新約 鬼滅の刃 作:枢木リンネ
個人的にあって良かった展開や望んだ展開を求めた結果、書き始めた作品です。
キャラぶれしたり、設定おかしかったり、グダッたりするかもしれませんが、よろしくお願いします。
始まりの夜
草木が生い茂る暗い森の中、木々の隙間から差し込まれる月の光に照らされた二つの影が対峙していた。
片方は右半分が無地で左半分が亀甲柄という珍しい半々羽織を着た少年。
その右手には刀身が深い水色に染まった特殊な日本刀、日輪刀が握られており、静かにその視線は目の前にいる存在に向けていた。
一方、対する存在は少年と比べて身体一つ分大きく枯葉色の体色をしたソレの頭部には二本の角が生えた明らかに人間とはかけ離れた異形の存在。
一言で表すなら…………鬼。
まさに鬼そのものだった。
「鬼狩り!……殺す!……喰う!……」
頰まで広がる口から溢れる出る唾液を垂らしながら鬼は呟く。
長く太い指をゴキゴキと鳴らしながら殺意と食欲に満ちた眼光を少年へと向ける。
その指先の先端部から伸びる爪は、人の肉を簡単に切り裂き骨を断つ事など造作もない。
次の瞬間、鬼の存在は地面を蹴った。
地面を抉る音と風切り音を響かせ、周囲の木々へと飛び移る。
その体躯から想像も付かないほどの速さを駆使して縦横無尽に動き回る。
着地する度に乾いた音と共に木は揺れ動き、衝撃で葉は擦れる音と共に夜の森に舞う。
「俺の動きが見えるか? 鬼狩り⁉︎」
鬼の言葉に少年は反応しない。
微動だに動かず。
息一つ乱さず。
落ち着いた雰囲気を纏わせ。
ただ視線だけを動かして鬼を追う。
「………………」
少年はゆっくりと目を閉じる……。
——————心に水面を浮かべろ……。心を常に、水面のように静かに穏やかに保て……。
かつて師に教わった言葉に従って心の揺らぎを止める。
澄んだ無風の水面の上に自分一人が立つように。
そして、水面が揺れるのを待つ。
鬼は飛び移るにつれて、移動速度が加速していく。
その速さは人間の動体視力では、何か黒い影が動いているようにしか見えない領域に達していた。
加えて今は夜。
それすらも視認する事すら出来ない。
「死ね‼︎ 鬼狩り‼︎」
その叫び声と共に、鬼は少年の真正面の木を蹴った。
全体重を足に集約し、足の筋肉全てを使った蹴りは、着地した木を轟音を上げ粉砕した。
鬼は長い右腕を少年へと突き出す。
跳躍による勢いと腕の筋力で放たれるそれは、人は元より大岩すら粉々にするだろう。
その爪が少年の顔へと迫った時、少年は目を開いた。
そして、少年と鬼がすれ違った瞬間に全てが終わった……。
「な、なん……だと……?」
最初に声を上げたのは、鬼だった。
鬼の右腕は右手首から先が切られた状態で宙を舞い、何故か自分の視界が回りながら自分の身体と少年を見下ろした状態で視えていたからだ。
次の瞬間、鬼は気が付いた。
いや、気が付いたというより気づいてしまった。
自分の右手と頸を斬られた事に……
それは、自分の死を意味していた。
(バカな……いつ斬った? 鬼狩りは動いてなかった……。それどころか俺の動きについてこれるわけない……。なのに……なのになんで、なんで俺の頸がぁっ‼︎)
鬼は今の状況が理解出来ず、頭の中でぐちゃぐちゃになりながらも考え、そして訪れる死に恐怖した。
斬られた鬼の頸と胴体は塵となって崩れていく。
そして鬼は、完全に死ぬ瞬間でさえも、どうしてこうなったか理解する事はなかった。
鬼が塵となって崩れ去ったのを確認した少年は刀を鞘に納めると空を見上げた。
漆黒に染まった空を明るく照らす満月が浮かんでいた。
******
少年、冨岡義勇は森の中を歩いていた。
今日も鬼を斬った。
かなりの人間を食ったのだろう、あの巨体からは想像もつかない身軽さや機動力を誇っていた。
その強さは上位の鬼ではないにしろ、並みの隊士だったら間違いなく殺され、血肉は鬼の食料となって残らなかっただろう。
だからこそ、あの鬼を狩れた事は今後の鬼殺隊においても良かったはずだ。
それでも、義勇の心の中にある
どれだけ斬ろうとも、どれだけ人を救おうとも、心の中にあるモノは消えない。
むしろ、日に日に蝕まれてるような気さえした。
(俺は……鬼殺隊にいて良いような人間ではない)
そう思いながら義勇は考える。
(それなのに、あのお方は何故俺を水柱に任命しようとなさる。あのお方は素晴らしい人だ。人の心を動かし大衆をも動かすカリスマ性。考えてる事も常に正しい。だというのに何故なのですか? 俺なんかよりも柱に相応しい隊士は沢山いると何度もお伝えしているというのに……)
『義勇……指令ジャ……」
考え込んでいた義勇の肩にトンっと軽く右肩に乗る感覚と聞き慣れた声が聞こえた。
顔を動かすと、長年相棒をしている一羽の烏がヨボヨボ震えながら必死に指令内容を伝えた。
「……承知した」
それだけ答えた義勇は夜の森を駆け出した。
******
「はぁ……はぁ……はぁ……」
荒い息をしながら、紫色の蝶飾りをした少女は藤色の日輪刀を構えて目の前にいる鬼を睨みつけていた。
どのくらいの時間が経ったのだろう? どれだけ斬撃を入れたのだろう? どれだけ動き回って撹乱しただろう?
