IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK 作:TAC/108
フラタニティが設定した第二の目標地点・ポイントBは、激戦の最中にあった。
なだれ込むマギアを斬り伏せながら、エンデュランスが敵の合間を縫うように突撃する。敵の数が多い以上、一人一人と数を減らしていくよりは、強力な相手を確実に仕留めることで戦局を優位に運ぶ方が良い。彼が狙いを定めたのは、後方に控える謎の装甲車であった。
フジツボめいて砲口をあらゆる方位へと突き出し、マギアの頭部を持った装甲車が動く。決して広くはない戦場で、味方を巻き込むことも厭わない射撃がエンデュランスを襲った。
前方へと放たれた銃火を大跳躍で躱し、真上を取った。目にも留まらぬ高速の斬撃で上方向の一斉射撃を打ち落とし、主砲を兼ねるトリロバイトマギアの頭部へと刀を突き刺さんとした、その時。
光の速さで右肩を撃ち抜かれ、屈強なバトルマギアがあっけなく撃墜される。トリロバイトマギアの頭部から放たれたレーザー砲撃が、一瞬にも満たない間にエンデュランスを迎え撃ったのだ。
「しくじったか……ッ!」
応急処置用の流体金属アンプルを使う暇など存在しない。放り出された刀に手をかけた兵の一人を殴り倒し、刀を取り戻しつつ装甲車を睨む。マギアの顔面が上下に開き、再びレーザー砲が口を開ける。
出し惜しむ余裕は無かった。かくなる上はピースメーカーの屈強たる幹部六騎、
「
バトルマギアの内側から繊維状に分解されたライダモデルが溢れ出す。危険を察知した敵兵が四方八方から銃撃を見舞うが、バトルマギアから発生した衝撃がそれらを無効化した。黒光りする鎧が弾け飛び、新たな装甲を身に纏う。
装甲の増加は上半身に集中し、顔面からは牛のような赤い角が二本生えた。胸から両肩にかけて分厚い前面が覆い、背中には一基の大型ブースターが追加されている。両腕には蹄じみた形状の打突武器がセットされ、灰色と赤のツートンカラーによって屈強なバッファローの意匠を形作る。
エンデュランスが宿すライダモデルの名は『クラッシングバッファロー』。前に立つものは全て、その強烈な突進力によって粉微塵に砕かれる。本来ならば両腕の武器と頭部の角がその役割を果たすのだが、バッファローマギアとなったエンデュランスは、なおも自らの得物として刀を構えた。
納刀から腰を落とし、ブースターから炎を噴かせる。踏み締めた両足が舗装された地面を削り、ヒューマギアの視覚にも到底捉えられぬ速度でバッファローマギア・エンデュランスが飛び出した。
鋼鉄と推進器の音が鳴り響く。赤い稲妻が地を走り、軌道上のマギア達が次々とその首を空に舞わせる。姿を見せた一瞬、装甲車のマギアがバッファローマギアの目を見た。視線がかち合った次の刹那、暴風が吹き荒れる。
「あいにくだが……この姿になると、
装甲車の上部が宙を舞った。装甲車の背後で納刀したバッファローマギアが、次の敵を狙って突撃する。誰に顧みられるでもなく、マギア装甲車が爆散した。
バッファローマギア・エンデュランスが持つ、ただ一つの攻撃手段。それは
その理屈は極めて単純。大型ブースターの大出力噴射が生み出す突進力と速度を、斬撃の威力に変換しているのだ。十把一絡げのマギア程度が避けられる一撃ではなく、またエンデュランスの強化された膂力によってその威力は対象の
実装したエンデュランスが戦場を暴れ回る中、サウザーとフーも各々の戦いを繰り広げる。フーが手袋から橙色に光る四脚のライダモデルを出力し、サウザーの援護に回った。
「ラッシングチーターか」
高速の爪牙が次々とマギアを斬りつけ、沈黙させる。フーが保有するライダモデルの一つ、ラッシングチーターによる攻撃であった。しかし、波濤のように攻めかかるマギア達は執拗に二人を狙ってくる。
「あまつさま、こちらを」
「貰っておこう!」
フーが作り出した可変兵装・アタッシュカリバーがサウザーの手元に飛ぶ。自ら手にしたサウザンドジャッカーと合わせての二刀流から、光波の斬撃で周囲を蹴散らした。サウザーがアタッシュカリバーを鞄の形に折り畳むと、エネルギーが充填される。
「伏せろ!」
『カバンストラッシュ!』
