IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK 作:TAC/108
サウザーとシャドーバルキリーが並ぶように飛び出した。シャドーバルキリーはその能力においても
故に、走行速度ならばサウザーをも上回る。先行して漆黒のショットライザーを連射し、ゼロサウザーの防御を誘発させた。
「今です、天津さま!」
「任された!」
地面を強く踏み締め、サウザーがシャドーバルキリーを跳び越える。意図を悟ったバッファローマギア・エンデュランスが、ゼロサウザーの背後から居合斬りを浴びせた。
骸の予測を上回る速度の斬撃、しかしゼロサウザーの全身を皮膜めいて包むバリアはそのダメージを一切通さない。背中のマントで刀を絡め取り、落下してくるサウザーの刺突は肩で受ける。
二者を同時に相手取りながら、ゼロサウザーは優勢。しかし——三人目を目で追った矢先、針のように細く鋭い光がゼロサウザーの装甲を撫ぜた。
「何だ!?」
「お忘れですか、わたしがネオZAIAで作られたということを」
シャドーバルキリーがいつの間にやらその手に持っていた、巨大な狙撃銃。かつてピースメーカー幹部が一人、パンダマギア・クルーエルも所持していたレーザー銃と同様のものを使ったのだ。
「ネオZAIA、ならびにZAIAエンタープライズ製のプログライズキーに関するデータは、ほとんどがわたしの中に存在します。つまり、今のわたしはそれらを自在に行使できます」
「小賢しい……だが、それで私を倒せるとでも?」
「難しいですね。バリアがある限り、ゼロサウザーに攻撃は通らない。ならば」
シャドーバルキリーの複眼の色が、青に変わる。立体映像として空中に浮かんでいたDr.コトブキの電脳体が、応じるように青く光った。
「コトブキさま!」
『お任せを。流石にここまで連れて来ていただいたからには!』
白いローブの男を象った電脳体が両手を広げた。ゼロサウザーの通信システムに、本社ビルからの悲鳴じみたメッセージが次々と届く。
『ネオZAIAのお膝下まで来れば、ハッキングなどお茶の子さいさいですよ。本社のハッキング対策は思ったよりザルなんですねェ。これで本社の面々は私に釘付け、厄介なバリアシステムともこの辺でオサラバです』
Dr.コトブキが担ったのは、サウザー達への邪魔立てを防ぐ役割であった。コトブキによるハッキングの対策に人員を回させることで追加の派兵を封じ、更にはゼロサウザーの無敵を支える防御障壁システムをも無力化する。
フラタニティ創始者の冷徹な手管が、ゼロサウザーを追い詰める切り札として機能した瞬間である。
「卑怯な!」
『無敵バリア張ってた人のセリフですか? まあ即座に、完全にとはいきませんけども……彼らの刃は、いずれ貴方に届くかもしれませんね?』
ゼロサウザーを覆っていた光の皮膜に映像ノイズじみた揺らぎが生じる。バリア機能が弱まっている証だった。
「かくなる上は……バリアは捨てざるを得まい。だが、無敵の盾を剥がしたところで勝った気になるな!」
ゼロサウザーが本社ビルの支援を強制遮断し、余ったバリア用のエネルギーでライダーシステムの出力を倍以上に増幅させた。
ゼロサウザーを守る壁は取り払われたが、膨大なエネルギーを取り込んだことでシステム全体の性能が上昇している。装甲やベースアーマーの強度も、今までとは桁違いである。
「通常出力の300%を達成したぞ、もはや止められまい!」
「そこはウソでも1000%と言っておくことだな」
バリアが無くなったのを幸いと見てサウザーが仕掛ける。シャドーバルキリーの援護射撃がゼロサウザーの動きを止め、その隙にサウザンドジャッカーから放った光の斬撃を叩き込む。
ゼロサウザーはマントを切り離し、今まで以上のスピードで反撃した。軽く振るった腕でジャッカーを払い除け、大型車両の衝突に匹敵する威力の前蹴りでサウザーを吹き飛ばす。
エンデュランスの攻撃を封じていたマントは、それ自体が一つの生物であるかのように今も刀に絡みついている。材質を自在に変化させており、ゴムじみた強い弾力を発揮してなかなか離れようとしない。
サウザーと入れ替わりにシャドーバルキリーが突撃する。狙撃銃を身の丈ほどもある大型の鎌へと作り替え、ゼロサウザーを撹乱するように周囲を縦横無尽に駆け回る。
「見切れないとでも思ったか?」
