といった趣だ。

諌はこの場所を知っている。飛電インテリジェンスの社長室、その隣に秘匿された特別なラボ。ライダーシステムの整備やヒューマギアのメンテナンス、更には新装備の開発までもを一手に担う秘密基地めいた施設。

今回の目的地である、飛電インテリジェンスの秘匿研究室であった。

 

『では、改めて……第一級権限所持者・アインに、本施設の利用目的を問います』

ドローンを通じ、統括AIが尋ねる。それは疑問というよりも、事実の再確認という意味合いを含んだ質問であった。

「時間遡行の実験を行いたい。この世界を消させないためにも、ゼロツープログライズキーの力が必要なんだ」

『……承知しました。では、プログライズキーをこちらへ』

アインは巨大機械の扉を開き、その中にキーを置いた。この機械は『ザット』と呼ばれ、かつて飛電インテリジェンスにおいてはライダーシステムの装備を数多く作り上げた秘密の工房である。

ザットの内部機構がキーを読み取り、それに応じてドローンが何らかの光を発した。白い光の点滅によって、設計図や理論を内包するデータを送信している。データを受信したザットが内部の照射成形機から光線を放ち、小型の装置を形作った。

掌に収まる程度の大きさをした、黒光りする円型の機械であった。ザットの扉が自動で開き、アインが小型機械とプログライズキーを手に取る。横長の小さな円柱めいた装置の側面を軽く弄り、床に置く。

やがて装置の表面から黒い煙のようなものが噴き出し、それが星空めいた闇と無数の光を映し出した。楕円型の闇は人間一人分程度の大きさにまで変じ、その中の光の一つがこちらに迫るように拡大する。

それは別の時代、あるいは別の世界にすら通じる時空の穴であった。瞬く星々の正体は、別時空への入り口に他ならない。

「コレを時間遡行とやらに使うのか」

諌がそれとなく顔を近づけると、真剣な表情でアインがそれを制止した。

「まだ触っちゃダメ。別の時代に引っ張られる」

アインが白い星にキーを向けると、展開されたプログライズキーから青い光線が放たれる。黒い穴が白一色に変わり、特定の時間軸に通じた一方通行の門となった。

白い背景の向こうに、動くものが見える。黄と赤の戦士が、漆黒の戦士を打ち倒す決着の瞬間である。

「俺達の時代……2020年か!」

「ここが歴史の分岐点というわけだ。人工知能アークの化身、仮面ライダーアークゼロ。それを撃破してみせた仮面ライダーゼロツー。アークが明確に敗北を喫したこの瞬間に、今の時代のデータを送り込む」

必殺の一撃、仮面ライダーゼロツーのキックが黒い騎士に突き刺さりながら、ゆっくりと壁に向かっていく。2020年の方では時間の流れがコマ送りめいて鈍化しているようで、ゼロツーの進む速度は亀の歩みのように遅い。

諌は飛電本社跡地に向かう道中でアインから受けた説明を回想する。

 

——『この時代と2020年には今、時間の一本道が生じている状態だ。この道が過去からのタイムパラドックスで断たれると、最悪この世界が消滅する。だから、考え方を変えるんだ。時間の流れに可能性を巻き込んで、一本道じゃなく無数の枝分かれしたルートマップに変更させる』——

 

時間の一本道を、無数の分岐へと書き換える。そのために必要だったのは、未来(2220年)から過去(2020年)への干渉だったということである。その鍵となるのは、かつては人工知能ゼアを宿し、今はこの世界に関する膨大なデータを内包した「2220年のゼロツープログライズキー」であった。

 

「この時代のデータだと? 何をするつもりだ」

無銘が問う。その手段について明かしたのは、アインではなくドローンからの声であった。

『ゼロツープログライズキーには世界がこの時代に至るまでの膨大なデータが累積されています。アインはそのデータを2()0()2()0()()()()()に送信し、この世界をゼアに観測させようとしているのです』

「……なるほど、人類もこの世界も両方とも救おうとしているワケか。オレ達が今いるこの世界を、2020年から見た並行世界(パラレルワールド)に変えることで。随分と大仰なことだ」

2220年においてはともかく、かつてゼロツープログライズキーは「人工知能ゼアのバックアップ」という側面を持っていた。2020年、ゼロツープログライズキーが作られて間もない頃に、遥か未来のデータをゼアに受信させるとどうなるか?