変形させた剣から黄色の斬撃光が飛び、マギア達を斬り裂いた。サウザーはカリバーを投げ捨て、サウザンドジャッカーを振るって火炎の竜巻を放つ。
「数が多いな……!」
既に最初にいた数の半分以上は減らした。しかし、道の先から新たな戦力が追加投入され、全滅する気配がまるでない。後方からコトブキ率いる作業班が接近してきていることを考えれば、かけられる時間は多くないのだ。最悪の場合、コトブキ達が主力部隊とネオZAIA尖兵との戦いに巻き込まれる形で作戦そのものが破綻しかねない。
味方を踏み潰しながらマギア装甲車の一機が迫る。上半身を捻って弓矢を引き絞るようにジャッカーを構え、その場で突き出す勢いを乗せて紫の光線を撃ち放った。マギア装甲車の前面装甲が大きく抉れるが、致命傷には至らない。焦りが狙いを鈍らせる。
その時である。フーがサウザーに何かを投げ渡した。二つの小型ジャミング装置だった。一つはポイントB、もう一つは最終目標……即ちネオZAIA本社の地下に設置する予定のものであった。
「フー、何を——」
「てきのねらいがわかりました。ここはわたしがひきうけます」
チーターのライダモデルに飛び乗り、フーが言った。彼女を乗せたライダモデルが全速力で敵の群勢を突破し、前へ前へと進んでいく。
独断先行を止める間もなく、フーの姿は見えなくなった。それに釣られるようにして、マギアの軍隊がフーを追って本拠地の方向へと走り出す。隊長格の数名とマギア装甲車一機を残し、僅かのうちにポイントBからネオZAIAの戦力が引き上げていった。
何が起こったのか、天津垓は理解できなかった。考える暇も与えずに、黄金のマギアが襲いかかる。飛びかかる敵を撃墜し、周囲に目を向ける。エンデュランスがマギアを次々と斬り捨て、残る戦力はサウザーの前に現れた一体とマギア装甲車のみとなった。爬虫類絶滅種・クエネオスクースのデータから作られしクエネオマギアが、首回りの曲刀じみた武器を手に持つ。
「早いものだな……決着をつけるとしよう」
垓が低く言った。事態を呑み込むより早く手が動く。ジャッカーを振り下ろし、受け太刀となったクエネオマギアの防御を強引に押し潰す。転倒したクエネオマギアが苦し紛れに曲刀を投げるが、サウザーの薙ぎ払いに弾かれて二刀が彼方へと吹き飛んだ。
『JACK-RISE! JACKING BREAK!』
ジャッカーの出力した紫の結晶波動弾が次々とそのボディを貫き、クエネオマギアが爆散する。マギア装甲車のレーザー狙撃は得物で受け止めつつ、サウザーの思考に合わせて四方八方から紫の閃光が装甲車を焼き尽くした。
機能を停止した装甲車が爆発する。数分前まで道を満たしていた敵兵は、今では残骸を除いてはただの一人もいない。
フーはなぜあのような行動に出たのか。そして、フーを追うようにネオZAIAの兵達が一斉に引き上げた理由は何だったのか。垓には何一つ分からない。フーとの通信も繋がらなくなってしまった。Dr.コトブキにどう申し開きをしたものか……顎に手を当てて考え込む中、車輪の音が聞こえてきた。
フラタニティの車両である。作業班を乗せたトレーラー車が、主力部隊であるサウザー達を追ってポイントBに到着したのだ。
停車したトレーラーから作業員が続々と現れる。全員が降りると、車両からコトブキの声が話しかけてきた。
『どうやら危険な状態のようですね。速やかに作業を進めつつ、状況を整理しましょう』
◆◆◆◆◆◆
天津垓はトレーラー車の中に入り、黒い筐体に事情を説明した。エンデュランスはジャミング装置の調整役として作業班に指示を飛ばしている。
「敵の狙いが分かった、と。どうやらフーは結果を急いだようですね」
コトブキは垓の話を冷静に分析し、簡潔に言った。部下の危地にあって冷徹にすら思えるが、コトブキは淡々と述べる。
「確かに、ネオZAIAが何らかの理由でフーを狙うだろうとは考えていましたし、フーもそれを理解していて、自ら敵の懐に飛び込むという行動に出たのでしょう」
「では、ネオZAIAの目的は進路妨害ではなくフーにあったと?」
そうではない、と言った上でコトブキは可能性の一つを提示した。
「敵の目的が進路妨害……ひいては我々と主力部隊の合流を狙った作戦そのものの破壊であったのは間違いありません。ただ、戦力が追加投入されたところを見るに、土壇場で方針を切り替えたようですね。数で主力部隊を疲弊させ、突破口を切り開くための