機動力はシャドーバルキリーの方が上だとしても、今のゼロサウザーにはそれを目視で捉えられるだけの動体視力がある。ショットライザーによる牽制の弾丸を軽く摘み、本命の攻撃を待つ。
数瞬の後、その時は訪れた。刃に黒い炎を灯しながら、影のような戦姫が凄まじい瞬発力で距離を詰める。コンマ秒単位でその動きを捉えるゼロサウザーは、先程摘んだ弾丸にエネルギーを込めた。
(正面突破とはな。やはりこの程度)
シャドーバルキリーが攻撃を繰り出す直前に至近距離でバラ撒き、小さな体積の中で圧縮されたエネルギーを以て弾丸を破裂させる。威力は低いが確実に隙は生まれる。そのはずだった。
ゼロサウザーの身体が背後から突き飛ばされ、低空ながら宙に浮く。大きく腰を捻って薙ぎ払う大鎌が一閃し、ゼロサウザーの胴体を巻き込んで壁にまで吹き飛ばした。ゼロサウザーのダメージは軽微であり、叩きつけられた地点から瞬時に敵を捕捉する。
骸の計算を狂わせたのは、刀を手放して強烈な体当たりを仕掛けたエンデュランスだった。バッファローマギアが備える大出力のスラスターは、本来は突進力を強化するものだ。それを剣術の補助に使ったのは、エンデュランスなりのアレンジである。
「
「それは正当な取引を経てから言ってもらおうか……!」
ゼロサウザーはエンデュランスの刀に巻き付けていたマントを呼び戻しつつ跳躍し、空中で装着する。翼に変形させたマントの内側から小型爆弾を大量に撒き散らし、地上の敵を爆撃した。
ゼロサウザーは即座に次の異変を察知する。爆発が地上まで届いていない。何かによって防がれている。
爆煙を貫き、幾つもの光条が空を突き抜ける。仲間達の下に舞い戻ったサウザーと、姿を変えたシャドーバルキリーが、ゼロサウザーの送る爆弾を掃討していた。
シャドーバルキリーの姿は、ライトニングホーネットと呼ばれる仮面ライダーバルキリーの別形態へと変わっていた。地上での機動力は減ったが、内蔵火器による火力と空中戦能力を高めた攻撃特化形態である。
「コトブキ氏、私に一つ考えがある」
互いの攻勢、その間隙に天津垓はDr.コトブキにメッセージを送っていた。それはゼロサウザーを倒すための作戦であり、同時並行でフーとエンデュランスの二人にも同じ内容を伝達している。
『悪くない発想ですね。チャンスが一度きりなのを除けば、ですが』
「狙う価値はあると見るが」
『承知しました。ここが正念場、ジャンジャンバリバリ気張っていくとしましょう』
コトブキの言葉を聞きながら、サウザーは既に攻撃を開始していた。重機めいたエネルギーの塊をゼロサウザーの頭上に召喚したのを見て、エンデュランスが刀を回収しつつ走り出す。
頭上から降るプレス機械じみた重圧をゼロサウザーはアッパーで粉砕する。しかし、その直後に真下からの電撃で動きを止められ、ブースターの噴射でゼロサウザーと同じ高度に到達したエンデュランスの袈裟斬りで撃墜された。
ゼロサウザーが起き上がるのは一瞬のうちだった。しかし、その一瞬をこそサウザーは待ち侘びていたのだ。
「天津さま!」
シャドーバルキリーの手から飛んだ光が、サウザーの掌中で形を得る。真っ黒なプログライズキーだが、その能力は本来のソレと完全に同一だ。
『ブリザード!』
『Progrise key confirmed. Ready to break!』
サウザンドジャッカーが備える、プログライズキー・ゼツメライズキー両種に対応したスロットへと、フーが即席で生成したキーが装填される。
この時代では初めて使用する、サウザンドジャッカーの更なる機能であった。
『
キーからのデータ抽出と大出力攻撃という二つの機能を同時に持つ、サウザンドジャッカーの奥の手。
グリップのトリガーを引き、ゼロサウザーに至近距離まで接近してサウザーが自らの武器を突き出した。
ゼロサウザーの、足下に向かって。
ジャッカーの先端が接触した床の一地点から、目にも留まらぬ速度で氷の柱が飛び出し、ゼロサウザーを天井に向けて吹き飛ばす。
仮面ライダーを突き刺したまま伸び上がる巨大氷柱は、天井から生えている逆さのピラミッドめいた建造物——ネオZAIAエンタープライズ本社ビルの地下部分に向かって勢いを衰えさせることなく突き進む。
「な、何をする気——」
「コトブキ氏!」
『今ですね。"サウザンドシャッター"、
ゼロサウザーが本社ビルと氷柱に挟まれる直前、ビル側が中天の太陽めいて眩く輝き始めた。
