IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK 作:TAC/108
仮面ライダーバルカンがパンダマギア・クルーエルと戦いを繰り広げていたのと、同じ頃。
敵の狙いを撹乱するため、滅とハウは別々の建造物の屋上に陣取っていた。常に連絡が取れるよう、通信回線はオープンにしている。
「……ここではビルの崩落は珍しくはないのか?」
『まあ、そうですね。とはいえあれほどとなると……単に戦闘の余波というのは考えにくいかと』
建造物の崩落を確認した滅が、ハウに尋ねた。街のほぼ全域が戦場と化しているということもあり、彼には己の知識とこの時代の常識をすり合わせる必要があった。その方法は、学習をおいて他にはない。
「クルーエルというヒューマギアについて聞きたい。どういう人格をしている?」
『名前の通り冷酷な性格です。基本的には冷静で、立案された作戦にも忠実ですが、独特の思考アルゴリズムを持っているらしく、戦局的な優位を捨ててでも一人の相手を執拗に狙うこともあります』
つまりは何らかの理由で余人には予測もつかないような豹変をするタイプである。滅は自らがクルーエルに狙われていないことを悟った。
「となれば、クルーエルは今頃バルカンを狙っているはずだ。不破諌め、アテを外したか」
「あるいは自ら囮役を買って出たか。むしろ作戦成功では?」
「だと良いがな。とはいえ、ある意味好都合だ。どれだけ強かろうとも向こうは単騎。誰か一人を狙って行動するのなら、俺達にはクルーエルに挟撃を仕掛けるチャンスが生じる」
滅は地上の戦禍を俯瞰しつつ、倒壊したビルが作り出した芸術的斜塔の崩壊を見届けた。焦点を絞ると、クルーエルとバルカンが何やらもつれ合う姿が見えた。
「さて、どうします?」
「クルーエルを追う。二方向から攻めるぞ」
滅がヒューマギアの身体能力で隣のビルに飛び移った。ハウとの合流を避けたのは、単独行動による隠密性向上のためであった。
回線を切り、戦場を見下ろす。ある一地点を見やると、黄金の仮面ライダー……サウザーとマギア達が戦っているのが見えた。
滅は紫色のプログライズキーを手に取った。起動スイッチを押すと、能力を示す音声が低く響く。
『ポイズン!』
衣服を翻し、警戒色じみた色合いの変身ベルトを装着する。
『フォースライザー!』
「変身」
展開前のプログライズキーをフォースライザーに差し込むと、待機状態を示す赤いランプが妖しく光る。滅がレバーを引くと、ジャッキ機構が働き、認証を挟まずしてプログライズキーが展開された。
『フォースライズ……!』
ベルトから稲妻が走り、内部から容積を超える大きさのサソリ型ロボットが出現する。読み込んだキーのデータから発生したライダモデルである。白銀のサソリが尻尾の毒針を滅の胸に突き刺し、身を翻して全身を包むようにしがみ付く。
一瞬の後、滅の全身は強化スーツに包まれていた。紫色のスーツから張り巡らされたケーブルと、全身各部を覆う装甲へと変じたサソリ型ロボが繋がり、強制的に滅の全身に固定される。
『スティングスコーピオン!』
毒針を持つサソリ。それが滅の持つ唯一にして最強のプログライズキーであった。ライダモデルが変成した各種装備のうち、左腕にはサソリの尻尾を模したデバイスが備わっている。異様に吊り上がった金色の複眼も相まって、極めて攻撃的なフォルムをしていた。
『——Break Down.』
変身の完了を告げる音声が、フォースライザーから鳴った。
滅は仮面ライダーとしての名称に、己の名前を刻んだ。彼と共に在りし滅亡迅雷.netの面々もまた、自らの名前を仮面ライダーの名としている。
即ち、仮面ライダー
死毒にて滅亡を齎す
滅の視界に、未だ空中にて輝きを放つネオZAIA本社が映った。巨大な岩塊を守る不可視の力場を頭部センサーが検知すると、それを記録しながら滅が飛び立った。
◆◆◆◆◆◆
