IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK 作:TAC/108
Part-23 Someone said, "Who am I……?"
ヒューマギア中立勢力・フラタニティの面々は、大急ぎで作業に取り掛かっていた。ある者は先遣隊として地中に潜り込み、ある者は調理場に立ち、またある者は地底洞窟に仮設キャンプを建造するなど、のどかな日常の風景とは打って変わって誰もが何かしらに忙しくしている。
不破諌と彼が同行する来訪者アインが世界滅亡の危機に立ち向かうとすれば、フラタニティのヒューマギアおよび彼らに協力する者……
ヒューマギアによる三大武装勢力の一角、ネオ
商売と称して民衆に圧政を敷く2220年の暗黒
かつてはネオZAIAに対するレジスタンスとして発足されたフラタニティであったが、次第に激化する戦闘からくる疲弊や規模拡大による方針転換の必要に迫られ、仮初の中立として組織的には戦力を持たず戦闘も行わないとしてきた経緯がある。コトブキが過去の時代から、三人の仮面ライダーを招くまでは。
彼らの活躍により、ネオZAIAに対して痛打を与えることには成功した。しかしネオZAIAの組織力は三大勢力中でも最強であり、たった一日にして市街地全体はおろかフラタニティ管轄区域にまで通じる超大規模地下通路を完成させるに至った。
地下道から直接攻め込まれれば、戦闘が不得手なフラタニティの民はひとたまりもない。天津垓は個人的に因縁のあるネオZAIAへの反撃に際して、彼らの力を借りるという策を講じた。
当初こそ戦いへの恐怖からフラタニティのヒューマギア達は乗り気ではなかったものの、垓の即興演説やフラタニティ幹部であるフーの説得などを経てこの作戦への参加を決意。一致団結して事に当たることになった。
フラタニティ管轄区の広場に開けられた、半径六メートル前後の大穴。雨風を凌ぐ臨時テントからそれを見つめる、四つの視線がある。
精悍な顔つきの男性は天津垓。その傍らに立つ銀髪の少女はフー。素体ヒューマギアの姿をしているのがDr.コトブキ。そして、彼らと並ぶ異質な存在……腰に刀らしきものを差しているカブトガニめいたマギア。
エンデュランスと名乗る、武装勢力ピースメーカーの幹部である。常在戦場ということか、一般的なヒューマギアが持つ人間態を晒すことなく、常に戦闘形態たるマギアの姿であり続けている。この姿はバトルマギアと呼称される。
垓は白い器に注がれた、温かなスープを一口飲んだ。垓達がこの時代に来てから、フラタニティが新たに作った食事処より提供された中華スープである。隠し味の生姜がほどよく効いており、冷えた身体を暖める。
何かを待つように不動を貫いていた彼らの下に、作業員ヒューマギアの一人が参上する。
「地下道への侵入ルートを確保しました。臨時ベースキャンプの設営も完了、出発可能です」
「よくやった。ではベースキャンプに移り次第、作戦会議を開始する。調査班のメンバーは?」
「既に地下にて待機中」
作業員の言葉を聞き、垓が立ち上がる。仲間達に目配せをしつつ、作業員に案内を促した。
◆◆◆◆◆◆
先遣隊および作業班の活躍により、ネオZAIAが開通させた地下道の詳細が僅かながら明らかになった。
フラタニティ管轄区域、地下五十メートル。そこから市街地方面へと続く広大な地下通路が、ネオZAIAの手によって完成していた。地中を掘り進むことで作られた広大なトンネルは、削り出したままのように見えて凹凸もなく整備されており、歩行を妨げるようなものは何一つ存在しない。侵攻する側にとっては出口となる広場の大穴については、金属製の梯子を下ろすことで簡潔な通り道を作った。
とはいえ、通行に不便が無くなったといっても人間が対策なしに踏み入るには難のある場所だ。故に、大穴の直下に建設された地下ベースキャンプで準備を整える最中、天津垓はある物品を受け取っていた。
