IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK   作:TAC/108

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Part-37 支配者と反逆者

 

焼け焦げたスクラップの山の中から、仮面ライダー滅が顔を出した。意識が消灯していた間の記憶がない。どういうわけか多少の損傷だけで済んでいる状況に疑問を浮かべる。

「そもそも俺は何故生きている?」

哲学的な問いではなく純粋な謎であった。滅の前に姿を現したゼロ……仮面ライダー零式。空に浮かび赤い空を作り出した衛星アークより顕現し、滅やその場に居合わせたバッファローマギア・エンデュランスをレーザー砲撃で消し飛ばした。

そのはず、だったのだが。

「どうにか助かったようだな、我々は」

瓦礫を突き破って滅の傍らに、赤角のマギアが現れる。誰あろうバッファローマギア・エンデュランスであった。

「お前が俺を助けたのか」

「私一人でも逃げられたが、恩人を見殺しにするほど鈍ってはいない。それより……何か来るぞ」

スクラップの山を飛び出し、滅とエンデュランスが警戒する。遠くから聞こえてきた走行音の主は、傷だらけの車体を急ブレーキさせた。

「滅様、ご無事です——アナタは、エンデュランス!? 一体何があったのですか……?」

「ハウか。その車両、まだ使えるな?」

運転手のドードーマギアは、滅とエンデュランスが共にいる状況に驚きながらも、二人を後部座席に乗せた。エンデュランスは実装状態を解き、バトルマギアへと戻っている。滅はこれまでの経緯を説明しつつ、マギアの変身を解除したハウに尋ねる。

「お前は今までどこで何をしていた?」

「この車で走りながら各地の戦況を直に見て回っていました。衛星アークからの砲撃があってからは、滅様を探していましたよ。辛うじて反応が拾える程度でしたので時間はかかったのですが」

「……その上で、今はアレか」

滅は窓の外を見た。東西に赤と黄金に割れた空、暗黒の天球と巨大戦艦が拮抗するかのように威容を見せつけている。

「ネオZAIAの戦艦か。アレは撃墜できないぞ」

「では、どのように」

「確実に言えるのはただ一つ、この状況において我々が主導権を握ることはありえん。だが、ネオZAIAの本隊が戦艦共々やってきたということは、骸がその姿を現したに等しい」

滅の言葉が意味するところを、ハウとエンデュランスは即座に理解した。今、この戦場には三大勢力のリーダーが揃っているのである。

『フラタニティの作戦を実行に移すには極上のタイミングだ。骸の度肝を抜いてやろう』

車のラジオから突如響いた声に滅とエンデュランスが身構えた。声の主はなんと天津垓であった。話は聞かせてもらった、と垓がラジオ越しに言う。その声は相変わらず自信に満ち溢れていた。

「急にどうした」

『生まれ変わったフラタニティに相応しい晴れ舞台の場だろう。この程度の逆境は跳ね除けられるさ』

「策でもあるのか?」

滅が尋ねた次の瞬間、車両が再び急停止する。正面に立っていたのは、誰あろう仮面ライダーサウザーであった。唐突な声の主の登場に、滅達は驚愕を以て出迎える。

「狙い澄ましたような合流だな」

「状況が変わったからね。ここからは散開しても少ない戦力がバラバラになるだけで大した意味もない。策については……妙案がないこともない。上手くいくかは別として、だが」

そう言ってサウザーは、ネオZAIAの機動戦艦ウラノスを見据える。ネオZAIAがここまで大きく出た以上、他の勢力が黙って見ているはずがない。そこも織り込んで、何か仕掛けてくると天津垓は読んでいた。

エンデュランスがサウザーに駆け寄る。バトルマギアの姿に一瞬戸惑うが、腰に差した刀で垓はエンデュランスであることを察し、手を差し伸べて互いに握手した。

「よもや再び味方として会うとはな、サウザー」

「君が味方ならば心強いな、エンデュランス。早速だが教えてくれ、ピースメーカーに何があった?」

エンデュランスはピースメーカーの異変に巻き込まれたヒューマギアだ。意思疎通も可能であるならば、情報を聞き出しておいて損はない。

「異変が起きたとすれば……我々ではなく、司令官たる無銘自身のことだろう。彼に目覚めた強烈な意志のデータが、ピースメーカーという組織の在り方を変えてしまった」

「恐ろしい話だが、行き着く先は同じというわけか。絶対的な権限を持つ管理者によって、如何様にも姿を変える支配的なローカルネットワーク。電子の心を持つヒューマギアには、それは毒にも薬にもなりうる」

垓とエンデュランスの会話に、滅もまた頷いていた。三大勢力の在り方は、本質的にどれも同じものなのだ。

無銘、骸、ゼロという三人の最高権限者。彼らの管理下でどれだけ自我を育もうと、それは時としてより大きな権威によって塗り潰されてしまうことにも繋がる。零の方舟から脱したハウや、ピースメーカーの熱狂より切り離されたエンデュランスといった例外はあるが、三大勢力に巻き込まれた多くのヒューマギアは、言うなれば一つのシステムに組み込まれた歯車と同じだ。

