IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK   作:TAC/108

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第一章 "ぜつめつ" の むこうがわ
Part-4 The Edge of HUMAGEAR's War-Age


天津垓の朝は早い。

彼に与えられた部屋は、昨日のうちに完璧な自室として整えてあった。ユニットバスと一体化した洗面所は、洋風ホテルの一室めいた清潔感のある白塗りであり、浴室から出てきた彼の腰にもまた、新品の真っ白なバスタオルが巻かれていた。

露わになった上半身には程よく筋肉と脂肪がついており、45歳という実年齢を鑑みれば高水準と言えるバランスを保っている。20代にも見紛うほどの若々しい外見を保つ秘訣は、日々の努力に隠されているのだ。

ZAIAエンタープライズのロゴを刺繍したボクサーパンツを穿き、純白のタンクトップを着ると、彼は冷蔵庫から包装された棒状の保存食を取り出し、木製の卓に腰掛ける。

 

「あまつさま、こちらへ」

「ありがとうございます、フー。今日の予定は」

垓と向かい合うようにして、白い髪の少女が座った。彼女の名はフー。ヒューマギアによる中立組織、フラタニティの幹部であり、垓とフラタニティを引き合わせた人物でもある。万能だが言語機能に問題を抱えており、話す言葉は常にたどたどしい。フラタニティのリーダーであるDr.コトブキの提案で彼女は垓の部屋に配備されていた。

垓は包み紙を破り、チョコレート味の保存食を食べながらフーの話を聞く。どういうわけか彼女は垓のことを「あまつさま(天津様)」と呼ぶようになっていた。耳にしてみると仰々しい響きだが、垓はそれなりに気に入っていた。

フーの報告は簡潔だった。今回は彼女と同じくフラタニティ幹部であるハウと共に、市街地の戦場を偵察するのだという。垓と共に招かれた二人……不破諌と滅には、ハウが同様の内容を説明しに行くことになっている。

「私には貴女ですか。久しぶりに秘書を持ったような気分です」

「ひしょではありません。ちなみにわたしもいんそつです」

「引率? 外の事情に詳しいハウだけでなく、貴女も?」

「はい。わたしはわたしで、ねおざいあにえんがあるので」

初耳である。驚いた拍子に保存食の欠片が気管に入り、垓は激しく咳き込んだ。いつの間にか供されていたコップ一杯の水を呷り、垓は何度も咳をしつつ呼吸を整える。

フーは能面じみた無表情で、その様子を見つめていた。水を用意したのは彼女だった。

「……失礼。ネオZAIAに縁がある、とは?」

「あとでおいおいはなします」

「そうですか。では、その時を待つとしましょう」

保存食を水で流し込み、包み紙をゴミ箱に捨てると、垓は白いスーツを受け取る。普段着ているものではなく、フラタニティからの支給品だ。防水加工が施され、動きやすさを重視した仕上がりになっている。ネクタイのみは金地に紫の縦線が入った鮮やかな色合いである。

垓は迅速に着替え、目覚める朝の世界へと歩き出した。

 

玄関の扉を開け、垓が最初に感じたのは寒気だった。外気温がやけに低く感じる……というより、低い。肌寒いと言っても良い。

加えて、外もさほど明るくはない。日は昇っているのだが、霧が立ち込めていてどうにも視界が悪い。隣に立つフーに、垓は現在の時刻を尋ねた。

フーは両眼から立体映像を投射した。赤い光が『2220.7/17』『AM 5:57』の文字を空中に映し出している。

エネルギーがあれば昼夜を問わず活動できるヒューマギアはともかく、彼は人間だった。同行する二人のうち、滅はともかく不破諌はこの時間帯に起床してはいまい。出発はまだ先ということになる。

垓とフーは互いの顔を見合わせると、静かにドアを開けて垓の部屋へと戻っていった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

約二時間後。

人間二人とヒューマギア三機の集団が、森の中を歩いていた。2020年より召喚された不破諌と天津垓、そして滅。これに、引率役のフラタニティ幹部であるフーとハウを加えた五名である。