恐らくはネオZAIAのネットワークから骸が直接に指令を下したのだろう。コトブキはそう結論づけた。
骸はネオZAIAのネットワークを通じ、兵士達を介して戦況を把握している。兵士一人一人を自在に動かし、有利も不利も演出してみせる。フーはそれに釣られたのだ。自らが突出することで敵の意表を突くという策を、骸が狙っていたとも知らずに。
「私がついていながら、申し訳ない」
「落ち込む必要はありませんよ。向こうの目的が何であれ、フーは必ず取り戻します。作業が終わり次第すぐに出発し、最後の目標へと進みましょう。それと……渡すものがありましたね」
黒い筐体が展開し、小さな機械を載せた台が迫り出した。フーから垓に渡されたジャミング装置と同じ形をしている。
「元々はフーに渡す予定でしたが、この際ですので貴方に託します。機能は秘密としておきます。さすがにこちらはネオZAIAに漏れるとマズいですからね……」
垓はその装置を懐に仕舞い込んだ。車内で作業の完了を待っていると、バトルマギアの姿に戻ったエンデュランスが入ってきた。
「ポイントBでの設置作業は終了した。次の目標に出発するか?」
「お疲れ様でした、作業班は帰還させてください。この車両は我々だけで出発します」
垓とエンデュランスが外に視線を向ける。コトブキは既に作業班に迎えを寄越していたようで、後方から新たな車両が到着した。コトブキ達を乗せたトレーラーに一人一人が手を振り、迎えの車に乗り込んでいく。
「彼らのことも、裏切ってしまっただろうか」
垓がこぼした。彼らにとってもフーは大事な仲間である。コトブキはフーが消息を絶った旨を部下の者達に明かしたが、垓やエンデュランスを責める者はいなかった。しかし、内心では忸怩たる思いもあろう。
「まだ結果は出ていません。作戦を遂行し、フーを取り戻す。むしろこれからなのですよ」
コトブキは肩を落とした垓を励ます。作業員を見送ったエンデュランスが、トレーラー車に乗り込んできた。
「運転は?」
「私の操作で行います。出発しますよ?」
垓とエンデュランスが頷き、運転席は無人のままトレーラー車が走り出した。コトブキのAIを接続することで車両の運転が制御されていると、コトブキ自身が語った。
かくして三人は最後の目標地点・ポイントCへと向かう。因果の集う場所は、ネオZAIAエンタープライズ本社……その直下に存在する地下基地である。
◆◆◆◆◆◆
ネオZAIAエンタープライズの侵略ルートたる地下道を、橙色の光が駆け抜ける。チーターのライダモデルに跨ったフーが、単身で敵の喉笛に牙を突き立てんと一直線に走っていた。
目指す先はネオZAIA本社ビルの地下階層。外部協力者エンデュランスよりもたらされたデータによれば、社長たる骸は地上に落とされた本社ビルから根を張り、張り巡らせた地下通路から膨大な戦力を全方位に送り込んでいる。骸が陣取っているのは、ネオZAIA本社に新造された地下階層であるとされていた。
フーは遥か後方よりポイントBから本陣へと引き返す敵兵の足音を聞いた。数は十や二十ではなく、ポイントBを守っていた兵士のほとんどがフーを追うように撤退している。ここまではフーの狙い通りであった。
アスファルトで舗装された道の先に、トンネルの出入口めいた穴が見える。その先から漏れ出る黄金の光に、フーは既に目的地が目と鼻の先であることを悟った。敵軍を大きく引き離しながら、あと十秒もしないうちに彼女は敵の本陣へと突入するだろう。
果たして、フーは地下道を抜けてその空間に立ち入った。
壁は眩い黄金に輝いており、それらの光を鏡合わせに反射して更に明度を増しているとすら思える。高さ約二十メートルの天井、その中心からは逆さにしたピラミッドめいた何かが突き出ており、周囲には作業に勤しむマギア達の姿も見えた。何もかもが黄金一色で、フーは例えようのない緊張感を覚えた。
その時である。
「よく来てくれた。フーと言ったかな、今の君は」
「あなたは……」
フーの正面に光の球体が飛来し、中からスーツ姿の男が現れる。黒いスーツを紫と金の格子模様で彩ったその男は、フーもよく知る人物……天津垓と同じ外見をしていた。三大勢力の首魁が一人にして、ネオZAIAエンタープライズの社長たるヒューマギア、骸である。