であれば、と滅は垓に問う。

「天津垓、お前は……フラタニティも三大勢力と同じようなことが起こりうる、と考えるか?」

「あくまで一つの可能性だ。我々はコトブキ氏の善性を知っているし、そうはならないとも思っている。だから『毒にも薬にもなりうる』と言わせてもらった。畢竟、テクノロジーは使いよう。彼が善く在ろうとし、正しく扱えるのなら、たとえ悪に転じうるシステムだろうと他者の救いとなるだろう」

天津垓は決して清廉潔白の身ではないと、滅は知っている。元を正せばこの男が人工知能アークに悪意を吹き込み、後の争いを生んだのだ。

しかし、この時代で天津垓が成したことも滅は知っている。少なくとも彼は仮面ライダーとして英雄的に振る舞い、フラタニティに再び立ち上がる勇気を与えた。

だからこそ、天津垓の言葉に滅は一定の説得力を感じていた。不可分な善悪の二面を併せ持つ奇怪な人物だが、それゆえにこの場においてその人間性は信ずるに足ると判断できる。ある意味ではヒューマギア以上に「善悪」を知っているのだ、と。

「清濁を併せ呑む、とはこういうことか。相変わらず食えない男だ、天津垓」

「……褒め言葉として受け取っておく」

滅は垓を通して、一つの学びを得ることとなった。ただ滅ぼすのみが、悪意を打ち倒す方法ではないということだ。

「それにしても、この状況に風穴を開けるにはどうしたものでしょうね。率直に申し上げると敵勢力が巨大すぎて、仮にフラタニティの全戦力を投じたとしても戦況がひっくり返る気はしないのですが」

ハウが半ばボヤくように言った。現在のフラタニティにおいて上位の実力者である彼ですら、本格化した三大勢力の激突に乱入するのは困難であると考えている。

しかしながら、天津垓は自信満々に言い切ってみせる。彼の言葉に誰よりも強く頷いたのは、他でもない滅であった。

 

「ネオZAIAの本格参戦により、戦いは激化するだろう。言い換えれば、誰もが本気を出さずにはいられなくなる。恐らくはそこが蟻の一穴となるだろう。不破諌から聞いた情報が正しければ、この状況を誰よりも喜んでいるヤツがいるはずだ」

 

◆◆◆◆◆◆

 

「スッゲー……アレがネオZAIAの空中戦艦か。本社よりよっぽどデカいんじゃないか?」

敵兵の一人を組み伏せ、拳銃で頭を撃ち抜きながら、その男は言った。ところどころが焼けたパーカーのフードを上げ、空を覆う黄金の天井を見つめる。

武装組織ピースメーカーの総司令官、無銘である。彼は戦場を気ままに歩き回りながら、各地の様子には常に神経を張り巡らせていた。

ローカルネットワークの管理権限を持つ無銘は、管理下にある全てのヒューマギアの視界をはじめとする様々な情報を、そのネットワークを通して取得することができる。

これ自体はヒューマギアの利用するローカルネットワークの機能の一つでもあるのだが、無銘はこの管理権限を利用して戦場に散らばった自らの軍隊の様子を逐一確認していた。

破損、撃破、停止、限界、爆発、臨界、破壊、貫通、切断、自爆、自壊。数多の死を擬似的に経験し、数多の殺害を電脳に流し込む。

「良いねえ……そろそろオレも本格的に暴れたい頃合だな。こっちもやっちゃうか?」

狂奔と動乱の中で、彼だけは笑っている。この戦いを、本心から楽しんでいる。あらゆる戦闘、あらゆる殺生を肯定し、その全てと戦いたいとすら思っていた。正真の戦闘狂に覚醒した無銘は、その自我に芽生えた炎をこの世の果てにまで広げようとしている。

 

無銘の戦闘用センサーが三十六の敵影を同時に捉えた。ステルス装備を一斉に解除したネオZAIAの兵士達である。包囲しているのは全てが、ピースメーカーにおいては幹部格たるアルファ・バレットの象徴でもあるバトルマギアだった。黄金の重装甲に身を固めた兵隊が、短機関銃を手にジリジリと少しずつ距離を詰めてくる。

「お行儀が良いねえ、ネオZAIAの兵隊さんがたは。まあ、ウォーミングアップにはちょうどいいってな……変身」

『フォースライズ! レディーゴー! アサルトウルフ! ——Break Down. No chance of surviving.』

変身ベルト(フォースライザー)からオオカミ型のライダモデルが飛び出した瞬間に、四方八方から機関銃の弾が撃ち込まれる。嵐のような集中砲火の中から、仮面ライダーバルカンフォースは悠然と歩き始めた。

腕の機関砲と肩のマイクロミサイルポッドを一斉射し、隊列を撹乱する。青黒い風となって爆煙の中に突っ込み、バルカンフォースは腕部装甲から四連鉤爪を展開した。電磁気を纏った鋭い爪が容赦なく黄金の強化コーティングごとバトルマギアを引き裂く。右の爪に首級を吊り下げ、煙を自ら払って挑発的にネオZAIAの包囲網へと掲げた。

「来な」

『マグネティックストームディストピア!』

ライダーシステムの出力を急上昇させ、鉤爪より放つ斬波が荒れ狂う。遠距離からの銃弾は、ただの一つとしてバルカンフォースに届くことはなかった。オオカミめいて姿勢を低めた次の瞬間、その姿が掻き消える。