サウザーとパンダマギア・クルーエルが互いに得物を向け合う。並走しつつ緑色の槍とサウザンドジャッカーが斬り結び、周囲に破壊を撒き散らしながら徐々に森林地帯のある方へと向かっていく。
仮面ライダーの武器と渡り合う、恐ろしく硬度の高い槍。それはクルーエルがネオZAIAの兵器工廠で製作した近接戦闘用の竹槍であり、打撃・刺突・防御の三点に優れる武器であった。レーザー射撃のみに頼らない、クルーエルの数少ない近接戦闘手段だ。バックパックから取り出した狙撃銃の片手撃ちで牽制しつつ、クルーエルが竹槍を投擲する。
対してサウザーは、現状手数の少なさ故に苦戦させられている状態にあった。
戦えば戦うほど、サウザンドジャッカーを通してデータを得る機会は多くなるという都合上、それだけ攻撃手段も増えるが、ほぼ初期化状態の今はマトモな飛び道具が無い。サウザーの威圧的な仮面の下で、垓は顔をしかめた。サウザンドジャッカーからデータを強奪した相手への恨み節が、自然と垓の頭に浮かぶ。
「おのれアーク……」
高速の突きで竹槍を叩き落とし、手首に捻りを効かせてジャッカーで斬り上げる。ジャッカーを振るうことで放つ黄金の光波が、彼の持つ数少ない対中距離用の攻撃手段である。
よもやマギア相手にここまで苦戦することになろうとは。どうせなら危険を承知でフーも同伴させるべきだったか。ややネガティブな方向の思考が垓の頭に浮かぶ。
その時だった。
「見つけたぞォ!」
彼らの周りを囲む建造物の一つを突き破りながら、黒い巨躯が飛び込んできた。青い拳銃からクルーエルに向かって弾丸を連射しつつ、西部劇のガンマンの早撃ちじみた速度で装甲を黒から青へと切り替える。
『シューティングウルフ!』
「ゴリラ野郎!? オマエ、いつの間に!」
「今はウルフだ! もう逃がさねえぞパンダ野郎!」
膝立ち姿勢からショットライザーで撃ち続ける乱入者……バルカンが周囲を警戒する。
「フーを戦闘に巻き込むな、って言われてただろ」
「やむを得ない事態だった。謝罪は戦果に換えさせてもらいたい」
バルカンが虚空から黒と青のツートンカラーに塗られた鞄を取り出した。無論本物ではなく、散弾銃に変形するアタッシュウェポンの一種・アタッシュショットガンである。
「ついでだが、シューティングウルフのデータを拝借したい」
「……そういやアークに奪われたんだったな。仕方ねえ、無駄遣いするなよ」
『JACK-RISE!』
バルカンの背後に回ったサウザーが、その背中をジャッカーの先端で小突いた。シューティングウルフキーのデータが吸い出され、サウザンドジャッカーに蓄積される。
「「行くぞ!」」
アタッシュショットガンを構えるバルカン。高威力の散弾をばら撒き、パンダマギアの足止めを行う。散弾を避けつつサウザーが距離を詰め、至近にて何度もパンダマギアを斬りつける。
「ぐあッ、畜生——しまった!」
「捉えた!」
バルカンがサウザーの背後で跳躍し、単発のエネルギー弾を放つ。凄まじい反動にバルカンが大きく飛び離れるが、危なげなく着地してサウザーの追撃を見届ける。
元々アタッシュショットガンは高威力の代償に反動が強い。しかし、バルカンとして戦闘経験を積む中で諌はこれに慣れてきた。今の挙動の原因を、彼はサウザーのデータ抽出に伴う出力の低下に見出した。
「パワーが落ちたな……だったら!」
バルカンが通常よりも大きなプログライズキーを握った。光沢のあるシアンカラーにオオカミのイラストが描かれ、赤い起動スイッチを持つ灰色のグリップが基部に接続されている。
『アサルトバレット!』
滅亡迅雷.netが製作したキーであり、名をアサルトウルフという。かつて諌は
亡と分離させられた今、果たしてこれが使えるかどうかは定かではない。しかし、そういった難しい理屈は不破諌の眼中になどなかった。
『オーバーライズ! Kamen Rider, Kamen Rider……』
キーを片手でこじ開け、ショットライザーに挿し込む。正常に作動しているのを好機と見て、バルカンが前方に向けて銀弾を撃ち出した。
『ショットライズ!』
