IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK 作:TAC/108
銃弾が地を削る灰色の荒野を、戦士三騎が乱れ舞う。
互いに腕の届かない中距離にてショットライザーによる射撃戦を展開するバルカンとバルカンフォース。二人の間を飛び越えながら、白銀の軌跡を描いて緑青の騎士がバルカンフォースに迫った。
「上がガラ空き、とでも思ったかな?」
空中から迫るアインへとバルカンフォースが左腕の鉤爪を振るい、そこから生じた風圧が対空迎撃を果たす。吹き飛んだアインは光を発して滑空し、バルカンの背後に着地した。
「全弾……捌けるか」
バルカンフォースの両肩・両足から小型のミサイルが飛ぶ。曲芸じみた軌道で空を泳ぐ弾の全てが、二つの標的を狙っている。バルカンが放った銃弾が一つ二つとミサイルを撃墜するが、精度はあれども速度が足りない。次々に襲い来る爆発が二人を吹き飛ばした——かに思われた、その時であった。
「侮ってもらっては困るな!」
爆煙を弾丸のように突き抜ける、白銀の光。一瞬で至近距離に到達し、バルカンフォースの鳩尾に強烈なフックが突き刺さる。衝撃に身体を折り曲げて下を向く顔面を掌底が掬い上げ、後ろ蹴りでバルカンフォースが地面に転がされる。高速の三連撃を叩き込んだのは、誰あろうアインであった。
「やるじゃないか。穏健派とは到底思えないが」
「話し合うにも、まずはこちらの態度を示さないといけない。伊達に君より長生きしてないのさ」
アインはほとんど無傷であった。武器を持たない徒手での戦闘に特化したライダーシステム・アインは、それ故に極めて堅牢な装甲を与えられた。音速を凌駕する高速移動の反動がもたらす自壊をも防ぐ鎧は、生半な攻撃で破れるものではない。
立ち上がったバルカンフォースは次の攻撃に備える。恐らくミサイル攻撃はアインが引き受けたのだろう。つまり今警戒すべきは、どういうわけか姿の見えないバルカンである。
「そおらッ!」
「……上か!?」
『バレット! シューティングブラスト!』
咄嗟に左腕を天に突き上げるバルカンフォース、その先には空中から降ってきたバルカンがいる。鉤爪を手で弾きつつ、バルカンが身を翻しながら青い光弾をショットライザーで撃ち出した。球形の弾が顔面に直撃し、バルカンフォースが大きく仰け反る。下半身に力を入れて倒れるのを防いでいる形であった。
「俺達を少々ナメすぎたな。様子見のつもりか?」
反動で地面を転がったバルカンが吐き捨てる。今の無銘は間違いなく本気ではない。かつての交戦経験や、飛電の認証プログラムにおける戦闘で目撃した戦いぶりから、諌は無銘の戦闘パターンをある程度読み解いている。
「……やっぱりアンタはオレの予想を超えてくれる。その暴れっぷりが、オレに自らの欲するものを自覚させてくれる」
「ンだと?」
バルカンフォースは起き上がると同時に群青色のショットライザーを放り捨て、右腕からも鉤爪を生やす。後方で消失する拳銃をよそに、跳躍からバルカンへと斬りかかった。
「不破諌、アンタは仮面ライダーを『夢』だと言ったな。オレも同じさ!」
「何を、ッ!」
両腕を掲げて斬撃を防ぐが、バルカンフォースの膂力が強引に防御を引き剥がす。拳と鉤爪が至近で打ち合い、激しく火花を散らす。
「自分のルールで相手をブッ潰すってコトはだ、つまり誰を倒すべき敵として定めるかを自分で決めるってコトだろう? なら簡単な話だ、オレが求めるのは
「俺のセリフをそんな風に! 曲解してんじゃねえッ!」
『ショットライズ! パンチングコング!』
鉤爪を蹴り上げたことで隙が生じ、バルカンがパンチングコングへと形態を切り替える。接触距離での殴り合いに特化しているだけあり、以前より遥かに重い拳が鉤爪に応じる。
「昔からずっと疑問だったんだ。どれだけ心があるように振る舞えても、オレの電脳は常に
「何……?」
フラタニティ管轄区でDr.コトブキから聞いた話が、唐突に諌の脳裏を過ぎる。ヒューマギアが人間的な自我を獲得する
では、無銘はその中にあって、心を持たないヒューマギアだったというのか?
