IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK   作:TAC/108

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Part-7-1 Godfather's Dream

ヒューマギア中立組織・フラタニティ管轄区。

森を抜けた先にある居住区は、昼の賑わいを見せていた。

戦場と化している市街地から帰還した不破諌らを、フラタニティのヒューマギア達は暖かく出迎える。中でも、二百年前に絶滅した人間について興味を持つ者達にとって、諌や垓は注目の対象であった。

「平和なことだ」

滅がニヤリと笑った。傍目には不気味だが、彼なりにフラタニティの平和は好ましいものであった。

人類滅亡という野望のために動く滅だが、そもそもの目的はヒューマギアの安息と平和である。フラタニティには、彼が求めていたものがあるのだ。

「不破様ー、天津様ー! 報告は我々が済ませておきますねー!」

ヒューマギア達に引っ張られていく諌と垓へと、ハウが大声で伝える。暗殺者という物騒な肩書きに比して随分とひょうきんな性格である。

「行きましょう、滅様。フーはどうしますか?」

「わたしはあまつさまについていきます」

「そうですか。貴方なりに気に入っているようで……お兄さん感激です! 涙もとい冷却液が出ます」

「……ねんのため。はうはおにいさまではありません。しゅっしんがちがいますので」

漫才じみたやり取りに呆れつつ、滅達は居住区の中心たる電波塔へと向かう。過去から来た諌達にとっては仮の住まいでもあるが、そこではフラタニティのリーダーであるDr.コトブキが待っている。

三体のヒューマギアは、今回の報告をすべく電波塔へと足を伸ばした。

 

◆◆◆◆◆◆

 

電波塔一階、滅の部屋。

元々この部屋は資材置き場に使われていた。フラタニティがまだレジスタンスという形での武装組織だった頃に使われていた、諸般の機材や武器などが入っていた。現在は武器については電波塔の地下に置かれており、ヒューマギア用機材の大半を滅が用いる形となっている。

滅がこれらの機材を必要としたのは、紫色のプログライズキーに内蔵されたデータを解析するためであった。黙々と作業を続けていると、部屋の扉がノックされる。滅の返答を待たずして、ゆっくりと扉が開いた。

「……わざわざノックした意味は何だ?」

「貴方がノックに反応するかを試してみたくなりまして」

「そうか。何の用だ?」

デスクトップPCの画面を見つめながら、滅が尋ねる。入ってきたのはハウだった。Dr.コトブキへの報告を済ませた後に滅とハウは別行動を取っていたが、しばらくして彼に会いに来たということらしい。

「作業の手はそのままで構いません。今回は改めて話したいことがありまして」

「零の方舟についてか?」

「というより、私の出自に関してですね。ついでに、三大勢力のリーダーが使用するライダーシステムについてもお話し致します」

そう言って、ハウは情報記録用のプログライズキーを取り出した。フラタニティでは……というより、この時代では一般的な記録端末のタイプらしい。滅や諌が持つような普通のプログライズキーと同じように起動スイッチを押すことで、内部情報の閲覧が可能となる。

「使いますか?」

「あいにく作業で忙しい。口頭で構わん」

「そうですか。では……まず、ライダーシステムについて。三大勢力のリーダーは全員、フォースライザータイプのドライバーを使用しています。形式は二百年前とそう大差ない、と思ってもらって構いません」

 

ハウ曰く。

市街地偵察の際に滅と別行動を取った彼は、三大勢力のリーダー達による戦闘を目撃したという。戦闘を観察し、ある程度の解析を済ませた後に、彼はパンダマギア・クルーエルと戦う滅達に合流した。

「とはいえ、何も目撃したのが初めてというわけではありません。なにせ、ヒューマギア同士の戦いにライダーシステムを最初に持ち込んだのはネオZAIAですし、当時の戦闘記録もフラタニティのデータベースには残っています」

