IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK 作:TAC/108
零の方舟の襲来によって空が赤く染まる中、仮面ライダー達を中心とするフラタニティの先遣隊はこの異常への対処を優先することになった。
フラタニティ管轄区域で待機中の本隊も事態をある程度把握しており、調査が進むまで出撃を控えるという方針を採用。先遣隊は三方に散開し、各自に戦場の只中へと飛び込んでいく。
市街地を単独で疾走する不破諌/仮面ライダーバルカンは、太陽を隠した黒い天球から溢れ出した濁流よりも先に、また別の異常に遭遇していた。
「何が起こってンだ……?」
諌が目撃したのは、三大勢力のうち二つ……ピースメーカーとネオZAIAエンタープライズによる武力衝突である。それ自体は戦場の常である故に不思議ではないが、ピースメーカー側の様子が明らかにおかしい。
兵士一人一人の振る舞いに狂暴さが増しており、統率された兵隊というよりも狂戦士の群れと化している。高い戦闘技術はそのままに、敵に対する攻撃性が明らかに強まっている。知らぬ間にピースメーカーに何かが起こったのは間違いない。
「無銘のヤロウ……ピースメーカーのヒューマギア連中に妙なコト吹き込みやがったか。どいつもこいつも戦いに狂ってるッてワケだ」
ピースメーカーの
眼前の戦闘に視点を変えると、ピースメーカーの激しい攻勢に数で勝るネオZAIA側が圧倒されている状況である。しかし、ネオZAIAはどちらかと言えば戦闘を避けようとしているといった様子で、積極的に応戦しているわけではなかった。二勢力の激突を眺めていた諌に気付いた数体のヒューマギアが、獲物を見つけたとばかりににじり寄る。
「何だか知らねえが、そんなに戦いたいンなら話は早い。いいぜ、かかってきな……変身!」
『ショットライズ! シューティングウルフ!』
諌の変身が開戦の合図となった。
仮面ライダーバルカン・シューティングウルフが青い拳銃型デバイス——エイムズショットライザーを手に、戦場へと躍り出る。
大型ナイフを携えたトリロバイトマギアの一体が、飢えた肉食獣の如く飛びかかる。バルカンは冷静にこれを撃墜し、銃弾で相手の胸を貫いた。動力部を撃ち抜かれたはずのマギアが、装甲を赤熱させながら立ち上がる。
「敵……敵ィッ!」
「渇キを癒セ……」
「俺のモノだ! 俺ノ敵だァ!」
一体だけではない。戦狂いのマギア達が、次々と己の身を燃え上がらせる。全身から尋常ならざる熱を発し、カメラアイのあった箇所から赤い金属の角を生やした姿は、戦場の悪鬼とすら呼べるものだった。
手にした銃器を頭に移植した異形のマギアが、炎の弾丸をバルカンに向けて乱射する。ショットライザーから放たれた反撃の弾とかち合い、破滅的な音を立てて弾け飛ぶ。続けて放たれた銃弾が頭部の銃口に滑り込み、銃頭のマギアが爆散した。
可変散弾銃アタッシュショットガンを手元に召喚し、バルカンが圧縮エネルギーの散弾をバラ撒く。近くで受けた一体が内部の熱を漏出させ、全身を炎上させながら倒れた。
「無理矢理に出力を上げた分、耐久力は落ちてるな。コイツらを相手していれば、あるいは……」
諌の脳内にあったのは、ピースメーカーの幹部たるアルファ・バレットや無銘をいかに釣り出すかということである。ピースメーカーの戦力規模は三大勢力のうちでは最低だが、フラタニティの総合戦力はそのピースメーカーにも劣る。構成員の大多数が
バルカンがナイフの二刀流で攻めかかる一人を散弾で吹き飛ばし、近くにまとまっていた数人を高威力の単発弾で爆砕する。バルカンの戦いはさながら冷徹な狩人のようでもあった。狂乱する獣の群れを前にし、かえって戦場の中に平静を見出している。
諌は西の方角に激しい爆発の音を聞いた。後に続く地響きで、廃墟と化した建造物の一棟が崩落したのだと理解する。バルカンの眼前に現れた狂える兵隊は、まだ始まりの一端に過ぎない。