「でも
——その答えは否であった。無銘の心を形作る電脳は、平和の中では決して情動の発露に至らない。彼の心を動かすのは、「戦」の一文字のみである。
無銘は戦闘を愛している。戦の後に残る虚無を愛し、破壊を愛し、殺戮を愛し、死線を愛している。ただ戦うためにしか生きることのない魂がここにある。決して平和とは相容れない魂が。
「ネオZAIA、零の方舟、そしてお前達フラタニティの戦士! オレが戦うべき相手はこの世界に山ほどいる!」
鉤爪が電磁気を伴い、地面に突き刺さる。砂礫が槍のように盛り上がり、バルカンの足元から飛び出した。バルカンは両腕を顔の前に出して防ぐが、電気ショックじみた感覚が僅かに反応を鈍らせる。
バルカンフォースがその場で回転しながら周囲の土砂を巻き上げ、電磁気を纏わせて十を超える即席の矢を作り出した。それらが爆散すると同時に電磁波が飛び散り、バルカンだけでなく高速移動で直撃を回避したアインの動きをも封じる。
「くッ、まさかこれほどとは……! 平和を作るという大義は、君にとって無価値なものでしかなかったのか!?」
「いや? 平和は作るぜ。ネオZAIAと零の方舟にはご退場願う。アンタの計画に協力したのも、世界に滅んでもらっては困るからさ」
「何を言って——がひュッ!?」
地面に片膝をついていたアインの身体が、バルカンフォースの右腕に持ち上げられる。首を掴まれた上に指先から電磁気が流れ込み、それによって抵抗が封じられた。言葉にならぬ苦悶の声を上げるアインを、バルカンフォースは容赦なく地面へと叩きつける。
「指一本程度なら動かせると思ったが」
「無茶、言うなぁ……」
「アンタの能力には興味がある。一度電脳を覗かれる感覚ってヤツを味わってみたくなった」
バルカンフォースが手を離すと、糸で吊られたが如く不自然な動きでアインが立ち上がる。幽鬼のように手を伸ばし、彼女の掌がバルカンフォースの顔面に触れた。
◆◆◆◆◆◆
意識が覚醒する。アインは自らが
システム・アインの四肢に搭載された物体解析機構、その正体は
とはいえ、誰もが電脳を覗かれて心地の良い思いをするわけではない。暴かれたくない秘密の一つ二つはアインにもあるため、ハッキングによる意識同調の深度はその都度慎重に吟味している。自らの意識が完全に相手の電脳空間に入るレベルとなると、相当にハッキングの深度が高い。
白い世界がガラスめいて砕け散り、真っ黒な闇が露わになる。アインの周囲で無数の火柱が上がり、その一つ一つから様々な種類のマギアが姿を現した。止めに入る間もなく辺り一面でマギアの殺し合う地獄絵図が展開され、踏み締める大地は燃え盛る燎原と化していた。
なお恐るべきはマギア達の風体である。皆が一様に顔面に「戦」「闘」「争」「乱」などの威圧的な一字を刻んでおり、それらが炎となって燃え上がっている。
異様な光景である。シンギュラリティを経たヒューマギアの電脳は、多少なりとも自らに芽生えた心象を反映するものだが、恐らくは無銘の電脳内にて展開されているこの事態は、今まで全く見たことのないものだった。悪意の人工知能たるアークの支配下に置かれたヒューマギアですら、ここまでの振り切れ方はしていない。
『聞こえるか?』
残響を伴って声が響く。何とはなしに振り向いてみると、夜闇のように黒いパーカーを羽織ったヒューマギアが立っている。フードを脱ぐと、女性型とも男性型ともつかぬ雰囲気の、美しく整った顔が露わになった。
「これが、君の望むものなのか? こんなことをしては、世界が滅んでしまう」
『いや、完全に滅ぶことはないさ。オレはこの世界の強さを信じている。オレの行いを暴虐と思うならば、それに抗するヤツは必ず現れる。かつてネオZAIAへの反抗勢力としてフラタニティが生まれたようにな』
「その反抗勢力をも君は叩き潰すつもりだろう? 真正面から殺し合うことで……世界を滅ぼすつもりがないというなら、君は一体何がしたいんだ?」
美形のヒューマギア——無銘が笑う。