装備を内包した小さな弾丸が、サウザーの頭上を通り過ぎてパンダマギアを何度も攻撃した。パンダマギアが転ぶと、銀弾が青白く輝き、オオカミの幻影を象ってバルカンの下へ向かう。
正面に突き出したバルカンの左掌が、オオカミのビジョンを纏う弾丸を握り潰す。砕かれた弾丸から形成された装備が、バルカンの全身を全く新しい姿へと変えていった。
『レディーゴー! アサルトウルフ!』
その姿を一言で言い表すならば、過剰なまでの重装備。
両腕に固定式の短機関銃、両肩にはマイクロミサイルポッド。素体となる強化スーツは爪先に至るまでほとんどが深い青の追加装甲に覆われており、またスーツそれ自体も白からガンメタルカラーに変化し、性能を強化されている。
胸の中心部には赤く光る円形の装置。あらゆる角度から戦闘機動を補助する本形態の要たる機構だ。
重装化の結果としてかなり重量感のある外見を形作っており、より鋭角的になった顔面の形状も含めて猛烈なプレッシャーが滲み出ている。
ヒューマギアによる使用を前提とした強化形態であるために、人間である諌はこの形態の行使にかなりの負担がかかる。それでも諌は乗りこなす。立ちはだかる敵を撃破するために。
『No chance of surviving.』
仮面ライダーバルカン・アサルトウルフ。
この強襲から、生き残る術などない。
「まだ使えるな! ブチかましてやる……!」
感度良好、機能は正常。全身にのしかかるような重圧も、今となっては懐かしい。深い青色のバルカンが勢い良く駆け出し、パンダマギアに向かって突撃する。
重いラリアットを首元に喰らったパンダマギアの全身を、腕に巻き込んだままバルカンが振り回す。一回転から空中に向かって投げ飛ばし、マイクロミサイルを両肩から放った。全弾命中、パンダマギアが黒煙を帯びて墜落する。
「バカな!? なぜアサルトウルフを……」
驚いたのは垓の方であった。亡と分離した今の不破諌が、アサルトウルフを使えるはずがない。それが垓の推測であったが——。
「知るか! 俺がルールだ!」
諌の答えはこうである。自らのルールであらゆる障壁をこじ開け、無理を通して道理を粉砕する。それが不破諌であり、仮面ライダーバルカンだった。
諌の様子に呆れつつ、サウザーが仕掛ける。倒れたままのパンダマギアからデータを吸収し、ジャッカーに新たな能力を獲得させた。
「やはりスカウティングパンダの力。この時代において、ZAIA製プログライズキーのデータはネオZAIAの方に残っているようですね」
地面から掬い上げるようにパンダマギアの首を掴み、無理矢理立たせて顔面を殴り飛ばす。容赦なき連撃にパンダマギアは完全に弱り切っていた。
「クッソ、ふざけんなよオマエら……こうなったら!」
竹槍を杖にクルーエルが立ち上がる。両手を握り込み、地面を踏みしめ、総身に銀色の光が灯った。駆体の内側から異様な音と熱を吐き出しながら、彼の全身が更なる変化を遂げる。
「奥の手を見せてやる……
マギアとしての素体アーマーのままだった下半身に、角ばった黒と白の装甲が追加される。加えてバックパックが大型化し、青竹を思わせる緑色をした四本の
クルーエルの言った通りの『重装化』である。強化されたパンダマギアが、バックパックから火を噴いて飛翔する。
「パンダが飛ぶんじゃねえ!」
ショットライザーの弾丸がパンダマギアを襲うが、当たる寸前で軌道が大きく逸れる。下半身から防御障壁が発生しており、それによって遠距離攻撃を防いでいるのだ。
「もう容赦しねえ……ブッ殺してやる……コロスコロす殺す殺す殺す殺す殺す殺殺殺殺殺殺殺……」
殺意に唸るクルーエルが、真下に向けてレーザーを放つ。高出力化した光線が地面をなぞると、軌道上に小爆発が次々に発生した。
三本指のサブアームもそれぞれが独立したように動き回り、虚空に追加装備を生成してクルーエルを支援する。形成された緑色の四角い盾を左手に持ち、クルーエルがバルカン達から距離を取った。スラスターの噴射で距離を離しつつ、時折後ろを向いてはレーザー射撃で牽制する。
