IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK   作:TAC/108

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Part-38 捻れ狂う空の下で

 

フラタニティ管轄区域・管制塔の頂上に立ちながら、アインは周辺の森を眺めていた。傍らには此度の作戦で管轄区に残留するヒューマギアの一人を置いている。

暇を持て余しているわけではない。彼女は管轄区の守りを任された身であり、万が一にも敵の侵入があった場合はこれにいち早く対処しなければならない。少なくとも森の中にはジャミングの網を万全に張っているが、最悪のパターンというのは常に想定しておくものである。

(外部からの侵入ルートは大方塞いであるハズ……なんだけど、何だろう。胸騒ぎというか、妙に嫌な予感がする)

「どうされました?」

「えっ? あ、いや。何でもないよ」

言いようのない不安が表情に出ていたらしく、アインは即座に取り繕った。スコープを片手に監視員のヒューマギアが仕事に戻る。

良きにつけ悪しきにつけ、今日で戦いの流れは大きく動くことになるとアインは考えていた。三大勢力にとって、フラタニティの存在は脅威となりうる。それだけの力を一週間という準備期間の中で可能な限り蓄えた。

その上で、どうしても拭い切れない不安感があった。その原因が何であるか、アイン自身にも測りかねている。

一瞬、乾いた風が強く吹いた。それに混じって、何かが空気を切り裂くような音をアインは自らの聴覚センサーで捉えた……ような、気がした。あまりにも微弱な音だったせいで、何の音であるか判別はできなかった。

「……鳥でも飛んでるのかな?」

「飛んでますよ。ホラ、あそこ」

監視員が指差した先に、木々の間から野鳥の群れが飛び立っていくのが見える。こうも物々しい空の下では無理もない……そう考えるには、何か不自然に思えた。

「空……空か」

赤く染まった天空をアインが仰ぐ。赤黒い偽の太陽を戴く空の雲が、かすかに揺れたように見えた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

青い稲妻が空を駆け、機動戦艦の護衛機を次から次に破壊していく。電磁気と重力制御機構によって飛行する仮面ライダーバルカンフォースは、単独でネオZAIAエンタープライズの空中部隊を相手取っていた。

三大勢力の長となる仮面ライダーは、他の追随を許さない驚異的な戦闘能力を誇る。ネオZAIAを社長としてまとめ上げる骸が機動戦艦ウラノスに不在の今、無銘を止められる者がネオZAIAにあろうはずもなかった。バルカンフォースが半壊した戦闘機から攻撃ヘリに飛び移り、制御を奪って電磁気を纏わせたミサイルを連射する。分厚い装甲に直撃すると思われたミサイルの爆発は、薄い光の膜にスパークを走らせるのみで傷一つつけるに至らない。

しかし、その反応に無銘は手応えを感じていた。ウラノスを守るために展開された空中戦力も実に四分の一を減らすに至った。直掩機の減少が結果的にウラノスからの直接攻撃を引き出すこととなり、艦体上部の副砲からバルカンフォースを狙うレーザー砲撃も発せられていた。

ウラノスのボディを守る強固な光波障壁は、強力な攻撃を一点にぶつければ破れる。それを実行するには、更なる火力が必要だ。無銘の感じた「手応え」の正体である。

バルカンフォースは遥か上空に意識を向けつつ、自動操縦で攻撃ヘリを特攻させた。手近な戦闘機を奪い、機体を上向けて垂直に急上昇する。

「さて、乗ってくるか……?」

護衛戦闘機の追撃を自壊も厭わぬ高速機動でかわしながら、バルカンフォースは黄金と深紅の空の狭間を突き破るように飛んだ。目指す先はこの空を異常に染め上げた元凶の片割れ、通信衛星の成れの果てたる暗黒の天球である。

衛星からのレーザー砲撃は既に確認済みである。現状、零の方舟は目立った動きをあまり見せていないが、自衛のためになら応戦するだろうと無銘は踏んでいる。後続を爆発的加速で引き離し、バルカンフォースの駆る戦闘機が前方一キロメートルの先に暗黒天球の禍々しい姿を捉えた。

ネオZAIAから奪った戦闘機が、自動追尾機能を持つ大型のミサイルを吐き出した。スラスターの加速に電磁気の生み出す反発力を組み合わせ、猛烈な勢いでミサイルが突撃する。

次の瞬間、バルカンフォースは戦闘機ごと後方宙返りさせてウラノスへと反転した。「その瞬間」を見られないのは残念に思ったが、結果は予測した通りであった。ウラノスの光波障壁に勝るとも劣らないエネルギー反応が、四方八方に拡散する。

「やっぱり来たな。存外にノリが良い」

バルカンフォースが戦闘機を蹴り落とし、ウラノスに向けて突撃させた。艦体上部を覆うバリアが特攻の衝撃に激しく揺らぐ。重力制御によって空中を跳ねるように飛びながら、バルカンフォースは障壁に覆われたウラノスへと接近しながら振り向く。

バルカンフォースを追っていたウラノス直掩機部隊が、衛星からの砲撃によって火花と化していた。曲がりくねって摩訶不思議な軌道を描く幾本もの赤い光線は、ウラノスの甲板へ向かう中で一本に集束し、ついにバリアへと激突する。赤と金の光が激しく反発し合い、目を焼くほどの輝きを生んだ。

数十秒の後、衝突点が爆ぜた。ウラノスの光波障壁が砕け散り、零の方舟のレーザー砲撃も止まった。上空での拮抗が極まり、完全な静寂が生まれたその一瞬を無銘は決して逃さない。艦体上部に着地したと同時、直掩機から数多の銃口を向けられながら無銘が叫ぶ。

 

