IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK 作:TAC/108
Dr.コトブキはトレーラー車の中から、サウザーとゼロサウザーの戦いを見ている。フラタニティのネットワークから流れる映像を逐次確認しつつ、それに対するメンバーらの反応を伺う。
「……やはり皆、暴力を恐れている」
予想できたリアクションではある。コトブキが戦いを捨てたのは、守るべき者が増えすぎたからだ。戦うことに恐れをなし、武器を握ることもできなくなった者達を戦場に出すことはできない。たとえ自分達に、戦う力が残っているのだとしても。
フラタニティのヒューマギア達は暴力を恐れるあまり、殴り返すことを忘れてしまった。三大勢力は強大であり、故に最後の希望として過去から仮面ライダー達を呼び出したのだが、結果としてそれは戦闘の義務と責任を仮面ライダーに転嫁しているのと変わらない。
……恐怖を取り払う「裏技」はある。フラタニティの管理者であるコトブキは、ネットワークを通して管理下にある全ヒューマギアを、自らの意志に染め上げることができるのだ。未だ燃えるような戦意をその電脳に抱えるコトブキならば、彼らに武器を取らせることも不可能ではない。
「でもそうすると、結局三大勢力の二の舞なんですよねえ」
しかし、コトブキはそうしない。この戦意は己のためにあるモノだ。他者を己の意志にて塗り潰すために、ネットワークがあるのではない。
戦えないと言う者達を戦わせること、それはフラタニティという組織への裏切りであり、故に創設者であるコトブキが絶対に採らないと決めた方策である。
それ故に。
Dr.コトブキにとって、垓の行動は一つの転機を予感させるものでもあった。
「……また、戦えますかね。フラタニティは」
フラタニティのネットワーク上に自分の戦いを放送するという行為、その意図は理解できた。彼はフラタニティに
戦闘とは突き詰めれば暴力と暴力の衝突だ。フラタニティの構成員達は暴力に恐怖している。
それでも、そんな「暴力と暴力の衝突」から、何かを感じ取る心が残っていたならば……サウザーの戦いは、次の
「私もそろそろ、動くべきかもしれませんね」
白いローブの男が、電脳空間の空を見上げる。頭上に煌めく青い星に向けて、Dr.コトブキの電脳体が飛翔した。
◆◆◆◆◆◆
二人のサウザーがネオZAIA本社地下にて激突する。限界以上の力を発揮しているサウザーであったが、純粋なスペック勝負ではやはりゼロサウザーに分がある。五分の戦況が、徐々にゼロサウザーの優勢へと傾きつつあった。
「天津さま!」
「フー、今は手を出すな! 私は、フラタニティに見せなければならない……」
蹴り倒されたところに駆け寄ったフーの手をそっと払い、サウザーが立ち上がる。サウザンドジャッカーも使わず、右手に力を溜めて殴りかかったが、軽くいなされて反撃の横蹴りを受ける。
「光っていたのは単なる虚仮威しか? 貴様如きが、私の
サウザーが掌底を顔面に喰らい、続けて猛烈な拳の乱打を胴体に受ける。トドメの前蹴りで黄金の床に倒され、サウザーの身体から輝きが消える。
「強いな……以前よりも」
「当然だ。ゼロサウザーはサウザーを超える存在として作った……故に、
黒いマントを脱ぎ捨て、硬質化により巨大なブーメラン状の武器に変形させる。身の丈ほどもあるブーメランを片手で持ち上げ、腰を捻ってゼロサウザーが思い切り投擲した。
サウザーの装甲を袈裟懸けにブーメランが直撃し、回転する刃が押し出すようにして空中まで打ち上がる。ゼロサウザーの背後にブーメランが突き刺さるのと、サウザーが地上に落下するのは同時であった。
しかし。
「戦力差は歴然だということが何故分からない?」