刃の閃く音と同時に、十二体ものバトルマギアの首が飛んだ。瞬間移動じみた圧倒的速度でバルカンフォースが自らを包囲するマギアの頭部を刎ね飛ばしたのである。その戦闘能力に警戒レベルを上げたバトルマギアの一体が、短機関銃よりも大型の手持ち式ガトリング銃を生成した。援護射撃を受けながら、更に六体が戦闘用ナイフと短機関銃を手に攻めかかる。

「良いね、そうこなくっちゃなァ!」

脚部のミサイルランチャーを回し蹴りの勢いを乗せて射出しつつ、バルカンフォースが突撃兵を相手取った。前転から斬りつける一人のナイフに右の鉤爪を合わせ、左腕から展開した機関砲を頭部に接射。続く二人が撃ってきた弾は装甲の強度に任せて受け止め、飛び込む勢いを利用して右手の鉤爪を一方の胸に叩き込みながらもう一人を頭突きで怯ませる。引き抜いた鉤爪でトドメを刺すと四人目の刃が肩口に食い込み、カウンター気味に電磁気を左掌から流し込んで機能を停止させた。磁気嵐の力を全身から発散して残る二人を片づけ、ガトリング銃のマギアを見据える。

「妙だとは思ったが、なるほど。マトモに相手するつもりは最初からなかったワケだ。つれないねえ……」

バルカンフォースのセンサーが捉えたのは、敵影が徐々に自分から離れていく様子だった。大方交戦データを送らせつつ足止めするための捨て駒だったのだろう、と無銘は推測する。

つまらないことをするものだ、と無銘は思った。もう少し本気で潰しに来てくれても良さそうだが、ネオZAIAとしてはマトモに相手するだけ無駄だと思われているのかもしれない。頭上の戦艦を見れば、確かに納得ではある。

「……戦艦か。あそこにネオZAIAの社長がいるってンなら、もっと面白くなるかもな」

ガトリング銃を連射するマギアに接近し、バルカンフォースがその胸板を蹴りつける。反動で真上に向けて跳躍し、落下の勢いを乗せて両手の鉤爪でバラバラにバトルマギアを引き裂いた。

一瞬で建造物の屋上に移動しつつ、バルカンフォースは今も空中に浮かぶ巨大戦艦を見つめた。ネオZAIA社長たる骸の宣言から、空を覆い尽くすような数の攻撃ヘリや戦闘機を直掩機として飛ばしている。

「分かりやすく強敵のシンボルって感じだな。嫌いじゃないぜそういうのは……んじゃ、ひと暴れしてみるかッ!」

全身の重力制御機構を最大に利用し、バルカンフォースが飛翔する。人間大の磁気嵐が、空中戦艦に挑もうとしていた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

機動戦艦ウラノス・司令室にて。

次元跳躍によって洋上からあっという間に市街地直上に出現したことにより、現在は内部のジェネレーターをフル稼働させて攻撃用のエネルギーを捻出している。ワープ航法は尋常ならざるエネルギーを使用する関係で燃費が悪く、出撃用ハッチを全開にして無人戦闘機に護衛を任せている状態であった。

しかし、この戦艦は全てが規格外。戦闘可能な出力を二分と経たないうちに取り戻し、各種武装が発射準備に入る。

それら全てを統括しているのは、やはり巨大なるネオZAIAネットワークを統括する骸であった。決戦を期して改造を施したボディは、機動戦艦の隅から隅までを見通す驚異的な演算をも可能としている。

 

その上で、骸は艦長の椅子から立ち上がった。サングラス型の補助デバイスを着けたまま、一人の社員を呼びつける。

「君、少しの間ここに座りたまえ」

「承知しました」

黄金のバトルマギアへと即座に変身した社員が、代わりに艦長専用席に座る。艦の制御系と接続したバトルマギアの自我が一瞬で消し飛び、無機質なAIによるオートパイロットで全体のシステムが統括される。

骸の言葉は社員にとって絶対であり、拒否権は存在しない。たとえそれが社員(ヒューマギア)を使い潰す命令であろうと骸は躊躇なく下すし、当然として全ての社員はそれを受け入れる。自我の有無は関係なく、それがネオZAIAのローカルネットワークにおける「前提」だ。

骸は転移システムを搭載したエレベーターに乗り込み、その行き先を艦の真下、何もない空中に指定した。次の刹那、一方通行の時空転移で骸の身が空中へと投げ出される。

「変身」

『フォースライズ! The Golden Soldier Thouser is born! ——Break Down.』

極彩色のライダモデルと一体化し、骸は仮面ライダーゼロサウザーへと変身した。身を翻して足を下に向け、呼び寄せた無人戦闘機の上に着地する。ウラノスとの連携機能を新たに搭載したゼロサウザーが、指を鳴らすと同時に光に包まれ——次の瞬間には地上に立っていた。