「聞けお前らァ! ネオZAIA戦艦の守りは破られた! 来られる奴は一人残らずオレについて来い! 攻め込むぞ!!」

 

ピースメーカーの広域回線が伝えたのは、新たな狩りの開幕であった。戦場の熱気に当てられた狂戦士達が、次なる目標を捉える。

ウラノスを守るバリアが破られた今、侵入する方法などいくらでもある。犠牲者は出るだろうが、それもまた戦場を彩る熱の一片だ。

頭上から赤い閃光が降り注ぎ、無銘を狙っていた護衛機が次々に爆散する。黒煙を突き抜けて現れたのは、恐るべき漆黒の騎士であった。

「へえ……アンタも来てたのか」

「誘った割には淡白な反応だな」

新生せし仮面ライダー零式が、機動戦艦の甲板に降り立つ。彼こそは変わり果てた衛星アークの本体、ここで撃破すれば三大勢力のバランスに大きな影響を及ぼす。

とはいえ、無銘にとって戦略(そんなもの)は重要ではない。戦って楽しいか否か、それだけを求めていた。

「存外つまらないヤツだな、アンタ。まさかこの中でただ一人、勝ち逃げするつもりでいるのか?」

「この世界の破滅、それこそが私の目指す結果だ。お前やネオZAIAの戯言に付き合うつもりなど初めからない」

「へえ……だったら予定変更だ。高みの見物ってつもりなんだろうが、あの衛星ごとアンタを戦場(ここ)()()()()()()()()()()

ニヤリ、と無銘が笑った次の刹那。

命脈を断つ一閃が零式の背後から襲いかかる。零式は背面に展開したバリアでこれを防ぎ、新たな闖入者の方へと振り向く。

「アロガント、この場は任せるぜ」

「承知」

バルカンフォースが甲板を蹴ってウラノスの司令室へと一直線で跳び上がった。零式を襲ったのは最強のアルファ・バレット、ジャッカルマギア・アロガントであった。ウラノスのバリアが破られるや否や、誰よりも速くこの場へと駆けつけたのである。

「お前如きがこの私を阻めるとでも」

「ネオZAIAの戦艦へと来てみれば、アークの使者がたった一人か。相手にとって不足はない、貴様も我が鎌の錆にしてくれる!」

今の零式の反応速度を以てしても、全力で駆け出したアロガントの初動を見切ることは不可能だった。零式は袈裟懸けの一撃を腕で受けつつ、長柄を脇に抱え込んで空いた方の手で殴り返す——はずだった。

「甘い!」

零式の後頭部にアロガントの飛び回し蹴りが直撃する。拳が空を切る一瞬、アロガントは得物を手放し即座に零式の背後へと回り込んでいたのである。

ジャッカルマギアの速度をゼロは見誤っていた。取り落とした大鎌がアロガントに蹴られ、死の車輪となって零式の体を縦に両断する。ブーメランめいて手に戻った大鎌に、アロガントは更にエネルギーを流し込んだ。

「前提を書き換え、結論を予測し直した」

「やはりな、そうくると思っていた」

真っ二つに泣き別れた体が、一瞬にして元の形に接合される。零式は全く無傷のまま、変わらずアロガントの前に立っていた。

零式が虚空から禍々しい大剣を抜刀した。右手に握られたのは、血のような深紅の刃を持つゼツメライズホッパーブレードであった。

赤と黒の斬撃が飛翔し、凄まじい爆発を生んだ。ジャッカルマギアの瞬発的な機動力を上回ることは、今の零式でも困難だ。しかしながら、()()()()であれば話は別。衛星アークの演算速度を借り受け、本来は一ヒューマギアに過ぎなかったゼロの電脳が加速する。

「ようやく本腰を入れたか、良いぞ! それでこそ斬り甲斐があるというもの!」

「そういうことだ。死ぬがいい」

アロガントが黒き突風となり、幾度も零式と斬り結ぶ。一撃、また一撃とあらゆる方向から不規則に斬りつけるアロガントに対し、零式はその場からほとんど動かずに正確にゼツメライズホッパーブレードの斬撃を返していた。

「司令官殿も惜しいことをしたものだ、貴方であればさぞ今の状況を楽しんだでしょうなァ!」

強敵の予感にアロガントが昂揚した。跳躍から一際強力な袈裟斬りが繰り出されるのに対し、零式は赤黒い流体金属を剣山じみた形状として刃に纏わせ、対空の横薙ぎとしてアロガントを撃墜した。

無慈悲の殺意と滾る戦意は、殺し合いの中で更なる高みへと昇っていく。鉄仮面の下に隠したジャッカルマギアの赤眼が、愉悦するように光った。

 

◆◆◆◆◆◆

 

ドードーマギア・ハウの運転するボロボロの装甲車が不吉に軋む。簡易のカーナビすら搭載されていないこの車両で、その代わりを務めているのは他ならぬ運転手のハウであった。

「後方より高エネルギー反応、こちらに向かってきているようです。名残惜しいですが、この辺りが潮時でしょう」

隠す気もない殺気を捉え、呆れ気味にハウが言った。乗客達が了承し、僅かにシートから腰を浮かせる。

次の瞬間、背後から飛来した数多の小型爆弾によって装甲車は木っ端微塵に吹き飛んだ。乱雑に貼り合わせられた装甲板が跳ね飛び、爆煙の中から四つの影が散る。襲撃者は翼をマントに変えて緩やかに着地しつつ、悠然と反撃を待ち構える。

