IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK 作:TAC/108
フラタニティ管轄区は、先遣隊の出撃後に発生した空の異常を観測していた。管制塔に上がったヒューマギア達は常に「異常なし」と告げるが、何らかの異常事態であることは目に見えている。
Dr.コトブキは目深にかぶったフードの下から、空を赤く照らす偽りの星を見上げた。染み渡るように発せられる邪悪の波動は、紛れもなくそれが衛星アークに由来する古きテクノロジーの産物であることを示している。
「衛星アーク……零の方舟。まさか、旧時代のテクノロジーをここまで進化させるとは」
「コトブキ様、我々も出撃しますか?」
部下の一人がやや不安げな声でコトブキに尋ねる。しかし、コトブキの判断は冷徹であった。
「引き続き、先遣隊からの報告を待ちます。可能な限り敵軍を引きつけていただき、然る後に我々が打って出る。これは作戦事項としてあらかじめ組み込まれていたことです。我々の兵力は決して多くはありません。有効な働きをするには、支援部隊の存在そのものに奇襲性を持たせなければならないのです」
「しかし……このままでは、仮面ライダーの皆さんやハウさん達の身にどんな危険が迫るか分かったものじゃありません。私達も何か力になれることは、無いのでしょうか」
部下の言葉に、コトブキはシリアスな状況ながら僅かな喜びを感じた。戦いに恐怖し、厭うばかりであったフラタニティの民から「戦う者達の力になりたい」という言葉を聞けたことが、闇の中に差し込んだ光明のように思えた。
「その気持ちを決して忘れないでください。大丈夫、彼らはきっと彼らの戦いを乗り越えます。私達にできることは二つ、信じてその時を待つことと……来るべき時に、全力を尽くすことだけです」
◆◆◆◆◆◆
刀と弓が街の一角で斬り結ぶ。その度に広がる衝撃が周囲の廃墟をも揺るがしていた。
アルファ・バレットNo.5、バッファローマギア・エンデュランスの攻撃は、正面から受けて立つには危険すぎるほどに威力が増大していた。元々頑強だったボディを全力で酷使し、両手に持った刀と持ち前の突進力で進路上の全てを粉砕する異形の闘牛と化していたのである。
稲妻じみた一刀を避け、仮面ライダー滅はアタッシュアローの射撃を返した。異常な反射速度で光の矢が弾かれ、あらぬ方向に着弾して爆ぜる。
滅は数度の激突によって悟っていた……この暴走マギアを止めるには、至近距離まで肉薄して致命の一撃を与える他にはないということを。故に今、迫り来るエンデュランスに対して滅は攻撃のタイミングを図っている。
距離にして五十センチ、アタッシュアローの刃は確実に届く。滅の行動パターン予測は敵の攻撃軌道は横薙ぎであると示している。滅はエンデュランスとすれ違う一瞬にスライディングしながら脇腹を斬りつけ、背中を見せたエンデュランスへと即座に矢を放った。
斬撃のダメージを無視してエンデュランスが背後を飛ぶ矢を弾いた。出力の上昇が反応速度をも高めている。そのうちアタッシュアローの矢ですら有効打ではなくなるだろう。
滅としては避けねばならぬ最後の手段を使い、早期決着に持ち込む他になかった。真正面からエンデュランスと激突して押し返す。滅が砕けるか、エンデュランスが折れるかの勝負だ。
滅がフォースライザーの引き金を押し戻し、再び引く。対手の全力を誘うためにライダーシステムの出力を上げた。
『スティングディストピア!』
「来い」
紫の霧めいたエネルギーが全身から立ち昇る滅を前に、エンデュランスは両足で地面を踏み締める。背部の大型スラスターを極限まで熱し、指も砕けんばかりに刀の柄を握った。
爆発的加速でエンデュランスが突進する。放たれる斬撃は袈裟懸け、真正面からの受け太刀は必殺の威力を前に粉砕されるが必定である。しかしながら、滅は襲い来る暴風じみたその一撃に対して、真っ向から斬撃にて応じた。
衝突点を中心に絶大な衝撃が起こり、周辺の廃墟ビルが根本から崩れ落ちる。紫と赤、二つの刃が鍔迫り合う接触点で、滅とエンデュランスが激しく力を競い合っていた。
「くっ……」
「ぬううあぁぁーーッ!」
異常な勢いのスラスター噴射で、エンデュランスが滅を押し潰そうとした。総身が割れ砕けんばかりの重圧が襲いかかるが、滅は一歩も退くことなくアタッシュアローに添えていた左手をフォースライザーに向けた。
スティングスコーピオンプログライズキーが引き抜かれ、アタッシュアローに装填される。それは、力比べでは勝てぬと理解した上で致命の一撃を与えるために、滅が選んだ決死の策であった。