「おお……これぞまさに我が社のZAIAスペック! いや、この時代の技術で再現されているだけに性能の上昇値は1000%! ……といったところか」
「流石にそれほどではございませんが、概ね注文通りの仕上がりになっています。ライダーシステムとの連動機能で、空気の薄い地下でも安全に歩けるようになっていますよ」
漆黒の筐体を横目に、垓は右耳の辺りに装着した機械の感触を確かめていた。彼の両眼にはカラーコンタクトを着けたような緑色が差しており、そこには稼働状態や外界の情報を示す文字列が浮かんでいる。
垓が所属しているグローバル企業・ZAIAエンタープライズが開発した小型インターフェース、その名をZAIAスペック。人間の能力を拡大するために開発され、理論上は人工知能と同等レベルの思考速度や知識量を獲得することができる。名実共にZAIAの目玉商品であり、日本支社の社長である垓も専用のものを一つ所有している。視覚に情報を映し出すスクリーンとして眼鏡とセットで使うタイプが普及したが、今回はコンタクトレンズ型を採用した。
現在、垓が装着しているものはそのZAIAスペックを漆黒の筐体……Dr.コトブキの本体である小型多次元プリンターに再現させた一品である。この時代にZAIAスペックを持参できなかった垓が、今回の作戦に際してコトブキとフーに依頼して作らせたもので、単純な性能は本家ZAIAスペックをも上回る。本作戦のために様々な特殊機能を搭載したハイエンド・モデルだ。
コトブキを数人がかりで運びつつ、垓達は仮設テントへと移動した。先んじて派遣されていた調査班の面々も集まり、作戦会議が始まる。
ネオZAIA侵攻阻止作戦。これにあたっては、今回の侵略を防ぐというだけでなく、次回以降に至るまでネオZAIAによる管轄区域への進軍を阻止するための戦略を練る必要があった。作戦内容そのものは極めて単純だが、実行はそれなりに困難なものであり、時間を要する。
フラタニティ管轄区域は、三大勢力の主戦場たる市街地の郊外にある森林地帯の中に作られている。この森には、フラタニティのヒューマギア用ネットワークに接続している者以外に対して効果を発揮する、強力なジャミング装置が地中や樹木の幹などそこかしこに設置されている。
ネオZAIAの侵攻ルートに変化があったとはいえ、ジャミング装置の効力が無くなったわけではない。今回も同じことをするのみ、それが作戦会議で決まった方針であった。慎重に慎重を重ね、エンデュランスとフーが共同設計を行った特別製のジャミングシステムを今回は使用する。
地下道に大規模なジャミング設備を配置するためには、まず敵方の侵攻ルートを把握し、行く先々で遭遇するであろう尖兵らを無力化することで安全を確保せねばならない。その後に非戦闘員の手で設備を配する。これを繰り返し、ネオZAIAを追い返すのである。
大規模ジャミングの起点となる装置は先行する主力部隊が取り付ける。内訳は天津垓/仮面ライダーサウザー、エンデュランス、そしてフーの三名。設置さえ完了すれば後はフラタニティ構成員が作業を進めるため、垓達は自由に進軍できるとコトブキは説明した。作業のスピードを少しでも早めるため、なるべく効率化を図っている。
かくして、地下のベースキャンプから三人が出発しようとしていた。作戦用装備を詰め込んだバックパックを背負ったエンデュランスが、前方にて警備を行っていた調査班にハンドサインで撤退を指示する。
「ではコトブキ氏、我々は手筈通りに」
「さきにいってまいります」
「承知いたしました。皆様、どうか御無事で」
垓とフーが軽く手を振りつつ、先行するエンデュランスに追いつくべく小走りに去っていく。ベースキャンプの出口に立った漆黒の筐体が、小さくなっていく三人の姿をいつまでも見つめていた。