物陰から伸びた鋼の鞭が、襲撃者の左腕に巻きついた。剛力で下手人を無理矢理に引き寄せた先から、光の矢を番えた仮面ライダー滅が姿を現す。

「小癪!」

「やはり出てきたか、ネオZAIA」

光の矢が発射されるが、襲撃者——仮面ライダーゼロサウザーは冷静に左腕からエネルギーの矢を吸収した。更に引き寄せた滅の支管からもエネルギーとプログライズキーのデータを吸い上げつつ、続けて飛んできた赤い斬撃を睨む。

ゼロサウザーが右掌から己の力をも上乗せした黄金の矢を放ち、斬撃の主ごと撃ち抜かんとした。二刀を揃えて矢を受け流すドードーマギア・ハウだが、あまりの威力にその場で停止せざるを得ない。力を失った滅をハンマー投げの要領でドードーマギアに投げつけ、ゼロサウザーの両手が完全にフリーになった次の瞬間。

兜割りの斬撃がゼロサウザーを真上から襲った。手には飾り気のない刀、一対の赤角を持つ闘牛のマギア。バッファローマギア・エンデュランスの登場である。振り下ろした刀を引き、背部スラスターによる加速も合わせてエンデュランスが至近距離から突きを繰り出すのに対し、ゼロサウザーは躊躇なく刀身を掴み取ってその勢いを殺す。

「ぬうう!」

「無駄なことだ……死ぬがいい」

マギアの装甲すら腐食させる毒を帯びた拳がエンデュランスの胸板に突き刺さる直前、背後からの光線がそれを中断させた。

「この攻撃……オリジナルか!」

『JACKING BREAK!』

生じた一瞬の隙にエンデュランスが飛び退き、入れ替わるように仮面ライダーサウザーが突進してきた。ゼロサウザーは無造作に放った裏拳で背後の結晶波動弾を粉砕しつつ、突き出されたサウザンドジャッカーの穂先に横蹴りを繰り出して攻撃を相殺した。

サウザーは押し返されながらも踏み留まり、エンデュランスと並び立つ。生半な攻撃では退けることすらもままならない、圧倒的な強敵が眼前に立っている。世界中に広がるネオZAIAエンタープライズの大勢力を束ねる豪傑にして三大勢力の長が一人、骸/仮面ライダーゼロサウザー。

予想だにしていなかった襲撃者の正体に、戦士達は驚愕しながらも戦意を折ることはなかった。ジャッカーを構えていた腕を下ろし、悠然とサウザーが前に出る。

「まさか直接我々を叩きに来るとはな。大事の前の小事にかかずらう立場ではなかったと思うが」

「その減らず口も聞き飽きたな、忌むべき我がオリジナル。何やらネズミのように嗅ぎ回っていたようだが全て無駄なことだ。もはやこの戦いにお前達の介在する余地などない」

横合いから飛んできた矢を砕き、ゼロサウザーがそちらへと目を向ける。復帰してきた滅のアタッシュアローによる射撃だった。

「あんなものを引っ張り出して勝者を気取るとはな。支配する前に世界を壊すつもりか?」

「我々はピースメーカーや零の方舟のような破滅主義ではない。そして、勝負の席にすら座っていない者の言葉に惑うこともない。これから起こることにただ絶望し、ネオZAIAの支配を甘んじて受け入れるがいい」

ドードーマギアが無言で斬りかかった。黄金の二刀を即座に形成し、ゼロサウザーが鍔迫り合う。刃が火花を散らす最中、追加の装甲を纏ったドードーマギア改となったハウが、胸部の固定式マシンガンを至近距離で炸裂させた。ゼロサウザーは奇襲じみた着弾を防ぎきれず僅かに退くが、その損傷は微々たるものだった。

「この世界に生きるヒューマギアを貴方一人の奴隷になどさせません。『プロジェクト・ミレニアム』は必ず阻止します」

「何か勘違いしているようだな」

不敵に笑う骸の様子に、四人が身構えた。

「元より通信衛星『ミレニアム』はネオZAIA本社として完成している。単独での大気圏離脱が不可能だったという欠点については、既に解決策を講じた。この戦いが始まる遥か前から、ネオZAIAの勝利は確定していたのだ」

通信衛星を用いたネオZAIA式のネットワークによるヒューマギアの意志統一、それが『プロジェクト・ミレニアム』における世界支配の手段だった。

そのために使われる通信衛星ミレニアムの正体は、ネオZAIAエンタープライズの本社ビルそのものである。コアユニットとして開発が進められていた機能複合型ヒューマギア計画は最終的に頓挫したものの、それ以外はほぼ全て現時点で完遂されていることになる。

「コアユニットなしに衛星は機能を発揮しないと説明したのは貴様だ。目的はコアとなるアイオーン……フーを奪い返すことか」

エンデュランスが刀を突き出すが、横合いから刀身を殴られて攻撃を逸らされる。荒れ狂う風を纏ったパンチの反撃でゼロサウザーがエンデュランスを吹き飛ばす。

「元よりアイオーンは頓挫したプランAに過ぎない。実現可能なプランBがある以上、アレは今となっては不要だ。さて、私がここにやってきたことで全ての手筈は整った。この下らない争いばかりが続く世界の終わりも秒読みに入った。この戦場で私がすべきことは二つ。『やれ』と一言命じることと、憎き我がオリジナルである天津垓を抹殺することだけだ。それ以外は全て、もはや単なる余興の範疇に過ぎない」

無造作に投入されながらも積極的に動かないネオZAIAの大勢力も、上空に鎮座する機動戦艦ウラノスも、そして今ここにいる骸当人も、全てがただのパフォーマンス。戦場に覆せない絶望を刻み込むための演出なのだと、骸は語った。

 

