IF:仮面ライダーゼロワン DARKEST DAYBREAK   作:TAC/108

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Part-8 X-ing/Crossing the Frontline

砕けた土砂を蹴散らしながら、二輪が荒れた街を駆ける。背後からの銃撃も振り切って、一台のバイクが郊外に向かって突き進む。

乗っているのは不破諌/仮面ライダーバルカンである。一旦停車してから、後方から追ってくるマギアに銃弾を返すバルカン。前方にいたマギアが倒れ、隊列が乱れた隙に森の方に走り去った。

木の根が地面に凹凸を作る森林地帯とはいえ、悪路というほどではない。それなりの舗装が行き届いた道を走り抜け、ヒューマギア達の居住区に颯爽と姿を現した。

 

バイクを停車させ、不破諌が変身を解く。スーツ姿のヒューマギアが、ストップウォッチを手に出迎えた。

「往復、二十分と三秒。お疲れ様です、乗ってみた感想は?」

「悪くない。毎度毎度森の中を歩くよりは楽かもな」

青いネクタイをわざとらしく締め直したヒューマギア……ハウが笑顔を返した。バイクを押しながら、二人はフラタニティ本部電波塔へと向かう。2020年より呼び出された三人の『仮面ライダー』が一人、滅の自室となっている第一階層の外側には、奇妙な装置が立っている。

自動販売機ほどの大きさをした、縦長の箱。三つ並んだカーキ色の筐体は、プログライズキーを読み取る機構を備えている。上方に取り付けられたカメラが不破諌とハウの顔を捉えると、右端の筐体が観音開きの形で開いた。

ハウがバイクを持ち上げて縦にした。車体を開いた箱に押し込むと、眩い光に包まれてバイクが消失する。その様子を見た諌が、感嘆の声を漏らした。

 

この謎めいた装置が置かれてから、既に三日が経過している。

経緯を説明するにあたって、時系列を三日前の夜に戻す必要がある。

 

◆◆◆◆◆◆

 

遡ること三日、日は沈み月が夜空に輝く時刻である。

フラタニティ本部電波塔の一階に、六人の男女が集まっている。2020年より呼び出された不破諌、天津垓、滅。ヒューマギア中立組織・フラタニティの幹部たるヒューマギア、フーとハウ。そして……。

「わざわざ呼び出して申し訳ありません。ですが、どうしても見せたいものがございまして」

恭しくお辞儀をしながら、素体ヒューマギアが喋る。電波塔の三階、管制室より遠隔操作で意志を伝える、フラタニティのリーダー。即ちDr.コトブキであった。素体ヒューマギアの背後にそびえ立つ円柱形の電波塔は、夜間仕様として各部がイルミネーションめいて淡く光っている。

「ヒューマギアの身体は修復したのか」

諌が目を細めた。この時代への時間移動を経験した際、諌を拾ったのは素体ヒューマギアの駆体を借りたコトブキである。当時は損傷していた機体が、現在は傷一つない新品同然となっている。

「どうにか。管轄区の外には出られませんが、今後はこの姿もちょくちょく使っていこうかと」

あちらの姿もわりと気に入っているのですけどね、とコトブキが続けた。ヒューマギアの身体では不可能な作業が、コトブキの『本体』では可能なのだという。

 

「雑談はこの辺にしておいて、本題に入りましょうか。実はですね……私の本体と機能的に近いものを、不破様ら御三方に使っていただこうかと思いまして」

コトブキの発言に、諌達の中で驚愕が走った。あの謎めいた筐体が、フラタニティには複数存在するというのだろうか。

「元々は私の本体に対する予備の筐体だったのですが、現在は電波塔の地下で埃を被っている状態で……三つも四つも抱えていますし、腐らせるのはもったいないかなと」

そう言うコトブキの後ろには、既に三つの箱型機械が置かれている。

「ちょっと待て。アレの機能は確か武器やらプログライズキーやらを作るものだったろ」

「いいえ、予備筐体の方は別の機能がメインになっておりましてね、たとえば……ハウ、例のものを」

承知の一声で、コトブキの左隣にいたハウが姿を消す。一分もしないうちに、信じ難いものを肩に担いでハウが帰還した。

バイクである。厳密に言うならオフロードバイク……つまり、舗装されていない道路でもある程度快適に走ることのできるバイクだ。

「仮面ライダーとの連携を前提として開発された、飛電インテリジェンス社長専用のスーパーバイク……その名をライズホッパー!」

コトブキが大仰に両手を広げ、機械の声帯から声を張り上げる。

「このバイクはライズホッパーを原型として開発された、ヒューマギア用の車両でございます。ライダーシステムとの連携機能もそのまま搭載しておりますが、こちらをですね……」