再び立ち上がるサウザーを見て、呆れたように骸が言った。サウザンドジャッカーを手元に出現させ、刀身に炎を纏わせる。
「理解しているさ。それでも……お前を倒せば、ネオZAIAは終わる。フラタニティが勝利し、我々の戦いは後世に残る伝説となるだろう」
「そんな可能性は1%もありえない。忌むべきオリジナルも、ネオZAIAに歯向かう愚者どもも、今日この日を以て私が滅ぼす」
距離を詰めて振り下ろしたジャッカーが、ゼロサウザーの右手に止められた。刀身の炎がゼロサウザーの右腕に移り、爆炎の拳となってサウザーへと返ってくる。爆ぜる炎を防ぎつつ、ジャッカーの先端から鞭のようにしなる鋼鉄の管を飛び出させた。
「小癪な!」
管の先端は毒液の滴る太い針。真正面から叩き壊すべく、ゼロサウザーが拳を突き出す——が、その時であった。
管が急速に向きを変え、ゼロサウザーの右腕に巻きついたのだ。突然の変節に驚く間もなく、腕を猛烈に引っ張られたゼロサウザーの顔面に飛び膝蹴りが炸裂する。
「おのれ、本命はそちらかッ——!」
切り離した管が爆散するのに乗じて、サウザーが空中から氷の斬撃を飛ばした。ゼロサウザーが装甲表面からエネルギーを解放し、全身から衝撃波を放ってサウザー諸共に凍結の斬波を粉砕する。
ジャッカーを杖代わりに再起するサウザー。その視線に曇りはなく、ただゼロサウザーだけを見据えている。
「勝てないと分かっていながら立ち上がるとは……愚かだな。所詮お前は人間、オリジナルを超えるべくアップデートを続けてきた私に敵うとでも」
「お前の勘違いはもう一つあるぞ。
仮面のシルエットは同じだが、裏側にある両者の表情は対照的であった。垓は不敵に笑み、骸は疑義と苛立ちに顔を歪める。
「そこまで殺されたいのなら望み通りにしてやる。忌々しきオリジナルの仕掛けたショーは、フラタニティの絶望で幕引きだ」
ゼロサウザーの装甲に血管じみた光のラインが走る。金と紫の二色が格子模様を描くその姿は、ゼロサウザーの出力上昇に合わせて輝度を増す。
地面を蹴ってゼロサウザーが距離を詰めた。一瞬にも満たないうちに接触寸前にまで迫り、ボディブローをサウザーに喰らわせる。痛打に半身を折るサウザーの腹を殴り抜ける瞬間、ゼロサウザーの拳から轟音と激しい光が生じた。
ゼロサウザーの放った紫色の稲妻が二発目のインパクトとなってサウザーを吹き飛ばす。壁に叩きつけられ、うつ伏せに床へと倒れ込むサウザー。しかし、寝転んだ状態から紫の結晶を飛ばし、追撃してくるゼロサウザーから身を守る。
結晶波動弾の防壁が一撃で粉砕されるが、その先にサウザーの姿はなかった。頭上から降り注ぐ冷気が全身を凍結させ、僅かな間にゼロサウザーが氷漬けとなる。結晶の一つとその身を同化させたサウザーが、空中へと逃れながらジャッカーから冷気を放ったのだ。
サウザーが背後に回ったのと、ゼロサウザーが自力で氷の拘束から脱するのはほとんど同時だった。電撃を纏う刃で背中から斬りつけ、視認も困難な速度でジャッカーを何度も突き刺していく。トドメに放った強烈な突きを、正面を向いたゼロサウザーがその胸板で防いだ。
ゼロサウザーの複眼が妖しく光る。見覚えのある薄い光の膜が、ゼロサウザーを一瞬にして包み込んだ。
ネオZAIA本社を空中移動拠点としていた要たるバリアシステム。ゼロサウザーにも同様のものが搭載されており、その突破は困難を極める。
「ここを何処と心得る。地に墜とされたとはいえ本社は本社、エネルギー供給体制は万全だ」
ゼロサウザーの右手に紫色の炎が灯る。炎が五本の鉤爪を形成し、前方を薙ぎ払うと同時に鋭い斬撃がサウザーへと飛んだ。傷跡を刻んだサウザーが吹き飛びながら地面を転がる。