骸にとってあらゆる反抗、敵対は今となっては単なる悪あがきであり、万事が釈迦の掌を飛び回る孫悟空の所業に等しい。

その上で、なおも戦士達は抗う手を止めようとはしなかった。吹き飛ばされたエンデュランスを助け起こしながら、天津垓が決然と言い放つ。

「だとしても、我々がここで足を止める理由にはならない。お前を倒し、他の勢力も撃破し、ヒューマギアが自由と幸福を享受できる明日へと繋げる。それがフラタニティの夢であり、私もそれを諦めるつもりはない」

五メートルの距離からサウザーが得物を思い切り振りかぶった。ゼロサウザーに軽く弾かれるが、続けて振り下ろす一撃で僅かに体幹を揺るがす。

「今の私は機動戦艦からのエネルギー供給を受けている。お前の全力で釣り合うなどとは思わないことだ!」

「私だけではそうだろうな!」

力任せに斬り下ろし、逆袈裟の追撃を仕掛けるサウザーに対し、ゼロサウザーは乱暴な前蹴りで押し潰す。右側から突撃してきたドードーマギア改の二刀を掴んで向きを変えさせ、滅の射撃に対する盾とした。強固な胸部装甲に光の矢を受けたことでダメージを抑え、蹴倒されながらもドードーマギアは仰向けとなって肩部からグレネード弾を連射する。

「我々は意志なき人形などではない。貴方が無名の民草と見下した全てのヒューマギアには、一人一人の心があり夢がある。そして私もフラタニティのヒューマギアとして生きる夢を持っているのです。貴方にその邪魔はさせない!」

「そんな攻撃が通用するとでも!」

至近距離で放たれたグレネード弾は、しかしながらゼロサウザーの装甲に傷一つつけるに至らない。薄い膜のような光波障壁で全身を覆っているからであった。グレネードの爆発で生じた爆煙の先から、すれ違い様に滅が斬りつける。サソリの尾じみた支管が伸び、ゼロサウザーの上半身を縛った。

「くっ、私を縛るか……二百年前の亡霊め!」

「大層な御宅を並べていたが、お前も所詮は旧時代のアークと変わらないな。ヒューマギアの意志を縛り、ただの道具に貶める。それは我ら滅亡迅雷.netが、何よりも忌み嫌った結論だ」

煙が完全に晴れると同時に、スラスターの加速によって威力を増したエンデュランス渾身の抜刀が放たれる。超音速の一刀が抜き打たれゼロサウザーに直撃するも、バリアを破るのみで装甲にまでは届かない。

振り抜いた刀を引き戻し、エンデュランスは更に刺突へと繋げる。ゼロサウザーは拳で刀身を叩き落とすが、手元で刃の向きを反転させたエンデュランスの斬り上げまでは防ぐことができなかった。

「お前程度の者が私に傷を……」

「確かに、お前からすればヒューマギアという存在は脆弱に映るだろう。恐らくは、司令官……無銘も同じ景色を見ていたのかもしれない。だが、弱さの克服とは巨大な力によってのみ為されるものではない。勇気、信念、矜持……そうしたエゴによって強くなることには、私とて覚えがある」

拳と刀が激しく打ち合う。一歩退いて繰り出す三段突きを正確に弾かれたエンデュランスの背後から、入れ替わるようにサウザーが飛び蹴りをゼロサウザーに喰らわせようとした。

ゼロサウザーが掌を虚空に翳してエネルギーバリアを再展開し、サウザーのキックを弾いた。再びバリアの薄い膜に身を包んだゼロサウザーの拳がサウザーのボディへと突き刺さる。

「ぐふあッ!」

「エゴによって強くなるだと? ならばその意志ごとお前達を打ち砕くまでだ。圧倒的な力の前に、そんなものは無力であることを理解するがいい」

仰向けに倒れるサウザーだったが、不敵に笑いながら再度立ち上がる。まるで先程、勝利を確信して笑った骸への意趣返しのように。

「ふ、ッハハ……やはりお前は間違えている。お前が私の情報をコピーしたのであれば、知っているハズだ。私が何度でも、夢を信じた心の力にこそ敗れてきたことを」

「敗者の理屈だ」

()()()()()()()()だがな」

エンデュランスを殴り倒し、背後から忍び寄るハウに肘打ちを喰らわせ、続けて攻めてきた滅には鋭利な爪を出力して引き裂くような斬撃を叩き込む。この時代においても優れた戦士達が揃いながら、単騎のゼロサウザーに圧倒されている。それだけ今のゼロサウザーが持つ力は強大であった。

しかしながら誰一人として諦めるという選択肢を取ることはなかった。ここで折れれば、天津垓を殺した骸が『プロジェクト・ミレニアム』に基づく世界征服を実行することは分かっていたからだ。世界を単一のネットワークで染め上げ、自分以外を意志なき道具に変える計画を止める、その分水嶺が今この場所だと四人は理解していた。

「人もヒューマギアも夢を見るのは自由だ……かつて、ある男が私にこう言った。彼との戦いを経て私はその意味を理解した。たとえ誰であろうと、心ある者からその意志を……夢を奪うことは許されない! お前がこの世界全てのヒューマギアから夢を奪うというのなら、私はその夢を守るために戦う!」

決意は闘志となり、サウザーを何度でも立ち上がらせる。自らに約した夢を貫くその姿勢を、垓はそういった戦士達の敵として幾度となく目にしてきた。

だからこそ、知っている。絶望的な苦境の中にあってさえ、折れることなき心の強さというものを、垓は自らの身を以て嫌というほど理解している。

「本社の地下で見せたような現象は使えまい。ゼロサウザーの性能はサウザーを必ず上回る。どれだけ安い意地を張ったところで、オリジナル……お前の生存確率は0%だ」

掌に収まるほどの小さな光球が、ゼロサウザーの指先に灯った。極小の太陽が如く輝いたそれの威力は、直撃すれば変身者諸共にサウザーのシステムを消滅させることは明白だった。