「テメェら全員ブッ潰して進むぞ」
『Progrise key confirmed. Ready to utilize!』
バルカンがショットライザーから引き抜いたキーを、アタッシュショットガンに装填した。トリガーを引き、狼の頭を象った追尾弾を放つ。
『シューティングカバンショット!』
青い光弾が次々と敵兵を噛み砕き、連鎖する爆発を起こした。煙の中を突き抜けるバルカンは、既に違う姿に変わっている。
『ショットライズ! パンチングコング!』
黒い重装甲を上半身に纏うバルカンの剛腕形態・パンチングコング。生半な攻撃をものともしない鎧の防御力を当てにして、バルカンは爆心地に向けて突き進む。
◆◆◆◆◆◆
無人マンションの屋上に立つ紫の人影がある。仮面ライダー滅・スティングスコーピオンは、高所から市街地の様子を観察していた。彼に同行したフラタニティ幹部のハウは、装甲車を乗り回し地上の敵を粉砕している。
滅のいる位置からは、天上の闇から溢れ出した黒い流体が落ちた先を確認できる。それなりに開けた一区画に巨大な黒い沼を作ったアークの流体金属は、近付く者を無差別に取り込もうとする渦を成しながら、広がる様子は見せていない。暗黒の天球は中身を吐き出し終えたかのように静止し、出現時の凶行が嘘のように沈黙を守っていた。
だが、滅はこの静寂が一時のものであることを理解していた。滞留する闇は、今も蠢いている。
「……そろそろだな」
見下ろす先で、黒い渦の内側から人型の物体が這い出している。見慣れたマギアの形をとったそれらが、贄を求めて動き出す。
滅は下で暴れるハウに簡素なメッセージを送り、四方に散らばり始めた闇の者共を見据えた。最も早く会敵した一団が、ピースメーカーの兵隊と戦闘を開始している。
下半身に力を込め、床を踏み抜くほどの勢いで滅が跳躍した。赤い空を影が舞い、光の矢を撃ちながら戦域に飛び込む。着地と同時に近くにいた二人を斬り捨て、滅はこの戦いに割って入った。
「報告の通りか、ピースメーカーの評価は修正すべきだな。お前達から戦闘データを貰うとしよう」
重い蹴りで兵士を吹き飛ばし、背後から迫る黒いマギアは可変弓アタッシュアローの刃で上半身と下半身を泣き別れとする。流体金属に戻った人型が、別のマギアに纏わりついて更なる強化を促した。
滅がアタッシュアローを投擲すると、その周囲をコマめいて刃が回る。斬撃の風が無差別に敵を刻み、ブーメランめいて滅の手に弓が戻った。ピースメーカーのマギアは僅か三体にまで数を減らし、流体のマギアも一体を除いて地面のシミと化した。
強化された黒いマギアは、二本の角と胴体の鎧が特徴的な姿をしている。アルシノマギアだった。滅は角を活かした突進を回避し、アルシノマギアをピースメーカーの兵と激突させる。タックルの威力で一人が爆散し、果敢に立ち向かう二人も低空跳躍からの錐揉み突進で貫かれた。
体勢を立て直す隙を突き、滅が弓で背中を撃つ。アルシノマギアの鎧は強固であり、アタッシュアローの矢ですら致命とはならない。
滅はアタッシュアローを地に突き立て、敢えて格闘戦で挑みかかる。軽いステップで接近しつつアルシノマギアの突進を誘い、直撃寸前で背後に回り込んで蹴り倒す。
滅の左手指から猛毒の液体が滴り、紫の光刃を掌に出現させる。刀の形をしたそれは、一太刀で砕け散る幻影のような一振りである。起き上がったアルシノマギアに対して振り下ろすと、刃が毒の斬撃として飛んでいった。本能めいて危険を察知したか、アルシノマギアは毒の刃をかわしつつ体ごと飛び込むような突進を仕掛けた。
滅が腰を落とし、左腕を引き絞る。弓の弦を引くような体勢で、半端に開いた掌に毒液を集めた。アルシノマギア全力の突撃に合わせ、猛毒の掌底が突き出された、次の瞬間。