ハウが車体を丸ごとコトブキに投げ渡すと、カーキ色の箱が開いた。縦にしたバイクを中央の筐体に押し込むと、青白い光に包まれてバイクが消え去った。

「何が起こった!?」

「フラタニティ管轄区に存在するガレージに転送しました。要するにある種の瞬間移動(ワープ)機能でして……バイクと、この予備筐体。両方を使っていただこうかと」

 

コトブキの言葉に天津垓は眉をひそめた。大盤振る舞いにも程がある。やはりこのヒューマギア、何か裏があるのでは……? と思った矢先、彼が疑問に思っていたことの一つを、諌がコトブキに尋ねた。

「これだけ設備が充実してるんなら、フラタニティは今も戦えたんじゃねえのか……?」

「そうもいかなかったのです。何せ三大勢力はどれも武力という面では強大な上に……彼らのリーダーは、それぞれが一人で大軍を凌駕する強さを持っています」

諌達が市街地で目撃した、三大勢力のリーダー。無銘、骸、ゼロの三人がヒューマギア戦国時代の頂点に立つ理由は極めて単純——彼らが、当代における()()であるからに他ならない。

 

「例えば……貴方達はAB(アルファ・バレット)の一人と戦ったそうですが、ピースメーカーを束ねる無銘は()()()()です。元フラタニティ最強の一角というのは、誇張でも何でもありません。彼らがいたからこそ、我々がネオZAIAや零の方舟に対抗できていたというのも、紛れもない真実です」

 

その言葉が意味するところを、諌は直感で理解していた。

『戦わない中立』を名乗らなければ、フラタニティは踏み潰されてしまうのだ。フラタニティ管轄区を妨害工作などで不可侵の領域としているのも、三大勢力のうち一つにでも踏み込まれれば、簡単に滅ぼされることを理解していたからである。

「言ってることは何となく分かったぜ。そして……俺達も、フラタニティも、いよいよ後戻りが効かなくなってきたこともな」

「貴方達をここにお呼びした時点で、既に覚悟は決まっています。ここから先の道程にバックギアなどありませんよ」

諌がニヤリと笑った。コトブキも冗談めかして笑い声を漏らした。

ここに至って諌は確信に至ったことがある。たとえヒューマギアの身体を失おうとも、コトブキは今も反逆の意志を失ってなどいない。ネオZAIAへのレジスタンスとして立ち上がった時の闘志は、今もコトブキの中で生き続けているのだ。

フラタニティは三大勢力に抗し得ない弱体組織などではない。()()()()()()()()()を挑み続けた末に、彼らは過去の英霊に剣と祈りを託した。ならば、諌達が応えぬ道理など存在しない。

『仮面ライダー』の名を背負った者の宿痾にして宿命。諌も、垓も、滅も、ヒューマギアの自由と平和を守るための戦いに挑まんとしている。

 

「気に入ったぜ。言ってみな、俺達は何をすればいい? 俺達のやり方で、この戦いに挑んでやろうじゃねえか。お前らも異存はねえな?」

諌が垓と滅に向かって言った。問われた二人もまた、決意を返した。

「君らしい答えだな、ウルフ君。コトブキ氏にああまで言われた以上、こちらが何も返さないワケにはいかない。100%、いや……1000%の力を以て、()()()()を討ち払うとしよう」

「アークの真実を知るために、フラタニティを助ける……たとえこの時代のアークを倒すことになろうともな。俺の答えは変わらん」

無論、個々人の思惑が皆無というわけではない。付け加えれば、元の時代では互いに何度も刃を交えた間柄である。されど、少なくともこの時は、諌達の目指すモノは同じであった。

 