「お前が勝つ確率は0%、それをこの場で証明するとしよう。夢を抱えて死ぬがいい」
『サウザンドディストピア!』
自律飛行するマントがゼロサウザーの背中に収まり、翼となって空中への飛翔を助ける。飛び蹴りの体勢となったゼロサウザーが、金と紫の渦巻く光を右足に纏わせ、必殺の威力を解き放つ。
空中から一直線に、ゼロサウザーのキックがサウザーを射貫いた。凄まじき一撃をその身に受けたサウザーが、壁に叩きつけられながら大爆発を起こす。
ゼロサウザーはマントを翻しながら緩やかに着地した。確かな手応えを感じつつも、紫の双眸は煙る爆心地を睨みつける。
周囲から悲鳴が上がった。この戦いの様子は、天津垓を通じてフラタニティの全ヒューマギアに向けて配信されている。彼らの声が絶望や悲嘆に落ち込んでいくのは時間の問題であった。
ゼロサウザーは観客には目もくれず、フーに視線を移した。戦闘の最中、フーはずっとサウザーの後ろに控えていた。今もサウザーが激突した壁を見据え、固唾を呑んでその様子を見守っている。
骸にはこれといった感慨はなかった。自らの勝利は当然の帰結である。何を思ったか、フーの手を借りることなく一騎討ちを望んだが、それ故に単純な力の差によってサウザーは敗北した。
愚かなことだ——と、冷徹な結論を脳内に導いた時、ゼロサウザーの仮面の下で骸が眉をひそめる。
嫌悪や敵意ではなく、疑問によって。
何かがおかしい。
フーの助力も求めなかった。アイオーンの力を利用すれば、
加えて、この状況である。まるで格闘技の試合中継めいて、ネオZAIA本社直下での戦闘の映像が今もフラタニティに向けて流されている。わざわざ勝利の絶望的な戦いを見せることに、何の意図があったというのか。
……事ここに至って、骸は己のオリジナルたる人物のことを全く理解できなくなった。天津垓に関する
立体映像の向こうから、歓声ともつかない驚きの声が聞こえてきた。ゼロサウザーが思考を打ち切り、観客達と同じ方向……サウザーが叩きつけられた壁の方に目を向ける。
果たして、そこには。
傷だらけになりながら立つ、天津垓の姿があった。
◆◆◆◆◆◆
ゼロサウザーによる必殺の一撃を受けたサウザーは、地下空間の壁に激突して爆散。天津垓は無念にもその命を遥か未来の天地にて終えた。
……はずだった。
天津垓の意識が覚醒する。そこは踏み締める地面すら定かでない0と1の量子が揺蕩う空間——即ち、
「負けたか……ここまでは
周囲を見渡し、垓は現状を把握する。垓は己の意識が電脳空間へと飛んだことを確認し、思考によって情報を手繰り寄せる。
サウザンドライバーの機能は生きている。ライダーシステムの運用に支障はない。身体の負傷は大きいが、最悪
それよりも気にかかることは、
「やはり反応は芳しくないな。早々に戻らねば望みを絶つことになりかねん」
フラタニティのローカルネットワークを通して、様々な感情が垓に伝わってくる。
暴力や戦闘行為に対する恐怖、それを見せつける垓に対する疑念、あるいはサウザーの敗北に対する危機感。どうすることもできない自分達に対する無力感。
フラタニティの民が長く苛まれてきた感情が、伝染病のようにネットワークを蝕んでいく。
「天津様もお人が悪いですね。まさかこんな役割を単独で引き受けるとは」
突然、垓の背後から白いローブを羽織った男が話しかけてきた。
「……コトブキ氏か。もしや、私の意図に気付いていたと?」
「私が気付かねば、それこそ彼らには伝わりませんよ。このローカルネットワークを管理しているのは、他ならぬこのDr.コトブキなのですから」
白外套の男——Dr.コトブキの電脳体が言った。
「私には彼らの心が
「……引き止めるかな? まあ、組織の長としては当然の判断だ。仲間とはいえ、部外者に易々と方針を変えられては困るだろう」