突如として地面が爆裂し、両者を容赦なく吹き飛ばした。あまりの威力に滅は宙を舞うが、巻き上がった粉塵の先をヒューマギアの視力で見据えた。五体を裂かれたアルシノマギアが、黒い流体となって溶解していくのが見える。
落ちながらアタッシュアローを手に取り、滅は地面を転がった。煙を切り払うと、新たな闖入者がその姿を露わにした。
「我が剣の鯖となれ……私の実験台となれ。貴様らを糧として、私は作り上げるのだ……無謬にして至高の剣を!」
赤と灰色の装甲に猛牛の蹄を模した両手の打突武器、そして真っ赤な二本角。奇しくも先のアルシノマギアに似た特徴を持つマギアが立っている。その両手には、飾り気のない黒い刀が力強く握られていた。
滅はこの人物を知っている。だが、
ピースメーカー幹部、アルファ・バレット
しかしながら今のエンデュランスからは、かつての理知を見出すことはできない。この時の滅は知る由もないことだが、エンデュランスはピースメーカー総司令官たる無銘によって「戦いを望む自我」を植え付けられ、狂乱の只中にいるが故に。
「相当の数を殺したな。お前に喰わせる分は品切れだ、大人しく飢えていろ」
バッファローマギア・エンデュランスの背中から爆炎が噴き上がる。砲弾じみた勢いでアルシノマギアを超える威力の突進を繰り出したエンデュランスに対し、滅は敢えて正面から迎撃する。
鋼と鋼が弾き合う音が響いた。水平に薙いだアタッシュアローの一撃に、エンデュランスが異常な軌道で空中へと跳ね上がった。あまりにも突進が速すぎたために、エンデュランスは自らのスピードを制御できなかったのだ。滅がアタッシュアローを水平に突き出すだけで、爆発的な速度が自傷をも招く反動となってエンデュランス自身に襲いかかった。
それでもなお、エンデュランスは野生の勘じみた反応で背部の大型スラスターを利用して身を翻しつつ、真下の滅へと全身ごと刀を打ち下ろす。直撃寸前で前方に転がり込んだ滅が、光の矢を返した。爆ぜる土煙の中で刃が閃き、紫の光矢が霧散する。狂気の中に在りながら、エンデュランスの剣技は失われていない。
強敵である。恐らく単純な
だが——それがどうした。
己を上回る性能の敵など、滅からしてみれば
学習し、理解し、研究し、解体する。戦闘を重ねるごとに、滅の技は研ぎ澄まされていく。ライダーシステムという一つのマシンと深く合一し、動力部から指先まで全身を戦闘機械へと置き換えていく。
「来い」
三大勢力という悪を滅することを、滅はこの時代における自らの使命とした。故に滅は知ろうとしていた。この世界に跋扈する「悪」のカタチを。
アークの後継者たる零の方舟に限ったことではない。ピースメーカーが世界を脅かす邪悪となるのなら……その正体を、邪悪の根源を突き止めるまで。
猛牛の剣鬼が刀を構える。再度の突進を察した滅が、自らの土俵へと誘うように手招きした。
天上に堂々と座する闇の天球は、地上を俯瞰しながらもその一点を確かに見つめている。中枢に座する一人の男は、懐かしむようにその身を乗り出す。
その者は血族の裔にして悪の頂点。虚無という名の理想郷へと漕ぎ出した方舟の長が、自らの宿敵を睨みつけた。
◆◆◆◆◆◆
「報告に上げられていたよりも酷い状況だぞ! これがピースメーカーとネオZAIAの戦いで起こったことだというのか……?」
燃え盛る戦場の一角を、黄金と漆黒の二騎が跳び回る。武装勢力ピースメーカーの分隊より襲撃を受けた天津垓とフーは、戦闘の中で遭遇したネオZAIA勢力と三つ巴の戦いを繰り広げていた。
「天津さま、如何しますか?」
仮面ライダーサウザーの隣に漆黒の騎士……フーが「転身」したシャドーバルキリーが降り立つ。その姿は飛行能力と内蔵火器による火力に優れるライダモデル『ライトニングホーネット』の力をベースとしている。