「素晴らしい……感謝いたします。フラタニティに可能な全ての支援をさせていただくと、我が電脳に誓いましょう」

コトブキが深く頭を下げた。彼に続くようにして、二人の幹部も敬礼を行う。頭を上げた素体ヒューマギアが、話題を切り替える。

「では、これからの話を。三大勢力の主戦場となっているのは、今日視察に行っていただいた市街地なのですが……実は今も、戦いは続いています」

「あ? そりゃ当然だろ。だから俺達は——んん?」

「そういう話ではない。ヒューマギアは動力の続く限り、時間を問わず活動できる」

滅が諌の勘違いを訂正する。ヒューマギアである滅ならではの指摘を受け、コトブキが大仰に指を鳴らした。金属を打ち鳴らすような奇妙な音が響く。

「今回呼び出したのは他でもなく、夜間の活動について伝えるためでございます。日夜戦い続けるヒューマギア達ですが、夜間は特に激しい戦闘が勃発することがありまして……危険度は高い一方で、こうなると明確な隙が生じます」

「……コトブキ氏は随分と恐ろしいことを申される」

垓が驚嘆を口にする。三大勢力の入り乱れる激戦区に乱入すれば、全員の敵となる一方で相手に動揺を与えられる。上手くすれば敵の戦力を大きく削ることもできるだろう。

「敵が戦いに意識を集中させているところを突き崩す。ハウも好むやり方ですね」

「その手のアレは大得意でございます、コトブキ様」

コトブキとハウがわざとらしく笑い声を上げた。フーに右手を引っ張られたコトブキが咳払いし、話を戻す。

 

「では、移動に役立つバイクと転移システムの話をさせていただきたいと思います。作戦行動にお役立てください」

 

◆◆◆◆◆◆

 

そして三日後、現在に至る。

バイクの収容を済ませた諌が、ハウに諸々の報告を行っていた。今日は街での試運転のついでに、戦地に乗り込んである一件に関する調査を敢行したのだ。

「ふむ、ネオZAIA本社に動く気配は無しと」

「連中、どうやら俺達がヤバいと見てこの場所に留まってるらしい。ピースメーカーの幹部どもがそんな話をしてたぜ」

空飛ぶネオZAIA本社は、今も街の上空に陣取っている。諌がハウやコトブキから聞いた話では、ネオZAIA本社は時折姿を見せてはすぐに消えるという散発的な出現を繰り返すのみだったようで、三日もの間同じ場所に留まるということは今まで無かったという。

「盗聴までこなすとは、伊達に特殊部隊所属ではありませんな」

「元、だがな。そういや、ZAIAの社長と滅はどうした?」

「天津様はフーと共に管制室へ、滅様はデイブレイクタウンへと向かわれました」

諌が目をひそめる。管制室の垓はともかく、デイブレイクタウンは現在、零の方舟の本拠地となっていると聞く。滅がわざわざ乗り込んだということは、零の方舟と何らかの接触を図るつもりなのかもしれない。

「ヤツと連絡は取れるか?」

「裏切りを心配されているのならご安心を。五分ほど前にメッセージが届きました。『デイブレイクタウンはもぬけの殻。これより帰還する』だそうです」

「……俺を抜いて二人で何か企んでるのか?」

諌が顎に手を当てて考え込む。この三日間で、滅から「ネオZAIA本社を落とす算段がついた」とは聞いている。具体的な方法は知らされていないものの、諌も協力を約束した。結局ネオZAIAの動向を見る形で時間が経過し、作戦は実行に移されていない。

そうなると垓の行動も妙である。毎日一度は必ず管制室を訪れ、フーと共に何かを作っているらしい。内容を尋ねても垓は曖昧にはぐらかすのみで、諌は何も知らされていない。

「まさか……俺は信用が薄いのか……!?」

「単に知らせる必要がなかっただけだ」

「あ? ……ぬぉお!? 滅、お前、いつの間に——」

「今戻った。転移システムも案外不便だな、まさか一方通行とは」

背後に影の如く立つ滅の姿に、諌が仰天する。服装も変わっており、新調したヘアバンドと神父服(カソック)じみた漆黒の衣装がそれとなく威圧感を演出していた。

「申し訳ありません。敵からの逆利用を防ぐためなのです」

「構わん。元より責めるつもりもない」

コトブキより提供された二つの移動手段が一つ、予備筐体の転移システム。転移用のビーコンと併用することで、遠く離れた地点へのワープを可能としている。滅はこれを用いてデイブレイクタウンまで一足飛びに移動したが、ビーコンは単なる転移の出力先に過ぎないため、帰りは徒歩となる。

