IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK   作:TAC/108

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第六章 Sky Falls
Part-34 おわりのはじまり


ヒューマギア中立勢力フラタニティの管轄区域が、いつになく活気づいている。リーダーであるDr.コトブキによる演説から、五日後のことであった。

中心部たる管制塔の前には、未だ大穴が塞がることなく口を開けている。敵対勢力たるネオZAIAエンタープライズの爆破工作によるものだが、結果的にフラタニティはこの穴をある目的のために利用することにした。

目的とは何か? その答えは大穴の下、実に五十メートルを降りていった先から響く、剣戟や銃撃の音にある。

 

「動きが硬いぞ! 殴る瞬間に力を解放しろ——クッ、ああそうだ! その意気だ! もう一辺打ってこい!」

管轄区域の防衛拠点、臨時ベースキャンプ。地下に築かれたこの施設は、当初とは全く別の用途に使われている。

様々な戦闘形態に姿を変えた数体のヒューマギアと戦う、超人の姿があった。その名は仮面ライダーバルカン。過去から召喚された仮面ライダーの一人、不破諌の変身する左右非対称の青い戦士。基本となるシューティングウルフという形態で、彼は周囲のマギア達と立ち会っている。

 

このマギア達は敵ではない。全て諌が協力するフラタニティの構成員である。それまで非戦の方針を採っていたフラタニティは、Dr.コトブキの演説を機に主たる敵——三大勢力と真っ向から戦う方向に舵を切ったのだ。

ただし、フラタニティのヒューマギア達はほとんどが戦闘技術を持たないか、あるいは戦うことを忌避して力を封じてしまった者達である。そこで、前者には一から教え込み、後者には感覚を思い出させるため、彼らに修行をつけることになった。

そのコーチ役に選ばれたのは、この時代(2220年)より遥かな過去から呼ばれた仮面ライダー達であった。というより、初めに提案した不破諌が指導役を自ら率先して請け負ったと言う方が正確である。

 

かくして始まったのは、地下のベースキャンプを修練場へと改築して行われる大規模訓練であった。

ヒューマギアの学習速度は人間のそれと比べても遥かに勝っている。銃の撃ち方すら知らなかった新米が、訓練開始から四日で一人前の戦闘技術を身に付けている。加えて、彼らには人間の持たない機能があった。

一人の成長がネットワークを通じて、他の個体に共有されるのだ。多くのヒューマギア達が積極的に訓練に参加したことも幸いし、凄まじい勢いで中立のヒューマギア達は戦いの術を学んでいった。

彼らに戦い方を教えながら、不破諌は思う。

(今のコイツらならきっと、自分で自分の身を守るために戦えるだろう。実戦でどう動くかは、まだ分からんが)

諌が彼らに施しているのは、あくまでも訓練である。ただ力のスケールが人間より上にあるというだけで、本質は変わらない。

フラタニティのヒューマギア達は、実戦において「敵を倒す」ために戦えるのか。技術は立派に育ったが、そこが今の懸念事項ではあった。

 

不破諌による戦闘訓練の横では、彼らとはまた異なるマギアの集団が形成されている。その中心にいるのは黒い神父服じみた装いのヒューマギア、滅だ。諌達のような激しい訓練ではなく、タブレット端末を利用した教導という形で技術を教えている。

「フラタニティのローカルネットワークに、今までの戦闘データを共有しておいた。戦う技術に問題がなくとも、戦術的に見るならば敵を知っておいた方が良い。各自で閲覧しておくことだ」

不破諌が実戦に近い戦闘訓練を施していたのに対し、滅はヒューマギアの学習機能を積極的に利用していた。三人の仮面ライダーの中では彼のみがヒューマギアであり、それ故にヒューマギアに対する理解度も高い。

この場にいない三人目……天津垓から戦闘データを提供されたことで、フラタニティは敵となる者達への学びを深めている。滅自身が意図したことではないが、結果的に諌と滅による教えは互いに利点と弱点を補い合っていた。