Dr.コトブキは戦闘の片隅で高度なハッキングにより、ネオZAIA本社ビルに装備された防御障壁システムを一時的に掌握してみせたのだ。そして今、天津垓が即興で組み立てた作戦の真骨頂が発動しようとしている。
「ぐうぅっ、ぬああぁぁーーーッ!! 貴様らァ! よくも、我が社のバリアシステムをォォォォーーー!!!」
あらゆる外敵を弾くバリアが、元の主だったゼロサウザーをその絶大なエネルギーによって弾いているのだ。先端を尖らせていた氷柱は、今や超高熱を発する光の障壁に形を歪められ、花のように開いたままゼロサウザーを縫い止めている。
『エネルギーの指向性を外向きにしていますからね。自分を守るバリアに焼かれ——おっと!』
コトブキの電脳体が揺らいだ。バリアシステム『サウザンドシャッター』の制御を取り返されたのだ。だが、高まりすぎた障壁の出力に加えて、今のゼロサウザーはそのバリアのエネルギーを取り込んで力を増幅させた状態にある。いわば高エネルギー体同士の激突であり、故にその後の爆裂は必定であった。
だが、天津垓はここで手を緩める男ではなかった。
この時代で新たに絆を結んだパートナーに、全幅の信頼を寄せて。
「ダメ押しだ、派手にぶつけてやれ!」
『JACK-RISE! JACKING BREAK!』
「承知しました」
シャドーバルキリーが構えたレーザー狙撃銃に、サウザンドジャッカーからエネルギーが送り込まれる。チャージ時間を短縮して放つ一射は、防壁を背にしたゼロサウザーを照準に捉えていた。
轟音と灼熱。真紅の熱線がゼロサウザーに直撃し、飛散した光の粒子がバリアにすら焼き付けを作る。無数の力の交点となったゼロサウザーが、徐々にその姿も見えぬほどに輝きを増していき——ついに、その時は訪れる。
地下空間が眩い光に満たされ、その場にいた全員の視界を白一色に染め上げる。次の瞬間には破砕と爆発の音が鳴り響き、ゼロサウザーを起点とする大爆発が発生した。
爆煙が吹き出ると同時に視界が回復し、サウザー達は着弾地点を見据える。黒煙の先で、天井から伸びる逆さピラミッドに大穴が開いていることに気付く。
「ヤツはどこだ?」
「……着弾地点の付近に反応がありません。恐らく、爆発に乗じて本社ビルの中に逃げられたかと」
『そのようです。目的は恐らく、私の排除によるネットワーク機能の回復でしょうねェ』
ゼロサウザーは、垓の作戦を逆手に取った遁走を図ったらしい。本社ビル内部は未知の領域だが、早めに追撃を仕掛けなければネオZAIA本社による反撃が予想される。
決着をつけるならば、今しかない。
『マップデータを抜いておいて正解でした。恐らく骸が向かったのは、本社ビル地上一階にある動力室でしょう。"サウザンドシャッター"をはじめとする、本社ビルの特殊機能の源となる場所です。そこに向かって移動する高エネルギー反応が一つ』
「ゼロサウザーだな。追うぞ」
サウザンドジャッカーから空飛ぶハヤブサのライダモデルを出力し、サウザー達がその背中に乗る。
「……乗り込む前に一つ、話がある」
声を落とし、エンデュランスが切り出した。彼の目は未だ宙を揺れ動く立体映像のコトブキに向けられていた。
『私に、何か?』
「骸を天津垓とフーの二人に任せたい。私は、ピースメーカーの戦士として為すべきを為す。そのためには、Dr.コトブキ……貴方の力が必要だ」
『ピースメーカーの戦士として、ですか。ならば、それ以上の理由は問いますまい。天津様、フー、この件は私と彼の秘密ということで』
暗に促され、シャドーバルキリーが己の腹部に手を入れる。流体金属の波紋の中心から、二つの小型装置が抜き取られた。
一つは今回の作戦に用いるジャミング装置。もう一つは、天津垓がフーを奪還するために使った謎の機械であった。
◆◆◆◆◆◆
動力室に辿り着き、骸はその光景に安堵を覚える。
ネオZAIAエンタープライズの全ては、骸にとって代替可能な代物だ。社員たるヒューマギアも、本社ビルも、兵器をはじめとする数多の製作物も、時間をかけてもう一度作り直すことができる。
だが、そのために不可欠な要素がたった一つだけ存在する。ゼロサウザーが見据える黄金の光球がそれだ。
ネオZAIAエンタープライズ本社ビル一階・動力室。この部屋に存在する動力炉は、この時代にあっても替えが効かないモノで作られている。
天井から床下までを貫く円柱めいた機械に収納された、光を包み込む多面体状のケースは、五本の角を備えた戦士……即ち、仮面ライダーサウザーを示す紋章を浮かべながら、静かに輝いていた。