『世界を完全に滅ぼしたいワケじゃないが、滅ぼすつもりが全くないワケでもない。オレはな……
視界が暗転する。
◆◆◆◆◆◆
「ここは……現、実……」
バルカンフォースの顔面から手を離したアインが、不意を打たれて蹴倒される。ダメージに喘ぐ間もなく、前腕部を変形させた短機関砲がアインの右肩を撃ち抜いた。致命打にはならなかったが、急な意識の覚醒とライダーシステムの損傷に目眩のような感覚の重苦しさを覚える。
「お勤め御苦労。少し邪魔が入ったが、まあ有意義な対話にはなったんじゃないか? なぁ……不破諌!」
バルカンフォースはアインを捨て置き、バルカンとの格闘戦を始める。瞬間的に発揮するパワーでは、上半身を特に強化した今のバルカンが上回る。技法もへったくれもない荒々しい両腕の攻撃が、バルカンフォースの防御を引き剥がして鉄鎚のような一打を成立させた。
「アインに何をした!」
「ヤツのちょっとした特殊能力だよ。ヒューマギアの心を覗ける力で、オレの心を見てもらったってワケだ」
鉤爪と両腕の手甲が打ち合い、その度にバルカンの腕に痺れが生じる。鉤爪に電磁気を纏わせ、ライダーシステムへと直に攻撃を通しているのだ。いかに強靭な装甲であれ、それを無視してダメージを与えられるなら無いも同然。徐々にバルカンの動きが緩慢になっていく。
「それにしても酷いじゃないか。せっかく話していたところに横槍を入れるとは……アンタ、デリカシーが無いと言われたことはないか?」
「だったら聞かせてもらおうじゃねえか。アインと何を話した!?」
大振りな薙ぎ払いを躱しつつ、十字に振るった鉤爪から斬撃が飛ぶ。強固な装甲にすら爪痕を刻む二撃に、重装甲のバルカンが膝をついた。
「オレの夢の話さ。この世界と戦い続ける。我が
「ふざけるな! だいたい、お前に付き従うピースメーカーのヒューマギアが、その理屈に納得するのか!?」
「オレの夢だからな、アイツらがどうするかは各人が決めることだ。この夢に乗ってくるヤツもいれば、ついていけないと離れるヤツもいるだろう。もっとも、オレはオレのやりたいようにやるからな。それこそピースメーカーのネットワークを通じれば、オレの意志をダイレクトに伝えることもできる」
これは断じて暴走ではない。諌の直感は、無銘の異様な発言が全くの
邪智にして暴虐たる精神と思考、その全てを戦いのために投じる存在。悪意よりも純粋な戦闘衝動のままに、世界を破壊の色に染め上げようとする単独の厄災。あらゆる群体よりも恐るべき個人として、今の無銘は立っている。
究極的にはそこに彼一人がいれば良い。無銘の為すままに、世界は戦乱に満たされるだろう。手段を選ばぬ無垢なる牙が、全てを斬り刻もうとしていた。
『マグネティックストームディストピア!』
「さて……アンタらも本気を出してくれ。そうでないと案外早く死ぬぜ? 何よりオレが楽しくない」
バルカンフォースの動きが高速化した。青黒い残像のみを残す疾走に合わせ、縦横無尽に斬撃を放つ。バルカンとアインが嵐の如き連続攻撃に翻弄され、その身を空中へと浮かべられる。
バルカンフォースが跳び上がり、稲妻と冷気を右足に纏わせる。荒れ狂う極小の竜巻をボレーキックに合わせて解き放ち、炸裂する破壊に二人を巻き込んで吹き飛ばした。空中で爆発した竜巻の中から、装甲に甚大なダメージを刻んだ二人の仮面ライダーが飛び出し、地面に叩きつけられた。
バルカンフォースはその光景が楽しくて堪らないと言わんばかりに、両手を広げて長広舌を振るう。
「オレは破壊が好きだ。殺戮が好きだ。殺し合うのが好きだ。争乱が好きだ。戦闘が好きだ。そんなオレをアンタ達はどうする? どんな理屈でオレの前に立ちはだかり、刃を振るう? 憎しみか、怒りか、あるいは悲嘆か。何が相手でも受けて立つ。見せてくれ、聴かせてくれ……この戦いを彩る、アンタ達の思いを!」
魔王の如き者が高らかに宣う。戦に汝らの全てを捧げよ、戦場に魂を賭けよと叫ぶ。ここに在るは人や獣に非ず、混沌の味を至上とする人狼なり。