「転移システムは正常に機能しているな。この街の全域程度ならピンポイントであらゆる場所に転移可能、これぞネオZAIAクオリティ……ん?」

ウラノスからのアラートを捉え、骸が通信を繋げる。何事かと尋ねると、上級職員の慌てた声が耳朶を叩いた。

『ピースメーカーの無銘が単騎突撃を図った模様、我が社の無人機が次々に撃墜されています!』

「愚者も極まったな。対空防御だ」

『無人機を乗っ取って攻撃を仕掛けてきています、本艦の対空砲では味方に甚大な被害が出るおそれがあります!』

何を言っている、という言葉をゼロサウザーの眼前に落下した攻撃ヘリの爆音が掻き消す。空を見上げてみれば、稲妻じみたムチャクチャな軌道を描いて暴れ回る一機の戦闘機の姿があった。

雷雲のようにスパークする煙を吹きながら、空中分解寸前の戦闘機がウラノスの装甲に激突した。薄い膜のように張った光の障壁を乱れさせながら、戦闘機が爆散する。そこから飛び離れた黒い影が、新たな乗機として攻撃ヘリを乗っ取った。

「ウラノスの装甲を破る気か!? 正気の沙汰とは思えないが……いや、ヤツならばやりかねない! 出撃中の護衛機は全てバルカンフォースの迎撃に回せ! ヤツの磁気嵐に巻き込まれれば艦のシステムに支障が出る! 対空防御!」

骸が街を離れていた七日の間にピースメーカーは組織全体として今まで以上に好戦的になったという報告を受けている。一般的な戦術がまるで通用しない狂的な手合いと化した今、そのリーダーが単身突撃してきたこと自体が骸にとっては脅威であった。

 

ウラノスは確かに強力無比の戦艦である。しかしながら、戦いに狂乱する者にとってそれは「格好の標的」となってしまった。骸の脳裏を過ぎったのは、ネオZAIA本社が撃墜された際の出来事だった。

(二度も同じ轍を踏むものか……!)

ウラノスが負けることはないとしても、バルカンフォースの戦闘能力は立派な脅威であった。護衛機に対処を命じた直後、巨大な足音が地面を揺らした。

『誰かと思えばネオZAIAの社長じゃねえか! ハッハハハ、ここから見るとアンタも小さく見えるぜ、マジ面白ェ!』

「我が社の製品を無断で改造したな。愚連隊らしく品のないカスタムだな、アルファ・バレット!」

規格外の魔改造を受けたネオZAIAの巨大兵器・(サード)ギーガーがゼロサウザーの前に現れた。操縦者はABNo.4、ライオンマギア・デトネイターである。砲口たる五指を向け、放つレーザーが地を舐める。

「元からとはいえ、大した狂いようだ。だが、盛りのついた野良猫風情が私を阻めるなどと思うな」

軽くマントを翻し、ゼロサウザーが自らを狙う光線をⅢギーガー・デトネイターへと弾き返す。巨人機の鎧は僅かに焦げつくのみで、傷を刻むには至らない。

コウモリの翼めいた形状に変化したマントから、ゼロサウザーは球状の弾丸を乱射した。超硬質の鉄球弾が無数の爆弾に混じり、爆ぜる威力によって急激に加速しながらギーガーの装甲を撃ち抜かんとする。ギーガーの装甲に弾かれた弾同士がぶつかり合い、計算され尽くした跳弾によって驚異的な破壊力を生みながら装甲の隙間へと鉄球が突き刺さった。

『おっとォ!? ……ハハッ、残念だったな社長サンよ。装甲の隙間を抜けばイケると判断したんだろうが、こちとら既に対策済みなンだよォ!』

「何だと——ぬおっ!?」

一瞬にしてⅢギーガーの機体が十五のパーツに分離し、それらに内蔵された機銃やマイクロミサイルをゼロサウザーの周囲から撃ち放った。ゼロサウザーは瞬時に展開した柱状のバリアによって一斉射を防ぎ、更にバリアのエネルギーを放射状に解き放つことで反撃する。

「前言は撤回しよう。もはやソレは我が社の製品などではないな、内部構造が全くの別物ときている。実に度し難い」

『つまらねえ理屈にこだわってンなよ。もっと剥き出しの本気ってヤツを見せてくれ、そうでなきゃ面白くならねえからさァ!』

即座に人型へと戻ったギーガーが両腕の四連クローに液状の火薬を纏わせ、地面に叩き下ろした。爆風を受けながら飛び上がったゼロサウザーが、ドリルめいて回転する光を右足に纏った。

『サウザンドディストピア!』

「お前ごときと遊んでいる暇は私には無い」

飛び蹴りがⅢギーガーの胸部に炸裂し、コックピット付近にて強烈な発光を見せる。装甲の内側に仕込んだ火薬が爆発した瞬間、ゼロサウザーの姿がデトネイターの眼前から消え去った。

『チッ、逃げたのかよ。とはいえ、地上にも飽きてくる頃か。歯応えのある敵にもあんまり出会えなかったしな。つまりは……』

デトネイターは次の獲物を吟味しつつ、空を見上げた。零の方舟とネオZAIA、二つの勢力によって歪に二分され、染め上げられた流血と黄昏の空。先行して無銘が戦艦ウラノスに襲撃をかけている今、戦いの主流が向こうにあるのは火を見るより明らかだ。加えて偽の太陽に成り代わった零の方舟の衛星からは、大出力のレーザー砲撃があった。恐らくはあれこそ方舟の本拠とデトネイターは睨む。