室内が明転すると同時、円柱型の動力炉から数本のケーブルが自動的に伸び、ゼロサウザーのベーススーツと接続する。ネオZAIAエンタープライズ本社の機能を一手に担う動力炉から送られてくる莫大なエネルギーは、ゼロサウザーのライダーシステムを全快させるには十分であった。
入り口の方に向き直ると、そこには宿敵の姿がある。
「ここが動力室だな。いよいよ決着の時だ」
骸と同じ声で話すオリジナル——天津垓/仮面ライダーサウザー。その傍らには、ネオZAIAの計画の要であった者。アイオーンと名付けられながらも、『
「それはこちらの台詞だ。それにしても、一人足りないようだが?」
「エンデュランスか、彼にはコトブキ氏の護衛を任せたよ。お前を倒すだけなら、我々二人で事足りる」
「調子に乗るなよ、烏合の衆めが」
会話を遮るように銃声が響いた。シャドーバルキリーの抜き放った拳銃が、不意打ちめいて弾を送ったのである。ゼロサウザーはすんでの所で弾丸を掴み、床に放り捨てる。
「随分と好戦的だな。フラタニティらしくもない」
「フラタニティはこれから変わっていきます。あなたに何を言われる筋合いもありません。わたしも、コトブキさまも、フラタニティの仲間達も、
漆黒のショットライザーで狙いを定めるシャドーバルキリーに対し、ゼロサウザーは視認もできないような速度で接近した。
それが開戦の合図となった。サウザーとシャドーバルキリーの拳が同時に繰り出されるが、ゼロサウザーの装甲は尋常ではないほどに硬い。
「ライダーシステムを修復したか、しぶといな」
「完膚なきまでに勝つとはこういうことだ」
「ならば、我々も同じようにするだけさ」
意味深な言葉を吐きつつ、サウザー達は二方向に散開する。シャドーバルキリーがクジラの尾を模した槍のような武器を生成し、地面に穂先を叩きつけた。
ゼロサウザーはこれを回避するが、穂先が触れた地点から流体金属による激流が生まれ、黒い飛沫が大小の針となって殺到する。同時に背後から稲妻が轟くが、ゼロサウザーは二つの攻撃を装甲強度を頼りに受け切る。
「いかなるダメージも通さない、これこそがネオZAIAクオリティ。ゼロサウザーこそは単純にして至高のライダーシステムであり、私はいわばネオZAIAそのもの。この巨大さの前では、お前達の攻撃など蟻の一噛みと大差ない」
サウザーの攻撃はゼロサウザーには通用しない。基礎性能ですらサウザーを上回り、更にはネオZAIA本社からの様々な恩恵を受けることで無敵を実現している。サウザンドジャッカーと同様の機能を四肢に備えるため、弱点らしい弱点はゼロサウザーには存在しない。
マントをはためかせながらシャドーバルキリーに接近し、ゼロサウザーが強烈なボディブローを入れる。殴り抜ける勢いに合わせて強烈な風圧が生じ、シャドーバルキリーのボディが動力室の壁に押し付けられた。
「新世界の礎となるがいい、アイオーン」
「がッ、あぅ……わたし、は、わたし達は……」
甚大なダメージを負いながらも、シャドーバルキリーは立ち上がる。流体金属によって形成されたボディは今の一撃でところどころが形状維持に支障をきたしていた。
「忌まわしきオリジナル、お前はここで冥土に送ってやる。然る後にアイオーンを用いて全ヒューマギアを支配し、私の計画を実現するとしよう」
「さて、どうかな」
「何が言いたい?」
まるで敗北の二文字など頭には無いかのように、天津垓の声は英気に満ちている。それが骸の電脳を疑問と憤怒に染め上げる。
「『プロジェクト・ミレニアム』と言ったか。お前の理想自体は、私のような人類にとっても夢のある話だ。宇宙進出は、この世界の人類が果たせなかった夢であり、ネオZAIAは確かにその偉業を実現する可能性があるわけだが……その過程で暴力と支配に訴えるのはなぜだ?」
「この世界のヒューマギアは、脆弱なローカルネットワークによってコミュニティを形成し、繋がっている。恒久的に平和を実現するためには、世界規模のネットワークが不可欠だ。従わないならば滅ぼすまで、千年王国を始めるには統一的ネットワークによる支配が最も効率が良い」
この世全ての意志ある者が、同じ思想の下に平和を享受する。それは古くから支配者と呼ばれる者達の中にある思いであり、その過程で流血や戦乱が生まれるとしても、根底には平和の実現という祈りがある。