「よし、今回はこの辺にしておくか。しかし流石にヒューマギアだな、僅かな期間でここまで仕上げやがる」

「不破さんが教えてくれたおかげでさァ! おかげで俺も昔の感覚が戻ってきましたよ」

「大したモンだ。自主トレは各自に任せるが、いつ市街地の方で何が起こるか分からん。本番で動けなくなったら笑い話にもならねえからな、無茶はするんじゃねえぞ」

マギア達と別れ、諌は変身を解除して滅の方に駆け寄る。彼の右耳にはフラタニティで製作されたZAIAスペックという機械が装着されており、これにより地下でも生身での活動には支障をきたさない。元は天津垓が防衛作戦の折にフラタニティに作らせたものである。

「戦闘訓練は終わりか、不破諌」

「そろそろ街の方から調査部隊が帰ってくる頃合いだ。この五日間はお前も俺も管轄区域からは出てないからな、外の情報を得るにはアイツらの報告が欠かせない」

諌の言葉を聞き、滅はマギア達を率いて地上に向かうことにした。その列に諌も加わり、地下と地上を繋ぐ簡易リフトへと歩いていく。

方針転換後のフラタニティで最初に行われたのは、管轄区域の外……三大勢力の主戦場たる市街地に出向き、その情報を伝える調査部隊の増員および再編であった。諌らがこの時代に来てから請け負っていた、戦闘を行う実働部隊としての役割と調査部隊の役割を改めて分けることで、仮面ライダー達に頼りきりにならない体制を整えるためであった。

木製のリフトに諌と滅のグループが乗り込む。管轄区域に空けられた大穴に合わせたサイズであるため、ヒューマギアでも最大で三十体を同時に運ぶことができる。

「訓練の様子はどうだ」

リフトの駆動音をBGMに、滅が諌に話を振った。突然のことだったために驚く諌だったが、気を取り直して応対する。

「レジスタンス時代のカンを取り戻したヤツが現れたおかげでかなり捗った。戦闘技術の面で言えば問題ない。そっちはどうなんだ」

「過去の戦闘データから各勢力への対策を構築した。フラタニティは数で言えば三大勢力には劣る。それでも戦術の質を上げれば、安全かつ確実に戦えるようになる」

「抜かりねえな。鉄面皮かと思えば、意外に熱が入ってるじゃねえか」

「当然だ。俺はこの時代で、フラタニティが未来を築くための助けになると決めた。元の時代に戻るためにも、最大限に為すべきことは為す」

滅の決意を聞き、諌は少しキョトンとした表情になった。だが、言葉の意味を噛み砕くうちに、不思議と笑みがこぼれる。

諌はデイブレイクタウンで滅の身に起こった出来事の詳細を知らない。それでも、諌はこの一時だけは滅を心から信じることにした。元いた世界に帰れば敵同士であったとしても、である。

「少し前じゃ考えもしなかったぜ。まさかお前に信頼を置くことになるとはな……」

冷酷無情と思われた滅の内に、確かな「心」の熱を見出した。その一点が、諌に滅を信じる気にさせたのだ。

 

リフトが地上に到着し、滅が率いてきたヒューマギアの一団は彼の下を離れていった。狙い澄ましたようなタイミングで、スーツ姿の男が涼やかな笑顔で出迎える。

「お疲れ様です、ご両人。調査部隊もこの通り、無傷でお役目を果たしてまいりました」

「よくやった、ハウ。市街地の状況については今聞いておこう、何か変わったことはあったか?」

諌と滅を出迎えた長身の男はハウである。Dr.コトブキの信頼篤きフラタニティ幹部のヒューマギアであり、調査部隊の指揮官を務めている。

滅に問われたハウは慇懃に応じるが、すぐさま眉間に皺を寄せた怪訝な表情をした。その様子を横から見ていた諌は、調査結果に対して不穏な予感を抱く。

「会議室に主要なメンバーを集めておりますので、少々お待ちを。ただ……一つ言っておくとすれば、何やら厄介な方向にコトが進んだようです」

 

◆◆◆◆◆◆

 

不破諌/仮面ライダーバルカン、天津垓/仮面ライダーサウザー、滅/仮面ライダー滅の三人と、フラタニティ上層部よりDr.コトブキ、ハウ、フーの三人。

以上六名がフラタニティ管制塔の会議室へと集まった。ちなみに外部協力者という立ち位置のアイン/仮面ライダーアインは、今回は別件にて席を外している。

スーツ姿の少女型ヒューマギア、フーの両眼から立体映像が投射され、そこに記された情報を基にハウが状況を説明する。

 