垓は覚悟を決め、サウザンドジャッカーの柄を固く握った。避けたところで好転する未来などない。大方、二発目が飛んできて死ぬだけだ。

狂気のアイデアが脳内に浮かぶ。できるかどうかも分からない未知数に、垓は一切の躊躇いなく賭ける。

指先から無造作にゼロサウザーが光球を放った。ゆっくりと進むそれに向かってサウザーが駆け出し、勢い良く己が得物を突き出した。刃先と光球がぶつかり合い、衝撃波が周囲に広がった。

「ぐ、ッぬううう……!」

光球の威力に身体ごと持っていかれそうになりながらも、サウザーはジャッカーの柄頭に手をかける。頑丈極まるジャッカーの内部機構がミシミシと不穏な音を立てるが、サウザーは柄頭のレバーを思い切り引き抜いた。

『JACK-RISE!』

あらゆる力を抽出し、サウザーの無敵を支える要であるサウザンドジャッカーに、ゼロサウザーが放った光球を吸い上げさせる。これだけの力があれば、ゼロサウザーの防御を貫いて強烈な一撃を返せるかもしれない。一か八か、その可能性に垓は全てを賭けていた。

「させるか!」

「お前がだ」

その隙を逃す骸ではない。巨大なブーメランとなったマントをゼロサウザーが投擲しようとした時、その腕に滅の放った矢が突き刺さる。

「まだ邪魔を……!」

巨大ブーメランの刃を滅に叩きつける直前、その間にエンデュランスが割って入った。強引にエンデュランスを押し退けたゼロサウザーが、ドードーマギアによる背後からの攻撃を察知してブーメランを周囲に旋回させた。

仲間達の助けを借り、サウザーは光球とのせめぎ合いに集中する。あまりのエネルギー量に、かつてないほどサウザンドジャッカーのレバーが重い。己の力を限界以上に振り絞り、指も砕けんばかりに引っ張る。

「ここで負ける私では、ないッ! たとえ相手が私より強かろうとも……1000%の勝利を実現してみせる!」

垓の気迫に応えるように、サウザンドジャッカーが唸りを上げた。レバーが完全に引き抜かれ、膨大なエネルギーが余すことなくジャッカーに内包された。オーバーロード寸前に陥ったジャッカーを両手で構え、旋回するブーメランを飛び越えてサウザーが空中から斬りかかる。

『JACKING BREAK!』

 

JACKING

BREAK

©️ZAIAエンタープライズ

 

ゼロサウザーが前面にバリアを展開するが、それすらもジャッカーの刃は触れただけで粉砕した。襟元から斜め左下へと斬り抜ける一撃が、核爆発じみたエネルギーの奔流と共にゼロサウザーへと叩きつけられる。

衝撃が砂塵を巻き上げ、煙を生んだ。周りにいた三人は物陰に潜み、その威力に耐える。猛烈な爆風の止んだ後、彼らは爆心地を睨んだ。

煙の先で、鈍い音がこだました。ゼロサウザーが、サウザーの首を掴んで引き倒す音だった。装甲に傷を入れられながらも、ゼロサウザーはかろうじてサウザーの反撃を耐え切ったのだ。

鉄拳がサウザーの仮面を砕く。右目が消灯し、砕けた箇所から垓の素顔が覗いていた。首を掴んだままゼロサウザーはサウザーの身体を引き上げ、流し込んだエネルギーによって黄金の装甲を爆破する。

変身を解除された垓の身体にはあちこちに焼けた跡が刻まれていた。地面に投げ捨てられ、土埃に塗れながらも、その眼差しは片時もゼロサウザーから離れることはなかった。

「やはりお前こそが私にとって最大の障害となりうる存在だったな、天津垓……我がオリジナル。だが、力の差というものは絶対だ。お前を殺し、私はオリジナルを超えた存在としてこの世界に君臨する」

完全な敗北だった。決して浅くはない傷を入れた上で、なおも最後の一押しには届かない。天津垓はまたしても、骸に()()()()()()()()()()()のである。

 

だが。

「それは、ッ……どう、だろうな……?」

垓はこの状況下においても、不敵に笑っていた。うつ伏せにゼロサウザーを見上げるその視線は、まるで何らかの好機を得たように光っている。

……否。垓が見ているのはゼロサウザーではなかった。頭上を割った深紅の空と黄昏の空、その先に座する二つの光を繋ぐ数多の光条を見据えている。誰より早くそのことに気付いた骸が振り向いた刹那、ゼロサウザーの通信機から本来聞こえてくるはずのない声が響いた。

なぜならば、その発信源は——他ならぬ骸の保有戦力、機動戦艦ウラノスの司令室だったからだ。

 

『よう、ネオZAIAの社長さん。少し楽しませてもらった礼だ、()()()()()()()()()()()()()

 

「どういう……ことだ……!?」

黒い太陽が燃え落ちる姿が、遥か彼方に見える。赤い空の領域が黄金に書き換えられ、機動戦艦ウラノスのエネルギーが生み出した力場の空が果てなく広がった。

「フラタニティはネオZAIAを主な敵として生まれた組織だったが、まあそれはそれとしてネオZAIAのテクノロジー自体にはオレ達も世話になってるってワケだ。オレの場合は片道切符になるが、空間転移(ワープ)装置とはまた便利なモン作ってんだな」