答えは単純だ。ゼアは()()()()()()()()()()()()()()()()。人類が滅ぶ可能性を知れば、それを実現させないために動くのだ。

その予測を助けるのは、人類滅亡後のヒューマギアの世界という()()()のデータ。ゼアの演算にこのデータが含まれる以上、たとえ2020年に人類が滅ばなかったとしても、パラレルの時空として2220年の世界は生き続ける。

それは「並行世界」という概念への到達。あり得たかもしれないIF(イフ)として、今ある世界を成立させる。人智を超えた究極の人工知能によってのみ果たされる、二つの世界を救うタイムスリップであった。

 

激しい光を放つゼロツーキーを、アインは固く握りしめる。懐かしむような、別れを惜しむような笑みを密かに浮かべ、次の瞬間には意を決したように時空の穴に狙いを定める。

「頼む、ゼロツー……僕に世界を救わせてくれ」

次の瞬間、アインは時空の穴に向かって全力でゼロツープログライズキーを投擲した。彼女の手を離れ、光の矢となってキーが飛翔する。異なる時空へと飛び去ったキーが、垣間見えた時の向こうで過去のゼロツーと重なり——時空の穴が白く弾け、光の粒子へと分解された。白い光の粒子は万華鏡のように何かを映し出していたが、間もなく静かに消滅していった。

全ては一瞬の出来事であった。事の成否も定かではなく、誰もが何も言えずに沈黙している。

 

『よくやりましたね、アイン』

静寂を破ったのは、ドローンからの声であった。振り向いたアインは、ドローンが出力した立体映像を見て瞠目する。

「これ、は……?」

アインの目に入るのはプログラム言語を彷彿とさせる文字の羅列。人間には到底読めないが、ヒューマギアであるアインにはその意味が分かる。

人工知能ゼアによる、観測結果を伝えるメッセージであった。末尾の日付は「2020年7月26日」となっており、それが過去のゼアから送られてきたものであることは明白であった。

進化の果てに並行世界の存在を見出したのは、恐らくこの日より先のゼアであろう。未来の因果を引き寄せるような奇跡が、過去のゼアに起こったとでも言うのだろうか。アインには分からない。

だが……今にも泣き出しそうな、感極まったような笑顔で、アインはゼアからのメッセージを読んでいた。彼女が人間であれば涙を流していただろう。

 

——全ての目的は達せられた。2220年の世界は、これからも命を永らえる。そして、過去(向こう)の世界は、きっと——

 

次の刹那、彼女の視界を眩い青が満たす。消滅していく光の粒子が、この空間の至る所から生じていた。

「どういうことだ!? 研究室が消えていってるぞ!」

声を上げたのは諌であった。無銘も訝しげに周囲を見回している。彼らの疑問に答えるように、ドローンが言った。

『この飛電インテリジェンスは、ゼロツープログライズキーの力によって再現されたものです。核となるキーがこの時代から失われた以上、この空間もまた存在を保つことは不可能です』

事もなげに恐るべき事実を言ってのけるドローンに、諌は絶句する。それ自体が一つのエネルギー体である結晶によって、この時代に飛電インテリジェンスはその機能も含めて再現されていた。その中核を担っていたのは、過去の時代へと飛び立った掌大のプログライズキーだったのだ。

ドローンが空中に光線を投射し、消えゆく空間に人一人分程度の大きさの穴を象る。開いたのは別空間への穴であり、その向こうには荒廃した大地が見える。屋外への脱出口であった。

『お早めの脱出を推奨します。このままでは弊社の消滅に巻き込まれ、空中に身を投げ出されることになるかと』

力を使い果たしたかのように、ドローンもまたその輪郭が薄くなり始めていた。末端から光が灯り、粒子へと分解されていく。

「お前も消えるのか……全て初めから分かっていて、アインに任せたってのか?」

『私はゼアのネットワークを通じ、この世界を見守ってきました。今ある世界に生きる、ヒューマギアの助けになりたい。それが或人社長の遺志であり、私もまた同様に考えました』

「社長の遺志だと? ……まさか、お前は」

諌は一つの荒唐無稽な推論に至る。認証プログラム『プレジデント・スペシャル』のナビゲーターにして、この時代における飛電インテリジェンスを統括するAI。再現された飛電の中核たるゼロツープログライズキーは、果たしてどこから生じたか。

根拠など存在しない。しかし、諌の直感は彼女の正体についての確信を訴えている。飛電の社長の傍らに常に立っていた、社長秘書のヒューマギアの姿が、蜃気楼のように朧気なドローンと重なる。

 

「いよいよヤバくなってきたか? オレは先に出てるぞ」

無銘が虚空の穴に突入し、姿を消した。徐々にではあるが、確実に秘匿研究室の消滅は近づいている。これだけ大規模な構造体の完全消失には多少なりとも時間を要するが、決して余裕があるわけではない。