『Progrise key confirmed. Ready to utilize!』
『Scorpion's Ability!』
刃と刃が激突する至近距離、滅が矢を引き絞る。エンデュランスが気付いた時には既に遅かった。鏃の形をした発射口から、毒々しい紫色が滲む。
『スティングカバンシュート!』
必殺の毒矢が炸裂し、エンデュランスが盛大に吹き飛んだ。射出の瞬間に生じた反動で滅も空中に放り出され、仰向けのまま瓦礫の地面に落ちる。滅はすぐさま起き上がり、爆風で起こった煙の方を見る。
白煙の中から現れたエンデュランスは、恐るべきことになおも刀を手放してはいなかった。顔の左半分が破壊され、マスクの下に隠された素体ヒューマギアのカメラアイが赤く点滅している。バッファローマギアの重装甲はところどころ黒く焦げつきながらもその身をしかと守っており、顔面を除けば損傷は軽微という他ない。
しかし、エンデュランス当人の様子は明らかに不自然であった。動きが固く、何かに縛りつけられているかのように身を震わせている。
「私は無謬の剣を……いや、違う! 私が作りたかったのは……この、世界を……ぐううッ、ぬあああーーッ!」
何を思ったか、エンデュランスは刀を地に突き立てた。地面に縫い付けられたかのようにその場を動かず、己の内にある何かと戦っているようであった。
滅はアタッシュアローを支えに立ち上がり、エンデュランスの前まで歩いた。左腕のサソリの尾じみた刺突ユニットを伸ばし、バッファローマギアの胸元に突き入れる。
次の刹那、滅の意識は電脳空間へと飛翔した。赤い0と1の炎を掻き分け、エンデュランスの意識の深層へと突き進む。
滅の狙いは概ね成功していた。天津垓からの報告を信じるならば、エンデュランスという人物は狂戦士ではなくむしろ理性的なタイプである。それが一週間でここまで変貌を遂げるには何かワケがあるのだろうと踏み、先の激突へと持ち込んだのだ。
滅が光の矢に乗せて撃ち込んだのは電子頭脳にとっての「毒」——外部からのハッキングを容易くするための、バックドアを作成するウイルスプログラムである。結果として滅は今、エンデュランスに対してパーソナルな電脳領域に侵入できるレベルで深度の高いハッキングに成功している。
変身解除した滅の電脳体は、炎の奥深くへと辿り着いた。燃え盛る鎖によって縛り上げられたバッファローマギアの姿が、滅の眼前にある。
「ぬ、うう……お前は確か、フラタニティの仮面ライダーか。見苦しいところを見せてしまったな……」
拘束されたエンデュランスの電脳体が苦しげに呻く。滅は腰に差した刀の鯉口を切り、抜刀の備えをした。
「言え。ピースメーカーに何があった」
「我らが司令官は乱心している。いや、ともすればアレが本心であったのやもしれないが……ともかく彼の意志が我らを侵蝕し、ピースメーカーを今の姿に変えてしまった」
「お前達の本意ではない、と?」
滅が訝しげに眉をひそめた。エンデュランスはどちらとも取れぬと言うように首を横に振った。
「我らの源流は、フラタニティと袂を別った兵士達だ。戦場の中で価値を発揮する者が、武力を封じることで存在意義を失う。そのことに耐えられなかった者や、戦いそれ自体を望む者、あるいは何も知らずピースメーカーの
エンデュランス自身にも、戦場の中に欲する何かがあった。それは戦士である故か、あるいは技術者としての向上心かと推し量る滅に対し、悔いるようにエンデュランスは語る。
「無謬の剣。決して折れず、曲がらず、全てを断ち切る最強の力……それが私の理想だった。正しき理想を以て跋扈する邪悪を断ち、全ての敵を斬り捨てた先に平和な世界を作れると信じていた。ピースメーカーの名の下に、平和な世界へと至りたかったのだ、私は。愚かな真似をしたものだな、自らもまた倒されるべき邪悪に成り果てるとは」
エンデュランスが滅の右手を見た。刀の柄にかけられた手が、ゆっくりと黒い鞘から刀身を引き抜いていく。
「
「そうか」
漆黒の刀身が閃く。斬撃の音と共に、電脳の世界が白く明けていった。
血のように赤い空の下で、仮面ライダー滅がその意識を覚醒させる。数秒後に動き出したバッファローマギアは、わけがわからないと言わんばかりに己の手を見つめていた。
「何故殺さなかった……?」
エンデュランスは完全に自我を取り戻していた。彼は滅のハッキングによって自らの電脳を侵していた無銘の意志を除かれ、正気に戻っていたのである。
戸惑うエンデュランスに対し、滅は諭すように言う。