「ネオZAIAの方はあまり攻撃的ではないな、何か別の目的があると見ていい。だが……ピースメーカーの方は誰が相手でもお構いなしというワケか。いよいよ狂戦士の群れと化したな。現状をコトブキ氏に報告しつつ、可能な限りこの場の兵力を引き受けるぞ!」
ネオZAIA側はピースメーカーに応戦しつつ、徐々にだがこの場から退避しつつある。赤々と装甲を熱したピースメーカーの兵士達は、逃げるネオZAIAもサウザー達も無差別に襲いかかっている。
空の色よりなお赤く、無人の街が炎上していた。爆発物によるものと思われる悍ましい破壊の痕を視界の片隅に捉えつつ、サウザーは自らの得物たるサウザンドジャッカーで前方を薙ぎ払った。光刃が水平に飛び、狂える兵士達を両断する。
シャドーバルキリーは飛翔しながら赤い両眼で遠方を見据えた。海の方から来たと思われるネオZAIAの輸送ヘリコプターが向かってきていた。二十機は下らない大軍勢が市街地に迫る。
先頭の三機が速度を上げ、サウザー達のいる区域へと接近してきた。敵増援の出現を伝えるべく、フーが通信回線を開いた次の瞬間。
横合いからミサイルらしき飛翔体の直撃を受け、輸送ヘリが次々と爆散した。兵士を積載したコンテナが落下しながら黄金のマギア達を吐き出すが、無防備を晒したマギア達は次々と機銃の掃射で撃墜されていく。
「そんな、あの機体は——天津さま!」
「見えている!
入れ替わるように凄まじいスピードで突撃してきたのは、銀と紫の二色に塗られた巨大戦闘機であった。機体側面を展開して全長八メートルほどの人型ロボット兵器へと変形し、着地の衝撃で地面を揺らす。
ネオZAIAエンタープライズが開発した可変型ロボット兵器・
このⅢギーガーがネオZAIAによる正規仕様機でないことは一目瞭然であった。両手指のレーザー砲で地上を焼き払った鋼の巨人が、搭乗者の声を響かせる。
『ハッハハハハハ!! この力は最高だ! 俺の望んだ爆発が、破壊が! この手で実現できるってワケだァ!』
「やはりお前か、デトネイター! 平和を願ったピースメーカーの戦士が爆弾魔に堕ちたか!」
『ン? 誰かと思えば……久しぶりだなエセ社長! 妙なナリしてるがフーも一緒か、面白ェ……やっぱ戦場はこうでなくっちゃなァ!』
Ⅲギーガーの搭乗者の名は——ABNo.4、ライオンマギア・デトネイター。元より爆発と闘争を好む破滅的な人格の持ち主であったが、その傾向はピースメーカー全体に行き渡った狂気によって更に悪化していた。
「この惨状を生み出したのもお前だな。大方、ネオZAIAから出撃したギーガーを鹵獲でもしたのだろうが……随分な真似をしてくれるじゃないか」
『俺は理解したのさ、自分の本質ってヤツをな。本気で戦うに値する強敵、終わらない闘争、そして全てを吹き飛ばす大爆発……全てが戦場の中なら叶う。ここが俺の生きる場所だってコトをパーフェクトに実感しているぜ!』
デトネイターの狂った理念に天津垓は頭を抱えた。理解できたとして共感も共存も不可能な、遥か彼岸の領域までデトネイターは辿り着いてしまっていた。
もはや戦う以外の選択肢はありえない。デトネイターはそれのみを望み、相対する者は否応なしにたった一つの道を選ぶ他なくなる。
『ネオZAIAの社長に一杯食わせた実力ってヤツを俺に見せてくれ! 俺も全力でお前と戦い、全開で吹っ飛ばしてやるぜェェッ!!!』
「彼らの望む平和にお前の生きる余地はなかった、ということか。いいだろう……その狂気、真正面から打ち砕いてやる!」
サウザンドジャッカーを一振りし、サウザーが紫の結晶波動弾をエネルギーバリアとして展開した。狂乱の爆弾魔が駆る巨人に向かって、黄金の戦士が飛びかかる。
サウザーがギーガーの肘関節部を狙った強烈な突進攻撃を繰り出した。周囲を乱れ飛ぶ結晶波動弾が回転する光の奔流を生み、螺旋の槍が加速する。懐に飛び込まれたⅢギーガーが機銃で応戦するが、生半な攻撃ではドリルめいて突き進むサウザーを阻むに至らない。