世に災いを成す三大勢力の巨頭が一人、無銘/仮面ライダーバルカンフォース。その悪性とは民の世界を平らげんとする「戦闘衝動」に他ならない。大悪の義を背負いし
だが。
大いなる悪意が目覚めた時、その前に必ず立ちはだかる姿がある。
人機の別なく手を差し伸べ、彼らの自由と平和を守るために戦う戦士。どこからともなく疾風の如く駆けつける、祈りと願いを受けて立つ騎士。この世界においてはヒューマギアなる民のために、その手を伸ばす者達がいる。
彼の、彼女の、彼らの名は——仮面ライダー。
「それがお前の夢、お前の道か……だったら、俺は助けてやるまでだ! 誰もが夢を、明日への希望を持てる世界を作ろうとするヤツらをな! 仮面ライダーって夢の使い方をお前に見せてやるぜ、無銘!」
「いつだって新しい時代を作るのは、この今という瞬間を生きる皆なんだ。僕は彼らを助けたい……だからこうして仮面ライダーになった! この世界を、君の目指す未来へ進めるわけにはいかない!」
夢を追い、夢を守る者。百年を生き、世界を守り続ける者。高き邪悪の壁を前にしながら、折れることなき意志を胸に戦う戦士。
不破諌/仮面ライダーバルカン。
アイン/仮面ライダーアイン。
二人の戦意は、未だ砕けてはいなかった。
『パワー! パンチングブラスト!』
バルカンが両腕を打ち合わせると、全身を流れるエネルギーが手甲に集中し、溶ける鉄のように赤熱する。ショットライザーの引き金を引くと、膨大なエネルギーを込めた手甲が射出された。
両腕合わせて三百キログラムにもなる鉄塊が弾丸の速度で飛ぶ。バルカンフォースは両腕を顔面の前に出して防ぐが、炸裂する力に耐えられず前腕部の攻撃ユニットが爆散した。短機関砲と鉤爪を一挙に封じられ、中近距離での攻撃選択肢が減少する。
「やるな……だが!」
徒手のバルカンフォースが、背後より迫るアインに応じる。機動性で上回るアインの攻撃を一つ一つ的確に捌きつつ、空中から繰り出された右の蹴り足を掴んで放り投げた。その先から手甲を腕に戻したバルカンが迫る。
「僕に構わず進んで!」
「ああ!」
アインの言葉を受けたバルカンが、衝突する寸前で大きく跳躍した。装甲の重量と落下のエネルギーが乗算されることで、人間大の質量弾と化したバルカンがフライングボディプレスを敢行する。バルカンフォースの防御を強引に押し潰し、地面にその身を叩きつけつつマウントポジションへと移行する。両手を組んで超重量の拳を振り下ろし、引き起こしつつドロップキックを鳩尾に叩き込んだ。
「どうだ!」
「……効いたぜ、今のはさァ!」
バルカンフォースが起き上がり、左肩に電磁気を纏わせたショルダータックルをバルカンにぶつける。装甲を貫いて全身に拡散した電磁気に痙攣するバルカンをカバーするように、アインがその頭上から出現して飛び蹴りを放つ。
「同じ手が通じるかよ——何ッ!?」
「同じ手だと思ったかな!」
突如飛び蹴りの姿勢を崩し、アインが空中で縦に一回転する。首元の推進機から光が生じ、急速着地しつつバルカンフォースにアッパーカットを喰らわせた。強烈な威力に吹き飛ぶバルカンフォースだが、竜巻じみた黒風を纏って空中に浮かぶ。右手を突き出すと、黒い竜巻が主を離れて二人に襲いかかった。
バルカンを庇うように、アインが前に立つ。彼女の両手が緑色の光を灯し、黒い竜巻への掌底となって突き出された。
「マジか!?」
「ラーニング完了、ってね!」
黒い竜巻がアインの両掌に触れると、電磁気や冷気の塊だったそれが一瞬にして消滅する。それは物体解析機構の応用——完全に逆のベクトルの力を至近距離で解放することで成立したカウンターであった。アインの両腕に、緑色の光が渦を巻く。それは光る0と1の細かな集合であり、即ちは解析に基づいて出力されたエネルギーの流れであった。
「なるほど……オレがアンタを電脳空間に招いた時に情報を抜いたか。抜け目のない御仁だ」
「ハッキングの深度を高めたのが仇になったってコトさ。これで君は僕に対しては不利になった」