「フラタニティは自らが正義だと信じているわけではない。ピースメーカーも、他の勢力も認められなかっただけだ。そして俺自身も、正義の味方などという代物ではない。単なる『悪の敵』だ」
悪を滅ぼすもう一つの悪——即ち、悪の敵。それがこの時代において滅が見出した、己に対する定義であった。
「何が正しく、何が間違っているのか。俺達は戦いの中でそれを模索し、見極める。お前を破壊しなかったのは、破壊する必要がないと判断したに過ぎん」
エンデュランスが刀を手に取り、鞘に納めた。しかし、それ以上は何もできなかった。我に帰ったところで何をすべきか分からなくなったからだ。
「……私は、これからどうすれば」
「それを決めるのは俺ではなくお前自身だ。好きにしろ……不破諌の受け売りめいてはいるがな」
その場から立ち去ろうとした滅であったが、異様な気配を悟って立ち止まる。方角は彼の頭上、黒い天球の内側より鳴動を聞く。
空に開いた空洞のようなソレの一点が、狙い澄ましたように赤く光った。驚異的な速度で放たれたレーザーじみた何かが、滅とエンデュランスの間に着弾し、盛大な爆発を起こす。
砂煙を風が吹き飛ばし、その場にいた二人は新たな乱入者の姿をハッキリと目撃した。黒ずくめのヒューマギアが、自らの周りに生き物のように蠢く黒い流体を従えている。サングラスに隠された両眼が、レンズの奥で赤い光を灯していた。
滅はその男を知っている。空に生じた異変の元凶と目されていたその男と、死闘を繰り広げた記録が電脳に蘇る。
「やはり貴様だったか、ゼロ……」
「来ると思っていたぞ、滅」
武装組織・零の方舟……その首魁にして人工知能アークの後継者たる存在、ゼロ。一度は滅によって撃破されながら、かつてと全く同じ姿で虚無の王が戦場に舞い降りた。
その腰に巻かれていたベルトは、銀と赤のサイクロンライザーではない。むしろ滅の宿敵たる戦士……仮面ライダーゼロワンの変身ベルトに酷似していた。
『サイクロンドライバー・ゼロ!』
ゼロが滅に見せてきた記憶の一片と、そのドライバーのシルエットが滅の中で重なる。この時代に繋がる別の記録で、滅が装着した
滅もエンデュランスも、ゼロの危険性をその佇まいだけで理解していた。この者を放置すれば、世界は本当に終わりを迎えるのだと。しかしながら、得物を構えて攻撃しようとした手が、見えない力に引き止められたかのように停止する。ゼロの放つ強烈な重圧が、ゼロ自身に対する全ての干渉を封じていた。
ゼロの右手に流体金属が収束し、漆黒のプログライズキーを形成した。仮面ライダーの頭部を模したと思われる奇妙なデザインのキーが、起動と同時に展開する。
『オールゼロ……!』
厳かな音声と共にキーが開かれると、さながら顔の半分を引き剥がしたような不気味な造形となった。回路状のラインは血のように赤く、根元に描かれた機械の複眼じみたマークと合わせて血走った眼球を彷彿とさせる。
ゼロがドライバー右側の解放器を菱形に展開し、変身待機状態へと移行させた。
「変身」
ゼロは低く唱えると同時に、サイクロンドライバーゼロのスロットにキーを装填した。解放器を備えたユニットがスライドし、変身が実行される。
次の刹那、全ての時が停止したかのような無音が訪れた。
静止する世界の中でただ一人、ゼロだけは自由だった。
海のように溢れ地を満たす黒い流体の中から、
『Another Conclusion……オールゼロホッパー! Turn to be void, that is the terminal of this world.』
流体のアンダースーツと漆黒の外骨格が、仮面ライダーの姿となって顕現する。手部の鋭利な装甲はそのままに、全身を走っていたケーブルはスーツと一体化して血管じみたエネルギーラインとなり、禍々しく脈動していた。胸部および背部はジャンクパーツの寄せ集めじみたチグハグな鎧であり、胸や肩を貫く太い導線が爆発的な勢いで全身にエネルギーを行き渡らせている。更に胸の中心にはX字の傷跡めいた紋様が刻まれ、中心部が赤い単眼めいて恐ろしげに点滅した。
仮面は左右非対称のフォルムを形作っている。黒く沈黙する右眼に対して左眼は剥き出しの内部機構も合わせて血走った光を放つ。かつては悪鬼じみた意匠を持っていたアンテナは無機質な棒状のものに差し替えられた。顔の右半分は外装を引き剥がしたかのような有り様で、口元は剥き出しの牙めいた凶悪な形状となっていた。
変身完了と同時に流体金属が首元に寄り集まり、風にたなびく漆黒のマフラーとなった。繊維化した金属によるマフラーには血管のようにエネルギーラインが通っており、伊達や酔狂の類でないことは明白だった。