◆◆◆◆◆◆
出発から十五分程度が経過した。会話は最低限に、たった三人の主力部隊が巨大な地下通路を進む。バイクなどの車両を使う手もあったが、駆動音で敵を引き寄せる可能性があったために不採用となった。
高さおよび横幅は約二十メートル。半円状にくり抜かれた土の道は果てが見えない。ヒューマギアを通すにしては広い通路であり、車両や巨大ロボット兵器などの通行を想定して作られているらしい。道の端や天井には等間隔で電灯がセットされており、陽光届かぬ地中にあって暗所という印象は微塵もない。
未だ会敵なし。それ故か自然と緊張が解れ、垓がエンデュランスに対して切り出した。
「単刀直入に聞くが……その刀は一体?」
エンデュランスが垓の方を向く。身構えられたか、と口を噤む垓であったが、聞かれた当人は一瞬の間を置いて流暢に語り始めた。
「ピースメーカーの拠点で開発したものだ。対ヒューマギア戦闘を想定した、私の専用武器というヤツだよ。マギア用のナイフ数本を分解して刃を鋳溶かし、それをこの形に仕上げた。現時点での最高傑作だな」
「となると……ピースメーカーでの君の役職は、研究・開発に従事する技術者かね?」
「フラタニティの頃からそうだった。昔も今も、何かを作るという行為だけはやめられん」
エンデュランスはおもむろに刀を持ち上げ、鞘を握り締める。柄頭から鞘の先まで墨のように黒い。鍔も飾り気のない丸型であり、見た目としてはこの上なく素朴な刀だ。しかしエンデュランスは、無表情の兜に喜色を浮かべ、誇らしげに笑う。
「かつてこの国で作られた刀剣は、折れず曲がらずよく切れると言われていたらしい。真実がどうあれ、その言葉に私は憧れた。初めは兵器ではなく、生活の役に立つものを作っていたが、戦いの中で武器の持つ美しさを知っていったというわけだ」
「その刀が、技術者としての君の誇りということか」
垓はエンデュランスの言葉に、ZAIAの研究開発部に所属していた人物を思い返していた。かつて、ZAIAと飛電という二つの会社の社長として横暴の限りを尽くした天津垓。当時の彼が道具と呼んでその人生を狂わせた部下、その名を
紆余曲折を経て、唯阿はZAIAから離反する形で野に降った。垓が受けた彼女からの怒りこそは、人に寄り添って在るべきテクノロジーで、他者を弄んだかつての己に対してのもの……即ち、技術者としてのプライドである。
今となっては苦い思い出の一つだ。孤高こそが最強と信じ、多くの過ちを犯してきた。一生をかけても贖罪の完了には至るまい。
「あまつさま」
「何か」
「ぐあいがわるいのですか」
眉間に皺でも寄っていたか。たどたどしい語調で、フーが心配を口にする。垓はすぐさま平時の笑みを浮かべ、心配無用と告げる。
「1000%問題ない。ZAIAスペックも正常に稼働している。前方に敵影が六つ——敵影だと?」
垓の視界に敵を示す六つの赤いアイコンが出現する。遠視機能で拡大すると、ネオZAIAの尖兵たるトリロバイトマギアが五機に、隊長格と思しきビカリアマギアが一機。全てが黄金色の特殊コーティングを全身に塗布されている。前方五百メートルから徐々に三人に向かって近づいてきていた。遮蔽物もない一本道、遭遇は時間の問題である。
「ぬう、会話に夢中で気付かなかったか。フー、向こうの反応は?」
「まだきづいてはいないようです。こちらからしかけますか?」
フーの献策に合意しようとしたところ、エンデュランスが前に出る。左腰に差した刀の柄に手をかけ、視線で二人を制した。
「五番手風情と見くびられるのも癪というもの、ここは私の実力を示すとしよう」
「やれるか」
「伊達にアルファ・バレットを名乗っているわけではない。今となっては末席だがな」
エンデュランスが上半身を僅かに前に出し、倒れ込むような動作から一瞬にして姿を消す。歩いてくる一隊に向かって高速で接近するバトルマギアの様子を見るべく、垓とフーが走り出した。