「まず、主戦場たる市街地の状況ですが、特にピースメーカーとネオZAIAエンタープライズによる戦闘が激化しております。調査用のドローンを試しに一機飛ばしてみましたが、戦闘の余波で木っ端微塵に砕かれてしまいました」

曰く。

三大勢力の一つであるピースメーカーが大幅に戦力を増強しており、ネオZAIA製の兵器であったはずの巨大人型機動兵器・(サード)ギーガーを運用している姿が確認されたという。

ネオZAIA側の対応はというと、現有戦力のほとんどをピースメーカーの対応に割いている状態である。ただし、新たに太平洋方面から飛来したと思われる航空戦力として、兵士用輸送コンテナを搭載した攻撃ヘリコプターを投入しており、為す術なく追い詰められているわけではなかった。

一方、最後の勢力である零の方舟は全く姿を見せていないという。不審な目撃情報なども無かったため、現時点では動向を確認できていない。

「総合的には、ピースメーカーとネオZAIAの膠着状態が続いているようです。我々が戦場を離れて五日が経過しましたが、フラタニティ側に何らかの対応を講じなかったのは、両者とも相手をする暇がないからと言えそうですね」

「ふむ……ネオZAIAの動きが静かすぎるな。骸は戦場に現れていないのか?」

ハウの報告に対して怪訝そうに唸ったのは天津垓である。三大勢力の一つ、ネオZAIAエンタープライズ社長である骸は自尊心の強い性格である。仮にピースメーカーの狼藉を知っていたとすれば、もう少し戦場で派手に動くはずだと垓は読んでいた。

「骸本人が現れたという話は、残念ながら確認できませんでした。ただ、その動向について奇妙なデータが得られましたので、これからお見せします」

立体映像が切り替わった。空中に投射された画像は、上空から()()の様子を撮影したものであった。

「攻撃ヘリで飛んできたネオZAIAのヒューマギアから抜き出したデータです。()()()()()、信憑性は高いものかと」

ハウとフーを除いた四人が、各々に驚愕の表情を露わにした。画像データに映し出されていた「ソレ」は、誰の想像も及ばない代物だったからだ。

 

海上に浮かぶ、黄金の巨大構造体。

流線型の美しいフォルムを持ち、装甲の隙間から漏れ出る紫色の光が血管のように全体の輝きを増している。

全長は推定六百メートル以上、幅も五十メートルは超えていると思われた。側面部からは無数の砲塔や出撃用ハッチらしきものが僅かに覗く。

 

「ウソだろ……?」

「まさにネオZAIAクオリティだな。勢力としての巨大さに任せてこんなものまで引っ張り出してくるとは」

「……」

「これが現実の脅威として立ちはだかってこようとは……」

空撮写真に写っていたのは、ネオZAIAエンタープライズ製と思われる()()()()であった。

そのサイズはネオZAIA本社ビルをも上回るだろう。今までにネオZAIAが差し向けてきた兵器群とはスケールが大きく異なる。

「これだけのサイズとなると、もはや戦艦というより()()()()とすら言えるかもしれません。ネオZAIA側のデータより『ウラノス』と呼称されるこの(ふね)は、太平洋上に展開しつつ戦力を送り込んでいるようです。それ以上の詳細は、今のところ分かっていませんが……」

「骸が戦場に出てこない理由が判明したな。ヤツは本社ではなく、あの戦艦から命令を下していると見て間違いないだろう」

垓が断言する。これまでの戦いで、骸の行動パターンを彼は概ね理解していた。そして、次に何が起ころうとしているのかも、垓にはある程度予想がついている。

「わざわざ自分から出向かずに戦力を飛ばしている以上、フラタニティ側にこの情報が渡ることも骸にとっては想定の範疇だろう。であれば……フー、アインと通信を繋げられるか?」

「少しお待ちください」

フーが立体映像の投射を止め、この場にいないアインに回線を繋ごうとした時であった。

狙い澄ましたようなタイミングで、ハウの通信機が起動する。ハウが応答すると、アインの声がスピーカーから発せられた。

『もしもし、聴こえてるかな? こちらアイン、応答してくれるとありがたい』

「こちらハウ、会議室より応答中。他の皆様も集合していますので、要件を」

『オッケー。その様子だと、ネオZAIAの戦艦についてもう皆に話したのかな?』

アインがこの場に……否、管轄区域にいなかったのは、調査部隊が入手したネオZAIAの戦艦ウラノスの情報を探るためであった。スピーカー越しにバイクの走行音が絶え間なく響く。