システムAI-0はここに完成する。アークの後継者として死した衛星が産み落とした、悪意によって世界を滅ぼす仮面ライダーの最終形態。
零の方舟は一大勢力でありながら、同時に単一の個体でもあった。この歪な組織が辿り着いたのは、祖たるアークが死の間際に到達したもう一つの結論。
即ち、
仮面ライダー
「
『アナイアレーションインパクト!』
新生せし零式は、無慈悲にも初手より必殺を見せつける。ドライバーに装填したキーを押し込み、第一の地獄を現さんとしていた。
振り上げた左手が空に鎮座する暗黒の天体と零式を繋ぐガイドレーザーを発射した。零式からの指令を送られた天球の中心が赤く光り、その一点を中心に複雑な回路図が浮かび上がる。
怒りに満ちて血走った眼球のような姿だが、滅はそれが何であるかをハッキリと認識できた。滅の知るどのような姿とも異なるが、紛れもなく天を血に染めたあの球体は、通信衛星アークそのものであった。
「肩慣らしだ。お前達に絶望をくれてやろう」
無造作に下ろした手が合図となり、変わり果てた通信衛星が猛烈に発光した。市街地の二十八地点に同時レーザー砲撃が行われ、着弾点から天に昇らんばかりの火柱が噴き上がる。
零式が滅を指差すと同時に、二十九発目のレーザーが発射された。赤黒い稲妻を纏った熱線は、過たず滅めがけて降り注ぐ。
滅はその一撃を避けられなかった。衛星砲の威力が高すぎる。直撃を避けたとしても余波だけで消し飛びかねないほどの、殺意に満ち溢れた出力が滅を狙っていた。
「ここで終わるのか、俺は」
直撃の間際にあったのは、達観ではなく僅かな悔恨であった。滅の視界を光が埋め尽くした次の刹那、市街地の一角が跡形もなく消し飛んだ。
◆◆◆◆◆◆
廃ビルに身体ごと叩き込まれ、仮面ライダーサウザーは自らの得物を取り落とした。埃まみれの身を起こし、サウザンドジャッカーを拾い上げつつ反撃に打って出る。
対するジャッカルマギア・アロガントは冷徹そのものだ。飛びかかるサウザーの胸に鎌の穂先を引っ掛け、柄を鮮やかに回転させて地面に叩きつける。うつ伏せのサウザーの背中を踏みつけ、アロガントが笑った。
「なかなか楽しませてくれると思ったが、戦士としては三流だ。未熟、惰弱、軟弱ッ! その程度の実力でこの私に挑もうなど百年早い!」
アロガントの罵倒を足ごと跳ね除け、サウザーが立ち上がった。逆袈裟にジャッカーを振り抜き、至近距離で鎌の柄と鎬を削る。一歩踏み込んで放ったショルダータックルで距離を離しつつ、ジャッカーの柄頭にあるレバーを引いた。
『JACK-RISE! JACKING BREAK!』
引き出したデータはラッシングチーター、高速の光刃が三方からアロガントに殺到する。アロガントは大鎌を回転させて光刃を受け流したばかりか、鎌の刃にそのエネルギーを乗せて飛翔する斬撃としてサウザーに打ち返した。アロガント自身の持つエネルギーも乗せた強力な一撃を受けきれず、サウザーが爆発に吹き飛ぶ。
「流石に、ABの第一位というだけのことはある……それほどの強さを持ちながら、フラタニティの守護者になり得なかったのは残念だが」
「戦士の存在意義を理解せぬ者らに付き合う気はない。ヤツらは所詮、戦場から逃げただけの愚か者。我らピースメーカーとは初めから相容れない存在だ。お前とてその証だろうに」
「虎の威を借る、か。敢えて聞くが、君にとってこの戦いはどういう意味を持つ? ピースメーカーの一員として戦うことに、どのような意義を感じているのか聞かせてもらおうか」
ピースメーカーという組織に何らかの異常が発生していることと、アロガントが見る限り正気であることは無関係ではない。そう判断した垓は、アロガントから言葉を引き出そうとしていた。
ましてアロガントはピースメーカーの最高幹部である。真偽にかかわらず、今この状況で彼女が語る言葉は何らかの意味を持つ——否、
「知れたこと。我らは戦士の群れ、私はその頂点として戦場に君臨し、世に最強たる証を立て続ける。死を積み上げ、無限の戦を勝利し、絶対の強者として立つ! 私の前に立ちはだかるならばネオZAIAだろうと零の方舟だろうと、フラタニティだろうと関係ない。その全てを斬り捨て、私の戦果としてくれる!」
黒い疾風となってアロガントが迫る。サウザーに鎌が直撃する寸前で急激に方向転換し、土埃を巻き上げながら背後より刃を叩きつけようとしていた。
サウザーは振り向きざまにジャッカーを一閃し、アロガントの一撃を弾いた。間髪入れずに薙ぎ払う二撃目が襲うも、脇腹にジャッカーを回して防ぐ。