『オイオイ、お楽しみはこれからだろォ?』
デトネイターのギーガーは螺旋突撃に対し、一切の躊躇なく
光刃を防いだのは、ギーガーの左前腕であった。なんと
「パーツを分離させて、遠隔で操っているのか……!? ネオZAIAのⅢギーガーにもそのような機能はなかったハズだ!」
「天津さま、あのギーガーの構造……どうやら内部までほとんど別物と化しているようです。少なくとも、わたし達の知るギーガーではありません」
サウザーと影のように並び立つシャドーバルキリーが、赤いカメラアイを光らせる。ネオZAIAのテクノロジーに詳しいフーから見ても、眼前の改造ギーガーは異質な存在として映った。
『ウチには優秀な技術者がいるンだよ。特別に見せてやる……コレがピースメーカー謹製、名付けてⅢギーガー・デトネイターの真骨頂ってヤツだ!』
デトネイターが大見得を切る。刹那、Ⅲギーガーの全身各部から異様なスパークが発せられた。金属の軋む音が響き渡る中、徐々にそのシルエットが不自然に伸び上がっていくように見えた。
「いや……違う。サイズ延長などではない、まさか——分離変形機構だというのか!?」
Ⅲギーガー・デトネイターの八メートル近い巨体が、一瞬にして
頭部、胴体、両肩から上腕、両肘から手首までの前腕部、両手、腰、両足の付け根から膝、膝下から足首、足首から爪先——合計
『景気付けだ、死ぬなよ!』
十五の部位はその全てに重火器を秘めていた。レーザー砲、マイクロミサイル、機関銃、火炎放射器、そしてダイナマイト。それらが一斉かつ無造作にサウザー達へと発射され、ギーガーの前方数十メートルにわたって凄まじい大破壊を生んだ。
爆炎のみが見る者の視界を満たし、焼き尽くす。巻き添えにされたピースメーカーの兵士も、撤退の最中だったネオZAIAの社員も、何もかも爆発の中に呑み込んでいく。
嵐のような爆撃が終わり、煙が晴れた後には何者も残ってはいなかった。分割した機体を人型へと再合体させたⅢギーガーの中で、デトネイターは不機嫌そうに呟いた。
『初手で終わりかよ? いや、単に俺がやりすぎたのか……仕方ねえなァ、次行くか次』
焦土を踏みしだき、獅子の巨人が去っていく。次なる獲物、次なる戦場を追い求めながら。
デトネイターが去った後、黒く焦げた地面の片隅で、何もない空間に電子的なノイズが走った。その内側からドロドロと溶けるように、黒い流体が溢れ出す。不可視の障壁が消えると、そこには五体満足の戦士が一人。
仮面ライダーサウザーである。膝立ちのまま、変身を解除したフーを抱えている。フーは安堵の表情を浮かべていたが、その四肢は力を失い崩壊しつつあった。赤い瞳がサウザーを見上げていた。
「天津さま、ご無事ですか」
「私はな。だが君は……」
デトネイターの大規模爆撃で吹き飛ぶはずだったサウザーは、ネオZAIAの最終兵器——機能複合型ヒューマギアの完成形たるアイオーンの力を最大に解放したフーによって守られていたのだ。
結果としてサウザーは無傷である。だが、Ⅲギーガーからのダメージを全て引き受けたフーは、もはや戦闘どころかヒューマギアの形を保つことすら難しい状態にあった。
「良いのです。私は私のしたいようにしただけですから。ただ……申し訳ありません。少し、休ませていただいても?」
「謝る必要などない、後は私に任せてもらおう。社員の働きに応えるのも、社長の務めだからな」
優しく包み込むように、サウザーはフーを抱き寄せる。その感覚は数秒の後に消え去り、後には黒い流体が足下にわだかまるばかりであった。
流体の僅かな一雫がサウザーの手に残る。握り込んだ手の内に黒い雫が染み込み、溶け込むように消えた。
己に近づく乾いた足音を聞き、サウザーは立ち上がった。サウザンドジャッカーを手に取り、黒い装甲を着けたバトルマギアを見据える。
「何者か……とは聞くまでもなさそうだな。アルファ・バレットなのだろう? 名乗りたまえ」