廃墟の屋上から呼びかけるような声は、ゼロサウザーの通信機から響いたのと同じ人物のものだった。それが誰であるかは、この場の誰もがよく知っている。

「貴方は……無銘、司令官……!」

「お前もオレの誘いを脱したんだな、エンデュランス。アルファ・バレットもいよいよ残すところ二人とは寂しくなったが……まあ、お前が敵に回るのもそれはそれで楽しそうだ」

戦禍をもたらす鋼の人狼、仮面ライダーバルカンフォース。武装勢力ピースメーカー総司令官たる男、無銘がこの地に突如として現れたのである。

「貴様、いったい何をした……?」

「ちょっとした目的のためにあのバカデカい戦艦を拝借させてもらった。ああいうのを使って大破壊を撒き散らすのはオレの趣味とは少し違うからな、丁重にお返ししたよ。まあ、拠点として分捕るとかならアリだけどさ」

無銘の言葉を聞き、滅が空を見上げた。黒い太陽——変わり果てた衛星アークが、炎上しながら徐々に高度を下げている姿が見える。

零の方舟(アレ)を地上に引きずり下ろすためだ。流石は世界最大(グローバル)企業ネオZAIAの巨大戦艦だ、主砲の火力を以てすれば衛星だろうとあの通り大炎上ってワケ」

「貴様……我が社の秘密兵器をいとも容易く乗っ取っただと!? 私以外には解除できないセキュリティシステムを組んでいたハズだ!」

達成感を交えて恐るべきことを語る無銘に誰よりも怒りを向けたのは、骸だった。ネオZAIAの成果物は全て骸に所有権がある。その中でも最上級に位置するウラノスが無銘の火遊びに使われていた事実が何よりも度し難い。

「そもそも、ネオZAIAの兵器工場やら何やらを奪った後に、奪取防止用のセキュリティを解いて使えるようにしていたのは誰だと思う? いや、もしかすると……オレは()()()()()には見えないか?」

仮面の奥で無銘が笑った。勝ち誇ったような笑い声が風と共に吹き抜ける。

この瞬間において、無銘はまさに戦場の支配者であった。ただ己の愉悦に耽りながら、それ自体を目的として戦いの主導権を握ってみせている。彼にとっての勝利とは敵の撃滅ではなく、この混沌そのものであるが故に。

 

「さて、そろそろ後半戦だ。ここからはもう誰も逃げられはしねえ……ネオZAIAも、零の方舟も、そしてフラタニティの戦士達も! 全てがオレの(ころ)すべき敵だ! 全員まとめて……勝負しようぜ?」

 

狂喜に満ちた宣戦布告、その直後。

燃え盛る鋼鉄の獅子が、無銘の座する廃墟を薙ぎ倒しながらこの場へと躍り出た。更にその後を追い、二人の戦士が現れる。地面に危なげなく着地しつつ、無銘は新たな乱入者の姿を見据えた。

「随分と遅かったじゃないか、不破諌。それに……ブルータル、お前もいるな? 会えて嬉しいよ」

 

◆◆◆◆◆◆

 

ゼロサウザーによる襲撃地点とは別の場所で、たった三人の戦士が周囲に破壊を撒き散らしながら戦っている。

被害の主因たるは全長七メートルを超える巨大機動兵器、Ⅲギーガー・デトネイター。ライオン型の形態へと姿を変え、全身に満載した火器や鋭い爪牙で立ち塞がる障害のことごとくを粉砕していた。

対するは仮面ライダーバルカン・パンチングコングとホエールマギア・ブルータル。予想外の威容と人型の時とは全く異なるデトネイターの戦い方に、ペースを掴みあぐねていた。

獅子の大口が開き、筒状の火炎放射器が迫り出してくる。炎の咆哮が地を焼き焦がし、バルカンとブルータルは横っ跳びにこれを避けた。

『ちょこまかと逃げるだけか? 俺を真正面からブッ潰そうって割には随分と及び腰だなァ?』

「ンだとォ……!」

デトネイターの挑発に堪忍袋の緒が切れた諌が前に出ようとするが、ブルータルが無言で止めた。機を待て、とブルータルは端的に伝える。

振り下ろされた巨爪をいなしつつ、バルカンが可変散弾銃アタッシュショットガンを手にギーガーの直下へと潜り込んだ。キーを装填しつつ最大威力の攻撃を至近にて狙う。

『ガトリングカバンバスター!』

貫通力に優れる針状の散弾が、獅子の腹を突き破る——かに思われた。

『させるかよ!』

ライオンの姿に変形したⅢギーガーの()()()()()()()()()()()()となり、散らばった散弾が空を切った。宙を舞う棘が反転して雨のように降り注ぐが、背中の対空火器に撃墜され、一つとして命中することはない。ニタリと笑うような顔を向けたⅢギーガーが、未だショットガンを構えるバルカンと向かい合う。

前後をギーガーの上半身と下半身に挟まれ、バルカンはその両方から銃口を向けられている。しかしながら、バルカンは躊躇いなくギーガーの顔面に単発の高威力弾を叩き込んだ。

『ハハハ、アタマ良いんだな! 俺の本体がコッチ側だって分かってたのか?』

「ケツで物事を考えるほど捻くれたことはしねえ、お前はそういうヤツだろうと思ったからな!」

今のデトネイターがどうなっているかなど諌からしてみれば知ったことではない。だが、これでデトネイターの制御が上半身側にあることは把握できた。

「大した手品だ、しかし失策だったなデトネイター。この勝負はハナから二対一なんだよ」

『おっと?』

重装化を解いたブルータルが、扇槍をⅢギーガーの下半身に突き立てながら背中側へと乗り上げた。Ⅲギーガーの火炎放射を扇槍からの水塊で相殺すると、水分の蒸発によって煙が生まれた。