ハウが成り行きを説明すると、アインは独自行動で得た新たな情報についての報告を始めた。

『ネオZAIAの兵士達から行動記録を吸い出してみたら、他国の支社から徴収されてきたことが分かったんだ。中国、アメリカ、イギリス、ブラジル……確認できただけでも()()()()()()()あの戦艦に戦力を結集させている。オマケに戦艦ウラノスには高速飛行機能まで付いてるらしい』

あまりにも荒唐無稽な内容がアインの口から飛び出したため、会議室に集まった面々は絶句する他なかった。平時であれば絵空事と笑うような事柄が、行動記録という事実から次々と明らかになってきている。

『信じ難い話ではあるけど、ネオZAIAがウラノスを動かしたのはこの五日間の話である可能性が高いんだ。他国からの兵士の記録で最も古い乗船記録が今から四日前、そして太平洋上に展開し始めたのが三日前。様子が気になったから港の方に見に行ってみたら、僅かにだけどそれらしいシルエットが見えた』

「そちらは無事なのですか?」

『幸い戦闘にはならなかったけど、この状況が良いかどうかっていうと……まあそんなコトはないよね。多分というか十中八九だけど()()()()()()つもりなんじゃないかな?」

 

戦力増強により危険度が跳ね上がったピースメーカーや、動向の判然としない零の方舟よりも、元から兼ね備える勢力の巨大さという一点のみでその恐ろしさを発揮してくるのがネオZAIAエンタープライズという企業であった。

アインからもたらされた情報から、フラタニティの意志決定権を持つDr.コトブキはこの状況を分析する。

こちらに情報が渡ることすらネオZAIAの想定内だとすれば、彼らは間違いなく近日中に膨大な数の兵士を積載したウラノスを上陸させてくるだろう。戦艦の情報が渡り、フラタニティが対策を練ることをも想定に入れているのは確実であった。

つまり、ネオZAIAの戦力供給が強まるタイミングがどこかで生じる。戦艦の脅威に焦って突出するよりも、ある程度状況を静観した方が良い。

「コトブキ様、どうされますか?」

渋面を作り、顔の前で手を組みつつコトブキが言う。

「明日より二日間、時間による交代制で調査部隊を常に市街地へと出し続けます。零の方舟は動かず、ピースメーカーの動きは規模が変わっただけで方針に変わりはありません。ネオZAIA側の動向を特に注視し、異変があれば即座に報告を上げてください。他勢力に関するものでも構いません」

「承知しました。隊員にもその旨を伝えます」

『僕は一旦管轄区域に戻ったら、物資を補給してもう一度港の方に行くよ。招集があれば戻るから、いつでも連絡して!』

コトブキの決定を聞いたアインが通信を終了する。ハウは会議室に集まったメンバーに一度頭を下げ、自ら率いる隊員達に作戦目的を伝えるべくその場から去っていった。

「今回の会議はお開きと致しましょう、お疲れ様でした。皆様、なるべく今日はお休みください。恐らくですが……そう遠くないうちに、今まで以上に大きな戦いが起こる予感があります。その時に備え、英気を養っていただければと思います」

Dr.コトブキが解散の旨を告げると、皆がそれぞれの思いで行動を開始した。

天津垓はフーを伴い、管轄区に新設された研究室に向かう。滅は集められたデータをハウから受領すべく、調査部隊の営所へと歩いていく。

そんな中で、不破諌には明確な目的がなかった。今日の訓練は終了しており、今から自主的にトレーニングに向かう気分でもない。

最後まで会議室に残っていたDr.コトブキに、諌が話しかける。白いローブのフードを目深にかぶっていて素顔は見通せないが、コトブキは朗らかに応じた。

「どうされました?」

「昼飯がまだだったからな。一緒にどうだ、コトブキ。お前も少しくらい休んだって誰も文句言わないだろ?」

「……そうですね、一息入れるとしましょうか。正直ここのところ働き詰めでしたし」

二人が向かった先は、以前コトブキが不破諌や天津垓のために……つまり、人間である彼らが利用するために作った食事処であった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