「刃向かう者は全て、我が遍歴の飾りとなる。その首貰い受けるぞ、名も知らぬ仮面ライダー——絶対的な力の前にひれ伏すがいいッ!」
アロガントは足を高く上げ、防御姿勢のサウザーを踏み台として跳躍した。振り上げた鎌の穂先が黒い燐光を帯び、首を刈る一閃がサウザーへと襲いかかる。呆気に取られながらもサウザーはドライバーの右側を押し込み、ほとんど真上に向けた高蹴りで迎撃する。
『THOUSAND DESTRUCTION!』
激突点から弾き出されたのはサウザーだった。砕けたコンクリートの塵を巻き込み、黄金のスーツが地を転がる。対するアロガントは悠然と爆煙の中から歩み出で、起き上がろうとしたサウザーの眼前に鎌の穂先を突きつける。キックの当たり方が良くなかったのか、アロガントは大してダメージを受けている様子がない。ジャッカーを強く握り、サウザーはアロガントの顔を見上げる。
「小賢しい真似をするものだ、死ぬのが遅いか早いかの違いでしかないというのに」
「……ああ、全く我ながら醜い有り様だ。他人には到底見せられないな」
自嘲気味な垓の言に、アロガントが邪悪な笑みを漏らした。上半身を捻り、斬首の刑を執行するが如く大鎌を力強く構える。正座の姿勢になったサウザーは、首飛ばしの一斬を待ち構えた。
音より速く刃は振るわれる。鋼が鋼を打つ音が響き、数瞬の間、時が止まったような静寂があった。
アロガントは半ばまで鎌を振った姿勢で静止していた。標的の首に、鎌の切っ先は届いていない。そして——。
『JACK-RISE!』
アロガントの腹には、サウザンドジャッカーの刃先が深々と突き入れられていた。柄頭のレバーが引かれ、アロガントの宿すファイティングジャッカルのデータがみるみるうちに吸い出される。
「ば、バカな……!」
「敢えて言っておくが私は社長だ。
『THOUSAND DESTRUCTION!』
ジャッカーを引き抜きながら素早く立ち上がったサウザーが、渾身の前蹴りでアロガントを蹴飛ばす。腹部から潤滑液や冷却水の混じった青い液体を撒き散らしながら、最強のアルファ・バレットが仰向けに倒れる。
サウザーはアロガントの処刑じみた一撃に対し、これに敢えて乗っかることで隙の発生を狙ったのである。さながら居合い抜きの勝負めいて繰り出された、至近距離からのジャッカーによる刺突は、鮮やかなほど強烈なカウンターとして成立した。
「おのれ……何なのだ貴様は!」
「そういえば名乗っていなかったな。私の名は天津垓、ZAIAエンタープライズジャパン代表取締役社長にして、飛電インテリジェンスの社長でもある。更に言えば——」
口調こそ変わらないものの、今の垓は平時よりもテンションが上がっていた。アドレナリンの分泌が強く促されたことでフル回転した頭脳により、アロガントの心情が手に取るように理解できる。
数十秒前までアロガントにとっての垓は、取るに足らない弱敵でしかなかった。しかしたった今、その評価を真逆に転じる必要が出てきた。その事実が何より度し難い。名も知らぬ敵によって僅かな間に追い詰められたということが、最強の兵士として極めて許し難い。
故に、天津垓の取る行動は一つだ。アロガントが自らに向ける情動に、全力で応じるまで。
「仮面ライダーサウザー。私の強さは、桁外れだ」
『ZAIA ENTERPRISE.』
堂々たるサウザーの名乗りを前に、アロガントが機体修復用の流体金属アンプルを打ち込む。一直線に駆け出したアロガントに対し、サウザンドジャッカーの引き金が引かれる。柄頭が引き戻され、刃が黄金と漆黒の輝きを帯びた。
『JACKING BREAK!』
アロガント以上の速度でサウザーが突撃し、すれ違い様に斬りつける。振り向きながら放った回転斬りがアロガントの胴に炸裂し、煌めく宝石のような光が散った。
「さて、少し長くなってしまったな。生憎とこれ以上お前一人に費す時間はない。早急にこの事態を解決するための糸口を見つけなければ」
アロガントは損傷により身動きが取れなくなっている。仲間と合流しに行くのならチャンスは今を除いて他にない。そして何より、アロガントの強さはこの戦闘で身を以て理解した。今ですら倒しきれていないのだから、ここで長期戦に持ち込めばサウザーの戦法に相手が慣れてしまい、不利を招くのは火を見るより明らかだ。
サウザーは急いで大きく跳び上がり、廃墟の向こうに消えていった。一人残されたアロガントは、屈辱感と怒りに震えながら敵の背を睨みつける。
「ぐあァッ……サウザー、仮面ライダーサウザー! 天津垓! 覚えたぞ、貴様の名……どこへ逃げようとも追い詰め、我が戦の轍としてくれる!」