隊服の詰襟の上から来た白い羽織は砂や泥で汚れ、所々に擦り傷や切り傷が出来て血を流していた。
少女が受けた任務は、この山に鬼が住み着いているという情報が入り、他の隊士数人と共に任務に当たっていた。
しかし、入山してすぐ、鬼の奇襲を受け他の隊士達と分断された。
少女は単独で山の中を駆け回り、はぐれた隊士と鬼を探して山を駆け回った。
そして、鬼遭遇した時には、共に入山した隊士が全員が鬼によって殺されていた。
少女はその現状を認識すると、腰に差していた刀を抜いて、怒りの声を上げて鬼と戦闘に突入した。
真正面から戦っても、勝てないのは分かっている。
それで勝てるのであれば、今頃この鬼は少女と遭遇する前に他の隊士達がとっくに倒しているはずだからだ。
だからこそ、少女は怒っていても冷静さを失わなかった。
まずは動き回って鬼を撹乱。
そして隙をついて、刀で頸を刎ねる。
難しいのは分かっていても、それしか少女が鬼に勝てる方法はなかった。
「おいおい、いつまで逃げ回ってるつもりだよ?」
しかし、無情にも、その作戦は失敗した。
鬼を斬った傷はすぐに再生して、元通りになる。
鬼は体力に限界がなく、長期戦になれば人間である少女が不利になる。
そんな事は当然少女も分かりきっていた。
それでも、鬼の頸を刎ねる事が出来なかった。
「いい加減諦めろよ。お前がどんなに頑張ろうが、全部無駄な努力になるんだよ」
「黙れ!」
鬼の言葉に少女は反応して素早く動く。
藤色の刀を大きく振りかぶり、フゥゥゥと呼吸をして素早い身のこなしで斬りかかった。
———花の呼吸 肆ノ型 紅花衣
紅色の斬撃が大きく円を描いて鬼の頸へと振り下ろされる。
しかし、鬼は一歩後ろに下がるだけで軽々と躱す。
続けざまに刀を振るう少女の斬撃をいとも容易く簡単に躱していく。
「そんな大振り、避けてくださいって言ってるようなものだぞ?」
「ッッ‼︎」
その一言で少女は怒りの表情を浮かべ、地を蹴り飛び上がる。
———花の呼吸 陸ノ型 渦桃
空中で身体を大きく捻りながら桃色の斬撃を鬼の頸へと放った。
さっきまでどんな違い、刀を大振りをしないで斬りつけるそれは確実に鬼の頸を捉えた。
日輪刀から伝わる肉に刃が食い込む感触。
そのまま力強く刀を振るえば鬼の頸が斬れる。
——————はずだった。
「———もう、満足したか?」
鬼の頸は斬れてなかった。
刀は頸の半分も斬れずに刃は止まっていた。
少女は力を入れて刀を抜こうとするが、鬼の頸の骨に引っかかって引き抜く事が出来ない。
宙に浮いているせいで、足を踏ん張って力を入れる事も出来ない。
鬼は左腕を振るい、少女の左頬を殴り飛ばした。
少女の身体は宙に浮いていた為、躱すことも耐えることも出来ずに簡単に吹き飛ばされた。
「ガハァッ‼︎」
吹き飛ばされた少女は後ろの木に叩きつけられ、倒れ込む。
背中と後頭部を強く打ったせいか、少女の意識がほとんど失いかけていた。
朦朧とする意識の中、少女は立ち上がろうと必死に手と足に力を入れようするが思うようにいかない。
なんとか身体を起こし、四つん這いになったところに鬼が少女の前で立ち止まる。
顔を上げて鬼の顔を見ると、頸に刺さった刀を自ら引き抜いて投げ捨てた。
「どう足掻こうが、お前じゃ俺を殺せねえよ。なんせ頸を斬る事が出来ねんだからよ」
その言葉に少女は悔しさで胸が押しつぶされそうになる。
「単純な速さだけだったら、俺はお前には勝てない。けど、頸が斬れる腕力がなきゃ俺は負けねえ。かといって大振りすりゃ躱すのなんて容易い」
「うる……さい……だまれ……」
「へぇ、意識が飛びかけてる癖にそれだけ喋れんのか」
鬼は少女の襟を掴むと、そのまま持ち上げた。