バルカンの散弾に合わせ、煙の向こうから機関銃の弾が送られてくる。デトネイターはそれが自らの下半身からのものであると悟り、前足の裏に仕込んだ車輪で上半身を回転させながら射撃をすり抜けた。

「チッ、ここまでか……!」

『一時的にとはいえソイツの制御を乗っ取るとは、そっちこそ大した手品だ。だが隙を晒したな、吹っ飛んでもらうぜ!』

ブルータルの両腕からハッキング用のコードが伸びていた。Ⅲギーガー下半身側の制御を乗っ取るためのものだったが、代償としてブルータルの電脳に多大な負担を強いることとなる。動けなくなったブルータルの目の前で火炎放射器が唸りを上げた、次の瞬間。

横合いからⅢギーガーの顔面を、巨大な鉄塊が殴りつけた。建造物を薙ぎ倒しながら倒れるギーガーに代わり、装いを新たにしたバルカンが現れる。

『Gathering Round! ランペイジガトリング!』

空色の左拳を固く握り締めた、バルカンの最強形態——仮面ライダーランペイジバルカン。アタッシュショットガンを新たな可変兵装・オーソライズバスターに持ち替え、人型の暴威が斧を両手に構えた。

「離れろブルータル!」

叫ぶと同時にバルカンがⅢギーガーめがけて飛びかかり、オーソライズバスターの分厚い刃をライオンの顔面に叩き込んだ。プログライズキーの備えるガトリング弾倉状のダイヤル機構をバスターの柄頭に押しつけて回し、ショットライザーの引き金を引く。

『パワー・ランペイジ! ランペイジパワーブラスト!』

ランペイジバルカンの左半身を起点として全身に絶大な力が漲った。右目に食い込ませた刃と己の体を捻り、大いなる機械獣の半身を増幅されたパワーに任せて投げ飛ばす。狙いを理解したブルータルが大ジャンプで離れた次の瞬間、Ⅲギーガーの上半身と下半身がけたたましい轟音を立てながら激突した。

爪を立てて起き上がったⅢギーガーの半身が再合体し、傷ついた右目が内側から修復される。鋼の軋む音の裏で、不気味な笑い声が聞こえた。

「まだやるのか。懲りねえ野郎だ」

「気をつけろ不破諌、あの姿のデトネイターは本気だ。何してくるか俺も全部は知らねえ」

修復機構を加味したとしても、事実としてバルカンとブルータルはⅢギーガー・デトネイターを追い詰めていた。

しかしながら、諌の心中には野生の勘とでも呼ぶべき強烈な危機感がまだ残っている。ニタリと笑う獅子の奥底から、今も燃え続ける狂気の炎を本能的に感じ取っていた。

『ッハハハハ……滾らせてくれるじゃあねえか。だったらこっちも奥の手って見せてやる——とっておきの、最大火力ってヤツだ!』

デトネイターが叫ぶや否や、Ⅲギーガーの排熱ダクトがフル稼働する。四脚を姿勢制御用のアンカーとして固定し、あんぐりと開いたライオンの大口から火炎放射器が露出した。

どう見積もっても大火力の砲撃形態か何かであるのは間違いない。バルカンが弾倉を最大まで回し、ブルータルもまた扇槍に力を込める。

『パワー・スピード・エレメント! オール・ランペイジ!』

何を仕掛けてくるかは関係ない。デトネイターの本気を引き出してしまった以上、その発動は止められない。ここで少しでも押し留める以外に選択肢はないと二人は理解していた。

『砲撃、準備ィ……!』

Ⅲギーガーの巨体が異常な熱を持ち始めた。かつてない出力でエンジンが駆動し、低く唸るような音が延々と響いている。Ⅲギーガーのシステムと一体化した電脳のデトネイターが、歓喜の絶頂を迎えようとしていた。

 

『発射ァ!!』

 

獅子の声が、戦場にこだまする。

それは、極めて単純な破壊だった。ランペイジバルカンとホエールマギア・ブルータルの全力を容易く消し飛ばし、前方一キロメートルの直線上に存在した全てを微塵に砕く大破壊だった。

火砕流のように触れた全てを飲み込んだのは、大口(火炎放射器)から吐き出された()()()であった。頭部の火炎放射器をエンジンと直結させ、特殊な配合によって生成した専用の液状爆薬を火炎放射と同時に撃ち放つ、言うなれば()()()()()()()()

これによって放たれるのは単なる火炎ではない。液状爆薬の届く限り連鎖し続ける大爆発が一瞬にして射程限界までを呑み込む。その高すぎる威力故にⅢギーガーにかかる負担も凄まじいが、デトネイターはこの破壊をこそ求めていた。

半壊した火炎放射器がⅢギーガーの頭部から脱落した。本来ならば最低でも三発は撃てたはずの大爆炎は、ここまでの戦闘によるダメージの影響から一発限りで打ち止めとなってしまった。

デトネイターはそのことを少し残念に思ったが、眼前に広がる破壊の跡を見るとそんな気分も晴れていく。爆発とそれによる破壊を彼はこの世の何よりも愛していた。次はどう壊そうか、何を爆破しようか……そう考えるだけで、自我に喜悦が満ちていく。

 

「随分楽しそうじゃねえか」

 

恍惚を遮る声に、デトネイターはピタリと考えを止めた。黒い更地に、人影が立っている。たった今、粉微塵に砕いたはずの敵が立っている。

「正直かなりヤバかったがな、どうにかこの通り生きてるぜ」

ほとんど焼き切れたⅢギーガーのメインカメラがノイズ混じりに映し出した姿は、紛うことなき仮面ライダーランペイジバルカンのソレだった。ホエールマギア・ブルータルも、同様に無事であった。