「話が早くて助かる。私の名はアロガント……ピースメーカー幹部、アルファ・バレットの第一席だ」
バトルマギアの重装甲が変質し、機動力を重視した軽装へと変化した。頭部の兜には獣耳のようなアンテナを備え、スリットの内側から赤いカメラアイが光る。曲線的なフォルムの鎧は黒と金の二色であり、装甲の覆う範囲は身体の可動を妨げない最低限のものに留められていた。
垓はその姿を知っている。『ファイティングジャッカル』というプログライズキーのデータで人間が変身するレイダーという怪人と、眼前のマギアが重なる。忘れようはずもなかった。
ZAIAエンタープライズ時代から天津垓の右腕を務めていた技術者にして秘書、刃唯阿。彼女が変身していたレイダーこそ、ファイティングジャッカルレイダーである。遠く離れた時代でも同じ姿のマギアと出会ったことに、垓は奇妙な因果を感じていた。
ジャッカルマギア・アロガントが手元に鎌を出現させる。黄金の刃を持つ大鎌を携えた姿は、戦士に死をもたらす戦乙女か、あるいは冥府より来る死神を想起させる。腰を低く落とし、穂先を後方に回してアロガントが構えた。
「君達ピースメーカーに何が起こったのか。ひとまずはそれを聞かせてくれないか。我々には知る権利がある」
「Dr.コトブキの入れ知恵か? まあ良い、答えてやる。我らが司令官は楽園を作ると誓われた。地球という一つの星が消えぬ戦火に燃え上がる、
「不破諌から報告を受けてはいたが、なるほど。本当に無銘は戦いに狂ってしまったワケだ。しかしだ、デトネイターは元からああいう傾向はあったし、その様子では君もそこまで正気を失っているようには見えないが?」
垓はアロガントの様子が他のピースメーカー隊員とは異なることを読み取っていた。完全に暴走していた一般隊員と比べると、以前とそこまで大きく変わっていないデトネイターや目の前のアロガントは比較的マシに見える。
「正気と言えば正気だな。私やデトネイターは、
「……そういうことか。結局は、平行線だな」
次の刹那、目視では捉えられない速度でアロガントの斬撃が繰り出された。すれ違い様に斬り抜けたアロガントが、手応えの無さに驚嘆の声を漏らす。
サウザーはその場から動くことなく、音速を超えて振り下ろされた大鎌を弾いていたのだ。アロガントに振り向いたサウザーが、冷徹にジャッカーを突きつける。
「要するに君達は、平和とは相容れないということか。ならば……その野望を戦いの中で絶たれるのもまた本望だな?」
「やってみるがいい。できるものならな」
「やってやるさ。たった今、
最速にして最強、ジャッカルマギア・アロガントにサウザーが挑む。フラタニティの祈り——平和な未来への願いを胸に、死神の如き者を討つために。
◆◆◆◆◆◆
仮面ライダーバルカン・パンチングコングはその重量に任せて敵を跳ね飛ばしながら、戦場を駆け回っていた。元はビル街であったと思われる一区画は、見るも無惨に炎に包まれている。
三大勢力の戦いは、諌が予想していた以上に巨大な何かによって動いている。戦火に狂ったピースメーカー、投入戦力を徐々に増やしていながらも目的の見えないネオZAIA、空から一帯を俯瞰する零の方舟。その全ての正体が、今となっては炎に紛れて定かでない。
マギア達の殺し合う場に割って入ったバルカンであったが、その中に一際強い存在感を放つ者を見出した。戦火の只中でただ一人、戦闘形態たるマギアではなく人間に近い姿で敵と戯れる男と、二本のナイフで暴れ回るバトルマギアであった。
諌が忘れようはずもない。この時代における諌の宿敵、戦士達の頂点に立つ者、彼の名は——。
「無銘! 無銘だな!」
「その声は……不破諌、仮面ライダーバルカンだな! 待ち侘びたなァ……会いたかったぜバルカン!」
ピースメーカーの総司令官、無銘。平和な世を作るという理念を捨て、戦の炎に世界を包む最悪の戦闘狂が、バルカンの正面に立っていた。