刃が閃き、鋼の断たれる音が鳴る。マギアの膂力と反応速度から放たれる抜刀の一撃が、前に出過ぎた雑兵一人の首を飛ばした。強化コーティングを意にも介さぬ鮮やかな斬撃に、黄金マギア達の中で動揺が伝播する。
次いで二撃。手近な一人へと袈裟斬りから逆袈裟に仕掛け、X字の傷痕を刻まれたマギアが倒れる。ようやく攻撃に転じた敵勢の一人が背後からナイフで斬りかかるが、エンデュランスは振り向きもせずに刀を回転させつつ兵士の腹に刃を突き刺す。串刺しのまま刀を振り回して遠心力で投げ飛ばし、離れた位置で銃を構えた一人が飛んできた同胞により盛大に転倒した。辛うじて軽傷で済んだ二体のマギアが銃を手に持つ。
ビカリアマギア以外の全員が得物をナイフからアサルトライフルに持ち替え、バトルマギアを包囲した状態で撃ち始める。腰を大きく落として刀を右肩に構えたバトルマギアが、自らの装甲を頼りに腹部を損傷した兵士へと突撃し、弾丸を受け流しながら袈裟懸けに斬り捨てる。斜めに両断された屍の背後に回ると、バトルマギアは中途半端に繋がった上半身を躊躇いなく投擲した。
一斉射撃を受けたトリロバイトマギアのボディが爆散する。生じた煙を貫き、大跳躍したエンデュランスが落下の勢いから一人の肩口に刃を突き立てる。倒れゆく機体を足場に跳び、最後の雑兵の首筋めがけて刀を投擲した。まっすぐに飛んだ刀がトリロバイトマギアの首を貫くと、エンデュランスは回収ついでに軽く柄を捻って頭部を泣き別れとする。
率いていた兵士が僅かな時間で全滅し、隊長格のビカリアマギアが構えた。両腕のドリル型装甲を回転させ、黄金のボディが威圧的に輝く。
「早いな……見事な手際だ」
「まさかこれほどとは。もしやそうとうなじつりょくしゃなのでは?」
道の脇に身を寄せる形で、垓とフーが駆けつける。観戦する二人には目もくれず、エンデュランスが勢い良く斬りかかった。ビカリアマギアが両腕で防ぎ、一撃の間に交わされた無数の激突が鮮血じみて火花を噴き出させる。
一際大きな衝撃音と共に二者が離れる。頭部の装甲を回転させ、ビカリアマギアが突撃を仕掛けた。黄金の竜巻が迫る中、エンデュランスは納刀から腰を落とす。柄に手をかけたまま、その時を待ち構えていた。
刹那、火花が散った。斬り飛ばされた何かが宙を舞い、回転の勢いを失った金色が転倒する。放り出されたタケノコめいた物体、それはビカリアマギアの頭部装甲であった。エンデュランスが振り抜いた刀を構え、対手が立ち上がるのを待つ。
ビカリアマギアの突撃を、エンデュランスは居合抜きで撃墜したのである。それだけに留まらず、ビカリアマギアは強固な頭部装甲を一撃で半ばまで切断され、武器の一つを喪失した。黄金の強化コーティングによってその強度は並のマギアを上回るにもかかわらず、エンデュランスの一刀はそれをものともせずに鋼鉄を障子紙のように次々と斬り裂いてしまうのだ。
破れかぶれで両腕を振るうビカリアマギア。エンデュランスは抜刀から右腕を弾き、左腕を打ち落として逆手に持ち替え、柄頭で鳩尾を殴りつける。怯んだ隙に顔面を左拳で三度打ち、胸に掌底を当てて突き飛ばす。
ビカリアマギアが再度立ち上がり、両腕の回転を更に速める。前方に突き出した腕が凄まじい圧の気流を生み出し、両足を踏み締めていたエンデュランスが徐々に引き寄せられていく。回転に巻き込まれれば、いかに装甲が強固であろうと無事では済むまい。エンデュランスは苦し紛れに跳躍するが、ビカリアマギアから発する引力の方が上回った。
……本当に、苦し紛れであったか? ビカリアマギアの電脳にかすかな違和感が生じた頃には、既に遅かった。
跳躍から空中で一回転し、エンデュランスが刀を逆手に持ち替える。柄頭に片方の手を添え、引き寄せる力を利用して猛烈な勢いで組み付いた。ビカリアマギアの右肩に黒い刃が深く突き刺さったのを確認し、エンデュランスが力いっぱいに押し込む。引き抜きながら跳び離れ、今度は下段に刀を構えた。