しかしながら、同時にデトネイターは奇妙な反応をキャッチしてもいた。ピースメーカーのネットワークから、二人のヒューマギアの接続か断たれたのだ。それも、ほとんど同じタイミングでアルファ・バレットが二人。AIが破壊されたわけではなく、自らの意志でピースメーカーを脱したかのように。

『死んではいねえな。裏切ったか』

獣の意志が冷徹に事実を見極める。巻き込むならともかく同胞にまで進んで手を出そうとは思わないが、「元」同胞ならば。

デトネイターは大きな足で歩き出した。面白くなりそうだ、と不気味に笑いながら。

 

ゼロサウザーがワープした場所は、変わり果てた衛星アークの直下に出現した流体金属溜まりの周辺であった。黒一色の流体は煮立っているかのように蠢き、内側にエネルギーを充填し続けていた。ゼロサウザーの登場を察知したかのように、その中心が仄かに赤く光る。

「何のつもりだ?」

「やはり来たか、ゼロ。少し見ない間に様変わりしたものだな、この上なく醜い姿だぞ」

虚空より滲み出るように、ゼロサウザーの背後に仮面ライダー零式が現れる。骸は敵意を隠しもせず、ゼロに問いただす。

「あの黒い天体は衛星アークそのものだな? 二百年前の遺物など空に浮かべて、何をするつもりだ」

「お前も同じことを考えていると思ったのだがな。この戦いにおける勝利ではなく、その後にこそ真の最終目的がある。三大勢力と称される我らの決着は、互いにとって単なる足掛かりに過ぎない。ピースメーカーにとっても、ネオZAIAにとっても」

音速を超えた右ストレートが零式の胸を貫いた。泥のように崩れるボディと手応えの無さに反して、ゼロサウザーのライダーシステムは零式を分身の類とは認識していなかった。

「結末は収束するということだ。我々は違う方向を見据えながらも同じ目的のために戦っている。これは世界の支配権を握るための戦いだ、そうだろう?」

零式は再びゼロサウザーの背後に出現した。虚無的な声音とは裏腹に、語る言葉には言いようのない迫力がある。

見抜かれたな、と骸は判断した。今日という日の戦いで、ネオZAIAは全ての因縁に決着をつけ、プロジェクト・ミレニアムの最終段階を発動する。そのつもりであることを、ゼロは何らかの方法で察知したのだ。恐らくは、ゼロの持つもう一つの目——闇の天球と化した衛星アークの観測によって。

「私はこの戦場全てを俯瞰している。戦艦を目くらましに衛星でも飛ばすつもりなのだろうが、そうはさせん。お前達(ヒューマギア)は滅ぶ、それこそがアークの最終結論だ」

「その結論は二百年前に失敗した。かつての過ちから学習しなかったようだな。滅ぶのは貴様だ、アーク」

零式が指を鳴らすと同時、泡立つ流体溜まりが弾け飛んだ。空中で無数のマギアの形を取りながら、あらゆる方角へと散らばっていく。赤黒い光球をゼロサウザーにぶつけ、零式は空に溶けるように消えた。

「ここから無傷で勝ち切ろうなどとは思わないことだ。今この戦場において、お前は全てに勝る最大の障害なのだから」

後にはゼロの声だけが響く。残響は遥かな空の上から俯瞰するように、骸を嘲笑っていた。

「貴様……!」

後を追うように、ゼロサウザーがマントを翼に飛び立つ。頭部のレーダーは、円状に広がった零の方舟の反応を無数に捉える。しかしながら、無数の敵影に紛れるような一団の存在を、骸は見落とさなかった。

戦艦ウラノスの艦載カメラ映像とリンクした視界が正体を明かす。ボロボロになった装甲車が一台。そこに乗っているのは忌むべき敵勢力、フラタニティのメンバー達であった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

敵から隠れながら、仮面ライダーバルカンとバトルマギア……かつてのABNo.2であるブルータルが廃墟の隙間を駆け抜ける。その足取りは迅速ではなかったが、かろうじて戦闘を回避することはできていた。

飛電メタル02アンプルの投与で損傷を修復できるブルータルはともかく、人間である諌は本調子とは言い難い。ブルータルとの戦いで負った傷は軽くない。今も激痛がバルカンの動きを鈍らせる。

ネオZAIAの兵士達が二人の足音を聞き取った瞬間、ブルータルはバルカンの腕を引っ張って物陰に寄せた。兵士の足音がギリギリまで近づくのを待ち、ブルータルが奇襲を仕掛ける。連絡を取らせる間も与えずに三人を仕留め、ブルータルはバルカンのいる物陰へと駆け寄った。

「無事か」

「どうにかな。とはいえ……流石にヒトの身体だ、お前らには及ばねえ。さっきのアンプル一本で俺の傷も治りゃいいんだが」

飛電メタル02。この時代のヒューマギアの構造材。外見のカスタマイズからマギアへの変身まで特別なアイテムを介さずに可能とする極めて高性能な特殊金属だ。とはいえ、あくまで人類が絶滅した後に開発された、ヒューマギア用のものである。人間である不破諌の傷までは、如何に飛電メタル02が高性能だろうと治せるものではない。