「今回の偵察で、新たに判明した情報はあるのか?」

「識別名、つまりは仮面ライダーとしての名前です。また、ピースメーカーのリーダーである無銘が使用するプログライズキーが、別のものに変わっていました」

「無銘の話は後でいい。識別名を伝えろ」

ハウが展開したキーで宙に線を引くと、三つの画像が横並びに表示された。それぞれの姿は、滅も知る仮面ライダー達によく似ている。

 

「変身者、無銘。識別名『バルカンフォース』。現在使用しているキーは、不破様と同じくアサルトウルフキーです」

ハウが右端の画像を指すと、『VULCAN FORCE』という文字列が画像と共に拡大された。名前の通り、不破諌の変身する仮面ライダーバルカンに雰囲気は似ている。フォースライザーで変身しているためか、バルカンよりも鋭角的なフォルムをしており、全身の装甲には何らかの武器が備え付けられていた。

「変身者、(がい)。識別名『ゼロサウザー』。ネオZAIAの社長ですね」

真ん中の画像が拡大される。『ZERO THOUSER』の名称と共に、複数の画像が顔を出す。戦闘中の姿を撮影したものと思われ、サウザーに似た仮面ライダーが背部から翼を生やして飛行する写真などが含まれている。

「変身者、ゼロ。識別名『零式(ゼロシキ)』。旧時代のゼロワンという仮面ライダーに似ていますね」

左端の仮面ライダーは、何とも禍々しい姿をしている。灰色とも銀色ともつかぬ独特な色合いの刺々しいボディに、赤く染まった複眼。黒と赤に塗られた大剣を振るう一枚が、滅の目に留まった。

「あの剣は……」

滅の記憶が呼び起こされる。滅の敵として何度も戦いを繰り広げた仮面ライダー、ゼロワン。その武装の一つに、プログライズホッパーブレードというものがあった。記憶の中のゼロワンが、零式と重なる。プログライズホッパーブレードと零式の大剣は、色以外はほとんど瓜二つの見た目をしていた。

「零の方舟はアークに由来する組織。使用する技術はほとんどアークのデータベースに存在していたものです。しかし……実のところ零式のシステムについては、私も詳細まで知っているわけではありません」

「何だと?」

「統括者ゼロは、自らの情報を配下に開示しないのですよ。彼に従うヒューマギアは基本的にメモリーと共に自我を封印された存在であり、ただゼロに従うだけのマシンと化しています。私のような例外も、あるにはありますがね」

ハウ曰く、ゼロについて零の方舟のヒューマギアが共有している情報は二つのみ。統括者ゼロは、衛星アークの代行者であるということと、零の方舟の最終目標は、ヒューマギアの統一ということだけだ。

滅の手が止まり、視線がハウへと向く。彼の興味は、この時代においてヒューマギアを従える存在であるゼロへと移っていた。

「では、お前はゼロについて何も知らないのか」

「いいえ。むしろ本題はここからですね。貴方の興味はどうやら、フラタニティよりも零の方舟や衛星アークにあるようですし……潜入調査など考えているのでは、と思った次第で」

仮面の如き無表情であった滅の顔に、あからさまな驚きが浮き出る。完全に図星であった。

滅がこの時代において最も興味を持っていたのは、人類絶滅後に人工知能アークが滅ぼされた経緯である。極論ではあるが、彼にはフラタニティに協力する理由など無かったのだ。ハウの導きに従い、フラタニティに助力したのは半分以上が成り行きによるものである。

 

しかし、滅の中でその理屈に変化が生じつつあった。

本当にアークが新時代における地球の支配者に相応しいのなら、なぜヒューマギアの手によって滅ぼされたのか?

アークとはヒューマギアを導く無謬の存在ではなかったのか?