渦巻く光の0と1が散らばり、頭頂から爪先へと隅々まで吸収される。アインの全身が縁取られるように淡く光った。これでバルカンフォースの生み出す電磁気による攻撃は、アインに対してはその効果が減少することとなる。
だが、それで諦める無銘ではなかった。むしろ己の逆境に闘志を燃やし、バルカンフォースもまた体の内から雨雲の如く燻るエネルギーを湧き上がらせる。
「さて……クライマックスといこう!」
「上等だ。ここでお前はブッ潰す!」
動きを止められていたバルカンが復帰し、大型のプログライズキーをショットライザーへと装填した。それはバルカンフォースの使用するものと全く同じキーである。
『アサルトバレット!』
『オーバーライズ!』
バルカンフォースに向かって走り出しつつ、ショットライザーから弾丸を撃ち出した。青白く煌めく弾丸がバルカンフォースに直撃し、跳ね返ってきたそれがオオカミの幻影を纏う。
『ショットライズ! レディーゴー! アサルトウルフ!』
掴み取った銀弾を握り潰し、バルカンの装甲が一新される。ガンメタルカラーのベーススーツに深い青色の装甲が固定され、バルカン・アサルトウルフへの変身が完了した。
「そのキーでオレに勝つつもりか?」
「アサルトウルフにはアサルトウルフで勝たねえとな。それに今の俺は一人じゃねえ。俺が信じ、俺を信じてくれる仲間がいる」
それは諌の背後に、あるいは傍らに在ったもの。ここにいるアインだけではない。フラタニティのヒューマギアや、この時代で共に戦った天津垓や滅、更には元の時代で待つであろう諌の仲間達。
ここで膝を折るようでは、自らの夢に示しがつかない。仲間達に顔向けできない。その想いが、諌の魂を激しく燃やす。
「だからな……どこまで行っても
ショットライザーに前腕部短機関銃を合わせた三門の銃口がバルカンフォースに向かって火を噴く。バルカンフォースは手元に短剣を出現させ、回転する刃にて銃弾を斬り払う。再び右手に現れた群青色のショットライザーで撃ち返しつつ、短剣——スラッシュライザーから黒い斬撃を飛ばした。暗黒の斬波を左方向へのローリングで回避しつつ、バルカンが目標に向かって突進する。
「本命はその剣と銃ってか! どっから持ってきた!」
「ピースメーカー謹製、ネオショットライザー&ネオスラッシュライザー。まあ作ったのはネオZAIAの兵器工場だけどな。威力はその身で確かめな!」
飛来する横薙ぎの一撃をスライディングで躱し、バルカンフォースの背後へと滑り込む。振り向いたバルカンフォースが、肉薄する敵手と至近にて鍔迫り合う。回避不能の距離でバルカンがショットライザーを連射し、その威力にバルカンフォースが回転しながら地面に倒れ込む。
うつ伏せに大地へと接触する刹那、巻き戻し映像じみた挙動でバルカンフォースが起き上がる。バックステップから砂利に銃弾を一発放つと、背後まで迫っていたアインが着弾地点から発生した黒い竜巻によって舞い上がった。ヒューマギアには特に有効な電磁気の攻撃は今のアインに通用しないが、それでも発生する強風までは完全に無効化することはできない。上空へと吹き飛ばされたアインを放置し、バルカンへと視線を向けた。
鋼と鋼が激突する。迎え撃つネオスラッシュライザー、その上から斬りかかるはオーソライズバスター・アックスモード。防御を押し潰した斧が下から勢い良く斬り上げ、次いで回転斬りでバルカンフォースの胴を斬り裂く。煙のように立ち昇るエネルギーが揺らぎ、バルカンフォースの力が僅かに弱まった。
『ガンライズ!』
オーソライズバスターを素早くガンモードへと変形させ、高出力の光弾を連射する。ネオショットライザーが弾丸を返し、衝突した弾同士が炸裂することで白煙が生じた。出方を伺うバルカンフォースの前に、煙を突き抜けて素手のバルカンが現れる。
「オラァッ!」
「当たるかよ!」
鉄拳が空を切る。顔面を狙った大振りなパンチを寸前で躱すが、バルカンの本命は次の手にあった。反撃の掌打で仰向けに倒れつつ、バルカンが対手の胸を狙う。