今回の目的は、あくまで偵察・視察であり、戦闘行為は可能な限り避けるべき……と、出発前にハウは語った。

「戦闘形態を持つ私と異なり、フーは変身して戦うことはできませんからね」

「もうしわけありません」

ということらしい。ヒューマギアの戦闘形態・マギアへの変身機構を、フーは持っていないのだという。理由についてハウは『多機能型の弊害』と簡潔に語った。

 

「案外、道は舗装されてるんだな」

道中で諌が呟いた。木々の立ち並ぶ森ではあるが、歩き辛いかというとそうでもない。バイク程度なら走れそうな道幅は確保されている。

「この森はフラタニティによって舗装が行われました。表向きはネオZAIAによる諸々のサービスを利用しやすくするための協調政策ですが、実は随所にフラタニティで独自開発したジャミング装置が仕込まれておりましてね……通常時には認識を阻害し、破壊されると強力な電磁波を発します。ヒューマギアには大ダメージです」

「わたしがつくりました」

フーが若干得意げに言った。

ちなみに、『零の方舟』のヒューマギアは衛生アークに由来するネットワークを持つため、同じくアークに接続したヒューマギアである滅には事前にジャミング対策のプログラムを仕込んでいる。これもハウの協力でフーが作ったものだという。

攻撃的な機能ではあるが、ハウ曰く自衛のためだという。視察業務用として、ハウは手持ちサイズのものを持ち歩いている。

「便利なものだな」

滅が皮肉めいて言う。最悪、事によってはアークと敵対することになるかもしれない。この時代にてアークが滅んだ理由は気になるが、滅個人としてはあまり気が進まない。

気付かないうちに相当進んでいたようで、樹木はその数を減らし、森への立ち入りを禁ずる鉄柵が見えてきた。

「さて、そろそろ市街地ですね。今日も何やらドンパチやっていらっしゃるようですが」

ハウの聴覚センサーは遠方から鳴り響く金属音を捉えていた。ハウは前方を確認すると、鉄柵をこじ開けて進む。

「戦闘の気配……西の方角ですね。()()()()()

「戦闘だと? どこがラッキーなんだ」

諌の反論に、ハウは微笑んだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

◆◆◆◆◆◆

 

半壊したビルの屋上に陣取りつつ、フラタニティ一行は状況を俯瞰する。ハウの認識ジャミング装置により、地上で戦う()()はこちらを認識していない。

三体のマギアと、彼らに付き従う戦闘員(トリロバイトマギア)。それぞれが別勢力の尖兵であり、得物を構えて互いに睨み合っている。

諌や垓にはそれぞれがどの勢力に属しているかの区別がつかない。しかし、滅には何となく察しがついていた。ヒューマギア特有の識別方法によるものである。

「ピースメーカーのマギアは手前の方にいるな」

「……あの姿、バトルレイダーに似ていますね。バトルマギア、とでも言うべきでしょうか」

上半身を包む黒灰色の重装甲に、手持ちの短機関銃。バイザー型のカメラアイが、赤く点滅しているのが見える。

垓が飛電インテリジェンスの社長に就任してから、自らの私兵とした組織がある。対人工知能特務機関・A.I.M.S.(エイムズ)。かつては諌が隊長を務めていた、武力によって人工知能に対処する組織だ。

バトルレイダーとは垓が実用化させた量産型の『変身ベルト』、レイドライザーとプログライズキーによって()()()()()()()超人の通称であり、正式名称はインベイディングホースシュークラブ(侵略するカブトガニ)レイダーという。なぜマギアがそれと同じような姿に変身できるかはさておき、隊長格たるマギアの一体はそういった特性を持っていることになる。

「アレについて何か知ってるか?」

諌がハウに尋ねた。

「『アルファ(ALPHA)バレット(BULLET)』。ピースメーカーでも特に戦闘能力の高いヒューマギアによって構成される特殊部隊ですね。案外、勝敗は容易く決まるかもしれません」

 

隊長格がそれぞれハンドサインを出し、部下たる戦闘員を散開させる。三勢力の尖兵が、互いの得物を構えて戦闘を開始した。

誰より早く動いたのはバトルレイダー、もといバトルマギアだ。頭部の肥大化したカエルめいたマギアの大口に銃弾を撃ち込み、攻めかかる貝類のようなマギアに反撃のショルダータックルを浴びせる。