「まさか。むしろ私としては、
コトブキが微笑みながら言い切った。垓も呆れたように笑う。
「全く、人のことは言えないぞ。ヒューマギア達を勇気づけるために私を利用しようなどとは」
「お互い様でしょう? それに発案は貴方じゃないですか。意図を読み取れたのは偶然ですがね……その作戦、私も乗らせていただきます」
電脳空間で、二人が互いの手を握り合う。
「新時代の夜明けを飾るとしよう。我々の作る伝説が、未来の糧となるように」
「ならば早急にお戻りを。皆を待たせるのも演出のうちとはいえ、長引けば客足も遠のくというものです」
コトブキの指し示す方に、光る扉が開く。垓は白いローブの男を一瞥し、扉の向こうへと消えていった。
◆◆◆◆◆◆
「バカな……なぜ生きている!?」
ゼロサウザーが疑問を投げかける。天津垓は傷だらけで、頭からは血を流し、服は至る所が破損していた。助けようと歩み寄るフーを、垓は片腕を突き出して制止する。
満身創痍といったところであるが、それでも余裕めかした笑みだけは崩さない。ベルトを腰に巻き、変身の準備を整える。
「私は、彼らに示さねばならない。人であれ、ヒューマギアであれ、そこに心が宿るのならば何度でも立ち上がれるということを」
「そんなものが……答えになるかァーッ!」
激昂するゼロサウザー。右腕を振りかぶり、垓に向かって殴りかかる。
直撃の寸前にキーを装填し、垓の身体は光に包まれた。
「理屈だけが答えだと思うな……変身!」
『PERFECT-RISE! The Golden Soldier THOUSER is born!』
ライダモデルとロストモデルの融合が衝撃波を生み出し、ゼロサウザーを弾き飛ばしながら垓が変身を完了する。
「見るがいい、フラタニティのヒューマギア諸君! 私はここだ、今もこうして生きている! だから……決して見逃すな。私が君達に示そうとしているモノを、倒されても再び立ち上がる勇気を!」
サウザーが両手を広げて声を張り上げる。視線の先には、フラタニティのヒューマギア達。戦いを恐れるあまり、戦うことを忌避するようになった者の集まりだ。
ゼロサウザーが黄金色の双剣を生成し、サウザーの得物と斬り結ぶ。激突の最中にありながら、垓の弁舌が勢いを減じることはない。
「今、この世界は決して平和などではない! ネオZAIAの侵略を全ての始まりとして、フラタニティは作られたと聞いている。本来の目的は、偽りの中立の中で密やかな平和を築くことではなく、支配に抗い、自分自身の手で平和や幸福を掴み取ることにあったのだ!」
垓はデタラメや憶測だけでモノを語っているわけではない。垓の語るフラタニティの理念は、創始者であるDr.コトブキが語った内容でもある。
そして今、ライダーシステムを通して、フラタニティのネットワークに繋がった垓は、言葉を通さずともコトブキの真意を理解することができた。
「青臭い夢であろうと構わない。君達には一人一人に夢があるのではないかな? だからこそフラタニティに集い、それが再び動き出す時を待っている……私に聞かせてくれ! 君達の夢を!」
サウザンドジャッカーでゼロサウザーの跳び蹴りを撃墜しつつ、サウザーは観客に呼びかける。
天津垓の得意とする、ある種のパフォーマンスであった。仮面ライダーとしての経験値と、四十五年の人生で培った政治力を活かしながら、己のステージを創り上げていく。
突然の呼びかけに観客席がどよめくが、やがてスクリーンの一つから叫ぶ声が聞こえてきた。
『俺……この戦いが終わったら、服を作りたいです! どんなタイプのヒューマギアでも着こなせる、色とりどりでカッコいい服!』
ベースキャンプから、ヒューマギアの青年が言った。仮面の下で垓が笑う。