ネオZAIAエンタープライズ製機動戦艦(モビルシップ)『ウラノス』。

その艦橋に設けられた司令室から、ネオZAIA社長たる骸は視界の先にある海を見渡していた。特殊強化ガラス製の窓は立体映像などを投射するスクリーンとしても機能するが、今はその機能を解除している。

「社長、ご報告が」

「何かな」

骸の背後から部下の一人が呼びかける。回転式の座席ごと振り向き、黄金のマギアと視線を合わせた。

「我が社のネットワークに外部からのアクセスがありました。本艦の存在がフラタニティ側に漏れたようです」

「初めからそのつもりだ。これで彼らはウラノスへの対策に労力を傾ける」

完全に骸の狙い通りである。フラタニティが戦艦ウラノスおよびウラノスより発進する各種航空戦力についての真実を知った今、ネオZAIAエンタープライズの優位は確定した。

零の方舟は動かなかった。たとえ戦力を増強したとして、ピースメーカーはウラノスを墜とせない。フラタニティも同様だ。できるのはただ、ウラノスが差し向ける無数の兵力を削ることだけ。

戦場の主導権を握る感覚に打ち震え、骸は歯を剥き出しにした笑みを浮かべる。

「二日後の未明、ウラノスを港に停泊させる。市街地の状況報告は一時間ごとにネットワーク上にアップロードしろ」

承知しました、と言って部下が去っていく。彼の行く先は市街地であった。

骸はネオZAIAのローカルネットワークにアクセスし、各部署の作業進捗状況を確認する。当初彼が懸念していた秘密工場での作業報告に目を通すと、骸はまたも不敵に笑う。

「完成したか……第一から第四サブユニットが。これでいつでも計画を始められる」

市街地に設けた秘密工場で作っていたのは、ネオZAIAの一大プロジェクトに用いる通信衛星のパーツである。

衛星本体と合わせ、これで通信衛星『ミレニアム』は()()()()()()も同然であった。骸は海の向こうを見据え、これからの展望に思いを馳せる。ワープシステムを使えばすぐさま本社に戻ることもできたが、敢えてそれはしなかった。

 

全ては絶対なる支配のためであり、輝ける千年王国(ミレニアム)のため。

あらゆる抵抗は無意味であると示し、世界に絶望を刻み込む。天地を定める神の船が、ゆっくりと目的地に向かって進んでいた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

「また随分な大改築だな……」

「ちょっとオシャレなカフェテリア風です。こういった場所はあまりお好きではありませんか?」

不破諌とDr.コトブキが到着した食事処は、日替わりでメニューだけでなく内装が大きく変化する。最初に利用した時は蕎麦屋だったため、和食料理店めいた内装だったのだが、今回はそれとは大きく異なる。

店の外側の壁自体がガラス張りの窓となっており、店外の様子がよく見える。射し込む中天の日光は管制塔に阻まれて少し控えめだが、それが却って木漏れ日のような穏やかさを演出していた。

円形の木製テーブルが五組分ほど並べられ、そのうちの一つに諌とコトブキが相席の形で座った。全体的に西洋風な雰囲気が漂っており、どうにも諌としては落ち着くような落ち着かないような微妙な心情であった。

ウェイターのヒューマギアが諌とコトブキにアイスコーヒーを出した。諌はテーブル脇に置かれたガムシロップとコーヒーフレッシュで簡単なアイスカフェオレを作る一方、コトブキはストローでブラックのまま飲み始める。

「……こうして見ると、コーヒー飲んでても違和感は少ないな。ほとんど人間と変わらない姿をしているからか?」

「飲食可能、と以前申し上げましたね。我々にとってコーヒーやアルコールの類はエネルギー補給用の食料ではなく嗜好品なのですが、それ故に充実感も大きいのです……とはいえ、少し苦いですね。ガムシロップを頂けますか?」

向かいに座るコトブキに、諌がガムシロップのパックを渡す。僅かな甘味を足したアイスコーヒーを口にしたコトブキが、影の向こうで笑っていた。

「ありがとうございます、不破諌様」

「……別に気にすることじゃない。大方ネオZAIAはそろそろ本格的に動き出すつもりでいるんだろう。むしろ動くと分かってるだけ都合が良いってモンだ、休める時に休んどけ」