「オイ、知らせる必要がなかったってのはどういうことだ」

呆気に取られるのも束の間、滅を問い詰める諌。滅は涼しい顔で彼の尋問をやり過ごす。

「敢えて言うならば、今のうちに身体は休めておくことだ。やや変則的なスケジュールを組んでいる」

「今夜か?」

「戦況を大きく変えるための作戦だ。直前まで内密にしておきたかったが……深夜に決行するとだけは言っておく。寝過ごすな」

そう言って滅は去っていく。諌は呼び止めようとしたが、滅が聞くはずもないと考えて声を呑み込んだ。

「何がどうなってんだ?」

「さて」

諌の横で、ハウがおどけて両手を上げた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

内蔵されたデジタル時計が、二十三時を示す。

眠っていた意識が覚醒し、黒いパーカーを着た男が目を開いた。フードを脱ぐと、中性的な雰囲気の顔が露わになる。漆めいた黒髪が波打つように青く光り、回路じみた模様が顔面に浮かび上がる。

「寝過ごしたか?」

「いや、むしろこれからッてところですぜ」

男の独り言に反応したのは、カブトガニを思わせる灰色の装甲を纏うマギアだった。音もなく出現したバトルマギアに、男がちらと目を向ける。バトルマギアは他のマギアから強奪したナイフを腰に提げると、座り込んだ男の隣に立つ。

「暴れ足りないんじゃないのか」

「そいつはお互い様。アンタも暇してるみたいだし、肩慣らしくらいは良いんじゃねえスか、無銘さん」

バトルマギアが気さくに言う。

彼が話す相手こそ、今も戦いの続く市街地にて争う三大勢力の一つ、ピースメーカーのリーダー。即ち、無銘である。

そして、バトルマギアもまたピースメーカーの幹部……ABの一人だ。『冷酷』『残忍』を示す名を戴く、アルファ・バレットの二番手。その名をブルータルという。

「オレが行かずともデトネイターが派手にやってるだろ? ネオZAIAを引きつけるにはちょうどいい」

ブルータルが首肯した。デトネイターもまたABの一人であり、破壊と戦闘を愛する攻撃性の高いヒューマギアだ。

 

「お前は?」

「俺はここらで退がりますわ。獲物がまだ来てねえ」

「クルーエルの仇、オレと同じ『バルカン』か」

ブルータルが拳を握り込む。金属の擦れる音が、無銘の耳朶を引っ掻いた。ブルータルのバイザー型カメラアイが激しく点滅する。

「フラタニティに手を貸すあのライダー連中が、俺の弟分をブッ殺した。ましてうち二人はとんだコスプレ野郎だ、これが許せるワケがねえ。無銘さん、アンタでも俺の獲物は渡せねえな」

「それで良い。本番での働きは期待してるぜ」

ブルータルが跳躍と共に姿を消した。無銘は立ち上がり、眼下に広がる戦乱の夜景を俯瞰する。高層ビルの屋上で、無銘が凶悪な笑みを浮かべ、黄色と黒のデバイスを腰に装着した。内側に接続用端子を備えたベルトが展開され、無銘の腰にデバイスが固定される。

『フォースライザー!』

「まあ、ブルータルの邪魔にならない程度にはやってみるか。デトネイターも激戦区に一人は寂しかろうしな」

『アサルトバレット!』

無銘の手に握られているのは、特殊なグリップを外付けしたプログライズキー。不破諌が持つものと全く同じ、アサルトウルフプログライズキーである。キーをフォースライザーに挿し込むと、警報じみた不気味な音が鳴り出す。

青黒いオオカミのライダモデルがフォースライザーから飛び出し、月下に低く咆哮する。今にも前方に飛びかかりそうな態勢のまま静止したオオカミを見遣り、無銘がベルトのレバーを引いた。

 

「変身」

『フォースライズ! レディーゴー! アサルトウルフ!』

 

ライダモデルが一瞬にして無数のブロックへと分割され、無銘を衛星じみて取り囲む。無銘の全身を覆った青黒いアンダースーツから伸びたケーブルがブロックに突き刺さると、全身が強く発光した。

爪先、膝、大腿部……下半身から上半身へと次々に装甲が固着し、最後に顔を覆う仮面が装着された。

吊り上がった両眼と胸部の円形パーツが青白く点滅し、装甲の隙間から粉末状の冷却剤が噴き出し、全身を覆い隠す霧となった。

 

『No chance of surviving.』

月が雲に隠れるが如く、無銘の姿は霧に紛れて消えていく。数秒後に視界が晴れると、彼の姿はビル屋上から消えていた。

 

つづく。

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