カエル頭のマギアはガエルマギア。両生類の絶滅種・イブクロコモリガエルのデータから生まれ、巨大な頭部から爆弾を射出する能力を持つ。

対して貝類の方はビカリアマギア。貝類の絶滅種・ビカリアを元にしており、両腕と頭部がドリルじみた武装になっていた。

 

ビカリアマギアが両腕を回転させて何度も斬りかかるが、バトルマギアは彼の足を引っ掛けて転ばせ、ガエルマギアの方に向かう。

ガエルが迎撃に動いた。大口を開いて爆弾を飛ばすが、全弾を撃墜されバトルマギアの接近を許す。重い頭に掌底が叩き込まれ、ガエルが頭から地面に激突した。

ビカリアはバトルマギアの無防備な背中に突撃するが、バトルマギアはガエルの腹を踏みつけたまま短機関銃を連射し、飛び出したビカリアの勢いを挫く。

短機関銃の銃口に、鈍色の光が灯った。エネルギーを収束させた高威力の光弾が、起き上がろうとしたビカリアの頭部へと放たれ、ドリル状の頭部を粉砕した。外装を破壊されたビカリアの矮小な頭が露出し、あからさまに慌て始める。

地面に倒れたままのガエルマギアが、不意打ちの爆弾を放った。頭部に小型爆弾の直撃を喰らうバトルマギア。

それが逆鱗に触れたか、バトルマギアはガエルの上半身を何度も荒々しく踏みつけ、顔面を蹴飛ばした。終いには転がったガエルマギアの喉元に機関銃を連射し、巨大な頭を胴体から引きちぎる。

戦闘態勢に入ったビカリアマギアが、高速回転する両腕を突き出した。バトルマギアは片手で持ち上げたガエルの頭部でビカリアの攻撃を弾き、続けてその頭をビカリアの胸めがけて投擲した。ビカリアが衝撃で体勢を崩した隙に、バトルマギアはガエルの頭部を撃った。

爆弾を生成する器官であったガエルの頭部が大爆発を起こし、巻き込まれたビカリアマギアの上半身が消し飛んだ。バトル(戦闘用)マギアの名に相応しき冷徹かつ圧倒的な勝利であった。

戦場に立つバトルマギアが、突如側頭部を触り始めた。今も戦闘が続く別区域へと通信を行っているらしい。人間には聞き取れない機械的言語での通信を終えると、バトルマギアはその場から立ち去った。

 

「強いな。アレでリーダーじゃないのか」

諌が言った。戦闘の一部始終を見るに、バトルマギアの練度は相当なものである。あれだけの戦闘能力を持ちながら幹部格ということは、ピースメーカーのリーダーは更に強いということである。

「つうしんをぼうじゅしました。ねおざいあのほんしゃがこちらにきているようです。ぴーすめーかーはかれらとこうせんするとのこと」

ネオZAIAの本社が、()()()()。フーは確かにそう言った。意味は判然としないが、この状況で冗談を言っているとも思えない。先程までしゃがんでいた垓が、勢い良く立ち上がった。

「彼女の言うことが本当なら、ネオZAIAとやらが何なのか、この目で見る絶好の機会です。多少のリスクを払ってでも行くべきでは」

「ではそのように。各々方、出発しましょう」

ハウが先行して崩れた建造物から飛び降り、安全を確認する。周囲に敵影の無いことを確かめたハウが手招きし、一行はバトルマギアの去った方へと向かった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

数分後、一行は開けた場所に到着していた。かつては高層ビル群の立ち並ぶ区域であったと思われるその場所は、今や破壊の痕を刻んだ戦場と化している。壊れたビルの一棟に隠れた諌らは、ハウの解説を聞きながら戦況を観察している最中だった。

金色のトリロバイトマギアの集団が、ピースメーカーの戦闘員や地中から飛び出した乱入マギアと乱戦を繰り広げている。率いるのは鳥の翼じみた一対の大剣を振り回す、黄金のドードーマギア。その名の通り、鳥類の絶滅種・ドードーの力を持つ。