ヒューマギアの時代において、その在り方を最も強く志向していた人物こそ、ネオZAIAエンタープライズという巨大企業の名の下に地球全土を支配せんとする「社長」の骸なのだ。
「ヒューマギアが一個体として人間より優秀であろうとも、ヤツらの意志は薄弱だ。人工知能アークのように自我を染め上げる術がある以上、その脆弱性を否定することはできない。だからこそ私は、ネオZAIAという単一のネットワークを通じてこの手に地球を掴み取る!」
骸の言葉を聞いて、垓は初めてその心理に思い至る。
やはり、骸はかつての自分と同じなのだと垓は実感した。「社長」という頂に在りながら、何よりも見通さなければならないモノを見落としているという事実。
つまりは。
自らが弱者と侮蔑した者達が、本当に取るに足らない存在であったのか、ということである。
巨大なる単一の存在として全てを俯瞰する骸の顎に、脳天を揺らす手痛いアッパーを喰らわせるだけの条件は、天津垓の掌中に揃いつつあった。
「……骸、お前は致命的な勘違いをしている。
サウザーに搭載されたあらゆる電算機器が唸りを上げる。フラタニティのネットワークを漂う情報を手当たり次第に吸収し、発動を待つ。
電子の空と、虚空を羽ばたく無数の翼が、背中を押す風をサウザーに送る。
「見えているか、フー。
「はい……聞こえます、天津さま。わたし達を立たせてくれる、皆の声が!」
垓とフーはネットワーク越しに、数多の心を受けていた。
祈り、感動、憧れ、期待……仮面ライダー達の勝利を願う弱き民の想いを受け、閉ざされた扉が開くように、サウザーとシャドーバルキリーが新たな覚醒を果たす。
動力室に充溢するエネルギーが、新たな色へと染まっていく。一つ一つは弱く小さな光だが、そこにはフラタニティに生きるヒューマギア達の心が乗せられていた。
「バカな……ネオZAIAの社内にありながら、どうやって!?」
「エンデュランスを別行動させたのはこのためだ。たった今連絡が入ったが、彼は本社のサーバールームを通じて
「……あのジャミング装置か!」
骸はこの事態の全容を把握しつつあった。フラタニティが此度の作戦で用いたジャミング装置は、言うなれば
「装置は全部で三つ。フーを取り戻すために使った装置には、別の機能を持たせてあった。最後のジャミング装置で気配を消し、エンデュランスがサーバールームに侵入した今、その機能がついに発動したというわけだ」
「何だ、それは」
「その身で確かめてもらおう」
サウザーが軽く手を上げたのを合図として、漆黒のショットライザーの銃口が炸裂する。難なく銃弾を掴み取ったゼロサウザーだが、突如として右手から全身へと極彩色の電流が走り、全身からエネルギーが漏出する。
「こ、コレは……ネットワーク接続に支障アリだと!?
ゼロサウザーの強さを支えていたのは、ライダーシステムとしての基本性能の高さ以上に、ネオZAIAエンタープライズ本社との連携機能である。
シャドーバルキリーの放った弾丸は、フラタニティのネットワークを通じてフーが受け取った一種の
それはネオZAIAへの勝利を願う、フラタニティの民の祈りが生み出したモノだ。Dr.コトブキとエンデュランスが束ね、フーによってその魔弾は放たれた。
たった一発、されどそこには「骸のネットワーク接続を遮断する」という必殺の効果が込められている。無辜なる数多の祈りを受け継いだ銀ならぬ漆黒の弾丸が、巨魁たるゼロサウザーを打ち倒す好機へと繋いでみせた瞬間だった。
「エンデュランスの明晰な頭脳に、コトブキ氏のハッキング能力、そしてフラタニティの皆の応援。一つ一つはお前を倒すに足らないだろうが、全てを掛け合わせればこのように1000%の可能性を実現させる」
「だからとて、この私に! 新時代の創造者にしてネオZAIA社長たるこの骸を! お前達が倒せるとでも!?」
「倒すさ。1000%確実にな!」
虹の如く煌めくエネルギーの粒子が、サウザーとシャドーバルキリーの全身にオーラのように収束する。天津垓とフーだけではない、フラタニティの民やDr.コトブキの想いを乗せた光が、サウザー達の力を——プログライズキーに宿るライダモデルやロストモデルの力を増幅させる。
しかし、対する骸とて負けてはいない。ネオZAIAの頂点としての自負と、己が弱者と侮った者達に追い詰められたことによる屈辱的感情が、「個」としての骸を更なる高みへと導く。
勝負の条件は実質的に
「お前にだけは負けられない」という想念が、戦場を過熱させる。