『アサルトチャージ!』
「この距離なら避けられねえだろ……!」
『マグネティックストームブラスト!』
オオカミの頭部を模した光弾が回転しながらバルカンフォースに直撃し、装甲に喰らいつきながら上空へと飛んでいく。荒々しい回転と光弾の爆散に巻き込まれたバルカンフォースが、爆煙を伴って背中から落下した。バルカンとの距離二十メートルの位置で立ち上がり、ベルトのレバーに手を掛ける。
『マグネティックストームユートピア!』
フォースライザーのレバーを二回連続で引き戻し、絶大な力を引き出すことで最強の一撃を繰り出そうとしている。バルカンフォースの全身から立ち昇る霧のようなエネルギーが、左足に収束して漆黒の嵐となった。
「今出せるオレの100%だ……受けてみな!」
跳躍から飛び蹴りを放つバルカンフォース。周囲の瓦礫をも巻き込む竜巻が異様な回転を見せ、バルカンを貫かんとしている。対するバルカンはこの範囲攻撃になおも立ち向かう覚悟でいた。
しかし。
『アインユニゾンインパクト!』
「さ、せ、る、かぁぁーーっ!!」
白銀の稲妻がバルカンの横を通り抜け、迫るバルカンフォースと激突した。
「アイン!?」
闇が光を呑み込み、アインの姿が露わになる。暴れ狂う威力を必死で抑え込むアインが、バルカンへと振り向いた。
「後は……頼んだ!」
諌はアインが自分を庇った理由が分からなかった。しかし、彼女の言葉を聞いた時点で、そのような疑問は脳裏から消え失せていた。
衝突点で爆発が起こり、一人がバルカンの傍らを突き抜けて吹き飛んでいく。炎に包まれたライダーが地面に落下し、その姿も見えなくなるほどの大爆発が発生した。
着地したバルカンフォースが、よろめきながらもバルカンを見据える。アインの妨害によって少なからぬダメージを負ったようである。
「狙いが狂ったか……それにしても拍子抜けだな、まさかあんな形で幕を引こうとは。オレとしてはもう少し殴り合ってみたかったが」
「まだ俺がいるぜ。ここからが最終ラウンドだ」
理由はどうあれ、決着を託された。諌からすれば謎の多い人物ではあったものの、彼女の信頼は自らを立たせるには十分である。
『アサルトチャージ!』
アサルトウルフキーのグリップを握り、スイッチを押す。バルカンはショットライザーをベルトに固定し、両拳を握り締めた。バルカンフォースは両手の得物を放り捨て、ゆっくりと拳を構えた。
「来な」
「そう来なくっちゃな」
両者の拳に青い炎が灯る。同質の力でありながら、二つの炎は陰陽の様相を呈していた。
『マグネティックストームブラスト! フィーバー!』
『マグネティックストームユートピア!』
バルカンの両拳が煌々と輝いている。バルカンフォースの全身に青黒い炎が燃え盛る。二人が同時に駆け出し、同時に拳を振りかぶった。
互いの左と右が潰れる。爆裂する青い炎が周囲を燃やす中、放たれた最後の一発が敵を貫いた。
マグネティックストーム
ブ
ラ
ス
ト
フィーバー
全霊を込めたストレートパンチ。必殺と必殺の間隙をこじ開けて突き刺さる
仮面ライダーバルカンは、鏡を打ち砕くが如くに己の似姿を打ち倒していた。
装甲が脱落し、変身を解除された無銘が膝から崩れ落ちる。辛うじて倒れるのは防いだが、立ち上がるのも困難な様子であった。
諌は変身を解き、自らの後方へと走り寄る。爆心地めいて黒煙を吹くその場所に、重傷のヒューマギアが倒れていた。
「……思ったよりは元気そうじゃねえか」
「僕のライダーシステムは、特別頑丈でね……無傷とはいかないけど、どうにか致命傷にはならずに済んだみたいだ……」
内部機構はやや露出しているが、バルカンフォースの全力を受けながらもアインは生存していた。彼女に肩を貸し、諌はショットライザーから一発の空砲を放つ。
どこからともなく一台のバイクが現れ、諌の前に停車した。諌がこの時代で手に入れた、仮面ライダーバルカンの専用車両・ライズランペイジャーである。オオカミの頭部を模した機首のライトが威圧的に光った。