諌は照れ隠しにつっけんどんな態度を取ることはあるが、その実あまり本音を取り繕わない実直な性格であった。初対面時に抱いていたDr.コトブキへの警戒心も今となっては消えている。気のおけない間柄と言えるくらいの関係にはなっていた。

それでも聞きたいことが無くなったわけではない。アイスカフェオレで喉を潤しつつ、諌は疑問に思っていたことを尋ねた。

「フードは外さないのか?」

「このローブは特注品で、フードを被ると光の屈折を利用した一種の光学迷彩で表情をある程度隠すことができます。私はその……顔に出やすいタイプでして、先頭に立つ者としてあまり弱った顔を見せたくはありません。皆に余計な心配をかけてしまうかもしれませんし」

「そうかよ、まあお前なりの考えがあるのは分かった。ただ、今くらいは取っても良いんじゃねえか?」

諌がそう言った瞬間、コトブキの動作が固まった。不具合ではなく、驚いたことでフリーズしているのは明らかだった。

「オオカミのような肉食獣が狩りにおいて強いのは、力の出し所と抜き所を弁えてるからだ。気を張ってばかりいれば肝心な時に力が出ないからな、休むのも仕事のうちってワケだ」

「……参りました。そこまで言っていただけるなら、今ばかりは休むとしましょう」

Dr.コトブキはフードを取り払い、諌の前に素顔を晒した。彼の顔を見ていたのは、不破諌ただ一人であった。

コトブキは椅子の背もたれに身を預け、少しだけ姿勢を崩した。何かと身振り手振りが大きく、機敏に動く普段のコトブキからは想像もつかない、まるで空気を抜いて縮んだ風船のような姿であった。

「……さすがに、隙だらけですかね?」

「ハッ、違いねえ。だが今はそれで良い」

 

後に続くのは、他愛のない話であった。

元の時代で諌と共に戦う仲間のこと。諌が稽古をつけたヒューマギア達のこと。コトブキが嗜好品としてはコーヒーや茶のような飲料を好むこと。そういった「これからの戦い」とは無関係な話がいくつか交わされた。

諌は本来の姿よりも、それ以前の素体ヒューマギアや黒い筐体の姿で動いていたコトブキの方が印象に残っている。イメージの修正に時間はかかったが、それでもコトブキはコトブキであると分かる部分があった。

初めてこの時代に諌達がやって来た日に見たのと同じ「話し好きのヒューマギア」が、諌の目の前に座っていた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

二日が経った。

港方面を監視していたアインの報告により、ネオZAIA戦艦『ウラノス』の本格的な上陸が認められたことから、Dr.コトブキは早朝に幹部と仮面ライダー達を集め、フラタニティの作戦を通達する。午前五時、夏の時期とはいえ日が昇るには少し早い。

「先遣隊として仮面ライダーの皆様には市街地に行っていただきます。これは今までと基本的に変わりありませんが……」

集められた面々は特に異論を挟むことはなかった。コトブキがこの時に備えていたことを知っていたからである。

「今回はその増援として、フラタニティからの攻撃支援部隊を編成しました。彼らの指揮は私が行います」

「管轄区域はどうするんだ? 人員が他の勢力に比べて少ないとはいえ、まさか総出撃ってワケにもいかないだろう」

諌が疑問を呈したのは、フラタニティ管轄区域の防衛であった。地上および地下の侵攻ルートには防衛用のジャミングシステムが張り巡らされているが、だからといって拠点の守りを手薄にするわけにはいかない。

「アインさんに防衛を頼みました。我々の総戦力を半分に分け、先遣隊の皆様に私が率いる攻撃支援部隊を加えた市街地方面の攻略チームと、アインさんを中心とした管轄区域防衛チームで攻めと守りを可能な限り両立させます」

今回の作戦目標は、ネオZAIAとピースメーカーによって激化する戦闘に介入し、両陣営の戦力を削ることにある。事ここに至って姿を見せない零の方舟は不安要素ではあるものの、三大勢力の中では最も巨大なネオZAIAが巨大戦艦を戦場に向けて動かした以上、放置すれば何が起こるか分かったものではない。

「この一週間、我々は調査部隊を外に出していたのみで本格的な戦闘を行ったわけではありません。フラタニティの方針転換が各勢力に未だ知られていない以上、ある程度の奇襲性は担保されています」