大きく体勢を崩しながらも、黄金の指揮官は右腕からエネルギーの竜巻を放出した。エンデュランスはこれを這うが如き低姿勢で地面を滑りながら回避し、土塊を削りながら勢い良く斬り上げた。仰け反ったビカリアマギアの胸部装甲、その隙間へと刃が滑り込む。
鋼の断たれる音が決着を告げる。胸郭を抉り斬った刀が、右の肋を裂いて飛び出した。ビカリアマギアが力を失って倒れる様には目もくれず、エンデュランスは血のような青い液体を払ってから厳かに納刀する。
戦闘終了を伝えるように、エンデュランスが垓達へと軽く右手を振った。その実力を讃えるように、二人が拍手を送る。
「凄まじい技量だ。まさかヒューマギアのボディを易々と斬り捨ててしまうとは。それもネオZAIAの特殊コーティングを施された個体を……」
「戦う機会にだけは恵まれていた、ということだ。ABのリーダーであれば今より更に速く仕留めただろう」
刀の感触を検めながら、エンデュランスが言う。
「よそくよりもてきとのそうぐうがはやいですね。もしかすると、むこうはわれわれのこうどうにきづいているのでは」
「その可能性は極めて高い。何せ未帰還兵が少なくとも六人だ。ネオZAIAの巨大ネットワークを通じて情報を集めれば、我々の作戦を把握して止めに来るだろう。なるべく迅速にコトを済ませなければな」
フーの推測を垓が肯定した。その様子に、エンデュランスが首を傾げる。
「何かな、まるで珍しいものでも見たようなその視線は」
「ふむ……別人だと理解していても、やはり奇妙な絵面だ。ネオZAIA社長と同じ顔の男が、よもやパートナーとしての他者を置こうとは」
「ほう、詳しく聞きたいところだな」
ネオZAIAエンタープライズ社長・
骸の力は極めて強大である。今は何か一つでも情報が欲しい。
「私も全てを知るわけではないが……ネオZAIA社長の骸といえば、他者を使うことはあっても、
「……そうか。ネオZAIAの研究所は、今はピースメーカーが持っているという話だったな。本社から切り離されたと聞いている」
ネオZAIAエンタープライズ第一研究室。かつて「機能複合型ヒューマギア」なるものを研究していたとされる、謎の多い場所である。原因は不明ながら、かつては移動拠点でもあったネオZAIA本社から分離され、放置されていたものをピースメーカーが接収したという経緯がある。
そして……廃棄された研究室から発見された、正体不明のヒューマギア。それが、垓の傍らにいるフーというヒューマギアの来歴、ということになるらしい。自らの出生に関わる話題に興味を示し、フーが口を開いた。
「このさきにはねおざいあのほんきょちがある、ということのようですが」
「地下道の起点は、今は街の中心にあるネオZAIA本社の直下だ。現在もピースメーカーの本拠地では、地下から送り込まれたネオZAIA勢力に対する防衛戦が行われている。だが、それは裏を返せば『全ての道はネオZAIAに通ずる』ということでもある」
エンデュランスは淡々と事実を述べただけであったが、その言葉にフーの表情が僅かに綻ぶ。彼女がネオZAIAと戦うのは、自らの正体を求むるがため。記憶もなく、出生も知らず、世界に放り出された彼女に道を示したのは、過去から現れた天津垓であった。
「ならば尚更都合が良い。フーの正体を掴むついでに、ネオZAIAに天誅をくれてやるとしよう」
「……その嫌味っぽい言い草はヤツにそっくりだな。もしや悪党なのでは?」
「今は違うと言っておこう。昔はそれこそ骸と同レベルだったかもしれないが、人は変わるものだ……いや、変わるためのチャンスを得たと言うべきかもしれないが」