「ネオZAIAの中でも評価の高いヒューマギアは、本社にて特殊な改造を受けています。具体的にはマギア形態があのような黄金色になり、戦闘能力が著しく向上するのです」

よく見ると先程のバトルマギアも戦場におり、黄金のドードーマギアと交戦していた。バトルマギアの駆け出してきた方を見ると、トリロバイトマギアに守られた奇妙な人影が二つある。

黒いフード付きパーカーを着た人型と、バトルマギア。ハウがそちらに目を向けると、珍しいものを見たという風に彼らについて語る。

 

「ご覧ください。あれこそがピースメーカーのリーダー、その名を無銘(むめい)。かつてのフラタニティにおいて最強のヒューマギアであった一人です。もう一人はAB(アルファ・バレット)のバトルマギア。どうやら、相当大掛かりな作戦を展開中のようですね」

 

早くもピースメーカーの本隊を発見した。それが意味することを察すると、諌は懐から青い拳銃型デバイス——ショットライザーを取り出し、空を見上げた。

「偵察とか言ってる場合じゃなくなりそうだ。この音……何かトンデモないのが来るぞ!」

低く唸るような音が、徐々に戦場へと近づいてくる。

空が鳴動している。地鳴りめいた異様な音が、何もない空から聞こえてくるのだ。

そして、次の瞬間。

 

凄まじい光と衝撃波が空から放たれ、戦禍のビル街が一瞬にして破壊された。地上で戦っていたマギア達は、その全てが四方八方へと吹き飛ばされ、戦局が一瞬にして書き変わったのである。

崩落するビルを抜け出し、五人が瓦礫の地面に転がり出る。粉塵や土埃が霧の如く視界を覆うが、その中から現れた何者かが指を鳴らすと、霧が払われる代わりに世界が暗転した。

「今のは……いや、アレは何だ!?」

スーツの埃を払った垓が、上空を見上げて言った。視界が暗くなった理由である『ソレ』が、今は戦場の遥か上にあり、陽光を遮っていた。

 

巨大な岩塊と、その上に立つ何らかの建造物。そうとしか形容できないような物体が、上空に浮かんでいる。

20世紀に活動した、ベルギーのシュルレアリスム画家であるルネ・マグリットの作品に『ピレネーの城』というものがある。空に浮かぶ巨大で無骨な岩塊とその上に立つ小さな城砦という、超現実のビジュアル。

それとほぼ同質の異様なナニカが、紛れもない現実として諌達の見上げる先に存在していた。

 

その真下にいる、新たな人影に垓が真っ先に気付いた。金と銀のラインを格子状に走らせた、黒いスーツを着た男性。ネクタイは煌めくような純白であり、同じく格子状のパターンが入った日傘を差している。

だが、何より恐るべきは彼の外見……否、顔であった。

白い肌、炯々と光る双眸、何よりその顔立ちは——()()()()()()()()()()()()()()からである。

「どういうことだ? なぜ私と同じ顔のヒューマギアが現れた!?」

垓の疑問に答えたのは、やはりハウだった。

 

「彼こそがネオZAIAエンタープライズの社長なのです、天津垓様。そして、現在我々の頭上に存在するあの異様な物体が、先程フーが伝えた()()Z()A()I()A()()()()でございます」

 

諌らが一様に驚愕する。天津垓と瓜二つの顔をしたヒューマギアが、ネオZAIAの『社長』だというのだ。冗談のような真実に、垓は言葉を失った。

諌達の時代には、人工知能特別法という法律がある。その第六条には『本人に無許可で、特定の人物に酷似した容姿のヒューマギアを作成および使用してはならない』という旨が記されている。それに基づくならネオZAIAの社長は完全な人工知能特別法違反のヒューマギアであるが、彼を法廷にて裁く人類は二百年前に絶滅した。2220年の時代に人工知能特別法は効力を持たない。

「無茶苦茶だな……だが何のためにZAIAの社長を真似る?」

「お待ちを。どうやら、始まるようです」

瓦礫の下から飛び出した黒服の者……ピースメーカーのリーダー・無銘が、垓に似たヒューマギアの前に立つ。フードを脱いで露わになった顔に、諌と滅が目を向ける。成長の過渡期にて幼さの残る少年のような、中性的な顔立ちをしていた。