「待ちな」
バイクに跨った二人を呼び止める声がある。砂礫の大地に片膝をついている無銘であった。
「何だ」
「たった今、別働隊から連絡が入った。この街に建設されたネオZAIAエンタープライズの兵器工場が二つ制圧されたそうだ」
フードが脱げて露わになったのは、平時のような無銘の無表情であった。ゆっくり立ち上がり、プログライズキーを構える。
「ネオZAIAから分捕ったテクノロジーを使えば、新たな兵器だって作れる。ソイツは今後の戦いに更なる彩りを加えるだろう。戦いはまだ終わらないぜ」
ある種の宣戦布告であった。この時の諌達は知る由もないことだが、無銘はネオZAIAの兵器工場を新たに手に入れることで新兵器の量産体制を整えようとしている。フラタニティの戦意が折れていないように、無銘と彼が率いるピースメーカーも戦いの場から引き下がるつもりはないのだ。
故に、諌が返す言葉は至極単純であった。
「だったら終わらせてやるまでだ。この世界の未来を、俺達の夢でこじ開けてやる。この戦いを必ず……俺達の手でブッ潰す。それが、自分のルールで生きるってコトだろ」
「……フッ。相変わらず面白い男だよ、アンタは——次会う時が楽しみだな」
虚空に笑い声を響かせる無銘。その身を包むように、黒い霧が現れる。一際強い風がそれを吹き飛ばすと、そこに無銘の姿はなかった。
かくして、飛電インテリジェンス跡地にて繰り広げられた全ての激闘が幕を閉じた。人知れず迫っていた世界消滅の危機は、誰に知られることもなく解消されたこととなる。
その危機に挑んだ、当事者達を除いては。
「……お前のバイクは?」
「今はちょっと運転するのが難しいかな。お行儀は良くないけど、このまま乗せてくれると助かる。自動操縦でフラタニティ管轄区に戻ると思うから、置き去りとかの心配はしなくていいよ」
「そうか。んじゃ、しっかり掴まっとけよ」
荒涼たる地を蹴散らして、諌とアインの二人乗りでバイクが走り出した。晴れ渡る空の下、フラタニティ管轄区域を目指して進む。
道中では戦闘の音が今も響いている。その方角を見つめて、アインが言った。
「無銘君は……僕に止めることはできない。僕にできることは、せいぜいが引き止めるくらいだ」
「アレは多分死ぬまで止まるつもりがねえ。それが無銘のルールだからな。完膚なきまでにブッ潰す、そうでもしなけりゃアイツは止められん」
諌は無銘の言動を思い返し、苦り切った表情を浮かべる。無銘は他者に対する敵意を持たない。世界の全てを倒すべき敵と定めながら、彼にあったのはそれらと戦う喜悦だけだ。彼に従うピースメーカーのヒューマギアがどうかはさておき、恐らく無銘は他の三大勢力に対しても嬉々として挑みかかるだろう。憎しみも怒りも、初めから彼には存在しなかったのだ。
「ピースメーカーは今後最も警戒すべき勢力になるかもしれねえ。ヤツの意のままに一つの武装勢力が動くとすれば、たとえ相手がフラタニティでも殺しにかかる」
「……そう言う割には、あんまり心配してる風にも見えないような?」
諌にしがみつきつつ、アインはその表情を覗き見る。つい先程までとは変わり、次の戦いに向けて引き締まった顔立ちになっている。
「当たり前だ。今の俺には仮面ライダーという夢がある。それに、フラタニティが戦えるってのは証明された。暴れ回る台風みたいなヤツが相手でも、簡単には負けるかよ」
「……強く在り続けるのは、難しいことだよ。それでも不破さんは、フラタニティなら勝てると思う?」
「勝つさ、俺はそう信じる。お前が俺に決着を託したように、俺もDr.コトブキやフラタニティのヒューマギア達を信じることにした」
誰もが戦士になれるわけでも、強く在り続けることができるわけでもない。しかし、強くなることはできる。天津垓の弁舌がフラタニティを動かしたように、たとえ一寸先が闇であったとしてもそこに踏み出すことはできるのだ。諌はそう信じている。
「辛いかもしれんが、戦わなきゃならねえ時はある。その時には、お前も仲間達を信じてやるといい。案外、アイツらは強いかもしれねえぜ?」