「単独で突破してくるというのは些か予想外だったが、結果としては同じことだ。君が我が下に現れるのは、最初から決まっていたことだからね」
「なにをこんきょにそのような——あ」
骸が虚空に手をかざすと同時、フーの双眸が虚ろに落ちる。光を失った目でぼんやりと頭上を見上げる最中、彼女の電脳に無数の情報が流れ込む。
……否、それは骸からたった今与えられたものではない。いつからか彼女の記憶領域の中に、時限爆弾のように仕込まれていたプログラムである。防御が極めて強固なフラタニティのネットワークへと限定的にしか干渉できない骸が、密かにネオZAIAに縁あるフーの電脳に埋め込んだ特殊プログラム。
「ヒューマギアのシンギュラリティ……つまりは人間的自我の獲得。そのデータを利用した
骸が自慢げに語るが、その声はフーには届いていない。瞳の色が赤から黄金に切り替わった瞬間、視線が骸へと向けられる。
「わたしのうごきは……すべてゆうどうされていた、とでも」
「その通り。最初に接触した時点では君の正体が判然としなかったのは事実だが……本来ならプログライズキーに封入されるライダモデルを、私との戦闘で
ネオZAIAエンタープライズ第一研究室では、何らかの目的で「機能複合型ヒューマギア」なる存在の開発が行われていた。廃棄された研究所からフーが発見されたことから、この場所がフーの出自に関わっているのではないか、というのがフラタニティの見解だった。
ヒューマギア複数体分の機能を持つとされる、ハイスペックなヒューマギア。それを作ろうとしていた部署の跡地からフーが出現したことは、第一研究室それ自体と無関係ではあるまい。
「何かの役には立つだろう……と思ってバックドアを設けたのは正解だったな。以前と異なりトラップを踏むことなく君をネオZAIAに接続させることができたわけだ。さて、私は君をハッキングした際に得たデータを元に、我が社の一大プロジェクトにおいて当初予定していたプランAを復活させることを決めた」
「なんのはなしですか」
「君の正体にまつわる真実の話だよ。君は自分の意志で求めたと思ったのかもしれないが……実際は私がそうなるように仕向けたというだけのこと」
心という名の因果すら我が物として操る骸の所業に、フーの電脳から激情が湧き上がる。この男だけは生かしてはおけない。差し違えるともこの場で倒さなくては——そこまで考えた途端、急激にフーの情動が沈静化した。
この怒りは、果たして本当に自分自身のものなのか。そう考えた瞬間、フーは己の感情に疑問を抱く。フラタニティの民を説得した際にも湧き上がった、衝動にも近い心の動き。あれすらも骸がそうなるように誘導していたのだとしたら……逃避したくなるような現実が、否応なしにフーの自我に絶望を流し込む。心の冷え込む故に、その事実に気付いてしまう。
「わたしが、ことぶきさまを、ふらたにてぃのみんなを、あまつさまを……あなたのもとに、さそいこんでしまった?」
「そういうことだ。そして今、君がこの場所に辿り着いたことで全てが完遂される。ネオZAIAの社運をかけた一大プロジェクト……その名を『プロジェクト・ミレニアム』! 最終段階を遂行する最後の一手こそ、君だったのだよ。プランA……機能複合型ヒューマギアの
骸がその顔を喜色に染め上げ、高らかに笑った。
もはや手遅れである。対策を取ったとはいえ、フラタニティ管轄区域への侵攻ルートは既に開通している。骸の計画の内容が何であれ、フーがこの場に現れた時点でその目的はほぼ達成される。加えて、骸の変身する超人……仮面ライダーゼロサウザーは、オリジナルたる
膝から崩れ落ちたフーの瞳に悔恨が滲む。いつの間にやらフーを追っていた敵兵達が戻ってきていた。来た道を戻ることも叶わない。巨悪を倒す牙として先駆けたはずが、その巨悪に釣られたばかりか自らが釣り餌と化していたのだ。己の非力を呪うこともできず、黄金の目が呆然と骸を見上げた。
「とはいえ……総仕上げの前に、厄介払いはしておかねば。もうじきヤツらがここに来るだろう、必勝の策とやらを引っ提げて……そんなものは初めから成立していないというのにだ。彼らを討ち果たす手助けをさせてあげよう。かつての仲間が相手となれば、刃を握る手も鈍るだろうからね?」