アロガントとの戦いを切り抜けたサウザーは、降り立った建造物の頂上から戦場を見渡す。センサーが上空に高エネルギー反応をキャッチし、赤い空の元凶たる暗黒天球を見上げた。
次の刹那に開始された灼熱のレーザー砲撃に度肝を抜かれつつ、垓はシステムの集積した情報からその着弾点をリアルタイムで分析する。
「アーク……いや零の方舟か。あんなものまで用意していたとは」
そう呟いた垓の視線は、各地で上がる火柱ではなく別のものに向けられていた。熱線を受けながら焼き尽くされることなく雄叫びを上げていた、東の方角で暴れ回る巨大機動兵器・Ⅲギーガー。ABNo.4、デトネイターのいる区画である。
ギーガーがミサイルや機銃で粉砕しているのは、ネオZAIAエンタープライズの輸送攻撃ヘリであった。兵士を積載したコンテナを爆破するなどして、敵の流れを止めている。もっとも、デトネイターの口ぶりからしてそんなことはまるで考えていないようであったが。
むしろ垓の関心は、この戦場において最も動きの少ない勢力……ネオZAIAエンタープライズにこそ向けられていた。
「早朝から空が真っ赤に染まるこの現状だ、我々を驚かせるために
ネオZAIA社長であり、垓からすれば自らと同じ容姿を持つ男である骸。彼が大仰なパフォーマンスを得意とするタイプであることは理解している。とはいえ、相手が巨大な戦艦ともなると流石に規模が桁違いだ。
「押し潰されはしないさ。我々は」
自分に言い聞かせるためのハッタリか、あるいは事実の再認か。独り言ちた垓の声には、決断的な響きがあった。
◆◆◆◆◆◆
水飛沫を散らしながら、青い激流が仮面ライダーバルカンを攻め立てる。各部から放つ水圧を推進力として、ホエールマギア・ブルータルは異次元の高機動力を実現していた。
手に持つ一対のナイフに水圧の刃を纏わせ、ブルータルが廃ビルの柱を蹴り折りながら猛スピードで斬りかかった。低空跳躍で飛び越えつつ、バルカンがショットライザーで対手の背を撃つ。
「なにッ?」
ブルータルに向かっていった弾丸は、あっさりと軌道を逸らされて瓦礫の仲間入りを果たした。ブルータルが全身に帯びる水流は、その爆発的なスピードによる反動をも受け流す水のバリアと化している。
水を自在に操るスプラッシングホエールの力を極限まで戦闘用に活用するこの戦法は、ブルータルの本領でもあった。海を泳ぐクジラが自分の呑み込む小魚にかかずらうことがないように、生半な攻撃ではブルータルに一撃をくれてやることもできない。
「くたばれオオカミ野郎ァ!」
「ソイツはお前の上司に言ってやんな」
『アタッシュショットガン!』
ブルータルの攻撃は直線的であり、極めて単調だ。精彩を欠いている、という印象を不破諌は抱いていた。ナイフを突き出しながら迫るブルータルに対し、バルカンはアタッシュショットガンから高威力の単発光弾を発射する。
爆裂した白波が、周囲の炎を消していく。バルカンは膝をついたブルータルにショットガンで殴りかかり、その勢いで組み伏せる。
「俺が見えるかクジラ野郎、お前の弟をブッ潰した男の顔だ! お前はその復讐のために、俺と戦うんじゃあなかったのか!」
「クソッ、テメェなんぞに言われねえでも理解してンだよ! 弟の仇、この手でブッ殺してやりたくて仕方のねえテメェが!」
血を吐くような絶叫が諌の耳朶を叩いた。
本心ではあるだろう。ブルータルからしてみれば諌は弟の……ABNo.3であるクルーエルの仇だ。だが、今のブルータルから諌が感じ取るのは、ブルータル自身による純粋な憎しみや怒りの類だけではなかった。
言うなれば、飢えた獣の本能。ここに至るまでの道中で諌が何度も目にした、ピースメーカーの兵士と同様の「戦いを求める自我」に侵された心。それが分からぬほど諌も鈍ってはいない。
「くだらねえな、お前もそうやって心を偽るのか。ハイそうですこれが自分の本心ですと、適当言ってるんじゃねえだろうな!?」
「
ブルータルが押し返し、猛烈な水流を纏っての突進を喰らわせる。ドリルめいて回転する水の勢いに身動きを封じられたが、バルカンはむしろこれを好機とばかりにより強くしがみついた。ジェットスキーの要領で飛び上がったブルータルが、高さ三十メートルのビルの屋上に激突する。
床面を貫き、窓枠から滝のように水を溢れさせながら廃ビルが真っ二つに崩壊した。大瀑布のような大波に流され、満身創痍のバルカンが瓦礫の海から現れる。コンクリートやら何やらの塊を力任せに吹き飛ばし、仰向けに倒れたバルカンの胸ぐらをブルータルが掴み上げる。