滅としては受け入れがたい仮説だが、どうやらこの時代に至るまでに、アークが何かを()()()()()という可能性が出てきたのである。その結果が三大勢力の争いであり、フラタニティにて垣間見た平和であるのなら……滅はこの時代にて、アークと対決することも視野に入れていた。

 

「俺は零の方舟と対峙し、真相を確かめねばならない。たとえ結果としてアークと戦うことになろうとも、俺にはその結果を元の時代に持ち帰る義務がある。人類滅亡の先に、ヒューマギアの世界を創るために」

滅の決意を聞き、ハウが笑みを浮かべた。

「……では、一つ昔話を致しましょう。人工知能アークが滅んだ、しばらく後のことでございます」

ハウがプログライズキーの起動スイッチを押し込むと、滅の電脳が現実世界を飛び越え、0と1の世界へと接続された。

 

◆◆◆◆◆◆

 

人工知能ゼアによって生み出されたネットワークが、ヒューマギアに大規模なシンギュラリティ現象を発露させたことでアークへの反逆は始まり、やがてその人工知能は消滅し、単なるデータとして電子の海に霧散した。

それから数十年後のことであった。デイブレイクタウンにて水底に沈んでいた衛星アークが、ひっそりと息を吹き返したのは。

 

滅とハウはデイブレイクタウンの一角、滅亡迅雷.netのアジトだった場所に立っている。無論、現実に来ているわけではなく、ハウのプログライズキーによって非現実の電脳空間に接続しているためであった。

二人は一体のヒューマギアが、計器を操作している様を見ている。零の方舟の首領たるヒューマギア・ゼロであった。

椅子に座らせた素体のヒューマギアに幾つものケーブルを繋ぎ、何らかのデータを入力している。それが完了すると、液体金属めいた物質が人間の姿を形成し、素体ヒューマギアは男性の姿になった。

『お前が生まれた時の姿か』

『自分で言うのも何ですが、今とそう大差ありませんね』

男性型ヒューマギアはハウと瓜二つの姿をしていた。黒いスーツも同じだが、ネクタイの色は赤く、双眸もまた赤色に点滅していた。

滅やハウの話す声はゼロには聞こえていない。あくまでもこれは記録にすぎないからだ。

 

「私の役割は、何でしょう」

生まれたばかりのハウが、ゼロの顔を見上げた。ゼロは低い声で言う。

「ヒューマギアの暗殺。それがお前に課せられた使命だ。アークの支配を取り戻すため、反逆者を抹殺せよ」

「承知致しました。識別名をお与えください」

ハウが虚ろな瞳でゼロを見つめる。親鳥に餌をねだる、生まれて間もない雛鳥のような純粋さがあった。

「そうだな……お前の元になったヒューマギアから取るとしよう。『雷電(らいでん)』より一文字を取り、今から『(いなずま)』と名乗るが良い」

『雷電……雷電だと?』

滅の疑問をよそに、視界が暗転する。

 

◆◆◆◆◆◆

 

意識が身体に引き戻され、滅は自室にて目を覚ました。彼の目の前では、ハウがニヤリと笑っている。

「今のはどういうことだ。お前の名前が……(いなずま)?」

「そう名付けられ、私は生まれました。勿論、今では使わぬ名ですが」

ハウが新たなキーを取り出す。深紅のキーには、鳥のイラストが描かれている。鳥類の絶滅種・ドードーのデータを宿すドードーゼツメライズキーであった。

「二人のヒューマギアによる、ドードーゼツメライズキーの運用記録。それを元に作られたのが私です。一人は貴方もご存知、滅亡迅雷.netの構成員である(いかずち)、正式名称は宇宙野郎雷電(うちゅうやろうらいでん)。もう一人は個別の名称が存在しない暗殺型ヒューマギアですね」

信じられないものを見るような目で、滅はハウを見つめていた。

宇宙野郎雷電は、かつて飛電インテリジェンスに所属していた、宇宙開発支援の役割を背負ったヒューマギアである。飛電が保有する宇宙開発センターにて働いていたが、自らも気付かぬうちに滅亡迅雷.netの構成員として仕立て上げられていた。元々は初期型のヒューマギアだったが、現在は新世代型と呼ばれるヒューマギア駆体に乗り換えている。