果たして、骸が告げたのは、あまりに残酷な結論であった。
骸が変身し、フーの頭に右手を置いた。ネオZAIAのネットワークを通し、バラバラになっていたデータが繋ぎ直される。それは骸が社の研究所から得た、データ解析結果に記された「正しい形」の設計図に基づいて行われる。
それに合わせて書き換わっていくのは、フーのボディの組成であった。
「まさか
無感情にフーの身体を
濁り切った黄金の双眸は、何も写すことはない。周囲の音は何一つ、彼女の電脳には響かない。
故に。
道の先から白いトレーラー車が現れても、フーは何も感じることはなかった。
◆◆◆◆◆◆
ネオZAIAの兵士達をはね飛ばしながら、フラタニティのトレーラー車が黄金の空間に突入した。サウザーとバトルマギア・エンデュランスが車内から飛び出し、周囲を確認する。目を焼くほどに眩い黄金の壁に、仮面の下で垓が目を細めた。
「何という成金……実に悪趣味だな!」
「まったくだ。ここに長居していると視覚センサーに妙な異常が起こりかねん」
二人が悪態を向ける相手はただ一人。ネオZAIAに囚われたフーの頭に手を置いた、仮面ライダーゼロサウザーである。
「忌々しきオリジナルに野蛮な狼の手下か。予想外の珍客が混じってはいるが、まあ良い。ここでお前達の望みを絶ってくれよう」
『しばらく会わないうちに数も数えられなくなったようですね。フーを返してもらいましょうか』
トレーラー車に搭載されたスピーカーが、Dr.コトブキの声を発した。ゼロサウザーの視線がトレーラーに注がれる。
「Dr.コトブキ、よもや貴様までこの場に現れるとは……これは僥倖。フラタニティの希望を摘み取り、我が大願を成就させる時だ」
ゼロサウザーがフーから手を離し、虚空に映像を投影する。それはネオZAIAの社内で作成された、何らかのプロジェクトに関する資料であった。
「先行公開というヤツだ、お前達には特別に教えてやろう。我が社の一大プロジェクト……私の下で全世界が一丸となり、前人未到の大躍進を遂げる『プロジェクト・ミレニアム』の全容を!」
『PROJECT MILLENNIUM』の文字が大きく映し出され、サウザー達がそれを見上げた。次の映像には意匠化された地球と、その上から光線らしきものを放つ黄金の機械衛星が描かれている。
「まさか……通信衛星か!?」
「お前ならば気付くと思っていたよ、オリジナル。これこそがネオZAIAの世界支配計画……本社を通信衛星として宇宙に打ち上げ、全世界のヒューマギアを我が社のネットワークに強制接続させる。即ち、全てのヒューマギアが私の管理下に置かれるというわけだ」
耳を疑うような内容が語られるが、垓はそれを荒唐無稽な冗談だとは思っていない。骸の語る計画とはまさに、「全ヒューマギアの統括ユニット」としての衛星を宇宙に向けて発進させるということだったのだ。かつての時代においては通信衛星アークが担おうとしていたのと同様に、単一ネットワークによる支配が行われようとしている。
だが、そこで疑問を呈した者がいた。数年にわたって骸から狙われていたDr.コトブキである。
『お待ちを。では、貴方がフラタニティを……もとい、私の保有する飛電の技術を狙ったのは、なぜなのです?』
「そもそもの始まりは、私がこの容姿を手に入れたことだ。暗愚にも人工知能アークの覚醒を促し、人類を滅ぼす元凶となった
骸が声を張り上げ、黄金の天井を指差した。中心から迫り出した逆さのピラミッドか? 否、彼の言う「遥か上」とはそこではない。
今も投影される立体映像……宇宙空間に浮かぶ地球と通信衛星。即ち、彼が指すものとは——
「前人未到と言っただろう。人類が辿り着けなかった地球からの脱出、宇宙資源の開拓、他惑星への植民! プロジェクト・ミレニアムとはそのための地盤作りなのだよ。この世の管理者は私一人が在れば事足りる。遥かな
感情の昂ぶりに応じるように、ゼロサウザーの目が光った。骸の語った内容は決して蒙昧から生じた妄言などではない。地球という星を飛び出し、無限に広がる宇宙の彼方すら支配するという決意。それを達成するためには、まず母なる地球の全てを己の色に染め上げなければならなかった。