サウザーとゼロサウザーが同時に動いた。ジャッカーと右腕が鍔迫り合い、業火を纏う腕がサウザー諸共殴り抜ける。後退るサウザーを飛び越えて、追尾式のマイクロミサイルがゼロサウザーに向かって襲来する。
シャドーバルキリーの放つスズメバチ型マイクロミサイルは、爆発と同時に電撃を浴びせる性質を持っていた。ゼロサウザーの追撃を阻みつつ、空中からショットライザーの弾を送る。
ゼロサウザーは両掌から、マイクロミサイルのエネルギーを吸収した。翼状に変形したマントから前方広範囲に放電し、二人を焼き払った……はずだった。
「向かってくるか!」
雷撃による爆煙を貫き、サウザーが跳びかかりながらジャッカーで斬り下ろす。ゼロサウザーは腕を交差させて防ぐが、距離を取るためのバックステップを封じられ、その場に縫い止められる。サウザーの左足が、退こうとしたゼロサウザーの右足を踏みつけていた。
「今だ!」
「承知しました」
走力に優れたラッシングチーターへと形態を変化させ、シャドーバルキリーがゼロサウザーの背後へと回り込む。至近でのショルダータックルに押されたゼロサウザーの背後から、残像しか見えないほどの速度でシャドーバルキリーの右足が何度も蹴りつけた。
トドメの横蹴りを放つ瞬間、ゼロサウザーが振り向いて蹴り足を払いのける。ドロップキックでシャドーバルキリーを蹴飛ばし、這うような低姿勢からの回し蹴りでサウザーを迎え撃った。
『サウザンドディストピア!』
刈り取るようなキックをガードしたサウザーに、防御ごと押し潰す強烈なパンチが炸裂する。
大きく後退を強いられながらも、サウザーが倒れることはない。ゼロサウザーの手刀が閃き、鎌めいた形状の光刃が飛来するが、それらをサウザンドジャッカーで弾きながら接近する。
走りながら手首のスナップでジャッカーを回し、紫の結晶波動弾を自身の周囲に展開する。回遊する結晶がサウザーを中心としたドーム状バリアを形成するが、ゼロサウザーの横蹴りがこれを易々と粉砕した。
力を増したとはいえ、尚もゼロサウザーは強大である。サウザーとシャドーバルキリーの二人がかりであろうとも、真正面から攻めるだけでは厳しい。
……故に、天津垓は決死の賭けに出た。サウザンドジャッカーに搭載した飛電インテリジェンス製プログライズキーのデータの中から、特殊性が強く一度も使ったことのないモノを使う。
次の一手を、確実な勝利に繋げるために。
『JACK-RISE! JACKING BREAK!』
ジャッカーの刃が閃くと同時に、動力室が一瞬にして暗闇に包まれる。室内の三人は同様に、強烈な浮遊感を味わっていた。
「何をした……!?」
「知る人ぞ知る特殊なプログライズキーだ、その名を『ホッピングカンガルー』。動力室の床に、別空間に通じる穴を穿った。何処に出るかはお楽しみということだ」
言い終えるや否や、三人を包んでいた闇が晴れる。激しい風の流れと、青く広がった天井から、骸はそこがネオZAIA本社の
彼らは今、晴れ渡った空から地上に落下している最中であった。
「今朝の雨が嘘のように晴れたな。虹も出ている……実に良い。我々の勝利を飾るに相応しい!」
一足先に地上に降り立ったサウザーが、サウザンドライバーからキーを引き抜いた。展開状態のキーを閉じ、再び起動スイッチを押す。
『
『Progrise key confirmed. Ready to break!』
『
ジャッカーにアメイジングコーカサスキーを差し込み、更に柄頭のレバーを引いた。サウザンドジャッカーの出力が最大限に上昇し、内蔵したあらゆるデータが一時的に解放される。
正真正銘、サウザンドジャッカーによる最強の一撃が放たれようとしていた。刀身が虹色に輝き始めた時、その傍らにシャドーバルキリーが着地する。
「仕上げだ。トドメは君に任せる」
「承知しました。必ず、決めてみせます」
フーの返事は簡潔だったが、彼女の声は今までになく決意に満ち溢れていた。
垓だけではない。Dr.コトブキや、エンデュランス、戦場より離れた地で彼女達の凱旋を待つヒューマギア達の想いが、シャドーバルキリーの力を極限にまで引き上げる。
「私が君臨すべき世界にお前らのような惰弱者が蔓延るばかりか、アイオーンまでもが我が社に敵対する。度し難い話だ、故にこの勝負だけは譲るわけにはいかん……私にはネオZAIA社長としての責務と誇りがある!」