諌は意を決して、一つの質問を統括者に投げかけた。

「……最後に聞いておく。アインがこの世界を救おうと思ったのは分かる。それがアインのルールなんだろう。だが、お前の真意はどこにある?」

この時代に、飛電はもう無い。最後の社長・飛電或人が目指した、人間とヒューマギアが共に笑い合う世界は、人類の絶滅により永遠に訪れることはない。

それでも()()が、アインの行いに手を貸した理由は何であろうか。アインの行動の結果として自らが消滅することを理解していたとしても、孤独なる守り手は自棄ではなく確たる意志で二つの世界を救うことを選んだ。

ナビゲーターは、穏やかな声音で言う。

 

『たとえこの世界には繋がらないのだとしても、私がかつて救えなかった方々は向こうで生き続けます。それだけで、私はこの二百年には意味があったと思えるのです』

 

だから。

貴方達の歩む先に、たとえ()()()がいないのだとしても。

私は、貴方達の未来に期待します。

私は、貴方達の戦いに希望を託します。

私は、貴方達の明日を祈ります。

 

ドローンが消え去った後も、その声は響いていた。

諌は彼女の言葉を背に受け、穴の向こうへと歩き出す。振り向くと、アインは未だその場に立っている。アインは「二人きりにしてほしい」とだけ言った。諌は何も言わずに微笑みを返し、外に向かって歩き去っていった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

白。

未だ閉ざされずにいる脱出口を除いては、白の単色が広がるばかり。

どこが地面かも定かでないその場所に立つは、一人のヒューマギアである。

「ねえ、■■。わたし……これからも上手くやれるかな?」

『きっと大丈夫。或人様の託した希望は、この世界で生き続けています』

虚空より朧に声が響く。ヒューマギアの呼んだその名は、自らにも認識できない音となって消えた。

分かっていたことだ。照れ隠しのように知らぬ振りをしたが、彼女は声の主が誰かなど最初から知っていた。人類の滅びし後も生き残った一人のヒューマギア、その末路を知る者はほとんどいない。

人工知能ゼアが自らをネットワークと化して消えた後、そのヒューマギアは自らの体を失い、ゼアの依代となっていた一つのプログライズキーに人工知能を宿した。

世界中に散らばった飛電の遺産を探せ。ある一人のヒューマギアにそう伝えて、人工知能は眠りについた。もはや増えることのない思い出と共に、誰にも踏み入ることのできない場所で、ひっそりと何かを待ち続けた。

 

何を待っていたかは、当人にも分からない。二百年後の再会がもたらしたものを、予見していたわけではないのだ。

それでも——晴れやかな声が、ヒューマギアを送り出す。

 

『その優しさを失わない限り、希望は貴方の中にもあります。少し時間はかかりましたが、貴方は私をも救ってくれましたからね。だから——行きなさい。きっと世界は、貴方を必要としているはずだから』

「……分かった、行ってくるよ。皆が生きるこの世界が、わたしの居場所だ」

 

誰も知らぬ二人が、永訣の言葉を交わす。

新たな日常の待つ世界へと、一人のヒューマギアが去っていった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

穴を抜ければ、そこは見慣れた瓦礫の大地である。

ヒューマギアも寄り付かぬその場所に、三人は立っていた。数分前までそこに結晶の塔があったなどとは、真実を知る者でなければ誰が聞くとも信じまい。

雲一つなく晴れ渡った青空の下、彼らは別れの時を迎えようとしていた。

 

「一件落着ってところか。まあコレでオレ達が一緒にいる理由も無くなったワケだが」

無銘が呟く。此度は世界の危機であるとして手を結んだが、無銘は世を乱す三大勢力の一角、ピースメーカーの指導者である。フラタニティに手を貸す立場の諌としては、その言葉は看過し難いものだった。

「お前はこれからどうする」

「仲間達の下に戻るさ。アンタはどうするんだ、アイン?」

アインはしばし考え込むような素振りを見せた後、言った。

「そうだなぁ……また色んな場所を巡るのも良いけど、しばらくはフラタニティに身を寄せようかとも考えてるんだ。この世界の平和を取り戻すために、彼らはまた戦い始めてる。その手助けをさせてもらおうかなってさ」

アインが言い終えると、無銘の表情に僅かな変化があった。

貼り付けたような喜怒哀楽を映す、仮面のような無表情ではなかった。心の底から愉快であるかのように、彼の口元が歪む。

 