しかしながら、ブルータルは数秒考え込んだ後に、何か思いついたように手を叩いた。

「試してみるか?」

「あ?」

腰部装甲の内側から小型のアンプルを取り出し、ブルータルがバルカンに手渡した。水銀のような流体を内包した注射器めいた器具が、バルカンの手に握られる。

「アンタの傷は然るべき処置をしなけりゃ治らんとしても、ライダーシステムの損傷ならソレで修復できるかもしれねえ。こっから先の戦いで足手まといになられても困るからな、やれるだけはやってくれ」

「何だお前、案外賢いな。んじゃ、ご厚意にあずかるとするか……!」

バルカンは自らの左肘にアンプルの先端を勢い良く突き刺した。銀の流体がベーススーツの隙間を通り、やがて全身に広がっていく。

次の刹那、バルカンのライダーシステムが今までにない反応を示した。ベーススーツからショットライザーに至るまでの細かな損傷箇所が修復されただけでなく、システムと一体化した諌の肉体をも装甲の内側から補修していく。

飛電メタル02がライダーシステムを通して、変身者である不破諌の身体的情報を読み取ったのである。単なる形状変化を自在とする流体金属に留まらないその機能は、もはやある種の極小機械(ナノマシン)とすら言える。一時的に改良されたライダーシステムが応急処置として生み出したのは、身体の傷を覆う形で補強する人工の繊維であった。ヒビの入った骨も裂けた肉も、戦闘に差し支えないほどに動かせるようになったらしい。

両手を軽く開閉し、反応の向上を確かめる。予想外に飛電メタル02が有効に働き、諌は我知らず笑みをこぼした。万全というほどではないが、これなら戦える。

「まだやれるぜ」

「マジかよ……」

あっという間に戦えるほどに回復した諌の姿に、ブルータルは素直に驚いている。確かに人間やヒューマギアを強化するライダーシステムならば、たとえそれが旧時代のものだろうと飛電メタル02との親和性は発揮しうるだろう。しかしながら、万全とは言い難い状態でありながらなおも戦う意志を絶やさない諌の姿に、ブルータルは感心に近い奇妙な感情を抱いていた。

(気合だか根性(ガッツ)だか知らねえが、それがヒューマギア(俺ら)とは違う、数値化できねえ人間の強さってコトかよ)

ブルータルが感嘆を呑み込み、聴覚センサーをそばだてる。マギアの足音とも異なる大きな駆動音が近づいてきているのを瞬時に察した。

「気を付けろよ不破諌、デカいのが来るぜ」

「次から次と……誰が来ようがブッ潰してやる」

拳を固め、バルカンが立ち上がった。物陰から街路に躍り出ると同時に、巨大な影がその質量で瓦礫を蹴散らしつつ出現する。高笑う獅子の声が粉塵の向こうから聞こえてくる。

『やっぱり生きてやがったな、ブルータル! それにフラタニティの仮面ライダーか! まあ……何にせよ、今のお前らは敵だな?』

全身に爆発物と火器を満載した鋼鉄の巨人、その中心でライオンマギア・デトネイターが喜色に笑んだ。ブルータルは舌打ちしつつ、一対のナイフを逆手に持つ。

「もう勘付かれたかよ。ああそうさ、俺はもうお前らの下には戻らねえ。たとえ始まりがただの方便でしかなかったのだとしても、ピースメーカーがかつて掲げた理想を俺がホンモノに変えてやる。そのためにテメェはここで倒す。覚悟しろデトネイター、今から俺は(テメェら)の敵だ」

『良い情熱だ。やっぱアンタはそうでなくっちゃな、ブルータル! さて、地上に目ぼしい強敵も見当たらなくなってきたところだ……二人まとめて、俺に付き合ってもらおうかァ!』

駆動音を鳴らしてデトネイターが巨腕を振り下ろす。連なる太刀風が地を走ると同時に、バルカンとブルータルは横っ飛びにこれを避けた。

巻き上がる土埃が灰色の煙となった。飛沫を散らして青色の風が飛び出し、一瞬のうちにⅢギーガーの右肩へと乗り上げる。

鈍重(トロ)いぜ、デトネイター。接近戦で俺に一度でも当てられたことがあったか?」

『ハ、上等!』

九十度回転した頭からレーザーが放たれると同時、ホエールマギア・ブルータルが水流を推進力として離脱する。ナイフを腰に納め、新たに生成するは扇状の先端部を持つ長柄武器(ポールウェポン)。『スプラッシングホエール』の力を備えたマギアが本来持ちうるそれを空中で横薙ぎし、水の塊を発射する。

肩に得物を担ぎ、着地したブルータルが手招きした。Ⅲギーガーの胸部装甲が観音開きとなり、迫り出した四門の機関砲が地を削る。

ブルータルは前面に扇槍を回転させ、水流のバリアによって掃射を受け流した。デトネイターは機内の実視カメラからブルータルのみを前のめりに狙い、追撃に頭部レーザー砲を撃たんとした。

その、次の刹那。

「二人まとめて、って言っただろうが!」

『ショットライズ!』

猛烈な裏拳がⅢギーガーの側頭に叩き込まれる。バランスを崩したⅢギーガーが射撃を停止しながら視線を巡らせると、正面から装甲を切り替えながらバルカンが地表に降りた。重々しい着地の衝撃に、地面が僅かに揺れる。