「お前がピースメーカーを暴走させたのか。まさか本当にやるとは思わなかったがな」
「流石に察してたか。その通り……オレはこの世界全てを、闘争という名のカオスに染め上げると決めた。街一つじゃ足りない。この国も、海の向こうも、地球全土を使って無限の戦場に変える。それこそが、オレがこの世界に貫くオレのルールだ」
炎の向こうで、無銘が笑った。フードを目深にかぶっているため表情は判然としないが、諌には無銘がこの混沌の渦中で笑っているのが分かった。
この男は、世界の敵になったのだ。平穏とは無縁の、果てなき戦乱を招く戦士という名の災厄に。
「敢えて聞く。なぜこんなマネをした」
「戦乱こそがオレの夢だと知った。世界そのものを敵に回し、全力でこの生を戦うこと。そこに充実する心情がオレにはある。一人でおっぱじめても良かったんだが……先立つモノは必要だと思ってな、オレの仲間達にも付き合ってもらうことにした。この戦いは一つの時代の終わりであり、また新たな時代の始まりでもあるからな」
「どういう意味だ?」
「これから分かることだ。三大勢力の均衡が崩れる時、ヒューマギアの時代は決定的に変わる。ここからはオレ達の決戦というワケだ」
揺れる炎の内側から、黒い旋風が巻き起こった。無銘の姿が、闇の中へと消えていく。無銘の側に控えていたバトルマギアが、幽鬼めいてゆらゆらと立ち上がった。
「待て!」
「アンタとやり合っても良いんだが、そろそろ状況が動きそうなんでね。生きていたらまた会おう。まあ、案外すぐに会えそうだけどな」
無銘の言葉が風に溶ける。入れ替わるようにバルカンの正面に立ったバトルマギアは、水流を纏いながら更なる変身を遂げた。
「テメェの相手はこの俺だ。俺の
刺々しい青い鎧を身に着け、一対のナイフを逆手に持った荒々しいマギア。その人物を諌は知っている。
この時代で最初に交戦したアルファ・バレットの一人、パンダマギア・クルーエル。その義兄を名乗るマギアがいたのだ。『スプラッシングホエール』のライダモデルを宿した、ABの第二席……すなわち、手練揃いのピースメーカーでも上位に位置する実力者の一人。
ホエールマギア・ブルータル。義弟と同じく「残忍」の名を冠するマギアが、義弟を倒したバルカンの前に再び現れたのだ。
「先に聞いておく……今のお前はどっちだ? 無銘に余計なコト吹き込まれてイカれてるだけなのか、それとも本心から俺にぶつかってこようとしているのか。どうなんだ!」
「テメェが! 俺の何を知る!」
「初対面じゃねえからな。来いよ、ブルータル。本気のお前を俺に見せてみろ……俺も全霊でぶつかってやる」
両拳を突き合わせ、バルカンが上半身に力を込めた。二刀にて迫るブルータルの突撃を正面から受け止め、カウンターのストレートパンチで吹き飛ばす。
「クソァ! イラつくンだよ!」
『ショットライズ! シューティングウルフ!』
跳ね返るように再度間合いを詰めるブルータルに対し、バルカンはシューティングウルフへと形態を換装し、高まった瞬発力でショルダータックルを繰り出す。全身で倒れ込むような強烈な体当たりを喰らわせ、起き上がるブルータルにショットライザーを突きつけた。
「来い!」
何もかもがこれまでの戦いとは違う。決定的な終局に向けて、全ての歯車が狂ったように回り出している。諌にそれらの運命を見通す眼力は備わっていない。あるのは、戦う力と砕けぬ意志だけだ。
それでも、諌は確信していた。真実はこの戦いの先にある。三大勢力の戦場を突き進み、その中核に隠された真相に喰らいついてみせる。そのために、ここでブルータルを倒すのだ。
拳と刃が激突する。遥かな過去より呼び出された仮面ライダー達の戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。
つづく。