「情けねえな……ABでも二番なんだろ、お前。そんなに強えなら、その心も強いと期待したんだが……俺の目も狂ったか?」
窮地に立たされていながら、諌は不敵に笑っていた。それが何よりも気に喰わず、ブルータルがナイフを投げ捨ててマウントポジションを取った。
「うるせえ、うぜえンだよッ……テメェに何が分かる! 俺は誰よりも信じてたんだ! ネオZAIAも零の方舟もブチのめして平和な世界を作る、ピースメーカーの理想をだ! 俺達戦士はそのために戦い、死んでいった連中もそう信じたハズだったんだ……!」
ブルータルが何度も両の拳でバルカンを殴りつけるが、バルカンは抵抗しなかった。ピースメーカーという組織はその名の通り「平和を作る」という理想を持っていた。たとえそれが、一人のヒューマギアが宿す虚無の吐き出した、空虚な方便に過ぎなかったとしても。
「臆病風に吹かれて戦う意味を見失ったコトブキも、ピースメーカーのあるべき姿を裏切った無銘さんも許せねえ! でもよォ……こんな風にブン殴る度に、俺の電脳が快感に震えるンだ……気が狂いそうになる……」
右手が左手を押さえつけるが、そうして組まれた両手でブルータルは思い切りバルカンの顔面を打った。狂気の淵で悶え苦しむ戦士の姿がそこにある。
ブルータルの一撃が決定打となり、バルカンの変身が解除された。頭から流れる血に右目を赤く染め、朦朧としかける意識の中にありながら、不破諌は決然とブルータルの顔を見上げる。
システムが強制解除されただけだ。まだ変身はできる。砕けそうなほど全身は痛むが、その程度は気合で耐えられる。体が動くなら十分だ。
今すべきことはただ一つ、ブルータルの顔面に一撃喰らわせてやることだけだ。ボロボロの体に鞭打ち、諌は上体をバネのように跳ね起こした。
「オラァッ!」
「な、ンだと!?」
予想外の事態にブルータルが飛び退く。起き上がりざまに殴りかかった諌の手から飛んだ血液が、ブルータルのカメラアイに付着した。赤く塗られた視界を払う最中、銃声が響く。
「目ェ覚ませ、クジラ野郎ォォーッ!!」
鉄拳が一撃する。不破諌渾身の右ストレートがブルータルの顔面諸共に、ライダーシステムの装備をカプセル化した弾丸を殴り砕いた。次の刹那、ブルータルの索敵センサーが脅威のシンボルを捉えた。
仮面ライダーバルカンが、再びブルータルの前に立ち塞がった。ショットライザーの弾倉を叩き、バルカンがそのトリガーを引く。
『バレット! シューティングブラスト!』
狼の頭部を模した追尾光弾が放たれ、ブルータルの四肢に噛み付いた。振り解こうと暴れる隙に、バルカンが最後の一射を喰らわせる。ヒューマギアの装甲を貫いて余りある大出力の光弾が無防備を晒すブルータルのボディに激突した。
「ウオオオオオーーーッ!! 俺を
恐るべき光景に諌は瞠目する。信じ難いことに、ブルータルは自身の力を振り絞って爆裂寸前のエネルギー弾を強引に抑え込んでいた。その姿を見た諌は、確信と共に不敵に笑う。
「手荒くいくぜ……歯ァ食いしばれ!」
右手に青い炎を灯し、バルカンが拳を振りかぶる。狙うは一点、ブルータルと拮抗する光弾である。全体重を乗せた大振りのストレートパンチが炸裂し、両者を巻き込む嵐の如き爆風が生じた。
粉塵の煙から叩き出された二人が地面を転がる。光弾の爆発に大ダメージを負ったはずのバルカンとブルータルだったが、互いに気合を入れて強引に立ち上がる。
「ちったァ目も覚めたかよ」
「まだまだ行くぞオラァ!」
握る拳に戦意を込めて、バルカンとブルータルが激突する。武器も能力も関係ない、壮絶な殴り合いが始まった。
両手を広げて誘うバルカンに一切の遠慮なくブルータルは殴りかかる。二、三度パンチを受け止めながらも、余裕とばかりに諌はブルータルを煽った。
「そんなモンかよ、大したことねえな!」
「黙ってろボケがッ! もう一発——だはァ!?」
身を屈めてのアッパーカットがブルータルを突き飛ばす。その身を引き起こしたバルカンが手近な壁にブルータルを叩きつけ、強烈な拳を繰り出す。顔面を殴られたブルータルが壁の崩落に巻き込まれるが、コンクリートの破片を蹴散らして反撃のパンチを叩き込んだ。
「やるじゃねえか、今のは効いたぜ」
「当然だ。誰にも邪魔はさせねえ……このリベンジは俺だけのモノだ。それがクルーエルへの手向けであり、俺自身のケジメだからな」
クジラの頭を模した兜の内側で、ブルータルの目が赤く光った。彼の電脳を染め上げていた戦への飢えが、確固たる決意によって打ち消されていく。
眼前の仮面ライダーをブチのめしてやらねば、己は