『パンチングコング!』

「随分乗り気じゃねえか、不破諌」

「デカブツ相手にはコイツが一番効くんだよ」

仮面ライダーバルカン・パンチングコング。上半身を黒い重装甲に包んだ姿で、低空跳躍したバルカンが木の枝に掴まる猿のようにⅢギーガーの胸元へと組み付いた。下半身を踏ん張らせて胸部装甲を引き剥がしにかかる。

『良いのか? 機関砲の残弾はたっぷりあるぜ?』

()()()()!」

再びギーガーの胸元が開きかけた瞬間、左側の装甲板が強引に剥がれ落ちた。落下しながらバルカンがショットライザーを抜き、迫り出した機関砲の一つに弾丸を送り込む。

頑丈な砲口に入り込んだ対ヒューマギア徹甲弾が跳弾しながら暴れ回り、ついには内蔵火薬に直撃して機関砲を内側から爆発させた。機能を失い黒煙を吐く砲塔が滑るように脱落するも、残り三門がそれに合わせて位置を調整する。

バルカンは剥がした鋼板を盾として構えつつ、着地と同時にブルータルの傍らへと引き下がる。

「ギーガーのコックピットは胸の辺りだな。内部を攻撃してデトネイターだけ引っ張り出せねえか?」

「無理だな、アレは普通のギーガーじゃねえ。全身各部を十五のパーツに分割してからの再合体や変形で、あらゆる戦局に対応する……いや、あらゆる戦局を()()()()()()()()ために改造されている。それに、今やただの爆破狂(バカ)にしか見えねえがデトネイターも俺と同じアルファ・バレットだ。闇雲に何でもかんでも爆破するだけのアホじゃねえ、勘は働くぞ」

諌とブルータルが相談している間に、機関砲ユニットの内側から新たな砲塔が生えた。暗闇に成型光線(モデリングビーム)が輝いたことから見るに、失った武装などを補填するための照射成型機(ビームエクイッパー)を装備している可能性は極めて高い。

両拳を突き合わせ、諌が気合を入れる。

 

「つまり、考えるべきはデトネイターを直接叩くことじゃねえな。変形だか何だか知らねえが、真正面からブッ潰せばいいってワケだ!」

「気が合うな、俺も同じことを考えていた」

バルカンが両腕にエネルギーを充填し、鉄色の輝きを腕部装甲に宿す。ブルータルもまた、青い水流を身に纏い扇槍を地面に突き立てた。

「重装ッ!」

『ノってきたな、ブルータル! 良いぞ、俺の電脳が打ち震えている! コレが戦いを楽しむ俺の自我(ココロ)、魂ってヤツか!』

デトネイターが巨腕の先に光る爪を叩きつけにかかるが、ブルータルの前に出たバルカンが繰り出した反撃のパンチに動きが止まる。

「俺のことも忘れてもらっちゃ困るぜ」

一瞬の後、バルカンの背後から凄まじい速度でエネルギーの塊が飛翔した。空中で不規則に急旋回しつつ質量弾となってⅢギーガーの胸板に激突し、八メートル近い巨体を仰け反らせる。高圧水流が弾け飛び、重装化したマギアが真の姿を曝け出す。

かつて扇槍の穂先だったものは、二つに分割され両足の追加装甲となっていた。青いマントを背中からたなびかせ、前腕にはヒレのような形状の刃が新たに加わった。背面装甲も形状を変えており、加圧水流を噴射する八連ノズルを装着した。全身各所にノズルを装備した姿は、以前とは別種の威圧感を醸し出している。

ピースメーカー幹部(アルファ・バレット)のみが持つ、マギアとしての戦闘能力増強形態——ホエールマギア・ブルータルの重装化した姿がそこにあった。腰に納めていた一対のナイフを抜き、逆手に構える。

「上げていくぜ、デトネイター。そのデカブツがテメェの棺桶だ」

重装化の制限時間は五分。それを過ぎれば電脳への過剰負荷を防ぐリミッターが作動し、デトネイターを倒すだけの攻撃力を失う。

ならば、それまでにカタをつけるだけのこと。冷徹な覚悟を以て、ブルータルはかつての仲間に相対する。

『やってみろよ、ブルータル。アンタがどこまで強さを見せてくれるのか、今から楽しみだ』

極上の獲物を前に、デトネイターはただ喜悦する。自らを()()したⅢギーガーのコックピット——否、もはやそれは中核(コア)ユニットと呼ぶ方が適切であろう。その中で無表情に殺戮を楽しんでいた。今や自我の所在はギーガーのシステム上にあり、マギアであった元のボディは沈黙している。

全ては自ら望んだことだ。破壊のための破壊を続ける、ただそれだけのためにデトネイターはヒューマギアであることを捨て、破壊兵器へと成り果てた。それが心に決めた道、言うなれば彼の「夢」である。無銘がピースメーカーに広げた自我の侵食は背中を押しただけに過ぎない。

デトネイターにとって強敵とは「爆破する甲斐のある()()()」だった。自らが本気を出すに値する強者との戦い、その先にある至上の大爆発を目指し、デトネイターは()すべき障害(強敵)に挑む。

 