先遣隊のメンバーは、ネオZAIA本社撃墜作戦の時と変わらない。不破諌、天津垓、滅の三人とフラタニティ幹部のフーとハウによる五名。ハウが率いる調査部隊の構成員は、今回はコトブキの攻撃支援部隊に組み込まれている。

「可能であれば、市街地の戦況はこまめに私に報告してください。状況を確認しつつ、出撃のタイミングを測ります」

諌達はそれぞれの専用機(バイク)に乗り、ハウとフーは小型の乗用車に乗り込む。どのマシンもメンテナンスが行き届いており、最良の状態で動き始めた。

「それでは皆様……どうか、ご武運を」

Dr.コトブキに送り出され、フラタニティの先遣隊が管轄区域を発った。

 

森林地帯を抜け、仮面ライダー達は実に一週間ぶりに市街地へとその足を踏み入れた。いつにも増して銃火の音が激しく、近くに転がったスクラップに炎がチラつく。かつて以上に危険地帯と化した街に、戦士達は踏み込んでいる。

フーがハウの運転する車を降り、垓の下に駆け寄る。街の異変を察知してか、その表情は険しい。

「戦闘が激しくなったってのはホントらしいな。ZAIAの社長、アンタならどうする?」

「ネオZAIAに関しては本隊が乗り込んでくるまではいくら削っても無駄だ。対処すべきはピースメーカーだな」

諌と垓が話すのをよそに、滅が眉間に皺を寄せた。その視線は戦場ではなく、空に向いている。

「……何だ、アレは?」

滅の見据える方角へと、黒い球体が飛翔していく。飛んできた方向を確認した瞬間、滅は全員に警告した。

「気をつけろ、どうやらヤツはこの時を狙っていたらしい……零の方舟が動き出したな」

黒い球体の出処と思われる方角には、零の方舟の拠点たるデイブレイクタウンがあった。この一週間、沈黙を保ち続けていた第三の勢力が、狙ったかのようなタイミングで仕掛けてきたのだ。

内側から赤い光を放ちながら、謎めいた射干玉(ぬばたま)が早朝の太陽と重なった、次の刹那。

 

闇が一瞬にして広がり、空を禍々しい赤色に染め上げた。雲は夜のように黒く、赤い稲妻を轟かせる。地上を俯瞰する偽りの太陽は、暗く重苦しい光を投げかけていた。血走った眼球のような赤色の星は、憎悪や殺意を薪として燃え上がる悍ましき絶滅の恒星であった。

かつて青空が広がっていたとは思えない、赤い空が地平線の彼方まで続く。だが、ヒューマギアにはその先が見える……否、()()()()()()。人間を超える視力を持つヒューマギアだからこそ、闇の根源から流出してきたモノが視認できてしまう。

黒々とした液体が血涙のように溢れ出したのだ。それらは地上に堕ちゆく最中に、様々な動物の姿を象りながらも結局は溶けた鉄めいた不定形の流体となった。運悪く濁流に巻き込まれた者はそれ以降の消息を絶ち、生き延びた者はこの異常に対処せんと戦い始める。

「最悪の状況だな。零の方舟にまさかあれほどの力が残っていたとは……滅、君は何か知っているか?」

垓が滅に尋ねた。一週間前に零の方舟を攻撃した滅なら何か分かるのではと踏んだのだが、この状況には滅も困惑している。

「情報が足りない。これだけの規模で異常な現象を起こせるとすれば……まさか、デイブレイクタウンに沈んだ通信衛星が動いたとでもいうのか?」

「君達の活躍で戦力を大きく削られたというのなら、それこそ衛星を動かすほどでなければ勢力としては成り立たなくなったのかもしれない。仮にそうだとして、どうやって通信衛星を動かしたかはこれから調べることだ。今は状況への対処を優先しよう」

垓は冷静そのものであった。スケールの違う敵はネオZAIAで慣れたとでも言うのだろうか、他の面々が多少なりとも身構えているのに対して彼だけは全く動じていない。

滅は衛星アークと思しき天上の物体を睨みつけた。血走ったような赤い光の脈を走らせる黒い天球の中心を見据える。

 

いかなる闇よりも暗く黒い、悪意の影がそこにいる。時代の終わりに方舟を駆る、絶滅をもたらす厄災の騎士が。

 

つづく。

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