垓は自らの行いにより、重大極まる罪科を負った。その罪を償う道は、他者によって示されたものだ。今の彼は贖罪の中途にあるが、それでも誰かに道を示せる男でありたいという矜持はある。フーの探求に手を貸したのもそういう思いからなのだろう、と垓は己を分析していた。
エンデュランスがもたらした地下道の地形データから、Dr.コトブキはジャミング装置の設置を四度に分けて行うという方式を採用した。進行ルートを三段に区切るようにして、設備を整える算段である。
最初の目標地点まで、残り一キロメートル。前方から襲い来る敵影を確認し、エンデュランスが再び刀に手をかけた。それを制するように、今度は垓が前に出る。
「あれしきの雑兵、私一人でどうとでもなるが」
「まあ見ておくといい。たった今、進軍速度を上げる妙案を思いついたところだからね」
『
垓が懐から変身用のベルトを取り出し、腰に装着した。左右のスロットに対応した二本のプログライズキーを取り出し、徐々に明らかになる敵影を睨む。
『
編成は先程と同様。トリロバイトマギア五体に隊長格のマギア。今回は飛行能力を持つオニコマギアであるが、垓にとっては同様である。
『
生体認証によってアメイジングコーカサスキーが自動展開し、変身ベルト・ザイアサウザンドライバーへと装填される。
「変身」
『
現生種と絶滅種の力、ライダモデルとロストモデルが融合し、天津垓が仮面ライダーサウザーへと変身した。右手に出現した武器から光波の斬撃を飛ばし、前に出過ぎた三体を仕留める。サウザーの戦闘能力を支える万能の兵装、その名をサウザンドジャッカー。槍を思わせる形状だが、攻撃手段は見た目以上に多彩である。
紫色の結晶波動弾を円形に並べ、サウザーがその輪に飛び込んだ。エネルギーを増幅するリングが瞬間移動に等しいスピードを生み、その勢いから刺突を喰らった一体が絶命する。横に投擲したジャッカーはオニコマギアに避けられるが、背後のトリロバイトマギアには突き刺さっていた。引き抜きざまに不意を打つオニコマギアの鉤爪を防ぎ、サウザンドジャッカーの柄頭を思い切り引っ張る。
『
サウザンドジャッカーに内蔵された複数のプログライズキーのデータを引き出す攻撃、ジャッキングブレイク。それを確実に喰らわせるため、敵の防御を強引に突き破ってジャッカーを胸に突き刺した。マギアの装甲に阻まれつつも、至近距離でサウザーがその引き金を引く。
『
黄金の稲妻がオニコマギアを貫き、内部機構に至るまで焼き尽くす。雷撃を受けたマギアが爆散し、サウザーが自らの活躍を示すように両手を広げた。
「仮面ライダーサウザー、私の強さは桁外れだ。故に……こういうこともできる!」
敵のいなくなった地下道で、サウザンドジャッカーが横薙ぎに振われる。先端から巨大な有翼のライダモデルが飛び出し、戦闘を見ていた二人を仰天させる。
「あまつさま、もしやこれは」
「そういうことだ。徒歩では遅いというなら
このライダモデルの元になっているのは、フライングファルコンというプログライズキーである。ハヤブサのデータから作られたキーであり、使用者に高い飛行能力を与える。Dr.コトブキから提供された、飛電インテリジェンス製プログライズキーのデータ群から、サウザーはこのハヤブサのライダモデルを召喚した。
「妙案だな、これなら騒音で敵を引きつけることもない。それで、乗り方は?」
「背中に二人が乗り、残り一人は足に掴まってもらうのが良いだろう」
恐らく今後も敵との遭遇はある。地上への警戒を怠らないため、一人は足に掴まって下方を見るのが良い……それが垓の考えだった。
「では、私が下を見張ろう。操縦は任せる」
低空を羽ばたくライダモデルの右足にエンデュランスが掴まる。サウザーはフーを抱え、その背中に飛び乗った。
「では行くとしよう。存外に時間の余裕は無さそうだ」
サウザーが前方を指し示し、ハヤブサが速度を上げて飛び始めた。ネオZAIAの侵略を阻止すべく始まった戦いが、次なる領域へと加速する。
つづく。