バルカンもサウザーも、レーザーの直撃は避けている。二人はクルーエルのレーザーが、一発でも当たれば命の危機に瀕しかねないほどの威力に達したことを直感していた。
クルーエルが突如動きを止め、垂直に飛翔する。緑色の盾を放り捨て、追いすがるバルカンの背後に回ると、未だ空中にある盾を狙って凄まじい威力のレーザーを放った。直線軌道の光条が盾を焼きながら無数に拡散し、振り返ったバルカンらが背後から撃たれる。
「吹き飛んじまえよ」
素早く第二射に備え、クルーエルがエネルギーの充填を開始する。赤黒い稲妻を迸らせ、銃口に追加された装置が割られた竹めいて四分割された。
「敵装甲レベル確認、対象二体、照準完了。最大出力による狙撃態勢に移行、防御障壁カット、余剰エネルギーを武装に集中。背部スラスター推力は発射時に最大化……」
自らに叩き込む
距離にして高さ十五メートル、外すわけがない。あとは引き金を引くだけで、この珍妙な闖入者は跡形もなく消し飛ぶ。鉄面皮の底で、クルーエルの電脳が残忍な喜色に笑う。
疲弊した二人に、無慈悲なる一撃が降り注がんとしていた。
その時である。
クルーエルのバックパックから火花が散り、小さな爆発を起こした。その拍子にスラスターの噴射が狂い、クルーエルは空中で奇怪な踊りを披露する。エネルギーのチャージ限界まで達した狙撃銃の自壊を防ぐために、クルーエルが見当違いの方向へとレーザーを放射した。
西の方角、空中に浮かぶネオZAIAエンタープライズ本社へと。
解き放たれた赤黒い光の奔流が、ネオZAIA本社を守る不可視の障壁に激突する。着弾地点より拡散した赤黒い光が、障壁の覆う範囲を照らし出す。
高さにして五百メートルはある岩塊と、その上に立つ本社ビル。上から下まで全域が完全に防壁に守られている。着弾した部分に、映像ノイズじみた崩壊が生じた。
何が起こったのか、諌にも垓にも分からなかった。しかし、彼らがクルーエルの斜め後ろに立つ人影を見た瞬間、背中から火を噴いて墜落したクルーエルもまた、中天の光に照らされた人影を見た。
「何だ……テメェは! 何でリーダーと同じドライバーを持ってやがる!?」
黒と紫の弓を構えた、武器と同じく紫色の仮面ライダー。クルーエルが従う無銘が持つものと、全く同じ見た目の変身ベルトを着用した、左右非対称の戦士。
「随分と苦戦しているようだな。仮面ライダーの力は飾りか?」
「結構な言い様だな、滅! 今までどこで何やってた!」
「元はと言えばお前の作戦に従っただけのこと。我らが不在の責を問われる道理はないな」
高層ビルの屋上から飛び降り、危なげなく着地する仮面ライダー滅。射撃準備に注力していたクルーエルの背中を狙撃し、あろうことかネオZAIA本社に銃口を向けさせた。何のためかはさておき、恐るべき戦術構築能力である。
「全て計算通りか? だとすれば大した度胸だな」
「ああ。ヤツのおかげで正確なデータが取れた」
「……その話は後ほど。今はアレの対処が最優先だ」
バルカン、サウザー、滅。三騎が並び、得物を構える。
対するクルーエルは、地面を覆い尽くす瓦礫の破片を払って立ち上がる。狙撃銃を背負い、副腕が作り出した槍を右手に持つと、三騎めがけて襲いかかった。
バルカンは腕の短機関銃で勢いを削ごうとしたが、前面を守るバリアに弾かれる。跳躍から叩きつける一撃がバルカンに迫るが、攻撃が当たる寸前で突如パンダマギアの姿が消えた。
「どこに消え——あがッ!?」
背中に激痛が走り、バルカンが吹き飛んだ。何もない空間から滲み出るようにパンダマギアが現れ、竹槍による回転斬りを繰り出す。解除したバリアのエネルギーが渦を巻き、緑色の旋風となってサウザーと滅を襲う。サウザーはジャッカーで防ぎ、滅は斬撃の風を飛び越えてパンダマギアを斬りつけた。
滅の持つアタッシュアローは、弓を形成するパーツの両端に鋭い刃が付いている。遠距離には威力の高い光の矢を放ち、近距離にはこの刃で対応できる、遠近両用の武器なのだ。