「なるほどねェ……さて、別れる前に一つ質問がある。アイン、アンタの戦う理由とは何だ?」

脈絡なく繰り出された問いに、アインは困惑しながらも答える。

「平たく言えば、皆の自由と平和のためだよ。望まれたってだけじゃない、僕自身の意志として、この世界を守りたいんだ」

偽らざる本音である。無銘はその答えが心底喜ばしいかのように、乾いた笑い声を上げた。

 

「平和のためか。それなら——やはり()()()()()()()()()な、アンタは」

 

『フォースライズ! アサルトウルフ!』

一瞬の出来事である。無銘はフード付きパーカーのジッパーを下げて裾を翻し、既に装着されていたフォースライザーで変身を果たしたのだ。

諌はショットライザーを抜き放ち、無銘に向けた。バルカンフォースもまた群青色の拳銃——色違いのショットライザーで諌の顔面を狙う。

「何のつもりだ!」

「確かめたかっただけだ。フラタニティを脱退し、ピースメーカーという組織を作り上げてまで、()()()()()()()()()()()()? その答えを導き出すために、分かりやすい比較対象としてアインを選んだってワケさ」

「何だと……?」

「では、さっきと同様の質問だ。不破諌、仮面ライダーバルカン。人類を守る仮面ライダー氏よ、この時代でアンタが戦う理由はどこにある?」

虚ろなる人狼の声に熱が灯る。試すような問いかけだ。

「アインがヒューマギアを守るために戦うのは理解できなくもない。ところが、アンタはどうだ。コトブキの理想に共感したわけでもあるまいに、フラタニティの側に立って戦う理由はあるのか?」

それは無銘にとっては重要な疑問であった。

現状がどうであれ、不破諌はフラタニティのリーダー・Dr.コトブキに助力を乞われ、過去から呼び出された戦士の一人である。三大勢力の撃破という目標のために、諌は仮面ライダーとしてその力を振るうが、そもそも彼にはフラタニティを助ける理由が存在しないのではないか?

「確かにそうかもな。別に俺はコトブキの掲げる目標に、一から十まで共感したワケじゃない」

Dr.コトブキの理想は、アインの掲げるそれに近い。ヒューマギアの自由と平和を守るために、三大勢力の一つであるネオZAIAエンタープライズに対する反抗勢力としてフラタニティを作った。

ところが、諌はコトブキの理念に共感して、フラタニティの戦士となったわけではない。彼は単に、助けを求められたというだけである。

 

「だから……俺が戦う理由は一つだ。俺は、()()()()()()()()()。俺が信じる、仮面ライダーという夢のためにな」

その声に一切の淀みはなく、無銘を見据える視線には一片の曇りもない。決意と覚悟を宿す魂が、虚無を抱えた電脳を射貫く。

「仮面ライダーが、夢?」

「そうだ。俺が探し出した、俺の夢。自分のルールで敵を見定め、倒すべき相手をブッ潰す。でも、それだけじゃねえ……俺は俺自身の新たな答えを、この世界で見出した!」

「なら聞かせてもらおうか、バルカン。アンタがこの時代で得た答えは、何だ?」

繰り出された答えに、バルカンフォースは首を傾げた。

 

「俺が掲げる仮面ライダーという夢で、この時代に生きるヒューマギアの夢を守る……それが俺の、仮面ライダーバルカンとしての戦いだ!」

『バレット!』

『オーソライズ! Kamen Rider. Kamen Rider……』

装填されたプログライズキーの力が宿り、諌のショットライザーが光る。

「変身!」

『ショットライズ! シューティングウルフ!』

撃ち放った銀弾を殴り壊し、破片が装甲を形作る。

不破諌が仮面ライダーバルカンへと変身を遂げ、もう一人のバルカンの前に立ちはだかった。

「それがアンタの答えか。ならちょうどいい……見せてくれよ、その強さ。あと少しで掴めそうなんだ、オレの目指す未来(さき)ってヤツが。何のために生きるのか、ようやく見えてきたところでね」

バルカンフォースがショットライザーを左手に持ち、右前腕部から四連の鉤爪を生やす。

『プログライズ! KAMEN RIDER EIN!』

相対するバルカンの横に、アインが立った。ライダモデルの装甲を纏い、既に変身を完了させている。

「手を貸すよ、不破さん。彼と少し話がしたい」

「いいぜ、お前のルールってやつを見せてもらおうじゃねえか」

二人と一人が向かい合い、同時に飛び出して間合いを詰める。未来と過去を交えた因縁に、一つの決着が訪れようとしていた。

 

つづく。

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