世に災いを成す三大勢力の巨頭が一人、骸/仮面ライダーゼロサウザー。その悪性とは際限なく万象を染め上げる「支配欲」に他ならない。大悪の義を掲げる
「さて……貴様達が手をこまねいている間に、私は全てを終わらせる準備を整えた。通信衛星『ミレニアム』のコアユニットはここに完成した! 彼女が我が手に収まるまでは私がその役割を果たす予定だったが、最初のプランを実行する手筈が整ったのでな——今こそ、真の絶望をくれてやろう」
ゼロサウザーが変身を解除し、逆さのピラミッドから放たれた光に吸い込まれるように消失する。黄金の瞳を光らせ、フーが幽鬼めいて顔を上げた。
「何のマネだ!」
サウザーの糾弾に、骸の声が答える。黄金の天井から、拡声器を通したようなエコーのかかった声が響いた。
『高みの見物だよ。お前達を倒すのは彼女で十分だろう? 昨日の味方は今日の敵、相手に情けをかける者が敗者となるのは戦場の常というものだ』
「サウザー、前を見ろ。何やら異様なエネルギー反応がある。今のフーは我々の知る彼女ではない!」
エンデュランスがバッファローマギアへと実装しつつ、刀を抜いた。
垓はライダーシステムに備わった計器から、フーを中心とする膨大なエネルギーの反応をキャッチしていた。センサーを視覚に切り替え、眼前の少女を見据える。
「戻れ……戻るんだ、フー! 君の居場所はネオZAIAなどではない!」
垓が叫ぶ。その声に反応してか、フーが金色の視線をサウザーへと向けた。
「わたしには……もう戻るべき場所などありません。ようやく見つけられたこの心も、彼に植え付けられただけの偽物だったんですから」
あくまでも無感動に、フーは否と告げた。骸の仕掛けた改造で会話機能が正常化したらしく、垓には彼女の発言が嫌に明瞭に聞こえていた。
「こんなわたしでも、皆に勇気を与えられたと思いました。けれど、その行いのせいで、わたしはフラタニティを滅びに導いてしまった。自分の正体も知ることができたのに、こんな風に苦しむだけなら……心なんて、『
フーの目に涙が光る。無論、彼女とてヒューマギアだ。その涙が有機生命体の流すものとは異なるのはこの場の誰もが理解している。
果たして、彼女の目から流れ落ちる涙は——異様な光沢を放つ、漆黒の流体であった。
床に落ちた
『期待の新人を紹介しよう。彼女こそは、我が社で研究されていた機能複合型ヒューマギア……形状を自在に変化させる飛電メタル02とライダモデルの相互作用によって完成した
新世界を築く者として、骸はかつてフーと呼ばれていたヒューマギアに新たな名を授けた。「
『アイオーン——私の千年王国に相応しい名前だ。これからはそう呼ばせてもらおう』
地球全土を掌中に置きながら宇宙へ漕ぎ出すネオZAIAの千年王国。それを永劫たらしめんとする決意の名であり、同時に今ある全てとの永遠なる決別を示している。
漆黒の流体金属は、固まることなく上半身のみの人型を保っている。絶望に心を封じた様を表すかのように、表情を持たない頭部はただ黄金の双眸を光らせるのみである。
『さて、アイオーンよ。私に歯向かう愚者共に最後の審判を下す時だ。その力を存分に示すがいい!』
心なき怪物・アイオーンが、両腕を禍々しい鉤爪状に歪める。振り下ろす勢いに乗せて光の斬撃が地を走るが、それをサウザーとエンデュランスの攻撃が打ち消した。
『エンデュランス……そして天津様。私も助力します、どうかフーを助けていただきたい』
「彼女がいなければ、最後の仕込みもできないからな。とはいえ……助け出すにも少々骨が折れるぞ、これは!」
エンデュランスは両腕の打突武器を盾として使い、次なる攻撃を受け流した。殴りつける巨人の両腕は衝撃の瞬間に質量を増大させ、その威力を高めている。
トレーラー車の上部に飛び乗り、サウザーが得物を構えた。
「悪辣な手管だ。ある意味では実に
七メートル近い大きさのアイオーンを、走行するトレーラー車の上から見据える。真後ろに回ったトレーラーに向けてアイオーンの首が百八十度回転し、二つの目からレーザーが放たれる。サウザンドジャッカーで光線を弾きつつ、サウザーが再び啖呵を切った。
「フー、君は私やフラタニティの諸君が滅ぶと言ったな! ならばここで証明するまでだ——私達は断じてここで終わらないということを!」
つづく。