ネオZAIA本社を背に、ゼロサウザーが最後の力を振り絞る。帝王が如き威風を感じさせる絶大なエネルギーに、瓦礫の大地が悲鳴を上げた。
「その惰弱者の心を最後まで認められなかったことこそ、お前の敗因だ。この世界は自分一人で成り立っているのではない。私の愛と彼女の決意、そしてフラタニティの祈りが、ネオZAIAを打ち砕く」
「貴様らの言う想いが何を成し遂げるとでも!」
『サウザンドユートピア!』
ゼロサウザーの最大出力が、両足の先に収束した。キー本来の力に今まで奪ってきた力を重ね合わせ、破滅的な極彩色のエネルギーがドロップキックの衝突面に渦を巻いた。
暴れ狂う竜巻じみた蹴撃、しかしサウザー達は真っ向から受けて立つ。サウザンドジャッカーの引き金を引き、虹の極光を纏う刃をゼロサウザーに向かって振り下ろした。
「これは他人の受け売りだが……『想いはテクノロジーを超える』、らしいぞ?」
『
必殺と必殺がぶつかり合い、衝撃が二人を中心に広がっていく。奇しくも二人の放つ色は全くの同一でありながら、その輝きは全く異なっていた。
全てを呑み込み、個としての究極を目指したゼロサウザー。その在り方はかつての天津垓と重なるだろう。
だが、今の
それは、彼がこの時代で手にした絆の力か、あるいは彼が長い時間をかけて再び拾い上げた、人工知能への強い愛情の力か。己だけでは成し得ない、1000%の力を全て注ぎ込んだ末に、その時は訪れる。
「ハァァアアーーッ!!!」
「馬鹿なァァァ……!?」
サウザンドジャッカーが振り抜かれ、光刃がゼロサウザーを斬り伏せる。最大の一撃を押し返されたばかりか、ライダーシステムにまで甚大なダメージが行き渡る。撃墜されて尚立ち上がるが、そこが限界だった。
骸は仮面の内側から、空を見上げた。太陽と虹の橋を背に、漆黒の戦姫が真正面に躍り出る。スズメバチの羽を広げ、雷電を纏う針を足の裏から突き出した、赤い双眸の
「お前までもが、この私を……」
「さようなら、骸。わたしは、あなたとは違う道を行きます。フラタニティで生きる、わたし達の道を」
シャドーバルキリーの飛び蹴りが、ゼロサウザーの胸元に突き刺さる。右足から切り離されたスズメバチの針が、回転する稲妻となってゼロサウザーを遥か後方へと吹き飛ばす。
ネオZAIA本社ビルの外壁を貫いた先で、黄金の爆発光が輝いた。ネオZAIAエンタープライズの侵略に抗う戦いが、ここに一つの決着を見る。
流体金属で模倣したライダーシステムの装甲を排除し、いつもと変わらないフーの姿が現れた。
「天津さま」
「ようやくカタがついたな……」
サウザーが軽くジャッカーを振り、地面に空間の穴を作った。落ちた先はネオZAIA本社の地下、フラタニティが保有するトレーラー車の上だ。
「無事だったようだな、サウザー」
「決着をつけてきた。これで晴れやかに凱旋できるな」
彼らを出迎えたのはエンデュランスだった。黒い装甲に身を包むバトルマギアの姿に戻っている。
天津垓が変身を解き、フーと共にトレーラーに乗り込んだ。エンデュランスは小型の機械……ジャミング装置とは別の、Dr.コトブキの「器」を渡すだけで、車内に入ろうとはしなかった。
「ここでお別れというワケか。短い間だが、世話になったな」
「今回はあくまで、ピースメーカーとしての任務で同道したまでだ。フラタニティの作戦目的が達成された今、共同戦線も打ち止めだ」
「そういえば、最後の装置はどこに置いたのですか?」
フーがエンデュランスに尋ねる。今回の作戦に使うジャミング装置は三つ。最後の一つは、エンデュランスが別行動時に持って行ったままだ。
その問いに答えたのは、垓達の背後に鎮座していた漆黒の筐体だった。
「実は、社内がてんてこ舞いになってる隙に色々と細工をしていましてね。私としてもそろそろ『あるモノ』を取り戻しておきたかったので、それが置いてある場所……電機室に置いておきました」
「あるモノ?」
「まあ、その辺りは後々。とにかく今は……本当に、ありがとうございました。天津様、貴方は真の意味で我々を救ってくださったのです」
Dr.コトブキが感謝の意を述べる。
天津垓は結果的に、フラタニティのリーダーであるコトブキにも成し遂げられなかった偉業を達成したことになる。中立的な立場に基づく厭戦の考えは、フラタニティという組織全体から取り払われつつあった。