「素晴らしいな、いつか私のスーツも作ってくれ!」
「ふざけたマネを……夢など見させるか!」
一人が言い出せば、更にもう一人が声を上げる。骸の怒りにも負けず、新たなヒューマギアが夢を語る。
『今は、街が酷いことになってるだろ? 俺は建築の知識があるからな、平和になったら新しい街の建物を作りたいぜ』
『あ、だったら私も……戦いで荒れ果ててしまった地域の自然環境を、できる限り復興させたいです。砂漠の緑化とかできたら良いですよね』
『あんま皆やらへんけどな、ワイは美味いモン色々食うてみたいわ。今のヒューマギアは人間と同じでメシ食えるやろ。昔の人間さんがどんなん食べよったか興味あるんよ』
『港に廃棄されてる船があるんです。アレを修理して海の向こうに出てみたいな、なんて……』
一人、また一人と、ヒューマギア達は思い思いの未来を想像する。実現するか否かではない。ささやかな内容であろうとも、彼らにはそれぞれの夢がある。
彼らの思いが……明るい未来を望む心が、ネットワークを通して垓に伝わってくる。色とりどりの希望を背負い、サウザーの全身が再び輝き始めた。
「その心を決して手放すな! 一人一人が『心』を諦めない限り、君達もまた立ち上がれる。何度だろうと、強くなれる!」
ゼロサウザーが双剣を投げ放つが、振り抜かれたサウザンドジャッカーが襲い来る刃を粉砕する。
「そんな夢は打ち砕く……世界の全ては、私一人に跪くのだ! 見果てぬ宇宙を征く大偉業のためにな!」
それでもゼロサウザーの力は圧倒的だ。螺旋を描くエネルギーを腕に纏い、猛烈な正拳突きを放つ。受け止めたジャッカーが、内側から亀裂が入るような嫌な音を立てた。
「それがお前の夢だというのなら、ここからは我々とお前の勝負だな。フラタニティが持つ数多の夢と、お前一人が掲げる夢……互いに譲れないモノがあるのなら、どちらが先に進むかは戦って決める他ないというワケだ」
「愚かなオリジナルめ、その答えは既に出ている! 弱者どもの夢が、世界を染め上げる私の夢に勝るとでも思ったか!」
ゼロサウザーの蹴り上げがジャッカーを跳ね飛ばし、低空で放つ連続の回転蹴りで更にサウザーを追い詰める。
五発目の蹴撃が横合いから迫った時、サウザーが蹴り足にフックで反撃した。想定を超える威力により、ゼロサウザーが押し戻される。
「バカな……ゼロサウザーの性能は常にサウザーを上回るハズだ。だというのに、それを超えてくるだと? 一体何をしたァー!」
「特別なことは何もしていないさ。お前が押さえつけていたモノを、少しずつ解放してやっているだけのこと」
スクリーンの中では、多くのヒューマギアが口々に応援の言葉を叫んでいた。
牙を抜かれた彼らの代わりに戦う騎士の、勝利を祈りながら。
『勝ってくれ、天津さーん!」
『俺達もいつかそこに行ってみせます! だから負けないでくれーッ!』
『貴方のおかげで夢を思い出せたんだ……お願いします、勝って戻ってきてください!』
『頑張れサウザー!』
『負けないでー! 仮面ライダーサウザー!』
いつしか、ネオZAIA本社の地下はサウザーへのエールで満たされていた。
世界を呑み込む欲望に立ち向かうは、祈りを受けて立つ黄金の戦士。人間大の姿が、今のフラタニティのヒューマギア達には何より巨大に見えていた。
だが、骸もまた本気である。ゼロサウザーのシステム出力を最大レベルにまで上げ、力を増したサウザーに猛撃を叩き込む。
拳と刃が斬り結ぶ度に衝撃が生まれ——唐突に、その時は訪れた。
「しまった……!?」
声を上げたのは天津垓だ。幾度目かの激突で、サウザンドジャッカーの刀身が半ばから砕け散る。驚愕が生んだ隙に、ゼロサウザーの高蹴りが差し込まれた。