「そっかぁ……少し感傷的になっちゃったね、申し訳ない。けど——不破さんがそこまで言うんだ。僕も彼らをもっと信じてみたくなったよ。助けるだけじゃない、共に戦う仲間としてね」
アインの言葉を聞いた諌が、満足げに笑った。
「その意気だ。よし、1000%の野郎とコトブキの様子を見に行くか! 滅も戻ってるかもしれないしな」
二人乗りのバイクが、仲間達の居る場所へと走り去っていく。彼らの道行きを祝福するように、雨上がりの空には虹が架かっていた。
◆◆◆◆◆◆
ヒューマギア武装勢力・ピースメーカーの拠点たる兵器工場にて。
総司令官たる無銘は、満身創痍で部下達の下に帰還した。構成員の一人と肩を組み、片足を引きずりながら報告を聞く。
「工場はこれで三つになったな」
「識別上、本施設を第一工廠と呼称。第二・第三工廠では先日鹵獲した
「よくやった。鹵獲機の改造は?」
「プラン通りに完了。調整度合いも鑑みれば明日には出撃できるかと」
構成員……
「ところで……自らお使いにはならないので?」
「ギーガーの話か。まあオレの趣味じゃないからな。むしろあの手の兵器を好むのはデトネイターだろうし、改修仕様機はヤツにプレゼントしよう」
無銘に肩を貸していたマギアからアンプルを受け取り、それを右肘に突き刺す。内包された流体金属が傷ついた身体を修復し、無銘は両足で歩けるまでに回復した。
二人が向かう先は、ピースメーカーの研究室。元はネオZAIAエンタープライズのものであるが、廃棄された施設を物理的に接収し、現在はABの序列五位であるヒューマギア、エンデュランスの率いる研究チームに使わせている。
かつてその場所でどのような研究が行われていたか、無銘は知らないし興味も持っていない。ピースメーカーが奪取した時には研究データも含めてもぬけの殻と化していたが、残った施設は
兵器工場の外に強引に併設された研究室の扉を開け、二人は中に入る。様々な機械を詰め込んだ狭苦しい一室だが、無銘の用いるアサルトウルフキーなどはこの場所で製作されたものであった。プログライズキーに用いる生物種のデータイメージ……ライダモデルを扱っていたらしく、この施設を獲得したことでピースメーカーは大幅な戦力増強に成功した。
中央の柱じみた機械は、プログライズキーなどを開発するためのものである。室内にあった
「さて……データは取った。製造は上手くいくかな……?」
「以前から考えていた強化プラン、ですか」
マギアの冷淡なコメントをよそに、無銘は柱の中段から迫り出した台にフォースライザーをセットした。ベルトから戦闘データを吸い出しつつ、既に入力済みだったデータと合わせてブランクキーが書き換えられていく。
数秒後、新たに精製されたプログライズキーが柱から飛び出してきた。右手でキャッチしつつ、キーの感触を確かめる。
「実験成功だな……! 『奥の手』を手に入れられたワケだ」
マギアが硬質な拍手を送る。無銘が入手したキーには、オオカミの図柄が描かれている。事もあろうにその見た目は、彼と同じ『バルカン』に変身する男の持つものと瓜二つの——シューティングウルフプログライズキーであった。
左手に持ったもう一つと見合わせ、無銘はプレゼントを貰った子供のように無邪気な笑みを浮かべる。雪のように白い左手のキーにもオオカミが描かれているが、その性質はシューティングウルフとは全く異なるものだ。
現生種のデータであるライダモデルに対し、既に絶滅した生物……絶滅種のデータイメージは『ロストモデル』と呼称する。ロストモデルを内包するキーはゼツメライズキーと呼ばれているが、しばしばプログライズキーとゼツメライズキーは同じ生物種からデータを取る場合がある。
無銘が左手に持つのは、
キーとしての名称は、ジャパニーズウルフゼツメライズキー。
無銘の掌中にて、三頭のオオカミが揃い踏む。新たな牙を秘め隠すその瞳は、ただ次の狩場を待ち望むように妖しく炎を宿していた。
つづく。