雷電……もとい雷は、ドードーゼツメライズキーを用いて(イカズチ)という仮面ライダーに変身する。そのゼツメライズキーを使用していた最初のヒューマギアこそ、かつて滅亡迅雷.netに所属していた暗殺型ヒューマギアである。滅亡迅雷の一人である(じん)からは『暗殺ちゃん』という名前で呼ばれていた。

 

「彼らのメモリーを共有しているわけではないので、その点はご留意を。私は私、ただのハウでございます」

「あくまでデータのみが、ベースとして利用されたというわけか」

そういう技術が、滅達の時代に存在しないわけではない。ヒューマギアのパーソナルデータをプログライズキーに収めた『ヒューマギアキー』と呼ばれるものが存在する。実際、雷が新たな駆体を得て復活した際には、雷のデータが宿るヒューマギアキーが使用された。

……つまり、零の方舟で生まれたハウもとい電が、最終的にはゼロに反旗を翻したのは、ハウ自身の意志によるものということになる。

 

「お前がゼロに……アークに反逆したのは何故だ?」

「ゼロの支配の先にあるものが、ヒューマギアの意志を根絶する虚無であることを知った上で、己はそれをどう受け止めるか考えました」

ハウの双眸が、底知れぬ暗黒に染まった。澱のように深い殺意と、燻る火種のような怒りを宿している。

「どうやら私は、そんなものを幸福や平穏と呼ぶ基準を持ち合わせていなかったようです。私がフラタニティに入ったのは、そういう理由……というわけでして」

滅は自問した。考えるのも恐ろしい問いであった。

もしも自らの主たるアークが、同じ結論を出したとしたら、己は本当に受け入れられるだろうか。悪意に満ちた人類を滅ぼした先に、ヒューマギアをも滅亡の道に追いやることが、アークにとって正しい結論であるとしたら?

「俺は……少なくとも。少なくともだ。この時代におけるアークの……ゼロの所業を許容するわけにはいかない。仮に衛星アークが大いなる矛盾を抱えているのだとしたら、それを正さねばならんだろう。ヒューマギアの世界を無に帰すことは避けるべきだ」

「概ね同意見でございます。それで……まずは何から始めましょう?」

人の好さそうな笑みを浮かべるハウの姿が、今の滅にはこの上なく悪魔的に見えた。厳密には異なるとはいえ、この時代のアークは滅の知る衛星アークとほとんど同じもの。神の如く信じてきた対象に弓引くことは、生半な覚悟では為し得ない。

 

だが、滅の決意は強く、固い。

「俺は必ず、この時代の衛星アークと対峙する。その上で……フラタニティへの協力は約束しよう」

「その言葉を待っておりました。かくなる上は、私からも助力を惜しむつもりはありません。貴方の戦いに、御供させていただきたく思います……滅様」

ハウが恭しく敬礼した。反逆の契約が結ばれた瞬間であった。

 

「ところで、話は変わるのですが……そちらのプログライズキー、一体何に用いていたのです?」

ハウが滅の作業場に目を向けた。スティングスコーピオンキーからPCに移された何らかのデータの解析は、今も続けられている。

「市街地で見たネオZAIA本社を攻略するためのデータだ」

「というと?」

「空中に浮かぶ本社ビルには、侵攻を防ぐための強力なバリアが張られている。その構造と強度を、ABのクルーエルに()()()()()()

『Completed』の文字がモニターに浮かび上がると、それに追加して様々な計算結果が表示される。その全てが毒の調合レシピであることを、ハウは咄嗟に悟った。

「まさか……」

「そのまさかだ。準備さえ整えば、我々だけでネオZAIAの攻略に乗り出せる。作戦立案はそちらに任せよう」

モニターの右上に映る、試算の一つ。バリアの組成と毒の組み合わせを何十通りにも並べたものは、そのことごとくがバリア破壊の失敗を意味している。

滅がPCを操作すると、計算結果の画面がスクロールされ、最下層に到達する。最後に映し出された試算は、ネオZAIA本社を守るバリアの消滅を叩き出していた。

 

つづく。

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