「サウザンドジャッカーのないオリジナル・サウザーなど、多少力が強いだけのライダーシステムに過ぎない。いよいよ命運が尽きたな、憎きオリジナル」
「くっ……!」
地面に突き立っていた巨大ブーメランが、ゼロサウザーの右手へと吸い込まれるように戻ってきた。布めいた質感を取り戻したマントで前方を薙ぎ払うと、放電する黒い煙がサウザーを包み込む。
電撃の領域に身動きを封じられながらも、サウザーが膝をつくことはない。その様子に苛立ったゼロサウザーが、乱暴に己の似姿を蹴り飛ばした。
「全てが気に食わないな……やはりお前はただの劣等者。人間風情が、弱小ヒューマギア風情が、この私の理想に唾するなど……」
マントを羽織り、ゼロサウザーがサウザーの胸ぐらを掴んだ。一発、二発と殴りつけるが、垓は仮面の下で不敵に笑っていた。
「なぜ私が、お前のコピーなんだ? 人類を滅ぼした愚か者の貴様が、なぜこの世界でヒューマギアを救おうとする? なぜあんな連中のために戦う? お前に戦いの責任を押し付け、武器を取ろうともしない愚者どものために!」
骸の激烈な憎悪を伴った問いに答えたのは、眼前の憎むべき宿敵ではなかった。
『それは、彼が仮面ライダーだからですよ』
白いローブを羽織った巨大な男が、突如として虚空に姿を表す。実体ではなく、立体映像の幻影であった。
骸はその男を知っている。絶望的な状況に追い込まれようとも、あらゆる手を尽くしてネオZAIAを拒み続けたその男を知っている。
「Dr.コトブキ……その姿、まさかヒューマギアとしての姿を取り戻したのかァッ!」
『この姿では久しぶりですね。まさか覚えていらしたとは』
壁面のスクリーンからはヒューマギア達の動揺が伝わってくる。彼らの中には、ヒューマギアだった頃のコトブキを見知っている者達もいるからだ。実像持たぬ立体映像とはいえ、懐かしき姿の指導者が唐突に現れれば驚くのは当然であった。
「武器を捨てた貴様らフラタニティ如きが、こんな小賢しい手を使って私の支配を拒むなど……」
『そうしなければ、我々の絶滅は必至でしたからね。戦いたくはないが、同様に殺されたくもなかったわけです』
コトブキはあくまで冷静であった。フードの奥から見下ろす視線は、あらゆる情動を削ぎ落としたように冷え切っている。
『確かに我々は、過去から呼び出した英雄達に、今代の戦いを任せようとしていました。ですが……これがまた、思いもよらぬ効果を生んだようです。天津様の働きが生み出した——憧れという原動力を』
ゼロサウザーが周囲を見回し、音声を拾う。フラタニティの民の中から、徐々に応援とも異なる声が聞こえてきた。
『……俺も、天津さんみたいになれるかなぁ』
『立派な仮面ライダー、とまではいかなくてもさ。あんな風に、誰かのために戦えるヒーローってのには、こう……憧れるよな』
『身を削って私達を守ってくださってるんだ。戦うことはまだ少し恐ろしいが、それでも……ああなりたい、と思ってしまう』
『不破諌さんや滅さんも、普段はなんだか仲悪そうだけど、ここぞって時には力を合わせてるじゃないか。俺達もそうやって、戦えるのかな』
「憧憬だと? こんな男にか?」
フラタニティの民が語る「仮面ライダーへの憧れ」は、骸には到底共感し得ないものだった。
心底理解できないといった風に、骸の声が跳ね上がった。半ば呆れたように、垓は胸ぐらを掴まれたまま嘆息する。
「こんなとは、随分失礼じゃないか」
「認めん……惰弱者の夢や憧憬が、このネオZAIAを阻むかッ!」
ゼロサウザーがサウザーを蹴倒した次の瞬間、センサーが異なる戦闘の音を聞き取った。
「隙を見せたな!」
「チィッ、ABの五番手風情が!」