竹槍の刺突を回し蹴りで弾き、弦を引いて矢を放つ。紫色に光る矢が近距離で直撃し、パンダマギアの胸から火花が散った。頭めがけて投擲された竹槍を首を傾けて避けると、下から摺り上げるような斬撃でパンダマギアを打ち上げる。
突き上げられたアタッシュアローの刃がパンダマギアの腹を貫いた。滅は勢い良く振り下ろし、パンダマギアを地面に叩きつける。右足で胴体を踏みつけ、滅が弓を引き絞る。
「オマエ……同じヒューマギアだろうが……!」
「気付いていたか。だが滅べ。平和と安息を乱す愚者よ」
クルーエルのバックパックから飛び出した球状の物質が爆発した。爆風を喰らって滅が足を離した隙に体勢を整え、肩に設置した狙撃銃で滅を何度も撃つ。高威力のレーザーが滅の全身各所を焼き焦がす。
「この電磁グレネードは特注品だ。如何なライダーシステムと言えど、この通りだ」
クルーエルが続けてもう一つを放り投げた。自らはバリアで防ぎ、空中で四散した手榴弾から雷撃が迸る。跳び離れたサウザーとバルカンは回避に成功したが、先の攻撃で動きの鈍った滅が再び電撃を浴びた。
「くっ……」
「滅!」
滅が装甲の下から黒煙と火花を噴く。強力な電撃を立て続けに喰らったことで、滅はほとんど動作を封じられていた。確実に滅を仕留めるべく、クルーエルが狙撃銃にエネルギーを集中させ始めた——その時であった。
「悪いのは……その背負い物か!」
「誰だ!? ぐあぁッ!?」
クルーエルのバックパックに強烈な衝撃が走る。腕と思われる何かが内部を掻き乱し、乱暴な蹴りと共にバックパックが引き剥がされた。
地面に尻餅をついたクルーエルが、一体のマギアを見上げる。鮮やかな赤い機体色に、鳥類を思わせる頭部形状。ドードーマギアが、両手に力を入れてバックパックを引き裂いていく。
「誰だアイツは?」
諌の疑問に答えたのは、他ならぬドードーマギアであった。
「さて、どうします? こちらは五人、貴方は単騎。ここで退くならば追いませんが」
「クソ忌々しい暗殺者め……どうせ後ろからバッサリやるつもりだろうが! オマエのやり口は見え見えなんだよ!」
「仕方ありませんね。この私、ハウの名にかけてあんさ……もとい成敗、といきたかったのですが」
ドードーマギア……ハウが指を鳴らした。身構えるサウザーの隣に、唐突にフーが現れる。
「おわすれですか」
「まさか。今までどこに?」
「おいていかれたので、ものかげにかくれながらおいかけていました」
抑揚の無い言葉が垓に突き刺さる。クルーエルをフーから引き離すためとはいえ、置いて行ったのは事実であった。フーがスーツの襟を緩め、露出した首の付け根を指差す。
「さあ」
「またですか。さて、今度は何が出るやら!」
『JACK-RISE! JACKING BREAK!』
フーからデータを吸い出したサウザーが、ジャッカーを振るって力を解放する。振り下ろす動作に合わせるようにして上空から黄色の稲妻が落ちてきた。雷撃はクルーエルを狙うが、ギリギリのところで避けられてしまった。
「ライトニングホーネット。ネオZAIAの素性が何となく見えてきたか……」
垓がひっそりと呟いた。謎の解決は後回しに、サウザーがフーを守るように立つ。
「ハウ! ここは我々に任せ、フーを連れて退避しなさい」
「了解しました。それでは、ご武運を!」
ドードーマギアがサウザーの背後に立ち、フーを脇に抱えて瞬く間に戦場を走り去る。彼の向かう方角は、フラタニティの管轄区がある森の方だった。
「逃がすか……!」
クルーエルが軋む身体に鞭打ち、狙撃態勢に移った。市街地を疾走するハウに狙いを定め、レーザーを撃ち放とうとしていたが、その手に銃弾が叩き込まれる。
「逃がさねえ、はコッチの台詞だ。お前は俺達がブッ潰す……!」
今、ここで、必ず倒す。鋼鉄よりも固い決意が、バルカンの力を引き上げていく。電撃に苦しんでいた滅がゆっくりと立ち上がり、彼の隣に立った。諌以外には聴こえないほどの小さな声で、密かに囁く。