「威勢の良い女は嫌いじゃない。お前みたいな奴は食う時にどんな声を上げて食われてくのか興味があるからなぁ」
鬼は舌を出して自分の唇を舐め回す。
そして少女の耳元で囁く。
「女の肉は男と違って、柔らかいし栄養があるからなぁ。特に俺は女の胸と臀部が大好きなんだよぉ。肉厚でしっかりしてるからなぁ」
「クソ……やろう」
「どうとでも言え。もうお前に何も出来ないんだからよぉ」
鬼の言う通り、少女にもはや手はない。
意識が朦朧として、視界もぼやけている。
手と足にも力は入らず、仮に力が入ったとしても鬼と人間では力の差は歴然。
その事実に少女の目に涙が浮かぶ。
(ごめんなさい……姉さん。わがまま言って勝手に任務に参加して……)
死を覚悟した少女は、心の中で姉に対して謝罪をする。
もう会えないと思うと、涙が溢れでてくる。
そして、鬼が口を開けて少女を喰らおうと身体を寄せてきた。
(さよなら……姉さん‼︎)
肉と骨が裂ける音が聞こえた……。
(……あれ?)
少女はいつまで経っても肉が喰われる痛みが来ない事に違和感を覚えた。
同時に、ドサッと何かが落ちる音と共に自分の身体が誰かに抱かれてる温かい感触が伝わってきた。
恐る恐る重くなった瞼を開けると、誰かが自分を抱きかかえていた。
視界がぼやけて誰なのか分からない。
この人は誰なの? 自分を喰らおうとした鬼はどうなったの?
色々な事が頭を過ぎるが、少女の意識は限界を迎え、深い闇へと沈んでいった。
******
目が醒めると、見馴れた天井が目に映った。
窓から差し込む日の光の眩しさに目を細めながら周囲を見回すとここが何処なのかすぐに理解した。
蝶屋敷。
少女、胡蝶しのぶが暮らす屋敷だ。
重い身体をゆっくり起こして、頭を抑える。
(そうだ。私、任務で鬼と戦ってて……)
「しのぶ⁉︎」
不意に、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
声の主の方へしのぶは視線を向けると、そこには会いたかった人が立っていた。
「姉さん……」
「しのぶ……よかった……目が醒めたのね……」
しのぶの姉、胡蝶カナエは意識を取り戻した妹を優しく抱きしめた。
その目には涙を浮かべていた。
「ごめんなさい、姉さん。私、勝手な事して」
「いいのよしのぶ。無事に帰ってきてくれただけで、姉さん嬉しいわ」
最愛の姉の温もりを感じながら、しのぶは謝罪をする。
しばらく二人の抱擁が続く。
そして、しのぶは蝶屋敷に戻ってくるまでに何があったのかカナエに聞いた。
あの任務の最中、しのぶは鬼に喰い殺されそうになったところを救援要請を受けてやってきた隊士によって鬼は倒され、しのぶは隠によってここまで運ばれてきたそうだ。
鬼を倒したのが誰なのかは隠とカナエにも分からないらしい。
隠が到着した時にしのぶを任されたようだが、何も告げずにその場を去っていったようだ。
「今はゆっくり休みなさい。まだ本調子じゃないんだから」
「分かったわ」
カナエは他の仕事がある為、病室を出ていった。
見送ったしのぶはベッドで横になると、目を瞑った。
(誰だろう? 名前も告げないで去るなんて……。これじゃお礼が言えないじゃない)
あの時、意識を失いかけてたせいで誰が助けてくれたのか分からない。
男なのか女なのかさえも。
(でも、いつか会えたら……)
———助けてくれてありがとうございました。
感謝の言葉を伝えないと、思いながら、しのぶは再び眠りについた。
これは、水と蝶が出会う物語……。
二人が交差する時、止まっていた歯車が動き出す……。
そして……全てが壊れ始める……。
新約 鬼滅の刃
第一部 水面に舞う蝶
感想待ってます。