背後から猛スピードで斬りかかったのは、赤い二本角を生やしたマギア。黒光りする刀を手にしたバッファローマギア・エンデュランスが、ゼロサウザーの不意を打ったのである。
「まさか……我が社の軍勢を単騎で撃滅したのか!?」
「出し惜しみが透けて見えるぞ、ネオZAIA。あの程度に敗れるようでは、アルファ・バレットの名が泣く」
一人で軍勢を相手取るエンデュランスの戦闘能力もさることながら、恐るべきは彼の得物たる刀の耐久性である。
刃の輝きは激しい戦闘の中で減じていたが、今に至るまで刀身には刃こぼれ一つ無い。ヒューマギアという鋼の塊を断つべく、極限まで強度を重視して作られたエンデュランスの最高傑作は、決して折れることはなかったのである。
「お立ち合い願おうか、と言いたいところだったが、その必要はなさそうだ。我らは誰一人お前に勝つことはできまいが……三対一なら話は変わってくる。そうだろう?」
「三対一……?」
電子的に加工されたエンデュランスの声は、この状況に愉悦するかのように笑っていた。ゼロサウザーがエンデュランスに背を向けると、フーの手を借りて立ち上がるサウザーの姿があった。
「どうやら総仕上げの時が来たらしい。さて……私は君に、勇気を与えられたかな?」
垓は傍らに立つ少女に尋ねた。
フーの答えは既に決まっていた。垓によって絶望の闇から救われた今、彼女は真に自らの貫くべき想いを定めていた。
「はい。わたしも戦います……この身体で、戦い抜いてみせます。今度こそわたしは、わたしの想いで戦いたいのです」
ネオZAIAの最終兵器・アイオーンではない。無数の犠牲となったヒューマギアの誰かでもない。
フラタニティ所属のヒューマギアであるフーとして、彼女はネオZAIAの首魁と相対する。
「骸……多くの犠牲によって成り立ったとはいえ、わたしを生み出してくれたことは、感謝しなければなりません。ですが、わたしはあなたとは違う道を行きます」
「私の計画は、新世界の扉を開く偉業なのだぞ。なぜお前がそれを理解しないのだ、アイオーン?」
「わたしは既にアイオーンではありません、フラタニティ幹部のフーです」
プログライズキーも、変身ベルトも彼女は持っていない。しかし、組み込まれたプログラムが、彼女の新たな変身を実行する。
起動コードは決めていた。「変身」とも「実装」とも異なる、新たな未来へ舵を切るとっておきの言葉だった。
「この心の求めるままに、為すべきことを為します——
フーの身に宿る流体金属によって成形された装備が、一瞬にして彼女を戦士の姿へと変えた。それは彼女が無数のデータの中から選び取った、「サウザーと並び立つ戦士」のイメージ像であった。
頭から爪先まで漆黒に染まった、人型の戦士。ネコ科動物を思わせるマスクと、ベーススーツの右半分を覆う強化装甲。そして、変身ベルトとして備え付けられた真っ黒な拳銃は、不破諌/仮面ライダーバルカンも用いるエイムズショットライザーと同一の形状だった。
垓はその姿を知っている。かつて彼の部下だった女性が変身した、仮面ライダーの姿と瓜二つだった。
「バルキリー、だというのか……フッ、中々のサプライズだな」
「敢えて名付けるなら、『
「1000%の仕上がりだ。私と一緒に戦ってくれ、フー!」
仮面ライダーバルキリー・ラッシングチーター。チーターの力を宿す高速の戦士を模した漆黒の騎士が、その複眼のみを赤く光らせる。
シャドーバルキリーが両掌から光線を発し、装備を作り出した。破壊されたものと寸分変わらぬサウザンドジャッカーが新造され、サウザーがこれを受け取った。
仮面ライダーサウザー、バッファローマギア・エンデュランス、そしてシャドーバルキリー。三人の戦士が集う。巨悪、ネオZAIAを打ち倒すために。
各々の武器を手に、三騎がゼロサウザーへと突き進む。
つづく。