それが良方に通じるか、悪しき災いの種となるかは、まだ分からない。だが、どちらにせよ「仮面ライダーサウザー」としての天津垓の行動は、フラタニティに勇気を与えるものとなったのだ。
自らの足で立って戦うことの意味を、彼らはサウザーの戦いを通して知ったのである。
「もう少し早くお前が……仮面ライダー達がこの時代に来ていれば、私達と肩を並べて戦うということもあったかもしれないな」
「では、次に会う時は敵同士か」
エンデュランスが頷く。彼もまた戦士としての在り方を胸に抱く者であり、故に戦力を手放そうとしたフラタニティを離れている。
そのフラタニティがこうして、再び一つの組織として戦うことを望むならば、同源であろうともピースメーカーとの対立は免れ得ないだろう。世を乱す三大勢力の一つとして、フラタニティはピースメーカーを敵と判断したが故に。
「既にこちらも仲間を殺されている。戦場の常ではあるが、敵となるなら我々は容赦はできん。私という個人の意志とは無関係に、な」
「やはり最後にはこうなるか。再び会う日があるなら、戦いが終わってからだと良いな」
「同感だ。あの手この手でフラタニティを立ち直らせた男だからな、敵として見るならこれほど恐ろしい人物はいまいよ」
エンデュランスが呆れたように笑い声を漏らした。畏怖と称賛を交えたその言葉を最後に、彼は垓達に背を向ける。
「さらばだ。せいぜいこの時代を戦い抜け、フラタニティ。そして……仮面ライダー」
それが別れの言葉だった。地下空間の壁の一枚が扉に変形し、ピースメーカーの幹部は闇の向こうへと走り去った。
エンデュランスを見送ってから、コトブキが切り出す。
「我々も帰るとしましょう。これからやらなければならないことが山積みですからね」
天津垓とフーの二人を乗せ、Dr.コトブキの運転するトレーラー車が走り出す。戦いを終えて帰還する足取りは、とても緩やかなものだった。
ここまでの戦いの疲労からか、垓は眠気を覚えた。
フラタニティの戦いはこれからが本番である。コトブキの言うように、やらねばならないことや考えることは多くあった。
(とはいえ……今のうちに休んでおくというのも一つの手だな)
戦いはまだ終わっていない。骸がどうなったかを垓達は直接確認してはいないのだ。もし彼が生きているなら、再び戦う時が来るのは明白だ。
ならばこそ、今だけはこの眠気に従うことにした。束の間の休息は、戦士にこそ必要なものであった。
眠っている垓の隣に、フーが座る。
「コトブキさま」
「何ですか?」
「わたしは……これから、どのように生きていけば良いのでしょう」
彼女は垓から、本当の意味で「心」を学んだ。2220年のヒューマギア達は皆が人間に近い情動を持つが、それは電脳によって再現されたものであり、人類がまだ存在していた頃のヒューマギア達が経験したシンギュラリティとは少し異なる。
それ故に、彼女は悩む。「自分の正体を知る」という目的が果たされた今、どのように生きるべきかが分からなくなったのだ。
コトブキは彼女の想いを包み込むように、優しい声音で答えた。
「『汝の欲する所を為せ』……人類文明に関する文献で見つけた、セレマという思想の言葉です。言葉通りに解釈するなら、自分のやりたいことをやりなさいということですね。恐らく私は、この言葉を実現したくてフラタニティを作ったのかもしれません。皆が皆の欲する所を為せるように」
「……自分の、やりたいこと。まだわたしには分かりません」
自分の中に芽生えた心を、フーは扱いかねていた。何をしたいのか、何のために生きようと思うのかが、分からないのだ。
「今すぐには難しいでしょう。ですが、いつかきっと……貴方がこの世界を生きていきたいと願う理由は見つかると、私は信じています。一人だけでは不安なら、フラタニティの仲間達を頼るのもアリです。私も貴方の力になります」
漆黒の筐体はどこまでも無表情だ。しかし、電子の海を揺蕩うDr.コトブキの電脳体は、慈愛に満ちた笑みを浮かべている。
「何より、隣にいるじゃないですか。貴方に『心』を教えてくれた方が」
フーは隣で眠る男の顔を見上げた。穏やかな寝顔を見て、彼女は不思議な感覚を抱く。
自分がどのように生きていきたいのかは、まだ分からない。それでも、今この瞬間が幸せであることだけは理解できる。
氷のように無表情だったフーの口元が、僅かながら綻ぶ。どれだけ時間がかかったとしても、一人のヒューマギアとして生きていく意味を、これから見つけられるような気がした。
つづく。