驚愕すると同時に、デトネイターはこの時初めて「敵」に興味を持った。ただの破壊対象ではなく、自らを阻む敵の存在を認識したのだ。

『マジかよ……どうやって切り抜けた?』

「お前がブチかました瞬間にこっちも全力をぶつけただけだ。食い止めるとまではいかなかったが、凌ぎ切ってみせたぜ」

対抗策はデトネイターですら驚くほど単純であったが、それ故に興味を引き立てるものだった。バルカンとブルータルはつまり、単なる力押しで爆炎放射の一撃に耐えてみせたということである。

『良いな……ゾクゾクするぜ。まさか俺の最大火力を以てしても、ブッ壊せないモノがあるなんてなァ!』

「チッ、あの野郎マジで無敵か? 余計に火が点いたって感じじゃねえか」

ブルータルが呆れ気味に毒づいた。その横でバルカンが両拳を合わせる。

「お前らの理屈に付き合ってやることもねえと思ってたが、ヤメだ。来いよ爆弾野郎、お前が全力を投じてもブッ壊せねえヤツが今こうして目の前に立ってやってンだ。多少は歯応えがある方が楽しいってモンだろ?」

諌の挑発に、デトネイターは未知の興奮を味わっていた。司令官たる無銘にすら教えてもらわなかった、今までの単なる破壊とは異なる行為への衝動。

これこそが「戦い」なのか。デトネイターの自我に、全く新しい感情が芽生えた。もっとこの感覚を味わいたい、もっと「戦い」を知りたい——自壊寸前のⅢギーガーに鞭を打ち、デトネイターが咆哮する。

『これが闘争の喜びか……感謝するぜ、俺にこの感情を教えてくれたことに! もっとアンタらを味わわせてくれ、俺に戦いってヤツを教えてくれェ!』

「ただの爆破狂だったテメェがこうなるとは思わなかったがな、教えてやるよデトネイター。要するにテメェ、ただの危ねえバカが別種の危ねえバカになっただけなんだよ」

飛びかかったⅢギーガーの横っ面をブルータルが扇槍で引っ叩いた。転倒しつつも振り上げられた獅子の爪を、ランペイジバルカンの左腕が受け止める。ギーガーの腕に勝るとも劣らない、巨大な鉄塊めいたエネルギーの腕が、押し潰す重量を跳ね除けながら殴りかかる。

「授業料だ、一発喰らっとけ」

『パワー・ランペイジ! ランペイジパワーブラスト!」

巨大な鉄拳が抉るように放たれ、Ⅲギーガーの巨躯が地を削りながら盛大に転げ回る。軌道上の廃屋などを壊しながら進んだ先に、異なる戦闘の気配をデトネイターは見出していた。

「追うぞ不破諌!

「野郎とは今日で決着だ」

決して逃がすまいとバルカン達はギーガーの倒れた地へ向かう。薙ぎ倒された瓦礫と鋼鉄の巨獣が横たわる先に、二人はいくつもの新たな影を捉えた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

「随分と遅かったじゃないか、不破諌。それに……ブルータル、お前もいるな? 会えて嬉しいよ」

ホエールマギア・ブルータル、そして仮面ライダーランペイジバルカン。無銘の夢に敢然と立ち向かう二人が、戦場の渦中に殴り込んできたのだ。

「何やらかしたか知らねえが、大層なスピーチだな。悪いがお前の夢はブッ潰させてもらうぜ、無銘」

「無銘さん、アンタ本当に変わっちまったんだな。ピースメーカーの理想も、今のアンタにゃ空虚な妄言か」

ブルータルは扇槍の穂先をバルカンフォースに向けた。たとえ無銘にとっては方便に過ぎなかったとしても、ブルータルはそれを本気で信じて戦った。たとえ三大勢力の一角と称されようとも、正しい目的のために戦っていると信じればこそブルータルは冷酷に徹していたのだ。

だからこそ、それを裏切った無銘の理想は、ブルータルにとって何より許し難いことだった。

『余所見してんじゃあねえ!』

巨大な獅子が歪に吼えた。悪魔的改造を施されたⅢギーガーの中心で猛り狂うライオンマギア・デトネイターが、ブルータルの敵意を求めるように挑みかかる。崩壊寸前の巨大ロボットが、鉄の擦れる叫び声を放った。

「不破諌、少しの間無銘さんと話がしたい。悪いがデトネイターは任せる」

「無銘とケリをつけてくるんだな。だったら止めはしねえさ、行ってこい!」

僅かに言葉を交わし、ブルータルがデトネイターを無視してバルカンフォースへと斬りかかった。それを見送ったバルカンが、後ろにいた天津垓と滅を振り返る。

「1000パー社長、滅! 見て分かるな、アイツはここで完全にブッ潰す。ちと骨は折れるが……ここからが勝負だ!」

「……まったく、我らがウルフ君は面倒事ばかり咥えて持ってくる。たまには余裕を持って休みたいところだが」

「悪となる者を打ち払うその時まで、俺達の戦いは終わらん。ついて来れないというならば置き去るぞ、天津垓」

再び垓がサウザーへと変身し、滅と共にバルカンの隣に並んだ。過去から呼ばれた英雄達が、思いを一つに並び立つ。

 

『仮面ライダーが三人か……ここに来て俺ァついに見つけちまったかもなあ、最高の晴れ舞台ってヤツを!』

歪み切った声でデトネイターが笑った。三騎がそれぞれの武器を構える中、諌は臆すことなく啖呵を切る。

「違うな、死地に飛び込んで来たんだよお前は。ここで決着だ、デトネイター。どうせ逃げる気も無えンだろうが……こっちもお前を逃がしはしねえ!」

 

つづく。

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