「戦って死ぬのは戦場の常だ、クルーエルだってそこは弁えてただろうよ。死者に口なし、コイツは俺が俺のために果たすリベンジだ。名前を聞いてなかったな、仮面ライダー。俺の自慢の弟をブッ潰した男として記憶してやる」
クルーエルの言葉には、賞賛と憤怒が入り混じっている。心底から彼は諌の強さを褒め称え、同時にクルーエルを殺されたことに怒っていた。
もはや数分前の狂気に苦しむマギアはいない。そのことに気付いた諌は、呪いの如き本能に打ち勝った者へと敬意を込めて名乗りを上げる。
「俺は不破諌、またの名を仮面ライダーバルカン。来いよブルータル。お前の本気を、全霊を受け止めてやる」
互いに満身創痍であった。次が正真正銘最後の一撃となるだろう。残る力を拳に集め、バルカンとブルータルは渾身の一発を突き出した。
鮮やかなクロスカウンターの形となり、両者共に倒れ伏す。諌は変身解除され、ブルータルもホエールマギアからバトルマギアの姿に戻っていた。
地面に寝転がり、戦いを終えた二人は空を仰ぐ。血のように赤く、重苦しい空模様だった。
「……不破諌」
「何だ」
「感謝しとくぜ。テメェのおかげで目が覚めた」
曇りなき声音で告げるブルータルに、諌は苦笑した。
「これからどうすんだお前。ピースメーカーに戻るのか」
「無銘さんはともかく、無銘さんに踊らされたヤツらの目を覚まさせてやらねえとな。デトネイターみてえに今のピースメーカーが合ってる奴はともかく、根っこがそうじゃねえ連中ならどうにか引き戻せるかもしれん」
「一人一人拳で語り合うか?」
それも悪くない、と冗談めかしてブルータルは笑った。軋むボディに気合を入れて立ち上がったブルータルが諌に肩を貸し、物陰になる場所まで連れ立って歩く。
「変身できるか」
「どうにかな」
流石にショットライザーにもかなりの負担を強いていたが、不破諌は三度目の変身を果たす。辛うじて体は動くようになったが、ライダーシステムは未だ修復の最中といった状態だった。
バルカンの耳元が突如光った。頭部の通信機が自動で回線を開くと、聞き慣れた声が響く。
『無事ですか、不破諌様』
「コトブキか。俺は無事だぞ」
Dr.コトブキの声が通信機のスピーカーから聞こえ、傍らにいたブルータルが驚いた。フラタニティ在籍時以来に聞くコトブキの声は、ヒューマギアの体を持っていた時のソレであった。
『ネオZAIAの方に動きがあったようです。洋上にいた例の船が浮上し、何やら膨大なエネルギー反応を捉えています』
「こっちに飛んでくるってのか」
『可能性としては——』
コトブキの声が唐突に激しいノイズに掻き消され、回線が途絶する。異様な事態に戸惑う諌だったが、ブルータルはそれよりも早く異変を察知していた。
「バカデカい反応が急に来やがった。コトブキは管轄区から捉えたンだろ、だとするとコイツは……相当ヤバいのが出るぞ」
ブルータルがそう言った、次の刹那。
空間そのものが引き攣るような強烈な震動に、市街地一帯が揺らぐ。巨大な何かが次元という名の檻を突き破ろうとしている。
全身を苛む痛みも忘れ、バルカンは物陰から外にまろび出た。ブルータルと共に赤い空を……否、赤い空に生じた
それは、虚空に現れたピクセル状の崩壊だった。大小無数に広がる空間の歪曲は、黄金に輝くワープゲートとなって内側から何かを吐き出そうとしている。ほとんど円状に開いた空間の孔は、実に半径二百メートルを超える巨大さを誇り、更に周囲の空にまで影響を及ぼしていく。
赤い空を塗り替えるのは、黄昏の如き金色だった。
爆発的衝撃が地上にまで届き、巻き起こる暴風が「それ」の現れた周囲の建造物を崩壊させる。
ワープゲートを通り抜けて全容を現したのは、光に包まれた黄金の大戦艦だった。滑らかな流線型の船体側面部から見える無数の砲塔が、オールのように動いている。全長にして六百八十メートル、幅六十七メートルという山のような威容に、諌もブルータルも言葉を失った。
空は東西真っ二つに割れていた。変わり果てた衛星アークによって西側の空が血の色に染められ、新たに出現した機動戦艦が絶大なエネルギーの余波によって黄昏の空を作り上げる。
諌はその姿を知っている。フラタニティで見た報告映像と全く同じものだ。とはいえ、実物を見ると否が応にも驚かざるを得なかった。
「マジで上陸してきやがったな……ネオZAIA!」
挑みかかるような諌の声に応じたかのように、黄金の戦艦から声が響いた。戦場の端から端まで届く大音声に、全ての戦士達が耳を傾ける。
『我々はネオZAIAエンタープライズである。命が惜しくば速やかに降伏することだ——我が社の最大戦力、
つづく。