「同時攻撃だ。もはやクルーエルの武器は取り回しの悪い狙撃銃のみ、攻撃に転じる一瞬は隙となる」
聞き終えるより早く、バルカンが駆け出した。ショットライザーの銃撃をクルーエルがバリアで防ぎ、レーザーを撃ち返す。前転回避で一射を避け、続く一射を肩部ミサイルで相殺し、バリアに防がれるのも構うことなく撃ち続ける。
『JACKING BREAK!』
意図を察したサウザーがクルーエルの背後に回り、ジャッカーから四つの光弾を放った。オオカミの頭部を模した光弾が、バリアに弾かれながらも何度も喰らいつく。
バルカンが弾かれた光弾の一つを殴り飛ばし、青と金に輝くオオカミが牙を剥く。クルーエルがその場で回転しながら狙撃銃を乱射し、光弾を掻き消しながらバルカンらの勢いを削ぎにかかった。爆煙が立ち込め、クルーエルが索敵を開始した瞬間であった。
「それがお前の命運だ」
低く響く言葉と共に、頭部へと光の矢が突き刺さる。滅がアタッシュアローから撃ち出した矢が、クルーエルの顔面を覆うバイザーを半壊に追い込んだ。二発目を防ぐべく防御態勢に移るが、煙が晴れた瞬間にクルーエルは未だ機能する左目で瞠目した。
『アサルトチャージ!』
バルカンがキーのスイッチを押し込み、ショットライザーを両手で構える。青と赤の光が小さな銃口に収束し、周囲の地面が徐々に鳴動し始めた。必殺の一射が、放たれようとしている。
『マグネティックストームブラスト!』
引き金が引かれ、竜巻じみた膨大なエネルギーの奔流が解放される。クルーエルめがけて襲いかかる激流が、牙を剥くオオカミの幻影を象る。
クルーエルが光の障壁を前面に集中させ、破滅的な勢いで迫る弾丸を押し返そうとした。青と赤の光が視界の全てを染め上げる。
故に、クルーエルには見えていない。この嵐の如き光弾はトドメの一撃などではないということが。
視界の奥から迫る暗い影。振り上げた左手を障壁に向かって突き出す戦士。仮面ライダーバルカン・アサルトウルフ。荒れ狂う光の竜巻に乗って、防御障壁を五指が貫く。
「な——!?」
「こんなモンは、なァ——俺が! ブチ抜いてやる!」
右手もバリアに差し込むバルカン。両腕から火花を散らすほどの力を入れて、クルーエルが展開していたバリアを
「マジ、か」
「ハァァァーーッ!!」
障壁が光の粒子となって砕け散る。後ろに引いた右手に、バルカンはショットライザーを持っていた。全力の拳を叩き込み、得物諸共クルーエルの胸郭を貫く。アッパーカットの勢いで打ち上がったクルーエルが、放心したように四肢をだらりと下げた。機体内部にめり込んだショットライザーの引き金が引かれる。
マ
グ
ネ
テ
ィ
ッ
ク
ストームブラスト
パンダマギア・クルーエルの上半身と下半身を泣き別れにしながら、光の嵐が昼の空へと舞い上がる。巻き込まれたパンダマギアの駆体が、四散しながら視認もできない彼方へと飛んでいった。
拳を突き上げていたバルカンが、ショットライザーをベルトに固定した。周囲に敵の姿は無い。
戦闘の終わりを知り、不破諌が仮面ライダーとしての変身を解いた。
「引き上げるぞ。早いトコ、フラタニティに戻らねえとな」
「相変わらず随分と派手に暴れるものだ。もしや、私達が手伝うまでもなかったのでは?」
「身を隠し逃げを打つクルーエルを相手に、ひたすら追い回す以外の手を取らん男だ。まあ、追われる側としてはこれ以上の厄介者もいるまい」
サウザーが変身を解除し、天津垓の姿に戻る。気付けば滅も既に元の姿になっていた。
「お前ら……ホメてんのか? それともバカにしてんのか?」
「さて」
「両方だ。次はもう少しマトモな作戦を立てることだな、不破諌」
「ンだとォ!?」
戦場は既に遠く、前方に木々の生い茂る森が見えてきた。2220年における初の戦闘を終えた三人が、一時の宿へと足を伸ばす。
戦場の視察という当初の目的は、これ以上ないほどに達成されたと言える。その結果として戦闘に巻き込まれたのは散々ではあるが……不破諌の心中には、それなりの達成感がある。