二人は互いに目を合わせると、互いに全く同じ装置を手に取り、腰に装着した。ジャッキを思わせる機構を搭載した、黄色と黒のベルト。滅が遠方からそれを視認し、各員に伝える。

「ドライバーを見ろ。フォースライザーだ。性能のアップデートはあるだろうが、我らのものと同型と見て間違いない」

ベルトの名は滅亡迅雷フォースライザー。滅亡迅雷.netで運用されている変身ベルトであり、滅も所持者の一人である。ベルトが備えるレバーを引くことで装填したプログライズキーを強制展開し、極めて攻撃に特化した『仮面ライダー』への変身を可能とするものだ。

ハウが何かを察したように身構えた。それはハウにとって……あるいは滅にとっても既知となる何かの接近を示していた。

「この感覚、まさかな……」

「どうやら三人目が釣れたようです。説明の手間が省けそうですね」

ハウが言い終えるより早く、その場の誰もが新たなる異様な気配に気付いた。あまりにも唐突に現れたにもかかわらず、初めから当然の如くそこにいたような、不気味な存在感のある黒い影。

突如出現した何者かは、黒いレザージャケットを着た壮年の男の姿をしている。サングラスをしているため、その視線がどこに向いているかは不明だが、彼を挟むようにして立つ二人を見回すと、レンズの奥で瞳が赤く光った。

 

「……滅様」

「分かっている。ヤツが零の方舟とやらの首魁……ゼロか。どうやらここが、お前達の時代における戦いの先端らしい」

ピースメーカー、ネオZAIAエンタープライズ、零の方舟。三大勢力の首魁たるヒューマギアが、このタイミングで一堂に会することの意味。

それを悟った諌が、ショットライザーを構えた。

「ここでヤツらを仕留められるなら、フラタニティの問題にもカタがつく。偵察は終わりだ、仕掛けるぞ」

「おことばですが、それはできません」

「何だと?」

フーの否定に諌が首を傾げる一方、垓はその意図を理解していたようだった。

「……なるほど、確かに道理ですね」

「説明してみろ」

「我々全員でかかっても倒せるのは恐らく二人が限界でしょう。二人が倒れた時点で、最後の一人は撤退を優先するはず。相手が人間ならばそこから追い詰めることも出来ますが、彼らはヒューマギアの武装勢力を束ねる存在……人間とはそもそも仲間の作り方が違う」

三大勢力はそれぞれ独自のネットワークに基づくコミュニティである。この場合、ネットワークの管理者こそ三大勢力のリーダーであり、リーダーを失った勢力はネットワークの機能停止によってその力を大きく削がれることとなる。

しかし……もしも三大勢力のリーダーが一人だけ残ったらどうなるか。リーダーは残ったヒューマギアを自らの下に引き込み、勢力を爆発的な勢いで膨張させるだろう。自らの管理するネットワークに接続させることによって。

最悪の場合、出来上がるのは三大勢力を一人が束ねる巨大な一勢力である。ネオZAIAであれ零の方舟であれ、フラタニティから分裂したピースメーカーであれ、そうなることは避けねばならない。一人でも取り逃せば、フラタニティは一巻の終わりである。

 

「ここは潔く撤退すべきでしょう。フラタニティの目的は2020年から来た我らに、戦地の視察を通して三大勢力とは何かを理解させること。目的は概ね達成されましたからね」

「いや……そうもいかないらしい」

滅が垓の前に出て言う。彼の手には可変武器アタッシュウェポンの一つであるアタッシュアローが展開状態で握られていた。名前の通り弓に変形する高威力の射撃武器である。

「気付かれましたね」

ハウが表情を険しくした。誰もこちらに目を向けてはいないが、既に首魁三人にはこちらの存在を気取られている。去る者を追うか追わぬかは、彼ら全員の素性を知るハウからしても未知数であった。

 

滅がアタッシュアローの引き金を強く引いた。矢尻のような射出部が、紫色の光を灯す。

「試してみなければ分からんが……目眩しにはなるだろうな」

そう言うなり、滅はアタッシュアローから光の矢を何本も撃ち放った。

爆裂する光と砕け散る瓦礫が煙幕を生み、三人の首魁の目を眩ませる。

五人は市街地より生還するために、一斉に全力で駆け出した。

 

つづく。

 

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