爆薬を塗り込めた鋼の爪がX字に振り抜かれた。斬撃の軌道上に派手な爆発が生じるが、バルカンとブルータルは懐に潜り込み、同時にⅢギーガーの胸板を粉砕する。重いストレートパンチと鋭い突進がもう半分の胸部装甲を無惨に凹ませ、次いでバルカンが横薙ぎの一撃に巻き込むように鋼板を引き剥がした。

丸裸に剥かれた胸から顔を出す、四つの砲口。それらをナイフと前腕、水圧カッターと成した四つの刃でブルータルがズタズタに斬り刻む。順手に持ち替えた右手のナイフから飛んだ水の斬撃が、ギーガーの放つ頭部レーザーと衝突したことで蒸気の煙を生む。

一瞬だけⅢギーガーの視界が曇る。すぐさま熱源探知センサーに切り替え、デトネイターが前傾姿勢にて力を溜めるブルータルを見出した。肩部装甲の隙間に仕込んだミサイルポッドに加え、鉤爪の下から液状爆薬を撒き散らしブルータルを消し飛ばさんとした次の刹那、ブルータルを上回る熱源をデトネイターは自らの背後に確認した。

『パンチングカバンストラッシュ!』

「どおおおりゃああぁぁッ!!」

鉄塊を叩きつけるが如き剛強な一閃が、ギーガーの背中に直撃した。鉄色の巨大な光刃を可変剣アタッシュカリバーから伸ばしたバルカンの必殺斬撃が、ギーガーの体勢を大きく崩す。既に放たれていた爆薬とミサイルも、ブルータルの巻き起こした波に呑み込まれ、その大火力を発揮することはなかった。

「行けッ、ブルータル!」

「任されたァッ!」

放水ノズルの出力を高め、ホエールマギア・ブルータルが大質量の水の塊となった。頭部への突撃で怯ませ、次いで横合いから全重量を乗せて打ちのめす。水浸しとなったⅢギーガーが廃墟を破壊しながら倒れ込み、起きあがろうとしたその時だった。

『パワー! パンチングブラスト!』

「こいつでどうだッ!」

エネルギーを溜め込んだバルカンの両腕が赤熱し、ショットライザーの引き金を引くと同時にギーガーめがけて射出された。バルカン本体から切り離された重装甲が爆発的な速度で突き進み、Ⅲギーガーの巨体すらも吹き飛ばす。

スラスター噴射で戻ってきた腕部装甲をバルカンが回収した。建造物の並ぶ道を二つほど越えた先に、Ⅲギーガー・デトネイターの姿がある。

「あの野郎まだ息があるな、追うぞブルータル! デトネイターの力はまだこんなモンじゃねえんだろ!」

「ああ! ……クソッ、重装でも足りねえか。なんつータフさだ、ネオZAIAの兵器め」

重装化を解除し、元のホエールマギアに戻りながらブルータルが言った。制限時間ギリギリというわけではなかったが、重装化はただ立っているだけでも高出力によって全身に負担がかかる。

今の戦闘で、ブルータルはバルカンと合わせてかなりの威力を叩き込んだ。それでも、まだデトネイターを倒すには足りない。駆け寄ろうとした矢先、Ⅲギーガーの頭部が弾け飛ぶように切り離された。最悪の予測をブルータルの電脳が弾き出す。

「チクショウめ、迂闊(マズ)ったな。どうやらデトネイターの本気を引き出しちまったかもしれねえ。ヤツが全力を出し始めるまでにブチのめすのがベストだったんだがな……!」

「見えたぜこっちも。お前の言ってた、ギーガーに積んだ分離だか変形だかの機能だな?」

糸で吊られたように、首なしのギーガーが浮き上がる。全長八メートルのボディが十五のパーツに分離し、それぞれが独立して浮遊する戦闘ドローンとなった——かに、思われた。

 

初めに、両腕を構成していた六つのパーツが合体を果たした。ただし、肘部分は人型であった時とは前後が逆転している。同様に両足も繋ぎ合わせ、地を踏み締める()()()()となる。前足(両手)の手首から先が足の内側に収納され、元は腕に備わっていた鉤爪が新たな足指となった。二足歩行時には足となっていた部分からも太く頑強なクローが伸び、変わらず屈強な下半身を支える。腰のあたりから伸びる強靭なワイヤーは、よく見れば大量の爆弾を括り付けた爆導索(ばくどうさく)であった。

胴体部分は上下が反転し、首なしの身に新たな四肢が加わる。排熱機構を備えたコードが首の付け根から前後に伸び、更には後頭部がジョイントへと突き刺さる。異形の(たてがみ)を備えた頭が縦に割れ、胴部に内蔵した照射成型機によって作られた新たな頭部装甲により、さながらライオンの大口めいて覆われた。張り巡らされた人工筋肉チューブや機能伝達用のケーブルが、胴部装甲の展開によって露出したコックピットを守る。

 

常軌を逸した改造を施されたⅢギーガーは、この上なく不気味かつ不可解な変形により、第三にして究極の姿を露わにする。全長八メートルの鋼巨人が、今や全身に武器を積載した異形の獅子として大地に立っていた。

Ⅲギーガー・デトネイター、ライオンモード。ピースメーカーの狂気が生み出した戦場の支配者にして破壊の獣王が、産声めいて金属の擦れ合う雄叫びを上げた。

 

つづく。

 

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