初日こそ『同行者が垓と滅では先が思いやられる』などと思っていた諌だったが、彼らとの共闘を経て、密かにその心境は変わりつつあった。
急ぎ足で森の中に踏み入ると、木々の陰からハウとフーが顔を出した。
「お待ちしておりました! ご無事で何よりです」
二人が頭を下げて出迎える。諌達も軽く会釈して先へと進む。ふと、諌は思い出したようにハウに尋ねた。
「そういえば、暗殺者とか言われてたろ。アレはどういうことなんだ」
「言葉の通りです。元々、私はそのために生み出されたヒューマギアなのですよ。ヒューマギアの暗殺に特化したヒューマギアとして、ね」
ハウの後ろにいた滅が、彼の言葉に眉をひそめた。
ゼツメライズキーを生み出した衛星アークに関わりのある零の方舟。ハウがかつて零の方舟に所属していたという経歴。そして、ドードーマギアへの変身。
……詳しいことは、後々聞かねばなるまい。滅は密かにそう考えていた。それは、フーに対しての垓も同様であった。
垓は自らの傍らを歩く少女を見下ろしながら、彼女にまつわる情報を整理していた。それらから答えを導き出そうとしていたが、まだ説明できない箇所は残っている。
誰が、何のために、彼女を生み出したのか。垓はフーに、あるいは彼女の主であるDr.コトブキに尋ねるつもりであった。
「難しい顔してんな」
諌が滅と垓を見て言った。傍目にも分かるほどの渋面を作っていたことに気付き、垓は慌てて取り繕った。
「午後からどうするか、と考えていたのです」
「不破諌、お前は何を考えていた?」
滅の冷静な返しに、諌は口ごもる。今の彼にとっては何もかもが謎であり、故に何か一つの事柄を究明したいというような目標が現状存在しない。顎に手を当てて少し考え込むが、すぐに性に合わぬという風に伸びをした。
「今考えても仕方ねえ。フラタニティで戦う先に何があるのか、俺がこの時代で戦う意味は何なのか。これから色々知っていく中で、一つずつ考えてくしかないのかもな」
天井めいて頭上を覆う、木の枝と葉。その隙間から差し込む陽射しに眩み、諌は目を瞑った。
人類絶滅を経た、ヒューマギアの新時代。そこに召喚された諌が、真に戦う意味を見出すのは、この戦いから間もなくのこととなる。
◆◆◆◆◆◆
スクラップと瓦礫に、コンクリートの破片。その他諸々の礫によって構成された地面に、未だ息のあるマギアが転がっている。仰向けの残骸を守るように、背後には廃ビルがそびえ立つ。
と言っても、その機体は機能を停止する寸前にあった。上半身のみとなり、破損した頭部から冷却液を垂れ流す悲惨な姿。千切れ飛んだ左腕が、その近くに転がっている。もはや修復は不可能であった。
「データ送信……完了」
ノイズ混じりに合成音声が呟く。黒と白のマギアは、誰にも顧みられることのない瓦礫に混ざり、密かに己の役目を終えようとしていた。
仮面ライダーとの戦闘に敗北した、パンダマギア・クルーエルである。
「へ、ッへへ……最初からこうしときゃあ良かった、かもな……」
彼がデータを送った先は、自らも所属するヒューマギア武装組織・ピースメーカーの本拠地である。ネオZAIAエンタープライズの主要な兵器工場の一つを強奪・占拠したことで、ピースメーカーは大幅な戦力拡大に成功した。ただのトリロバイトマギアに過ぎなかったクルーエルが今の姿を手に入れたのは、それ以降のことである。
そもそもクルーエルという名前自体が、ピースメーカーがフラタニティと分離してからのものだ。残酷を意味する名の通り、彼は同族たるヒューマギアを
そんな彼が尽くすのは、ピースメーカーをおいて他にない。戦わねば我が身を永らえられぬ世において、敵とならなかった者達。彼らに対するある種の仲間意識が、死にゆく電脳を衝き動かした。
「任務完了、ってコトで良いッスよね……? なぁ、兄貴……リーダー……」
点滅するカメラアイが、暗転する。陽光に照らされることなく、その意識は闇の中へと消えていった。
つづく。